ダーク・ファンタジー小説

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黒いリコリスの教団
日時: 2019/07/01 15:43
名前: シリアス (ID: CQQxIRdY)

初めまして、シリアスでございます。
文章はいかにも素人ですがこんな私でもよければ・・・・・・
悪口や皮肉、いたずらコメントなどは決してしないでください。
舞台はファンタジージャンルがぴったりの11世紀の中世時代です。
天使や悪魔、魔法や錬金術などが存在し一部の人しか知られていないという設定。
主人公は秘密の教団『リコリス』の指導者として敵組織である『セラフィムの騎士団』の支配を終わらせるために戦うというストーリーです。

オリキャラを募集しておりましたがここで締め切りとさせて頂きます。
たくさんのキャラクターを提供してもらい深く感謝しています。
どうもありがとうございました!


登場人物


【リコリス教団】

ルシール・アルスレン

本作の主人公。種族は人間と食人鬼のハーフ。
かつてレフレールの悲劇を終わらせた英雄のブレードガントレットを愛用している他、あらゆる武器を扱う事が可能。
14歳の少女ながらも剣技や暗殺などのスキルは抜群で仲間からの尊敬を集める。
リコリスの教団の長として仲間を率いセラフィムの騎士団と戦う。


ミシェル・ヴォーン

教団の一員でありルシールの親友である人間と魔女のハーフ。
特殊な魔族の家系を持ち魔女の魂を吸収し能力を向上させる特殊スキルを持つ。
幼い頃、ルシールと共に教団に加わって以来相棒として活動している。


ロベール・ド・カルツ

ルシールの右腕である老神父。種族は人間。
教団のまとめ役で主に情報を団員に提供する。
彼もまたル・メヴェル教信者殺害事件の被害者であり娘を失った。
そのため犯人として騎士団を疑っているが命懸けの任務をルシール達に任せている事に心を痛めている。


ルナリトナ

リコリス教団の一員。種族は人間。
錬金術や薬の調合に長けておりその技術を武器とする。
戦闘よりも仲間の援助が得意で剣術はとてもじゃないが苦手。
ディーノと気が合い共同で研究や発明に明け暮れている。


ソフィ・ツヴァイフェル

リコリス教団の一員。種族は人間と悪魔のハーフ。
双剣を使った剣術と黒魔術を得意とする。
悪魔と人間の混血ということで人間からも悪魔からも忌み嫌われているため身分を隠していた。
しかし、相棒のリクに対しては心を許しており行動をよく共にする。
反対に稽古の際に不覚を取らされたミシェルをライバル視している。


リク・フォーマルハウト

リコリス教団の一員。種族は人間。
好奇心が強く誰に対しても明るく接し純真無垢で真っ直ぐな性格。
誰かを守りたいという思いから最強の戦死になろうと努力している。
武器は普段、背中に背負った大剣を使用する。


ジャスティン・リーベ

リコリス教団の一員。種族はエルフ。
礼儀正しく真面目で純粋、人懐っこく誰とでも仲良くしようする性格。
教団に入る前は聖職者で魔を浄化する力で人々を救済していた。
弓を得意とするが武器がなくても戦えるようにと護身術程度だが肉弾戦もできる。


クロム・リート

リコリス教団の一員。種族はエルフ。
賢く冷静で、何事も要領よくこなす優等生。ジャスティンの異母弟。
一方でお節介ともいえるほどの世話焼きな面もあわせもつ。
魔法石の杖を扱い回復魔法や光属性の魔法が得意だが戦闘の際には闇属性や攻撃的な魔法を主に使用する。


カティーア・ヴァイン=トレート

リコリス教団の一員。種族は魔女と天使のハーフ。
19歳になるまで天使だけの小さな村に住んでいたが混血である事が原因で他の住民から迫害を受けていた。
そのため高潔で傲慢な性格と天使をいつも目の敵にする。
しかし、可愛いものやお菓子が好きで褒めると調子に乗る癖がある。
種族が同じという理由でミシェルとは親しくなり本当の姉妹のような関係を築いた。
武器はレイピアだが天聖滅拳(てんせいめっけん)という対天使用の拳法も使用できる。


ディーノ・アインス

リコリス教団の一員。種族はホムンクルス(クローン)。
好奇心が強く知らないものにはかなり興味を示す性格。"やはり俺は天才だ!"が口癖。
武器は魔法のカードで召喚獣を具現化させて戦わせる。
クローンのプロトタイプとして生み出され 人体実験の被験体として扱われてきた。
しかし、ある日生みの親である魔術師に連れられ、魔術師見習いとして修行していた。
ルナリトナと仲が良くしょっちゅう共に新たな発明に明け暮れている。


