ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 時の魔術師(第二章・開始
- 日時: 2010/01/24 20:03
- 名前: 白魔女 (ID: tPOVEwcZ)
ふははははっ、時の魔術師、復活ーっ!(狂
消えたと思ってたのに、復活しているという奇跡。
果たして待ってくれていた人がいたのか、という話だが……まぁ、細かいことはよしとしよう。
ってわけで、「時の魔術師」、またまたヨロシクお願いします。
「呪われた瞳と愉快な魔女達」にも、主人公のソラが登場するんで、よろしければそちらのほうも……(宣伝w
では、どうぞ(。・ω・。)ノ
- Re: 時の魔術師 ( No.30 )
- 日時: 2009/12/31 12:59
- 名前: 白魔女 (ID: iH8DsO3F)
二十二話——悲しげなミサコさん——
「ソラちゃん……」
病室のベッドでで、ミサコさんが力なくニコッと笑った。
「すいません。こういう形になってしまって……」
「ううん。これでよかったのよ。ハッピーエンドだわ。でも、私がここでソラちゃんに食べられ——って言うとおかしいけど、私がいなくなったら、お父さんや病院の人たちも……」
「大丈夫です。処理はすべて私がやります。ミサコさんは、何も心配しなくていいですから」
みんなの記憶を少しいじれば、ミサコさんは普通に病で亡くなったことになるだろう。まあ、すべては魔力が戻ってからの話だ。
「ケント、大丈夫かしら。私がいなくなって、お父さんもいなくなって、あの子、一人で食っていけるかしら」
さすが母親だ。自分のことより子供の事を気にかける。これぞ母親の鑑。
「ミサコさん……もう、心配しなくていいんですよ。きっとケントなら、上手くいく。ミサコさん、死ぬまでそんな心配しないでください。こっちがやりにくいです」
「そう……そうよね。私ったら、またくせで……。もう、すべて終わったのよね……」
ミサコさんが、どこか遠くの場所を見つめるように、目を細めた。見えないはずの、これから自分が行くであろう場所を見ているのだろうか。
「さぁ、ソラちゃん。どこから食べるのかしら。頭からパクッと?それとも足から徐々に?」
「へ、変な想像しないでください。私が食べるのは、魂——心臓です。心臓を体に取り込み、魔力や栄養分にするのです。
その時に、その方の走馬灯が見えます。走馬灯——つまりその人の人生を見て、その人生がつまらなければつまらないほど、つまらない味になります。楽しい人生だったら甘くて、色々悪事を働いてきていたら、辛くなります。そして、悲しい人生なら、しょっぱい味になり、それが私の舌を刺激し、おいしい・まずいになるのです」
「へぇ、面白そうね。私はどんな味なのかしらね」
いかにも楽しそうにいうミサコさんだが、死が怖くない人なんて、いないのだ。
「……で、どうやって心臓を取り出すの?」
やっぱり、魔術で心臓を抜き取るとか——を想像しているミサコさんに、申し訳なさそうに、私は言った。
「直接取り出します」
「あ、あら……直接って……」
「魔女、魔術師と言えども、バンバンほいほいと魔術を使うわけではありません。ましてや、人の体の中に魔術を使うことは無礼に達します。まぁ、支払いの場合だけですけどね。
私と同じような仕事をしている魔術師も、みんな同じ方法を取るでしょう。
法律で、定められていますから」
「そ、そーお?」
まだ心配そうなミサコさん。
「大丈夫ですって。魔術を使ってはいけないのは、取るときだけ。神経は遮断させますし、開く時も、ちゃんと……」
「うん、うん。わかったわ。私はソラちゃんを信じるから」
また、信じるといわれてしまう私。慣れてないんだよなぁ。その言葉。
「では、契約書にサインを」
「あらあら。用心深いのね」
クスクスとミサコさんは笑いながらも、私から受け取った紙に、ペンで名前を書き込む。
「では……いいですね?やりますよ。口は、しゃべれるようにしときますから。最期に何か言う事があったらどうぞご遠慮なく」
「ありがとうね……ソラちゃん」
- Re: 時の魔術師 ( No.31 )
- 日時: 2009/12/31 13:01
- 名前: 白魔女 (ID: iH8DsO3F)
二十三話——魔術師——
その人の命を食らう——つまり、心臓を抜き取る。
