コメディ・ライト小説(新)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

Enjoy Club  =第1章完結=
日時: 2019/09/29 17:38
名前: 友桃 (ID: E616B4Au)
参照: キャラ絵のリンク外れてましたが、今貼り直してます!

あるとき、世界に謎の薬品がばらまかれた。
数年後、不思議な能力を身につけて生まれてきた子供達。彼らは仲間を求めて、ある結社に集結した。
彼らと接触した女子高生・亜弓は、結社内の混乱に次第に巻き込まれていく――

ファンタジー&シリアス要素ありのラブコメです!


クリックありがとうございますm(__)m
はじめまして、友桃(ともも)です^^
初投稿です>< 長編になるのですが、ちょっとずつ更新していきたいと思います。
よろしければ読んでみてください^^


*たまに記事のNo.飛んでいるところがありますが、残りの返信数を増やすために必要ない友桃のコメントを消しただけなので気にしないでください^^


〜お客さま〜
・花見さん ・かれーらいすさん ・十六夜さん ・貴也さん 
・勿忘草さん(亮さん、扉さん) ・咲さん ・gojampさん ・詩音さん 
・セピアさん ・杏樹.さん(真白ちゃん・そふとくりーむさん) ・ハッチしゃnさん ・ARMAさん
・遮犬さん ・ひろあさん ・白桃さん ・ゆかさん
・aguさん ・皐月凪さん ・(朱雀*@).゜.さん ・奈々☆さん
・ 蘭*。*さん ・山口流さん ・トレモロさん ・紅蓮の流星さん
・或さん ・ (V)・∀・(V)さん(十六夜さん) ・もちもちさん ・夜兎さん
・むーみんさん(椎奈さん) ・未来さん ・ゲコゲコさん ・てるてるさん
・こたつとみかんさん ・星ファン★さん ・そらねさん ・希蘭さん
・Eternalさん ・羅希さん ・霧雫 蝶さん ・あらびきペッパーさん
・抹茶.(小豆.)さん ・野宮詩織さん ・、璃瑚. さん ・ののさん
・友美さん ・亜美さん ・蜜姫. さん ・ネズミさん
・月読 愛さん ・紗夢羅さん ・黒揚羽さん ・優香さん
・ぱちもんさん ・Lithicsさん ・苺莢さん

読んでくださってうれしいですv ありがとうございますm(__)m


〜目次〜

※一気に読みたい方 >>0-1015

<第1章>

プロローグ >>0

第1話『謎の闇組織E・C』
(1)>>1 (2)>>2 (3)>>3 (4)>>5 (5)>>6
(6)>>10 (7)>>11 (8)>>13

第2話『金髪のキミにひとめ惚れ』
(1)>>25 (2)>>30 (3)>>40 (4)>>46 (5)>>49
(6)>>50

第3話『我ら、麗牙光陰――』
(1)>>57 (2)>>58 (3)>>64 (4)>>70 (5)>>81
(6)>>86 (7)>>88,>>89 (8)>>98 (9)>>104,>>105 (10)>>108

第4話『あなたのために……』
(1)>>111,>>112 (2)>>120,>>121 (3)>>130 (4)>>136 (5)>>147
(6)>>152 (7)>>157 (8)>>166 (9)>>172 (10)>>180
(11)>>184 (12)>>188

第5話『不確かなもの』
(1)>>212,>>213,>>214 (2)>>256 (3)>>268 (4)>>285 (5)>>291
(6)>>306 (7)>>332,>>333 (8)>>346,>>347 (9)>>357,>>358,>>359 (10)>>370,>>371

第6話『衝撃のとき
(1)>>397 (2)>>413,>>414 (3)>>425 (4)>>447,>>448 (5)>>474,>>475,>>476
(6)>>486,>>487 (7)>>518,>>519,>>520 (8)>>534 (9)>>557 (10)>>568
(11)>>576 (12)>>599 (13)>>627,>>628 (14)>>648 (15)>>696,>>697,>>698
(16)>>708,>>709,>>710

第7話『友を取り巻くモノ1』
(1)>>721 (2)>>726,>>727 (3)>>750,>>751 (4)>>784,>>785 (5)>>798
(6)>>813,>>814 (7)>>870,>>871 (8)>>>889,>>890

