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必要のなかった少年と世間に忘れられた少女の話
作者: 琴 ◆ExGQrDul2E  (総ページ数: 66ページ)
関連タグ: 殺人 SF 複雑 罪と輪廻 
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*58*

 次の朝。 カーテンの隙間から朝の光が漏れている。いつもなら、爽やかな朝だ。でも、私は、とても爽やかな気分になんてなれない。
 隣で寝ている友達を起こすと、「ん……もう朝? 雪、おはよ」と、普通に笑顔で挨拶してくれた。私も、「おはよう」と短く挨拶した。そして、他の子も起こして、そのまま一階に向かった。
 廊下を通って、リビングのドアの前に立つ。このドアを開けるのが怖かった。もしかしたら、このドアを開けたら、みたくないことをみてしまうかもしれない。
「雪、はやく開けてよ」
 でも、後ろから友達に急かされて、仕方なくドアを開けた。部屋にはいると、いつもの優しい笑顔のお母さんが私たちを迎えてくれた。
「あら、早いじゃない?」
昨日の夜の色っぽい声じゃなかった。 いつもの元気そうな声だった。
「雪に起こされちゃって」
 あはは、と友達の笑う声がする。私も、一緒になって笑った。そして、朝ごはん食べて、友達を見送って。また私は一人になった。
(楽しかったなぁ)
 自分の部屋にある、私と真人と夜人が写っている写真を眺めながら、そう思った。同じく部屋にあるうさぎのぬいぐるみは、1000円も使って、真人がUFOキャッチャーを使って取ってくれたもので、私の宝物。
「雪ー? ちょっと、こっち来てくれないー?」
 その時、一階から母の声がした。
「んー、わかった」
適当に返事して、一階に向かうことにした。
(なんだろ……)
なんで呼び出したのかな、なんて思いながら、ぬいぐるみに向かって微笑む。そして、自分の部屋を出た。
「どしたの?」
 リビングまで来て、そう言って……。そのまま私は硬直した。そこには、あの忌まわしい男とお母さんがいたのだ。
「あなたには言ってなかったわよね。 この人は、高川時雨さんよ。 ほら、挨拶」
私は、ぼーっとしたまま、頭をぺこりと下げた。でも、なにも言えなかった。
 意味のわからない、突然の出会いだった。そして、これから絶対に会いたくない、と私は思った。
「こんにちは。 雪ちゃん」
 時雨さんが微笑んだ。「ちゃん」付けとか、吐き気がする。やめてよ。 果てしない嫌悪感。
「……」
私は、ぷいっと顔を逸らす。お母さんがいろいろ言っていたけど、私は無視した。
「いいんですよ、梅子さん。 とりあえず、本題に入りましょうか」
 時雨さんが、お母さんをなだめた後、私の方をみた。
 私も、仕方なく時雨さんの方をみた、睨みつけながら。
「……なんですか、本題って」
 イライラした声で聞いた。
「雪ちゃんは、これ知ってる?」
 時雨さんは、スマートフォンを取り出して来て、聞いた。

(こいつ、おちょくってるわけ?私がスマートフォン知らないとでも思った?)
 私は、思いっきり不満を表情に表しながら、
「知ってます」
と、短く答えた。
「そう……。 なら、話は早いな」

 そして、私は長々と二時間程「Die Application」とかいうゲームの説明とかをされた。それと、《台本》とかいうものの話を。
 時雨さんは、全てを話した後、こう付け加えた。
「でね、これを君に攻略してほしいんだ」
 本当に、意味不明。なんで私がしなきゃいけないの。時雨さんとか、お母さんがやればいいんじゃん。
 でも、そんな不満は言えなくて、
「はい。 わかりました」
と返事してしまった。
 その時の、お母さんと時雨さんの嬉しそうな顔。本当、虫唾が走る。こんな顔、みたくないのに。時雨さんといる時のお母さんは変だ。

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