ダーク・ファンタジー小説

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【不定期更新……】カラミティ・ハーツ 1 心の魔物
日時: 2017/09/17 14:49
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 目次(随時更新)
(章分けをし、一部形式変更)

第一章 始まりの戻し旅 >>0>>3-7

Ep1 心の魔物 >>0
Ep2 大召喚師の遺した少女 >>3
Ep3 天使と悪魔 >>4
Ep4 古城に立つ影 >>5
Ep5 醜いままで、悪魔のままで >>6
Ep6 悔恨の白い羽根 >>7


第二章 訣別の果てに >>8-11>>14

Ep7 ひとりのみちゆき >>8
Ep8 戦いの傷跡 >>9
Ep9 フェロウズ・リリース >>10
Ep10 英雄がいなくても…… >>11
Ep11 取り戻した絆 >>14


第三章 リュクシオン=モンスター >>15-17

Ep12 迫る再会の時 >>15
Ep13 なカナいデほしいから >>16
Ep14 天魔物語 >>17


第四章 王族の使命 >>18-25

Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」>>18 
Ep16 亡国の王女 >>19
Ep17 正義は変わる、人それぞれ >>20
Ep18 ひとつの不安 >>21
Ep19 照らせ「満月」皓々と >>22
Ep20 常闇の忌み子 >>23 (※長いです)
Ep21 信仰災厄 >>24
Ep22 明るいお別れ >>25


第五章 花の都 >>26-36

Ep23 際限なき狂気 >>26 (※長いです)
Ep24 赤と青の救い主 >>27
Ep25 極北の天使たち >>28
Ep26 ハーフエンジェル >>29
Ep27 存在しない町 >>30
Ep28 善意と掟と思惑と >>31
Ep29 剣を取るのは守るため >>32 (※長めです)
Ep30 青藍の悪夢 >>33 (※非常に長いし重いです)
Ep31 極北の地に、天使よ眠れ >>34 (※長めで重いです)
Ep32 黄金(きん)の光の空の下 >>35
Ep33 忘れえぬ想い >>36


第六章 動乱のローヴァンディア >>37-49

Ep34 予想外の大捕り物 >>37
Ep35 緋色の逃亡者 >>38
Ep36 帝国の魔の手 >>39
Ep37 絡み合う思惑 >>40
Ep38 再会は暗い家で >>41
Ep39 悪辣な罠に絡む意図 >>42
Ep40 鏡写しの赤と青 >>43
Ep41 進むべき道 >>44
Ep42 想い宿すは純黒の >>45
Ep43 それぞれの戦い >>47
Ep44 魔物使いのゲーム >>48
Ep45 作戦完了 >>49


第七章 心の夜 >>50-55

Ep46 反戦と戦乱 >>50
Ep47 強制徴兵令 >>51
Ep48 二人が抜けても >>52
Ep49 嵐の予感 >>53
Ep50 Calamity Hearts >>54 (※非常に長いし重いです)
Ep51 明けの見えぬ夜 >>55


第八章 時戻しのオ=クロック >>56-

Ep52 巻き戻しの秘儀 >>56
Ep53 好きだから >>57


 はじめまして、藍蓮と申します。ファンタジーしか書けない症候群です。よろしくお願いします。
 あるゲームのキャラクター紹介から想を得た、設定はそこそこ作ったとある物語の、プロローグを掲載しました。続く予定です。
 それではでは。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。

「魔導士部隊、位置に着け!」
 高らかに響くラッパの音。リュクシオンは隣を見た。
「ついに来ましたね、この時が」
「ついに来たな、総力戦が」
 彼の隣に立っているのは、この国の王。王は難しい顔をして、リュクシオンに言った。
「リューク、いけるな?」
「はい、あと少しで準備ができます。しばしお待ち下さい」
「頼りにしてる」

 この国、ウィンチェバル王国は、小さい割には資源が豊富だ。ゆえに、これまで多くの国々から狙われ、侵略されてきた。それをすべて退けられたのは、ひとえにこの国の魔導士部隊のおかげである。
 それなりの侵略ならこれまで何度かあったが、今回のは規模が違う。
 まだ肌寒い季節だ。リュクシオンはマフラーに顔をうずめながらも、考える。
 (よりによって、ローヴァンディア、あの大帝国だと? 桁が違う。だからこそ、僕は……!)
 願った。「力を」と。状況すべてを打破する力をと。何もできない自分が嫌で。国が侵略されていくのを、見ているだけしかできなくて。その思いは日増しに強くなり、内側から彼を苛み続けた。
 そして、その願いは、叶った。理由はわからない。ただ、ある時から急に、召喚術が使えるようになった。
 リュクシオンは神を信じない。信じても無駄。助けは来ない。そんな世界に生きてきたから。
 しかし、彼に起きた奇跡は。何もできなかった彼が、急に「力」を手に入れた理由は。神の御業というよりほかになかった。

