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私の後ろの不良執事
日時: 2016/04/13 17:44
名前: 紅色ゆりは (ID: gKAFDMkE)

恋愛小説に不慣れな紅色ゆりはです。

 ★コメントどしどしお願いします。
 ★アドバイスをいただけたら嬉しいです。
 ★更新は不定期です。
 ★中学生から書き始め、今年度(h28)高校生になりました。

 よろしくお願いします。

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Re: 私の後ろの不良執事 ( No.10 )
日時: 2015/07/28 12:57
名前: 紅色ゆりは (ID: gKAFDMkE)


第一章 7

 芦田社長の一見はあったけど、割と今回のパーティーは楽しむことが
できた。執事が失礼のないように、かつ素早い対応をしてくれるし、
パティシエは腕がいいし。
 こんなに開放的なパーティーは何年振りだろう。お偉いさんたちへ
の受け答えもそこそこに、スイーツを好きなだけ食べられるなんて夢
みたいだった。

 パーティー開始から、一時間ほどたった頃だった。
 ……パッ。目の前に見えていたものすべてが、闇に落ちる。
 ——うそ。停電……?
 「あっ……」
 ふらついて倒れそうになるのを、ギリギリのところで持ちこたえる。
 暗闇。それは、私にとって天敵だ。寝る時でさえカーテンをわずか
に開けて、月明かりを部屋に入れてるくらいだ。
 なんで、こんな時に。
 「嫌……」
 知らないうちに、全身ががくがくと震えてくる。怖い……その感情
だけが私を支配し始める。周りには人が大勢いて、話し声だって
聞こえているのに、一人取り残されたような悪寒に足がすくむ。
 足ががくっと大きく震えた。
 「お嬢様」
 ハッ、と私は顔を上げた。倒れかけた私を、執事が後ろから支えて
いる。
 「……ごめん」
 「いえ。無理なさらないでください」
 意外にも優しげな言葉に、少しだけきゅんとする。……違う。こいつ
はただ、執事の仕事をしてるだけなのに。
 「婦人、懐中電灯です。これで足元がよくお見えになるかと」
 「あらぁ……準備がいいのねぇ」
 ピカッ。向こうの方で小さな明かりがつく。
 少しだけ明るくなって、ホッとする。と、同時に冷静さを取り戻した

 何をあわててたんだろう。これはパーティーなんかじゃない。
れっきとしたハプニング対応の審査じゃない。ばからしい。
 そう思ったら、急に、懐中電灯を取り出した執事が、不思議に思えて
来た。普通、ペンライト程度ならまだしも、わざわざかさばるような
懐中電灯なんて持ち歩くものだろうか。
 あの人が単に、用意周到な人だっただけかもしれない。この暗闇の
中、たまたま壁の非常用懐中電灯を見つけられただけかもしれない。
 あるいは、事前にこのハプニングが起こると知っていた、とかね。
本来ならあり得ないことだけれど。
 「えー……皆様。ただ今少々復旧に時間がかかっております。
二つ上の階のみ自家発電により明るくなっておりますので、速やかに
ご移動願います」
 ああ、なるほど。主人をどれだけ上手く安全に移動させ得られるか
で点数をつけるのね。
 「執事。じゃあ行きま……わ!」
 「お嬢様?!」
 どっと動いた人ごみに気後れした私は、一気に飲み込まれて、見事に
転んでしまった。恥ずかしい……というよりは、なんだかむなしく
なってくる。
 「痛っ……」
 しかも足をくじいていると来てる。不運極まりない。不運と言えば、
そうだ……地味男。あの地味男、どうするつもりなんだろう。
 そんなこと考えてる場合じゃないか……。
 「お嬢様……こんななにもないところで転ばれるとは。もはや才能
ですね」
 「うるさい。早く手を貸したらどうなの」
 ……だめだ。この執事の前だと、なぜだか素の私が出る。本当なら、
ここはお説教じみた感じに、「もっと言葉を選ぶべきなのでは
ないの?」とかなんとか言うべきなはず。宮門家の令嬢は、美しく、
かつ堂々たる姿で。……それはもう、宮門家の家訓みたいなもの
だから。
 でも……いいや、もう。そんな演技をこいつの前でしてたら、
とことん疲れそうな気がする。
 「お嬢様」
 何よ、今度は。
 「……私たちが最後のようですが」
 ……え?
 周りを見回すと……いや、何も見えないけど、人の気配がない。
 「あ、ごめ……つっ!」
 「お嬢様、無理なさると、ただでさえひねってらっしゃるのに、
足の傷が……」
 何で足の靴擦れのこと知ってるのよ。人にわからないように、気を
つけて歩いてたのに……。
 あたしの心中を察したかのように、執事がにやっと笑った。見え
ないから、そんな気がしただけだけど。
 「お嬢様は、演技があまりお上手ではありませんので」
 悪かったわね、演技がど下手で。
 「そう思うならどうにかしたら。このままだと大幅に遅れるかもね」
 私なりの皮肉のつもりだったのに、意外にも素直に
 「かしこまりました、お嬢様」
 かしこまりました、って。どうにかできるの? ……どうやって。
 そう思っていたのもつかの間、あたしの体はぐいっと宙に持ちあげ
られた。ひざの裏と背中から体温が伝わってくる。
 あれ、これ、まさか。
 お姫様抱っこというやつ……?
 お姫様抱っこというやつだよ! これは!
 「えっ? な、なんで……お、降ろして!」
 「しばしご辛抱ください」
 うあああああああああ!
 ゆれる! ゆれるよー!
 私が心の中で絶叫しているうちに、人ひとり抱えているにも関わら
ず、軽い調子でトントン、と階段を上っていく。すごいなぁ、体力
まであるんだ、こいつ。
 少し呼吸が乱れてきたけど、ペースを落とそうとはしない。階段の
踊り場ごとに大きな窓が付いていて、そこから青白い月明かりが差し
こんでいる。その光に照らされて、時々、こいつの顔がくっきりと
見える。そのたびに、不覚にも少しうっとりしてしまう。
 「……お嬢様のおっしゃる通り、大幅に遅れてしまうかもしれ
ません」
 息を弾ませながら、執事がささやいた。
 「一応、そこは謝る。足をくじいたのは私だし」
 「なら、一つ願いを聞いてくれますか。……今日が約束の火曜日
ですしね」
 「……は?」
 執事は会場で見たのとは別の、いじめっこのような笑みを浮かべて
いた。

