完結小説図書館
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*81*
どんどん増えていく裏話
どんどん長くなる入院期間
どんどん貰っていくいろんな方からの愛情
何だなんだこの小説は……((殴ッ☆
****
〈有為side〉
面白くない、なんてことはなかった。
何のヒントにもならないなんて、大間違いだ。
彼女の話を聞いて、ボクはなぜか、胸の中が温かくなるのを感じた。
それはきっと、自分の他にも『大切なもの』を失った人がいるという安心感。
そんなものに安心してはいけないと思いつつ、改めて独りではなかったことを思い知らされる。
仁乃「ごめんね。ヘンな話ししちゃって」
有為「いいえ、……ありがとうございます。大切な話をしてくれて」
だからボクも、自分の過去をはっきりと打ち明ける覚悟が出来た。
もしかしたら自分の話なんて、面白くも何ともないかもしれない。
いきなり辛い話をして、困らせたらどうしよう。
でも、この苦しみを誰かと共有したかった。
有為「仁乃さん。ボク……実は陰陽師の世界で、生きてはいけない人間だったんです」
仁乃「………」
全部打ち明けた。自分がずっと感じていた不安も、絶望も、葛藤も何もかも。
どんなに辛かったのか、どんなに苦しかったのか、たとえ彼女に分からないとしても。
ボクは嬉しかったんだ。
初めて「有為ちゃん」と名前で呼ばれたこと。
初めて自分の目をしっかり見てくれたこと。
大丈夫だよって、生きてていいよって、家族以外の人から言われたことが。
全ての話を伝え終わり、横を見ると、仁乃さんはどこか遠い眼をしていた。
ああやっぱり……こんな話、面白くなかったのかな……。
仁乃「……最低な話だね。人の命の価値を何とも思っていない」
有為「……やっぱり、困らせてしまいましたか?」
仁乃「ううん。辛いことを話してくれてありがとう」
有為「……不安なんです。兄がいなくなって、護ってくれる人を失って、自分を見失いそうで」
仁乃「……」
有為「お兄ちゃんに守られてばっかだったあの頃の自分よりは、少しは強くなったと思ったのに」
ボクは結局、あの頃のままで。
優しくしてくれた人でさえ名前で呼べなくて。
善逸「ふぅん。何の話してるかと思ってたら、こういうことか」
仁・有「善逸さん!??」
睦彦「コラお前、空気読め空気を! 悪(わり)い。隣の部屋でずっと聞いてた」
光「ごめんな。ご飯できたから、呼びに行こうとしてたんだが……」
睦彦くんと善逸くんの着物の裾を掴んで手元に引き寄せ、光くんは二人に鉄拳を振るう。
「グェッ」と呻いた二人の口に、手にしたお盆に盛られていたおにぎりを強引に突っ込んだ。
全くこの人たちは油断も隙もないんだから……。
ボクが呆れて肩をすくめるのを、仁乃さんはクスクス笑って眺めていた。
善逸「ほんほうにごめん。いやなはなひをきいちゃって(もぐもぐ)」
有為「いいえ、ボクの方こそ、昼間は酷いこと言ってしまいすみませんでした」
睦彦「しっかし、俺は宵宮の兄ちゃんのことは尊敬してるぜ」
有為「え?」
睦彦「俺にも3つ上の兄ちゃんがいたんだけど、うるせぇしチクるし頭いいしで最悪だったから」
善逸「おみゃえ、じぶんの兄ちゃんに向かってそりぇはないあろ(もぐもぐ)」
光「善逸。まだまだあるからゆっくり食べろよ……」
仁乃「へぇ。むっくん、お兄さんがいたんだね。知らなかった」
睦彦「ん(もぐもぐ)くるみはらは?(もぐもぐ)」
仁乃「お姉ちゃんが一人と、妹が三人。妹は鬼に食われた」
光「……お姉さんは?」
仁乃「……鬼にされて自分で倒した」
善逸「バッ……お前!!」
光「……ゴメン仁乃ちゃん。オレ、嫌なこと聞いちゃったな」
仁乃「ううん気にしないで。もう大丈夫だから。そういう光くんは兄妹いるの?」
光「うん、兄ちゃんと妹がいる。兄ちゃん生活力がなくて、オレがずっと飯作ってんだ」
有為「どうりで手際がいいと思った」
光「有為ちゃんもおにぎり食うか? 炭治郎たちが具を入れるの手伝ってくれたんだぜ!」
なんだかボクの過去の話から、いつの間にか「鬼滅トーク~兄弟編~」になっちゃった。
こんなのでいいのだろうか。
でも、みんなはとてもやさしかった。
人の過去話を、何も言わず黙って聞いてくれた。
有為「じゃあ……(おにぎりを一つ手に取って)」
仁乃「大きい方取っていいよ。私はさっきつまみ食いしたからさ」
睦彦「!?」
有為「いただきます(ぱくッ)」
光「どうすか? どうすか??(そわそわ)」
有為「(ごくん)………おいしい。こんなおいしいおにぎり、初めてです」
それはお世辞でも何でもなくて、生まれてから食べたどんな料理よりずっと美味しかった。
みんなで縁側で食べたからかな。
お兄ちゃん、見てる?
わたしは今、とっても幸せだよ。
ほら、こんなに素敵な人たちと巡り会えたんだ。
みんなとても優しくしてくれるの。忌子じゃなくて、人間と見てくれるんだよ。
有為「ありがとう、光くんっ。また作ってくださいね!(ニコッ)」
光「……………………………(ズッキューン!)」
生まれて初めてできた友達に笑いかけたら、光くんは突如体を硬直させ黙り込んだ。
心配になって彼の顔を覗き込むと、とたんに光くんは顔を赤らめて慌てた。
仁乃「光くん、有為ちゃんの笑顔にやられたね」
光「いいや違っ」
善逸「こんなんでいいのかー光ー。こんな調子で寧々ちゃんと上手くやれんのか?」
光「!???? うあああああああああああああああ~~~!!」
仁乃さんと善逸さんの絶妙な連携によって、光くんの何かが爆発した。
そのまま、顔を覆って、「あうーあうー」と呻きだした。やれやれ。
炭治郎「おーい皆、ご飯できたよー」
寧々「今日のご飯はふろふき大根よ! 私と光くんで頑張ったんだから早く来てっ」
伊之助「おい早くしろ! 腹が減ったんだよチクショウ!」
花子「……ふろふき大根……(チラッと寧々を見て)」
寧々「フーッ フーッ(怒)」
花子「何も言ってないのになんでぇ!??」
有為「あはははははははっ」
このときのボクはまだ何も知らなかった。
友達が出来たことに興奮するばかりで、輪の外の連中が自分を狙っていることなど考えず。
この時間が、もっと続けばいいのにと思っていた。