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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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*23*


 彼らのアジトに戻る頃には、日はすっかり落ちていた。
 黒々とした夜が街灯のない路地に蔓延っている。何も見えねえよと何度も呟く金堂とは逆に、俺にはきちんと見えていた。こういうことだろう、御影に言われた言葉を思い出した。
 彼は労いの言葉をかけたあと、思い出したように付け足した。俺に向け、「君は人より五感……いや、それ以上か。とにかく感覚が鋭いんだ。活用するといいよ」、とそう言った。
 この目は猫の役割も果たすらしい。便利なものだ。

 アジト内の薄汚れた天井には蛍光灯がわずかばかり設置されていた。心もとない光だったが、無いよりはマシだろう。子供心には暗闇は恐怖そのものだ。
 弱い灯りのもと、部屋の奥でイツキは音無と話していた。

「帰ったぜ、イツキ」

 金堂が声をかけるとイツキはこちらに気がつき、にっこり笑った。それから俺を見て、細く伸びた目を開いた。笑った口元はそのままに、目の笑みだけをぬぐい去った。

「おかえりなさい」

 俺は引きつった笑みを浮かべつつ、音無にただいまと返した。
 音無はまだ俺に何か言いたげに口を開いたが、イツキが彼女に慌てて話しかけ、言いかけた言葉は飲み込まれてしまった。
 犯人を捜せ。俺にはその犯人が大方分かっていた。察しの悪い金堂もここまで露骨に嫌悪を表現されれば、もう気がついたろう。
 しかし、動機が分からない。故意? そもそも、それは本当に悪意なのだろうか。

「金堂」
「なんだ?」

 意図は伝わったらしく、彼も囁くように応えた。

「イツキの姉が居なくなったのはいつ頃だ」
「夏だ。……半年くらい前。それがどうかしたのかよ」
「いや……その、姉っていうのは、血が繋がった姉なのか?」

 金堂は少し考え、分からないと言った。俺は彼に軽く礼を言い、談笑する彼女らの方へ歩み寄る。
 イツキの表情が鋭くなる。気づかないふりをして、音無に訪ねた。

「さっき俺に、深呼吸をするように言ったよな。理由を教えてくれないか?」
「あれはね、露木くんの力を最大限に引き伸ばす方法なのよ」

 音無は指を立て、身振り手振りをつけながらにこやかに話す。彼女は自分自身より俺のことをよく知っているようだ。

「まずは落ち着くこと。目を閉じてっていうのは、視覚を強くしてほしかったから。一つ塞げばその分だけ他の感覚が強くなるから、深呼吸をするときに嫌な感じがあったでしょう」
「ああ」
「その状態で目を開けば、強くなったエネルギーが縄を解かれた目に伝うのよ。……余計な事しちゃったかな」

 少し申し訳なさそうに音無は笑った。

「今は安定して見えるみたいだけど、さっきは露木くん、あんまり分かってないみたいだったから」
「いや……そんなことはないけど」
「ね、おねえちゃん! それでね……」

 しびれを切らして強引に続きをはじめたイツキを尻目に、俺は金堂のところまで戻って彼にもう一度声をかけた。

「ボス戦だな?」

 金堂は不敵に笑った。俺は首を縦に振る。

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