リベア・グロリアス

リコリス教団の一員。種族は人間。
数は少ないが大らかな感性を持ち基本的に優しい性格。争いや喧嘩が大嫌い。
かつて鬼神、邪神、破壊神などと呼ばれ人々を恐怖に陥れた堕天使アプスキュリテが封印されていた漆黒の魔剣を武器として扱う。
剣の中の堕天使が復活しないよう魔を祓う力を持つレナと共にいる。


レナ=ルナリア

リコリス教団の一員。種族は聖女。
男勝りで勝気、常に強気。抜け目がなく何があろうとも余裕な表情を崩さない意志の強さを持つ。
しかし、あまり他人に特別扱いや色目を使われるのを苦手としているため正体を明かさないようにしている。
女神に生み出された聖女で魔を祓う力を持ち純白の聖剣を扱う。
リベアの持つ魔剣の監視兼護衛のためリベアと共にいる。


テオドール・ヴェル・ドンゴラン

リコリス教団の一員。種族は竜人。
ほとんど全滅してしまった失われた種族、竜人の青年。
物静かで穏やかな性格だがその反面、戦略を練るのが得意な野心家。
戦闘の際は竜化し硬い鱗で覆われた鋼色の巨大なドラゴンになる。
他にも幻惑魔法も使用でき他人を操る事ができる。


【セラフィムの騎士団】


ナザエル・ド・ラシャンス

セラフィムの騎士団の指導者。種族は人間。
紳士的な態度で国民に接するが顔を覆い隠しており素顔を見た者はいない。
騎士団の中でも謎が多い人物である。


クリスティア・ピサン

セラフィムの騎士団に所属するナザエルの右腕で組織のナンバー2。種族は『エデンの熾天使』。
普段は淑女のように振る舞うが敵と失敗者には容赦しない非情な性格。
騎士団の中でも右に出る者がいない程の才色兼備の持ち主。
武器はブレードガントレット『アルビテル』を愛用している。


キルエル

イスラフェル聖団の高位の大幹部を務める少女。種族は『エデンの熾天使』。
明るく無邪気だがどんな非情な命令でも楽しそうに実行する残忍な性格で人間を見下している。
聖天弓フリューゲルを扱い敵の殺戮を楽しむ。


ナデージュダ・ペトラウシュ

イスラフェル聖団に雇われている暗殺者。種族は『ダークエルフ』。
各地で差別され酷い仕打ちを受けておりダークエルフという理由で両親と妹を人間達に殺された過去がある。
1人生き残った彼女は暗殺組織に拾われ以来、暗殺の世界に生きる事になる。
イスラフェル聖団に雇われる形でルシールと対峙するが実際は聖団に団員達を人質に取られおり無理矢理従わされている状態。
多彩な武器に黒魔術や死霊魔術も扱える。


用語集


リコリス教団

セラフィムの騎士団に不信を抱いた者達が集って結成された秘密結社。
ルシールが設立し教団のメンバーは聖団の実態を探ろうと活動している。
組織の紋章は黒いリコリス。

セラフィムの騎士団

レフレールの守護を宣言した組織。
大半が天使で構成されており人間などの他種族はほとんどいない。
治安維持のためレフレールを併合するが国民からの信頼は薄く良くない噂も流れている。
組織の紋章は羽の生えた少女。

レフレール

フランス西部に位置する架空の孤島。
1192年にカトリック教会諸国の属国となりイスラム軍と戦った。
文化を吸収され宗教対象がキリスト教となる。

ル・メヴェル教

レフレールが属国となる前に崇拝されていた宗教。
1192年に信仰を禁止されカトリック教会が建てられた。


……オリキャラ提供して頂いたお客様……

そーれんか様
つっきー様
Leia様
エノク・ヴォイニッチ様
リリコ様
Rose様
あいか様
ブレイン様


【お知らせ】

2018年夏の大会では皆様の温かい評価により銅賞を受賞しました!
本当にありがとうございました!腕の悪い素人ですがこれからもこのシリアスをよろしくお願いします!

