ダーク・ファンタジー小説

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黒いリコリスの教団
日時: 2019/07/01 15:43
名前: シリアス (ID: CQQxIRdY)

初めまして、シリアスでございます。
文章はいかにも素人ですがこんな私でもよければ・・・・・・
悪口や皮肉、いたずらコメントなどは決してしないでください。
舞台はファンタジージャンルがぴったりの11世紀の中世時代です。
天使や悪魔、魔法や錬金術などが存在し一部の人しか知られていないという設定。
主人公は秘密の教団『リコリス』の指導者として敵組織である『セラフィムの騎士団』の支配を終わらせるために戦うというストーリーです。

オリキャラを募集しておりましたがここで締め切りとさせて頂きます。
たくさんのキャラクターを提供してもらい深く感謝しています。
どうもありがとうございました!


登場人物


【リコリス教団】

ルシール・アルスレン

本作の主人公。種族は人間と食人鬼のハーフ。
かつてレフレールの悲劇を終わらせた英雄のブレードガントレットを愛用している他、あらゆる武器を扱う事が可能。
14歳の少女ながらも剣技や暗殺などのスキルは抜群で仲間からの尊敬を集める。
リコリスの教団の長として仲間を率いセラフィムの騎士団と戦う。


ミシェル・ヴォーン

教団の一員でありルシールの親友である人間と魔女のハーフ。
特殊な魔族の家系を持ち魔女の魂を吸収し能力を向上させる特殊スキルを持つ。
幼い頃、ルシールと共に教団に加わって以来相棒として活動している。


ロベール・ド・カルツ

ルシールの右腕である老神父。種族は人間。
教団のまとめ役で主に情報を団員に提供する。
彼もまたル・メヴェル教信者殺害事件の被害者であり娘を失った。
そのため犯人として騎士団を疑っているが命懸けの任務をルシール達に任せている事に心を痛めている。


ルナリトナ

リコリス教団の一員。種族は人間。
錬金術や薬の調合に長けておりその技術を武器とする。
戦闘よりも仲間の援助が得意で剣術はとてもじゃないが苦手。
ディーノと気が合い共同で研究や発明に明け暮れている。


ソフィ・ツヴァイフェル

リコリス教団の一員。種族は人間と悪魔のハーフ。
双剣を使った剣術と黒魔術を得意とする。
悪魔と人間の混血ということで人間からも悪魔からも忌み嫌われているため身分を隠していた。
しかし、相棒のリクに対しては心を許しており行動をよく共にする。
反対に稽古の際に不覚を取らされたミシェルをライバル視している。


リク・フォーマルハウト

リコリス教団の一員。種族は人間。
好奇心が強く誰に対しても明るく接し純真無垢で真っ直ぐな性格。
誰かを守りたいという思いから最強の戦死になろうと努力している。
武器は普段、背中に背負った大剣を使用する。


ジャスティン・リーベ

リコリス教団の一員。種族はエルフ。
礼儀正しく真面目で純粋、人懐っこく誰とでも仲良くしようする性格。
教団に入る前は聖職者で魔を浄化する力で人々を救済していた。
弓を得意とするが武器がなくても戦えるようにと護身術程度だが肉弾戦もできる。


クロム・リート

リコリス教団の一員。種族はエルフ。
賢く冷静で、何事も要領よくこなす優等生。ジャスティンの異母弟。
一方でお節介ともいえるほどの世話焼きな面もあわせもつ。
魔法石の杖を扱い回復魔法や光属性の魔法が得意だが戦闘の際には闇属性や攻撃的な魔法を主に使用する。


カティーア・ヴァイン=トレート

リコリス教団の一員。種族は魔女と天使のハーフ。
19歳になるまで天使だけの小さな村に住んでいたが混血である事が原因で他の住民から迫害を受けていた。
そのため高潔で傲慢な性格と天使をいつも目の敵にする。
しかし、可愛いものやお菓子が好きで褒めると調子に乗る癖がある。
種族が同じという理由でミシェルとは親しくなり本当の姉妹のような関係を築いた。
武器はレイピアだが天聖滅拳(てんせいめっけん)という対天使用の拳法も使用できる。


ディーノ・アインス

リコリス教団の一員。種族はホムンクルス(クローン)。
好奇心が強く知らないものにはかなり興味を示す性格。"やはり俺は天才だ!"が口癖。
武器は魔法のカードで召喚獣を具現化させて戦わせる。
クローンのプロトタイプとして生み出され 人体実験の被験体として扱われてきた。
しかし、ある日生みの親である魔術師に連れられ、魔術師見習いとして修行していた。
ルナリトナと仲が良くしょっちゅう共に新たな発明に明け暮れている。


リベア・グロリアス

リコリス教団の一員。種族は人間。
数は少ないが大らかな感性を持ち基本的に優しい性格。争いや喧嘩が大嫌い。
かつて鬼神、邪神、破壊神などと呼ばれ人々を恐怖に陥れた堕天使アプスキュリテが封印されていた漆黒の魔剣を武器として扱う。
剣の中の堕天使が復活しないよう魔を祓う力を持つレナと共にいる。