 そして今、彼はここにいる。その力を見初められ、王の側近として、ここにいる。力がなければ、決して昇りえぬ地位に。望んでこそいなかったが、決して悪くは無い地位に。
 ——だから、利用させてもらうよ。
 この状況を打破できる、唯一無二の召喚術。国を守るために過去の文献をあさり、そして見つけた、とある天使の召喚呪文。
 それの発動には、長い長い準備が要った。リュクシオンは寝る間も惜しんで準備し続け、ついに、術の完成が迫る。
 ——国を守りたい。思いはただ、それだけなんだ。
 そして——。
 
 太陽が、月に食われた。

 日食だ。しかも、皆既日食だ。昼の雪原はあっという間に闇に閉ざされ、凍える寒さが人々を打つ。
「——今だ!」
 リュクシオンは声を上げた。突き出した手に、集まる魔力。
 皆の視線が、彼に集中する。
「現れよ——日食の熾天使、ヴヴェルテューレ!」
 神の域にさえ達したとされる究極の天使が今、リュクシオンの「仕掛け」に導かれ、彼の敵を滅ぼすため、外へと飛び出す——!
 が。

 ——崩壊は、一瞬だった。

「あれ……うそだろ……」
 白い、白い光が視界を埋め尽くした。天使はこの世に顕現した。そこまでは構わない。
 だとしても。
 ——この、目の前に広がる無数の死体を。一体どう説明すればいい?
 見知った顔。あれは魔道師のアミーだ。あっちは友人のルーク。
 ——さっきまで隣にいた、リュクシオンの王様。
 みんなみんな、死んでいた。敵味方の区別なく。リュクシオン以外、皆殺しだった。死んだその目には恐怖の色があった。
 ——国が、滅んだ。守ろうと、あれほど力を尽くした国が。リュクシオンの王国が。守りたかった全てが。
 リュクシオンの、積み重ねてきたすべてが。
 存在意義が。
「……あ……嗚呼……ぁぁぁぁ嗚呼ああ嗚呼あ!」
 地にくずおれ、獣のように咆哮する。
 ——天使は、破壊神だった。
 確かに相手も全滅したが、彼が望んだのはこんなことじゃない。こんなことなんかじゃ、ない。
 平和を。愛する国に平和を。そう、心から思っていた。だからこそ、力を望んだ。愛するものを、国を、守る力を。
——コンナコトジャナカッタ。
 絶望に染まる召喚師の頬を、涙が伝った。赤い、紅い、赫い。血の色をした、絶望の涙が。
「ア……アア……ァァァアアアアアアアアアア!」
 壊れた機械のような声とともに、彼の世界は崩壊した。
「ァ……ァぁ……ァぁァぁァぁァぁァぁァ…………」
 その身体が、闇色の光とともに、変化していく。
「ァ……ぁ……」
 背はこぶのように盛り上がり、体中から毛を生やしたそれは。もはや人間ではなかった。
「……ァ……」
 幽鬼のようにのっそりと動き出したそれは、魔物そのものだった。
 その瞳に、意思は無い。理性もない。何もない。
 そのうつろな姿は、大召喚師のなれの果て……。

 ——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。

 王も貴族も召喚師も。なんびとたりとも例外は無い。
 ひとたび心が闇に落ちれば、一瞬にして、魔の手は伸びる。
 そして魔物となった者は、己の死以外ではその状態を解除できない。
 これまでもあった。そんな悲劇が。魔物となった大切な人を。自ら手に掛ける人たちが。
 悲劇でしかない。ただ悲劇でしかない、この世界の絶対法則。

 ——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ……いきなり大変なことになっていますが、まだ続きます。次の舞台は移って、この国の外になります。魔物となったRも今後、深く関わっていきます。よろしくお願いします! 〈続く〉

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep44 魔物使いのゲーム ( No.48 )
日時: 2017/09/01 12:07
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 拙作、「夜明けの演者」が、小説大会ダークファンタジー部門で次点を頂いたようです。
 皆様、ありがとうございました!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ——嫌な、予感が、した。


 エルヴァインは、一気に馬を駆けさせる。

「ウィンチェバル、何のつもりだ!」
「いやいやいや、置いてくとかそりゃないぜ!」

 そのあとを追う、赤色と橙。

 昔っから、勘は鋭かったエルヴァイン。
 彼に巣食う、闇が言うのだ。

 ——早くたどりつかなければ、手遅れになるぞ——。

 脳裏に浮かぶは緑の戦士。
 一人で勝手に先行した彼。

 エルヴァインは、走る。馬の許す最高速度で。


 そして、たどり着いた先で、見た——。


  ◆


「フェロン!」


 地面に開いた、大きな落とし穴。
 その中に群がる幾十もの魔物たち。
 それに揉まれ、時々見え隠れする茶色の髪は——。


「アルヴァト! この場は任せたッ!」


 本来の自分ならば。リクシアに出会う前の自分ならば。
 こんな、自己犠牲的な真似なんて、しなかったのに。

 でも、今は違うから。
 リクシアに出会い、フェロンに出会い。天使と悪魔、フィオルとアーヴェイに出会い。

 ——遠い昔、グラエキアに出会い。


 変わったと、言いきれる。変われたと、言いきれる!