読みにくいページの修正を開始しました。文章はほとんど変わっておりません。

Re: 黒いリコリスの教団【オリキャラ募集中】 ( No.25 )
日時: 2019/03/16 10:20
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

 一足先に晩餐を終わらせルシールはソフィの伝言に従いロベールの居場所へ向かった。この隠れ家である教会の最上階は彼の部屋が存在する。ロビーに負けないくらいの広い大きさで主な任務はそこで言い渡される。いわゆる本部の中枢を意味し重要な会議も行われていた。かつて宴の場だったその場所は今やセラフィムの騎士団の実態を暴くための本部と化していたのだ。得た情報は全て細かく書類に記録されこれからの戦況に役立てる。

「ロベール神父様、お呼びでしょうか?」

 ルシールはノックをせず最上階の扉を開いた。

「おお・・・・・・ルシール。やっと来ましたか。どうぞここに座りなさい」

 キルリストの手入れを中断しロベールは振り向いた。ルシールを見つめ優しく微笑んで椅子に手を差し伸べる。次にテーブルに上に用意されていたハーブティーをコップに注ぐ。片方のお茶を向かいの咳に置く。

 『ロベール・ド・カルツ』はリコリス教団の師であり団員のまとめ役である。今は数少ないル・メヴェル教の宣教師でありカトリック教会諸国の併合が始まる前は司祭を務めていた。彼もまたル・メヴェル教信者暗殺事件の被害者でありたった1人の娘を失う。それがロベールの人生を変えリコリス教団設立のきっかけとなり多種族を集め教会を隠れ家に勢力を拡大し今に至る。事件の背後にセラフィムの騎士団の影を最初に疑ったのは彼だった。

「温かいうちにお飲みなさい」

 ロベールはルシールの向かいに座りお茶を音を立てず一口啜った。

「さっき下の階で何やら盛り上がっていたみたいですが何かあったのですか?」

「はい、ミシェルやルナリトナ、ソフィ達と楽しい話をしていたんです!」

 心配をさせないために嘘をつく。彼女にとって彼を不安にさせる事が何よりも嫌だった。指揮系統の混乱を及ぼすのを防ぐためでもあったが本当の理由は別にある。父親代わりでもある彼を困らせたくないのだ。

「ところで神父様、お話というのは・・・・・・」

「そうでした。あなたをここに呼んだのは・・・・・・」

 ロベールはさっき手入れをしていたキルリストに手をやった。高さも幅も広い額縁にかけられた数人の肖像画。赤いラインが繋がり共通の証を示している。だが、実際似顔絵を描かれているのは2人だけ。それ以外の絵は正体が明らかになっていないのか黒く塗りつぶされていた。頂点には素顔の見えない男性の姿、1番下の絵には天使の少女が描かれている。ロベールが説明を始める。

「知っている通りこれはこの国を併合しているセラフィムの騎士団を率いる幹部達、最高指導者は『ナザエル・ド・ラシャンス』という名の人間です」

「今でも信じられない。天使の軍勢を率いているのが人間なんて・・・・・・」

 ルシールも不思議に思いながら横やりを入れる。

「この男を抹殺すれば騎士団の指揮系統は混乱し彼らは戦意を失うでしょう。しかし・・・・・・」

 ロベールは残念ながらと話を中断した。

「騎士団がル・メヴェル教の信者を殺害しこの国を支配しようとしているという『証拠』がないんですね?」

「その通り、それを見つけない限り彼の抹殺は不可能。こちらが賊軍となります」

 ルシールは何か手はないのかと問いただした。するとロベールは1番下の天使の絵を指差し

「この大天使は『アルベルナ・クディニー』という騎士団の幹部の1人です。彼女の情報を調べるのには2ヶ月の時間を費やしました」

 そう言ってこの人物の説明に切り替える。

「アルベルナは聖騎士団長として隣町の巡回を行っています。人々からの評判も良く教会に訪れは必ず祈り捧げるそうです。彼女は聖団の中でも下の立場ですがこの国に来る前は『エルサレム奪還戦』で名を上げた有能な騎士です。この国の人々からは『白銀の聖女』と崇められているほど」

 ロベールは緊張感のこもった声で言った。ルシールは真逆に余裕そうな表情を変えず

「で、その天使をどうしてほしいんですか?」

 と淡々と聞く。ロベールは不安そうに下を向き少しの間黙り込んだ。重くなった口を簡単に開いてくれそうになかった。だが一刻の猶予もないのか息を吐き言葉を出した。

「いくらこの国を解放するためとはいえ・・・・・・まだ若いあなた達を殺し合いに行かせるのはとても心が痛みます・・・・・・ですが私は不幸を背負ったただの老いた人間・・・・・・もし行けるのなら自分の力だけで戦いたい・・・・・・」

 そう言って彼は軽く涙を流しルシールを見下ろした。彼女も顔を合わせ悲しそうにロベールを見つめ彼の苦しみが何を意味しているのか理解した。ロベールは自分が安全な場所に居て危険な仕事は若い団員達に押し付けるのが辛いのだ。耐えがたい罪悪感が彼の心を蝕み見えない苦痛を与えているのだろう。その痛みはルシールにも伝わっていた。

