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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
作者: 琴 ◆ExGQrDul2E  (総ページ数: 66ページ)
関連タグ: 殺人 SF 複雑 罪と輪廻 
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【第十二話】<考えたくないな>

「てことは……」
 とても嫌な、考えたくないものが脳裏に浮かぶ。
 あたまを振って、その考えを消そうとしているのに、それは消えてくれない。あたりまえのように俺のあたまに居座っていた。すぐさま消えて欲しかった。
 そしてーー
「うん。 わたしが殺したわけ。 夜人とか、梢とか」
この目の前にいる女にも消えて欲しくなった。
 梅子さんはそんな人じゃなかった。
 いつも優しくて気さくで、俺の愚痴も聞いてくれて、ルックスも良くて。なのに、なんでこんな女になったのだろう。
 《台本》のことは、本当に信じたくない。 だけど、それは俺の目の前に立っている。実際、梅子さん……いや、梅子はそれに汚染された。それに、穢されたのだ。
 そんなこと、あり得ないのに。俺の平凡は壊されてしまった。そして、あたりまえのように非現実が目の前に現れた。 きっと、俺もその台本に汚染されている。二度と抜け出せないのだ。
 俺は、絶望した。 からだから力が抜けて、そのままへたり込んでしまった。
「ふふ。 善い世界ばっかりみてるから、そうなるのよ」
 梅子がこちらに歩いてきて、俺を見下ろした。
 なぜか楽しそうに、微笑んでいた。その顔は、あまりにも怖かった。
 この世のものとは思えなかった。
「あ……う」
 俺は怯えているのだろうか。 上手く声が出なかった。声を搾り出そうとしても喋られない。
「せっかくだから、 最期に教えてあげる。 あなたの父さんと母さんが喧嘩した理由」
 そういって、梅子は微笑んだ。 はるか昔の、柔らかな優しいあの笑顔。 もう、みることは出来ない『梅子さんの』笑顔。
 そして、俺の首に彼女は手をかけた。
「それはね、 君だよ」
ぐっと、力を入れられた。
「うっぐ……あ」
 息ができない。 喋りたいのに、反論したいのに。
 意識が遠のいていく。
(俺って、こんなに脆かったっけ?)
ぼうっとした頭でそんなことを考える。
「君がね、学校にもいかないから。 親に反抗ばっかりするから。 本当は咲子さん、君のこと大っ嫌いだったんだよ? 朔さんの方はね、まだ優しかった。 君のこと、よく気にかけてたから。 でも、君は勘違いしたよね? どうせ、『俺のことを気にかけてくれる人はいないんだ』みたいなこと考えてたんでしょ?」
 梅子が淡々と話す。確かに、その通りだった。彼女のいうことは、俺のすべてだった。
「それともう一つ」
 梅子は、さっきよりも手に力をいれた。
「あのスマホ、私が贈ったんだよ。 君にね」
そんなことを言われた気がする。
その時、既に俺は意識を手放していた。

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