ダーク・ファンタジー小説
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- 黒いリコリスの教団
- 日時: 2019/07/01 15:43
- 名前: シリアス (ID: CQQxIRdY)
初めまして、シリアスでございます。
文章はいかにも素人ですがこんな私でもよければ・・・・・・
悪口や皮肉、いたずらコメントなどは決してしないでください。
舞台はファンタジージャンルがぴったりの11世紀の中世時代です。
天使や悪魔、魔法や錬金術などが存在し一部の人しか知られていないという設定。
主人公は秘密の教団『リコリス』の指導者として敵組織である『セラフィムの騎士団』の支配を終わらせるために戦うというストーリーです。
オリキャラを募集しておりましたがここで締め切りとさせて頂きます。
たくさんのキャラクターを提供してもらい深く感謝しています。
どうもありがとうございました!
登場人物
【リコリス教団】
ルシール・アルスレン
本作の主人公。種族は人間と食人鬼のハーフ。
かつてレフレールの悲劇を終わらせた英雄のブレードガントレットを愛用している他、あらゆる武器を扱う事が可能。
14歳の少女ながらも剣技や暗殺などのスキルは抜群で仲間からの尊敬を集める。
リコリスの教団の長として仲間を率いセラフィムの騎士団と戦う。
ミシェル・ヴォーン
教団の一員でありルシールの親友である人間と魔女のハーフ。
特殊な魔族の家系を持ち魔女の魂を吸収し能力を向上させる特殊スキルを持つ。
幼い頃、ルシールと共に教団に加わって以来相棒として活動している。
ロベール・ド・カルツ
ルシールの右腕である老神父。種族は人間。
教団のまとめ役で主に情報を団員に提供する。
彼もまたル・メヴェル教信者殺害事件の被害者であり娘を失った。
そのため犯人として騎士団を疑っているが命懸けの任務をルシール達に任せている事に心を痛めている。
ルナリトナ
リコリス教団の一員。種族は人間。
錬金術や薬の調合に長けておりその技術を武器とする。
戦闘よりも仲間の援助が得意で剣術はとてもじゃないが苦手。
ディーノと気が合い共同で研究や発明に明け暮れている。
ソフィ・ツヴァイフェル
リコリス教団の一員。種族は人間と悪魔のハーフ。
双剣を使った剣術と黒魔術を得意とする。
悪魔と人間の混血ということで人間からも悪魔からも忌み嫌われているため身分を隠していた。
しかし、相棒のリクに対しては心を許しており行動をよく共にする。
反対に稽古の際に不覚を取らされたミシェルをライバル視している。
リク・フォーマルハウト
リコリス教団の一員。種族は人間。
好奇心が強く誰に対しても明るく接し純真無垢で真っ直ぐな性格。
誰かを守りたいという思いから最強の戦死になろうと努力している。
武器は普段、背中に背負った大剣を使用する。
ジャスティン・リーベ
リコリス教団の一員。種族はエルフ。
礼儀正しく真面目で純粋、人懐っこく誰とでも仲良くしようする性格。
教団に入る前は聖職者で魔を浄化する力で人々を救済していた。
弓を得意とするが武器がなくても戦えるようにと護身術程度だが肉弾戦もできる。
クロム・リート
リコリス教団の一員。種族はエルフ。
賢く冷静で、何事も要領よくこなす優等生。ジャスティンの異母弟。
一方でお節介ともいえるほどの世話焼きな面もあわせもつ。
魔法石の杖を扱い回復魔法や光属性の魔法が得意だが戦闘の際には闇属性や攻撃的な魔法を主に使用する。
カティーア・ヴァイン=トレート
リコリス教団の一員。種族は魔女と天使のハーフ。
19歳になるまで天使だけの小さな村に住んでいたが混血である事が原因で他の住民から迫害を受けていた。
そのため高潔で傲慢な性格と天使をいつも目の敵にする。
しかし、可愛いものやお菓子が好きで褒めると調子に乗る癖がある。
種族が同じという理由でミシェルとは親しくなり本当の姉妹のような関係を築いた。
武器はレイピアだが天聖滅拳(てんせいめっけん)という対天使用の拳法も使用できる。