第8話『友を取り巻くモノ2』
(1)>>893 (2)>>901,>>902 (3)>>905,>>906 (4)>>910,>>911,>>912,>>913,>>914 (5)>>918,>>919
(6)>>923,>>924 (7)>>926,>>927 (8)>>931,>>932 (9)>>934 (10)>>936

第9話『混乱の夜明け』
(1)>>940,>>941 (2)>>945 (3)>>949 (4)>>955,>>956

エピローグ>>962


〜登場人物紹介〜
登場人物いちらん >>1015
あだ名 >>48


〜企画〜

≪第1回キャラ人気投票≫ 2010.8.27〜
結果>>225

≪第1回シーン人気投票≫ 2010.923〜
結果>>511

≪☆お客様方の小説紹介☆≫
第1弾 返信300突破記念 2010.9.25 >>304
第2弾 参照2000突破記念 2010.10.11 >>460
第3弾 参照3000突破記念 2010.11.18 >>661

≪返信400突破記念*E・Cラジオ*≫ 2010.10.6〜
NO.1 亜弓&恵玲 >>422
NO.2 恵玲&風也 >>495
NO.3 ウィル&白波 >>587
NO.4 亜弓&風也 >>676
NO.5 水希&茜 >>852

≪返信500突破記念 =キャラQ&A=≫ 2010.10.17

≪参照4000突破記念 =キャラ誕生秘話=≫ 2010.12.9
NO.1 >>743 NO.2 >>748

≪ Enjoy Club名言集*。* ≫ by 杏樹.さん 2010.9.25・26・28
杏樹さんがつくってくださいましたーv
ネタばれになるんで本編一通り読んでから、ぜひご覧になってください^^♪
杏樹さん本当にありがとうございました!!!

第1弾>>317 (友桃コメ>>319
第2弾>>338  (友桃コメ>>341)
第3弾>>362 (友桃コメ>>364

≪E・C(1章)紹介文≫ by ARMA3さん 
>>992 2013.1.27

≪Christmas Short Story≫ 2010.12.19
>>773,>>774

≪Happy Birthday≫
5月…… (朱雀*@).゜.さん
11月17日……杏樹.さん >>654
みんなでお祝いしましょ♪


~小説大会~
2010年冬 大賞受賞★
2011年夏 銀賞受賞
みなさま、ありがとうございましたm(__)m

*2011.5.4 第一章完結





=Enjoy Club=



第1章




―プロローグ―



――熱い


 燃えるように、煮えたぎるように身を焦がしていくモノは、先程注入した薬品か、はたまた我自身の高揚か……。体内に何か不可視の力がみなぎってくるのを、今全身で感じている。
 目の前の金属の台に置かれているのは、たいていの科学者が用いているだろう多量の実験器具。その透明なガラスには幾色もの液体が沈み、わずかな振動で波紋を描いている。その隣には、青白い液の残った注射器が無造作に転がっていた。
 興奮に身を震わせる私の隣に、線の細い少年が音もなく歩いてきて足を止めた。

「……」

 台上の液体を見つめる顔は冗談でも健康的とは言えず感情も感じられないが、よく見るとまだ幼いことが分かる。眠っていないのか、黒くくすんだ眼元をごしごしとこすり、彼は黙って私に視線を向けた。

「君のお陰だ。君が手伝ってくれたお陰で、ようやく完成した……!」

 この試みを始めてから8年という時が経過していた。寝る間も食う間も惜しんで、器具と薬品と毎日、毎日にらみ合い、無数に思えるほどの液体を調合し、実験をし、数値を示して再び薬品とのにらめっこ。長い、長い時だった。しかし何の組織にも属さない、2人というごく少数の科学者が8年で実験の成果を出す、ということは、あるいは幸運なことなのかもしれない。たった8年だった、というべきなのだろうか……。
 何にせよ、実験は成功したのだ。私の努力がついに実を結んだのだ!
 現実であることを確かめるように両の拳を力強く握ると、先程まで無言だった少年が、まだ声変わりしない声で囁くように言った。