「大丈夫です」

 ルシールは平気そうに元気に答えた。

「私には頼れる皆がいるから恐くなんかないです。だから神父様も気を落とさないで・・・・・・」

「ルシール・・・・・・!」

 ルシールは指示をしてほしいと頼みキルリストを見つめた。ロベールも承諾の意を見せると改めて任務の説明を再開する。

「アルベルナは必ず隣町に現れる。教会に入れば警備も手薄になり大きな隙ができると思います。そこで・・・・・・!」

Re: 黒いリコリスの教団【オリキャラ募集中】 ( No.26 )
日時: 2019/03/16 10:33
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

 翌日、稽古場にて・・・・・・


「せいっ!やあっ!」

 気がこもった強い叫びとレプリカの剣が交わる痛々しい響き。途切れる事のない闘気の音、流れ出る大量の汗。鋭い木刀が掠り傷跡を作りながら訓練は続く。教団の信者達は今日も惜しまず命懸けの戦いに向けて模擬戦を繰り返していた。1対1の真剣勝負、己の持つ実力だけが勝利を導く力となる。普段どんなに穏やかで争い嫌いな顔をしていても武器を持てば戦意の表情へ変わる。

 相手を睨め付け先に動くか一気に攻めるか戦法は様々。吐息を吐く隙も見せず決着が着くまで心を許さない。それが生き延びるために最も重要な方法なのだから。

「もっと剣を強く振るえミシェル!」

『カティーア』が相手の弱い振りを受け止めながら言った。

 体に汗は見えない、余裕そうに堂々と叫ぶ。

「ううっ・・・・・・!」

 その反面、ミシェルはもう限界なのか手の震えを抑えられなくなっていた。息も乱れ今にも倒れそうにただ剣を握るだけで精一杯だった。

「せいっ!」

 カティーアはそれでも容赦せず瞬時に剣を払い防御を崩す。

「うわっ!」

 バランスを崩したミシェルは短く声を上げ無様に倒れた。立ち上がる気力もないまま喉笛に剣先を向けられる。勝負はついた。相手の勝ちだ。

「はあ・・・・・・はあ・・・・・・!」

 ミシェルは倒れた姿勢を変える事無く何度も息を吐く。身体中が疲労で痛いのか指先すら動かせない様子だった。表現できない辛さに目から涙を流し"水・・・・・・"と呟いた。

「はあ・・・・・・それで教団の『ナンバー2』など務められるのか?ルシールならもっと私を手こずらせるぞ?」

 呆れた顔で倒れた相手を見下ろしため息をついた。2人の模擬戦はいつもこんな感じだった。ミシェルとカティーアは種族が同じ魔女というのが親しみのきっかけになった。『差別』という形で虐げられた痛みを分かち合い互いの苦しみを知る。その時からいつも一緒に行動するようになり本当の姉妹に見えるほど関係が深まっていた。教団の中でも2人の絆で右に出るものはいない程に。

「私はお前が心配なのだ、たった1人家族と呼べる者がいなくなったら・・・・・・」

「大丈夫だよ・・・・・・、カティーアお姉ちゃんがいる限り私は絶対死なないから・・・・・・!」

「ふっ、お姉ちゃんか・・・・・・」

 カティーアは照れくさそうに顔を赤らめその表情を隠した。

「やあっ!」「せいっ!」

 その隣ではエルフの両者が訓練を続けていた。女のエルフは拳に包帯を巻き素手で戦い見事なほど相手の攻撃を受け流し直撃を免れている。男のエルフもなかなかの剣技で攻め立てる。正確に急所を狙い攻撃が弾かれても一瞬の隙も見せなかった。ミシェル達の戦いなど子供のケンカに見えるほどの迫力だ。