ディーノ・アインス
リコリス教団の一員。種族はホムンクルス(クローン)。
好奇心が強く知らないものにはかなり興味を示す性格。"やはり俺は天才だ!"が口癖。
武器は魔法のカードで召喚獣を具現化させて戦わせる。
クローンのプロトタイプとして生み出され 人体実験の被験体として扱われてきた。
しかし、ある日生みの親である魔術師に連れられ、魔術師見習いとして修行していた。
ルナリトナと仲が良くしょっちゅう共に新たな発明に明け暮れている。
リベア・グロリアス
リコリス教団の一員。種族は人間。
数は少ないが大らかな感性を持ち基本的に優しい性格。争いや喧嘩が大嫌い。
かつて鬼神、邪神、破壊神などと呼ばれ人々を恐怖に陥れた堕天使アプスキュリテが封印されていた漆黒の魔剣を武器として扱う。
剣の中の堕天使が復活しないよう魔を祓う力を持つレナと共にいる。
レナ=ルナリア
リコリス教団の一員。種族は聖女。
男勝りで勝気、常に強気。抜け目がなく何があろうとも余裕な表情を崩さない意志の強さを持つ。
しかし、あまり他人に特別扱いや色目を使われるのを苦手としているため正体を明かさないようにしている。
女神に生み出された聖女で魔を祓う力を持ち純白の聖剣を扱う。
リベアの持つ魔剣の監視兼護衛のためリベアと共にいる。
テオドール・ヴェル・ドンゴラン
リコリス教団の一員。種族は竜人。
ほとんど全滅してしまった失われた種族、竜人の青年。
物静かで穏やかな性格だがその反面、戦略を練るのが得意な野心家。
戦闘の際は竜化し硬い鱗で覆われた鋼色の巨大なドラゴンになる。
他にも幻惑魔法も使用でき他人を操る事ができる。
【セラフィムの騎士団】
ナザエル・ド・ラシャンス
セラフィムの騎士団の指導者。種族は人間。
紳士的な態度で国民に接するが顔を覆い隠しており素顔を見た者はいない。
騎士団の中でも謎が多い人物である。
クリスティア・ピサン
セラフィムの騎士団に所属するナザエルの右腕で組織のナンバー2。種族は『エデンの熾天使』。
普段は淑女のように振る舞うが敵と失敗者には容赦しない非情な性格。
騎士団の中でも右に出る者がいない程の才色兼備の持ち主。
武器はブレードガントレット『アルビテル』を愛用している。
キルエル
イスラフェル聖団の高位の大幹部を務める少女。種族は『エデンの熾天使』。
明るく無邪気だがどんな非情な命令でも楽しそうに実行する残忍な性格で人間を見下している。
聖天弓フリューゲルを扱い敵の殺戮を楽しむ。
ナデージュダ・ペトラウシュ
イスラフェル聖団に雇われている暗殺者。種族は『ダークエルフ』。
各地で差別され酷い仕打ちを受けておりダークエルフという理由で両親と妹を人間達に殺された過去がある。
1人生き残った彼女は暗殺組織に拾われ以来、暗殺の世界に生きる事になる。
イスラフェル聖団に雇われる形でルシールと対峙するが実際は聖団に団員達を人質に取られおり無理矢理従わされている状態。
多彩な武器に黒魔術や死霊魔術も扱える。
用語集
リコリス教団
セラフィムの騎士団に不信を抱いた者達が集って結成された秘密結社。
ルシールが設立し教団のメンバーは聖団の実態を探ろうと活動している。
組織の紋章は黒いリコリス。
セラフィムの騎士団
レフレールの守護を宣言した組織。
大半が天使で構成されており人間などの他種族はほとんどいない。
治安維持のためレフレールを併合するが国民からの信頼は薄く良くない噂も流れている。
組織の紋章は羽の生えた少女。
レフレール
フランス西部に位置する架空の孤島。
1192年にカトリック教会諸国の属国となりイスラム軍と戦った。
文化を吸収され宗教対象がキリスト教となる。
ル・メヴェル教
レフレールが属国となる前に崇拝されていた宗教。
1192年に信仰を禁止されカトリック教会が建てられた。
……オリキャラ提供して頂いたお客様……
そーれんか様
つっきー様
Leia様
エノク・ヴォイニッチ様
リリコ様
Rose様
あいか様
ブレイン様
【お知らせ】
2018年夏の大会では皆様の温かい評価により銅賞を受賞しました!