レナ=ルナリア

リコリス教団の一員。種族は聖女。
男勝りで勝気、常に強気。抜け目がなく何があろうとも余裕な表情を崩さない意志の強さを持つ。
しかし、あまり他人に特別扱いや色目を使われるのを苦手としているため正体を明かさないようにしている。
女神に生み出された聖女で魔を祓う力を持ち純白の聖剣を扱う。
リベアの持つ魔剣の監視兼護衛のためリベアと共にいる。


テオドール・ヴェル・ドンゴラン

リコリス教団の一員。種族は竜人。
ほとんど全滅してしまった失われた種族、竜人の青年。
物静かで穏やかな性格だがその反面、戦略を練るのが得意な野心家。
戦闘の際は竜化し硬い鱗で覆われた鋼色の巨大なドラゴンになる。
他にも幻惑魔法も使用でき他人を操る事ができる。


【セラフィムの騎士団】


ナザエル・ド・ラシャンス

セラフィムの騎士団の指導者。種族は人間。
紳士的な態度で国民に接するが顔を覆い隠しており素顔を見た者はいない。
騎士団の中でも謎が多い人物である。


クリスティア・ピサン

セラフィムの騎士団に所属するナザエルの右腕で組織のナンバー2。種族は『エデンの熾天使』。
普段は淑女のように振る舞うが敵と失敗者には容赦しない非情な性格。
騎士団の中でも右に出る者がいない程の才色兼備の持ち主。
武器はブレードガントレット『アルビテル』を愛用している。


キルエル

イスラフェル聖団の高位の大幹部を務める少女。種族は『エデンの熾天使』。
明るく無邪気だがどんな非情な命令でも楽しそうに実行する残忍な性格で人間を見下している。
聖天弓フリューゲルを扱い敵の殺戮を楽しむ。


ナデージュダ・ペトラウシュ

イスラフェル聖団に雇われている暗殺者。種族は『ダークエルフ』。
各地で差別され酷い仕打ちを受けておりダークエルフという理由で両親と妹を人間達に殺された過去がある。
1人生き残った彼女は暗殺組織に拾われ以来、暗殺の世界に生きる事になる。
イスラフェル聖団に雇われる形でルシールと対峙するが実際は聖団に団員達を人質に取られおり無理矢理従わされている状態。
多彩な武器に黒魔術や死霊魔術も扱える。


用語集


リコリス教団

セラフィムの騎士団に不信を抱いた者達が集って結成された秘密結社。
ルシールが設立し教団のメンバーは聖団の実態を探ろうと活動している。
組織の紋章は黒いリコリス。

セラフィムの騎士団

レフレールの守護を宣言した組織。
大半が天使で構成されており人間などの他種族はほとんどいない。
治安維持のためレフレールを併合するが国民からの信頼は薄く良くない噂も流れている。
組織の紋章は羽の生えた少女。

レフレール

フランス西部に位置する架空の孤島。
1192年にカトリック教会諸国の属国となりイスラム軍と戦った。
文化を吸収され宗教対象がキリスト教となる。

ル・メヴェル教

レフレールが属国となる前に崇拝されていた宗教。
1192年に信仰を禁止されカトリック教会が建てられた。


……オリキャラ提供して頂いたお客様……

そーれんか様
つっきー様
Leia様
エノク・ヴォイニッチ様
リリコ様
Rose様
あいか様
ブレイン様


【お知らせ】

2018年夏の大会では皆様の温かい評価により銅賞を受賞しました!
本当にありがとうございました!腕の悪い素人ですがこれからもこのシリアスをよろしくお願いします!

読みにくいページの修正を開始しました。文章はほとんど変わっておりません。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.61 )
日時: 2019/05/01 12:05
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

「うろ覚えだけどな。昔、俺の育て親である魔術師から聞かされた事がある。この情報が正しいのかはいささか怪しいがラファエルは天使の都ヴァロデンの大天使で元は悪魔を断罪する処刑人だった。人間界に降り立ってからは砦を構え捕虜の尋問・・・・・・いや、拷問の日々に明け暮れている。奴に粛清された者は各種族を含め数千はくだらないらしい。選んだ対象を飽きるまでいたぶって殺す事を美徳としその野蛮な凶行は同胞達にも恐れられ『拷問狂の堕天使』とあだ名を付けられたそうだ」

「え、ちょっと待って・・・・・・?そいつって本当に天使なんだよね!?拷問や処刑を楽しむなんて悪魔そのものだ!その情報が本当なら正真正銘ヤバい奴だぞ!なんか急に僕も不安になってきた!聞くんじゃなかったよ!」

 クロムもすっかり恐れ戦いてしまい恐怖に身体を縮こませる。さっきまでやる気に溢れていた自信を失いルシールの考えを改めるよう否定的な意見を次々と吐き出す。

「砦にはラファエルだけじゃなく大勢の騎士団の衛兵や重装甲兵が大勢いるんだよね!?情けないのは承知の上だけどこの作戦は中止するべきだ!あまりにも危険過ぎる!いくら僕達が精鋭揃いでもまともに戦ったら確実に全員あの世行きだよ!それにもし、捕まって拷問にかけられ教団の機密を吐かされたら一巻の終わりだ!ここはもっと冷静になって他の計画を練るべきだ!」