「『ジャスティン』も『クロム』も切れがいいな。いつい見ても尊敬に値する」

 その話を聞いたのかエルフの2人組は戦うのをやめちょうどよく休憩にした。

「また、一緒に戦闘訓練ですか?」

 ジャスティンが友好的な態度で聞いた。

「ああ、ミシェルはまだ腕を磨く必要があるが実戦には十分に参加できる」

 カティーアは自信に満ちた口調で答えた。

「でも、あんまり無理をさせるのは良くないと思うよ?ミシェルちゃんはまだ幼いんだし・・・・・・」

 ロムの言葉にジャスティンは

「ミシェルは強い子、カティーアさんの言う通りもっと切磋琢磨するべきです」

「ほんとにそれが正しいのかな・・・・・・?」

 カティーアはようやく起き上がれるまでに体力が戻ったミシェルに助言を与えた。

「ミシェルちゃん、訓練をしながらあなたの戦い方を見ていたけどまわりを気にし過ぎです。」

「気にし過ぎ・・・・・・?」

「ええ、もっと目の前の相手に集中しなさい。余計なプレッシャーは捨てるのです」

 ミシェルは不安そうに下を向く。そんな事言われても簡単にできる事ではなかった。彼女はまだ皆より年下、身も心も秘めている魔力もまだ発達していない。それ以前に争いを嫌いできる事なら戦いには参加したくはないと考えていた。自分や仲間の死を何よりも恐れているのだ。

「心配しないで、僕達だって最初は君みたいにいつも辛かった。諦めないでやっていれば必ずなれるから」

 クロムも幼い少女の頭を優しく撫で応援する。

「・・・・・・うん、私もっともっと頑張ってクロムお兄ちゃんを追い越すから・・・・・・!」

 その言葉に3人は声に出して笑った。ミシェルは再び立ち上がり木刀を手に取る。ふらふらを全身を揺らして"もう1度・・・・・・"と声に力を入れ呟いた。

「いい根性だ。将来は教団のナンバー1だな?じゃあやるか!」

 4人は一時の休憩を終え訓練を再開した。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.28 )
日時: 2019/03/19 16:03
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

 しばらくしてそこへルシールがやって来た。そして大きな声をかけ皆を自分へ注目させた。剣の交わる音が止み団員達は稽古をやめ彼女に視線を浴びせる。

「皆、これからの任務の詳細を話すから一箇所に集まってくれないかな?」

 互いに顔を見合わせ私語をしながらルシールの前に行く。言われた通り全員部屋の中心に集合しばらばらの列を作った。

「任務?またいつものつまらない偵察か?だったら僕は行かないぞ」

 ルナリトナは実に嫌そうな口調で床に座り込んだ。

「まずは話を聞いてルナリトナ」

 そう言って団員達をとりあえずまとめる。静かになったのを確認したルシールはこれから行う任務の説明を始めた。まずは最初の標的である天使の肖像画を見せ

「さっき神父様から命令が下されたの。今から3日後、隣街へ行きこの天使を捕らえる。名は『アルベルナ・クディニー』、セラフィムの騎士団に所属する幹部の1人だよ。彼女は街で巡回を行っていて教会を訪れては必ず祈りを行う。その時をチャンスとして奇襲をかける。上階は見張りが手薄のはずだから屋根から侵入し見張りを密かに抹殺しながら不意を突くんだ」

 その事を耳にした教団の団員達は士気のある声を上げた。待ちに待った戦いに興奮し喜んでいる様子だった。その場にいたほとんどが腕がなるなと言わんばかりに気合いを入れ始める。

「いよいよ戦う時が来たんだね」

「本格的な実戦か、油断は禁物だ」

 そんなやる気に満ちた話し声がざわざわと聞こえてきた。

「・・・・・・ちょっと待て、アルベルナってあのアルベルナか!?」

 カティーアは少々驚いた口調で口を挟みルシールに問いかけた。

「知ってるの?」

 隣にいたミシェルが聞いた。

「知っているも何もアルベルナ・クディニーと言えばエルサレム奪還戦で多才な活躍を見せた騎士ではないか!戦の際には少数の部隊を率いほぼ1人で敵の軍勢を壊滅させた大天使だ。それ以来彼女は人々から崇拝され崇められている」

 それ聞いた団員達は水を差されたように静まり返った。想像以上の相手に恐れ戦いてしまったのだろう。簡単に自信を失い逃げ腰になる。

「そんな化け物が相手なんて本当に大丈夫なのか?下手すればこっちが全滅しかねないぞ?」

「俺もこの作戦には同意いたしかねるな。全員で襲っても勝てるかどうか・・・・・・」

 ソフィもリクも2人らしからぬ弱音を吐いた。

「他に容易に捕らえられる聖団の幹部はいないのか?そっちを狙った方が得策だと思うが?」

 ディーノの意見にルシールは残念そうに首を横に振った。絵を指差しその場にいる全員を鋭い目で睨み更に詳しく話を続ける。

「皆の気持ちは分かるけどこれしか方法がないの。神父様はアルベルナの情報を調べ上げるのに2ヶ月もの時間を費やした。他の標的を一から探すとなれば今度は1年くらい掛かっちゃうかも知れないし、こうしている間にも奴らは次の陰謀を進めているかも。今行動しなきゃ手遅れになってレフレールの支配よりも、もっと酷い事が起きるよ・・・・・・多分ね」