 第一章 7 おわり

                    続く

Re: 私の後ろの不良執事 ( No.11 )
日時: 2015/07/28 14:15
名前: 紅色ゆりは (ID: gKAFDMkE)


第一章 8

 「約束の……って、どういうこと」
 「……まだ気づかないのか。そこまで分からないものかよ、普通」
 呆れたように言われた。唐突なため口だし。
 「今まで何かヒントがあったとして、わかることなの? 普通」
 言い方に少しイラッとしたので、似た言い方で返してやった。
 「火曜にあんた次第だ、って言っただろ……」
 「ちょっと待ってよ。それってあの地味男のセリフ……」
 そう口走ると、執事はあからさまに嫌悪感をあらわにして、
 「なに……おれ、あんたの中で、そういう立ち位置なわけ?」
 「あ、ごめっ……」
 いや、本当、ちょっと待って。頭、混乱してるから。おれ、って。
地味男っていうのは、私の後ろの席の、あいつのことで……。
 待って。もしかして、もしかしなくても……!
 「あんた……地味男……?」
 「地味って言うな、地味って。女がうるさいから、ちょっと中学から
変装してるだけだっつーの」
 うわあ、あり得ない設定の上に、何よそのナルシストみたいな発言。
 「って、あ! あなた、年齢ごまかして……!」
 「仕方ないだろ。対象16歳以上だったんだから」
 疲れたのか、気づかいつつ私をゆっくりと降ろす。右手の甲で額を
ぬぐった。
 「仕方なくはないでしょう……!」
 まあ、年齢をごまかしたことに気づかなかった、運営の方にも多少
問題はあるけど……。
 再び私を抱えて上り出した執事に、ふと尋ねてみる。
 「……あんた次第って、どういう意味」
 「そのままだよ」
 あいも変わらず、一定のリズムで上り続けている。
 「おれは仕事がほしい。ここで賞取れなくても、仕事が来るやつは
いるって聞いた。どこだっていい、執事ができるところを探して
くれないか」
 「……それだけ?」
 私は少し驚いていた。票を入れろとか、金よこせとか、そんなことを
言うと思ってた。案外誠実な頼み事だ。
 「別にいいけど……あ、でも中学生だから、ちょっと……」
 「そこはどうにかする。あんたには迷惑かけねぇよ」
 どうにかって。どうせまた年齢をごまかすんじゃないの?
 「しっ、静かに。明かりが見える。スタッフの言ってた部屋だ」
 部屋へ入ると、あわててスタッフの人が飛んできた。まあ、一応
宮門家令嬢に怪我させたなんてことがあったら、それなりに問題
だもんね。
 「柚穂様! どうされましたか!」
 「すみません。 お嬢様には失礼かと思いましたが、けがが悪化
すると大変なので、こういう形でお連れしました」
 変わり身の早い奴!
 「そ、そうですか。では柚穂様はこちらに。君は出場者席へ戻り
なさい」
 「はい」
 私は審査員席の椅子を『いいイス』に変えてもらって、順位の発表
を待った。
 「皆様、お待たせいたしました。投票結果を発表いたします」
 部屋がパッと薄暗くなり、急に一点に光が集まった。
 「3番。芦田リゾート様プロデュース、小木執事。大賞です!」
 ……えええ? 
 なんだか納得できなくて、素直に拍手できない。土曜日のテーブル
セッティングはありきたりだし、マナーも微妙。ていうか、あの暗闇
のなかで懐中電灯を取り出した人だ!
 少し向こうで芦田社長がニマニマ笑ってる。怪しすぎるよ!
