ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 聖歌が響く時
- 日時: 2010/10/10 17:40
- 名前: 月華 (ID: SOGiHJ/a)
初。魔法物です。
末永くかければ嬉しいです。
以上!
とにかく久しぶりなんで、更新とりま頑張って期待と思います。
記録
2010.10.10 参照が100に
始まりの歌
私はなんでここに存在するのでしょうか?
少女は問いました。
だれも答えてくれるはずありませんでした。
なぜなら誰もが少女の問いへの答えを知っていたからです。
私はどうすればいいのでしょうか?
少女は問いました。
誰も答えるわけありませんでした。
答えることと死ぬことは同義だからです。
何故私はこんな力を持っているのでしょうか?
少女は問いました。
誰もが優しく笑いかけました。
なぜなら——。
雪の中に血が、まるでグレーテルが落としたパンくずのように点々とついていました。
一人少女はその雪の中、ずっと遠いどこかを見つめておりました。
- Re: 聖歌が響く時 ( No.22 )
- 日時: 2010/10/08 18:59
- 名前: 月華 (ID: SOGiHJ/a)
(シーン続いてます)
私はそう呟きながらパタンと静かにドアを閉める。
よく犬は飼い主になついて、猫は家になつくって言う。だけど、それってきっと二つのうちどちらかに限定できるような、そういうものではないんだと思う。私はこの家でもう暮らせないということが、そして家族と一緒に暮らしていける川からないって言うことが、どこまでも悲しくて、それは友達とかじゃ決して埋められないんだなって思って。
正直あんまり気に入ってなかった地味なたんすやベッドも今はとても懐かしくて……泣きたいけど涙はお母様たちが生きているかを確認するまでためとかなきゃね。
「本当に大丈夫か? チュナ」
「うん。ほら、荷物もちゃんとまとめたわ。ただ、未練は残ってるけどね……」
「うん」
私の無理に明るくしたような言葉を、ただ静かにテヨンは聴いてくれた。一つ頷いた。元気出せよとかそういう言葉よりも何倍も心にしみる……。
励まされることよりもただ聞いてくれていることの方が、その人の心にやすらぎを与えることもある。へこんだ時励まされるよりも怒られた方がいいこともある。それはその人それぞれで一概には言えないの。
だから、きっと心にしみたんだわ。まるで私の心を読んだように言ってくれた一言は。
でも、まだ泣かない。
「さっ、行きましょう? 一階はまだ見ていないから」
「そうだな」
私はさっさと階段を下りて行く。さっき其処が抜けたところにもう一度はまったらどうしようなんて考えながらね。テヨンもちょっと後から追ってくる。いつの日かの鬼ごっこのようでちょっと楽しい。あ、でもあの時は私のほうが鬼だったわね。
階段を下りるといきなり焼け焦げた玄関があった。否、焼き崩れたといった方が正しいのかしら? そうね、扉はもうないんだもの。
「まてよチュナ。早い!」
「テヨンが遅いだけよ。ほら、私はもう一階についている。テヨン、早くしましょうよ」
「だったら階段をふさぐような位置に立たないでほしいんだけど」
「あら? ごめんなさい」
「わざとだろ!」
わざとです。心の中で答える。だけど、口に出したりはしない。
テヨンはトタトタと私より少し大きな足音をたてて降りてくる。するとちょうど私の左隣の位置にやってきた。
「さ……」
さぁ早くとさっきみたいに言葉を言うことができない。なんで? 何でなの?
自分でもよく分かるくらいに心臓の音や脈の音が増えて行くような気がする。手だって足だって体全体が震えているみたい。
怖いから? 怖い? 何が怖いって言うの?
真実を知ることが怖いの? 死んでいるって認めるのが怖いの? あなたは何が怖いの?
