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時の魔術師(第二章・開始
日時: 2010/01/24 20:03
名前: 白魔女 (ID: tPOVEwcZ)

ふははははっ、時の魔術師、復活ーっ!(狂

消えたと思ってたのに、復活しているという奇跡。
果たして待ってくれていた人がいたのか、という話だが……まぁ、細かいことはよしとしよう。


ってわけで、「時の魔術師」、またまたヨロシクお願いします。

「呪われた瞳と愉快な魔女達」にも、主人公のソラが登場するんで、よろしければそちらのほうも……(宣伝w




では、どうぞ(。・ω・。)ノ

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Re: 時の魔術師 ( No.10 )
日時: 2009/12/31 11:50
名前: 白魔女 (ID: iH8DsO3F)

四話——時と時の狭間——


「ん……なんだ?ここ」

 ケントがポツリとそう言い、私は目を開けた。

「“時と時の狭間”だよ。ここから他の時に行くの」

 ケントは物珍しそうに、辺りを見回した。

 それは、まさに「無」の世界。

 地面も、空も、壁もなく、ただ暗闇だけが広がっている。その暗闇をじっと見つめると、それが何色だったのかわからなくなってしまうような、でも、怖いものではないような、とにかく不思議な場所。そんな暗闇に、無造作に質素な扉が数え切れないくらいある。

 ケントが、トコトコと歩くと、私から見てケントが壁に立っている様に見える。

「うわ、どうなってんだよこれ」

「どうなってるって、そうなってるの。ここは特別な人しかここには来れなくってね。私も最初ここに来た時、はしゃぎまわって走ったら、酔いそうになった……っておい」

 すでにケントは遠いところでしゃがみこんで気持ち悪そうに手で口を押さえていた。

「で、でも……この大量の扉の、どれが、2001年につながってるんだ?」

 駆け寄りながら、私は答えた。

「そりゃあ、私、魔術師だもん。魔力でわかるのさ……」

 かっこつけて答えたものの、ケントは「オエッ」と言って、全然聞いてなかった。

「でも、ここから時間を越えるんなら、お前ここに来る前に「間違えたら他の時間に行っちゃう」って言ってたじゃん」

「はぁぁぁ〜?何言ってんの!?」

 コイツはとことんいじめてやろう、と心に決めた私は、いかにもむかつきそうな言葉で言った。

「ここは“時と時の狭間”だよ?あんたがいつもいるところとは全違くて、「別の世界」ってわけでもない、“時と時の狭間”。他の時とはまた違う時が流れていて、それは特殊で特別なの」

「俺、理科のテストの平均点数38点なんだ」

「私は94点よ」

 ……。しばらく沈黙が続く。

「つまり、特別って事は危ないのよ。あんたのところの時が安全なら、ここは危険の中の危険。それで……」

「あぁ、もう、わかったからいいよ。お前、俺の担任の先生に似てる。あ、ちなみにおばさんね」

「突き落とすよ?時間から」

 ケントが黙る。馬鹿でもこれがどういう意味なのか、わかるらしい。

「で、早くその扉に連れてけよ」

「わかったよ。ちょっと黙ってね」

 目を閉じて、そしてまた、意識を集中して魔力を集める。するとパッと頭に、目で見えているものが現れる。ただ、魔力で見ているから目に見えているものをは何か違うのだ。時間の見える目。で、“時の瞳”と呼ばれる。え?“時の目”でいいじゃないかって?だって、瞳の方がカッコいいじゃないの。

 時の瞳で、自分の行きたい時を念じると、その扉が青く光る。あった、あの扉だ。

 この時の瞳は、他のことにも使えるが、またそれは別の機会で。

 私は目を開けて、言った。

「あれだ、行こう」

「お、お、おう」

 扉に走って駆け寄る。で、また気持ち悪くなった。何度来ても、慣れないなぁ。

 そして、白い扉の前に立った。

「行くよ。ちゃんと構えててね」

「これも危険なのか?」

「時を戻ることをしている時点で、危険なのよ」

「……」

 ケントが何も言わなくなって、私はドアノブに手をかけ、思い切って開く。わぁっと、明るい光が漏れ、目を開けられなくなる。その光の中に、足を一歩踏み入れると、また、自分の体がなくなってしまったような感覚になる。

 そして、そして————。

Re: 時の魔術師 ( No.11 )
日時: 2009/12/31 11:54
名前: 白魔女 (ID: iH8DsO3F)