「ぼく、……少しは“かげはる”様の役に立てた……?」

 彼の至極純な気持ちが伝わってくる。はっきりと頷いてやると、少しはにこりとするかと思ったが、ごく僅かにも表情は動かない。

 ――この子は今何を感じているのだろうか

 長きにわたる研究によって身に宿った、“透視”の能力。あらゆる障害物を無にし、普通視界に入るはずの無いはるか遠くにあるものをも見ることができる能力。しかしこの能力を持ってしても、人の心は、――彼の心は覗けない。


「――天音あまね


 私は少年の目を覗き込んで、そう呼んだ。

「私と同じ、能力者になろう。そしていつかはこの薬を世界中にばらまいて――……」

 試験管の中の色とりどりの薬品。それぞれが異なる性質のものであり、体内に入れたときにどのような能力を発するかは、今の段階では未知である。しかし、だからこそ、私は興奮するのだ。未知のものを追いかけたくなるのだ。

 天音が一番手近にあった、桃色がかった液体を手で示す。私は満足感に笑みを浮かべた。

Re: Enjoy Club ( No.920 )
日時: 2011/03/26 14:27
名前: 。・*+姫香*+・。 ◆Sbf0WbqMfI (ID: BKr6Xf0Q)

こんにちは〜☆”
小説。かいてますよお〜
RE「LOVEストーリー」
という題名です!!
これからも、よろしくねっ

Re: Enjoy Club ( No.921 )
日時: 2011/03/26 17:42
名前: ひろあ ◆FQm5lx6apg (ID: JiYsjDZB)

友姉ぇ、お久ぶりでしぃ〜↑↑
顔出してなくて、ごめんなさぃ…

顔出してなかった分、一気読みしゃした!!!
やっぱり、亜弓かわゆスでしたぁ〜☆♪
巧、カッコイイですねぇ!
「優しい兄貴!」
って感じで^^♪
うち兄弟いなぃんで、すっげぇ憧れました!!!

更新、楽しみにしてますね!
『革命』
どんなことが起こったのか…
風也の妹…

Re: Enjoy Club ( No.922 )
日時: 2011/03/26 23:38
名前: 羅希 ◆JUP8K6dM0U (ID: rLJ4eDXw)



また来ましたぁww

友桃さまは更新早いですねっ!!!!
私なんか最近全くしてないんでとても尊敬します☆
……春休みに入ったし、頑張らなきゃ*

続きとても楽しませてもらいました♪
私も皆さまと同感で夜ゑが喧嘩強いって事実に驚きました!!
続きがまた寄り一層気になります。

友桃さまの小説のキャラはみんな素晴らしいです(*^^)v
私は個人的に恵玲様好きですw
可愛いけどにあーちゃんに強気ってとこがまた良いです。
だ、だけどあーちゃんも同じくらい好きですw
欲張り過ぎますね(^^ゞ

執筆、頑張って下さい!!

Enjoy Club 第8話『友を取り巻くモノ2』(6) ( No.923 )
日時: 2011/03/31 19:36
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: st6mEGje)
参照: 話重くてすみません><

 とある私立の高等学校。昼休み、昼食を取り終えた生徒がグループをなして廊下を行き来する中……
 2年生の教室が並ぶ廊下を、やたらと存在感の濃い2人の女子が堂々とした足取りで歩いていた。――月上有衣と、蓮田夜ゑである。

 有衣は明るい茶髪を前下がりのボブにし、後ろ髪と同じくらいの長さの前髪をやや左寄りの位置で分けている。分け目から左右に流した右側の髪は、放っておくと右目を覆ってしまうので、ゴールドのヘアクリップで留めてある。一方夜ゑは、前に流した胸辺りまである黒髪に強いパーマをかけ、ボリュームのある真っ直ぐな前髪は目の上で綺麗に切りそろえていた。
 2人とも学校であるというのにばっちりメイクを施し、耳にはピアスも付けている。第2ボタンまで開けたワイシャツに、紺のカーディガン。その下には学校指定のものでない、別カラーのカーディガンを裾だけ見せて着ている。有衣はグレー、夜ゑはピンクのものだ。チェック柄のプリーツスカートも入学時から切って短くしており、スカートチェックなんて事があったら即刻注意されるのが目に見えている長さだった。

