ダーク・ファンタジー小説

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黒いリコリスの教団
日時: 2019/07/01 15:43
名前: シリアス (ID: CQQxIRdY)

初めまして、シリアスでございます。
文章はいかにも素人ですがこんな私でもよければ・・・・・・
悪口や皮肉、いたずらコメントなどは決してしないでください。
舞台はファンタジージャンルがぴったりの11世紀の中世時代です。
天使や悪魔、魔法や錬金術などが存在し一部の人しか知られていないという設定。
主人公は秘密の教団『リコリス』の指導者として敵組織である『セラフィムの騎士団』の支配を終わらせるために戦うというストーリーです。

オリキャラを募集しておりましたがここで締め切りとさせて頂きます。
たくさんのキャラクターを提供してもらい深く感謝しています。
どうもありがとうございました!


登場人物


【リコリス教団】

ルシール・アルスレン

本作の主人公。種族は人間と食人鬼のハーフ。
かつてレフレールの悲劇を終わらせた英雄のブレードガントレットを愛用している他、あらゆる武器を扱う事が可能。
14歳の少女ながらも剣技や暗殺などのスキルは抜群で仲間からの尊敬を集める。
リコリスの教団の長として仲間を率いセラフィムの騎士団と戦う。


ミシェル・ヴォーン

教団の一員でありルシールの親友である人間と魔女のハーフ。
特殊な魔族の家系を持ち魔女の魂を吸収し能力を向上させる特殊スキルを持つ。
幼い頃、ルシールと共に教団に加わって以来相棒として活動している。


ロベール・ド・カルツ

ルシールの右腕である老神父。種族は人間。
教団のまとめ役で主に情報を団員に提供する。
彼もまたル・メヴェル教信者殺害事件の被害者であり娘を失った。
そのため犯人として騎士団を疑っているが命懸けの任務をルシール達に任せている事に心を痛めている。


ルナリトナ

リコリス教団の一員。種族は人間。
錬金術や薬の調合に長けておりその技術を武器とする。
戦闘よりも仲間の援助が得意で剣術はとてもじゃないが苦手。
ディーノと気が合い共同で研究や発明に明け暮れている。


ソフィ・ツヴァイフェル

リコリス教団の一員。種族は人間と悪魔のハーフ。
双剣を使った剣術と黒魔術を得意とする。
悪魔と人間の混血ということで人間からも悪魔からも忌み嫌われているため身分を隠していた。
しかし、相棒のリクに対しては心を許しており行動をよく共にする。
反対に稽古の際に不覚を取らされたミシェルをライバル視している。


リク・フォーマルハウト

リコリス教団の一員。種族は人間。
好奇心が強く誰に対しても明るく接し純真無垢で真っ直ぐな性格。
誰かを守りたいという思いから最強の戦死になろうと努力している。
武器は普段、背中に背負った大剣を使用する。


ジャスティン・リーベ

リコリス教団の一員。種族はエルフ。
礼儀正しく真面目で純粋、人懐っこく誰とでも仲良くしようする性格。
教団に入る前は聖職者で魔を浄化する力で人々を救済していた。
弓を得意とするが武器がなくても戦えるようにと護身術程度だが肉弾戦もできる。


クロム・リート

リコリス教団の一員。種族はエルフ。
賢く冷静で、何事も要領よくこなす優等生。ジャスティンの異母弟。
一方でお節介ともいえるほどの世話焼きな面もあわせもつ。
魔法石の杖を扱い回復魔法や光属性の魔法が得意だが戦闘の際には闇属性や攻撃的な魔法を主に使用する。


カティーア・ヴァイン=トレート

リコリス教団の一員。種族は魔女と天使のハーフ。
19歳になるまで天使だけの小さな村に住んでいたが混血である事が原因で他の住民から迫害を受けていた。
そのため高潔で傲慢な性格と天使をいつも目の敵にする。
しかし、可愛いものやお菓子が好きで褒めると調子に乗る癖がある。
種族が同じという理由でミシェルとは親しくなり本当の姉妹のような関係を築いた。
武器はレイピアだが天聖滅拳(てんせいめっけん)という対天使用の拳法も使用できる。