質問だらけ、自分のことは全くわからない。疑問だらけ、正解なんて全然知らない。
「大丈夫か?」
「テヨン、大丈夫って言葉しか知らないの?」
何時もは簡単に言えるようなことを言うのにも震える。だから声は自然とか細く途切れ途切れのようになってしまったわ。あぁ、大丈夫そうにはきっと聞こえないわよね。
なんて思いながらテヨンの顔を見てみると優しく微笑んでいた。
「俺さ妹が二人いるんだけど、そいつら俺が怖い話をすると何時も今のチュナみたいな顔してた。細かな震えが止らなくて、顔は真っ青で。血の気なんてかけらも無い。そして、2人とも口々に言うんだ。怖いよ怖いよ、やめてやめてって」
「同じだって言いたいの?」
「ああ」
「そうかもしれないわ」
妹、2人もいたのね。初めて知った。そんな微かなことでも現実逃避ができるなら……なんて思ってしまう。駄目よ、現実から逃避して私は一体どうするの。
幸いに元気なら少しは取り戻したみたいよ。なら、いける。確認しに。
「テヨン……」
「ああ、行こう。だけど、本当にいいのか?」
「うん。真実は自分の目で確かめなければいけないの」
テヨンはほっと心をなでおろしたような顔をしてから、そうだなっと一つ静かに答えてくれた。
◆ ◆ ◆
「あそこにいるboy(少年)もgirl(少女)も特に不思議な感じはしないなぁ……。あ、でもboyの方は白虎姉ちゃんに雰囲気にてんなぁ」
赤い長髪を後ろで束ねた、冬なのに半そでTシャツ男は草の陰で双眼鏡をかまえて熱心にチュナとテヨンの様子を観察していた。否、熱心というのには語弊がある。何故ならその男はスナック菓子を食べながらその様子を見ているからだ。
「children(子どもたち)がhe(彼)の分身を負かした……ね。っとおっと、childrenじゃなくてこのboyがだっけ? まぁどちらでもいい。とにかく俺はなんか強そうな相手と戦えれば充分だ。っていうか、なんかbrothers(兄貴たち)に回す前に倒したいようなあいてだな……」
彼は独り言を続ける。顔全体は笑っているのに目はとても鋭くして。
「それにしてもあのboyは可哀想だね。ずっとgirlを思っているのにgirlは全く気づいてないよ。いいboyなのになぁ。もったいない。まぁいいさ。白虎もそんな奴だし。あー、俺ずっと思ってんのになぁ。なんで気づいてくれないんだろー」
と喋ると刹那ウェストポーチから写真を取り出す。白髪の綺麗なお姉さんの写った写真だ。
そして、
「あぁー、白虎ぁー。なんでお前は俺の思い気づいてくれないんだー」
と赤髪の少年は小さな声で叫びながら寝転がり激しく暴れまわった。けれど、やがて疲れたのか落ち着き視線を焼けた家のほうに飛ばしていった。
「children、お前らが幸せになったら俺は許さないよ……」
- Re: 聖歌が響く時 ( No.23 )
- 日時: 2010/10/08 19:37
- 名前: 月華 (ID: SOGiHJ/a)
◆ ◆ ◆
「ありえないよ……」
さすがにテヨンもなんの相槌も打たない。否、打てないみたい。私とテヨンはリビングの様相をただ静かに見つめていることしかできない。
リビングは一部燃えてしまった場所や焦げてしまった場所がやっぱりあったから、少し夕日が赤紫にさしていて、だからこそそのお母様とトゥーサの様子はより異常に見えたのかもしれない。けれど、そんな冷静なことをその瞬間私は考えられるわけも無かった。
部屋の真ん中に転がっている二人の人間。お母様は足とが焼けていて、トゥーサは頭が半分ほどと手が焼けてしまっていた。服もある程度焼けているみたい。でも……。
「なんでだよ……」
ようやくテヨンも口を開いた。驚きがまだ隠せていないみたいだけれど。
確かに二人は息をしている。
手が焼けて、頭が焼けて、足が焼けて、服も焼けて。その時灰などをすったかのように二人の周りには灰が降り、有毒だといわれる種類の空気も吸ってしまっただろうに、二人は確かいい気をしていた。意識はなさそうだけど、胸は上下し続けている。
「生きているっていうか?」
「生きているの」
お母様は生きていたわ。トゥーサも生きていたわ。私は二人に駆け寄り、それぞれに抱きつく。服に煤がつくけれども気にすることは無い。だって二人からは生きている者の温かさやぬくもりを感じられたから。もう、それで充分私は幸せで……。
「お母様、トゥーサ。私は帰ってきたのよ」
幸せなのに、私はとても幸せなのに。お母様も弟も生きていて私は幸せなのに、涙が止らない。目からあったかな涙は零れ落ち、二人の体に川を作る。それが、二人から血が流れ出し死んで行くのをあらわしているような、そんな気がしてならなくて、それがたまらなく苦しいの。
二人はまだ死んでいなかったというのに、素直に喜ぶことができないわ。なんでなの? なんで?