 吹きだす闇さえ力に変えて。
 彼は魔物群がる穴に、自らひらりと躍り込んだ。


  ◆


「死ぬ気かッ!」

 その様を見て、思わずアルヴァトが叫んだが。
 死にたがりは放っておいて。
 やらなければならないことがある。

「アルヴァトだ。少女を返せ」

 その言葉を聞き、男はうなずいた。
「返しますよ、もちろん」
 彼は背中に、麻袋を背負っていた。
 それを大地に、勢い良く放り出す。
「……そこに、彼女が?」
「生きてますからご安心を」
 その言葉に、嫌な予感が、した。
 嫌な予感しか、しなかった。
 アルヴァトは、恐る恐る袋の口を開け、中にいた少女を引っ張りだした。

 そこにいたのは——。















 身体の至る所から血を流し、今にも死にそうに、辛うじて息をしているだけの、少女だった——。















 アルヴァトの中で、何かが切れたような音がした。
 苛烈な瞳に燃える炎は、近づくだけで火傷しそうだ。

 男は、笑うのだった。





「私の魔物たちが欲求不満でして。折角ですから、玩具になっていただいたのですよ」





 それで、この有様。
 それで、この無残。

 横たわる彼女の衣服はほとんど引き裂かれ、身体のあちこちが膿み始めている。

 フェロンがこれを見たらきっと、怒りで我を忘れるだろう。


「で? アルヴァトはここに来たが?」


 彼はきっと、男を睨んだ。
 男は彼に、手招きするような仕草をする。
「ああ、ちょっとこっちに来てください。……逃げようとしたら、配下の魔物がその少女を引き裂きますから、余計なことはしない方が賢明ですよ?」
 その脅しには、屈するしかなくて。
 抵抗するすべを持たなくて。
 アルヴァトは、心配そうな顔のアリオンに、言った。
「その子を頼む」
 そう言い残して、怒りと決意を秘めた瞳で。
 男のもとへ歩みゆく。

 男は、彼に囁いた。
「なぁに、直接あなたを殺すわけじゃない。だからあなたはわざわざ来たのでしょう。私とゲームをしてもらいますよ!」
「……内容は、何だ」
「これですよ!」
 大仰な仕草で彼が指し示したのは。










 ——魔物と化して、狂ったように喚く、『反戦部隊』のメンバーたちだった——。










「見物ですねぇ! 仲間を殺すか、仲間に殺されるかッ! さあ、賭けて見ましょうかぁ! 命のギャンブルの始まりだァッ!」





 そもそも、あの石の家に逃げ込まなければ、決して起きなかった悲劇。

 しかし彼は、それでも剣を手に取った。
 炎の瞳に、揺るがぬ強い決意を宿して。
 その行動が、これまでの彼を完全否定するものだったとしても。

「けじめを、つけよう」

 自分の起こしたすべてに対する、けじめを。
 それは図らずも、昔、エルヴァインが言った言葉と同じだった。

「アリオン、帰れ」
「え? でも……」
「その子を連れて、帰れッ!」

 いつの間に魔物になっていたのかはわからないが。
 自分の、相棒に。
 仲間殺しをしている場面なんて、見せたくはないから。

 知らず、頬を涙が伝った。しかし、それさえ闘志に変えて。





「悪夢を、この手でッ! 終わらせるッ!」





「いい返事ですねぇ」


 瞬間。


 アルヴァトと魔物たちは、ぶつかりあった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 はい、ついに衝突しました藍蓮です。
 この内容なのに2000文字行かないのはどうしてなんでしょう?
 
 エルヴァインたちはついに追いつき、勃発したそれぞれの戦い。
 グラエキアはまだ、追い付いていませんが。
 
 魔物操る謎の男。始まった戦いの行方は——?

 次の話に、請うご期待!