 「ではこれにて会を閉会とさせていただきます。ご協力ありがとう
ございました」
 スタッフの人が降壇すると、7人の執事に一気に人が押し寄せた。
 そのなかから、
 「柚穂ちゃん!」
 あまり聞きたくはない、芦田社長の声。
 「いやあ、軽いもんでしたな、今回の会は。どうです、わいんとこ
の小木は」
 どう、って嫌に決まってますよ。
 とは言えないのでここはやんわりと。
 「すみません、他の執事に興味が」
 「いっ?」
 そう。私、あの階段のあたりから、決めてた。
 あたしが今回貰い受ける執事を。
 「6番、谷崎留矢」
 私が一言言っただけで、がやがやと勧誘していた人たちが、ぴたりと
話すのをやめてしまった。
 「勤務時間は朝7時から夜10時まで。住み込み許可。食事つき。
どう?」
 一瞬驚いたようだったが、すぐにニッコリ執事スマイル。
 「喜んでお受けいたします。……柚穂お嬢様」

 第一章 8 おわり
                      続く

Re: 私の後ろの不良執事 ( No.12 )
日時: 2015/07/28 17:14
名前: miru* (ID: .pUthb6u)


 紅色ゆりはさん、こんにちは!
 はじめまして、miruと申します

 題名からすごく大好物で、ふわぁあってなりながら神速クリックをしました。執事とかとっても好きです! Sっ気ありそうなら尚更!

 そして、読ませていただいたのですが、もう柚穂ちゃんが可愛すぎました。柚穂ちゃんの一挙一動が目に浮かぶようで、クスクスしながら読みました笑
 そして何より、期待を裏切らないかっこよさの谷崎くん!

 うわあこれからが楽しみすぐる……! という興奮が押さえきれずに、コメント欄へと手が伸びてしまった次第です……
 騒がしい乱入、すみませんでした!

 これからの更新、ご活躍、応援しております
 頑張ってください!

Re: 私の後ろの不良執事 ( No.13 )
日時: 2015/08/10 18:26
名前: 紅色ゆりは (ID: gKAFDMkE)

第一章 9

 「まさかあんたの家に厄介になるとはなー」
 「どこだっていいって言ったでしょう。言っておくけど、名目上
は『雇う』じゃなくて、ただの下宿だから。中学生を雇うわけには、
さすがにいかないし」
 まあクラスメイトとひとつ屋根の下っていうのも、それはそれで
アウトな気もするけど、法律上は問題ないし。
 そう思いつつ、高速道路を走る車内で、私はそっぽを向いた。私の
様子を見ていたのか、運転席の方から、控えめな笑い声が聞こえた。
 「柚穂様が執事を選抜できるほどに成長なされていたとは、いやはや
辻は嬉しゅうございます」
 「あら辻……それってホメていると受け取ってもいいのかしら」
 辻は宮門家専属の運転手。見かけは和やかそうなおじいさんだが、
運転はうまいし、何より必要以上に私に頭を下げたりしないのが、
とても嬉しい。私と目を見て話してくれるのは、屋敷の中には、辻と
メイド長の荻原、そしてコック見習いの広瀬ぐらいしかいないから。
 別にみんな、気軽に話しかけてもらって構わないんだけど、なかなか
そううまくは行かない。雇ってるのは私のお父様であって、私じゃ
ないのになぁ、とつくづく思う。
 「つーか辻さん。一応おれ、屋敷じゃ執事モードでいるつもり
だから、おれのこの性格秘密な」
 「わかりました」
 辻はそう言うとくすくす笑って、ハンドルを切った。