私は二人の体をさすって温める。寒かったでしょう? 夜暖房もつけられずぬれたままに寝かされて。私も中々に帰ってこないし。寂しかったでしょう? 寒かったでしょう? でも、もう大丈夫なのよ。私は帰ってきたわ。今ここにいるわ。だから、大丈夫よ。お母様もトゥーサも、そして私もずっと一緒に幸せに暮らせるわ。
足が無い? 大丈夫、車椅子を貰いましょう。
手が無い? 大丈夫、義手をつけましょう。
頭が無い? 大丈夫、私は一生寝たままのあなたも好きよ。
あら、昨日の夜から二人は何も食べてないのね? ご飯にしましょう。今から私が用意するわ。
私はゆっくりと腰を上げようとするけど、足に力が全く入らなくてだるまのように転げる。あら、なんで立てないのでしょうか? そうだわ、私だって昼から何にも食べていないもの。力がでなくてもしょうがないわ。それならもっと早く夜ご飯を作りましょう。
あら、お母様もトゥーサも寝たままでいいのよ。私がすべてやってあげるか……。
「駄目だ!!」
その時、テヨンが私の手をはたいた。一体何がしたいの? どうしうて私を止めようとするの!
「テヨンなんで!?」
「離せ! ガスライターを」
「あ……」
手から綺麗な小瓶の形をしたガスライターが転げ落ちる。いつかお母様が使っているのを見かけた香水のような形。いつの間にこんなものを……。
私はまだ息をしている二人とテヨンをかわるがわるに見つめてみるが、空気は固まったまま動かない。
「なんで、私は」
「チュナはわかってるんだろ?」
「何を!」
つい立ち上がって怒鳴り返してしまった。だけど、テヨンはそんなの気にしていないとでも言うように笑って見せる。少しいらいらするけど、その気持ちをゆっくりと抑える。すると、テヨンは答えてくれた。
「この二人はもう死んでいるから」
「なんで! 二人は息をしているのよ! 二人は温かくて人間のぬくもりがあるのよ! 二人は心臓がまだ動いているのよ! 二人は、二人は、二人は!!」
「そんなのは本当に生きてるって言わねぇよ」
いつかのように、彼はそう言った。
お父様は生きていないといったときそう言ったように。私もこの前のように言い返す。
「テヨン、ふざけないでちょうだい!」
「お前はこいつらを生きているって本心からいえるのか? 二人とも確かに息をしているし、心臓も動いているし温かい。だけどな、この二人は何かを今考えることができるか? それはこれからはできるようになれることなのか? 何かを今喋れるか? それはこれからはできるようになれることなのか? 何かを今思えるか? 何かを今できるか? 何かを、何かを、何かを!!
俺は前政府の奴は生きてないって言った。それはえばってばっかりで、何かを考えたりするのは何時もホンの一握りの人しかいないからだよ!
