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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~

*45*

 重たい、居心地の悪い空気に耐えかねた俺は金堂を強引に起こし、御影のマンションへ歩いているに至る。

 彼女のせいで水が嫌いになりそうだった。雨が振りそうな空を見て、苦い気持ちが表情に出る。小さな雨垂れも肌に落ちようものなら、また溺れる感覚を思い出して、水を吐き出したくなってしまうだろう。
 金堂が金悪い空気を取り繕おうとしたものの、諦めて黙るほど、彼女の感情は深刻に、深海のように暗かった。実に迷惑なことに、俺が読もうとしなくても勝手に流れ込んでくる。


「よく来たね」

 そう言って御影は扉を開いた。彼女の心境とは正反対な、晴れ晴れとした表情で。

「それで、そのお嬢さんのこと?」

 ここは応接室なのだろう。この間と変わらぬ黒いソファ、低いテーブル。今回出されたは紅茶であるが。
 隣の女はカップに手をつけずに俯いている。

「……どこから説明すりゃいいんだ?」

 言葉を出しかけ、詰まり、紅茶を飲み込んでから金堂は言った。

「ああ、いいよ、知ってる。水だろう、君らが困っているのは……といっても、主に被害者は彼女かな」

 彼の、もう知っている、に慣れてしまった自分がいる。
 異論は無いので同意する。俺も金堂も十分に被害者だが、まあ、彼女の感情といい表情といい、模範解答の被害者面である。

「……わざわざ僕が正解を教えるまでもないと思うんだけど。お嬢さん」

 俯いていた彼女が少し視線を上に向けた。

「経験を積め。自分で制御ができないわけがないんだよ。慣れと経験だ」
「……はい」小さな返事が零れた。
「君の力はわりと、有望だから」

 俺には御影の言葉にはあまり効果のないように聞こえたが、ざらざらと落ちてくる不愉快な感情はある程度減ったようだ。
 随分長い間を取って、彼は言った。

「ああ、それから、露木」

 名前についていた「くん」が、取れてしまった。着実に距離を縮めようとしている。俺は身構えた。

「何だ?」
「彼女に名前をつけてあげなよ」

 それとは逆に、取ってつけたような提案だった。

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