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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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「君は神様を信じるかい?」

 御影の呼びかけに応えると、思っても見ない下らない質問を投げかけられた。砂糖のみを入れた紅茶をすすり、わざとらしく溜息を吐いて見せ、あまり考えずに答えを出した。

「まあ……居たらいいと思うよ」
「そうか」

 彼は年季の入ったタイプライターを前に何か考え込むような仕草をした。
 最近、彼の時間はもっぱら何やら書き物をすることに費やされている。何を書いているか尋ねても彼特有の話術で上手く煙に巻かれてしまい、真相は分からないままだ。彼のはぐらかし方にはどうにも慣れられず、いつも話が終わった後に舌を打つ始末で、彼の筆が置かれない限り私の気分はあまりよくない。
 今日もまた例の如く同じようにごまかされてしまうだろうから、私は喉まで出かかった質問を紅茶と共に飲み込んだ。

「僕は断固として神様親衛隊なのだけど」

 軽快なタイプ音が再び鳴りはじめた。春には熱過ぎた紅茶も、手を付けていない彼のは程よく冷めているだろう。因みに私は火傷をしかけた。

「ちょっと許せないことがあってね」

 タイプ音が止んだ。紅茶を一口飲んで、彼は言う。

「どうも近日、偽物が蔓延っているらしいんだ」

 さぞ忌々しそうに。
 この国は神の国だ、どの神を崇めようと自由である。その点について論議しようというわけではなかろうが、私にはよく意味が理解できなかった。彼に何かを問う時は自分でよく考えてから口に出そうということを決めていたので暫く考え、仕方なく問うた。

「偽物?」
「ああ。『願いは必ず叶えませう』とか唱えてさ」
「ふうん……興味ないわ」

 十分に冷ました紅茶の中途半端な暖かさがティーカップを通して指に伝わっていた。気怠い春の白昼。今にも寝られそうな穏やかな日。

「そんなあつれない事言わないでえ」

 僕たちの役割は平穏を維持する事だとは良く言ったものだ。それを妨げるのはいつだって彼で、今もまたにやついた顔でハンマーを携え、今に破壊活動を始めようと構えている姿が想像できる。

「潰しに行く」

 溜息が出る。どうせ断ることは出来ないし、そもそも選択肢を与える言葉ではない。

「了解」

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