考えることをそいつらは人に託して生きている、そんなのは生きているっていえるか!?」
「なによ、なによ、なによ! お母様たちはいつか元のように笑えるわ。私はそう信じる」
「信じることと現実は違うんだ!」
テヨンは叫んだ。今までの言葉が非で無いような強さで。その瞬間、はっとする。
テヨンがあまりにも悲しそうな顔をしていることを。
やるせないような、どうしてもできないということがとても悔しそうな、そういう風に顔がゆがんでいた。決して怒ってはいなかった。ただただ泣きたそうだった。やり切れなさそうだった。
まるで小瓶に映った私のように。
「そっかぁ、私。死のうとしていたのね……」
気づいてたんだ、本当は。二人と一緒にもう二度と幸せに生きれないことにも、二人と喋ることがもう二度とできないことにも。全部気づいてたから、みんなで死んで幸せになろうなんて馬鹿なことを考えてしまったんだわ。死んだ後に本当に幸せになれるか保証はなく、むしろ無が広がり無を知覚できる私でさえ無になるような。そんなふうかも知れないんだわ。
でも、それ以上に私は未来を生きないといけないのに今にとらわれそうになっていた、そのことが嫌だった。そんな事を望んでしまったことさえ嫌だった。また、望んだ自分が嫌だった。みんな嫌だった。
「落ち着いたか?」
「うん」
私はゆっくりと答える。お母様もトゥーサも安らかに眠っている。だけど、本当は死ぬべきだった人だから、その分無理をしているはずなの。そんな状況で幸せなんて語れない。
終らせなければならない。
「一つ歌うね」
テヨンは静かに頷く。私も息をゆっくりとすって……。
「なんで!」
歌おうと思ったら声が出ないわ!!
- Re: 聖歌が響く時 ( No.24 )
- 日時: 2010/10/09 20:43
- 名前: 月華 (ID: SOGiHJ/a)
「え、どうしたんだよ!?」
「声が出ないの!」
「声、出てるじゃん」
「歌うときだけでなくなるのよ」
うそ、本当、なんでよ? なんでなのよ? どうして声が出ないの? 喋ることはできるのに、なんで歌えないの? まるでそれじゃあ私が歌うことを拒絶しているみたいじゃない。歌うことを精神的に拒絶しているから声が出ないみたいじゃない。いえ、魔族が何かを仕掛けて……まさかね? 私の生活に魔族は全くのイレギュラーで、そんな人たちは何時も関わってないわ。
ありえない、声が出ないのはあくまで私の心の中の原因なのよ。きっとそうなの。
「ま、歌うことだけがさ死を悼むことになるわけでもないし」
「まだ、死んでないの。二人は。まだ終りきってない中途半端な状態なの。だからせめて私が安らかに二人が眠れるように祈ろうと思って」
「じゃぁ言葉で祈れよ」
「言葉? 私は特別な言葉は知らない。私は歌うことでしか祈れないわ」
そうよ、祈るといってもね。私は賛美歌を歌えても聖書は読めない、そんなような人間よ。いえ、賛美かも歌えないわね。私はお母様から教わった歌を歌うことでしか誰かを悼み祈ることはできないわ。
言葉は苦手。言葉って簡単に使い方を誤るし、意味も伝わりすぎてしまうわ。いえ、取り違えてしまうこともあるわね。気をつけてないと気がついたら相手との間に大きな溝が生まれていた、なんてことだって起こりうる。リスクが高いのにリターンが少ないのよ。
その点、歌はいいわ。なんとなく心を和ませたり、思いをある程度ストレートに伝えることができる。
「私は言葉を喋れないわぁ、とでもいいたいのか?」
「違う、そういうわけじゃないの。ただ苦手って言うか……」
テヨンは私は言葉をしゃべれないわぁというところだけ、変に声を高くして気持ち悪かったが、でもすぐに気を取り直して答える。
言葉を使えないってわけではないわ、ただ少し苦手って話。
「じゃぁ、俺の後について祈れよ」
「え、祈ったりできるの?」
「まぁな」
テヨンは頭をかきながらちょっと得意そうに答える。その様子が少しほほえましいが足元の二人を見て気を引き締める。
やがて、テヨンは口を開いた。
「全能なる神よ、我らを今日まで生かしてくださりありがとうございます。
死んでしまった彼女の母と弟にもあなたの祝福がありますように。
また、これからの世を我らがよく生きることができますようにお導きください。
この祈り、天におられる神に届くことを願わん」
その言葉はあまりにも不思議な響きを持っていて、テヨンと私の声が重なると、またもっと不思議な響きを持っているようなっきがしてくる。私が思っていたよりテヨンのする祈りは意味がわかりやすくて、すんなりと心にとおって行くような気がした。
ちょっとテヨンの様子を見ようと目を逸らしてみると、目を閉じて真剣に祈っているみたい。その顔はあまりにも優しげで、何時もの雰囲気とはまるで違っているわね。それが少しおかしいような気がするわ。
でも、ちょっと黙祷すると彼はパチっと目を開けて笑ってみせる。
「な、簡単だろ?」
「そうだね。今なら歌える気がするわ」
『I like you. I loved.
