ダーク・ファンタジー小説

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黒いリコリスの教団
日時: 2019/07/01 15:43
名前: シリアス (ID: CQQxIRdY)

初めまして、シリアスでございます。
文章はいかにも素人ですがこんな私でもよければ・・・・・・
悪口や皮肉、いたずらコメントなどは決してしないでください。
舞台はファンタジージャンルがぴったりの11世紀の中世時代です。
天使や悪魔、魔法や錬金術などが存在し一部の人しか知られていないという設定。
主人公は秘密の教団『リコリス』の指導者として敵組織である『セラフィムの騎士団』の支配を終わらせるために戦うというストーリーです。

オリキャラを募集しておりましたがここで締め切りとさせて頂きます。
たくさんのキャラクターを提供してもらい深く感謝しています。
どうもありがとうございました!


登場人物


【リコリス教団】

ルシール・アルスレン

本作の主人公。種族は人間と食人鬼のハーフ。
かつてレフレールの悲劇を終わらせた英雄のブレードガントレットを愛用している他、あらゆる武器を扱う事が可能。
14歳の少女ながらも剣技や暗殺などのスキルは抜群で仲間からの尊敬を集める。
リコリスの教団の長として仲間を率いセラフィムの騎士団と戦う。


ミシェル・ヴォーン

教団の一員でありルシールの親友である人間と魔女のハーフ。
特殊な魔族の家系を持ち魔女の魂を吸収し能力を向上させる特殊スキルを持つ。
幼い頃、ルシールと共に教団に加わって以来相棒として活動している。


ロベール・ド・カルツ

ルシールの右腕である老神父。種族は人間。
教団のまとめ役で主に情報を団員に提供する。
彼もまたル・メヴェル教信者殺害事件の被害者であり娘を失った。
そのため犯人として騎士団を疑っているが命懸けの任務をルシール達に任せている事に心を痛めている。


ルナリトナ

リコリス教団の一員。種族は人間。
錬金術や薬の調合に長けておりその技術を武器とする。
戦闘よりも仲間の援助が得意で剣術はとてもじゃないが苦手。
ディーノと気が合い共同で研究や発明に明け暮れている。


ソフィ・ツヴァイフェル

リコリス教団の一員。種族は人間と悪魔のハーフ。
双剣を使った剣術と黒魔術を得意とする。
悪魔と人間の混血ということで人間からも悪魔からも忌み嫌われているため身分を隠していた。
しかし、相棒のリクに対しては心を許しており行動をよく共にする。
反対に稽古の際に不覚を取らされたミシェルをライバル視している。


リク・フォーマルハウト

リコリス教団の一員。種族は人間。
好奇心が強く誰に対しても明るく接し純真無垢で真っ直ぐな性格。
誰かを守りたいという思いから最強の戦死になろうと努力している。
武器は普段、背中に背負った大剣を使用する。


ジャスティン・リーベ

リコリス教団の一員。種族はエルフ。
礼儀正しく真面目で純粋、人懐っこく誰とでも仲良くしようする性格。
教団に入る前は聖職者で魔を浄化する力で人々を救済していた。
弓を得意とするが武器がなくても戦えるようにと護身術程度だが肉弾戦もできる。


クロム・リート

リコリス教団の一員。種族はエルフ。
賢く冷静で、何事も要領よくこなす優等生。ジャスティンの異母弟。
一方でお節介ともいえるほどの世話焼きな面もあわせもつ。
魔法石の杖を扱い回復魔法や光属性の魔法が得意だが戦闘の際には闇属性や攻撃的な魔法を主に使用する。


カティーア・ヴァイン=トレート

リコリス教団の一員。種族は魔女と天使のハーフ。
19歳になるまで天使だけの小さな村に住んでいたが混血である事が原因で他の住民から迫害を受けていた。
そのため高潔で傲慢な性格と天使をいつも目の敵にする。
しかし、可愛いものやお菓子が好きで褒めると調子に乗る癖がある。
種族が同じという理由でミシェルとは親しくなり本当の姉妹のような関係を築いた。
武器はレイピアだが天聖滅拳(てんせいめっけん)という対天使用の拳法も使用できる。


ディーノ・アインス

リコリス教団の一員。種族はホムンクルス(クローン)。
好奇心が強く知らないものにはかなり興味を示す性格。"やはり俺は天才だ!"が口癖。
武器は魔法のカードで召喚獣を具現化させて戦わせる。
クローンのプロトタイプとして生み出され 人体実験の被験体として扱われてきた。
しかし、ある日生みの親である魔術師に連れられ、魔術師見習いとして修行していた。
ルナリトナと仲が良くしょっちゅう共に新たな発明に明け暮れている。


リベア・グロリアス

リコリス教団の一員。種族は人間。
数は少ないが大らかな感性を持ち基本的に優しい性格。争いや喧嘩が大嫌い。
かつて鬼神、邪神、破壊神などと呼ばれ人々を恐怖に陥れた堕天使アプスキュリテが封印されていた漆黒の魔剣を武器として扱う。
剣の中の堕天使が復活しないよう魔を祓う力を持つレナと共にいる。


