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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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「……創造物」
「そう、別の世界。創られた物からすると創った者は神になる。困るんだ」
「…………」

 古本屋のことが頭を過ぎった。あの掛札の、閉店の文字。小説は罪になるらしい、それなら、あの古本の山はなんだったのだろう。

「それにしても参ったな。露木は留守。会っても……僕に取り合ってはくれないだろうな」
「お得意の先読みは? 場所の見当はつかないの」
「……居場所かは分からないけど。ああいや、きっと露木は居ない。でも、行くべきところはあるよ。僕じゃなくて、君が」
「私?」

 立ち止まった御影に気がついて、数メートル先で私も立ち止まった。彼は額を、人差し指で押さえて下を向いている。

「吉祥天のビルかな。きっとそうだ。……ああ」
「どうしたの」
「頭痛。神のお告げが、毒になって」

 毒? ぶつぶつと呟いているが、その先はもう聞こえなかった。

「行ってくる。あなたはマンションに戻っていい」
「そうするよ」
「……猫、お願い」

 差し出した猫は、一声鳴いてこちらを見、私の意思を汲んでくれたのかそれ以降嫌がることをやめた。
 そうなると、彼とは別の道を行くことになる。傘の雨粒を飛ばして、横に伸びる路地へ歩み出そうとすると、彼は引き止めた。

「気をつけて」
「何に?」
「知らない。とにかく、気をつけて」
「……分かった」

*

 ビルは変わらず佇んでいる。足元に霧をかけて、弄んでいる。
 私が行くべきなのは、建物の中だろうか。それとも建物の前? それとも、この建物の奥、私がまだ見たことのないところ。それとも……。
 とりあえず道路の上にしゃがんで、露をのせて揺れる路傍の青葉を眺めながらしばし待った。何者も来ない。
 中だったかもしれない。私は、重い扉を開く。吉祥天が眠っていた場所には、白い花の散った花弁がいくつか落ちていた。
 白い花。儚さの現れ。哀れ。なんとなく、胸の奥に北風が吹いたような気分だ。

 私は次に、信じられないような光景を見た。ああ、その時だった。
 白い花弁がみるみる茶色くなっていく。散ってなお、枯れていく。生ぬるい湿気の中に、殺気にも似た冷たい空気を感じて、私は振り返った。
 男がいる。御影の言った露木だろうか、いや。

「ああ……俺の、最後の子供か」

 白い。霧のせいでも、曇天の奥の太陽のせいでもなく、白かった。顔が見えない。
 御影は露木ではないと言った。それでは、この男は。

「健闘を祈る。どうか」

 それ以上を聞くことも、考えることもなかった。
 心臓が大きく一度、どくんと、脈を打った。それを合図に、吹き飛んだ、視界の全て。

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