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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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*43*

 金堂が腹をさすりながらさも不愉快そうな顔をしている。女の影を見たときのあの喜びはどこへ行ったのか。

「水を大量に飲まされた感じがする……しかもあの色だもんなぁ」

 そういうと、軽くえづいた。
 俺も気持ちは悪かったが、彼の言葉を聞いていると本当に体調が悪くなる。気の持ちようで変わるものだ。

「それで君は……」

 言いかけたものの、何を尋ねたら良いか分からない。何者か。名前は。さっきのは。それらはきっと、彼女には分からない。俺もそうだった。俺には、体験がある。それらはきっと、彼女に似ている。

「君は、行くところがあるのか?」

 それなら、彼女が聞かれたいことを言えばいい。案の定、彼女は首を横に振った。

「そう、なら……」
「俺らの所に来るべきだよな、そうだろ露木?」

 俺は頷いた。転換の早い奴だ。表情に色が戻っている。

*

 まだ昼で、太陽など沈む気もさらさら無いような顔をしているが、来た道を引き返すことにした。街の終わりをこの目で見ることはできなかったが、人助けだ。こちら側の人間の。

 坂を下りながら、俺は彼女に予想済みの返答を求めた。

「名前は?」
「さあ」
「どこから来た?」
「……さあ」
「以前の記憶は?」
「…………ないわ」

 表情はだんだん暗く沈んでいく。それにしても美しい顔をしている。それは何と言うか、芸術的だ。芸術的に、どこかすこし狂っている。美しいが、あまり長く眺めると精神が拒絶する。

「大丈夫だって」

 金堂が一生懸命、彼女を励まそうと大げさな手振りをした。

「俺らも同じようなもんだし。な?」
「そうだ。子供の頃の記憶はないし名前だって無かった」

 努力も虚しく。

「……貴方たちには名前があるの」
「ああ。俺は金堂で、こっちが露木」

 それでも諦めない姿勢は評価できよう。

「そう……」

 何となく、思った。俺や金堂の名前は誰が決めたのだろう。御影か? それともまた、帳尻合わせの神様か。
 この世界に生きていると、疑問が多すぎて好奇心すら不足する。

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