「魔法使いの坊やはそう考えるか・・・・・・ふむ、因みにルシールはどうする気だ?」

 ディーノはその勢いを無視し質問の矛先をルシールに向ける。

「ディーノさん!僕の話を聞いてますか!?」

「坊やじゃなく嬢ちゃんに聞いているんだ。教団の長はこの子、判断するのもこの子だ。で、結局どうするんだ?」

「何を言われようと私の決心は変わらない。アザエール砦に行ってナデージュダの部下達を解放する。そして、騎士団の幹部であるラファエルを暗殺して奴の狂った美徳を終わらせるの」

「無謀過ぎるよ!ルシール、君も教団の全てを預かる長ならリスクというものを考えて!教会での戦いとは訳が違う!砦相手に真っ向から勝負を挑んだら確実に僕達は全滅する!それでもいいの!?」

「大丈夫、きっと上手くいくよ。私はもう二度としくじらないと誓ったんだ。それに私には心強い仲間がたくさんいる。ディーノもクロムも頼りにしてるよ。勿論、ナデージュダも」

 ルシールに決心を曲げる気など更々なかった。不安を隠せないクロムを平気な顔で見上げ彼の手をそっと握りしめる。そのほころんだ表情からは死を恐れる気配が全く感じられない。

「おいおい坊や、何か勘違いしてないか?誰も砦に総攻撃を仕掛けるなんて言ってないぞ?お前が主張した通りそんな行為に走ったら全員墓場行きになる事などろくに頭を使わなくても分かる。あまり他者を見くびるな。俺だって嬢ちゃんの考えがトンチンカンなものなら流石に止めに入るさ。成功できる可能性があるから同意しているんだ。安心しろ。ちゃんと作戦を立ててから行動に移すに決まっているだろう」

 ディーノが力説して呆れた作り笑いを言葉の最後に付け加える。

「・・・・・・作戦?どんな?」

「それをこれから練るんじゃないか。後で竜人の軍師に相談してみよう。砦の攻略は頭脳戦、あいつの策略が必要だ。あと、この事を他の皆やロベール神父にも報告せねばならん。嬢ちゃん、その役目は任せた」

「分かった!もう少ししたら必ず皆に伝えるよ!」

ルシールは"待ってました!"と言わんばかりに元気に張り切る。
クロムは真逆にやり切れない思いを強い吐息にして吐き出した。

「決まりだな。だがこの作戦、早めに実行した方がいいな。『手遅れ』になる前に」

「手遅れ?どういう意味だ?」

 聞き捨てならない台詞にナデージュダが関心を寄せる。

「ナデージュダ、お前はアルベルナの護衛をしくじりこうして捕虜となった。騎士団にとって失敗者は用済みな存在だ。暗殺者の長が必要なくなれば当然、部下達を生かす理由だってなくなる。粛清されるのも時間の問題だ。既に処刑は行われた後かも知れんが・・・・・・」

「何だとっ・・・・・・!?」

 ナデージュダが鋭い声を上げ言葉を詰まらせる。ネックレスがずり落ちた震えた両手を眺めると深刻な事態に頭を抱えた。最悪な展開を聞かされかなりのショックを受けた様子だった。ディーノはいても立ってもいられないだろう彼女に対し落ち着いた口調で言った。

「お前も部下の命が尊いなら恐くて行きたくないとか弱腰になってないで俺達に協力しろ。それしか彼らを救う方法はない。気合入れろ。誇り高き暗殺者なんだろ?いつまでも狭い牢獄で落ち込んでる姿はお前には似合わん」

「・・・・・・私の武器はどこにある・・・・・・?」

 覚悟を決めた表情を上げナデージュダが睨んで問いかける。

「お前の武器は隠れ家の武器庫に大事に保管してある。戦いたいなら取りに行け」

「上等だ。誰かの下僕になるのはやめだ。私に屈辱をもたらした大罪を騎士団に償わせてやる。奴らの命でな・・・・・・!」

Re: 黒いリコリスの教団 ( No.62 )
日時: 2019/05/06 20:42
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

 オイエルセフィ 街外れの廃村

 賑やかに繁栄していた年の裏側は、何とも寂しい光景が広がる。人気のない自然の大地にあるのは、いい加減に生えた森林と廃墟だけ。かつては村があったのか原形をほとんど留めてない家々や農場の跡地が点在しているのだ。無人の集落に挟まれた一本道が真っ直ぐに伸び、どこまでも続いていた。遠くにある果てには、ラファエルが支配するアザエール砦がここからでもよく見える。

 長い草木の茂みに潜む人影があった。影の数は数人、全員が武器を身に着け低い姿勢を保つ。彼らは何かを待ち伏せているのか、目を光らせ、集落やその周辺を見張っていた。

「ねえ?本当に来るのかな?」

 影の1人が気弱な少女の声で疑い深そうに聞いた。そして、もう1人の少女の声が返る。

「大丈夫だよミシェル、奴らは必ずここを通る。辛抱強く待とう」

 ルシールは自信ありげに言って草の間からひょっこりと顔を出した。左右を見渡し、異常がない事を確認すると向こうで待機した仲間に手をかざす。すると廃墟の影からリクとリベアが手を振り、合図を応える。ルシールは再び茂みに隠れ、隣や後ろに控えているミシェル達の方へ振り向く。