それは、私にとって時の魔術の次に、神経を使う作
業だ。
心の臓。心臓は、人にとって一番大切な場所。聖域。
そこに手を差し入れる時——この時が一番、私は魔術師なのだと思う。
こんな行動している私は、やはり人間にはなってはならない存在なのだと——。
- Re: 時の魔術師 ( No.32 )
- 日時: 2009/12/31 13:04
- 名前: 白魔女 (ID: iH8DsO3F)
二十四話——ミサコさんの最後——
まず、私は魔術でこの病室以外の時間をとめた。邪魔が入らないようにするためだ。
ミサコさんの体に、魔力を注ぎ込む。すると、体はまぶしく輝きだした。
「体があたたかい……」
「えぇ……」
人は皆、魔力を禍々しいモノか何かと思っているが、それは違う。神聖で、ミサコさんが言ったようにあたたかいものなのだ。時に、それは冷たく冷徹にもなるが。
そう思いながら、私は流し込んだ魔力で、ミサコさんの体に張り巡らされた神経を切断する。口だけは、動くようにした。最期の言葉を聞くために。
残った魔力を変形させ、刃のようにすると、内側から胸を切り裂く。血が飛び散るが、魔力で抑えた。
そこには、赤く輝く心臓があった。
弱々しく動く心臓は、それでも生きようと必死に鼓動していた。真っ赤な血は、これでもかと言わんばかりに心臓を染めている。
そこに、ゆっくりと手を差し入れた。血が、私の手を真っ赤に染め上げる。
心臓に到達すると、それをゆっくりとなでた。
「私の中に……あたたかい……優しい手が入ってる……」
ミサコさんがまた消え入りそうな声で呟いた。
ミサコさんの体の神経はほとんど切断したし、ミサコさんはこっちのほうを見てはいない。なのにミサコさんは今の状況をズバリと言い当てた。
「えあ!?なんでわかるんですか?」
慌てふためく私に、ミサコさんはまた笑った。
「心でわかるのよ……」
……人ってのはつくづく不思議なものだと思う。
「ソラちゃんの手って、あたたかいのねぇ……。ケン
トがまだ私のおなかの中にいて、私のおなかを蹴っているみたい……」
ミサコさんは、幸せそうに呟いた。逝く時に笑っていられるのは、この上ない幸せだと、誰かが言っていたなぁ、と思う。
私は、またゆっくりとミサコさんの心臓を包み込んだ。そして、軽く持ち上げる。少し重みがあって、これぞ、「命の重み」だ、と思った。ミサコさんの心臓は小さく、あたたかく、小さな小さな子猫みたいだ。たとえるなら、その子猫は怯えておらず、安心してスヤスヤと眠りこけているような。こっちまで、安心してしまうような。
そして私は一気に心臓を取り出し、自分の胸元まで持っていった。ミサコさんが小さくうめくが、まだ生きている。私が魔術で命を繋いでいるのだ。しかしそれもあと少しだ。私がこの心臓を自分の中へ取り込んだが最期、ミサコさんは逝ってしまうだろう。
「ミサコさん……」
ミサコさんはまだ、天井を見上げ、微笑んでいた。
「私は幸せだった。幸せな人生を歩んだわ。ただ、それが短かっただけ。でも、私はそれだけ楽しんだと思うの……ケントにあえて……ケントが高校生になった姿も見れて……そして、ケントは私のためにはるばる時を越えてやってきてくれた……」
それは、自分に言い聞かすように聞こえた。それとも、私にこの言葉を聞かせて、ケントに「私は幸せだった」と言ってもらいたいのだろうか——。
「ソラちゃん」
ハッキリとした声で、ミサコさんは私を呼んだ。
「ケントに……お願いだから幸せになってと言って。幸せに、幸せに……と……」
ミサコさんが力尽きて逝くのを、私は見た。それでもまだ笑っていた。
「わかりました。ケントにしっかり伝えておきます」
そして、私は小さな心臓を、胸に押し当てた。スゥッと、吸い込まれてゆくように、心臓は私の中に消えてゆく。そして、ミサコさんは息絶えた。その瞬間、ミサコさんが私の中に入ってくるような感覚に襲われる。
- Re: 時の魔術師 ( No.33 )
- 日時: 2009/12/31 13:06
- 名前: 白魔女 (ID: iH8DsO3F)
二十五話——ミサコさんの走馬灯——。
誰かが泣いていた。
いや、誰でもない。私自身が泣いている。
今、私はミサコさんの走馬灯の中にいる。
ミサコさんの幼い記憶を見ているのだ。
小さい頃のミサコさん。おさげをしていて可愛らしいが、ミサコさんは泣いていた。目の前には、自分のお父さんが、恐ろしい形相で立っている。