本当にありがとうございました!腕の悪い素人ですがこれからもこのシリアスをよろしくお願いします!
読みにくいページの修正を開始しました。文章はほとんど変わっておりません。
- Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.31 )
- 日時: 2019/03/19 16:45
- 名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)
「ところで、教会にはここにいる全員で行くんだよね?」
リベアが独り言のように聞いた。
「相手は大軍、こっちの数も多い方がいいだろうね」
その質問には訓練用の木刀をいじりながらクロムが答えた。
「その・・・・・・『クレイス』はどうする?あいつも連れて行くのか?」
リベアがついでにもう1つ問いかける。彼の名が耳に入った途端、ミシェルが急に起き出した。頭だけを振り向かせ不安そうな表情を浮かべる。ミシェルを抱いたカティーアがそれは無理だと否定的に言った。
「貴様らも知っての通りあの者は数日前の高熱を理由に医務室で休養中だ。大分良くなったようだが戦には連れて行けない。はっきり言えば病人は足手まといだ」
「そうだな・・・・・・残念だがあの"犬っ子"に手柄を立てさせるのはまた今度にした方がいいな。あの状態で行けば正に犬死だ」
ディーノもジョーク混じりに彼女の意見に合わせる。
「クレイスくん・・・・・・戦いにはいかないの・・・・・・?」
ミシェルが安堵し嬉しそうな口調で言った。
「ああ、だからお前が恋人の分まで戦うんだぞ?」
「こ、恋人じゃないよっ・・・・・・!」
恥ずかしがる顔を必死に隠すミシェルに4人は声を上げて笑った。
「よし、皆の意思がようやく1つにまとまったね?それじゃあ各員、今まで通り訓練を怠らず当日に備える事。武器の手入れや装備も忘れないようにね?」
ルシールが大勢の前に出てそれだけ言った。その言葉を最後に長かった任務の説明は終わった。彼女は床に置きっぱなしだった天使の絵画を手に取ると気が抜けたようなあくびをする。
「いよいよ本番か・・・・・・!軽い怪我で済めばいいがな・・・・・・」
「実戦なんて緊張するな・・・・・・死んでもいい覚悟で教団に入ったがやっぱ震えが止まらない」
「教団のほとんどが実戦経験のない奴らばかりだから尚更だ」
それでも初めての戦いに恐さを隠せない団員達も数人いた。すると
「それなら心配は無用だ」
話を聞いていたソフィとリクが自信に満ちた表情で
「貴様らが危うくなったら私達が助太刀してやる。相手が集団なら1人で立ち向かわずなるべく単独の者を狙え。生き残りたければそうしろ」
「それに精鋭達は俺とソフィだけじゃないから安心して。あまり前に出過ぎないようにすれば囲まれずに済む」
と見習い達を安心させ丁寧にアドバイスを加える。
「はあ〜・・・・・・」
ここでの役目を終えたルシールは安堵の吐息を吐き出す。大丈夫だと確信を持ち少しの間、丸く団結した仲間達を眺める。戦意に満ち溢れ盛り上がった稽古場を背に彼女はそっと立ち去って行った。
「少し手こずっちゃったけど何とか皆に任務の内容を伝えて来ましたよ」
そう言ってアルベルナの肖像をロベールに返す。
「ご苦労様でした。お茶でも飲んで一息ついて下さい」
ルシールはロベールの部屋に足を運ぶ。かなり疲れた様子で注がれたばかりのお茶を一口啜った。向かいに座る彼はそれを聞き嬉しそうな、または切なそうな複雑な表情を浮かべる。"そうですか"の一言でそれ以上の詮索はしなかった。
「いよいよですね・・・・・・?この作戦が上手くいけば我々にとっては大きな一歩となるはずです」
命懸けの当日を心配するロベールはぎこちない様子だった。うずうずと落ち着けない仕草が身体に出ていた。よく見るとカップを持つ手が微小に震えている。
「初めての大きな任務に緊張するけど必ずやり遂げてみせますから、だから神父様は・・・・・・」
ルシールは幾分、心が楽になるように平気そうな言葉をかけるがそれは途中で途切れた。すると彼は何を思ったのかローブの首元をずらし身に着けていたネックレスを取り外したのだ。ル・メヴェルのロザリオを目の前にいる少女に差し出す。