レナ=ルナリア

リコリス教団の一員。種族は聖女。
男勝りで勝気、常に強気。抜け目がなく何があろうとも余裕な表情を崩さない意志の強さを持つ。
しかし、あまり他人に特別扱いや色目を使われるのを苦手としているため正体を明かさないようにしている。
女神に生み出された聖女で魔を祓う力を持ち純白の聖剣を扱う。
リベアの持つ魔剣の監視兼護衛のためリベアと共にいる。


テオドール・ヴェル・ドンゴラン

リコリス教団の一員。種族は竜人。
ほとんど全滅してしまった失われた種族、竜人の青年。
物静かで穏やかな性格だがその反面、戦略を練るのが得意な野心家。
戦闘の際は竜化し硬い鱗で覆われた鋼色の巨大なドラゴンになる。
他にも幻惑魔法も使用でき他人を操る事ができる。


【セラフィムの騎士団】


ナザエル・ド・ラシャンス

セラフィムの騎士団の指導者。種族は人間。
紳士的な態度で国民に接するが顔を覆い隠しており素顔を見た者はいない。
騎士団の中でも謎が多い人物である。


クリスティア・ピサン

セラフィムの騎士団に所属するナザエルの右腕で組織のナンバー2。種族は『エデンの熾天使』。
普段は淑女のように振る舞うが敵と失敗者には容赦しない非情な性格。
騎士団の中でも右に出る者がいない程の才色兼備の持ち主。
武器はブレードガントレット『アルビテル』を愛用している。


キルエル

イスラフェル聖団の高位の大幹部を務める少女。種族は『エデンの熾天使』。
明るく無邪気だがどんな非情な命令でも楽しそうに実行する残忍な性格で人間を見下している。
聖天弓フリューゲルを扱い敵の殺戮を楽しむ。


ナデージュダ・ペトラウシュ

イスラフェル聖団に雇われている暗殺者。種族は『ダークエルフ』。
各地で差別され酷い仕打ちを受けておりダークエルフという理由で両親と妹を人間達に殺された過去がある。
1人生き残った彼女は暗殺組織に拾われ以来、暗殺の世界に生きる事になる。
イスラフェル聖団に雇われる形でルシールと対峙するが実際は聖団に団員達を人質に取られおり無理矢理従わされている状態。
多彩な武器に黒魔術や死霊魔術も扱える。


用語集


リコリス教団

セラフィムの騎士団に不信を抱いた者達が集って結成された秘密結社。
ルシールが設立し教団のメンバーは聖団の実態を探ろうと活動している。
組織の紋章は黒いリコリス。

セラフィムの騎士団

レフレールの守護を宣言した組織。
大半が天使で構成されており人間などの他種族はほとんどいない。
治安維持のためレフレールを併合するが国民からの信頼は薄く良くない噂も流れている。
組織の紋章は羽の生えた少女。

レフレール

フランス西部に位置する架空の孤島。
1192年にカトリック教会諸国の属国となりイスラム軍と戦った。
文化を吸収され宗教対象がキリスト教となる。

ル・メヴェル教

レフレールが属国となる前に崇拝されていた宗教。
1192年に信仰を禁止されカトリック教会が建てられた。


……オリキャラ提供して頂いたお客様……

そーれんか様
つっきー様
Leia様
エノク・ヴォイニッチ様
リリコ様
Rose様
あいか様
ブレイン様


【お知らせ】

2018年夏の大会では皆様の温かい評価により銅賞を受賞しました!
本当にありがとうございました!腕の悪い素人ですがこれからもこのシリアスをよろしくお願いします!

読みにくいページの修正を開始しました。文章はほとんど変わっておりません。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.41 )
日時: 2019/03/23 08:26
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

「至って単純だ。騎士団の理想に心酔したから彼らに加わった。ただそれだけだ」

「本当にそれだけ?」

 ルシールが訝しげに聞く。するとダークエルフは意地悪そうに鼻で笑い

「まあ、もう1つ理由を付け加えるとしたら私は人間が嫌いなのだ。奴らの姿を目にしただけで腸が煮えくり返る。私の家族は種族の違いだけで無残にも奴らに殺された。その復讐のため暗殺者に身を落とし殺しの腕を騎士団に認められ今に至る訳だ。納得したか?」

「愛する者を殺された憎しみには同情するが、今の自分の立場を冷静になって考えてみろ。その騎士団に協力する事によって家族を奪った悪と同じに成り下がっている事に気づかないのか?」

 カティーアが皮肉を愚弄する形にして相手を責め立てる。

「何を言われようと構わないがあんな下等な連中と同じにされては困る。人間は無駄に争っては土地や文化を奪い暴力で支配する。だが、天使は違う。種族の頂点に立ち全ての生命に秩序や道徳をもたらすのだ」