ディーノ・アインス

リコリス教団の一員。種族はホムンクルス(クローン)。
好奇心が強く知らないものにはかなり興味を示す性格。"やはり俺は天才だ!"が口癖。
武器は魔法のカードで召喚獣を具現化させて戦わせる。
クローンのプロトタイプとして生み出され 人体実験の被験体として扱われてきた。
しかし、ある日生みの親である魔術師に連れられ、魔術師見習いとして修行していた。
ルナリトナと仲が良くしょっちゅう共に新たな発明に明け暮れている。


リベア・グロリアス

リコリス教団の一員。種族は人間。
数は少ないが大らかな感性を持ち基本的に優しい性格。争いや喧嘩が大嫌い。
かつて鬼神、邪神、破壊神などと呼ばれ人々を恐怖に陥れた堕天使アプスキュリテが封印されていた漆黒の魔剣を武器として扱う。
剣の中の堕天使が復活しないよう魔を祓う力を持つレナと共にいる。


レナ=ルナリア

リコリス教団の一員。種族は聖女。
男勝りで勝気、常に強気。抜け目がなく何があろうとも余裕な表情を崩さない意志の強さを持つ。
しかし、あまり他人に特別扱いや色目を使われるのを苦手としているため正体を明かさないようにしている。
女神に生み出された聖女で魔を祓う力を持ち純白の聖剣を扱う。
リベアの持つ魔剣の監視兼護衛のためリベアと共にいる。


テオドール・ヴェル・ドンゴラン

リコリス教団の一員。種族は竜人。
ほとんど全滅してしまった失われた種族、竜人の青年。
物静かで穏やかな性格だがその反面、戦略を練るのが得意な野心家。
戦闘の際は竜化し硬い鱗で覆われた鋼色の巨大なドラゴンになる。
他にも幻惑魔法も使用でき他人を操る事ができる。


【セラフィムの騎士団】


ナザエル・ド・ラシャンス

セラフィムの騎士団の指導者。種族は人間。
紳士的な態度で国民に接するが顔を覆い隠しており素顔を見た者はいない。
騎士団の中でも謎が多い人物である。


クリスティア・ピサン

セラフィムの騎士団に所属するナザエルの右腕で組織のナンバー2。種族は『エデンの熾天使』。
普段は淑女のように振る舞うが敵と失敗者には容赦しない非情な性格。
騎士団の中でも右に出る者がいない程の才色兼備の持ち主。
武器はブレードガントレット『アルビテル』を愛用している。


キルエル

イスラフェル聖団の高位の大幹部を務める少女。種族は『エデンの熾天使』。
明るく無邪気だがどんな非情な命令でも楽しそうに実行する残忍な性格で人間を見下している。
聖天弓フリューゲルを扱い敵の殺戮を楽しむ。


ナデージュダ・ペトラウシュ

イスラフェル聖団に雇われている暗殺者。種族は『ダークエルフ』。
各地で差別され酷い仕打ちを受けておりダークエルフという理由で両親と妹を人間達に殺された過去がある。
1人生き残った彼女は暗殺組織に拾われ以来、暗殺の世界に生きる事になる。
イスラフェル聖団に雇われる形でルシールと対峙するが実際は聖団に団員達を人質に取られおり無理矢理従わされている状態。
多彩な武器に黒魔術や死霊魔術も扱える。


用語集


リコリス教団

セラフィムの騎士団に不信を抱いた者達が集って結成された秘密結社。
ルシールが設立し教団のメンバーは聖団の実態を探ろうと活動している。
組織の紋章は黒いリコリス。

セラフィムの騎士団

レフレールの守護を宣言した組織。
大半が天使で構成されており人間などの他種族はほとんどいない。
治安維持のためレフレールを併合するが国民からの信頼は薄く良くない噂も流れている。
組織の紋章は羽の生えた少女。