「神父様・・・・・・?」
ただならぬ行動にルシールは不安を募らせる。
「これをあなたに託すのは"2つの意味"を込めているからです」
「2つの意味?」
「1つは御守りとしてです。ル・メヴェルは信じる者を救済する慈悲深い神です。きっとあなたを守ってくれるでしょう」
「じゃあ、もう1つの意味って?」
質問にロベールはすぐには答えず祈るように両手を組む。流れ落ちた涙を袖で拭い目を鋭くし頷くと何かの覚悟を決めたようだった。そして今まで以上に真面目な表情で
「もう1つの意味は"形見"です」
胸を締め付けられる告白にルシールは深刻そうな顔をした。ロベールは相手の反応を気にせず後を続ける。
「娘を失い憎しみを抱いてここ数年間生きてきましたが私はもう先は長くない。おそらくもってあと数年でしょう。天使となった肉親に手を引かれ仇の最期を見る事は出来ないかも知れません。それ以前に取り残される我が子同然のあなた達が心配で仕方ないのです。もし私がこの世を去ったら・・・・・・ルシール、あなたが私の代わりとなって役目を務めて下さい。教団の柱を支えられるのはあなたしかいないのだから」
ルシールは嫌と言わんばかりに泣き出してしまった。ロザリオを受け取るのを拒み彼の元に返した。
「そんな事言わないで・・・・・・!私達にとっても神父様は本当のお父さんみたいなものだもん・・・・・・!いなくなってしまったら寂しいよ・・・・・・!」
しかし、ロベールは厳しかった。椅子から立ち上がりロザリオを手にするとそっとルシールを撫でる。
- Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.32 )
- 日時: 2017/11/26 21:56
- 名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)
参照500突破!読者の皆様、本当にありがとうございました
皆様が提供してくれたオリキャラがたくさん、感謝しています!
お陰で小説を書くのがとても楽しいです!
これからも努力を惜しまず作品を書き続けさせて頂きますのでこのシリアスを今後ともよろしくお願いいたします!
- Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.33 )
- 日時: 2019/03/23 08:05
- 名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)
「ルシール、これは宿命なのです。生あるものはやがては死に天に帰る・・・・・・それはあなたもミシェルも同じ。恐れてはいけません。誰かを失う苦しみに立ち向かえばより強くなれるのです。私もそうやって人生を辿ってきました」
泣き続けるルシールの背後へ回り彼女の首にロザリオをかけた。オニキスの鎖を止め紋章が刻まれた銀をぶら下げる。
「あなたは強い子です。どんな困難をも乗り越えられると信じています」
「ぐすっ・・・・・・!神父様がいない世界なんて嫌だよ・・・・・・!」
「大丈夫です。死ぬと言ってもいつか、今日ではありませんよ」
ロベールはようやく相好を崩した。2人は本当の親子のように抱き合う。涙が枯れるまでしばらくの間、互いに離さなかった。
「あなた達ならどんな困難をも乗り越えられる。自分達の役目を果たす事だってできるはずです」
「・・・・・・うう・・・・・・ぐすっ・・・・・・!」
ルシールは顔を下に向けたまま頷いた。
「いい子だ・・・・・・疲れたでしょう?涙が枯れるまでここで休んでいなさい」
「うん・・・・・・!」
少女は老いた両腕に包まれ静かに目をつぶった。
あれから少しだけ悲しみから立ち直ったルシールは階段を下り真っ直ぐ武器庫へと向かった。自分が使う武器の手入れを済ませ数日後の戦いに備えるためだ。薄暗くひんやりとした廊下、いくつも並ぶ扉を通り過ぎ辿り着くと時間をかけて鉄の扉を開く。部屋に入ると静かだった人がいないわけではなく中で1人、ディーノが教団が扱う武具の手入れを行っていた。テーブルに並べられた剣などを丁寧に磨き刃こぼれがないかしっかりと点検する。彼は訪れたばかりのルシールの存在に気づき手入れを終えたばかりの武器を置いて友好的な表情を作った。