 最悪な想定を言われても皆は簡単に表情を変えない。あまりにもリスクが高いこの作戦に賛成の手を上げる者はいなかった。

「その幹部だけでも厄介過ぎる程なのにまわりにはそいつの配下である精鋭達がいるんだろ?」

「そうだろうね。もし逃げ場のない教会内で取り囲まれたら確実に命はないぞ?」

「間違いなく、数はこっちより上だしな」

「もし本当にやるつもりならもうロベール神父の作戦をもっと計画的に練った方がいいのでは?彼に文句がある訳ではありませんが皆さんの想像している通りこのままのやり方じゃ返り討ちは免れませんよ?」

 奥にいたデオドールが前に出て来て言った。実に冷静な態度でとりあえず作戦の改正を要求する。まず始めにいくつかの質問を上げる。

「教会の屋根から侵入し上階の衛兵達を下にいる標的に気づかれないように暗殺していくんですよね?ちなみにどのメンバーで行うつもりですか?」

「私とミシェルとルナリトナ、それとジャスティンとクロム」

「なるほど、アーチャー(弓兵)ほど隠密行動に適した者はいませんからね。魔術師もいれば心強いでしょう」

 デオドールは賢い組み合わせに感心しながら何度か頷いた。しかしすぐさま悩ましい表情に変え口に指を当て、次の問題に関した2つ目の質問をする。

「上からの奇襲はそれで成り立つでしょう。・・・・・・ですが問題は教会の出入り口付近、つまり衛兵が多い下の階です。そちらはどうするつもりですか?」

 についてルシールはそれを今話すところだと以心伝心に少し相好を崩した。

「もし中が騒ぎになったら外にいる天使達が増援として駆け込んでくる。それを阻止して包囲網を防ぐ必要があるよね?」

「その通りです。小賢しい下っ端さえ片付ければ作戦は大分容易になるでしょう」

「まず私達が建物に侵入して上階を一掃、そしたら窓から合図を送るから。それで奇襲チーム以外のここにいる全員がアルベルナの手下達に総攻撃をかける・・・・・・でいいかな?」

「ちょっと待って!」

 何かが引っかかったのかリクが横から口を挟んできた。デオドールの横に並んだ彼に全員が注目する。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.29 )
日時: 2019/03/19 16:17
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

「そのアルベルナとかいう大天使は人々から崇められているんだよな?カティーア、そう言ったな?」

「そうだが・・・・・・リク、お前は何が言いたいんだ?」

 カティーアを含む全員が訳が分からないまま互いに顔を見合わせた。リクは他者の反応を気にせずに理由を話す。最初に"これはとても大事な事だ"と皆に言い聞かせて

「もし、その情報が正しいのならアルベルナが訪れる教会の周囲には民衆で一杯になる。神がかり的英雄でである彼女を一目見ようと大勢の人々が集まるはずだ」

「そうか!そういう事か!」

 人ごみの中心にいたソフィは彼の言いたい事に気づき真っ先に声を上げた。他の団員達も意味を察したのか納得した様子で再びざわめき始める。

「そう、もしそこでどんちゃん騒ぎなどやらかしたら無論、関係ない人々も巻き添えになる。俺達が罪なき者達を傷つけ最悪殺してしまったら?教団は終わり、正義と誇りは地に堕ちるだろうね」

 リクはその言葉に黙り込んだ同胞をしばらく睨み付けた。そして軽く息を吐き出すと最後に"以上だ"と付け足しソフィの隣へ戻って行った。誤りのない正論を述べられルシールは何も言い返せなさそうだった。致命的な欠点を突かれ作戦は上階の奇襲まで遡ってしまう。メンバーの中には戦略そのものを全て変えるべきだと言い出す者もいた。

「振り出しに戻ってしまいましたね・・・・・・ロベール神父に作戦に変えてもらうよう頼んだらどうですか?」

 両手を広げお手上げを表現するデオドールも頭が働かない様子。彼も最早どうでもいいと言わんばかりの態度で暇そうにあくびをした。

「僕が思うにもうこんな危ない任務は諦めてチャンスを待った方がいいと思うな。作戦に穴があるなら尚更危険だよ」

 多くの同胞達がルナリトナの意見に強く賛同している事が窺える。やはりこの任務、皆には荷が重すぎたのだろうか?士気が確実に下がっている。これでは当然、戦えようがない。ルシールも素直に諦めかけた時だった。


