コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 私の後ろの不良執事
- 日時: 2016/04/13 17:44
- 名前: 紅色ゆりは (ID: gKAFDMkE)
恋愛小説に不慣れな紅色ゆりはです。
★コメントどしどしお願いします。
★アドバイスをいただけたら嬉しいです。
★更新は不定期です。
★中学生から書き始め、今年度(h28)高校生になりました。
よろしくお願いします。
- Re: 私の後ろの不良執事 ( No.5 )
- 日時: 2014/08/07 20:28
- 名前: 紅色ゆりは (ID: gKAFDMkE)
第一章 3
日曜日はゆっくり休めたけど、本心を言えば帰ってからもあの執事
が気になってたまらなかった。
見とれるぅ? 冗談じゃないってんですよ。あなたの超意外な仕事
ぶりに驚いてただけだっての。なのに、なのに、あのバカ執事……。
悔しい。なんか、とてっつもなく悔しいぃ!
今度会ったら思い切りイジワルしてやろう。うん。そうしよう。
それにしたってむかつくなぁ。こんな気分じゃ学校行けないって!
「お嬢様、お時間ですよ」
はいはい、わかってますよっ。
どうせなら学校、お休みになればいいのに……。
そんなことを考えながら、私は頬杖をついた。憂鬱。気分悪い。
あの執事のせいで最低最悪な心境!
あぁ、また火曜日にあいつと対面すると思うと、テンションが大幅
に下がる。少なくとも票なんて一票も入れてやるもんか。あんなキザ
なセリフ言うようじゃ、たとえ技術が高かったとしても、執事になん
てなれるもんか。フン。
あー、もう、この数学の授業、すごくつまんない!
数学の授業に八つ当たりしつつも、私は大人しく授業をきいた。
でもつまらないのは本当。いや、正確に言えば男子と私のみ、
つまらない。だって数学の先生って、超——
「せんせぇ、彼女いるんですかぁ」
超、イケメンだから。
「授業中は数学の質問だけにしてくれ、岡山」
ふざけた調子で先生が言うと、女子がどっと笑った。
「あー、やっぱいるんじゃないですかぁ?」
岡山百合乃がにやにやと笑う。先生というよりは、さわやかな
大学生というか、元気なお兄さんというか、まぁそんな感じの河沼
先生。女子生徒には人気があるけど、その分男子に疎まれてる、何と
もゆるい立場にいる先生だ。人当たりはいいけど、ヘンに軽くて、
こんなんで教師が務まるのかなぁ、なんて、それが私の先生の印象。
「何だよ河沼のやつ、マジうざいんだけど」
「女子に持ち上げられて、うかれてんだよな」
おいおい、そこの男子、陰口叩くなって。理不尽に怒鳴り散らす
先生よりは、いくらか軽い先生の方がマシじゃないか。
まぁ口にはださないけど……。
「おい、そこらへんでやめとけよ」
——えっ?
口をだしたのは——私の後ろの男子だった。
- Re: 私の後ろの不良執事 ( No.6 )
- 日時: 2014/08/11 14:18
- 名前: 紅色ゆりは (ID: gKAFDMkE)
続き
後ろの——つまり、一番後ろの、男子。私の中でのあだ名は、
地味男!
そりゃ私だって地味って点では学校じゃ人のことは言えないけど、
なんだってコイツの地味さはハンパない。いつの時代かと思う古臭い
黒縁メガネはいつも曇ってるし、うつむき気味だから顔だってよく
見えない。人と話してるところも見たことなかったし、もしかして
声を聞くのだって初めてかもしれない。
「なんだよ、てめーに言われたくねーし」
「だよな。マジしらける」
あのぅ。どうでもいいんだけどさ。
私をはさんで口論しないでくれる?!
私の後ろに地味男。前に男子が二人いて、私の隣は女子。席の都合で
そうなっちゃうのはわかるけどさ、気まずいんだよね。ほら、隣の
静かめな女子も、見るからに気まずそうな顔してるよ。だよね。
すっごい気まずいよね。
私たちの席は窓際の一番後ろの方。先生も気が付かない。
あ〜気づいてよ先生! お願いだから、こいつらを……とくに前の
2人を注意してよ!
「授業中で、しかも内容は先生のしょうもねー悪口かよ。ダッサ。
ガキかよ、てめーら」
うっわ、口、わるぅ! 地味男なのに。静か系な奴かと思ってた
のに。めっちゃ、口わるぅ!