「よう、調子はどうだ?もしかして武器を見に来たのか?」
「うん、まあね」
「嬢ちゃんのは確か、ブレードガントレットだったな?」
ディーノは一旦その場を離れ倉庫の奥へ入って行き刻印の掘られた箱を持って、また戻って来る。蓋を開けてみると鉄と革で巧妙に作られたガントレットが入っていた。一見するとどこにでもあるようなただの腕の鎧にしか見えない。
「これが嬢ちゃんので間違いないか?」
箱の中身を見せ一応の確認を取る。
「間違いない」
ルシールは即答し早速、ガントレットに手を伸ばしたがディーノは触らせなかった。少し呆れたように"はあ・・・・・・"と呆れたような吐息をもらした。
「他人の物に口を出すつもりはないがもうちょっと大事にした方がいいな」
ルシールは無意識に首を傾げディーノは話を続ける。
「この前これを使って特訓したと言っていたな?恐らくブレードで木彫りの人形を相手に斬りつけていたんだろう。刃こぼれが酷かったぞ?これじゃ敵の攻撃を防いだ際に確実に折れてしまう」
説教ともいえる真面目な説明にルシールは反省の色を見せず頭をかいて舌を出した。
「いくつかの部分が欠けていたから溶かした鉄を使って修復しておいた」
「ありがとう、ディーノ」
「これは『異国の英雄』から授かった物なんだから大切にしろよ?」
「うん、分かってる」
聞き流すような返事をし早速、右腕に直してもらったガントレットを装着する。革紐を結びずれないように固定して手の甲を上げる。瞬時に手首から細い短剣ほどのブレードが飛び出した。
「ホントだ!前よりもブレードが綺麗になってる!」
感激している少女にディーノは自慢げな態度を取る。
「新品にしか見えないだろ?やっぱり俺は天才だ!」
「うん!ディーノは天才!」
ルシールも調子に乗って彼を煽てる。
「そんなに褒めないでくれ!照れてしまう!」
陰気くさい部屋で2人の愉快な笑い声が響く。ルシールはガントレットを外すと箱に詰め蓋をした。ディーノはその箱を受け取り元から置いてあった位置に戻す。
「ディーノのお陰で数日後の任務は安心だね。武器の心配はしなくていいみたいだし私は部屋で休む事にするよ」
「ああ〜、ちょっと待て」
部屋から去ろうとした少女を慌てて呼び止める。振り向くと彼が長い剣を抱えて戻って来た。
「まだ重要な話があるんだ」
そう言って鞘から刃を抜きテーブルに降ろした。ディーノが持ち出してきた武器は他とは異なる代物だった。鋼で作られたとか思えないほどの雪のような白さを放ち光が映らなくとも美しく輝きを放つ。目をこらせば刀身に何かの文字が刻まれているのが分かる。
「何それ!?」
一瞬で興味をそそられたルシールは新しい玩具に誘われた子供みたいに駆け戻って来た。顔をぐんと近づけ物珍しそうに眺める。
「細身のブレードだけじゃ心細いだろ?嬢ちゃん、これはお前に相応しい。戦いの時が来たら持って行け」
「いいの!?」
実に嬉しそうに喜ぶルシールに対し勿論だと肯定し説明を付け加える。
「こいつの名は"スヴェンの剣"、聖鉄を鍛え作られた。かつての持ち主は若き天使であり平和な村を盗賊の襲撃から守ったんだ」
「正に英雄の武器だね」
「ああ、これはただの武器ではなく"聖品"と呼ばれ強力な魔力を宿している。又とない代物だから大事に扱ってほしい」
ディーノは剣を再び鞘へ収め両手で抱える。
「何から何までありがとうディーノ。あなたが味方でよかった」
「例には及ばん。教団の一員として当然の役割を果たしているだけだ。懸命にな」
彼はふっと笑うと聖品を元の場所へ返しに行き武器の手入れを途中から始める。
「仕事の邪魔しちゃ悪いしそろそろ行くね?ちょっとの間だったけど楽しい一時だった」
「待て」
またしてもルシールは呼び止められた。
「まだ何かあるの?」
「ああ、こんな事俺のセリフには合わないが・・・・・・信じるんだ。自分や仲間の力を。そうすればどんな困難でも乗り越えられる」
ディーノの真剣な助言にルシールは微笑んで
「うん、私もそう思ってる。勿論、あなたもミシェル達も信じてるよ」
