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ろくきせ恋愛手帖
作者: むう  (総ページ数: 113ページ)
関連タグ: 鬼滅 花子くん 2次創作 オリキャラあり 戦闘あり ろくきせシリーズ 
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*41*

 
 〈花子side〉


 八雲の体から発生した黒い靄に、もう頭まで呑まれてしまった。
 息が出来なくて、助けを求めようと必死に手を伸ばすけれど、掴んでくれる人はいない。
 次第に視界が狭くなってきて、自分の悲鳴が誰の声なのかもわからなくなってくる。

 そんな中、不意に、無限階段の領域に無数の亀裂が走った。
 それと同時に、俺とつかさに絡まっていた黒い靄が、シュウッと消滅する。


 花子「…………ゲホゲホッ ゲホッッ」
 つかさ「普! 大丈夫?」
 花子「………う、うん」


 つかさの手を借りて起き上がる。


 周囲を見渡すと、領域のヒビの隙間から、夕焼けの暖かい光が差し込むのが見えた。
 その光の眩しさに思わず目を細める。


 花子「………ヤシロたち、依り代を壊したんだ」
 八雲「っ!?」
 花子「8番、だからキミはもう七不思議じゃなくなった」


 噛んで含めるように静かに俺は言う。
 そして、今にも崩れそうな階段の壁に寄りかかっている八雲の腕を掴んで引き寄せた。

 びっくりした表情で固まる彼女の瞳を、俺はまっすぐに見つめる。
 自分の気持ちを相手に伝えるには、相手の目をしっかり見なくちゃいけない。
 

 花子「八雲、ごめん!!」
 八雲「………………え?」
 花子「八雲—いや、月原さんが、どれだけ悲しんで、どんな思いでこの世を去って……」


 花子「それが早く分かれば、悲しませずに済んだのに……っ。本当に、ごめん」
 つかさ「普………」


 八雲は何も言わなかった。
 もっと、悲しんだり怒ったりするのもだと覚悟していたけれど、そんなことは起こらなかった。
 ただ、俺が彼女にしたように、彼女もまた俺の目をしっかりと見つめた。


 八雲「60年、ずっと待ってた」
 花子「うん」
 八雲「——柚木くんは、私がいなくても、楽しくやっていけてたね」


 八雲「…………私の事も忘れて……、今の今まで楽しそうに、暮らしてたじゃない……」
 花子「…………うん。でも、さっき、思い出したんだよ」
 八雲「遅いのよ!! …………遅いよ………」


 八雲の声は、崩れ落ちそうなくらいに儚く、震えていた。
 この時、俺は彼女が、七不思議ではなく一人の少女として視界に映った。
 ずっと一人で、思い出してほしい人にも忘れられて、どこにも行かないままこの階段で。

 ———そんな少女に、俺はなにができるだろうか。


 つかさ「ツキハラ、………俺のこと、覚えてる?」
 八雲「もちろん」
 つかさ「……ツキハラは、嘘をつくのがうまいね」


 いつも明るいつかさの声は、今はひどく沈んでいた。
 それは俺に久しぶりに会ったときのような、裏になにか含んでいるような感じではなく。
 ただ、心の底からの寂しさが漂っていた。


 つかさ「…なんで、俺たちに言わなかったの? 辛いコトも苦しいコトも全部隠してさ」
 八雲「あなたには分からないじゃないっ!!」
 つかさ「分かるよ!! 何か隠してるのはずっと分かってた!! でも何かが分かんなかった!」


 誰だって、自分のことを打ち明けるのには勇気がいる。
 嫌われてしまうんじゃないかとか、迷惑じゃないかとか。
 そう言う考えにとらわれて、結局言い出せずに、一人で苦しんで。


