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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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*44*

 なんて長い道のりを歩いてきたのだろう、と思うくらいに、彼女は口数が無かった。金堂もさすがに折れて、何も喋らなくなってしまった。普段の俺にとっては十分ありがたい沈黙であろうが、今はもう、考えれば考えるほど疑問は尽きないので、考えることを放棄しようと思っていたところだ。
 なんてタイミングの悪い。

「あ、ここが俺らのたまり場で……」

 万里にも思えた道のりは彼の声できちんと終わった。

「行くとここがないのならここに居ればいい。明日にでも、君のことを知っている人に会おうか」

 確信に近い憶測だが。御影なら、と期待をする部分があった。
 女は、小さすぎる礼を言った。

*

 朝起きると、体が水に浮いていた。

 そんな体験をしたことがある人がいるだろうか。なんという悪い目覚め。冷たいものが背中にずっと触っているし、体が波に揺れている。これは何かの拷問か? こんな状況で寝ていられる方がおかしいと思えば、となりで金堂は健やかな寝息をたてている。

「おい……」

 彼女の名前を呼ぼうとしたが、名前が出てこない。そういえば名前は無かったか、寝ぼけた頭を覚まさなくては。
 仰向けでは、やけに近い配管だらけ埃まみれの天井しか見えない。体勢を変え、彼女を探そうとすると、バランスを保ちきれなくなって水の中に落ちてしまった。
 昨日と違って、随分冷たい水だ。彼女の心か。不安が押し寄せているのか。知ったことではないが、水が引いた時の後味が悪いからやめてほしい。
 また、昨日と違って息は苦しくなかった。この水が子供だましだとわかっていれば大丈夫なのだろうか。

 奥深く、彼女は居た。座り込んで顔を覆っている。服が水を吸って軽くまとわりつき、うまく動けないので仕方なく、潜水をして彼女の下まで泳いだ。
 なあ、君……。声をかけようとしたものの、言葉は泡となって消えてしまう。もっと潜らなくてはいけないか。
 俺は、顔を覆った彼女の細い腕を掴んだ。彼女の泣き腫らした赤い目が見えた。
 水が引く。

「水は君を守っちゃくれないって。あまり深く考えすぎるな」

 苛立ちを隠して、彼女に言った。

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