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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
作者: 琴 ◆ExGQrDul2E  (総ページ数: 66ページ)
関連タグ: 殺人 SF 複雑 罪と輪廻 
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【第十三話】<赤く咲き乱れる梅の花> (梅子目線)

 私は昔、人を殺した。
 そりゃあもう、たくさん。数えきれないくらいに。だけど、私に罪の意識はない。
だって、相手が悪いことをしたんだから、仕方ないよね。
 超売れっ子の男性俳優とか、冷徹な女子高校生とか、明るい少年とか。全員、悪いことをした。
彼らは、私に殺された。みんなは、私じゃなくて寿樹さんが悪いっていう。だけど、違う。 私が悪いんだ。
 私にとって大切なのは「体裁」だった。 台本を手にいれてから、いえ、もっと前からそうだった。 体裁よりも大切なものなんてなくて。
あるとしたら、「命」くらいかな。
 夫も大切だったけど、友人も息子も大切だったけど、結局体裁を前にしたら、彼らは全て「要らないモノ」に変わった。
 そして、私は最低。
人をモノ扱いして、まるでチェスの駒のように自在に操った。青い駒と、青い駒。そして、黄色い駒。この黄色い駒はクイーン。 私のこと。
あとの二つは必要のないもの。 名前をつけられる価値さえもない。
 私の名前は坂本 日子だった。
今は、白野 梅子。世界が変わる時に、私と寿樹で考えて、自分に名付けた。
「白い野に咲く一輪の梅の花」なんて、ロマンチックなことを考えた。 でも、実は白い野に梅が咲くはずなんてなかった。
「白い雪の野に咲いた、赤く染められた雑草の小さな花」実際は、こんな意味が正しかった。
 一人ぼっちで、雪が積もった野原に生えた雑草。それの花が開いたとき、人の手によって汚染されて赤く染められてしまった。
 ね?私にピッタリ。私はこの名前が大好き。
 そして、寿樹は自分の名前を「高川 時雨」に変えた。
「川の上流の方から時雨が降っているように見える」
そんな感じの意味。 この国でしか実現できないことだ。
 なぜなら、この国は川の流れがとても急だからだ。 山が急なのも、それの川の流れが急なことの理由の一つだろう。
 寿樹は、自然が好きな人だった。 たとえば、庭を、四季の花で埋め尽くした。 それに世話も、自分できちんとした。 絶対に、使用人には触られさえしなかった。
 唯一、自分の息子だった「光」には触らせてやっていた。 水やりなどのやり方を手取り足取り教えてやっていた。
 しかし、私には触らせてくれなかった。

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