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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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*24*

「なあイツキ」
「……何?」

 怪訝な目がこちらを振り返った。俺は差し出した手の指を折る。

「遊ぼうか」

 策略は無かった。きっと、正解も無い。ただ、自信だけはあった。
 金堂が扉を閉める。建物の中に心配そうな顔をした彼女を残してきた。月明かりが街灯のない道を照らしている。冬の夜、無慈悲な風が頬を掠めた。俺のコートが風に煽られ、イツキのくせのついた髪は揺れる。

「君は俺のことが嫌いだ。そうだな? 俺にはその理由がよく分かるよ」
「…………」
「でも君自信は分かってない」

 随分心地のいい夜だった。俺も風に習って彼を煽る。

「知りたい?」

 “感覚”の調子も良いらしい。俺にイツキの感情がだらだら流れ込んできて、手に取るように波を感じる。気分が良くて仕方がない。
 彼は今葛藤にある。憎む相手を前にして、感情を攻撃で示そうとしているくらい自分の中のよくわからない感情の答えを探している。よくわからない感情。彼の中の影だ。

「知りたいんだろ?」

 多量の記憶が細切れになって俺の心に映っている。
 半年間、悩んだ。自分にしか見えない姉を助けたい。自分にしか見えない。このままでもいいか、この気持ちは果たして何か。
 そうだろう、俺は問いかける。

「うっさいな!」

 疑問。答えは聞くべきか。俺は認識する。彼が出した結論は、ノーだ。

「さあ、実力行使だ。教えてやるよ」

 彼の背後に伸びていた影が縮んでゆき、彼の目がまた黒く闇を映し出した。叫び声、うめき声ともつかない声。頭を抱えたイツキの影がこちらに来る。

「金堂」
「おう!」

 金堂は腕を上げ、推し量るように片目を瞑って突き出した手を軽く握った。イツキが腕を取られ、宙に浮く。
 思った通りだ。彼は影と体の一部が接していないと、攻撃が出来ない。

「君の影はきついにおいがするんだよ」

 暴れるイツキのシルエットを映し出すアスファルトを見つめながら言った。

「罪悪感……焦りもある。でも、もっとずっと甘い匂いだ。さしずめ所有欲ってか」

 馬鹿馬鹿しくなって笑い、彼の影から目線を逸らす。

「コイの香りだな」

 息を吸った。さっきより強くなった香りが鼻につく。恋にしては少し値打ちの下がる香りだ。万人受けはしないだろう、俺もあまり好きでは無い。
 イツキは暴れるのを止めた。

「イツキ。君は君の、勝手な感情で彼女を困らせてるんだ」

 まだ彼の中にはわだかまりが残っているようである。分かりやすく説明をする必要がありそうだ。

「音無の病気は、君のせいだよ」

 吐き戻すような感覚が喉の辺りを伝った。

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