心を込めた返答を最後に武器庫の扉は閉ざされた。
- Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.34 )
- 日時: 2019/03/19 17:02
- 名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)
3日後 隣街リンデールにて・・・・・・
雲が浮かぶ青い空が広がっていた。太陽が今日も活気ある街をいつものように照らしている。数羽の鳥達が鐘の鳴る教会の上を通り過ぎて行った。戦いの舞台には教団が予想した以上の人々が集まっていた。ここにいる全員が"白銀の聖女"を見るために訪れたのである。例えるならそれはまるで他国の王家を歓迎する行事のようにも見えた。がやがやと賑やかな大人子供の群れに地面は埋め尽くされ教会は取り囲まれている。
天使達の警備も厳しく子供1人の侵入も許さなかった。誰も通さぬと言わんばかりの眼差しで正面の民衆を睨む。彼らは白き美しい鎧をまとい県や盾、弓などで武装している。人間達はその者達の姿に魅了されていた。風になびく白銀の髪、宝石のように美しく騎士のように逞しい瞳。そして白く大きな翼が何よりも注目の的であった。ちなみに肝心の標的はまだ到着していないようだ。今のところ来る気配はないがもうすぐ姿を現すだろう。
「凄い民衆だな・・・・・・」
下の様子を眺めながらカティーアは思った事を口に出した。
「そうですね、ここが今から戦場になると思うとゾッとします」
任務の主体となる奇襲部隊は屋根の上にいた。彼らは高い位置から教会の様子を窺っている。行動に移す準備は出来ていたが肝心のルシールの姿がない。すると・・・・・・
「お待たせ!」
屋根に上り少し遅れて彼女はやって来た。奇襲部隊の一行は背後に目をやり2人程軽く呆れた顔を浮かべた。
「遅いよ、リーダーが遅刻してどうすんだ?」
ルナリトナの説教にルシールは簡単な謝罪をし
「全員配置についた?」
と率直に聞いた。
「ああ、これで我々の部隊は動けるな。他の同胞達も下で待機している」
下を覗くと人ごみの中に教団のメンバーが紛れ込んでいた。民間人の振りをして標的の到着を待つ。クロム、ソフィ、リクの姿が見えた。視線の矛先を変えるとレナがこちらに手を振っているのが分かる。
「標的が来る前に上階を制圧しておくのはどうだ?その方が効率的だと思うが?」
「・・・・・・ちょっと待って!」
カティーアの意見を聞き流し彼女の前に手を出した。地上を見てルシールは何かに気づいた。
「デオドールがいない!」
その言葉に他の団員達はただならぬ反応をした。同じく下を見渡し探したが確かに彼の姿だけが見当たらない。
「本当ですね、彼だけがいません!」
ジャスティンが焦り気味に言った。
「これだけの人数だ、見落としているだけかもしれん。おそらく向こうにいるはずだ」
「風邪でも引いたのかな?」
「それはないと思うよ?だって昨日はうっとうしいほど元気だったんだから」
ミシェルの考えを愉快な声でルナリトナは否定した。顔は笑っていなかった。
「もう一度よく探せば見つかるんじゃ・・・・・・!」
その時、賑やかだった民衆がより大きくいきなり騒ぎ始めた。奇襲部隊は驚愕し反射的に顔を上げ教会を見る。空から天使が舞い降りて来たのがはっきりと見えた。人々の止まない歓声、ついに標的が姿を現したのだ。
しかし、現れたのはアルベルナ1人ではなかった。見るからに位の高そうな2人の天使が同行している。教会を守る衛兵よりも大きな翼を広げ羽ばたかせていた。彼女達は地面に足をつけるとアルベルナだけ一時的に民衆に優しい笑顔で手を振る。後ろの2人は人間に対して全くと言ってもいい程の無関心で見向きもせず標的との会話を始める。
「あいつがアルベルナ・クディニーだ。肖像から見て間違いないよ」
「とうとうお出ましのようだね?しかし、絵よりも本物の方がやっぱ迫力があるな・・・・・・」
上からルシール達、奇襲部隊が標的を覗き見ていた。一方、下にいる団員達も同じ光景を眺めていた。
「おい、どういう事だ?標的は1人じゃなかったのか?」