「罪のない人達を殺してもそんな事が言えるんですか?」

 ジャスティンが厳しい目つきで怒りを台詞を口にする。矢をつがえた弓の弦を更に引き絞った。

「あなた達の行為は殺戮や暴力とほとんど変わりません。どこにでもいるただの侵略者です」

「ふん、正しい事を言っているつもりなのだろうがそんなのは我々に対するただの誹謗中傷に過ぎん。実にくだらん」

 ダークエルフは呆れ果てこれ以上議論する気がないのか力のないため息をつき突如、顔つきを一変させた。睨まれただけで飢えた獣のような殺意が伝わってくる。ルシール達は気迫に負け思わず後退りした。

「お前達とは剣を交える事でしか分かり合えないらしい。前もって言っておく。私は相手が子供だろうが決して容赦はしない。余計な情けを捨てるように訓練されたからな。例えばそこのガキ、まずはお前からあの世へ送ってやろう」

 ダークエルフはミシェルを見て口をにやけさせる。腰に収めてあった2つのリング状の刃、チャクラムに手を伸ばすのが同時だった。そして、その1つを瞬時に投げつけた。

「・・・・・・ひっ!」

 風を斬る音を鳴らし、回るギロチンは宙を舞う。ダークエルフの狙い通りはミシェル目掛けて飛んできた。チャクラムは彼女の剣に当たり金属が交わる甲高い音が教会に響き木霊する。計り知れない反動を受けミシェルは扉の方へ弾き飛ばされた。仰向けに地面に倒され腰と背中を強く打ち付ける。チャクラムは勢いを緩めずまるで生きているかのようにミシェルを追う。

「避けろミシェルッ!!」

 カティーアが叫び駆け付けようとしたが間に合わない。チャクラムは全身の痛みで起き上がれない彼女の上で止まり回転しながら落下した。

「・・・・・・くっ!」

 ジャスティンが弓の狙いを変え矢を放つ。一筋の光線がカティーアの横を飛んでいき先端がチャクラムに命中した。刃は狙いが狂いミシェルのすぐ真横に刺さり地面を深く抉った。

「ルシールさん後ろ!」

 そして振り向いて叫んだ。

 ルシールが振り返るともう片方のチャクラムがかなりのスピードで飛んでくるのが見えた。とっさの反応で剣で受け止め身体への直撃を防いだ。それはやがて唾競り合いとなり大量の火花が飛び散る。

「・・・・・・ううっ!」

 重苦しい痛みに両手の力が思うように入らずルシールは圧倒されていく。剣を落としてしまえばチャクラムに肉を切り裂かれ真っ二つにされてしまう。だが、永遠にはこの状態を保てない。打ち負かされるのも時間の問題だ。

「ルシール伏せろっ!」

 その時、誰かが叫んだ。声がした方向から宙を舞う何かが見えた。それが何なのか理解したルシールは剣をチャクラムから離し飛び込むように地面に倒れ込んだ。

 その瞬間、轟音と共に爆発が引き起こった。黒煙と火、衝撃波が押し寄せ火薬の臭いが撒き散らされる。ルシールを仕留めるはずだったチャクラムは破損し両方がダークエルフの手元に戻る。彼女は何が怒ったのか分からず目を丸くした。煙が晴れある人物が姿を現すまでは。

「やあ、お待たせ。ヒーローの登場だ」

 階段の出口で爆薬を振りかざすルナリトナがいた。彼女は横たわるミシェルの方へ歩み寄る。

「立てるか?」

「ルナリトナ・・・・・・!」

「言っただろ?必ず助けに行くって」

 優しい笑みを作って嬉し泣きしそうなミシェルを見下ろした。手を差し伸べ起き上がらせると2人は仲間の列に加わった。

「もう遅いよルナリトナ!」

「私も他の皆さんもあなたの到着を待ちわびていたんですよ?」

 ルシール達は文句を言いながらも温かく歓迎する。

「あはは、ごめんごめん。爆弾を落としたのはよかったんだけど外で戦う皆が心配だったからちょっとだけ見物してたんだ」

 ルナリトナが呑気に笑って頭をかく。腰のバッグから爆薬をもう1つ取り出し好戦的な目つきでダークエルフを睨む。

「僕のお手製の爆弾よく効くで。死にたいならかかってきな?命乞いだけなら聞いてやる」

「・・・・・・」

 ダークエルフは何も答えず左手に持つチャクラムを見つめた。美しい鋼のリングにひびが入り滑らかだった刃もボロボロに砕けていた。

「私の・・・・・・」

 するとぼそっと何かを言い出した。

「私の『相棒』に傷をつけたのはお前が初めてだ。・・・・・・鶏冠に来たぞ・・・・・・」

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.42 )
日時: 2019/03/23 08:52
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

 ダークエルフはチャクラムを腰に腰に戻しルシール達に視線を向けた。大切な武器を破壊されとうとう本気の怒りを露にしたらしい。それはまるで殺すためだけに生きる魔物のような殺戮心の塊、今までとは全くの別人のようだ。