五話——小さな高校生——

「ん……なんだ?」

「ケント君。授業中に居眠りしちゃダメよ」

「へ……?」

 隣の女の子を見て、ケントはビックリする。

「お、お、お前誰だ!!」

 授業中にいきなりケントが大声を出すものだから、クラスの人が一斉にケントの方を向く。言われた女の子は目をパチクリさせて、

「香川ユウコよ。寝ぼけちゃったの?」

 と言った。

 あきれた私は後ろ耳元でささやく。

「後で説明する。今は授業を続けて」

 ビクッとケントは後ろを振り返り、私をマジマジと見た。

「藤岡君、どうしたの?」

 思いっきり子ども扱いでしゃべる女の先生に、ケントはビビりながらも、

「なんでもありません」

 と言った。



「どう言うことなんだよ!ちゃんと説明しろ!」

「はいはい、わかったから、落ち着いてよ」

 ケントに学校の屋上に連れて行かされ、怒鳴られるものの、自分よりも四歳年下(私は魔女だから、正式には何百歳も年下なのだが)の男の子に怒られても、何にも怖くなかった。

「なんで俺の体が小さくなってんだよ!」

「小さくなったわけじゃないんだって。話聞いてよ」

 ムッスーとするケントもなかなか可愛い、この方がいいのに、なんて思いながら、私は話し始めた。

「あのね、ケントが小さくなったんじゃなくって、ケントが小さかったときに戻っただけなの」

「……?」

「だから、ケントが戻りたかった時代は、この時間でしょ」

「そうだけど、なんで俺がその頃の体になってるのかって聞いてるのーっ!」

 性格はまんまか……。少しガッカリした。

「同じ時に、同じ人が二人いることは出来ないのよ。魔術を使えば出来るだろうけど、今は時を戻っただけだから、魂がこの時代の体に宿ったの。意識だけは、今から八年後のあなたって事。だから、私は魂だけで、他の人には見えないし聞こえないし、触れない。まぁ、依頼人のあなたには、できるけどね」

「ん……なんとなくわかった」

「この体のほうが、動き回りやすいし、とにかく今は小学三年生を演じて!」

「え〜……」

 さっき受けた授業が、よほどつまらなかったのだろうか、嫌そうな顔をした。

「お母さんに、会えないよ?」

 イヤミっぽく、ケントに言う。

「……やっぱ俺、魔女とはあわないな」

「あわなくて結構。さっ、ぼうやは早くお勉強しましょ〜ねぇ〜」

「なっ、ぼうやって言うなぁ!」

 そしてケントの手を引いて、また教室に戻させる。

 だけど、私は他のことを考えていた。

 ——魔女は、やっぱり嫌われるんだな。

 ——じゃあ、サキ達も——?

 ううん、今は仕事中。早く忘れろ私。

 とは思うものの、やっぱり気にかかるのであった。

Re: 時の魔術師 ( No.12 )
日時: 2009/12/31 11:56
名前: 白魔女 (ID: iH8DsO3F)

六話——ケントの悲しい過去——


「……でさ?」

「なに」

 ぶっきらぼうに言うケント。可愛げないなぁ、とつくづく思う。

 今は学校から下校中。あのあと、少しばかりクラスメートから「今日のケントおかしいよ」なんて言われていたが、なんとか授業を受けてもらい(途中で逃げ出しそうだったが)、今こうしてここにいる。