歓声で狭苦しい中、リクが隣にいたソフィを見て言った。
「奴らは明らかに護衛ではないな・・・・・・幹部が複数、束になって訪れるなど聞いてない!もしこのまま戦うというのなら勝ち目はないぞ!?」
別の位置でも考えている事はほとんど同じだった。
「くそっ!まずいな・・・・・・!」
想定外の展開にディーノが舌打ちをする。
「まずいってそんなにやばい奴らなのか?」
後ろ向きな独り言を聞いていたリベアが彼に問いかける。
「ああ、『ホムンクルス』である俺は生みの親である魔術師から魔術書や魔界、世界のしくみなどを学んだんだ。天使という種族の研究も例外ではない。俺が知る限りアルベルナの背後にいる大天使共は間違いじゃなければ天使の都『エデン』から来た『熾天使』達だ」
「選ばれし精鋭?」
「例えるなら動く要塞。おそらくアルベルナとは比にならないくらい戦闘力を持っている。詳しい事は次の機会に話すから今はこの状況をどうするかだ。・・・・・・逃げた方が得策かも知れんがな」
「多分あの2人は騎士団の指導者であるナザエル・ド・ラシャンスの直々の配下だろうね。私は天使については詳しくはないけど他とは違う雰囲気で分かる」
ルシールは標的達を見つめながら短く観察しすぐさま判断した。
「驚いたな。まさかエデンの熾天使が自らここへやって来るとは・・・・・・これは想定外の事態だ。奴らが去らぬならここは大人しく退却し次の機会を待つべきだろう」
「エデンの熾天使!?なんかやばそうな奴らみたいだな!?」
「ああ、たった1人で数万の兵力に匹敵する。そんな奴らが何故、ただの人間に従っているのかは不明だが」
カティーアはディーノとほとんど同じ事を言った。それを聞いたルナリトナもジャスティンも恐れおののき逃げ腰になる。ここは諦めた方がいいかも知れないと彼女に合わせる意見を言い始める。
「諦めるのはまだ早いよ。もうちょっとだけ様子を見よう?逃げるのは最後の手段にしてね」
ルシールは恐れた素振りを見せずひとまず敵側の様子を窺う。じっと下を眺め相手がどう動くかを見定める。
「ルシールは恐くないの?」
身体も声も震わせるミシェルはルシールの後ろ姿に問いかけた。彼女は顔半分を振り向かせ軽く笑みを作ると
「恐いよ。・・・・・・でも、チャンスがあるかも知れないのにそれすら不意にするなんて、そっちの方が悔しくて嫌だよ」
そうポツリと言って再び前へ目線を戻した。
- Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.35 )
- 日時: 2019/03/19 17:17
- 名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)
教会のまわりは相変わらず歓声が響いていた。歓喜の叫びは治まる事を知らず鳴り鳴り止まない。警備を強めた衛兵達は武器を抜くと前に出て民衆の波を寄せ付けなかった。
「・・・・・・では、私は教会で祈りを捧げてきますので」
アルベルナはその言葉を最後に丁寧にお辞儀をした。
「もう、アルベルナちゃんったらいつも生真面目だね〜?少し気を楽にしたら〜?」
彼女のすぐ前にいた片方の熾天使がいかにも子供っぽい口調で首を傾げた。尊敬しているのか呆れているのか分からない苦笑をする。
「祈りが終わったらすぐにナザエル様の所へ来て。何かしら大事な話があるらしいから」
もう1人の熾天使は実に落ち着いた態度で冷静さを保っていた。賑やかな場を気にせず真剣な無表情で立ち尽くしている。彼女は騒がしい人間の群れをちらっと見てすぐに視線を戻した。
「それじゃあ、私達はここを去る。行きましょう『キルエル』」
重要な内容を伝えるとアルベルナに背に一回り大きな翼を音を立て羽ばたかせた。
「はいはい、じゃあ、またね〜」
キルエルと呼ばれた熾天使も手を振り同じく翼を動かす。そして2人は共に空へ上り教会から飛び去って行った。アルベルナは見送りもせず早々に扉を開け教会へと足を踏み入れた。
「よし、思惑通り奴らは立ち去って行ったね?予定が狂わなくてよかった」
姿が小さくなっていく精鋭の姿を見てルシールは安堵を込めた吐息をした。一時はどうなる事かと思っていたがこれで計画を続行できるだろう。予定が戻り屋根の部隊はそれぞれの武器に手を伸ばした。