レフレール

フランス西部に位置する架空の孤島。
1192年にカトリック教会諸国の属国となりイスラム軍と戦った。
文化を吸収され宗教対象がキリスト教となる。

ル・メヴェル教

レフレールが属国となる前に崇拝されていた宗教。
1192年に信仰を禁止されカトリック教会が建てられた。


……オリキャラ提供して頂いたお客様……

そーれんか様
つっきー様
Leia様
エノク・ヴォイニッチ様
リリコ様
Rose様
あいか様
ブレイン様


【お知らせ】

2018年夏の大会では皆様の温かい評価により銅賞を受賞しました!
本当にありがとうございました!腕の悪い素人ですがこれからもこのシリアスをよろしくお願いします!

読みにくいページの修正を開始しました。文章はほとんど変わっておりません。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.56 )
日時: 2019/05/01 11:48
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

 教団の地下の1つに牢獄があった。至る所が不潔で窮屈で退屈な空間が廊下を挟んで伸びていた。その一帯は薄暗く心地悪い涼しさが肌に染み込んでいく。錆と埃の臭いが蔓延りネズミが檻の隙間から出て巣穴へと潜り赤い目を覗かせる。

「・・・・・・」

 いくつも並ぶ牢獄の1つ、中で1人の女がいた。装具は全て奪われ代わりにボロボロの服を着せられ閉じ込められている。彼女は何もせず黙っていた。壁に背を預け行儀の悪い座り方をしただ、正面を睨んでいる。不自由な状態を長々と味わい精神を蝕まれているはずだが鋭い眼差しは衰えを感じさせなかった。

「・・・・・・!」

 ふと廊下の奥で扉が開く音が木霊する。女は一瞬、音がした方へ視線を寄せるが興味がなさそうにため息をつくと数人の足音が階段を降りこちらに近づいてくる。

「ここ?」

 幼子のような優しい少女の声が遠くから響いた。

「そうだ。あいつはあそこに監禁されている」

 返事を返したのは低いしっかりとした青年の声だった。

「尋問なんてした事ないから緊張するな。上手くいけばいいけど」

「できる限りの事はフォローするが気をつけろよ?装備を全て没収したとはいえ相手は熟練の暗殺者だ。油断はできん」

「だから、こうして護衛を頼んだわけじゃん」

 軽々しい口調と真剣な口調で交わされる会話。やがて彼らは女の元へ来て立ち止まった。

「やあ、ナデージュダ」

 ナデージュダと呼ばれた暗殺者の前にルシールが訪れ檻を隔てて声をかける。背後にはディーノとクロムが横二列に並んでいた。

「誰かと思えば私に敗北という屈辱を味わわせたガキではないか。しかし、こんな幼い少女に遅れを取るとはな・・・・・・何用だ?囚われの身となった私を笑いにでも来たのか?」

 嫌みがこもった問いにルシールは"違うよ"と否定する。

「ごめんねナデージュダ、こんな汚い所に閉じ込めたりして。牢獄なんてあなたには相応しくない。近いうちに出してあげるからね」

 意外な対応にナデージュダは目を丸くするがすぐに訝し気な表情を作り

「忘れてはいないだろうが私達は敵同士だ。簡単には信用できんな。言っておくが私を檻から出さない方がいいぞ?お前らなど皆殺しだ」

「負けた者が大口を叩くな。武器もない、脱走もままならない奴がどうやって我々に歯向かうつもりだ?そんな状態で脅されても恐怖さえ感じない」

 ディーノが腕を組み淡々と皮肉を述べる。ナデージュダは彼に対しては鼻で笑っただけで何も言い返さなかった。目の前にいるルシールから話の矛先を逸らさず再び問いかける。

「ところで話があるからわざわざこんな場所に来たのだろう?早く用件を言え。私の理性が限度を超える前にな」

「分かった。私もまどろっこしいのは好きじゃないから率直に言うよ」

 ルシールは息を吐き出し喋る準備を整えると生真面目な言い方で

「ナデージュダ、私達の仲間になってほしいんだ。あなたほどの実力者が教団には必要なの。一緒に騎士団の陰謀を終わらせよう?」

「・・・・・・何か面白い事を言うのかと期待していたが・・・・・・くだらん戯言だな?私に勝ったのだから賢い人材かと思っていたがどうやらガキを褒めた自分が愚かだったらしい」

