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*56*
でも、私は破ってしまった。その契りを。私は、雪を悲しませてしまったのだ。雪は、夜人が死んだ時は演技で、悲しんでた。 でも……真人が死んだ時は、違ったみたい。
なんでそれを私がわかったか。それは、振り返ったらわかること。
「日子さんっ!!」
うしろから、大きな女の子の声が聞こえた。彼女の声は、間違えなく雪のもの。
多分、時雨さんが何処かに隠れてて、この様子を雪に教えたんだろうね。もし教えなかったら、雪からも記憶が消えてたのに。はぁーあ、残念。私が契り破ったことになっちゃったじゃん。
「ん、なぁに?」
私は、ゆっくりと振り返った。そして、驚いた。だって、彼女……泣いていたんですもの。
物心ついてから今まで、滅多に泣かなかった、いつも笑っていた、彼女が泣いていた。
「ひっく、なんで、まこと……ぐすっ……なんで、ころしたっ……のっ!」
とめどなく溢れてくる涙を拭いながら、雪は私にそう言った。
彼女は、怒っている。 親の私が今まで一度も見なかった彼女の憤怒の表情。それを今、彼女は私に見せていた。
「なんでって……必要があったからよ」
私は、動じないように冷たく答えた。ここで彼女に何かしら感情を込めて喋ったら、罪悪感が増しそうだから。
「……ぐすっ、うっ……ひっく」
彼女が泣いている。長年育ててきた娘の泣き顔なんてやはりみたくなくて。私は目を逸らした。
そして、彼女の足音がした。 次の瞬間、彼女は私の目の前にいた。
彼女は、真人くんの体を激しく揺すっていた。
「真人っ! 真人、起きてよっ!」
なんで、そんな一生懸命なんだろう。
私にはわからない。ここまでに一生懸命、彼を揺する彼女の気持ちが。 真人くんは他人なのに、なんで……。
「そんなことしても無駄よ。 もう死んでるわよ」
私は、そんな彼女に冷たい言葉を投げかけた。すると、雪は私の方を向いた。
「なんで? なんで、そんなこと言うのよっ……」
「事実ですもの」
彼女の言葉を遮って、冷たい言葉。私には彼女の気持ちはわからないから、こんな言葉しか投げかけることができない。
「日子さんは……寿樹さんが死んでも今のままでいられるの?」
「……っ!?」
私は、雪の言葉に戸惑った。
『寿樹』。
私にとって、一番大切な人。彼よりも大切な人なんて一人もいない。彼が私の全て。
彼がもし死んでしまったら? そんなこと、考えたくもない。 彼の不幸なんて、想像したくない。
雪の言葉は、完璧に私の予想を超えていた。彼女がこんな反抗的な言葉を出すなんて思ってもみなかった。
どう返せばいいのか……わからない。
「居られ……ない、と思うわ」
私は、小さな声で正直に答えた。すると、わずかに……本当わずかだけど、彼女の怒りの表情が緩んだ。
「でしょ? なら、私も一緒なのよっ!!」
彼女は、もう一度涙を拭った。 もう、目に涙は浮かんでいなかった。
……雪も一緒。
なら、雪は真人くんが好きなんだ。 彼を、この世で一番愛してるんだね。
「そう、なのね」
私はふふっと微笑んだ。優しさじゃなくて、残酷な……微笑み。
とても、愉快に思うの。
彼女の感情をぐちゃぐちゃに壊す。彼女を壊してしまうことは、すっごく楽しい。多分、今までの人生最高に。人を殺すのは楽しいけど、生殺しの方がもーっと楽しい。「契り」があるっていうスリルが最高。
真人くんが大切な人なら、彼女の周りの人もいっぱい消して、彼女を不幸のどん底に突き落としたい。
ーーこの子が光の生まれ変わりじゃあなかったら、きっと私はこの子の人生をぐちゃぐちゃに壊していただろう。
【第十三話 END】