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep45 作戦完了 ( No.49 )
日時: 2017/09/01 23:22
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 魔物に至るところを傷つけられ、血まみれになったフェロンを後ろにかばい、エルヴァインは鬼神の如く戦った。後に訪れる苦しみなんて考えもせず。吹きあがる闇を力にして。
 その姿は、悪夢の化身。背に闇を負う、青銀の彼は。
 それでも剣振り戦った。
 仲間のために、恩人のために——。

 その時、見えたあれは。


「鎖——? そんな馬鹿な!」


 グラエキアは、リュクシオン=モンスターを縛っているために動けないはずで。

 それは、幻だったのだろうか。


  ◆


 事態が事態だ。
 もう、仲間を斬り殺すことに、彼は遠慮をしていられなかった。
 一切の感情を切り捨て、心を石にして剣を構える。

 赤い瞳が悲しみを宿し、友の名を一人ひとり呟いた。

「……ララ」

 斬り殺された魔物は、たちまち金髪の少女の姿になる。

「……クルール」

 斬り殺された魔物は、たちまち初老の男性の姿になる。

「……リューノス」

 斬り殺された魔物は、たちまち白い少年の姿になる。

「……ダルキアス!」

 斬り殺された魔物は、たちまち——。















「——目を覚ましなさい、アルヴァトッ!」















 ——赤い少年の姿には、ならなかった。





 漆黒の鎖が、その身体を貫いて。





 その途端、幻術が吹き飛んで。


 魔物は。アルヴァトが、仲間が魔物化したと思いこんだ魔物は。


 ——何の関係もない、ただの一般人だった——。


 アルヴァトが鎖の飛んできた方向を見やれば。漆黒の少女が、肩で息を切らしていた。


「情けない……あんな幻術に引っ掛かるなんて……!」


 振り向けば。あの男は消えていた。
 アルヴァトは少女に問うた。
「……あんたは」
「エルヴァインと……深い関係のある者よ……」
 その一言で、わかった。彼が言っていた「残した少女」とは、彼女のことだったのだと。
 
 少女は、名乗る。

「私の名前は、グラエキア・ド・アルディヘイム・クライン——ッ!」

 途中まで名乗りかけて。彼女は急に苦しそうに顔をゆがめ、胸をぎゅっと押さえた。

「おい、大丈夫か!」
 彼が心配するのも無理なきことだ。
 グラエキアは、顔をゆがめながらも言う。
「私のことはどうでもいいから……エルヴァインを……助けて……!」
「……しかし」
「私は死なない!」
 叫んで。彼女は鎖を己の身体から引き離し、フェロンの落とされた穴に落とした。
 その様を見て、アルヴァトはうなずいた。
「……行ってくる」
「あとで……ちゃんと、名乗ってやるんだから……!」
「わかった。みんなは……無事、なのか?」
「あれは幻術だって、言ったでしょう……?」
 彼女の答えにうなずいて。
 アルヴァトは、罠の大穴へ、自らその身を躍らせた。
 奴はゲームとか言っていたが、あれはインチキだったらしい。
 それさえ知れれば満足だった。


  ◆


 彼が去ったのを見届けると、グラエキアは地面に倒れ込んだ。
 心臓に激痛が走る。呼吸が苦しい。

 あれから。一睡もせずに、ひたすらに馬を駆けさせてきた。

 彼女は今こそ普通の身体だが、幼いころは病弱で、部屋を出ることを許されなかった時期がある。
 それは今こそ治っているが、無理をすれば、再発する可能性のある病。
 それが今、再発したのだ。

(当然よね……。あんな無茶をすれば)

 自嘲的に、笑った。
 これまではあえて激しい運動を避けていたが、流石に限界か。
 やってきた苦しみと痛みは。当分の間、消えないだろう。 

 わかっていた、こうなることが。
 でも、何もできない自分が嫌で。
 だから、苦しんでもいいから。
 誰かの役に立ちたいと、思ったんだ。

(流石に……死ねないけれど)

 送った鎖に思いを馳せる。
 願わくは。自分が不在でも、少しでも役に立てますように。


  ◆


「加勢するぞッ!」
「終わったのか」

 ひらりと舞い降りた赤い影を見、エルヴァインは声を放った。
 アルヴァトはうなずき、剣を抜き放ち。
 間に傷ついたフェロンを挟み、背中合わせに魔物を迎え撃つ。
 とはいえ。エルヴァインもフェロンも、なかなか健闘したようで。
 残る魔物は二十を下った。これなら何とかいけそうである。

 その時、天から。



 黒い鎖が。突如、現れて。



 魔物を、がんじがらめにした。
 その途端、エルヴァインの瞳に、新たなる怒りが巻き起こった。
「——あんなに外すなと言ったのに! 血迷ったか、グライア!」
 事情を知らないアルヴァトには、何がなんだかまるでわからないが。
 あのグラエキアと名乗った少女が、彼の逆鱗に触れたのは理解した。
 燃える青の瞳が、魔物たちを射抜く。

