コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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妖師~ayashi~【コメ大歓迎!】【番外編更新】
日時: 2015/08/11 14:52
名前: 岩崎りん (ID: mGOQ1xar)

異形の者——妖しもの

夜を支配し、人々と一線を画するもの

太古の昔から、そういったものは人々によって畏れられ、また崇められてきた。
 
しかし、人間が夜を支配し、科学や技術が発展するにしたがってそういったものは人間の目には届かぬ所へ追いやられた。

しかし、勘違いしてはいけない。消えたのではない。見えなくなったのだ。

見えなくなったがゆえに、妖しもの——妖怪と人間との距離感は曖昧になり、信じなくなたが故に、妖怪間との関係も悪化した。

穏やかだったはずの妖怪も、狂暴化してきている現代

そんな妖怪と人間との距離感をもとに戻すべく、仲介役になっている者たちがいた。

妖怪と同じ「妖し」の力を使い、時には戦い、時には話し相手となる。

それらを裏の住人や、妖怪は「妖師」と呼んだ。




——————————————————————————————————



どうもです!岩崎りんと申します。

こんな始まり方ですが、ドタバタのギャグ路線で生きたいと思います。

世間は妖怪ブームですね!それに乗っかったわけじゃあないですけど、設定がブレブレにならないように書いていきたいです!

バトルはあまり出てこないです。あくまでラブコメドタバタ路線です。

コメディー時々シリアスと思ってください。

中学生も受験生なので亀更新かもしれません。

かけるときに書いていきますので、どうぞお楽しみください!



登場人物>>05

ワード>>09


〜コメをくださった神様〜


イナさま

八太刀さま

遠野 青陽さま

ビタミンB2さま

ありがとうございます!!

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Re: 妖師~ayashi~ ( No.29 )
日時: 2015/04/08 18:16
名前: 岩崎りん (ID: 2p/21MM7)

「きゃあっ!」

理科の授業中のことだった。

窓際の物置台に置いてあった試験官が音を立てて割れ、その近くの席にいた女子が悲鳴を上げた。

珍しい話ではなかった。2年生になった春からずっとこの調子なのだ。

理科室といっても、この学校には理科室が二つある。

よくこのようなことが起こるのは1階にある第1理科室だ。

「あらいやだ。また倒れたの?最近どうしたのかしら。」

理科担当の岡本先生が、首をかしげた。

さすがにこう毎回続くとなると恐怖を覚えるものだ。

しかし、生徒人数が多いのでこうでもしないと授業の回転率が悪くなる。

「ちょっと憐馬。あんたお札作れたわよね?」

出席番号が隣なため、班がいっしょな杏子と憐馬は二人で顔を寄せ合ってひそひそ話していた。

「うん、昔一通り覚えたけど?」
「ちょっとはっとかない?こう頻発すると変な噂が立ちやすいし、街の妖怪も生きた心地がしないでしょうし。」
「…お札ってのはなあ、霊体とはそういうのにきくんであって、妖怪にはまじない系は聞かないって昔親父にさんざん教えられらろーが。」
「あ、あれ?そうだったっけ?」

少し焦ったように杏子は言う。

杏子は意外にもこういう細かいことは苦手なタイプだ。

呪具を作ることや、結界を張ることは得意だが、呪符を作ることはどうにも難しいらしい。

対し憐馬は本当に意外なのだが呪符を作ることに関しては一級品だった。

体育会系だし、考えるより先に体が動くことがほとんどだが、割とこういう細かい作業は得意だ。

呪符に関しては几帳面になるらしい。

「てゆーかこれ、妖怪なの?浮遊霊とかじゃないの?」
「いや、わずかに妖怪独特の妖気がかすかに漂ってる。こんなことをする犯人は……。」
「な、なんなの?」

しばらく真顔で考え込んでいたが、不意にはっと顔を上げた。

「わかんないから雪乃さんに訊こう!」

がくっと、杏子はその場に突っ伏した。

Re: 妖師~ayashi~ ( No.30 )
日時: 2015/04/18 22:12
名前: 岩崎りん (ID: 2p/21MM7)