 コンコン。真夜中にノックの音。
 「はい、どうぞ」
 「失礼します、お嬢様」
 ……なんだ、谷崎か。
 「よお」
 「何よ」
 そうとげとげしくするなよ、と言いつつ、谷崎は後ろ手で分厚いドア
を閉めた。
 真夜中に部屋に入ってこないでよ。まだ寝てなかったからいいような
ものの。
 「……屋敷の中では敬語にしてよ。執事なんでしょう」
 「でも勤務時間は10時までだったよな」
 ベッドの横の時計を見ると、10時14分を指していた。
 まあ、そりゃ言ったけどさ。
 「用があるなら手短にしてくれる」
 「ツンツンすんなよって。足に薬ぬってやるって言ってんの」
 「いい。自分でぬるし」
 「へぇー……」
 私の言葉を無視して、谷崎はベッドのふちに座っている私の足元に、
軽くしゃがみこんだ。そして思いっきりバカにしたような声で、
 「おれのおじょーさまは不器用だって、メイドに聞いてきたんだが」
 と皮肉口調で言われて、言葉に詰まった。確かに少し不器用だけど、
薬がぬれないほどじゃない。……多分。
 「……いいわ、任せてあげる」
 「おおせのままにー」
 うわあ、ムカつく。わざと上から目線で言ってるのに、ばかにして
返してきた。
 私がベッドに腰掛けたまま足を出してやると、谷崎が執事らしく
ひざまずき、薬を塗り始めた。男子に足を触られるなんてことは
当然のごとく初めてで、少し緊張する。
 「…お前、よく耐えたな、こんなひどい怪我。血までにじんで……」
 「別に。こんなのヒールで長時間立っていれば、よくあることだし。
もう慣れっこ。それにこんな生活させてもらってるんだから、この
くらい我慢しないと割に合わないわ」
 ひんやりとした白い塗り薬が、谷崎の指先であたしの足を滑る。
なんだか気恥ずかしくなって、気を紛らわすために、えらそうに腕を
組んでみた。我ながら何様かと思う。
 「まあ確かにすごい家だわな。レッドカーペットだのシャンデリア
だの。でもこれで第二邸なんだろ? 都会の方の本家・第一邸を見て
みたいもんだな」
 「本家は和風の平屋で、広さはだいたい、この第二邸と隣の旧第二邸
を合わせたくらいかな。私もあまり行かないけど」
 ふと幼いころに行った、第一邸の風景を思い出す。気の香りがする
木造建築の建物、その奥に広がる日本庭園……。今はどうなっているん
だろう。あのころと変わらない風景をいまだとどめているんだろうか。
 「柚穂」
 「えっ?」
 うわあ恥ずかし。腕組んだままボーっとしてたよ私。
 「……って呼んでもいいか。勤務時間外は」
 「え……うん、いいけど」
 「そうか。学校でもお嬢様じゃ、大変だからな」
 ……そっか。こいつ、クラスメイトなんだよね。明日から、クラスに
私の秘密を知るやつがいるってことなんだ……。
 少し、不思議な感覚。
 谷崎の家は……よくは教えてくれないけど、住み込みを許可してくれ
たらしい。また今度、しっかりたずねよう。
 「これで、よし」
 薬を塗り終わり、谷崎はすくっと立ち上がった。ニッコリ、執事
スマイル。
 「では失礼いたします。お休みなさいませ、お嬢様」
 「うん、ありがと」
 珍しくお礼を言った私に、谷崎は少し驚いた後、微笑んでくれた。

 第一章 完
                      第二章へ続く

Re: 私の後ろの不良執事 ( No.14 )
日時: 2015/07/28 18:19
名前: 紅色ゆりは (ID: gKAFDMkE)

 miruさんはじめまして! コメありがとうございます!
 細やかな感想とっても嬉しいです!

 これからも、お嬢様としての責務をやり遂げようとする柚穂と、
かっこいい&敬語と素の口の悪さを使いこなす(笑)谷崎を、がんばって
書いていきたいと思います。

 これからもどうぞよろしくお願いします★


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