However, you and I should separate.
I fight against the fate.
However, I knew. The fate is inevitable.
Therefore, I will pray.
So that you may become happy.』
あの時お母様は語ってくれたわ。誰かとの別れの時に歌いなさいと。結局その最初の相手はお母様になってしまったけど。聞いている? 私の声を。
——聞こえていないといいな。
だってお母様はすぐわかるでしょ? 私が幸せで歌っているって無いことを。私はお母様とトゥーサに対し祈るためだけに歌っていて、それ以上も以下も無いから。今はね。
怖いの。私が歌うことで何かとんでもないことを引き起こしてしまいそうな気がして。いいえ、もうそのとんでもないことは始まっているような気がしてならなくて。
歌は狂気になるわ。
唄は凶器になるわ。
唱は狂喜になるわ。
詩は兇器になるわ。
歌は驚喜になるわ。
ウタはキョウキになるわ。
うたはきょうきになるわ。
お母様はいつかそう言った。どういう意味で言ったのかしら?
——その時、お母様とトゥーサは完全な意味で死にました。
- Re: 聖歌が響く時 ( No.25 )
- 日時: 2010/10/10 18:18
- 名前: 月華 (ID: SOGiHJ/a)
(前話の祈りはキリスト教の祈りを参照しております)
◆ ◆ ◆
「ふーん、girl(少女)の方の親死んだんだ。へー、だからって感じだけどね。ってか、girlの方の歌声本当にきれいだなぁ。これから殺さなきゃいけないって思うと心が痛むくらい」
双眼鏡を手にした赤い髪を後ろで一つにくくっている男は、相変わらず草の陰に隠れて二人を観察していた。時折いやみったらしく笑ったり独り言を言いながらも。
男は嫌いであった。ああいう風に幸せそうに生きている奴が。ああいう風に自分がどこまでも幸せだということに気づかずに醜く生きているような奴が。だいっ嫌いであった。
「だからこそ、腕が鳴る。平和ってすぐ終っちゃうって普通の奴に知らしめるの大好きだから」
クスリと男はさっきまでとはまた違ったように笑う。静かに、冷静に。だけど、目だけはまるで炎のように真っ赤に燃えている。
「さて、楽しい炎の燃え滾る時間だよ」
◆ ◆ ◆
お母様もトゥーサも死んでしまったの。もう、この世で幸せに暮らすことなんてできないんだわ。そう、私が私の歌によって終らせてしまったの……。
テヨンはさっき、二人が死んだのはお前のせいじゃないとか言って私のことを支えてくれたわ。立っていられるように。でもね、やっぱり私が歌い終わった時に死んでしまったのは確かなの。私、なんとなくわかるのよ。命の炎が今消えてしまったんだってことが。
だから、責任とか感じずにいられないの。
だけど、そんなことはもっと向こう側の話で、ただただ悲しかった。自分の制か誰かの制かは関係なく、私はとても悲しいわ。家族が死んでしまったってとても大きいことだと実感した。
いつもそこにいて笑っていた存在が消えてしまうことがこんなにも寂しいことだなんて……。家族に代わりは無いの。家族は友達と違って唯一無二なの。だから、再婚だなんてする人の気持ちが、されてしまってそれでも幸せに生きている子どもの気持ちが、私には全くわからないわ。どうして、家族という唯一無二にも人は代用品など用意しておくのかしら?
