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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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*58*



 露木が部屋から出るのを、じっと待っていた。
 傍らに猫が擦り寄ってくる。御影に聞くと、私の部屋に居たらしい。何を察したのか、階段を降りて来たのだ。猫も足の間を何周かすると、右足に体をもたれて動くのをやめた。

 扉が開く。
 御影が声をかけたそうに口を開いたが、かける言葉は見つからなかったらしい。

「……白い男だろ」
「え」

 思わず、問い返した。

「それは?」
「君も知っているのか?」
「会った」

 露木はひどく驚いた顔をした。

「白い男に会った同類はみんな死ぬ。この目で見た。でも、君は……君は、特殊みたいだ」

 御影を見る。眉間に皺の寄った。尋ねる機会を逃しているが、御影は、白い男について何も知らないのだろうか。

「御影は知らないの?」
「知らない。聞いたこともないし、見たこともない……」
「……そう」
「想定外なことばかりだ。びっくりしちゃうね。僕が一番よく知っているはずなのに」

 そして、諦めたように笑う。
 延長なんだ、私は思う。世界は時を重ねるにつれて、彼の想定内の世界からはみ出してしまった。
 前ぶりもなく、猫が足元を離れ、露木のほうに歩いて行った。堂々と、一歩の下に影をはっきり作りながら。

「この猫、きっと見たの。吉祥天が……その、殺されるところ」
「そうか」

 猫を抱き上げた露木は、目を閉じて息を大きく吐き出した。御影が言っていた、猫の言葉が分かるというのは本当だったのか。ただ、彼は話しかける素振りも話を聞く素振りもせず、ただ猫を見つめるだけだった。
 御影を見る。肩をすくめ、黙っているようにと示した。

「指一本だ」

 露木が、猫を見たまま小さく言った。

「人差し指で吉祥天を指して……辺りが一度脈を打って。それで、終わりだ。吉祥天が倒れこむ」

 淡々。彼は猫を下ろして、今度はこちらを見た。

「記憶を見る。猫では話せなかったが、君なら、彼と話ができるかもしれない」

 話? 質問はできなかった。露木と目が合って、いや、目が合う以上に、目の中を見られている。茶色い眼、黒い瞳孔の奥。……あまり気分のいいものではない。

 露木が礼を言った。その行為が終わったらしい。
 始終、表情の変わらない男だったが、この時ばかりは嫌悪の表情を見せていた。体調が悪そうな。それでいて、何かを睨むような。

「白い男を探している。……何かあったらまた教えてほしい」

 そう、彼は私に言った。御影でなく、私だった。
 露木はそのまま玄関へ向かい、扉を開けた。御影は何も言わない。ど珍しく。そうして何も言わないうちに、扉の閉まる音が廊下に響いた。
 御影は。音無の態度も、御影と言葉を交わさない露木も、気にかかった。彼は何をしたのだろう。それは、罪であろうか。

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