「どうやら相手は理性を捨てたみたいですね」

 敵の感情を察したジャスティンは弓を背負い武器を2つの拳に切り替え身構える。

「気をつけろ。奴は多彩な武器に扱い慣れている。次はどんな手段は使ってくるか分からん」

 カティーアも気を緩めずルシールを下がらせ前線に立つ。戦服の袖でレイピアの血を拭い改めて銀色の刀身を向ける。

「生温い手加減はここまでだ。心底後悔しながら死んでいくんだな・・・・・・」

 ダークエルフは気迫のある鋭い声で両腕を広げ

「我が名はナデージュダ・ペトラウシュ。無様に朽ち果てろ・・・・・・哀れな弱者共っ!!」

 ナデージュダの手首の甲からいくつかのナイフが現れ手に滑り落ちるのが見えた。それを指の間で掴み全てを一気に投げつける。避けられようがない無数の鋭い先端がルシール達を襲う。

「・・・・・・ちっ!」

 カティーアはレイピアを大振りしそれをいくつか弾いた。獲物を仕留め損なった刃が甲高い音と共に散らばる。ジャスティンは瞬時にルシールを庇い地面に伏せていた。その上をナイフが通過する。

「危ないミシェ・・・・・・ぐっ・・・・・・!」

 ルナリトナはミシェルを自身の身体で覆い盾となった。1本のナイフが彼女に深々と突き刺さる。

「ルナリトナっ!!」

 ミシェル真っ青な表情で叫んだ。

「よかった・・・・・・君に当たらなくて・・・・・・」

 肩の肉を裂いたナイフを抜き余裕の笑みを浮かべた。傷口からは黒い血が流れ服に染み込み広がった。

「うおお!!」 「やああ!!」

 カティーアとジャスティンは反撃の隙を与えずナデージュダに飛び掛かる。レイピアの斬撃と拳の打撃を同時に喰らわすが堅い何かに当たり火花が弾けた。ナデージュダはにやりと不気味に笑っていた。彼女の手前にクロスされた刀身が伸びており2人の攻撃は二刀のマチェーテで防がれていたのだ。

「なっ・・・・・・!?」

 カティーアは驚愕し同時に唖然とした。

「言ったはずだ。お前達程度の輩など敵ではない事を」

 苦戦を感じさせない台詞を零しマチェーテを前に押しかける。細い腕にも関わらず獣のような怪力だった。

「こいつ、化け物か・・・・・・!?」

 どんなに本気を出して挑んでもびくともせず容易に追い込まれていく。

「いつまで馴れ馴れしく私にくっついているつもりだ?」

 レイピアは弾かれ刀身をずらされる。ナデージュダに打ち負かされたカティーアは頭突きをお見舞いされた。岩に岩を打ちつけた惨い音、額に激痛と衝撃が加わり意識が遠のく。そのまま後ろへ倒れるように怯んだ。直後にジャスティンが蹴りを入れたがそれも難なくかわされてしまう。止まない拳の雨を浴びせるものの全てマチェーテで受け止められる。生身の皮膚と骨を金属に打ちつけたため彼女の手は痛々しく皮がめくれていた。

「なかなか素早い武術だが私には止まって見えるぞ?」

 ナデージュダはジャスティンの拳を伏せてかわし同時に膝蹴りを当てた。うずくまった彼女の首を鷲掴みし尖った爪を柔らかい皮膚に食い込ませる。そして片手で軽々と持ち上げ容赦なく地面に叩きつけた。

「があっ・・・・・・!!」

 全身を強く打ちつけられジャスティンは痛感の悲痛を上げた。涙が溢れ途切れ途切れの唸りを吐きながら痙攣した。

「ジャ、ジャスティン・・・・・・!」

 血が滲む痣を押さえカティーアはその惨劇を無力に眺めていた。震えた手でレイピアを握りふらふらと立ち上がる。

「ほう、まさか起き上がるとは・・・・・・手心を加えず頭蓋骨に損傷を負わせたつもりだったが。この弓使いのエルフよりもお前の方が楽しめそうだ」

 ナデージュダは見下した口ぶりで楽しそうに言った。マチェーテを手の中で回し両方を構える。頭部の傷に視界を遮られても尚、カティーアは抗いをやめる気はなかった。

「戦いの序章でくたばる戦士がどこにいる・・・・・・山積みになった天使の屍の上で教団の旗を掲げるまで私は死なん・・・・・・!」

「随分と威勢がいいな。だが、もうすぐここはお前達の死体置き場となろう。教会で死ねるとは運のいい奴らよ。それが済んだら外にいる反逆者共も皆殺しにしてやろう」

「ふっ・・・・・・!彼らを侮ってもらっては困る。強大な敵に立ち向かう強さを持つ連中だ・・・・・・!甘く見てると醜い骸、晒す事になるぞ?」

「そうなるのは奴らの方かも知れんがな」

 ナデージュダはにやけていたが目は笑っていなかった。マチェーテを向けたまま弱った相手に突っ込む。風を斬り2本の刃はカティーアを挟み撃ちにする形で両側から振り下ろされる。