「今日の私達は運が味方してるかもね?それじゃあ行こうか?」
「ちょっと待って!デオドールは?もしかして彼なしでやるの?」
ミシェルが気合の入り始めた部隊の真ん中でルシールを呼び止める。重要なメンバーが揃ってない事にかなりの不満を抱いていた。
「彼が来るのを待つべきだよ!1人欠けただけでもリスクに差があると思うから!」
そう賢く訴えるが
「それが得策かも知れませんけど・・・・・・」
ジャスティンは何とも言えず先の言葉が出てこない。こうしてる間にもチャンスの時間は短くなっていく。隙をつける余裕が徐々に減るのも事実の上だった。
一方、地上部隊のメンバー達もデオドールの不在を気にしていた。各員、人ごみの中を見回したがやはり彼の姿はなかった。
「デオドールの奴、何してるんだ?」
リベアがうずうずと焦りを隠せずに言う。
「これだけ探してるのにどこにもいないね?ホントにあの人、何をしているわけ?・・・・・・まさか戦いが恐くて逃げたんじゃ!?」
レナも最悪な事態を想像し機嫌悪そうに何度も辺りを確認する。そこへ狭苦しい人ごみを掻き分けディーノがやって来た。
「竜人の名軍師はまだ来ないのか?もう皆戦いたくて落ち着けない状況だぞ?」
彼も2人と似たような文句を並べる。どうやら頭に浮かべている事は同じのようだ。
「俺達にはもう時間がない、この機を逃せばしばらくは後がないかも知れん。やむを得ないが彼無しで作戦を実行に移そう」
「それじゃだめだよ!彼がいなきゃこっちの戦力は大幅に削れちゃうよ!?」
レナは堂々と猛反対する。しかし、ディーノは頭を縦には振らず
「だめだ、標的はすぐにでも教会を去るだろう。あいつ1人のために時間を割く訳にはいかん。気持ちは分かるが俺達には一刻の猶予もない。屋根にいるちびっ子達に合図を送ってくれ」
「はあ・・・・・・分かった」
レナは嫌々ながらも仕方なく残念な指示に従い両手を屋根に振り作戦開始の合図を送る。それを見ていたルシールは部隊の先頭に立ち
「レナが合図を出した。ちょっと気が進まないけど教会に忍び込もう」
デオドールの到着を諦めたメンバー達も武器を手に持ち目つきを鋭くした。カティーアはレイピアを抜きジャスティンは背にかけてあった弓を持つ。ルナリトナはポーチから金属製の缶をいくつか取り出す。いよいよかと言わんばかりに呼吸を整える。
「デオドールはどうするの!?」
最後に剣を抜いたミシェルが不安そうに聞いた。
「彼を待っている暇はないよ。早くしないとアルベルナは祈りを終えちゃう」
ルシールは最前に立ち教会へ飛び移れそうな別の屋根に駆け出した。他の団員達もこれ以上は何も言わず後に続く。
「離れるな。私の背中について来い」
カティーアはミシェルを背後につかせ共にルシールを追う。教会を取り囲む建物には好都合にも見張りはいなかった。運よく下にいる連中は民衆に気を取られ上の存在には気づいていない。奇襲部隊は屋根の上を走り狭い間を飛び越え標的のいる建物へ移った。ここはもう、奴らにとっては死角となっており暗躍を目撃される事はまずないだろう。彼女達は最初から開いていた円状のガラス窓の中にいきなり入ろうとはせずすぐ横の壁にピタリと背を寄せた。
「ここまでは順調だね」
ルナリトナが緊張した口調で言った。
「ああ、だがここからが正念場だ。決して気を抜くな」
カティーアも同じ感情を絶やさず武器を構え窓を睨む。
「ここから中の様子を探った方がいいと思います。何が待ち構えているか分かりませんからね」
「だったら私が覗いてみる」
ジャスティンの考えにルシールが動く。頭を下げて窓へ行き下からそっと顔半分を入れる。教団が思っていた通り上階にも天使達が見張りについていた。しかし、地上の天使とは違い装備と格好が異なっている。彼らは身体半分以上の長剣と大型のクロスボウで武装しており見た事もないシンボルが彫られた中装の鎧で身を固めていた。見張りの1人がこちらへ歩いてきたのでルシールはとりあえず頭を引っ込めた。
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