 ナデージュダは特にこれと言った反応はせず平静さを保った態度を取った。ついでに言いたい皮肉を吐き捨てる。

「やっぱり、素直に"うん"とは言わないよね?」

「無論、答えは否だ。誰が何と言おうがそれが常識だろう。私は騎士団に忠誠を誓ってる身、誇り高き暗殺者の長が忠に背く事などあり得ん」

「その忠誠は本物なの?」

 ルシールは怯む事なくきっぱりと言い放った。

「当然だ。何故、急に訝し気になる?私の台詞に何かおかしい所でもあったか?」

 ナデージュダは動揺の兆しを表さず堂々と答えた。ルシールは些細な動作すらせずそう遠くない過去の記憶を語る。

「あなたは確かに強かった・・・・・・でも、戦ったからこそ分かる。あなたと剣を交えた時、一瞬だけ迷いがあったのを私は感じた」

「ふん・・・・・・迷いだと?」

「本当に忠を尽くして戦えるなら相手を殺す行為に躊躇なんかできないはずだよ?今まで多くの敵を殺めてきたナデージュダなら尚更ね」

「・・・・・・何が言いたいのだ?」

 ナデージュダの声が一層鋭利になり冷静さが崩れ始めた。呼吸のリズムは微小に乱れ飢えた獣のように歯を強く食いしばる。

「あなたは嘘をついている。騎士団に仕える理由は理想とか心酔とかじゃなくてもっとかけ離れた別の理由があるんだと思う」

「・・・・・・」

「ナデージュダ、本当の事を話して。私はあなたを助けたい」

 ナデージュダは沈黙し気迫のある剣幕でただ、ルシールを見つめた。彼女の目には自身を深い慈悲で見下ろしている少女の姿が映っていた。面前に立つ少女も決してその優しい眼差しを逸らそうとはしない。2人の間には対顔と静寂、感情で伝え合う時間が過ぎていく。しばらくしてナデージュダはようやく目を逸らすと下を向いてため息をついた。観念したのか怒りを緩めゆっくりと口を開く。

「さっきは愚かしい発言に侮辱の言葉を送ったがそれは撤回しよう。お前は他の者にはない潜在能力を秘めた有能な戦士だ。誰もお前を誤魔化せないだろう」

 ナデージュダは敵であるルシールに心を許し、隠していた真実を打ち明ける。

「お前の言う通り私は好きで騎士団に従っているわけではない。それどころかかつては奴らと剣を交えていた。私の率いる暗殺集団は最強だった。部下1人1人が勇猛な戦いぶりを見せ敵を何人も討ち取った。だが、相手の数があまりにも多すぎたのだ。多勢に無勢の戦況に徐々に私達は追い込まれ部下も次々と倒れていった。最後は恥を忍んで降伏し私は騎士団の捕虜となった。鎖で全身を絞めつけられ無様な姿をさらした私の元に敵の幹部がやって来てこう言った。お前ほどの勇敢な暗殺者を殺すのは惜しい。天使の慈悲を持って命を助けよう。その代わり今日からお前は騎士団のために命を懸けるのだ。そして部下の命は我々が預かる・・・・・・とな」

「・・・・・・」

 ルシール達は話すのも辛い過去の経緯を黙って聞き続ける。

「これほど屈辱的な事はあろうか?人々から恐れられた不滅の暗殺集団が1日にして敗北したのだ。長である私が武器を捨て部下を人質に取られ誰かのいいなりに成り下がっている。それが私が騎士団の下僕となった理由だ。面白いだろ?笑いたければ笑え」