「雪乃さーん、今大丈夫?」

放課後、二人で雪乃が経営しているアイスクリーム店に寄ると、お店はがらがらにすいていた。

「いらっしゃい。」
「あれ、一人?」
「この時間帯はね。もうそろそろしたら本格的な夏が来るからもう少しましになると思うわ。それよりどうしたの?今日は巡回の日じゃなかったわよね?」
「ああ、そうなんだよ。実は最近……」

憐馬は、最近立て続けに起こる事件について雪乃にすべて言った。

その妖怪が何なのかも質問してみた。

すぐに雪乃は、「ちょっと待ってて。」というと、店の奥にいったん消え、そこから一冊の本を取り出してきた。

薄い手帳くらいの本で、表面には行書で「名簿」と書かれてある。

「美夜桜町に住む妖怪の名簿よ。えーっと…。」

「や」の項目を探している。

すると、ある名前のところで雪乃の細く長い指が止まった。

「やっぱりこれだわ。「家鳴り」さんよ。」
「家鳴り?」
「古い家や建物に住んで、揺らしたり、音を鳴らしたり、最近では、電球の接続も悪くしたりするって、何かで読んだことがあるわ。」

杏子が思い出したように手のひらにこぶしをのせた。

「へえ。」

憐馬が呆けたような声を出す。

「憐馬、あんたいまさらこの妖怪知ったんじゃないでしょうね。」
「…うるせえな。俺こーゆー覚えるのとかは苦手なんだよ。」
「あんた、それでも妖崎の人間なの?妖師の最高幹部が聞いてあきれるわね。」
「おめーだって、あの時お札がどうこうってあほなことばかり言ってただろーがよ!」
「妖怪だってわかってたら、結論は出てたわよ!バカ憐馬なんかと一緒にしないで!」
「バカだと—!?可愛げもない寸胴女がよく言うぜ!」
「寸胴は関係ないでしょ女男!」
「うるせー男女!」
「なによー、やろうっての!?」
「おー、受けてたってやるぜ!」
「はいはい、そこまで。」

雪乃が、ヒートアップして体術戦が始まりそうな喧嘩をやんわりと止めた。

「でも、家鳴りさんはここ50年くらい見てないのよ。」
「…桁が違いますね。」
「まあ、珍しい話でもないけどな。それで、どこに住んでたか、わかりますか?」

うーん、と人差し指を唇の下につけて考えるしぐさを取る。

これが、雪乃の癖らしい。

「たしか、あなたたちの中学校の、木造校舎だったわよ。昔は本校舎だったんだけど。」
「木造校舎って…、あの旧校舎ですか?」
「旧校舎なんてあったっけか?」
「ほら、第一理科室がある校舎の裏手に古い木造校舎があるでしょ?今はもう使われてないし、七不思議のネタにもなってるから守衛さん以外は近寄らないけど。」

憐馬は、確かにあの校舎の裏手に、古い木造建築があったような、と記憶を巡らせた。

「第一理科室って言ったら、今日も事件が起こったあそこよね。」
「そうだな。」
「家鳴りが何か悪さをしているとしたら…。」
「そうか!あの事件は旧校舎に住む家鳴りが起こしたことだったんだ!」

二人でパズルのピースをt投げていくように一つ一つ確認していく。

「これは、ただの事件じゃなさそうだな。」
「家鳴りは、邪気をためやすい妖怪だと聞くわ。純粋故に固まりやすいって…。」
「じゃあ、今から旧校舎に行って、家鳴りがいるかどうか見てみるか?」
「賛成!」

二人は立ち上がると、挨拶もなしに店を飛び出した。

「ほんと、元気ねえあの二人は。」

雪乃はそれを静かに見送った。

Re: 妖師~ayashi~ ( No.31 )
日時: 2015/04/18 23:01
名前: 岩崎りん (ID: 2p/21MM7)

