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*55*
最終冊『時空を超えて』
ナツは、閉じこもっていた。
一つの部屋に、キブシの町の『時』を抱えて。
「…俺が、壊した」
キブシの『時』を、村の笑顔を。
この時を、返したい。
でも、自分にはもはやその権利もない。
「記憶は思い出したのに、もう…」
俺は帰れない。
部屋にはナツと、一つのぜんまい。
それと、ぜんまいの差込口。
「…」
そのぜんまいこそ、ドラコーン クローフィの力だろう。
これをやらなくては、自分の存在感が失われる。
「――」
「!」
誰かが呼んだ?
辺りを見わたすが、誰もいない。
(気のせい、か)
自分は名前を呼んでもらう、その価値もない。
でも確かに誰かがナツを、呼んでいる。
その声は知っている。
いつもナツを思ってくれる、心優しい声。
それは徐々に近くなる。
ふいに、扉が開いた。
「ナツ!!!!」
「…あ、」
金髪の髪、こげ茶の瞳。
間違いない、彼女は。
「ルー、シィ」
ふいに、涙が零れ落ちた。
ルーシィが手を伸ばす。
「掴んで、早く!」
「俺は、そんな価値がない!」
「あるわよ!」
ルーシィの笑顔は、とても綺麗だった。
「私を助けてくれた!
グレイを助けてくれた!
エルザを助けてくれた!
ウェンディも、シャルルも!
みんなみんな、助けてくれたじゃない!
なのに、価値がないって?
馬鹿ね、人間には元々…」
ルーシィの饒舌は、ナツの心に響き渡った。
「…そんなの、関係ないのよ」
生きる価値のない人間は、いない。
ルーシィの遠まわしな言葉に、ナツは弾かれるように手を伸ばした。
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