「片づけるぞッ! 一人十体!」
「無茶を言ってくれるッ!」

 応えながらも。できると確信しているアルヴァトがいた。
 そんな自分に苦笑しながらも。彼は一気に敵に斬りかかった。

 赤と青が穴底を舞い、黒の鎖が彩りを添えた。


  ◆


 やがて、すべて倒し終わって。
 くたびれきった赤と青は。
 それでもやることがあったから。横たわるフェロンの容体を確認した。
 かろうじて、息はある。しかもまだ、意識があった。
 彼はエルヴァインの姿を認め、かすれた声で呼びかけた。

「今までどこで油を売っていた……」

 そんな彼に、優しく微笑んで。
「後で話すから、ひとまずは眠っていろ」
 言って、その背にフェロンを負った。
「そう言えば、どうやって上に——?」
 アルヴァトが、当然の疑問を口にする。
 すると。
 先ほどまで共闘していた黒い鎖が伸びて、穴の上と下をつなぐロープとなった。
 それを見て、エルヴァインは苦笑いした。
「グライアは何でもできるんだな……」
 呟くその背に。
 別の黒い鎖が巻きついて、フェロンと彼とをしっかり固定した。
 これで両手が使える。
 彼は後ろの赤髪を向いた。
「悪いが、怪我人がいる。先へ行くぞ」
 そういう自分も、闇に食われるのは時間の問題だと、わかっていたから。
 アルヴァトの返事を待たず。彼は鎖を上っていった。


  ◆


 上りきった先に、漆黒の少女が倒れていた。
「グライア!?」
 怒ることも忘れて彼は、彼女を抱き起こす。
 彼女は苦しそうに、笑っていた。
「笑っていいわ……。私、無理した……」
 その言葉を聞いて、彼は彼女の身に何があったのかを悟った。
「……無理するなって」
「私の台詞よ」
 見れば、彼の身体はすでに。闇の浸食が始まっていた。
「みんな……満身創痍って言うのも……どうかとは——ッ!」
 彼女は、苦しげにあえいだ。
「……悪いけれど……。私、もう寝るわ……。これ以上話しても、つらいだけ……」
 言って、彼女は眼を閉じた。
 途端、広がった闇。襲い来る痛み。
 しかし、彼にはやるべきことがあったから。
 痛みに耐え、穴の淵に立ち。
 上りくる赤い髪を待った。


  ◆


 上りきり、アルヴァトは笑うしかなかった。
 動けない人が、二人に増えている。
 確かに、先ほどの少女は心配だったけれど……。
 彼は少女を背負い上げた。
 苦しそうな顔のエルヴァインに問う。

「……怪我、したのか?」
「いいや? ……これは、過ぎた力の代償だ」
「歩けるか?」
「歩かなければ、何も進まないだろう?」
「……無茶するなよ」
「そっちだってな」
 
 かくして彼らは帰路に着く。
 満身創痍の身体を抱えて。

 目的は、果たした。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 長いだけの駄文を失礼します、藍蓮です。
 最近は内容が浮かばんのですよ。……すみません。

 とりあえずこの話は一区切り、で、次の話も浮かんでいるのですが。
 果たしてうまく書けることやら。ハァ……。
 話が冗長になってきて、スランプ気味なのです。
 最近の文章、五章程のキレがない……。

 救出されたリクシアとフェロン。
 ひとまずこれで一区切り?

 ……次の話を、待って下さいね。

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep46 反戦と戦乱 ( No.50 )
日時: 2017/09/03 19:06
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 プロット建築完了!
 はい、エンディングが決まりましたので、もうスランプはなくなるかと。
 一日ぶりに再開します。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「……という話だ」

 拠点に帰りつき、アルヴァトは魔物にはなっていなかったみんなにそう話した。
 今は、エルヴァインとグラエキア、リクシアにフェロンはぶっ倒れてベッド行きなので、状況を話せるのは彼くらいしかいない。ちなみにリューノスもダルキアスも魔物は殲滅できたようで、今は戻ってきている。

「……大変だったんッスねぇ」

 しみじみとダルキアスがつぶやいた。
 そりゃそうだよとアリオンが返す。
「俺、マジでビビったんだからなぁ! みんながみんな、魔物になったって、勘違いして! で、そのままアルヴァトも死んじまうのかなって恐怖して! もう、あんなのこりごりだってば!」

「……どうしてそんなに、憎まれる」

 リューノスがぽつりとつぶやいた。
「僕ら……戦争に反対してるだけ……。それって、そんなに悪いこと?」
 国にとっては悪いのでしょうよと、クルールは返答した。
「あの国は、戦争が生きがいみたいな国でございますから。反戦勢力が増えると国の思想に支障をきたし、国がまとまらなくなるのでは? だから、我々を執拗に攻撃した、と」

