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作者: 紫桜 (総ページ数: 86ページ)
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*70*
(岳)
その後。
5、6分ぐらいして、救急車が来た。
子供のオレは言われるままに、そして、考える事をやめ、全てを時間や流れに任せていた。
結果。
生きていたのは、オレとあの弟だった。
涙は自然と出なかった。
理由は分かっていた。 あいつの言葉を聞いたからだ。
「ボクが、ボクがいけないんだ。
ボクが、あんなこと言ったから・・・!!」
あいつは、泣きながら言った。
周りに、こいつのことを知っているやつはいなかったから、できるだけ優しく接した。
でも、泣きたいのはオレのほうだった。
お前は兄弟を失っただけだろ。
オレは、母さんと父さんと、この世でオレよりも大事だって自信を持って言える、秋と葉を失ったんだぞ。
「何を言ったの?」
「人が倒れてるって・・・」
だから、父さんはあわててハンドルをきったのか・・・。
ふざけんな。 小さいからって、子供だからって。
そんなにもバカなのは。
そんなにも分からないのは。
そんなにも想像ができないのは。
罪すぎる・・・。
お前の、そんな、冗談の、せいで、オレは、オレは。
たくさんの人を、一緒に失ったのか・・・?
いろんな人に、いろんなことを聞かれた。
オレが年上だからって、失った数もオレの方が大きいのに。
生きてるからって、あいつのせいなのに。
涙を流さないからって、体よりも、心の方が何億倍も痛いのに。
小さいからって、悪いのはオレじゃないのに。
なんでオレは、こんなに苦しい思いをしなければいけない。
ねぇ、秋。
秋は、オレの笑ってる顔が好きだって言ってたよね?
ねぇ、秋。
オレは、秋のためならなんでもできる。
辛くたって、苦しくたって。
怒りでどうにかなりそうだって、寂しくて胸がはちきれそうだって。
オレは、声をあげて笑えるよ・・・?
ねぇ、秋。
オレ、もう泣かないからさ。
何があったって泣かないからさ。
一回だけ、声をあげて泣いていいかな・・・?
オレは、病院から帰った後、家で、誰もいない、色のない世界で。
泣いた。 確か、夕焼けが綺麗なはず。
でも、色がないんだから、綺麗なのか分からない。
泣いた。泣いた。泣いた。
声をあげて、声を出さないで、泣いた。
オレは、通夜も葬儀のときも。
笑った。 何も、知らない大人たちは不謹慎だ、気味が悪いって言ってたはず。
でも、秋が言うんだから仕方がない。
笑った。笑った。笑った。
声をあげて、声を出さないで、笑った。
あの日から、オレの演技は始まり、舞台の幕は上がった。