 ナデージュダは自身の情けなさにやり切れない様子だった。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.57 )
日時: 2019/05/01 12:00
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

 それでもルシールは相手を侮辱する兆しを見せず

「あなたは死ぬのが嫌だったから武器を捨てたんじゃない。大切な部下達を守りたかったから自ら進んで捕虜になったんだよ。ちっともかっこ悪くなんかない。自分の命よりも部下を助けようとしたその勇気、私も見習いたいくらい」

 と逆に尊敬の意を示した。

「ふっ、子供に慰められるとはこのナデージュダ、堕ちたものだな・・・・・・例え部下を守るため、聞こえはいいが所詮は敗北し騎士団の言いなりに成り下がっている。そして今はこうしてお前達に捕らわれている。私はなんて無様なんだ」

「ナデージュダお願い、私達の仲間になって。教団の一員として戦えばあなたの部下も救い出せるし騎士団にだって復讐できる」

 ルシールは再び説得を試みるがナデージュダも返事はやはり同じだった。

「期待に水を差すようで悪いが私はお前達に協力する気などない・・・・・・いや、できないと言うべきか・・・・・・」

「まだ何か理由があるの?」

「ああ、大切な事情があってな」

 そう短く言ってナデージュダは話を続ける。

「私は人間達に迫害され家族を無残に殺され騎士団の下僕となっても私への扱いは変わらなかった。ダークエルフ、それだけの理由で下等な存在と見なされ忌み嫌われた。だが、たった1人だけ私の味方になってくれた者がいた。誰だと思う?アルベルナだ。彼女は私の存在を認め平等に接してくれた。共に笑い合い辛い時は慰めてくれた。私の過去に涙を流し心から同情してくれたんだ。気がつけば彼女と共に戦える事が新たな誇りとなっていた。自分を必要としてくれた友のため騎士団を裏切らないと誓ったんだ」

「アルベルナは死んだよ・・・・・・」

 ルシールは悲し気な口ぶりでアルベルナの死を告げる。

「な、何・・・・・・」

 ナデージュダは一瞬、人形のように固まりその意味を理解するのに数秒の時間を要した。やがて空虚な表情が一変、悲しみに見た顔に大粒の涙が流れる。冷静な態度と呼吸のリズムは乱れ身体を痙攣のように震え上がらせる。

「アルベルナが死んだ・・・・・・嘘だっ・・・・・・!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ・・・・・・っ!!うっ・・・・・・ああああああああ!!」

 ナデージュダは勢いよく泣き崩れ言葉にならない叫びを張り上げる。受け止めきれない絶望に平静さを失い地面に何度も拳を叩きつけ伏せるように倒れ泣き続けた。その哀れとしか言いようがない姿をルシール達は黙って見下ろしていた。

「き・・・・・・貴様らがぁ・・・・・・!」

 ふとナデージュダが顔を上げる。その表情は今までとは比べ物にならないほど恐ろしく悪魔そのものの凶暴な形相だった。

「があああああ!!」

 理性を捨てたナデージュダは目と口を大きく開き飢えた獣のような声を上げルシール目掛けて飛び掛かった。爪の尖った手と腕が檻の隙間から伸びる。ディーノとクロムは恐れおののくルシールを下がらせ前に立ち塞がる。

「アルベルナはたった1人の親友だった!!私の闇を照らした唯一の光だった!!それをっ、貴様らがあ!!」

 ナデージュダは手の届かない3人に対し罵声を浴びせ続けた。やがて自分がしている行為が無意味だと分かると力の抜けた手を下ろし感情的になった疲労に喘鳴呼吸を繰り返す。そして、足を引きずり牢の奥へ身を寄せると息苦しそうにすすり泣く。

「これじゃ説得も尋問もやりようがないな」

 クロムが緩いため息をつく。

「どうする?ここは一旦落ち着くのを待って、続きは後回しにするってのは?」

 ディーノもそう提案を勧めると

「そうした方がいいかもね・・・・・・でも、その前にどうしても言っておきたい事があるの」

 ルシールは再び檻の前に出て威厳のない温和な声でナデージュダに話しかけた。

「ナデージュダ、あなたから大切な友達を奪ってしまってごめん・・・・・・確かにアルベルナを殺したのは私・・・・・・でも、本当は彼女を生かして捕らえる事が本来の目的のはずだった」