「とりあえず救出は完了した。僕は責任を果たしたからな」

 これで貸し借り無しだ、とアルヴァトは言った。
「とりあえず、みんなが目覚めるのを、気長に待とうか」

 
  ◆


 暖かいベッド。穏やかな日差し。
 ボロボロのリクシアは目を覚ます。
「痛ったぁ……」
 その身体は手当てされてはいるが、完治には程遠い。
 虚ろな記憶をぼんやりとたどるが、何が何だか思い出せない。
 どうやら自分は、大きな部屋に幾つもあるベッドの、一つに寝かされているらしいと、なんとなくわかった。

 少し離れたベッドが、むくりと動いた。

 そこにいた人影は起き上がると歩いて行き、リクシアのベッドに近づいた。
「起きたか?」
 青い髪。藍色の瞳。宿す闇。
 エルヴァインだ。
「……エルヴァイン……。探したんだよ……?」
「それで、罠に嵌められたんだ。体調が大丈夫なら、話してもいい。僕がぶっ倒れていたのは……まぁ、闇を呼んだ後遺症だ。一晩も寝てれば苦しみは引くし、そろそろグライアも起きるだろう」
「色々……あったんだ」
「まず、語らなければならないのは、アルヴァトのことだ」
「アルヴァト……?」

 エルヴァインは、語り始める。
 自分とアルヴァトとの二度目の出会いと、そこから始まった悪夢の罠と——。
 そしてリクシアは、戦争がはじまったことを、知るのだった。


  ◆


 バルチェスター、王宮——。


「申し上げます! ラヴァン砦が落とされました!」
「申し上げます! セルヴィス将軍が討ち取られました!」
「申し上げます! ……」

 戦況は、思ったよりも芳しくないようだ。
 バルチェスター王エルーフェンは、さてどうしようかと首をかしげる。
 隣に控える宰相に問うた。
「そう言えば、確かウィンチェバルが滅びた時、そこから逃げ出してきた人たちがいたんだっけか」
「そう言った話を聞きますが……?」
「で、ウィンチェバルは優れた魔法大国。魔導士部隊とか、いたよね」
「何をおっしゃって——?」
「それだ」

 彼は、のんびりしすぎたうつけ者の仮面を剥ぎ取って、冷酷に言った。










「全軍に通達。今から、ウィンチェバル人を発見次第、強引にわが軍に引き入れよ。滅びた国だ、遠慮はいらない。彼らの持てる力を最大限に利用し、我が国の勝利につなげよ」










 ……戦は、アロームの町にまで、迫っていた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 一日ぶりにこんにちは(((殴)、藍蓮です。

 Ep39以降、本来のプロットにない予定を書いて勝手に暴走したがためにスランプにはまり、更新スペースがダウンしました。勝手な理由ですね、申し訳ないことです(謝罪)m(-.-)m

 とりあえず。長すぎるので、前の話を区切りとして、ローヴァンディア編は二章に分けます。ちなみに物語の全体構成は十章を予定しているので、もう後半戦に入っています。

 ようやく軌道に戻れた! ここからはまたまた急展開、藍蓮の得意技が炸裂します(たぶん……)

 救出成功したと思うもつかの間、迫る新たな動乱の予感!
 この戦争の、行く末は——?

 次の話に、請うご期待!!


【町の名前、アロームなのにヴィーカって書き間違えてた……!
 そこは滅びた町だから!
 訂正しましたですハイ。】

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep47 強制徴兵令 ( No.51 )
日時: 2017/09/03 17:04
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 それから一週間。
 『反戦部隊』にいた回復魔法使いアマンナのお陰で傷の治りが早まったリクシアたちは、驚愕の知らせを受け取った。



「ウィンチェバル強制徴兵令!?」



 戦に苦しんだ果てに。バルチェスター王はそんなことをやらかした。
 現在地は石の家で、アルヴァトたちは用事があるらしく、もう三日ほど会っていない。
 苦い顔で、エルヴァインは頭を抱えた。
「僕はとっくに……ばれているだろうな」
「加勢するわ」
 グラエキアが、強い笑みを浮かべた。
「グライア、だが」
「魔導士は剣士とは違って、まだマシな待遇を、受けられるとは思うけれど?」


 ……何はともあれ。
 時が、来たのだ。戦いのときが。


 リクシアは大きくうなずいた。
「私、立ち向かうから」
 傷の治りきっていないフェロンに、笑いかけた。


 ふと胸元を見れば、そこにあるのは三枚の羽根。

 一枚目の、冷たい輝きを放つ白の羽根は。かなり前。リクシアが甘すぎたころに訣別の証として受け取った、悔恨の白い羽根。
 二枚目の、どこまでも青く澄んだ羽根は。かなり前。極北の地を去る前に、リクシアが握っていたアルフェリオの最後の形見。
 三枚目の、優しい印象を放つ白の羽根は。かなり前。極北の地を去る際に、「何かあったら放り投げて」と、フィオルのくれた友情の羽根。
 どの羽根にも、様々な想いが、詰まっていた。
 そのうち最後の羽根は、これから戦乱に巻き込まれるにあたり、使用する機会があるかもしれない。
 リクシアは三枚の羽根の首飾りを握りしめ、今は極北の地にいるであろう天使と悪魔を想った。
 別れてからしばらく経ったけれど。フィオルの翼の怪我は、治っただろうか?