夕方の校舎は、少し影が差していた。

新校舎の北側に、その古びた校舎は存在した。

昔ながらの二階建て校舎は、ツタが壁を覆い、ところどころ窓ガラスが割れている。

立ち入り禁止の札が、入り口の前に立てかけてあった。

憐馬と杏子は、縄で仕切られている旧校舎付近の土地に足を踏み入れた。

「ここね。」
「なんか、薄気味悪い場所だな。」

そのときだった。

ひとりでに、ガラスが割れたのだ。

それは、二人の背後の窓ガラスだった。

「………!」

二人はとっさに身がまえ、憐馬は腕輪に手をかけた。

———ニンゲン…。ニンゲンだァ…

しゃがれたような声が聞こえた。

「この妖気、ただ者じゃないわ……!」

杏子の額に冷や汗がわく。

「…だれだっ!」

憐馬があたりを見回すと、校舎の中に邪気の塊があることに気がついた。

一階の東側の廊下に、何やら黒いものがうごめいている。

それが壁をすり抜けて二人の前に降り立った。

「人間がここに来るのはいつ以来かのう。今までの恨み、はらさせてもらうぞっ!!」

靄が取り払われる。

そこに現れたのは、トカゲのような妖怪だった。

家鳴りの本性だ。

「恨み?何の恨みなんだ!?」
「だまれ、小僧!」

尾が、憐馬の腹を直撃した。

憐馬の体は後方に吹き飛ばされ、地面にたたきつけられる。

「うぐっ!」

不意をつかれて受け身を取り忘れた憐馬は、背中をしたたかに地面にぶつける。

腹を殴られた衝撃も相まって息がつまり、身動きが取れない。

地面にうずくまり、呼吸をしようともがく。

「憐馬っ!」

思わず駆け寄る杏子。しかし、それを家鳴りが阻んだ。

「生意気を言うからだ。お前もあの小僧の仲間か?」
「…そうよ。あたしたちは妖師。妖怪の仲介役に来た者よ。何の恨みがあるの?言ってくれなきゃわかんないわ!」
「だまれっ!お前も人間ならわしの敵じゃっ!」

尾が鞭のようにしなるが、それを何とかよけてみせる。

「あんたはあたしたちに攻撃をしたわ!これであたしたちもあんたをボコボコにすることができるようになるわよっ!これでも、食らいなっ!」

妖気をため、ボールのように打ち出した。

妖しの力の基本技だ。威嚇用に使う。

それが、家鳴りの足の付け根に命中した。

「…やりおったな小娘…。わしはこういう攻撃もできるのだぞ?」

ふわり、と妖気が家鳴りを包んだ。

ガラスが一斉に割れたかと思うと、その切っ先が杏子に向かう。

「念動力を使うこともできるのじゃ。女じゃからと手加減していたが、もうそんな慈悲も捨ててやるわっ!」

雨のようにガラスが杏子に降り注いだ。

何とかよける杏子だったが、足首に、ガラスが刺さった。

「ああっ!」

仰向けにこける杏子。

その服を串刺しにして動けなくする。

家鳴りの尾が鋭くなり、杏子の腹に狙いを定めた。

「わしの目的を邪魔する奴には死んでもらう。」

杏子は死を覚悟して目をつぶった。

その時だった。

家鳴りの動きが止まり、その体には数珠のようなものが巻き付いている。

「てめえ、人のパートナーに何してやがんだよ。」

低い声で、妖気を発しながらゆらりと浮かぶ影。

紅い瞳を揺らめかせて立っていたのは、憐馬だった。

Re: 妖師~ayashi~ ( No.32 )
日時: 2015/04/19 00:34
名前: 岩崎りん (ID: 2p/21MM7)

