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ろくきせ恋愛手帖
作者: むう  (総ページ数: 113ページ)
関連タグ: 鬼滅 花子くん 2次創作 オリキャラあり 戦闘あり ろくきせシリーズ 
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*81*

 どんどん増えていく裏話
 どんどん長くなる入院期間
 どんどん貰っていくいろんな方からの愛情
 何だなんだこの小説は……((殴ッ☆


 ****


 〈有為side〉

 面白くない、なんてことはなかった。
 何のヒントにもならないなんて、大間違いだ。

 彼女の話を聞いて、ボクはなぜか、胸の中が温かくなるのを感じた。
 それはきっと、自分の他にも『大切なもの』を失った人がいるという安心感。
 そんなものに安心してはいけないと思いつつ、改めて独りではなかったことを思い知らされる。



 仁乃「ごめんね。ヘンな話ししちゃって」
 有為「いいえ、……ありがとうございます。大切な話をしてくれて」



 だからボクも、自分の過去をはっきりと打ち明ける覚悟が出来た。


 もしかしたら自分の話なんて、面白くも何ともないかもしれない。
 いきなり辛い話をして、困らせたらどうしよう。
 でも、この苦しみを誰かと共有したかった。


 有為「仁乃さん。ボク……実は陰陽師の世界で、生きてはいけない人間だったんです」
 仁乃「………」


 全部打ち明けた。自分がずっと感じていた不安も、絶望も、葛藤も何もかも。
 どんなに辛かったのか、どんなに苦しかったのか、たとえ彼女に分からないとしても。
 
 ボクは嬉しかったんだ。
 初めて「有為ちゃん」と名前で呼ばれたこと。
 初めて自分の目をしっかり見てくれたこと。
 大丈夫だよって、生きてていいよって、家族以外の人から言われたことが。


 全ての話を伝え終わり、横を見ると、仁乃さんはどこか遠い眼をしていた。
 ああやっぱり……こんな話、面白くなかったのかな……。

 仁乃「……最低な話だね。人の命の価値を何とも思っていない」
 有為「……やっぱり、困らせてしまいましたか?」
 仁乃「ううん。辛いことを話してくれてありがとう」


 有為「……不安なんです。兄がいなくなって、護ってくれる人を失って、自分を見失いそうで」
 仁乃「……」
 有為「お兄ちゃんに守られてばっかだったあの頃の自分よりは、少しは強くなったと思ったのに」


 ボクは結局、あの頃のままで。
 優しくしてくれた人でさえ名前で呼べなくて。



 善逸「ふぅん。何の話してるかと思ってたら、こういうことか」
 仁・有「善逸さん!??」
 睦彦「コラお前、空気読め空気を! 悪(わり)い。隣の部屋でずっと聞いてた」
 光「ごめんな。ご飯できたから、呼びに行こうとしてたんだが……」


 睦彦くんと善逸くんの着物の裾を掴んで手元に引き寄せ、光くんは二人に鉄拳を振るう。
「グェッ」と呻いた二人の口に、手にしたお盆に盛られていたおにぎりを強引に突っ込んだ。

 全くこの人たちは油断も隙もないんだから……。
 ボクが呆れて肩をすくめるのを、仁乃さんはクスクス笑って眺めていた。
 

 善逸「ほんほうにごめん。いやなはなひをきいちゃって(もぐもぐ)」
 有為「いいえ、ボクの方こそ、昼間は酷いこと言ってしまいすみませんでした」
 睦彦「しっかし、俺は宵宮の兄ちゃんのことは尊敬してるぜ」
 有為「え?」


 睦彦「俺にも3つ上の兄ちゃんがいたんだけど、うるせぇしチクるし頭いいしで最悪だったから」
 善逸「おみゃえ、じぶんの兄ちゃんに向かってそりぇはないあろ(もぐもぐ)」
 光「善逸。まだまだあるからゆっくり食べろよ……」


 仁乃「へぇ。むっくん、お兄さんがいたんだね。知らなかった」
 睦彦「ん(もぐもぐ)くるみはらは?(もぐもぐ)」
 仁乃「お姉ちゃんが一人と、妹が三人。妹は鬼に食われた」

 光「……お姉さんは?」
 仁乃「……鬼にされて自分で倒した」


 善逸「バッ……お前!!」
 光「……ゴメン仁乃ちゃん。オレ、嫌なこと聞いちゃったな」
 仁乃「ううん気にしないで。もう大丈夫だから。そういう光くんは兄妹いるの?」
 
 光「うん、兄ちゃんと妹がいる。兄ちゃん生活力がなくて、オレがずっと飯作ってんだ」
 有為「どうりで手際がいいと思った」
 光「有為ちゃんもおにぎり食うか? 炭治郎たちが具を入れるの手伝ってくれたんだぜ!」


 なんだかボクの過去の話から、いつの間にか「鬼滅トーク~兄弟編~」になっちゃった。
 こんなのでいいのだろうか。
 

 でも、みんなはとてもやさしかった。
 人の過去話を、何も言わず黙って聞いてくれた。
 

 有為「じゃあ……(おにぎりを一つ手に取って)」
 仁乃「大きい方取っていいよ。私はさっきつまみ食いしたからさ」
 睦彦「!?」

 有為「いただきます(ぱくッ)」
 光「どうすか? どうすか??(そわそわ)」
 有為「(ごくん)………おいしい。こんなおいしいおにぎり、初めてです」


 それはお世辞でも何でもなくて、生まれてから食べたどんな料理よりずっと美味しかった。
 みんなで縁側で食べたからかな。
 
 お兄ちゃん、見てる?
 わたしは今、とっても幸せだよ。
 ほら、こんなに素敵な人たちと巡り会えたんだ。
 みんなとても優しくしてくれるの。忌子じゃなくて、人間と見てくれるんだよ。


 有為「ありがとう、光くんっ。また作ってくださいね!(ニコッ)」
 光「……………………………(ズッキューン!)」


 生まれて初めてできた友達に笑いかけたら、光くんは突如体を硬直させ黙り込んだ。
 心配になって彼の顔を覗き込むと、とたんに光くんは顔を赤らめて慌てた。

 
 仁乃「光くん、有為ちゃんの笑顔にやられたね」
 光「いいや違っ」
 善逸「こんなんでいいのかー光ー。こんな調子で寧々ちゃんと上手くやれんのか?」
 光「!???? うあああああああああああああああ~~~!!」

 仁乃さんと善逸さんの絶妙な連携によって、光くんの何かが爆発した。
 そのまま、顔を覆って、「あうーあうー」と呻きだした。やれやれ。



 炭治郎「おーい皆、ご飯できたよー」
 寧々「今日のご飯はふろふき大根よ! 私と光くんで頑張ったんだから早く来てっ」
 伊之助「おい早くしろ! 腹が減ったんだよチクショウ!」

 花子「……ふろふき大根……(チラッと寧々を見て)」
 寧々「フーッ フーッ(怒)」
 花子「何も言ってないのになんでぇ!??」


 有為「あはははははははっ」



 このときのボクはまだ何も知らなかった。
 友達が出来たことに興奮するばかりで、輪の外の連中が自分を狙っていることなど考えず。
 この時間が、もっと続けばいいのにと思っていた。




 





 
 
 
 
 

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