 花子「ねえ八雲! 一緒に行こう!! このあと一緒に大正時代へ行こう!!」
 八雲「………なんで」
 花子「友達っぽいこと、一緒にやりたい!!」

 
 気づけば俺は叫びだしていた。


 ヤシロは前に、もっけの事件の後ベランダで、俺に向かって微笑みながら、こう言ってくれた。
『花子くんって呼ぶね。そのほうが友達っぽいでしょ?』って。

 八雲とまた、一緒に笑いたい。一緒に泣いて、一緒に馬鹿話をして、楽しいことをしたい。
 もうお互い死んでしまったけれど、またあの時のように、またあの時間を一から作りたい。
 どんなにキミが苦しんで、陰で泣いていたとしても、光の元へ連れ出したい。


 花子「だから、一緒に行こう!!」
 つかさ「竈門も我妻も、禰豆子も嘴平も刻羽も胡桃沢も、やさしーから大丈夫!!」
 花子「ほら!!」

 
 できるだけニッコリ笑って、手のひらを八雲にそっと差し出す。
 泣いちゃダメだ。目の前の少女がこんなに悲しそうな顔なのに、俺が泣いたら更に泣き出す。
 だから、口角を上げて、こっちはニッコリ笑ってないとダメなんだ。


 おっかなびっくり俺の手のひらに自分の指を絡ませた八雲は、そのまま俺の腕を掴んで。
 さっき俺がやった時のように、俺をぐいっと手元に引き寄せた。

 力に押されて、彼女の胸に飛び込んだ感じになってしまう。
 慌てて距離を取ろうとした俺を逃がすまいと、8番の怪異は駆け寄ってギュッと抱き着いた。


 花子「………え? あ、あの、8番さん?」
 つかさ「ほぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜! 普にモテ期がぁぁぁぁぁ!」
 花子「ちょ、つかさ!」


 ヤシロにこんなところ見られたらなんて言われるか。


 八雲「ごめん……柚木くん、許して゛………っ」
 花子「なんで謝るの?」
 八雲「……………それは………っ」
 花子「ハァ——————ッッ」


 俺は八雲の両肩を掴んで自分から引きはがす。
 そして、泣きっ面の彼女のおでこに自分の人差し指を突きつける。


 花子「だから言ったよねぇ? 俺の助手に何かしたら許さないって。この、おばーかさん」
 八雲「………ぷっ。あははははははははw」
 

 何が面白かったのか分からないけど、うつむき加減だった八雲の表情にパッと花が咲いた。
 そんな彼女の細い腕を、俺は掴んで階段を駆け下りる。
 その後ろをつかさが慌ててついてきた。

 下の階では竈門たちの、にぎやかな声が迎えてくれる。


 睦彦「おせーぞ花子! さっさとこっちへ来い!」
 伊之助「なにボーッとしてんだ!」
 善逸「あがッッ、可愛い女の子の手首なんか掴んで何する気!? 許さん!!」

 炭治郎「どう、有為ちゃん。少し遅くなったけど、大正時代へ転移できるかな」
 仁乃「今日は賑やかになるね。あ、茜くんと葵ちゃん、どうしよう……!?」
 有為「大丈夫ですよ。もう先に、向こうに送り届けてありますから」

 一同「さっすが有為ちゃん! よし、みんな行こう!!」



 ——こんな噂、知ってますか?
 美術室前のA階段、その向かい側にある理科室前のB階段。
 そこに現れる花子さんは、七不思議7番「トイレの花子さん」の昔のクラスメートで。
 少し秘密主義で、不思議なところがある、寂しがりやな女の子です。

 彼女の呼び出し方は簡単。
 B階段を通るとき、おかっぱ髪の女の子に会ったらこう言いましょう。
「一緒に遊ぼう」と。
 そうすれば花子さんはきっと答えてくれますよ。


 【第2話「踊り場の花子」END】

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 これにて第2話無事完結!
 不思議で悲しい、花子くんの世界観にあってたら嬉しいです!
 また、普くんと昔の司くんも登場できてよかったです。
 次は東方キャラも登場のキメツ学園になります。お楽しみに♪

 
 

 
 

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