「しかし、護送車を乗っ取り囚人のふりをして砦に侵入するなんて、なかなかいい作戦じゃないか。流石は竜人、その有能さは頼りになる」

 ディーノが口角を上げ親指を突き立てる。

「あはは・・・・・・いささか褒め過ぎですよ。でもまあ、僕の知恵がお役に立てたのなら光栄な限りです」

 思わず照れ笑いしたデオドールは、恥ずかしがった顔を斜めに逸らした。

「今回はデオドールも一緒で心強いよ。もう前みたいに、いないなんて事にならないでね?」

「ええ、約束します」

 デオドールと手を握り合うルシールがディーノに咳き込む。

「仲良しごっこは後にしてくれ。嬢ちゃん、今回の作戦の内容をもう一度詳しく教えてくれないか?念のために再確認したい」

 "勿論"と頷いたルシールは、計画の手順を、最初から順に説明を始める。

「まず、アザエール砦へ向かう護送車はこの廃墟を通るしかない。護送車が来たら私とミシェルがただの子供を偽って足止めする。その隙にここにいる第一部隊、向こう側にいる第二部隊で挟み撃ちを仕掛ける。護衛の天使達を一掃したら囚人を逃がし、奪った護送車で砦に侵入する」

「ここまでは上手くいきそうだね。ああでも、問題の砦に入ったらどうするんだっけ?」

 クロムが先の詳細を促す。

「計画通り、砦に侵入したら、奴らの目を盗んで護送車を抜け出す。気づかれないように見張りや看守を無力化し、鍵を奪ってナデージュダの部下達を逃がす。彼らは熟練の暗殺者だから檻を出ればあとは自分達で何とかできるはず。全員が捕まるリスクを減らすために、ばらばらに行動しよう。隠密行動は少人数の方がいいでしょ?」

「なるほどな、お前らに関しては不安だが隠密行動は私にしてみれば大の得意分野だ。しかしこの作戦、1人でもしくじれば終わりだ。砦全体が騒然となれば最早、逃げ場はない」

「そうだね。ルナリトナ、ジャスティン、カティーアの戦力を失って今の私達は満足に戦えない。今回の任務は前とは比べ物にならないくらい、かなりの危険が伴う。皆、緊張を絶やさず、決して気を抜かないで」

 すると、何を思ったのか、ナデージュダは"ふっ"とかっこつけた笑いを漏らした。ルシールが怪訝そうな顔を傾げ理由を尋ねると

「いや、ちょっとな・・・・・・数日前まで敵同士として殺し合っていたのが、まるで嘘みたいな気が治まらくてな。何故かお前がいると心が安心する。ずっと昔から友達だったみたいで実に不思議な気分だ」

 と愛想よく言った。

「ふふ、実は私もそんな風に感じてた。友達もいいけど、ナデージュダが本当のお姉ちゃんだったら・・・・・・ってね」

「お姉ちゃんか・・・・・・悪くないな・・・・・・」

「こら、仲良しごっこはこれからの大仕事が終わってからにしろと、さっき言ったばかりだろうが」

 ディーノが2人の私語に割り込む。ルシールが"はいはい"と答え、ナデージュダは舌打ちし、彼を睨んだ。


 しばらくして、ルシール達の読み通り1台の護送車が街の方から訪れる。ゴロゴロと回る車輪の音、人間の囚人がぎっしりと詰め込まれた檻を白馬が軽々と引いて歩く。その八方を取り囲み、騎士団の小隊が見張りと護衛に回っていた。

「ようやくお出ましか」

 ディーノが呟いて、胸ポケットからカードを取り出す。ナデージュダも茂みから顔半分を覗かせ、まずは偵察を行い敵の数を調べる。

「剣やメイスで武装した歩兵が前方に5人、後方に8人、空中には弓を持った狙撃兵が7人・・・・・・身に着けた装備といい、ただの人間達を運ぶ護衛にしては兵の数が多過ぎる。重要人物でも乗せているのか?」

「重要人物?」

 聞き捨てならない発言をクロムが気にしたが

「さあな、誰を乗せていようとあれを奪うという目的は変わらん。ルシール、向こうの舞台にも攻撃の合図を送れ。作戦開始だ」

「分かった。行こう、ミシェル」

 ルシールは、リク達が待機する廃墟の方面に、手の仕草をそれを伝える。すぐさま、レナも手の動きで肯定の返事を返した。


「なあ?ちょっといいか?」

 前方を進む1人の天使が翼の凝りをほぐし実に退屈な口ぶりで聞く。隣を歩く同胞の騎士が無言で彼に視線を寄せる。

「俺はただ、囚人をアザエール砦まで運べと令されただけだから、詳しくは知らんがこれだけの兵員はちょっと大袈裟じゃないか?」

「私も詳細を知らされてないから分からない。でも、私達、騎士団の"裏切り者"を乗せていると聞いた。
深い詮索はしない。私達は、ラファエル様の命令に従うだけ」

「ラファエル様の機嫌を損なわせてしまった者は、絶対に楽には死ねないからな・・・・・・前日の処刑は本当にトラウマ・・・・・・ん?」

 ふと、前列の騎士達は何かに気づき足を止めた。その動きに合わせ、護送車の車輪の回転が止まる。2人の少女が怯えた様子でこちらへ近づいて来たのだ。

Re: 黒いリコリスの教団 ( No.63 )
日時: 2019/06/03 19:56
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