「おまえ、その妖気は……。」
「強制妖気吸引体勢!」

妖気の波動が風を起こし、旋風となって憐馬と家鳴りを包む。

「う、ぐあっ……、ち、力が……。」
「れ、憐馬…。」

首だけを起こし、その様子を見る杏子。

家鳴りが、徐々に小さくなっていく。

それに伴い、まとっていた邪気も薄れていった。

「…こんなもんか。」

ぽてん、と地面に落ちたのは、子犬ぐらいの大きさのエリマキトカゲのような風貌の妖怪、家鳴りだった。

それを引きずりながら、杏子の下に駆け寄った。

「おい、大丈夫か?」
「あ、うん……。」

服に突き刺さったガラスをのけていく。

足のガラスも抜くと、制服のそでをちぎってきつく巻いた。

「今はこれで勘弁してくれな。」
「あ、ありがと…。」
「さーて、あとは…。」

振り向いた先には、プルプル震える小さな妖怪がいた。




「ご、ごめんなしゃい…。」

先ほどの口調や態度とは打って変わって弱弱しくなっている。

元はおとなしい妖怪だ。

「どうして、あんなことをしてたんだ?」
「それは…。」

家鳴りは、ゆっくりと話し始めた。

自分は、ずいぶん前からここに住み、校舎を揺らしてラップ音を鳴らしては驚かしたりするのを楽しんでいた。

しかし、新校舎になったら丈夫になり校舎をガタガタ揺らすこともできなくなった。

自分は妖力もなく、そうするしか存在価値がなかったのに、それを奪われた悲しみと怒りから悪霊化してしまったのだ。

「ごめんなしゃい、ボク、寂しいなあっていつも思ってたら、こんなことになっちゃって…。」
「あ、いいのよ。妖師にはけがは付き物だし、こんくらいかすり傷よ。」
「そうそう。こいつは普通の女より数百倍強いから、こんくらいでへこたれたりなよなよしないよ。」
「憐馬ぁ!!?」
「なんだよ、事実だろ?」

そのやり取りに、すこし家鳴りの頬の筋肉が緩んだ。

「で、どうしたい?妖界に帰るか?それともここに残る?」
「おいらは…人間界で暮らしたいよ。」
「そうか。でもここじゃ、今の妖力じゃむりだよな。揺らしたりするのは。」
「うん、そうね。」
「…。」

少し考えてから、憐馬はにっこり笑って言った。

「じゃあ、俺のところ来るか?」
「ええっ!?」

家鳴りと杏子は同時に声を上げた。

「このあたりで古い家といったらうちぐらいしかないし、まあ許可取るのとか、いろいろ届出を出してからになるけど、どうだ?」
「…君がいいのなら、いきたい!」
「そっか!」

憐馬はその頭をなで繰り回した。

杏子は、それをそばで眺めていた。

「じゃあひとまず、おいらは帰るよ。」
「大丈夫か?」
「うん。」
「じゃあ、また決まったら呼びに来るからな。」
「ありがと!」

旧校舎に吸い込まれるように、家鳴りは消えていった。

「一件落着…か。」
「だね。」

もう、夕日も沈みかけていた。

杏子は、まだ地面に座り込んでいる。

「あんこ、立てるか?」
「え、あ…。」

足首に手をやった。

実は、かなりずきずき痛んでいた。

破片が刺さったところは、傷は浅いが痛みがあった。

少し力を入れると、痛さで力が抜ける。

「…しょーがねえな…。」

手を握ったかと思うと、あっという間に背中に担ぎ上げられていた。

「きゃっ!ちょっと、いきなり何すんのよ!」
「歩けねえんだろ?家まで運んでやるよ。」
「大丈夫よ!歩けるからおろして!」
「バカ!こんな時に強がってんじゃねえよ!」
「でも!」
「可愛くねえな!痛いなら痛いって素直に言えっ!力が抜けるくらい痛かったんだろ!?」
「な、なんでそれを…。」
「…見てたらわかるよ。何年一緒にいると思ってんだ。」

ぶっきらぼうに言うと、すたすたと歩き始めた。

杏子も、あきらめたのか憐馬に体重を預けた。

預けてから、杏子は不思議な感覚に襲われた。

——こいつ、こんなに肩、広かったっけ?