「私は納得がいかんっ!!」


 誰かが力を入れて叫び今の空しい状況を否定した。突然の怒鳴り声に不意を突かれ団員達がびくっと身体を震わせる。木刀を強く握りしめ、怒りを抱くカティーアがいた。

「カティーアお姉ちゃん・・・・・・?」

 ミシェルがおそるおそる背の高い魔女を見上げる。闘気に恐れおののいたまわりを鋭く紅い瞳で見回し

「貴様らは何のために教団に加わったんだ!?ただ訓練だけを重ねて飯を食うためか!?私はそんな腰の抜けた組織に忠を誓った覚えはないぞっ!」

 彼女は怒りに狂いルシールに駆け寄った。流石にこれはまずいと感じたのか団員達数人が止めに入る。鍛え上げられた体を必死に抑え付け、何とか暴力沙汰を防ぐ。

「ルシール!教団の指導者は貴様であろう!?その貴様が仲間をまとめられず戦いを放棄してどうするっ!?」

 カティーアは我を忘れ訴え続ける。

「貴様らもただ指をくわえ敵の陰謀を見届ける事に悔しさを感じないのかっ!?今行動を起こさなければ負け犬と同じだっ!!」

「もうやめてお姉ちゃんっ!!」

 ミシェルもとうとう泣き出してしまい涙を零しながら彼女の服を掴んで離さなかった。

「カティーア落ち着け!」

「仲間割れしている場合じゃありませんよ!」

 団員達が食い止めるも手がつけられない。

「黙れっっ!!臆病者共は引っ込んでいろっっ!!」

 彼女は暴れるのをやめなかった。その時だった。


「いい加減にしろっ!!」


 リクが思いきり怒鳴りつけ広い空間に落雷の如く大声が響き渡った。今の一言で我に返ったカティーアはようやく大人しく身体の力を抜く。冷静さを取り戻すも悔しそうに歯を噛みしめながら目の前のルシールを殺意に似た形相で見つめる。静まり返った稽古場でミシェルの泣き声だけが聞こえていた。

「とりあえず皆さん、頭を冷やしましょう。焦っているうちはいい案なんて浮かびませんよ」

 デオドールもイライラした感情を抑えながら言った。

「長い特訓で疲れているから尚更の事ですよね・・・・・・?今はゆっくり休んでください・・・・・・」

「恐がらせてしまったようですまないな、ミシェル・・・・・・」

 興奮で続けて息を吐き出すカティーアはふらふらとミシェルの元へ行き座り込む。震えた両腕でそっと抱きしめ頭を優しく撫で、そして同じく涙を流した。

「私は悔しいのだ・・・・・・あの忌まわしい天使共が種族の違いだけで迫害を行い、それだけに飽き足らず罪なき人々を力で支配する事が・・・・・・生を授かった者として断じて許せん・・・・・・!」

「うわああああ!!」

「虐げられた時からずっと同じ辛さを味わった誰かを守りたいと願っていた・・・・・・そんな時、お前と出会った・・・・・・嬉しかった・・・・・・だからこの世の全てが敵になってもお前だけは・・・・・・」

 団員達は羽を休め疲れを癒しながらそんな2人を眺めていた。ある者は下を向き何かを思い、ある者は表情を緩める。ルシールも皆に合わせ一息ついた。持っていた肖像画を床に置き手を上にあげ背伸びをする。軽く息を吐き出すと眠るような形で寝そべった。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.30 )
日時: 2019/03/19 16:27
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

「カティーアさん・・・・・・その闘争心と信念、心に深く染み渡りました」

 やがてジャスティンが重くなった口を開く。尊敬された事にカティーアは何食わぬ顔で彼女を見た。

「あなたが本当に誰かを守りたい・・・・・・その誓いを捨てないなら私もあなたと戦います」

「姉さんが戦うなら僕も戦うよ。訓練に明け暮れる毎日に飽き飽きしてきたところだしね。早く本当の戦がしたいよ」

 クロムも顔をほころばせて戦意の素振りを見せる。カティーアの熱意がうつったのか他の団員達も目が覚めたように戦意を抱いた。中には武者震いで身体を震わせる者も。

「『カティーア嬢』の言う通り、よくよく考えれば戦いがないんじゃ武器を発明する意味もないしな。白い、命懸けの作戦に俺も乗る」

 ディーノも覚悟を決め任務に肯定すると持っていた魔法のカードを切り適当に1枚を抜き取り自慢げに眺めた。

「俺は争い事態嫌いだけど1度でいいから天使共の翼を引き千切ってみたかったんだ」

「君って優しい性格の割には恐ろしい事言うんだね?・・・・・・まあ、それぐらいの冷酷さがなきゃこの仕事はやっていけないかな?」

 リベアの狂気の発言にレナは呆れながら苦笑した。

「なんだ、結局やるのか?だったら僕も混ぜてもらう。皆にだけかっこいい死に方はさせないからね」

「それは違うぞルナリトナ、僕達は死にに行くんじゃない。勝つために行くんだ」

 ルナリトナは"そんなの分かってる"と無邪気に破顔する。気がつけばここにいる団員のほとんどが勝機の薄い戦いに賛成に意見を述べていた。弱腰な態度が消え武器を持つべきと士気が高まっているのが分かる。

