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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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*18*

*

 その「たまり場」には、男の子が一人居たんだ。冷たいコンクリートの床の上、膝を抱えて眠っていた。
 そう、その通りだ。
 彼は鍵だった。文字通り、僕にとっての大事なね。
 消えた記憶はどこへ行くんだろうか。君は知っているようだけど、もちろん、教えてくれないだろうね。ほら。

*

 男の子について金堂に訪ねると、彼は目線を地面に落として語り始めた。

「イツキと言うんだ」

 金堂によると、男の子は、この街のスラム街寄りの場所にある駄菓子屋の子供だそうだ。年の離れた姉が細々と切り盛りする店。両親を亡くしながらも、幸せに暮らしていたというが、ある夜から姉の姿が見えないのだという。
 世知辛い世の中だ。ある小さな家の柱が消えたことなど誰も気づかない。助けてやる余裕がないのだろう、この貧民街の住人は自分のことで手一杯なのだと金堂は言った。
 しかし、金堂には余計な世話を焼く余裕があった。俺は彼がどのように生活をしているか知らないが、金や食料には困っていない様子である。イツキという少年を保護する目的で、この建物へ連れてきたらしかった。

「……妙なことがあってな」

 彼はひとしきり語り終えたあと、間を置いて呟いた。声は低く、ただならぬ雰囲気に、俺は唾を飲みこみ、次の言葉を待った。
 しかし、その先は金堂の口から発せられなかった。
 金堂が再び口を開いたとき、視界の奥で少年が動いたのだ。目をこすり、あくびをしながらこちらへふらふら歩み寄り、イツキは言った。

「ああ、おねえちゃん、おかえりなさい」

 振り返っても、汚れた壁があるばかりである。少年は、俺の背後を見てその言葉を言ったのだ、間違いない。のに。
 俺は金堂と目を合わせる。彼は長く息を吐いた。


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