 2人――特に有衣は、学年の中ではかなりの有名人だ。下橋のメンバーだからではない。そのモデルのようなスタイル、容姿は言うまでもなく、他人に流されない彼女の強さをこの1年ちょっとで周囲の子たちが感じ取ったせいである。自分の気に入った子ならクラスであまりうまくいっていない子とでも仲良くしてしまうような、他の子がやったら嫌な目で見られそうなことを彼女は堂々とやってのけるし、彼女ならやっても陰口をたたかれることはない。そんな彼女と共に行動することが多い夜ゑも、自然と有名になり、1年生の頃から可愛いと評判だった。そしてその見た目に反するちょっとサディスティックな性格が、友達の間では逆にウケていた。夜ゑのそう言う部分をあまり知らずに、近付きやすそうな雰囲気だと思って彼女に声をかける男子も少なくなかった。皆見事にフラれていたが。

 そんな2人は友人を見かけると軽く挨拶を交わしながら、人の多い廊下を縫うように歩き、ここ最近の中心的な話題を熱く語っていた。有衣のあからさまに不快そうな表情から、あまり楽しい話題でないのは見て取れたが。

「あ〜アタシ今日あそこ帰りたくねー!」

 有衣が盛大なため息とともに、胸の中のうっぷんをはきだす。
 “あそこ”とは下橋のことだ。下橋での2人はまだ年齢的に下っ端の位置にいるため、学校の人達には知られていなかった。知られたら面倒なことになるのは目に見えているため、下橋の名前は極力伏せている。しかし名前を伏せている理由はそれだけではなく、彼女ら自身、自分が下橋という場所に通っていることにあまりいい感情を抱いていないせいもあったのだ。

 今の下橋のトップは、22歳の後藤雄麻という、非常に目つきの悪い男だった。不良の骨頂とも言える人物で、例え同じグループ内だとしても、自分の思い通りにいかない奴がいるとすぐに手が出るタイプなのだ。おそらくグループの頂点に立つことで周囲の人達を支配しているということに強い快感を感じているだけで、そのメンバー――特に年下に対しては、これっぽっちも仲間意識だなんて持っていやしない。下っ端や雑用程度にしか考えていないのだ。かと言って彼らを放置するわけでもなく、しばらく顔を出さなかったりすると逃げたと言って怒るのである。それは、いつも彼に侍って愚痴や暴言をまき散らしている取り巻きの大学生達も同様だった。
 下橋には有衣達のように、グループに加わったことを後悔している者が少なからずいる。あまり下橋の実情を考えず衝動的に入ってしまった本人にも責任はあるのだが、入ってしまったものは仕方がない。しかし思い切って抜けようとしても、トップの雄麻が制裁だとかなんだとかくだらないがシャレにならないことを言うため、無傷では抜けられないのだ。一度入ってしまったら、そう簡単には逃げられないのである。その現状の中、抜けたくても我慢して通っている人は、有衣達が知っているだけでもかなり多くいた。

 “下橋に帰りたくない”――その気持ちに深く共感する夜ゑは、あまり自信のなさそうな声で提案してみる。

「今日の夜はどこかで時間つぶす?」

 すると有衣はチラッと横目で彼女を見て、あっさりと首を横に振った。ため息交じりの声で言う。

「いや、アタシこの間ダチん家逃げたから、続けて行かねぇのはまずい。あの時も後藤の奴相当キレてたし」
「……そういえばそうだったね」

 夜ゑが瞳に軽蔑の色を浮かべ、沈んだ声を発する。彼女の軽蔑心は、もちろん雄麻とその取り巻きに対するものだ。
 夜ゑはそこでふと視線を前からそらし、左手の窓を睨むような目で見つめた。自分の歩くペースに合わせて窓枠が流れるように動く。それなのに窓の向こうの風景はそれほど大きくは流れない。窓に自分の顔がうっすらと映る。ギュッと強く引き結ばれた唇。整えられた眉は無意識のうちに寄せられ、彼女にしては珍しく他人を寄せ付けない雰囲気を放っていた。
 一方有衣も、わずかにつった大きな瞳に苛立ちの色を見せる。元々人に命令されたり拘束されたりすることに、人一倍不愉快さを感じるたちなのだ。雄麻達に対しても、自由にさせろと思い切って言いたいところなのだが、言った瞬間雄麻とその取り巻きが束になってかかってくるのは目に見えている。ケンカの強い有衣といえど、さすがに年上の手加減を知らない男達に勝てる自信はなかった。彼女達が女性な上に高校2年というトップからすれば低い年齢だという悪条件が、明らかに足かせになっていた。

