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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
作者: 琴 ◆ExGQrDul2E  (総ページ数: 66ページ)
関連タグ: 殺人 SF 複雑 罪と輪廻 
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「おー」
 適当に答えて、部屋に入る。
そこには、漫画を読み漁っているパジャマ姿の雪がいた。
「なんだ、元気そーじゃねーか」
 そう言った後、雪に近づくと、その周りに散乱している漫画を一冊つかんでそれをみる。題名は「夏の恋ゴコロ」。 雪は性格からしてどっちかというと少年漫画が好きそうなイメージだが、彼女は少女漫画じゃないと読みたくないらしい。
「あー、とらないでよ真人!」
 怒ったように俺の手から漫画を取り返そうとする雪。
でも、身長差のおかげで俺の手から漫画が取られることはなかった。
「ははっ、 お前、俺の身長に勝てるわけねーだろ!」
 笑いながら、 少し意地悪く漫画を持った手を軽く振ってみた。
 雪は、暫く憎らしそうに俺をみていたが、勝ち目はないとわかったのか、 俺を睨んだ後にまた座って漫画を読み始めた。
 俺も、少し雪の漫画を読んでみる。
「うわー、めっちゃベタベタ。 お前、こんなのが好きなのか」
 これは、別に嫌味で言ったわけじゃない。
本当に、主人公達がラブラブベタベタして、俺にとっては少し気持ち悪かった。
「何よ、悪いわけ?」
雪が漫画から目を離さないままでいってくる。
「いや、そんなことはない」
短く返事をする。
「そーいえばさ、 何の用? 真人」
 雪は、漫画から目を離さないままでそういう。
その言葉には何とも言えない冷たさがあった。
「は? 何が?」
 この時、俺は夜人のことを忘れてしまっていた。
あれだけ怒っていたのに、 なぜか忘れていたのだ。
 だから、こう答えた。
だけど、雪からするととぼけているように見えたらしい。
「ねぇ、とぼけないでよ。 真人が、私の風邪の為だけにここにくるわけないじゃない」

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