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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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*25*

 流れ込む感情をどこかでせき止める術はないのだろうか。
 釣り上げられた腕の物理的な痛みと、精神的な痛みが押し寄せて渦を起こしている。本当に吐き戻しそうだ、頭痛がする。

「金堂、降ろしていい」

 すっかり抵抗をしなくなったイツキは地面に力なく座り込み、虚空を見つめている。腕の痛みが消えた。
 彼の影は相手を自分以外に見えなくする。つまり、相手を自分だけの並行世界に連れ込んでしまう。僕の目に映るのは君だけさ、ということが実際に起きてしまう。
 黒い目を潰すべきかと思ったが、その必要もなかった。
 彼は攻撃をすることができる。同時に元に戻すことだって出来るはずだ。発想がなかっただけだ。また、彼の中に溢れていた疑問、執着、恨み辛みなんかはみんな失意に飲み込まれてしまった。

「おねえちゃんはどうして」

 掠れた声。

「どうして音無って言うの」

 イツキの瞳に月明かりが差し込んだ。戯言は消える。

*

 これが今までのすべてだよ。ああ。君はもう気付いたかな。

 俺は問いかける。翌日、朝の光が射しこむコンクリートの塊の中、彼女は少し悲しそうな顔をした。

「私、あの子と姉弟じゃないの」

 イツキは部屋の隅で、布を被って眠っていた。金堂は彼女を見て感嘆の声を上げた。……「うわ、すげえ美人」だ。

「私にもよく分からないのだけど。何と言ったらいいのかな。……幼少期の記憶がないの」
「…………」

 それは俺も金堂も同じだった。一番古い記憶がいつの物かで、この世界に生まれた時期を量ることは出来たが、確かとは言えないだろう。

「イツキの記憶だと、お姉さんってことになってるみたいだけど。私に両親はいないわ」
「それは俺も同じだ」

 そもそも彼女を俺たちとまとめて良いのか。疑問を残したまま口に出してしまった。

「……違うよ」

 彼女はそれを、はっきりと否定した。

「私は理解してるもの」

 以降、何を質問しようと彼女はにこにこと笑うばかりであった。
 最初に彼女を目にした時に感じた既視感は何だったのか。イツキの言葉の意味は何か。聞きたいことはたくさんあるのに。

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