 聞き捨てならない台詞に関心を持ったのかナデージュダは涙を拭い睨んだ顔を振り向かせた。

「じゃあ、何故殺める必要があった・・・・・・?」

「教会でアルベルナを追い詰めた時、1人のエデンの熾天使が現れ彼女を弓で貫いた。瀕死の重傷を負ったアルベルナは痛みから解放されたいために私に止めを刺すよう促した。だから私はそれに従った」

「エデンの熾天使だと・・・・・・!?あの種族で聖天弓を使う者は少ない・・・・・・まさか、キルエルが!?」

「奴は名乗らなかったけど多分、そうなんじゃないかな?」

 ナデージュダは驚きを隠せず完全には信じ切れなかった。だが、すぐに納得し怒りが湧いたのか憎しみがこもった拳を震わせる。

「アルベルナは死ぬ間際にあなたを私達の元へ連れて行くよう頼んだ。命尽きる最後まであなたの身を案じていたんだよ」

「アルベルナ・・・・・・!」

「泣いたり怒ったりして疲れちゃったよね?ちょっと休憩しようか?もうしばらくしたら食べ物を運んでくるよ。ナデージュダは何が食べたい?」

 ルシールの親切に対しナデージュダは"食べられる物なら何でもいい"といい加減に答え仰向けに横たわると錆びついた天井に黄昏れる。3人も捕虜との面会を一時中断し休憩を挟む事にした。

「失敗した者は仲間であろうが家族であろうが容赦なく粛清する・・・・・・お前が手を貸していたのはそういう連中だ。奴らは秩序をもたらす事を名目に国々を侵略しヨーロッパ全土を支配下に置いている。この世界が奴らに征服されるのも時間の問題だろう。俺達はその陰謀を阻止するために戦っている。どちらが正義でどちらが誇り高いか、ゆっくり考えるんだな」

 ディーノは去り際にそう言い残し牢獄から姿を消した。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.58 )
日時: 2018/11/24 16:50
名前: 3104 (ID: Dqv4019I)

頑張ってますなー

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.59 )
日時: 2018/11/29 19:10
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

コメントありがとうございます!頑張ってますよ(*^_^*)

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.60 )
日時: 2019/05/01 12:03
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

 あれから数時間が経ち太陽が青い空の上に差しかかった頃、ルシールは再び牢獄を訪れた。パンや肉のスープ、果物が盛られたプレートを抱え背後にはディーノとクロムを控えさせている。落とさないよう食事を運び囚人が閉じ込められた檻の中にひょっこりと顔を出し穏やかに話しかける。

「やあ、ナデージュダ。大分落ち着いたみたいで安心した。お腹減ったでしょ?食べ物を持って来たよ」

 そう言って昼食を狭い隙間から入れて囚人に与える。

「捕虜の食事にしては随分と豪華だな。毒入りか?」

 ナデージュダは少々訝し気になり手に取ったパンを食い千切り小さく噛んで飲み込んだ。別に美味しいと言った顔を表現するわけでもなくもう一口かじりつく。

「美味しい?」

「悪くない」

 ただ、味の感想だけを即答する。

「あとこれ、あなたに渡しておくよ」

 ルシールはポケットから金色の装飾品を取り出した。それは死ぬ間際にアルベルナが手渡したコインネックレスであり彼女の形見だった。はっとしたナデージュダはそれを奪い取るように受け取ると胸に抱き寄せる。そして、目をつぶり悲しげな声で何かを呟いた。