「精鋭達は皆、血の雨を浴びる覚悟ができたようだな?戦いたくない者は隠れ家で泣いていればいい・・・・・・で、肝心の"ルシール"はどうするつもりだ?」

 カティーアの質問にルシールは頭だけを起こし何食わぬ顔で彼女を見た。強がりも動揺もしていない実におもむろな態度で淡々と答える。

「私は最初から戦うつもりだったよ?ようやく皆が団結してくれて安心してたとこ」

「ふっ、ぬかしおるわ」


 あれからいくらかの時間が経過し、全員の団結と長い休息に団員達は好調を取り戻しつつあった。さっきまで怒鳴り合っていた荒々しい空気は仲間同士笑い合うほど穏やかになっている。ミシェルもとうに泣き止んだもののカティーアの傍から離れなかった。背中を撫でられ眠そうに濡れた瞳をしょぼしょぼさせている。気持ちよさそうに微笑むと

「ごほっ・・・・・・それでは皆さん。めでたく意見が重なったところで作戦会議を再開しようではありませんか?」

 デオドールが故意に咳き込み皆を注目させる。

「おっ、待ってました!デオドール軍師の神がかり的戦略!」

 ルナリトナが調子に乗ってからかう。今の発言を聞いた団員達が彼に注目し拍手を喝采する。デオドールは照れ臭そうに顔を赤らめ頭をかいた。

「えっと・・・・・・じゃあ、まずは僕なりに策略を考えて直してみましたので聞いて下さい」

 そう言って彼は賑やかだった皆を静かにさせ最初に

「まず、教会の屋根から侵入するメンバーの件ですが変えた方がいいかと。クロムさんを奇襲部隊から外し代わりにカティーアさんを入れましょう」

「えっ?どうして僕が?」

 少々納得できないクロムにデオドールは理由を説明する。

「クロムさんの魔法は教会付近の戦いで必要不可欠になるからです。回復魔法を使えるのは現にあなただけですからね」

 するとソフィが思わず立ち上がり話の途中で勢いよく問いかけた。

「ちょっと待てっ!"教会付近"という事はまだその考えを諦めていないと言うのか!?そこで戦を始めればリクの言った通り関係のない市民にも被害が及ぶぞ!?」

 それに対しデオドールは表情を変えずに淡々と答える。

「ですが外の衛兵を排除しなければ建物内での戦いが不利になるのは目に見えています。ルシールさんの言う通り増援を防がなければ勝機はないでしょう」

「しかしどうすれば・・・・・・!?」

「そこである案を練ったのですが。まずこれには『ルナリトナ』さん、あなたの力が必要です」

「・・・・・・え?ちょ、ちょっと待て!・・・・・・僕が!?」

 突然のご指名にルナリトナは口を震わせた。驚きを隠せず重要視された事に緊張とプレッシャーを抱く。デオドールはそんな様子を気にせず言葉を続ける。

「はい、上階を制圧したらルナリトナさんだけそこに留まり窓から教会の出入り口にあなたが作った武器である爆薬を落として下さい。そうすれば下階にも不意を突けると同時に民衆は襲撃に怯え散り散りにその場から逃げていくでしょう。教会付近に残ったのが天使だけと確認したら飛び道具などでまた不意を突き斬り込めば増援を効率よく叩く事ができるはずです」

「なるほど、なかなか悪くない策だ!」

「じゃあ逆に、教会側の部隊が危なくなったらどうするんだ?」

「その時は俺が助けに行くよ。増援は多い方がいい。天使共を早く片付けて標的の逃げ場をなくしてやろうぜ?」

「・・・・・・大分まとまってきましたね。何か他に質問がある人はいませんか?」

 デオドールが念のために目の前の集団に問いかけた・・・・・・が、意見を唱える者は現れない。彼の作戦に反対する者は1人もいなかった。逆にここにいる全員の士気が大きく高まったようにも見える。団員達は異議なしと意見をまとめ尊敬の眼差しを彼に向け、そして最後にもう一度だけ拍手喝采を送った。


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