 有衣はふと夜ゑの方に目をやって、わずかに眉をひそめた。正面に目を戻していた夜ゑは、口元に手をやって何かを考え込むような様子だったのだ。正直声をかけていいのか悩んだが、有衣はさっと辺りに視線を走らせて、仕方なく肘で彼女の腕を軽くつついた。ゆっくりと目を上げた夜ゑは、今自分が歩いている場所が生徒がたくさん行き来する廊下だと気付いて、すぐに重苦しい空気を消し去った。
 あえて、口元に淡く笑みを浮かべる有衣。夜ゑも苦笑をもらした後、すぐに柔らかい表情に切り替えた。学校でまでこんな憂鬱な雰囲気になっていたら、周りに不審がられる上、彼女ら自身がつらい。

Enjoy Club 第8話『友を取り巻くモノ2』(6) ( No.924 )
日時: 2011/03/28 09:09
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: st6mEGje)


 今朝買った雑誌の話題でも出して気分を切り替えよう、と口を開きかけた有衣の横で、不意に夜ゑが「あっ」とうれしそうな声を上げた。疑問符を浮かべている有衣の横で、夜ゑが「見ぃつけた」と語尾にハートマークのつきそうな台詞を呟く。その一言で、有衣はすぐに状況を悟った。そして同時に、夜ゑ同様楽しそうに口角を上げたのだ。

 すると夜ゑが突然歩く速度を速め、数メートル先にいる“ある人物”に近付いていった。そして教室の前で友達と盛り上がっている“彼”の背後に近付くと、さっとその腕を両手で捕まえたのだ。突然腕を掴まれた彼――三和伸次は、目を丸くして振り返り、夜ゑの姿を見てまた純粋そうな瞳を大きく見開いた。

「えっ、何――」
「一緒に来て」

 にっこりと微笑み、ちょこっと小首をかしげてみせる夜ゑ。巻いた長い黒髪がサラッと横に流れる。
 それを見てテンションが上がっていたのは伸次の友人達だけで、当の本人の顔には笑みと戸惑いがないまぜになったよくわからない表情が浮かんでいた。夜ゑと友人とを交互に見ながら、困ったように弱々しい声で言う。

「オレ今若干大事な話してんだけど、後じゃダ――」

 皆まで言わせなかった。

 夜ゑは強くつかんだ腕を不意に引っ張り、転びそうになる伸次に構うことなくそのまま彼を連れて廊下を走って行ってしまったのだ。その行き先の予想が大方付いている有衣は、苦笑交じりにため息をつき、少し歩くペースを速めながら2人の後を追った。背後で伸次の友人達が、うらやましがるような哀れな声を上げていた。



「何だよ急にー。部活の話してたのによぉ」

 伸次の拗ねたような声が、反響して辺りに響いた。

 彼が連れてこられたのは、屋上前の踊り場。ここは滅多に人が来ないため、3人がこっそり下橋の話をするときによく使っていた。冬に入る直前のこの季節だと、外からのひんやりとした隙間風で小寒いのが難点だったが、今はまだ我慢できる程度である。それとここは不思議と声がよく反響するため、声のトーンを落とす必要もあった。
 屋上の扉の両脇にはなぜか、必要のない手すりが付いている。夜ゑと伸次はそこに浅く腰かけ、有衣が追いつくのを待っていた。伸次が携帯を開いて時間を確認すると、次の授業まであと5分もない。
 先程恨めしげに漏らした自分の声に夜ゑが反応しないので、少し不満に思いながら彼女を見た伸次は、眉をひそめ表情を固くした。彼女は少し伏せた目を前に向けたまま、何かを考え込むように真剣な表情をしていたのだ。