「ルナリトナ、大丈夫!?」

 ルシールは前線を離れミシェル達の傍にいた。慌てた深刻な目で負傷し横たわる仲間を見下ろす。

「心配してくれてありがとう・・・・・・大丈夫・・・・・・だよ・・・・・・?」

 無理に平気に振る舞いに起き上がろうとするが

「・・・・・・あっ・・・・・・!」

 全身の感覚を失いルナリトナは脚のバランスを崩した。倒れる身体を2人がとっさに支える。

「やっぱり大丈夫じゃないよ!」

 仲間を腕に抱えルシールは彼女の異変に気づいた。顔色が青ざめ呼吸も激しく乱れ始めていた。汗が止まらず手足も震えている。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.43 )
日時: 2019/03/23 08:55
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

「痛くないけど・・・・・・寒い・・・・・・」

 ルナリトナが凍えた声で言う。

「ぜ、全部私のせいだ・・・・・・私が・・・・・・!」

 ミシェルが今にも泣そうな面持ちで自分を責めるが

「そんな事言ってる場合じゃない!今はルナリトナを助ける事だけを考えよう!ここは危ないから安全な場所に運ぶのを手伝って!」

 ルシールは相棒の気をしっかりと持たせルナリトナの衣服を掴み引きずる。2人は隅にある階段の影へ彼女を連れて行き身を隠れさせる。

「どこをやられたの!?」」

「肩をやられちまった・・・・・・」

「見せて!」

 ルシールは押えていた手をどかし切れた服を破く。見るに堪えない傷口を覗き思わず目を背けた。だが、即座に向き直ると

「出血が酷く黒い血が流れてる・・・・・・深く刺さったんだ。放っておいたら大変な事になる。ミシェル、ルナリトナを動けないくらい強く押さえて!」

「・・・・・・え?」

「早くっ!」

 ミシェルは慌ててルナリトナに抱きつき胸部や手足など全身を固定した。服を引っ張り醜く化したを露出させる。急ぎ腰のポーチからいくつかの医療品を取り出しまずは包帯を手に取り十分な長さに伸ばして切った。次に白い綿にドロドロとした液体状の傷薬を染み込ませる。それをすぐには使用せず今度はアルコールの瓶の蓋を開け

「かなり染みると思うけど少しの間だけ辛抱して?感染を防ぐ必要があるから」

 ルシールはミシェルにもっと強く身体を押さえ込むよう指示する。

「消毒か・・・・・・?早く・・・・・・やってくれ・・・・・・!」

「いくよ?」

 瓶の口を下にし中身を垂れ流す。濃度の高い大量のアルコールが傷口に降り掛かり血の汚れを洗い流す。

「・・・・・・がああっ!!」

 直後にそれは神経を刺激し肉を深く抉るような激しい痛感を生んだ。ルナリトナは絶叫し意思とは関係なくびくんっ!と痙攣し跳ね上がった。ミシェルにもその激痛が伝わり苦しい表情を浮かべる。それでも必死にしがみついて離さなかった。