涙はもう流れなかった。
さっき全て使い切ってしまったから。
「チュナ……」
テヨンが心配そうな顔をする。もう、そんな顔しないで。テヨンまで悲しそうにすると私も余計悲しくなってしまうじゃないの。
泣きたいけど、涙が出ない。
そんな時、朱は現れた。何をしに現れ、どうして現れたかなど関係ない。私にはその朱はまるで火の神のように見えた。火を灯し、火と共に生きる神のように思えてしまったの。
何故か? それほどに無意味な質問を、私は他に知らないわ。答えが無いから言わないのよ。
「火の神、何故私の家を燃やして、私の家族の命を奪ったのですか?」
「girl、私は火の神ではない。ただの魔族の者だよ」
そう朱は答える。途端にテヨンの目つきと空気が鋭くなるけど、私は何もいえない。だって朱はどこまでも優しく微笑みかけているから。
「boy(少年)其処までにらまなくて大丈夫。落ち着いて」
「俺は魔族が嫌いだ!」
テヨンはそう言い放つ。私はテヨンにこの人は悪い人じゃないって言おうとするけど、何故か口が開かないわ。こんな良い雰囲気を持った人が悪い人なわけないってわかるのに。
私の心に知らない間に魔族は悪い奴だっていうことがインプットされているような気がするわ。
そういえば、昨日の夜私は何をしていたのかしら?ビエッタと別れてからビエッタの家に行くまでの間。一時間くらいあったみたいだけど……。
まさか、その間に家が燃えてそれに魔族がかかわっているとか? な、わけないか。想像が過ぎるわ。
「boy、何故其処までwe(俺たち)を嫌うのかい?」
「魔族は俺らを汚した!」
テヨンは顔を真っ赤にさせて叫ぶ。私が口を挟む猶予を与えないような即答。
この前の私との県下とは何かが違うような気がした。本能的な勘だけど私はそう確信できるわ。
「ふーん、そういえばyou(君)ってハーフだったねぇ」
「どういうこと!?」
私はテヨンが答える前に叫ぶ。私は知らないわ。テヨンが魔族とのハーフだなんて!
ここでハーフというなら、それは魔族と人間の間の子どもだということをさす。そして、ハーフは回りから忌み嫌われている。時に不気味がられ、時に回りから距離を置かれる。
もしかして、テヨンはそれが嫌でいえなかったの?
「本当? テヨン。私はテヨンがハーフでも嫌わないよ?」
「…………」
私は真っ直ぐテヨンを見つめる。テヨンと一瞬目が合うけど、テヨンのほうがすぐに目を逸らす。それもまた一瞬。
そして、テヨンが逃げようと体を反対方向に向け走り出した。
「まって!」
「boy、逃げるのかい?」
私と朱の声が響くけれどテヨンは振り返らない。どうして逃げるの!? なんでなのよ……。
私とテヨンは友達じゃなかったの?
「言っちゃったね、boy」
ある意味冷静に、そしてある意味おかしそうに朱は私に言う。それがたまらなくいらっときたけれども、流す。
なんでなのよ、なんで。
「あはははははっはは。破滅だ。二人の仲は破滅だ。追っかけなきゃ駄目だよ、かわいらしいgirl。君は歌えるけれど追いかけたりはできないのかい? あはははっはははは」
「うるさいわ!」
「ほら怒った」
朱はさっきまでの優しさがまるで嘘のように、笑う。心底おかしそうに。
「私たち、おかしい」
「ああ、おかしくない。人と人との仲はいつかは破滅するからなっ。あはははははは」
人と人との仲はいつかは破滅する。永遠など存在しない。トゥーサがいつかいってたのかしら? そんなことを。あの時はただの兄弟げんかだったけど、こういう状況で言われると心にぐさっと突き刺さるわ。
「あれ、意外とこしが無いね。つまらない」
スパッと一刀両断するように朱は言う。つまらない……そうだ、何故!