自分と同じくらいの身長で、華奢に見える憐馬。

かわいい顔で、昔はよく女の子に間違えられたりもした。

いまだに女男といわれるくらい、容姿は女の子のようにかわいらしい。

しかし、時折見せる表情や、今感じた体つきも、しっかり男の子なんだと杏子は思った。

「その、ありがとね…。」
「…なにが。」
「…助けてくれて。」
「ばーか。フォローしあうのが仕事仲間ってもんだろ。それに…。」

すこし、憐馬は口をつぐんだ。

背負われているのと、夕日のせいで顔が見えない。

「大事な、幼馴染だしな、杏子は。」

普段はあんこって呼ぶくせに。

くすっと、杏子は笑みをこぼす。


「…なんだよ、何かおかしい?」
「ううん、なんでもない。たまにはちゃんと呼んでくれるんだなって。」

憐馬は、顔が見えてなくてよかったと思った。

じつは、憐馬の顔はかなり赤く染まっていた。

大事な幼馴染。

それだけの言葉が、なぜか恥ずかしかった。

それに、パートナーと口走った気がする。

「……しまったなあ」
「? なんかいった?」
「いや、なんでもねえよ。」

幼馴染という関係は、近いように見えて意外と遠い。

恋心を抱いても、その関係性が邪魔をしてしまう。

「…重いでしょ?大丈夫?」
「……あーあ、今まで持ったどんなに持つよりも重いなあ。」
「れーんーまー!!?」
「う、嘘だって!ギブギブ!!」

首をしめられ、腕を手のひらでたたく。

振り落としそうになったが、何とかこらえた。

「っあ———、絞殺されるかと思った…。」
「デリカシーのないこと言うからよ、ばか。」

すとん、と、背中にまた体重を預ける。

安定感があって、なんだか落ち着く。

——大事な、幼馴染

まさか憐馬からそんな言葉が聞けるとは思わなかった。

ずっと、こうして一緒にいたい…。

隣り同士で、馬鹿なことを言いあって、喧嘩して…。

そう思いながら、少し鬱意識を手放していった。

「…杏子?」

く—…と、小さな寝息が聞こえてきた。

「ったく。」

担ぎなおして、憐馬は夕暮れ道をゆっくり歩いていった。

Re: 妖師~ayashi~ ( No.33 )
日時: 2015/04/30 21:45
名前: 岩崎りん (ID: mGOQ1xar)

朝日が窓に差し込むと、自然と目が覚める。

習慣だからか、目覚ましがいらない体質なのだ。

杏子はバサッと布団を蹴り飛ばすと、ジャージに着替えた。

まずはランニングを2キロ。そして体術の鍛錬を行った後に仕度をして家を出る。

毎朝7時半には家を出る。憐馬の家の前を通りながらあのバカ幼馴染はまだ夢の中なのだろうか、なんて思ったりもする。

「おはよっ!杏子!」

同じグループの雨宮 奈々子が声を掛けてきた。

杏子のグループの中でも一番仲がいい子だ。

「ああ、おはよう、奈々。」
「ちょっと眠そうね。どうしたの?」
「宿題に手間取っちゃって。今日って多かったじゃない?」
「あああーっ!忘れてた!杏子、写させてえ。」
「ふふっ、相変わらずねえ。いいよ、その代わり一緒にやるだけだからね。」
「ああっ女神さまっ……。」

奈々は少し忘れっぽいところがある。

よく宿題を見せているが、杏子は別段苦にしていないし、おしゃべりができるのでむしろうれしい。

杏子は成績優秀で、ルックスもよく、心優しいところから、同性にも異性にも好かれるのだ。

「昨日のネ●チューンみた?」
「見た見たっ!奈々、あの問題解けた?」
「あたしほとんどわかんなくって。歴史とかもうね、わけわかんない。」
「あははっ。」

歩いていくと、正門が見える。

しかし、そこには中学の正門に似つかわしくない人が立っていた。

赤ジャージの幽霊先生ではなく、そのとなりに、ベージュのブレザーを着たなかなかに顔の整った男の子だ。

「高校生?」
「ねえねえっ!あれ、隣り町の有名な進学校の制服じゃない?」
「ああ、あの佐田高?」

少年が、ふと顔を上げた。

大人っぽい顔をしている。どこぞのアホ憐馬とは大違いだ。

「君、妖村 杏子ちゃん?」
「ええ、そうですけど。」

基本的に、こういうチャラチャラしたのは苦手だ。

スルーしようとしたが、呼び止められる。

「ねえ、杏子っ!あの人、佐田高三大美少年のナンバーワンの宇都宮隆治君じゃないの!?生で見れるなんて〜っ!」

奈々はもう目をハートマークにしている。

「杏子ちゃんは、うちの学校で有名だよ。きれいでかわいいって。」
「それはどうも。では、私は急いでるんで。」
「まあまあ、話を聞いてよ。」

ちょうど、そこに憐馬が通りかかった。

今朝は早くに起きられたので、すこし早めに学校に来たのだ。

「…あいつさ、隣町の高校のやつじゃん?」

隣にいた京介が、疎ましそうに言った。

そのとき、隆治が満面の笑みで杏子をまっすぐ見てこういった。

「今日、放課後時間ある?ちょっと付き合ってくれない?」

「「はあ!?」」

憐馬と杏子は同時に声を上げた。

ナ、ナンパだと—————!?

一番驚愕の表情を見せたのは、何を隠そう憐馬だった。


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