「ああ・・・・・・!・・・・・・くそったれ・・・・・・!」

 痛みは十数秒続きようやく和らいだ。ルナリトナが口の悪い台詞を吐き捨て涙を零した。早い呼吸を繰り返し残った感覚に歯を噛みしめる。

「よく頑張ったね。流石は教団の精鋭だよ」

「へへっ・・・・・・だろ・・・・・・?」

 ルシールは顔を穏やかに緩ませ包帯を巻いた。肩を覆いしっかりと結びつける。

「ルナリトナの応急処置は終わったけどこれからどうする・・・・・・!?」

 ミシェルが平静さを失った素振りで聞く。

「決まってるでしょ?」

 ルシールは剣を拾い立ち上がった。

「カティーアを助けに行かなくちゃ!早くしないと彼女が危ない!」

 そう言ってミシェルの手を引く。

「すまないね・・・・・・僕だけのんびり寛がせてもらって・・・・・・」

「気にしないで。あなたは十分戦いに貢献して何度も私を救ってくれた。後はこっちに任せてゆっくり休んでて」

「・・・・・・そうだ・・・・・・これを持っていけ・・・・・・今の僕には扱えそうにない・・・・・・でも、君なら上手く・・・・・・!」

 ルナリトナは無理に力を振り絞り残った火炎瓶や煙幕を取り出した。それらを地面に転がし渡す。

「げほっ・・・・・・げほっ!」

「もう喋らないで!」

「ル、ルシール・・・・・・ミシェル・・・・・・もしこれが犬死しそうな戦なら君達だけでも・・・・・・逃げろ・・・・・・死ぬのは僕達だけで十分だ・・・・・・!」

 ルシールはその手段を肯定しなかった。当然の如く彼女を叱りつける。

「何言ってるの!?あなた達を置いて行くわけないよっ!生きて一緒に帰ろう!?」

「そうだよ!ルナリトナやカティーアお姉ちゃんがいなくなったら悲し過ぎて生きていけない・・・・・・!」

 ミシェルも同じ考えだった。

「私は最後まで諦めないっ!例え命を落とす事になっても教団の誓いを守り仲間を見捨てず剣を振るう!」

「カティーアお姉ちゃんを見殺しにはしない!私もルナリトナと同じ気持ち、仲間を捨てて逃げ延びるくらいならあっさり殺された方いいその方がよっぽどマシだよ!」

「君達・・・・・・!」

 ルナリトナは嬉しさと感動に鼻を啜った。両目を腕で拭いにっかりと笑った。

「どうしようもない奴らと縁を持ったもんだ・・・・・・こんなに好かれているんじゃまだまだ天国に行くわけにはいかないな・・・・・・」

 ルシールもその通りだと言わんばかりに頷き

「それじゃ行ってくるね?私達を信じて、望みを捨てない事を約束して」

 心強い台詞を述べルシールは戦いの舞台へと走り去って行った。ミシェルも自信のない顔をしながらも後についていく。

「負けるなよ・・・・・・2人・・・・・・共・・・・・・」

 ルナリトナは苦し紛れに微笑み力尽きた。ふっと意識を失いぐったりと地面に横たわる。



「くっ・・・・・・!」

 カティーアは霞んだ視界を頼りにマチェーテの攻撃を受け流す。容赦なく振り下ろされる刃の雨、反撃するチャンスが回って来ない。だんだんと不利な戦況に立たされていく事は本人も自覚していた。

「どうした?もっと私を楽しませろ」

 ナデージュダは楽しそうに弱った敵をいたぶり続ける。一振り一振りが力強い一撃、痛みとプレッシャーを同時に与える。

「がっ・・・・・・!」

 刀身に受けた震動が握っていたグリップに衝撃として伝わる。耐え難い鋭い痛感が骨の髄まで響いた。カティーアは手を震わせとうとう武器を手放してしまう。地面に落ちたレイピアが跳ねて転がった。

「くだらん」

 短い台詞に風を斬る素早い音、皮膚に食い込み肉を滑らかに裂いていく。刃が体内から抜けた直後、負わせられたばかりの傷から黒い血が噴き出した。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.44 )
日時: 2019/03/23 08:58
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

「あああああああっ!!」

 カティーアは両肩と上の胸部を斬られ絶叫した。気迫を持ち堂々としていた面影は消え女々しく跪き胸を押さえうずくまる。止まらず流れ出る深紅の体液が滴り血の池が広がる。

「やはり口先だけの見掛け倒しか・・・・・・少しは私を手こずらせてくれると期待していたんだが」

「はあはあ・・・・・・ぐぁっ・・・・・・!」

 カティーアは悔しそうに顔をしかめながら相手を見上げる。はっきりとはしなかったがやられた自分を勝ち誇った笑みで見下ろしている・・・・・・それだけは分かった。

「暇つぶしに付き合ってくれた褒美だ。まずはお前から楽にしてやろう」

 ナデージュダが右手のマチェーテを振り上げる。

「ミシェル・・・・・・!」

 カティーアは親しい仲間の名を口にする。目をぎゅっとつぶりあっけない死を覚悟した。

「さらばだ」

 力強く勢いを入れたが刃は振り下ろされなかった。何故ならダークエルフ目掛けて何かが飛んできたからだ。酒瓶のような無色透明の容器、火がついていない火炎瓶だった。ナデージュダはおもむろな素振りで投擲武器を容易く切り裂いた。瓶は横に真っ二つに割れ中身が切り口から零れ出る。同時に火花が液体に触れ引火、彼女の背後で一瞬で燃え広がり火の海と化した。

「ほう・・・・・・」

 ちらっと燃え盛る火を真顔で眺めすぐに正面を向く。剣を構え立ち塞がるルシールとミシェルの姿があった。ナデージュダは幼い子供を見て呆れた苦笑をした。

「まだいたのか?とっくに逃げたのかと思ったぞ?」

 皮肉を気にせずルシールはナデージュダをキッと睨む。

「仲間を置いて逃げる訳がない!ナデージュダ、私はお前を倒す!」

 威勢のいいナデージュダは静かに面白おかしく笑った。

「たかが、ガキであるお前達が私を倒すだと?子供は夢があって可愛いものだ。しかしだな、お前はともかくそこのミシェルというガキは怯え切っているぞ?私が前に出たら一直線に逃げるだろう」

「わ、私は逃げない!お前なんかカティーアお姉ちゃんと比べたら全然恐くない!すぐにやっつけてやる!」

 ミシェルも恐怖を押し殺し強気に言い張る。

「ミシェル・・・・・・!」

「そうか・・・・・・お前らの脆い勇気は伝わった」

 やる気がない生返事をしてナデージュダは二刀のマチェーテを鞘に収める。顔に浴びた返り血を拭い今度は腰に吊るした鉤爪を取り両手にはめ金属の爪をギラつかせる。そして動けないカティーアの頭部を思いきり蹴とばし隅へと追いやった。

「お姉ちゃんっ・・・・・・!!」

「フィールドを掃除した。これで戦いやすくなっただろう?」

 ナデージュダは首を傾げ猟奇的な笑みを浮かべる。

「うわあああああっ!!」

 ミシェルは怒りに狂い突っ込んだ。振りかざした剣を力の限り斜めに振り下ろす。幼子の腕とは思えない素早い一撃だが前に出された左手で容易に防がれた。刀身は爪ではなく間である隙間の手甲で受け止められていた。銀の光を放つ鋼でできており大剣を通さない程硬い。分厚く作られているため衝撃すら与えられない特性を持つ。