「あなたは何故ここに来たの? あなたは誰?」
私は到底劣らぬ身長を少しでもつめようと背伸びをしながら朱に聞く。するとそれにあわせるように朱は少ししゃがみ答えた。
「俺は朱雀。お前を殺しにきた」
- Re: 聖歌が響く時 ( No.26 )
- 日時: 2010/10/11 18:26
- 名前: 月華 (ID: SOGiHJ/a)
(シーン続いてます)
私を……殺しに? 意味がわからない。何故私は殺されなければいけないの? どうしてなのよ。
「あれ? とまどっちゃってる? 理由が見つからないとかそんな感じで。馬鹿らしい。理由なんて要らないね。殺人に。ただ、言うなれば君が殺され損ねたからかな?」
殺され損ねた? もしかして、お母様やトゥーサと同じくお父様も死んでいるって言うこと? ——そんなこと無いよね? まさか私だけが生き残っているなんて言うことないよね?
自分をいくら励ましても正直本当か信じられない。お父様は本当に生きているの?
まっすぐと朱雀を見つめる。けれど朱雀はウソをついていないような真っ直ぐな目で見つめ返す。
私にどうしろって言いたいのよ?
「殺され損ねた、この意味側から無そうだね。それはね——」
言わないで、言わないで。もう泣きたくない、幸せになりたい。うそでいいから、私を、私を救って。なんで、なんでそうなの? なんで悲しみはひと時に押し寄せるの? 弱い私は耐えられないよ……。
だけど、そんな心の言葉は朱雀にはつうじない。ただただ私は次の言葉を待つしかない。
「——やめた」
朱雀はそう言った。口元だけ笑って私に合わせて背をかがむ。何をする気なのかしら? 何て思っているといきなり髪をぐしゃぐしゃとなでられた。ってえ? 髪をなでる?
「ちょっと、髪がぐしゃぐしゃになってしまうわ。やめて、やめてぇ!!」
「いい髪だな。つやつやしているし、真っ黒だし」
「だからやめてぇ」
もう、髪を引っ張らないで。痛いじゃないぃ。どうしてくれるのよぉ。
だけど、朱雀の目を見て何かが変わった。炎のように燃える優しげな、悲しげな目を見て。
「……、なんでこんなことするんですか?」
「君が可哀想だから」
「可哀想なんて簡単に言わないで」
「そうだよな。簡単に言われるといらってくるよな。俺も昔よく言われた。ひとりで毎日毎日雨の日も雪の日も恵んでくださいってザルを持って街を歩いて……。道を通る方が可哀想にっていいながらコインを投げるんだ。それがたまらなく悔しくて……」
黙りこむことしかできなかった。 何故いきなり朱雀がこんなこと語りはじめたとか、そんなことがどうでもよくなる。一瞬にして。
私なんてまだ幸せ何だ。
「俺さ、嫌いなんだ。子どもだけが残されて、ひどい目にあっているのを見るのとか。
だから、今君は死ぬべきなんだ」
え?
朱雀は刹那、赤く丸いトンボだまのようなペンダントを隙間から漏れる光で照らす。そして、静かに燃えろと……。きゃぁぁ。
一瞬にして周りが炎で包まれる。私と朱雀を中心にするような炎の円。今度こそ家が燃えてしまうわ! だけど、その前に私と朱雀はこれからどうなるの?
そう思って顔を上げてみると高いところに朱雀の顔があった。さっきまでとは違って何処までも冷たい顔。目だけが炎のように赤い。
「俺さ嫌いなんだ。片思いの奴ら」
朱雀はそう言捨て炎の中を歩き始める。だけど、服どころか体のどこも燃えない。まるで火が彼を避けているような、そんな感じがする。
そういえば、さっき彼は魔族だって言ってたけど、もしかして彼の力は炎の力?
まぁ、どうでもいいわ。とにかく私はここから脱出しないと……でもどうやって?
次第に朱雀の背は小さくなっていく。
歌う。そう、歌えばなんとか……
「いやぁっぁぁっぁっぁぁぁぁ」
途端、視界の端で朱雀が振り向く。
途端、思い出す。炎の中で歌ったあの日のことを。
私は魔力を扱えるものであり、またその魔力で人をも殺せるのだと。そして、魔力の引き金は歌だということも……。
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