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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
作者: 琴 ◆ExGQrDul2E  (総ページ数: 66ページ)
関連タグ: 殺人 SF 複雑 罪と輪廻 
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*37*

 柊さんが俺の横に駆けてくる。柊さんは、本当に美少女だと思う。でも、俺は知ってる。こいつが、俺以外の奴とは喋らない、と言うことを。
こいつは、いつも一人だ。一人で、いつも俯いて本を読んでいた。女子はもちろん、男子も話しかけない。教室で、一人ぼっちなのだ、柊さんは。
「どっか、寄ってく?」
俺がそう聞くと、柊さんは控えめに頷いた。
「……うん」
柊さんもオッケーしてくれたので、俺は近くの喫茶店にはいることにした。
 これでも、オシャレな喫茶店を選んだつもり。
店の名前は『Almond』という。少し古めの看板に、白い文字で描かれていた。
「へぇ……お洒落なお店だね」
柊さんが微笑む。
 店の中に入ってみると、ほのかな木の匂いが広がっていた。木製のテーブルとイス。この時代になって、まだ木製だからかなり珍しい喫茶店だ。
 奥の方に、女の人らしい姿を見つけた。なにかの作業をしているのかもしれない。その手には白いノートが握られていた。
「あの……」
 俺が話しかけようと声を出すと、直ぐに彼女は振り向いた。白いノートをささっと引き出しに片付けていた。
「あらっ、お客さま、ご注文ですか?」
 そしてそう聞くと、俺らの方へ足早に歩いてくる。
「はい。 この店のオススメはなんですか」
 俺が微笑みながらこう聞くと、あちらは、
「そーですね……ここは基本的にコーヒーなんですけど、あなたたちは高校生でしょ?」
と返してきた。
(え、なんで高校生って分かったんだ!?)
 一瞬、俺は戸惑ったが、しばらくしてその理由に気づく。
丸菜学園の制服だ。丸菜学園は高校だからすぐにわかるのだ。
 男の俺の制服はともかく、女の制服はわかりやすい。
白が主の半袖のセーラー服で、リボンの色は青い。
スカートは青くて、膝くらいの丈が基本だ。
 ちなみに、男の制服は白いシャツに黒茶色のズボンとベルト。……どこにでもありそうだ。
 本当は、男の制服は赤いネクタイをしているのだが、俺はつけていない。ネクタイつけたら、息が苦しくなるからだ。
 昔、父さんにその話をしてみたら、
「お前は、キツくしめすぎてるんじゃないか?」
と笑われたことがある。
 それがなんか悲しく、トラウマになったから、もうネクタイを着けるのはあれ以来やめている。
「はい……高校生です」
 俺が昔を思い出しているうちに、柊さんが答えてくれた。
「やっぱり? でもなー、うちはあんまり高校生はこないからなー、どーしよっか」
 Tシャツにズボンという簡単な格好をした相手は悩んでいるのか右手を顎に当てている。
(丸菜学園にわりと近いのに、なんで高校生が来ないのだろう?)

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