「何だあいつら?こんな所で子供が何してるんだ?」

「物乞いには見えない。都市を離れて廃村で遊んでいたら、迷子になったのかも知れない。一応、話だけでも聞いてみましょう」

 2人の騎士は特に怪しさなどは抱かず、護送車や他の同胞達に留まるよう指示を出し、少女達の元へ駆け寄っていく。

「おい、こんな所でガキ2人が何してるんだ?お前らオイエルセフィの住人か?」

 天使に影に覆われ、少女達は更に恐がった素振りを表す。

「あ、あの・・・・・・お願いがあるんです・・・・・・私とこの子を、アザエール砦まで連れて行ってくれませんか・・・・・・?」

「・・・・・・はあ!?」

 何を言い出すかと思えばと、天使は驚いた声を上げ正気を疑った。隣にいた天使の女は、ひとまず冷静に詳しい事情を問う。

「何故、砦に行きたいの?理由を教えてくれない?」

「私達のお母さんとお父さんはあの砦に連れて行かれたんです・・・・・・その時からずっと寂しくて・・・・・・一度でいいから家族に会わせてくれませんか?」

 そうビクビクしながら頼むと

「なるほど、大体は分かった・・・・・・でも、答えは否。その要望は承諾できない。恐らくだけどあなた達の両親は既に粛清されている。アザエール砦は牢獄であり、処刑場でもあるから。諦めて家に帰りなさい」

 天使の女は、非情な答えを吐き捨てると、背を向けて去ろうとした。その瞬間、彼女の腰部に鋭い激痛が走る。細い刃が深々と奥まで突き刺さった感覚、抉られた傷口から生温かい深紅の体液が噴き出す。

「がっ・・・・・・ああ・・・・・・!?」

 襲われた天使の女は、何が起こったのか理解できないまま倒れた。息絶えたばかりの死体の口から、流れ出た血が広がる。

「ん?どうし・・・・・・お、おい!」

 背後に違和感を覚えた天使の男は振り返ると、悲惨な光景をが目に映る。仲間の死体の傍に立ち尽くす少女、血で汚れた右手の手首からは細身のブレードが伸びていた。

「き、貴様らぁ!!」

 逆上した天使がメイス振りかざしたが、槌頭が少女を叩きつける事はなかった。背後で悲鳴と騒動が巻き起こり、力任せの手は止まる。

「敵襲だああ!!」

 護送車は待ち伏せていた教団の奇襲部隊に挟み撃ちにされ、まんまと不意を突かれる。油断していた所を一気に攻め込まれ、満足な抵抗もできず総崩れに。

「レナ!右の方を頼む!」

「了解!リベアはそっちをお願い!」

 2人は、二手に分かれる戦法を生かし、歩兵の集団へと斬り込んだ。リベアは、敵の斬撃を魔剣で受け止めた状態で、刀身を回転させ相手の構えを崩す。腕を捻じ曲げられ、強引に武器を手放させると両腕もろとも切り落とし、深々と突き刺した剣を背中から貫通させる。苦痛に悶える天使を盾にして突っ込み、敵勢を一気に押し倒した。

 レナも後ろからメイスを低い姿勢でかわす。聖鉄の塊である槌頭は彼女の後頭部ではなく、味方の顔中にめり込み、痛々しい骨の音を鳴らした。同士討ちに混乱する隙を逃さず、胸倉を掴み背負い投げで地面に叩きつける。天使は全身を強く圧迫され、動けないままあっさりと止めを刺された。

「く、くそっ・・・・・・!」

 空を浮遊する狙撃部隊は敵と味方が交わる戦場に矢の放ちようがない状態だ。しかし、離れた位置で交戦するソフィを視界に捉えると弦に矢をつがえ引き絞る。大剣で天使を両断したリクは、すぐさま、その危機に気づく。そして、彼女自身が狙われている事に気づいていない事も。立ち塞がる敵を蹴り飛ばし、彼は走った。

「ソフィ!危ないっ!!」

 ちょうど、敵を斬り捨てたソフィに、リクは叫んで覆い被さった。直後に一条の矢は放たれ、矢じりが直撃し、2人は地面に倒れ込む。

「リ、リクッ・・・・・・そんなっ・・・・・・!」

 自分を庇って致命傷を負ったリクに、ソフィは絶望し、言葉が詰まる。パートナーを守ろうと抱きしめるその背中には、矢が深く突き刺さっていた。

「ソフィ・・・・・・怪我は・・・・・・ない・・・・・・か・・・・・・?」

 上にのしかかったリクは痛みに耐えながら、無理に平気そうな顔を繕う。パートナーが無事である事に安堵すると、薄れていた意識が途絶え、笑顔の頭が垂れる。

「フレイムストーム!」

「ヘルファイア!」

 ディーノとクロムは、強力な火炎放射を空に放つ。魔力の炎に飲み込まれた狙撃部隊は、全員焼き払われ焦げた塊が地面に落ちる。

 ナデージュダも投げナイフを投げつけ、歯向かう天使達を巧妙に仕留めていく。マチェーテと鉤爪を両手に、巧みな技で獲物の群れを蹴散らす。戦意を喪失した1人の天使が逃げようとするも、チャクラムに襲われ首が飛んだ。円形の刀身は回転しながら宙を舞い、主人の手元へ戻る。

「・・・・・・これで全員か?つまらん戦だったな」

 呆気なく片が付いた戦いに、ナデージュダは言った。廃墟の道端には、5分も経たずに全滅した天使達の死体が転がる。中心にいた護送車は無事、確保に成功したのだ。怯えきった囚人達が檻の内側から、教団の精鋭達を覗く。