「泣くなと言っているだろうが!」
パン、と、お父さんは平手でミサコさんの幼い顔を打った。また大泣きするミサコさん。
幼い頃の、つらい思い出——。
フワッと画面は変わり、高校生くらいのミサコさんが映った。友達と話して、遊んで、楽しそう。しかし家に帰れば、また——。
ミサコさんに、こんな思い出があったなんて。あの優しいミサコさんに……。
また画面は変わって、大人になったミサコさんが笑っていた。そう、隣にはケントのお父さんが。二人が出会ったときのだろう。とても、幸せそうだ。
そして、ケントが生まれた——。
幼い頃のつらい思い出。それは、子を思う母親の気持ちを強めた。
——この子だけは幸せにする——。
強い決意。
その思いを抱いて、すくすく大きくなるケントを見守るミサコさん。とても幸せそうだった。幸せで、幸せで。
その幸せを奪うのは自分だとも知らずに。
ガン。気づいたときにはもう「幸せ」は音をたてて崩れてしまっていた。自分は入院して、治るかわからない自分に頑張って働いて治療代を出す夫。欲しい物を我慢して、一人で夕食を食べるケント。ミサコさんは、そんな姿を見ていられなかった。つらい思いをしているのに、自分の前だとニコニコする二人も。
自分のせいだと自らを追い詰める日々。
ケントともう長くいられない悔しさ。
そして、現れた一人の魔女。
ミサコさんは、魔女にあってから明るくなった。もう命が短いというのに、また前の幸せそうな顔をしていた。
最期に、高校生の息子にあえたことも、本当に喜んでいた。
走馬灯の最後に、ミサコさんの声がした。
「——私は幸せだった——」
甘い。本当はそれがしょっぱくっても、それを覆い隠してしまう甘さ。
——そう、ミサコさん。あなたは幸せだったのですよ——。
走馬灯を終え、私は現実に引き戻された。
冷たくなったミサコさんの体。命がなくっても、自分は幸せだと、表情が語っている。
そして、ケントも幸せになれと——。
「ミサコさん。その命、大切に貰い受けます。どうぞ安らかな眠りにつくよう」
- Re: 時の魔術師 ( No.34 )
- 日時: 2009/12/31 22:14
- 名前: 白魔女 (ID: iH8DsO3F)
二十六話——魔女の本音——
「ん……」
モゾッと、私は布団の中で寝返りを打った。
気がつけば、もう朝だった。
もう一回寝ようかなー、と思いながら、ふとケントのことを思い出す。
ケントは、病室から出た私を笑顔で迎えた。
「よお……結構早いんだな」
笑顔と言っても、目は泣き腫らしたように赤い。
「まあ……魔術師ですから」
「ははっ、そうだよな……」
笑うケントを見て、私は声を絞り出すようにと言った。
「なんで……なんで笑ってられるの……!」
「え……」
「なんで笑ってられるの!私はケントの大好きなお母さんを、殺したんだよ!!」
ずっとたまっていた罪悪感を、ケントに怒鳴りつけた。
「なんで、なんで……殺したんだよ……私がいなかったら、もう少しお母さんといられたのにっ……!」
私は今まで人を食べる事にこれほど罪悪感を感じたことはなかった。だけど、ケントの気持ちを考えれば、ずっと悲しいはずだ。なのに……。
ケントのほうが、悲しいはずなのに、私はケントの前で泣いていた。
「いっそ……いっそ私のことを責めてくれれば気持ちは楽だったわっ。なんで、私に「ありがとう」なんて言うのさっ。なんで、感謝なんてするのさぁっ!!」
そのまましゃがみこんで、大声で泣く。
ケントのほうが、悲しいはずなのにっ。
なんで私、こんなに悲しいんだろう——っ!!
ケントは私の頭をやさしく撫でる。
「さっき言ったじゃないか。「お前は俺達のためにやるんだ」って」
「だって、だって……。ケントが大好きなお母さんを、私っ……」
「それは、なんでかなんてわからないさ。でも、すべて理屈でどうこうしたら、「人」なんてもの、説明できないだろ?そういうものさ……」
「……」
わからない。ケントが何を言ってるのか、私には理解できない。
それを察したように、ケントは続けた。
「これが……わかるようになったなら、お前から見える世界は、少し変わるだろうな——」
ケントはそのまま、私が泣きやむまでずっと隣にいてくれた。
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