完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~

*17*

*

 少し取り乱してしまった、あの時はね。過去の過ちを振り返ることはときに大切だけど、俺としては正直、あまり語りたくないな。
 確かに、誰かの面影を感じたんだよ。だけど、今になっても思い出せない。そうかな。いや。もしかしたら何かの勘違いなのかもしれないね。

*

 日陰に座り込み、髪をくしゃくしゃと掻き毟る俺を、金堂はどんな目で見下ろしているだろう。上がっていた体温が静かに引いていくのが分かる。髪から手を離し、長い息を吐き出した。くだらない妄想と一緒に。

「…………すまん」

 顔をあげる。

「びっくりさせんなよな」

 金堂は、目を伏せて誰にともなく呟くように言った。彼なりの優しさだろうか。合わなかった視線を、だらりと足の上に落とした手の中に落とした。

「……それで、さっきの影は何だったんだよ? あれか? カイキ・ゲンショウか?」
「影?」

 立ち上がり、塵を払う手が自然と止まる。

「影って……。さっき、見なかったのか? ほら、女の人がそこに……」
「何を言ってんだよ、さっぱり分かんねえ。お前……頭打った?」

 おかしいのは俺の頭か、この状況か。俺は考える。彼女は金堂には見えなかったのか。

「…………ああ。そうかも」

 彼といると適当な相槌が上手くなる。
 金堂が言うには、影を作るものがないのに影だけが現れるという、不可解な現象がこの地の上にあったそうだ。俺にはそれが彼女の影だと分かったけれど、彼には何者も居るようには見えず、ただ単に、怪奇現象が起こっている、目の錯覚か、これはなんだ、トリックか、と騒ぎ立てるまでだった。
 それからしばらく、俺は黙りこんだまま彼の後をついて歩いた。相変わらす行くあてはなかったけれど、彼の揺れる黒いスウェットの余った布を見て、迷いのないように思える。

 どの道を辿ったのか定かではないが、金堂が足を止めたのは廃墟のようなビルだった。

「ここは?」

 苔が覆った地面、ツタの絡む汚れた壁。なんて冷たい建物だろう。寒いのは冬のせいでなくて、日陰になったこの場所の空気から、芯から、冷たい。

「そうだな……アジトって感じだな」

 彼は言う。

「まあ、ただのたまり場だ」

16 < 17 > 18