「お前だけはっ・・・・・・!」

 ミシェルは理性の切れた気迫をぶつける。無力と知りながらも圧倒的な力に抗う。

「くくっ、ただの足手まといだと思っていたが・・・・・・見直したぞ?・・・・・・しかし・・・・・・」

 ナデージュダ悪巧みな笑みを浮かべいきなり手をぐるりと回転させた。手首が捻られ強制的に曲げられる。ミシェルの剣はかぎ爪に絡め取られ武装を解かれた。

「まずは子供1人」

 そして右手のかぎ爪が振り下ろされ・・・・・・ミシェルに当たらなかった。無数の細長いの刃は彼女の頬の数センチ前で止まっていた。間に剣が差し込まれている。

「ルシール!」

 ルシールが危機一髪、直撃を免れさせていたのだ。

「1人で突っ込むなんて危ないよ。どんな時も冷静に仲間と一緒に行動しなきゃ」

 重い圧力を支えながらにっこりと微笑んだ。

「ふん、ガキの友情ごっこなど虫唾が走るだけだ」

 ナデージュダは鼻で笑い見下した態度を取った。更に力を加えルシールとミシェルを数メートル先に弾き飛ばす。

「うわあっ!」 「きゃあっ!」

 2人は広間に投げ出され地面を転がり回った。

「子供は弱過ぎて相手にならん。まともにやり合っていたらこっちの腕が鈍ってしまう」

 そして嫌味を吐き捨てた。

「うう・・・・・・」

 ルシールは全身の痛みに耐え何とか立ち上がった。隣に倒れていたミシェルの肩を抱く。

「ミシェル、大丈夫・・・・・・?」

「もう嫌だ・・・・・・私達はここで死んじゃうのかな・・・・・・?」

「絶望するのだけはよそう?外では皆が今も諦めずに戦ってる。教団の勝利を信じているんだ」

 同じ信条を歩む仲間の事を口にし必死に励ます。余裕に振る舞っているがルシール自身も本当は不安で仕方なかった。まわりに広がる悲惨な光景を見なくても勝ち目がない事は十分に承知していた。

「でも、カティーアお姉ちゃんもジャスティンもあいつを傷つける事すら出来なかった・・・・・・私達になんてもっと無理だよ・・・・・・」

「そうだね。多分ではなく間違いなくあいつに正攻法は通用しない。だからこそ奥の手を使う」

「奥の手・・・・・・!?」

「そう、これは一か八かの賭けだから今から話す事をよく聞いて」

 ルシールは顔に顔を寄せ耳元で囁いた。

「私があいつに一騎打ちを仕掛けて時間を稼ぐからミシェルは『アレ』を使って。上手く命中させたらあとはこっちの思う壺だよ」

「アレってまさか・・・・・・無茶だよ!アレは強力な秘法で一度しか使えないし時間が掛かる!」

 ミシェルは強く反対したが

「このままだと私達は本当に殺されてしまう。外にいる皆だっていつ援軍に来れるかなんて分からない。お願いミシェル、君が最後の切り札なんだ」

「・・・・・・」

 彼女は自信がなかった。未熟な自分そのものがプレッシャーになっていたのだ。しかし、このまま行けばこちらは確実に全滅する。それも時間の問題だ。悩み抜いて選んだ決断をミシェルは重い口を開いて伝える。

「・・・・・・分かった。でも約束して?絶対に死なないでね?」

「何当たり前の事言ってるの?君がいるから私は死なない。友達を絶対に1人にさせないよ」

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.45 )
日時: 2019/03/23 09:02
名前: シリアス (ID: FWNZhYRN)

「血迷ったか?不利な状況にも関わらず丸腰で挑むとは・・・・・・」

「丸腰じゃないよ。こっちには切り札があるんだから」

 ルシールは堂々と言い張った。恐れた素振りを見せず再びナデージュダの前に立ちはだかる。

「2人係で来なくて大丈夫なのか?もっとも後ろにいるお前の友人は足手まといになるだけだろうが」

「その大口、二度と叩けないようにしてやる」

 ルシールは怒りがこもった口調で両腕を構える。

「ナデージュダ、私はこの戦いでお前との決着をつけるつもりだよ。だからお前も本気でかかって来い」

 それを聞いてナデージュダはせせら笑った。少し経って笑い疲れて息を吐き出した。

「お前にはやる気が溢れているな。その活気は買ってやろう。・・・・・・だがな、剣もろくに握れぬガキが生意気な事ほざくんじゃないっ!」

 愉快だった態度は一変しナデージュダは怒鳴り声を上げた。殺意に満ちた表情に戻し容赦なく突っ込む。かぎ爪を持つ両腕を広げ両側から切り刻もうとした。ルシールはバックステップで挟み撃ちをかわす。標的を仕留め損なったかぎ爪は双方共重なり甲高い音と火花を散らした。後ろに滑る足を地面に手を当て止める。そして反撃に向かう。こちらが攻撃する前にナデージュダはすぐに次の一手をかます。