 そう、思っていた時だった。


「扉を開けろ! そこにウィンチェバル人がいるのはわかっているんだ!」


 声が、して。
 ああ、ついに時が来たのかと、思った。
 リクシアは真っ先に扉に駆け寄り、開けた。


「私はリクシア・エルフェゴール! ウィンチェバル人。魔物になった、リュクシオンの妹よ!」


 堂々と名乗って。
 その手を差し出した。


「徴兵するんでしょ? すればいいわ! 私は光と風の魔導士! 役に立てるんじゃないかしら!」


 みんなに助けてもらったんだから。今度はみんなのためになるんだ。
 決意を込めて、差し出した手。
 徴兵に来た男は、そのあまりに堂々とした態度にびっくりしたようだが、首を振って言った。
「お前だけじゃないだろう! 他のみんなも、出て来い!」
 グラエキアは、ちらりと後ろの檻を見た。大丈夫だ、しっかり隠蔽されている。
 徴兵係には、ばれていない。
 グラエキアは、エルヴァインとともに、進み出た。

「ならば名乗るわ。私はグラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド。今は亡きウィンチェバル王の姪っ子よ!」
「エルヴァイン・ウィンチェバル! ウィンチェバル王の第三王子だ! しっかりとした待遇を望むね」

 その、凄すぎる名乗りに。徴兵係は一瞬、固まって。
「……善処いたします!」
 そう、叫ぶしかなかった。
 最後に、フェロンがふらりと現れた。
 彼は剣士だが、生憎怪我が治りきっていない。しかも顔の左半分には大きな傷跡があり、完全に左目は見えない。それでも戦えというのだろうか——?
 フェロンは、淡々と名乗った。
「フェロン。剣士だ」
「戦えるか?」
「それなりに」
「なら、戦え」
「……承知」
 その言い分に、リクシアが憤慨した。
「ちょっと! フェロンは怪我人なんだよ! 私もそうだけど、剣士が怪我を負っているって、致命的じゃない! あなたはフェロンに死ねと言っているの!」
「生憎と。一兵卒では上に逆らえないんだ。理解してくれ」
「……いいわ」
 リクシアは、徴兵係を睨みつけた。
「代わりに! 私とフェロンは近い所に配属してね! 絶対だよ!」
「……善処する」
「私からもお願いするわ」
「僕からもお願いしよう。まさか滅びた国とは言え、王族の頼みを無下にはできまい?」
「善処いたしますっ!」
「上々」

 かくして、リクシア達は、本格的に戦に加わることになる。
 この戦の結果がどうなるかはわからないけれど。早く終わらせて、戻し旅を再開したい、そう思うリクシアであった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 あと100文字で、「カラミティ・ハーツ」の総文字数が、10万字越えるらしい。
 そんなことを、しみじみ思った藍蓮です。
 いや〜、長かったですねぇ!(←まだ1か月も過ぎていないのに長いとかいう奴)
 書いている期間はそこまでじゃないですが、10万字も行くとなると、感慨もひとしおです。

 ついにやってきた徴兵令!
 軍に否応なしに巻き込まれるリクシア達!
 未来の行方は——?

 次の話を、お待ち下さい!

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep48 二人が抜けても ( No.52 )
日時: 2017/09/04 21:27
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 徴兵係に連れられて。リクシアが向かったのは魔導士の営舎。
 結論、フェロンからは引き離された。しかし、近い所に配属してくれるらしい。
 向かったその地で説明を受けた。

「そちら方魔導士部隊は、主に遠方からの援護を担当する。相手は魔物。元は善良なる人間だ。しかし、それを恐れることなかれ! 目の前にいるのは敵! 故に倒す! 倒さねばならぬ! ただそれだけを考えて戦え!」