「ルシール!クロム!こっちに来てくれ!」

 ソフィが発狂に近い大声で叫ぶ。駆けつけると、動かないリクの下敷きとなったソフィが泣きじゃくっている。

「リクがっ・・・・・・リクが重傷を負ったんだ!私のせいで・・・・・・」

 その事を聞いた教団の精鋭達は血相を変え、急いで駆けつける。

「リク、嘘だろ!?」

「そんな・・・・・・しっかりして!リク!」

 死にかけた仲間の名を必死に呼びかけるリベアとレナ。ルシールとミシェルは言葉を失い、ただ呆然と、その悲惨な光景を眺めていた。

「魔剣使い、聖女!2人は囚人を逃がせ!俺と魔術師は大剣使いに処置を施すが、その前にこいつを退かさねばならん!暗殺者と嬢ちゃん2人も運ぶのを手伝え!竜人は捕虜を見張ってろ!」

 リベアとレナ、デオドールは指示に従い、護送車の方へ走った。ルシール達は意識のないリクを取り囲み、がたいのいい体を合図と共に持ち上げた。重みから解放されたソフィが慌てて起き上がり、リクに付き添う。

Re: 黒いリコリスの教団 ( No.64 )
日時: 2019/07/09 20:28
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

 一方、デオドールは馬車を引いていた天使を車席から降ろし、道の外れへと移動させる。すっかり怯えきった捕虜に対し、彼は睨んだりはせず、にっこりと温和な面持ちで

「恐がらなくてもいいんですよ。あなたには少しの間だけ、僕の操り人形になってもらいますので」

「ひっ・・・・・・やめて!な、何をするつもりなの・・・・・・!?」

 額に手をかざされビクッと身震いをする捕虜。デオドールは何かしらの呪文を呟き、手から発した禍々しい妖気を彼女に流し込んだ。心地いい感覚に不安をかき消され、捕虜は顔をほころばせる。目を細め、まるで催眠術にかかったかのようにガクンと頭と俯かせた。

「あ、あんたら、一体何者だ?俺達を助けてくれるのか?」

 閉じ込められた囚人の1人が気を許さず、用心しながら尋ねる。

「味方とは言い難いけど、少なくとも天使の連中よりはマシな存在だ」

「私達の事は誰にも口にしちゃだめ。こいつらみたいに死にたくなかったらね」

「あ、ああ!この事は誰にも言わないと約束するよ!だから早くここから出してくれ!」

 リベアが施錠を壊し、鉄格子を開ける。自由の身となった囚人達が我先にと列を押し、護送車の外へ流れ込んだ。彼らは恩人である2人に礼すら述べず、そそくさと街の方へ走り去っていく。最奥にいる1人を除いては・・・・・・

「おい!君はどうして逃げないんだ!?」

 最後の囚人は背の高い少女だった。整えられた茶髪を肩まで下ろし、大きな目と精悍な顔を持つ。両足を横に伸ばした姿勢で、こちらを見上げ、視線を逸らさない。

「リクッ!目を開けてくれ!リクッ!」

 ソフィは何度もリクに呼びかけるが、やはり反応がない。矢傷から流れ出た血が、服に染み込み、赤い円が広がっていた。

「悪魔令嬢、離れてくれないか?俺と魔術師で応急処置を行う」

 ディーノとクロムは悲しみに暮れるソフィを下がらせ、怪我の状態を確かめるため鎧を外し、服を破った。生臭く、血で汚れた醜い背中を目の当たりにし、3人は苦い顔を背ける。

「うぇ・・・・・・!」

 傍にいたミシェルも気分を害してしまい、口を覆った。

「矢が深く刺さっているな・・・・・・鎧を身に着けていなかったら、間違いなく胸部を貫通していただろう」

「ディーノさん、非常にまずいよ・・・・・・!この位置、恐らく心臓まで達してる・・・・・・!」

「だが、死んではいないんだろ?」

 ディーノが冷静さを保った普段の口調で聞く。

「一応、呼吸はしてるみたい!これだけの致命傷を負っても生きてるなんて、奇跡と言ってもいい・・・・・・!」

「治せるか?」

「治癒魔法を施すには、まずは矢を抜き取る必要がある!でも、そうしたらショックで、心臓が止まるかも知れない・・・・・・」

 クロムは結果を予想した。その表情はかなりの深刻さを露にしている。

「なあ・・・・・・リクは助かるのだろう・・・・・・?頼む・・・・・・そうだって・・・・・・そうだと言ってくれっ!!」

 ソフィはそう強く訴え、顔中を涙でぐしょぐしょに濡らす。

「・・・・・・お願いだ!!リクを見捨てないでくれ!!」

「悪魔令嬢、よく聞くんだ。俺達はいつの時でも、死と隣り合わせである事を忘れてはならん。時には、大切な者を失う運命を辿る事さえある。それを乗り越える勇気がなければ、教団の精鋭は務まらない」