 重く振り下ろされた手形の刃をルシールはまたも器用に回避した。その直後、片方のかぎ爪が顔に押し寄せて来るのが見えた。今の回避で大きな隙を作ったため次を避ける事は不可能だった。鋼の爪は風を斬る音を鳴らし素早く迫り命中した・・・・・・が飛び散ったのは血ではなかった。

「何・・・・・・?」

 ナデージュダは意外そうな顔をした。自身の大きな武器を小さなナイフが受け止めている。ルシールは腕をクロスしブレードガントレットを使い間一髪防いでいたのだ。彼女は驚く敵を見上げ微笑んだ。

「まさかそんな物を隠し持っていたとは・・・・・・それがお前の切り札か?」

「まあ、そんなところ」

 ルシールはいい加減な返事を返した。

「とんだ命拾いをしたものよ。しかし、その細い刃はじきに折れる。その時がお前の最期だ」

「そんなに心配しないで?切り札はまだあるから」


 一方、ミシェルは膝をつき少し間を開け両手を重ねていた。汗が滴る真剣な表情、目をつぶり何かを囁いていた。

「予言を告げる聖なる魔女、濡れ衣を着せられ迫害の地へ堕ちる・・・・・・」

 すると手の間に紫の禍々しい球体が生まれた。光に包まれそれは次第に膨らみ輝きを増す。

「されど、魔女は地の底から這い上がり慈悲を求め彷徨い嘆いた・・・・・・」

 ミシェルの手に聖痕が浮かび上がりやがて全身に広がった。

「魔女を造りしは聖なる神の慈悲・・・・・・そして・・・・・・うぐっ!?」

 その時、全身に激痛が走る。強力な魔法の作用が幼い体を蝕んでいるのだ。刻まれた紋章からは焼けるような感覚が伝わってくる。

(痛いけど倒れるわけにはいかない・・・・・・!私が失敗すればルシールが・・・・・・どうか持ちこたえて・・・・・・!)

「迫害に明け暮れし人々の黒い罪・・・・・・されど因果は巡る・・・・・・」


「降参したらどうだ?私は非情だが慈悲深い。素直に負けを認めれば楽に殺してやってもいいぞ?」

 ナデージュダは重いかぎ爪に更に力を加える。力の差は誰が判断しても歴然、幼いルシールは徐々に押されていく。このまま打ち負かされるのも時間の問題だった。

「そろそろ限界か?刃が折れるかお前の手が折れるか、どちらが先か楽しみだ」

「残念だけどそのどちらでもないよ」

 圧し掛かる痛みに耐えルシールは言った。防御をガントレットが付いた右手に任せ左手をポーチに入れた。ルナリトナから渡されたスモークを取り出し相手に一瞬見せつけ指をリングにかけ安全ピンを外す。脅威を感じたナデージュダは攻撃を中断し後ろへ下がった。その直後、噴射口から白い煙が音を立て絶えず噴出された。煙幕は瞬く間に広がりルシールを包み込むと彼女の姿は影さえも見えなくなった。

「小癪な!」

 ナデージュダも恐れをなさず煙の中へ消えた。

「姑息な手など使いおって!どこにいる!?出て来い!」

 どこを向いても白い世界があるだけだった。ルシールの居場所が分からないまま闇雲に武器を振るう。すると気配を感じた背後を振り向いた時

「・・・・・・ぐっ!?」

 その時、鋭い激痛を感じた。右肩を寄せると皮膚が細長く裂かれ血が出ていた。

「これはジャスティンの分・・・・・・」

 煙のどこからかルシールの声がした。やはり姿は見えない。不意を突かれたナデージュダは舌打ちし声がする方を向いた。すぐさま後を追いかけようしたが

「・・・・・・があっ!」

 ナデージュダがまたも痛感に声を上げてしまう。身体のバランスを崩し情けなく跪いた。今度は脚を傷つけられ動きを止められる。

「これはカティーアの分・・・・・・」

「おのれ・・・・・・!」

 煙で為す術のないナデージュダはかぎ爪を杖代わりによろよろと立ち上がる。顔を上げた瞬間

「!」

 目の前にルシールが立っていた。睨んだ赤い瞳でこちらを見上げ手甲のブレードを構えている。彼女は容赦なく迫った。

「これはルナリトナの分だっ!」

 ルシールは叫びブレードの出した手を相手の腹部目掛けて押し寄せる。だが、ナデージュダも同じく手の平を向けていた。黒く浮かび上がった得体の知れない刻印が目に飛び込む。それは真っ赤に染まり始め火が放たれる。炎は渦巻く形で舞い上がり2人を飲み込んだ。盛大に燃え上がり目障りな煙幕は一瞬にしてかき消された。

 焼けた跡からは熱が残りその場だけが暑さで朦朧としていた。立ち上る黒煙、焦げ臭い臭いが漂う。煙が晴れ2人の姿が見えた。ナデージュダはそのままの姿勢、ルシールは瞬時に顔を腕で覆っていた。彼女の身体は数ヶ所が燃え服がボロボロに焼け落ちている。肌が露出していた手や脚も酷い火傷を負っていた。


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