「余計なお節介かもしれないけどこれはもっていた方がいいと思って」

 ナデージュダは静かに目を細く開けるとゆっくりと口を開き

「あれからずっと考えていた。自分はこれから何をすべきか、浄土の門の先にいるアルベルナが私に何を望んでいるのか・・・・・・と。悩んで悩んで悩み抜いたが答えを探し出せず路頭に迷っていた。だが、お前のお陰で辿るべき道を見つけた。礼を言うぞ」

「それってつまり・・・・・・」

「まだ理解に追いつかんのか?私もお前の戦いに協力すると言っているのだ。くだらんいがみ合いには飽きた。ここは一旦仲間として手を組もうではないか」

 返ってきた肯定の返事にルシールは歓喜に満ちた顔を何度も頷かせる。ナデージュダも相手の感情に釣られ柔らかな笑顔を作った。

「まさか、捕らえた捕虜を数日で説得してしまうとは・・・・・・流石は教団の長、嬢ちゃんには敵わんな。ようこそ、ナデージュダ。我々はお前を温かく歓迎する。共に教団の正義のを成そうじゃないか」

 ディーノが友好的に接するがナデージュダは彼に対しては嫌悪した態度で

「勘違いするな。あくまでも一時の協力を約束しただけで教団の一員になった覚えはない。高望みも程々にするんだな。私の望みはアルベルナの仇を討つ。それだけだ。敵の首を取ったら貴様らとは縁を断ち切らせてもらう。いいな?」

「うん、こっちも無理矢理引き入れたわけじゃないからね。そこはナデージュダの自由で構わないよ」

 ルシールに言い分はなく容易に要望を聞き入れる。

「・・・・・・で、私と手を組んだまではいいがこれから何がしたい?まさか、私の歓迎会を開くわけでもあるまい?」

「心配無用、やりたい事ははとっくに決めてあるよ」

 ルシールは普段通りに言って今後の予定を打ち明ける。

「あなたは部下を人質に取られているから騎士団に従うしかなかったんだよね?だったら大切な部下の皆を助け出そう。たくさんの暗殺者が味方になればこれ以上心強い事はない」

「なるほど、単純だが悪くない作戦だ。大勢の騎士団相手に抗えるほどの暗殺者がこちらに加われば大隊を得たも同然、教団にとってもかなりの戦力になる」

 2人のやりとりを後ろから聞いていたディーノも同じ意見で教団への影響を推測する。隣にいたクロムも軽く笑みを零し否定の素振りを見せなかった。しかし、仲間を救う内容を持ち出されてもナデージュダは何故か謝意を示さず礼を言うどころか悩ましい表情で沈黙する。

「どうしたの?」

 ルシールがネガティブになった理由を問いかけると

「私の部下達を救い出そうという良識的な気持ちはありがたいが何も知らないからそんなにも簡単に言えるのだろう。弱音を吐くのはぎこちないがあそこには行きたくない」

「行きたくないって・・・・・・そもそもあなたの配下達はどこに監禁されているの?」

 今度はクロムが質問すると内容の多い返答が返ってくる。

「レフレールの街、オイエルセフィの外れにある『アザエール砦』だ。騎士団に歯向かった捕虜や囚人の多くはそこに収容されている。脱走者が1人もいない断崖絶壁の要塞、外側も内側も守りは厳重で分厚い鎧で身を固めた重装甲兵が配置されているのだ。そして、あそこは『奴』が砦全体を指揮している・・・・・・」

 ナデージュダは怒りに声を震わせギリギリと歯ぎしりを鳴らす。息を呑み短く間を開けると実に言いたくない口ぶりでその名を口にした。

「『ラファエル・ランクス』、騎士団の幹部の1人でありアザエール砦の最高責任者だ。かつて我が暗殺集団を襲い捕らえた部下達を人質にした張本人、私の誇りを汚した最も憎き相手だ。あの無慈悲で冷酷な顔は一度たりとも忘れはしない」

「・・・・・・ラファエル・ランクスか。知ってる名だ」

「え?ディーノ、そのラファエルって奴の事知ってるの?」

 驚愕した顔を振り返らせるルシール、ディーノはより真剣になって詳細を語る。


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