「後で顔かせよ、てめー」
と、前の男子。
うわぁ、相手もガラが悪いよ。自分たちが悪いくせに……いや、
地味男もケンカをふっかけたのは悪いけども。
後で顔かせってことは、あとで地味男を『どうにか』しちゃう
つもりなのかな、この二人……。大丈夫かな。
「逃げんなよ」
「てめーらがな」
うわぁ怖い。そして気まずい!
第一章 3終わり
続く
- Re: 私の後ろの不良執事 ( No.7 )
- 日時: 2014/08/11 19:59
- 名前: 紅色ゆりは (ID: gKAFDMkE)
第一章 4
私ってなんて不運なんだろう。いや、お金持ちの家に生まれてきた
ことは、今のところその辺に置いといてさ。
今の状況が不運だって、私は思うんだ。
「まぁ逃げずに来たことは褒めてやる」
「いきなり、負けフラグたてるようなセリフはくんじゃねーよ」
なんだってあんたたち、私の通学路でケンカ始めちゃってんのよ!
おかしいよ。なんでよりにもよってここで、このタイミングで
始めるの。通りたくても通れないじゃない。
私は心の中で散々3人に毒づいてから、建物の陰に隠れた。
私の前に座ってる、やたら態度のでかい男子と、その子分的な立ち
位置にいる背の低い男子。そして、とても喧嘩が強そうには見えない
地味男。勝敗は明らかです……。
まぁ確かに人通りも少ないうえに、建物に囲まれてて、近所の家
からも見えにくいから、ケンカには絶好の場所と言えばそうなのかも
しれない。でもだからって、やめなよ、ケンカなんて……。
「来いよ、不良もどきとその手下」
「ぁんだと?」
地味男がけしかけて、一気に二人の怒りが急上昇! うわ、あいつ
無茶苦茶なことを……。
「ナメてんじゃねーよっ!」
不良は……いや不良もどきは怒声をきかせ、拳を上げて地味男へと
つっこんだ。あ……やられる……!
「バカか」
パシッ。不良もどきの拳を、軽く受け止めた。
えぇえ? てっきり殴られるかと……。
「こんなぬるいの……。攻撃の部類に入んねぇっつーの」
脇をグイッと持ち上げ、投げ飛ばした。柔道はよくわかんないけど
見た感じ——一本背負い……?!
でもなんていうか、相手の力を逆手にとって投げたような、そんな
感じもする。すごい。すごいぞ、あいつ……!
「てめーも来るか……?」
背の低い方に向き直り、にやり。満足そうだぁ……。
「い、いや、おれは、いい、です……」
最後の方は敬語まで使って、隠れた私に気が付かないまま、親分を
背負って逃げてった。
うわあ、なんていうか、強いんだ……あいつ。
「で、そこで見学してる人……何の用?」
「えっ、わわ、私?!」
わ、私だよね。気づいてたんだ。
「え、あの、別に見学してたわけじゃ。ここ、私の通学路で……」
「あ、そ。悪かったな」
え、ケンカ場所について謝ってくれたの。軽いけど。
「宮門 柚穂」
唐突に、地味男が私のことをフルネームで呼んだ。え、なに急に。
「あんたはもっと自重したほうがいい。自分の身分を」
「は? それってどういう……」
ハッ。やばい、敬語敬語。素で答えちゃった……。
「そういうとこもな。——あんた今、ここ通学路って言っただろ」
言いましたけど、何か。ていうかあんたあんたって言うな。
「ここを通ると着けるのは、高級住宅街だけなんだよ。それで
あんたの名字から察すれば……わかっちまうだろうが」
——え、まさか、それって。
私が宮門家の令嬢だってこと……!?
かぁあぁあんっ! 一瞬、殴られたような衝撃が来た。
「こっ……このこと、みんなには……」
「それは……」
地味男はゆっくりと歩いてきて、肩をポン、と叩いた。耳元で
甘い声でささやかれる。
「火曜に、あんた次第だな」
火曜……明日?
フッ、と笑うと、ゆっくりと歩いて行ってしまった。
今の声、どっかで……。
第一章 4おわり
続く
- Re: 私の後ろの不良執事 ( No.8 )
- 日時: 2014/10/06 13:04
- 名前: 紅色ゆりは (ID: gKAFDMkE)
第一章 5
火曜。今日!
私は珍しく早起きして、足早に登校した。
登校中、ずっと私は考えてた。昨日のあいつの言葉……。
私次第って、なに、それ。
何だろう。なにかしろってことなのかな。給食のデザートをよこせ
とか、無償で宿題を写させろとか。
考えてみて、ばからしくなった。そんなわけないじゃん!
きっと金貸せとか、手下になれとか、そんな感じでは……?