「待って!まさか、リクを見殺しにするの!?」

 残念そうに首を振るディーノの言葉に、ルシールは当然、反感を抱く。

「矢を抜き、更に心臓を傷つければ、こいつは死ぬ・・・・・・そして、死者は決して蘇らない。ならいっそ、楽にした方がこいつのため・・・・・・」

「嫌だっ!!リクを死なせないでくれっ!!」

 ソフィは、今度は自分がリクに覆い被さり、死に物狂いで泣き叫んだ。

「俺だって辛い。だがな、この世界で生き延びたければ、甘さを捨てるしかないんだ」

「嫌だっ!!何があっても、私はリクと一緒だっ!!リクを殺すなら私も殺してくれっ!!」

「いい加減にしろっ!!」

 ディーノが力強い怒鳴り声を上げた。憤怒に驚き、ソフィは叫ぶのをやめ、しゅんと静まり返った。絶望に染まった彼女の両腕を掴み、顔を寄せ

「お前は誇り高い戦士なんだろ!?なら、この残酷な現実を受け入れる強さを持て!辛いのは自分だけとは思うな!これは俺達の宿命なんだ!お前だってこうなる事を覚悟して、この戦いに加わったんじゃなかったのか!?」

「だって・・・・・・リクは私にとって・・・・・・たった1人の・・・・・・!」

 そう強く言い聞かせるが、ソフィは仲間の死を受け入れられるはずがなかった。

「私も此奴の意見は好きになれんが、ディーノの言う通り、リクはここに置いて行くべきだ。今までの数多い戦いの中、心臓をやられた戦士を何百人と見てきた。私からすれば此奴はもう助からん。それに護送車を奪い取ったとはいえ、ここに立ち往生していれば、直に別の敵部隊がやって来る。そうなれば、全てが水の泡だ」

 ナデージュダもディーノに賛成し、これからの計画を重視させる。

「聞いたな?各員、天使の亡骸を隠すんだ!それと、大剣使いもだ。今回の戦いが済んだら遺体を回収し、隠れ家に連れて帰ろう」

「嫌だ・・・・・・嫌だ・・・・・・リク・・・・・・!」

 再び泣き始めるソフィにルシールも涙を流し、そっと優しく抱きしめる。方法を見い出せない自分の無力さに、クロムも悔しそうに握った拳を震わせ涙を堪えていた。


「私なら、その人を助けられるよ」


 ふと、透き通った美しい声がどこからか消えた。その台詞が耳に行き届いた時、精鋭達ははっとし、注目の視線が同じ場所へ集まる。視界に映った正体は、唯一、逃げなかった囚人の少女だった。

「リクの命を救えるの!?」

 希望を見い出し、少女に駆け寄ろうとするミシェルをナデージュダが引き止め、警戒する。

「動くな。こいつの致命傷を治癒できるだと?嘘をついているようには見えないが、お前は一体何者だ?魔術師か?」

 ディーノはカードの力を発動し、雷撃魔法の狙いを定めた。恐れる兆しを表さない少女は微笑みながら首を横に振り

「とにかく、時間がない。この人の命はあと数分。今やらなきゃ、手遅れになる。ここは私を信用してくれないかな?」

 そう言って少女はディーノとナデージュダの間をすれ違い、リクの元へ向かう。

Re: 黒いリコリスの教団 ( No.65 )
日時: 2019/07/21 19:41
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

「ねえ?本当にあの人、何者なんだろうね?」

 クロムが囚人を逃がした2人に問いかける。

「さあ?檻から解放してあげたのに、どうしてかこの人だけは逃げようとしなかったんだ」

「錬金術師じゃないだろうね。ましてや、王宮魔術師にも見えない」

 リベアとレナもよく分からないと言った仕草で、質問の内容と差ほど変わらない返答を返すだけだった。

「リクを・・・・・・リクを救えるのか・・・・・・!?」

 ソフィが涙声で言って少女を見上げる。

「うん、安心して。だからもう、泣かなくてもいいよ」

 少女はソフィを下がらせると、膝をつきリクの背中に左手を乗せた。これから何が起こるのかと、期待と不安を募らせながら、精鋭達はその様子をじっと眺める。

「あなたはまだ、天使の国へ誘われるべきじゃない。この世での使命を果たすため、再び生の地を歩みなさい」

 少女が言葉を発した時、彼女の手は光眩しく輝きを放つ。聖の力が宿った証に、リクの背中に紋章が浮かび上がる。深々と刺さった矢を抜くと、血が噴き出す事なく、傷穴は瞬く間に塞がった。

「う・・・・・・うう・・・・・・」

 死を免れ、意識を取り戻したリクがゆっくりと目蓋を開く。痛みのない感覚を不思議に思いながら、上半身をゆっくりと起き上がらせる。

「信じられません・・・・・・死に至る寸前の者をこうも簡単に救済してしまうなんて・・・・・・奇跡だ」

 神の恩恵とも言える治癒魔法を、離れた位置から眺めていたデオドールは目と口を丸くする。

「リクゥゥゥ!!」

 悲しみを一変させ、歓喜に狂ったソフィは嬉しさのあまり、リクを抱きしめ体を強く締めつける。頬に頬を擦り寄せ、離そうとしない。

「いててててっ!痛いよソフィ!」

「よかった・・・・・・本当によかった・・・・・・!」

「・・・・・・ふふ、ありがとう。ソフィも無事でよかった。君を守る事ができて、誇らしい気分だよ。危うく死ぬとこだったけどね」

 リクも表情を緩やかに和ませ、相棒の頭に手を乗せる。

「何者かは知らないが、感謝する。この恩は一生忘れない」

 ソフィが礼を言って、少女も笑顔で抱き合う2人を見下ろす。

「お礼なんて必要ないよ。私は当然の事をしただけ」

 少女はそれだけ言って、その場を立ち去ろうと振り返ると、カードの矛先を向けたままのディーノと対面する。油断を許さなかったリベアとレナも彼の行動に息を合わせ、静かに後ろへと回り込む。