 とのことだった。
 こんな殺伐とした雰囲気は初めてだったから、緊張するリクシアに。


「大丈夫なの。私たちは前線に出ないの」


 そっと笑いかける瞳があった。


「私、エリセナ。水使いなの。私もウィンチェバルから来たの。引っ張り出されてきたの」


 ……リクシアと似た境遇の者が、ここにもいた。
 水色の髪、青い瞳。腕にクマの縫いぐるみを抱いたその子は、その手を差し出した。


「だから、よろしくなの」


 リクシアは、笑ってその手を握り返した。
「私、リクシア。光と風の魔導士よ。これからよろしく!」


 たとえ戦場に立ったって。
 一人じゃ、ない。


  ◆


「剣士部隊は主に直接魔物に斬りかかる近接戦闘を担当する! 相手を斬り殺してもひるむなよ? 敵は倒すべし! 以上だ! ただし、怪我人は若干後方に配備! 元気な者から傷つくんだ!」

 説明を受けて静かにうなずいたフェロンは。恐る恐る身体を動かしてみる。
 失われた半貌と、右足にズキンと痛みが走る。思わず顔をしかめ、よろけた彼に。


「ったく、上層部も一般兵の扱いが荒いよなぁ」


 笑って、その手を取って支えてくれた者がいた。
 若い兵士だった。おそらく、フェロンとそう変わらない歳の。
 兵士は、名乗った。

「マクスウェル。マックスって呼んでくれな。ってかあんた、顔の左半分、やっべぇことになってっけど、大丈夫なん?」

 その陽気さに、若干救いのようなものを感じつつも。
 フェロンはその手を握り、名乗った。
「フェロンだ。顔の左半分はだいぶ前から見えなくなっているからもう慣れた。よろしくな、マックス」

 彼は、早速あだ名を呼んでくれたフェロンに、にやりと笑った。
「よろしくな、緑の戦士」

 どこに行ったって。仲間という存在は、心強いものだ。


  ◆


「……という状況なんだよ」
「わかったわ」
「理解した」

 場所はバルチェスター王宮。

 ウィンチェバルの王族とわかったグラエキアとエルヴァインは、バルチェスター王エルーフェンと、面会していた。

 エルーフェンは、さっきまで二人に状況を説明していた。
 ローヴァンディアが、魔物を率いて攻めてきたことと、魔物の誕生によって絶望した人々がさらに魔物化し、悪夢の輪廻が続いていること。だから、そちらの王族に、バルチェスターに逃げ込んできたウィンチェバル人の指揮を取ってもらいたいこと。
 そういった話を聞いて、グラエキア達は素直にうなずいたが。
 ここで引き下がるようならそもそも。王族なんて、やっていない。


「ならば撤回してくださるかしら」


 グラエキアは、凛とした目で王を見た。

「貴方のだした、強制徴兵令を。ウィンチェバルの民はウィンチェバルの者が率いる。それでよろしいんじゃなくって?」
「生憎とそれはできないかな」
 王は何を考えているのか、まるでわからない目で笑った。
「強制徴兵令を出したうえで率いてもらうっていうのは、我儘が過ぎるかな?」
「馬鹿なことを。私たちは貴方の道具じゃございませんもの」
 その答えに、王は笑ってこう言った。









「——そもそも、滅びた国に、何の権限があるのかな?」









「貴様ッ!」


 瞬間、エルヴァインが剣を抜いた。
 その剣は、王の首に突きつけられていた。


「陛下ッ!」
 広間がざわつく。
 王はその状況にありながらも、さらに笑うのであった。





「おめでとさん」





 首に突き付けられた剣に。
 全く動じもせずに。





「これで君たちも逆賊だ。わざわざ招きに応じてくれてありがとう。君たちという不確定要素を、排除する格好の口実ができたよ」





 それは。初めから罠だったのだ。
 あんな発言をしたのも。全ては彼らを怒らせて。あえて反抗させるため。

 うつけと呼ばれたエルーフェン王は。身の内にとんだ狐を買っていた。
 敗北を悟ったエルヴァインは、大人しく剣を鞘に仕舞う。
 ここでこの王を殺しても意味がない。戦時中に王を失った国には、無駄な悲しみが増えるだけ。

 悔しさに唇を噛みながらも。エルヴァインは、素直に両手を差し出した。
 その手に掛けられる鎖。
 グラエキアの細い手にも、同じように。

 かくして二人は捕えられる。王に剣を向けた逆族として。
 しかし、最後にグラエキアは言い放った。

「いいこと、狐の王様」

 あえて侮辱罪を重ねながらも。
 彼女は黒い笑みを浮かべた。


「今回は貴方の勝ちだけれど。いずれ再び、私たちが勝ちを取りに行くから」


 王は面白そうに笑った。


「やってみるがいい。挑戦、楽しみにしている」


 始まった戦争には。王族たちは加わらない。
 しかし彼らは信じている。
 リクシアとフェロン。これから戦場に立つ二人の、真の強さを。

(あの子たちならいけるわよね?)
(何回共闘したと思っているんだ)

 小さい声で、ささやきあった。

 戦いが、始まる。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


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