——怖いよ。完全不良だよ、それ。
とか、色々ネガティブな想像してたのに。
朝も、昼休みも、帰りの時間になっても、一向に何もない。
あれぇ……どうしたんだろ。私、何かまずいことでも……。
「宮門」
私の様子を察したのか、地味男が
「いずれわかる。あわてんな」
と、意外にも優しげなお言葉。
あわてんな、って……。放課後なら無理だよ?
いずれとか言われたって、私、今日は執事評論会の第2次審査が
あるんだけどなぁ。
仕方ない。『いずれ』を待つか。
でもいくら待っても何もなくて——結局、こうやって会場に来て
しまった。
「柚穂お嬢様。本日は再びお越しいただき、誠にありがとう
ございます。第2次審査はハプニングの対応について行います」
ハプニングの対応、か。
執事にとって、ハプニングへの対処ができないのは、結構致命的。
あたふたしたり、早急に現状を認識できないような人は、到底一級の
執事にはなれない。なるほど、この審査で一発で勝敗が決まりそう
ね。
私は少し緊張して、手を握りしめた。実は、最近若いメイドが大勢
宮門家にメイド実習に来ていて、指導する人員が足りなくなってきて
いる。だからもしこの大会で優秀な奴を発見したら、声をかけようと
思ってる。
でも、その優秀さってやつは、見抜くのがたやすいわけではない。
あくまでも、宮門家の執事としてそぐわしいモノを選ばなければ
ならない。
——本当ならそんな役目、私に背負わせないでほしいのだけれど。
「では只今より第2審査を開始します。出場者の方は、同じ番号札
をお持ちの方におつきください」
私は6番を渡されてる。確か、同じ番号札のペアをつくって、
客も含めてパーティを行う。それで執事の仕事ぶりを審査すると
見せかけて、ハプニングを起こす……だっけ。
パーティの間に審査員や客と仲良くなれば、たとえ賞をとれなかっ
たとしても、仕事にいくらか就きやすくなる。まぁ、主催側から
出場者への配慮だ。
それより、6番の執事は……。
「お嬢様、番号札を拝見してもよろしいですか」
私は振り返って、究極に嫌そうな顔をしてやった。
来たよ、にっくき谷崎留矢!
そして、そいつの番号札を見てぎょっとする。
——なんで。なんでこいつが6番なの。
「あぁ、お嬢様と同じ番号ですね。よろしくお願いいたします」
思い切りわざとらしく驚いて、ニッコリ。なにが「あぁ」なのよ。
執事には前もって、仮のご主人のことをある程度調べられるように、
審査開始30分前にはペアの名を告げられてるんでしょうが。
毎年毎年どこかしらの評論会に審査員として出てるこの私を、
会の主催者側に大勢の顔見知りがいるこの私を、なめてるんじゃない
わよ。
ムキになってバシバシ、谷崎にガンとばしてたら、
「お待たせいたしました。全てのペアがそろったようなので、
これよりご自由にお楽しみくださいませ」
会場のステージに立ってる人が、マイクに向かってそう言った。
よく言うよ。この後ハプニング起こすんでしょ。
それに、そんな交流会みたいなことすると……。
「あ、あの。失礼ですが、宮門家の……?」
来たよ。どっかのえらいおじさん!
あーもう、だから気が休まらないのよね……。
「はい、私……」
「笹生製薬の岸部様でしょうか」
……へっ。
驚いて、私は後ろを振り返る。
「名刺は私がお受け取りいたします」
「そ、それはどうも。で、ではこれで」
気まずそうに、おじさんは行ってしまった。
あれっ、もう行くんだ。早くない? ああいうおじさんって、いつも
長話してくのに。ぽかんと口を開けてる私に、
「ああいう方は、丁寧な押しに弱いことが多いんですよ。柚穂
お嬢様の様な高貴な方やそのお付きの者に対してなら、なおさらに」
と、慣れたような説明。高貴とかいわれてちょっと恥ずかしくなる。
でも待って。さっきの人、まだ名乗ってもなければ、名刺だって
出している途中だったよね。何で会社名、それに名前までわかった
の? まさか、この会場の人の会社や名前、ほとんど記憶してたり
なんて……ない、よね……?
「宮門家の大切なお客様なら、いつもどおりのお嬢様のように、
長々とお話をお聞きする方が良策かもしれませんが……。今のところ
接点のない笹生製薬の方でしたので、さしでがましいかとは思い
ましたが、丁寧にお引き取り願いました」
宮門家との接点までリサーチ済み?!
私は確信した。認めたくないけど、認めざるを得ない。
——こいつ、デキる!!