 有衣が追いついたのは、そんなときである。彼女は2人の正面の背中ぐらいまでの高さの壁に体を預け、腕を組んでその場所に落ち着いた。3人は向かい合い、しばらくの間誰も話を切り出さずに沈黙が続いた。しかしこの場合話を始めるべきは事を起こした夜ゑなので、有衣と伸次はただじっと彼女が口を開くのを待っていた。

 やがて校内に響く、5限の授業開始のチャイム。屋上前の踊り場にはスピーカーが設置されていないため、下の階からの音しか聞こえない。するとそのチャイムが鳴った直後、夜ゑが目線を変えないまま身じろぎをした。そしてようやく重たい口を開いたのだ。

「後藤を下橋のトップから引きずり降ろせないかなぁ……」

 瞬間伸次は、思わずその場にずっこけそうになった。

「夜ゑお前何さらっと恐ろしいこと……っ」

 さすがに実際にずっこけはしなかったものの、突然の爆弾発言に焦りの色を隠せない伸次。そんな彼に、夜ゑが真剣な眼差しを向ける。

「だって伸次だって嫌でしょ? 下橋。トップが後藤じゃなくなったら、何か変わるかもよ?」

 そこに冗談を言っている雰囲気など全くなく、それだけに伸次は寒気を感じずにはいられなかった。

 2人の会話を黙って聞きながら、有衣はその案を現実的に冷静な目で見つめていた。本気になって考える価値が、その案にはあると思ったのだ。
 とりあえずわかっているのは、雄麻自身に下橋のトップを降りる気は毛頭ないということだ。となると、夜ゑの言うように周りが引きずり降ろすしかないことになる。そしてトップの座から降ろす方法は確かに存在していたが、有衣達がやるにはなかなかに現実味のないものだった。それは下橋で今までも行われてきたことで、次代トップを望む者がケンカで現トップを倒すことができたらリーダーの座を奪えるという、力づくで非常に分かりやすいものだった。わかりやすいにはわかりやすいのだが……有衣達が実際にやるとなると難しいことでもある。しかも仮に雄麻をリーダーの座から降ろせたとしても、彼がそのままグループ内に残る可能性があるわけで、そう簡単にグループそのものの雰囲気を変えることはできないだろう。雄麻の取り巻き共も厄介である。

 それを夜ゑに告げると、彼女はうなずいて強気な声音を崩さずに言った。

「確かにあたし達だけじゃ無理だけど、もっと味方を集めちゃうっていうのはどうかな。後藤達に反感持ってる子なんていくらでもいるし、あたしが聞いただけでも下橋に行くのが怖いっていう子たくさんいるもん」
「大人数でぶつかって、いっそ反乱にしちゃおうってことか? んー……」

 有衣が顎に手を添えて、ふ……と視線をそらす。そのまま真剣な面持ちで虚空を見つめ、数秒後サラッと何の重みもない声で言った。

「案外いけちゃうかもしれねぇな」
「いけねぇよっ。入ったばっかのガキが集まったところで後藤達に勝てるわけねぇだろ! アイツら皆大学生なんだぜ!?」

 熱く身振りをつけてまで必死で止めようとする伸次に、有衣が相変わらずの調子で言う。

「だから、要はアタシら側にも大学生の味方をつけちゃえばいいわけじゃん?」
「は?」

 伸次が間の抜けた声を上げた。夜ゑも目を瞬き、驚きと期待の入り混じった目で有衣を見る。
 はっきりと顔をしかめた伸次が、疑心まみれの声で言った。

「……いるか? 大学生の中にそんな奴。しかもケンカ強くないと意味ねぇじゃん」
「いるじゃん、条件ぴったりな人が。あんまりちゃんと話したことはねぇけど、アタシらの意見には賛同してくれる気がする」
「ちょっと待て。そんな話したこともねぇ奴信用できるかよ。そもそもオレらの味方についてくれてケンカも強い奴なんているわけ――」

 伸次の台詞が不自然に途切れた。同時に、夜ゑの顔にわずかな光がさす。有衣が得意気な表情で、口元に笑みを浮かべる。

「――あぁ、あの人か……」

 伸次が呆けたように呟き、3人は無言で視線をかわして重々しくうなずいた。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。