「ケントの依頼の詳しい話、ぜんっぜん聞いてないんだけど」

「あ、あのさ」

 見事に話をそらすケント。そしていきなり私に向き直る。ポケットをゴソゴソやって、なにかくれるのだろうかと思っていたら、いきなりそれを突き出した。

「……なに?」

 ケントが出したのは、ボロボロの十字架だった。

「あれ、やっぱきかないか。ドラキュラみたいに苦手だったりしてー、と思って」

「失礼ね。私を邪悪なもの扱いして」

「そうじゃないの?」

「……。で、なんで十字架持ってるの」

「え、あ、これはこの前亡くなった父ちゃんの形見。服は変わってるけど、ポケットの中身が変わってなくてよかったよ。じゃあ行こうか」

 ケントはまたそそくさとポケットに十字架を入れた。そしてそのまま行こうとする。

「上手く話をそらしたって思ってるでしょ……話戻すけど、言いたくない理由でも、あるの?」

「……いや……特にないけど」

 ぶつぶつと、下を向きながら言う。

「言ったら、馬鹿にされるかな、って」

「言ってもらわないと、支払い出来ないんだって」

 ケントはしばらく黙りこくった。地面をじっと見ている。

「俺は母ちゃんの事が大好きだった」

 話は唐突に始まった。

「俺は男だから、そんな甘えたりは恥ずかしくって出来なかったけど、とにかくいつも笑ってる母ちゃんが好きだった。大人になったら母ちゃん守るんだ、って思ってた。

 この時まではな——。

 母ちゃんは、病気になった。ガンだ。発見したときにはもう遅く、手遅れだった。入院したけど、死ぬ事は目に見えていた。この時の幼い俺でも、わかってたんだ。

 何もしてやれないまま、母ちゃんは弱っていき、俺はただそんな母ちゃんを見守る事しか出来ない。そんな時だ。母ちゃんが形見をくれたのは。

 母ちゃんは、笑ってた。それを渡すときも、逝く時も」

 ケントは泣いていた。小さな体を震わせ、音も立てずに。

 涙こそ見てはいないが、私にはわかる、深い悲しみ。

「——で、その形見は——」

「ないんだよ」

 私の言葉を、ケントはすぐに遮った。

「ちゃんともらった記憶はある。それを大切にしていた覚えもあるんだ。だけど——いつの間にか、その物も、頭の中からなくなってたんだ。思い出したのは、父ちゃんが死ぬ間際につぶやいた言葉。「お前はいつになったら気づくのだろうか」って。すぐにハッとしたよ。これくらいで思い出せるのなら、なんでなくしたんだろうな」

 それでケントは言葉を切った。

 それっきり、黙って、何も言わなくなった。

Re: 時の魔術師 ( No.13 )
日時: 2009/12/31 11:59
名前: 白魔女 (ID: iH8DsO3F)

七話——ケントの家——

 ごく普通の家が、ケントの家だった。普通すぎてコメントできない。とにかく普通。

「ただいまぁ」

 かったるそうにケントが言うと、家の奥から元気な声がした。

「ケントかい?おかえり〜!」

 その声に一瞬驚くケント。この前亡くなった人がいるんだ、信じられないのも無理はない。

「と、父ちゃん」

 家の奥の台所で、ケントの父親は夕飯を作っていた。

「母ちゃんは……」

「え?なにを言ってるんだ。母ちゃんは入院中だろ」

 笑いながら言っているが、その言葉はぎこちない。

「あぁ、そうだったね」

「変なこと言ってないで、手を洗ってくなさい」

「はぁい」


 
 その後、ケントはもう二度と会えないであろう父親と、楽しい夕飯を食べた。今までずっとケントのそばにいたが、さすがに疲れ、ケントの部屋でゴロゴロしていた。

 私はどんな姿をしていても、魔女だ。魔術師だ。人間ではない。人間のような感情はない。死んだ親に会いたいとか、そんな考え、私はさっぱりわからない。死んだらそれまでじゃないの?

 ましてや、ケントの考えもわからない。お母さんの形見を探すために過去に戻って、多大な代償を払ってまでそこまで彼を動かすものは一体何?

 大切な人って何だろう。ケントはお母さんの事が好きだといっていた。私に親はいない。友達……サキ達はどうだろう。サキとモエは、私の大切な友達だ。でも、サキ達はどう私を思っているのだろう。私が魔女だと知ったら——?私が、人を食うと言ったら——。

 そこまで考えて私は、クスッと笑った。

 私も、どちらかと言ったら人間よりなのかな。

Re: 時の魔術師 ( No.14 )
日時: 2009/12/31 12:01
名前: 白魔女 (ID: iH8DsO3F)

八話——魔女の儚い思い——


「お前って……魔女なんだよな」

 ケントが独り言のようにつぶやいた。

 今は夜だ。さっき11時を回ったところ。ケントはベッドに入り、私は窓から見える満月を眺めていた。

「魔女だけど……それがどうしたの」

「いや、こうして過去に連れてってもらっても、まだなんか夢の中にいるみたいなんだ。これって現実なのかって。馬鹿みたいだよな」

「そうかな……」

「え?」

 布団の中でケントがもぞっと動いた。

「もしかしたら、これは夢で、私はケントが作った魔女なのかもしれないよ」

「まさかぁ」

「もしかしたら、これは私の夢なのかもね……」

「おいおい。俺は俺だ。人間だ。生きている」

「そう思い込んでるだけとか。それで、私は本当は普通の女の子。平凡な女の子。この夢から覚めて朝起きたら、お母さんがいるんだよ……」

 思わず顔がほころぶ。楽しげに言う私の顔を、ケントはじっと見た。

「お前、まさか、本当は——」

「ケントぉぉ?まだ起きてるのか?」

 ドア越しにお父さんの声がした。

「あぁ、なんでもないよ」

 私は相変わらず月を見ていた。

 まるい月。明るい月。これは、私が作った月?ケントが作った月?それとも、月が私達を作ったのかしら。

「——とにかく、カレンダーだと明後日に母ちゃんは逝っちゃうから、明日病院に行って、形見のことを聞く。それで、終わりだ」

「うん、わかった」

 ケントが寝返りをうち、それから安らかな寝息をたてた。

 月明かりが、ケントの幼い寝顔を照らした。


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