先日のテーブルセッティングは、少々アレンジも加えられつつ、
ご婦人受けしそうなケーキやテーブルクロスを抑えてあった。
マナーも上出来。さっきのおじさんだって、私はいつも『断る』こと
に手こずってるのに、難なく受け返しちゃった。
何よりも暗記。タルトのことからお客さんの名前まで、完全暗記。
暗記ができなければ、執事って務まらないしね。
——こいつ、根っからの執事気質だ……!
第一章 5おわり
続く
- Re: 私の後ろの不良執事 ( No.9 )
- 日時: 2015/07/27 17:09
- 名前: 紅色ゆりは (ID: gKAFDMkE)
第一章 6
「いやあ柚穂ちゃん、元気にしてたかね」
めずらしく、馴れ馴れしくも「ちゃん」付けで名前を呼んでくる人
が、大笑いしながら歩いてきた。お腹が出てるし、笑い方が下品だし、
この前のお見合い相手みたいにガチガチにワックスで髪の毛を固めてる
し、あまり好印象とは言えない。むしろ見るからに悪徳社長。
ていうか、誰。
「芦田リゾートの芦田社長です。お嬢様のお父上と、数年前に一度、
共同ビジネスをなさっていたそうです」
私の様子を見かねた執事が、耳打ちしてくれた。悔しいけど、かなり
助かる。
それにしても……芦田リゾート?
数年前はともかく、今ではずいぶんと悪名のとどろいている会社だ。
地元の人の反対をあり得ないくらい強引に押し切って、森林をゴルフ場
にしたとか、何かとせこいことしかしないとか、悪いうわさしか聞か
ない。
そもそもお父様が芦田リゾートと共同ビジネスとか、聞いたことも
なかった。
「ご無沙汰しております、芦田社長。お元気でしたか」
「いやあ、がはははは。なあに固くなることはないさ。それにしても
今回の出場者はダメな奴らばかりだねぇ。気がめいるよ全く。もう少し
勉強してきたらどうなんだって思うよ」
ちょっと待ちなさいよ。その出場者、私の後ろにも、いるんです
けど!
この執事、確かにちょっとイラッとくるよ。でもこの二日間の働き
を見る限り、勉強してないとか、ダメとか、そんなこと絶対にない。
それ相応の努力を、きちんとしてきた奴に見える。それはきっと、
こいつに限ったことじゃないはず。
そんな人たちを、それも本人の目の前でそんなふうに言うなんて。
——ちょっと、無神経なんじゃない。
「青臭いのと老人ばっかで……バカらしいったらないね。若造に
何ができるんだって話さ」
……ムカつくー!
一応、芦田社長の手前、ニッコリ笑ってやる。でもムカつく。
若造? そんなの関係ない。関係あるはずがない。こいつはすごい。
この宮門柚穂にここまで思わせるんだ。こいつは、いつか執事として
成功できるやつなんだ。
ていうか、何よりこの社長、感じ悪い!
「ところで柚穂ちゃん、わいのプロデュースしてる執事は3番だから。
票、頼んまっせ」
プロデュース? 執事を、芦田リゾートが?
自分がプロデュースした執事に賞を取らせて、どこぞのお金持ちの
家に送り込ませる気でもいるのかしらね。
そうすれば、そこの家ともビジネス関係が持てるし。
「柚穂ちゃんはいい執事を探しとるって聞いたけど、もちろん大賞
狙いだよねぇ。よろしくお願いしますな」
「ええ、まぁ……」
どこからそんな情報、漏れたんだろう。しかも、もう自分がプロ
デュースした執事が大賞をとる気でいるの?
ずいぶんな自信のありように、不正でも疑ってしまいそう。
「じゃあ、また。今度会えるのを楽しみにしてるからなぁ」
「はい、また」
もう会わなくていいよ、私的には。
芦田社長が向こうへ行ったのを確認して、執事を振り返って見た。
「散々な言われようだけど……別に気にしなくていいと思うわ」
「はい……」
あらなに。弱気?
悔しかっただろうなあ。それでも、それを表情にも出さないなんて。
案外、根性あるじゃない。
ていうか、こんなしんみりした顔もするんだ。
「顔、あげなさい」
私はびしっとそう言い放った。
厳しい? エラそう? そうかもしれないけどさ。
「少なくとも今は、私の執事でしょう。宮門家の執事らしく、堂々と
してればいいわ」
パーティの間だけは、私はこいつの主だ。
それなら、ちゃんと力を発揮させてやりたい。私なりに、励ました
つもりなんだ。
第一章 6 おわり
続く
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