「まだ、こっちの質問に答えてなかったな?改めて聞くが、お前は一体何者なんだ?魔術師にも見えんし、ただの人間にこんな奇術を行えるわけがない。まずは名を教えろ」

 敵意のある尋問をされても、少女はやはり、緩やかな表情を崩そうとはしなかった。逃走を目論む気配もなく、冷静沈着な態度で

「私は『ノエル・ネルティクス』、かつては騎士団に所属していた『エデンの熾天使』だよ」

 と敵意のない口調で答えた。

「なっ・・・・・・!?」

 ディーノは思いもよらなかった告白に言葉を詰まらせる。空気を深刻に一変させ、精鋭達はそれぞれの武器を構えると、ノエルを中心に集まった。命を救われた恩を差し置いて、リクとソフィも包囲網に加わる。

「・・・・・・」

 ノエルは何も言わず、前後左右を交互に見回し、再びディーノの方へ向き直る。

「エデンの熾天使だと・・・・・・厄介な者を救い出してしまったものだ」

 ナデージュダは戦わずとも、苦戦を強いられた苦い顔でマチェーテを強く握った。額から伝った汗が顎の下から流れ落ちる。

「どうする?此奴の息の根を止めるなら、逃げ場を遮った今がチャンスだぞ?」

「待つんだソフィ、相手がエデンの熾天使だと言うのが本当なら、無暗に襲いかかるのはかえって危険だ。ひとまず、ここは相手の様子を窺おう」

 リクは腕を前に出し、ソフィを一歩下がらせると、彼女だけに聞こえるトーンで囁いた。

「ど、どうしよう?せっかく、護送車を奪い取ったのに・・・・・・」

「大丈夫、例えエデンの熾天使でも、あっちは武器も鎧も身に着けていない。それにこうして囲まれた以上、下手に動けないはず。まずは相手がどう動くか、観察しよう」

「・・・・・・そうする」

 ルシールとミシェルもリク達と同じ、衝動的な行動は控える。

「なるほど。ではノエル、騎士団の大幹部であるはずのお前が何故、囚人として連行されていた?詳しく理由を説明してくれるか?できれば、自分の素性も偽りなく明かしてくれればありがたい」

 ディーノは再び、質問を持ち掛けた。ノエルは不服な反応はせず、素直に頷き要望に従う。

「私はかつて、56もの天種族で結成された12万の連合部隊を率いる隊長として、悪魔との戦争に出向き、幾度もの戦果を上げた。宝物拠点の奪還に成功すると両軍の間に休戦協定が結ばれ、その後はしばらく故郷に落ち着いた。その際にナザエル様と出会い、騎士団の一員となった私は新たな舞台を与えられ、第25空挺部隊に配属されたの」

「ナザエル・・・・・・騎士団の指導者か・・・・・・」

 ルシールは横から口を挟むように、独り言を口にする。

「では何故、そこまで優秀だったあなたが捕まったんですか?」

 デオドールがおもむろに聞くと

「最初は騎士団の仕事に誇りを感じていた・・・・・・でもある日、知ってしまったの。秩序をもたらす事を名目に、人間の世界に降臨した騎士団の真の目的は平和な統治ではなく、ただの弱者に対する支配なのだと・・・・・・」

 その時初めて、ノエルの明るい表情が曇る。

「やっぱりね・・・・・・僕達、教団が睨んだ通り、騎士団はこの世界の征服を企んでいたのか」

 読みが的中した事にクロムが納得し、ノエルが改めて続きを話す。

「騎士団の邪悪な陰謀を知ってしまった私は、この事を天界の元老院達や大天使であるミカエル様に報告しようと、組織の目を盗んで逃げだした。でも、結局は逃亡がバレて捕まって・・・・・・裏切り者への制裁は酷いなんて言葉じゃ、足りなかったよ。もし、このまま助けが来なかったらアザエール砦で処刑されてただろうね。あなた達は命の恩人だよ」

「もしかして・・・・・・君に翼がないのは・・・・・・」

 レナが予め悟っていた言い方をすると

「うん、騎士団の裁判にかけられた後、見せしめとして切り落とされた。もう、空へ羽ばたく事もできないし、二度と故郷の天界には帰れない・・・・・・翼のない天使に価値なんてないよね・・・・・・」

 ノエルは落ち込んで肩に手を乗せると、かつては翼が生えていた自身の背中を振り返る。分かりづらいが、服が被さった肩甲骨部分には血らしき染みが滲む。

「そんな事ない!ノエルがリクの命を救ってくれたから、誰も絶望しなくて済んだ!あなたも私達にとって命の恩人だよ!だから、価値がないなんて言わないで!翼がなくても、ノエルは立派な天使だよ!」

 ルシールは必死になって、ノエルの後ろ向きな発言を否定し、彼女を慰める。救われた事を改めて実感したリクとソフィは良心の呵責に苛まれ、突きつけた剣先を地面に下ろす。

「あっ、さっきの不思議な力の事?実はこれも奇術で種があるんだ」


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