ダーク・ファンタジー小説

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【不定期更新……】カラミティ・ハーツ 1 心の魔物
日時: 2017/09/17 14:49
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 目次(随時更新)
(章分けをし、一部形式変更)

第一章 始まりの戻し旅 >>0>>3-7

Ep1 心の魔物 >>0
Ep2 大召喚師の遺した少女 >>3
Ep3 天使と悪魔 >>4
Ep4 古城に立つ影 >>5
Ep5 醜いままで、悪魔のままで >>6
Ep6 悔恨の白い羽根 >>7


第二章 訣別の果てに >>8-11>>14

Ep7 ひとりのみちゆき >>8
Ep8 戦いの傷跡 >>9
Ep9 フェロウズ・リリース >>10
Ep10 英雄がいなくても…… >>11
Ep11 取り戻した絆 >>14


第三章 リュクシオン=モンスター >>15-17

Ep12 迫る再会の時 >>15
Ep13 なカナいデほしいから >>16
Ep14 天魔物語 >>17


第四章 王族の使命 >>18-25

Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」>>18 
Ep16 亡国の王女 >>19
Ep17 正義は変わる、人それぞれ >>20
Ep18 ひとつの不安 >>21
Ep19 照らせ「満月」皓々と >>22
Ep20 常闇の忌み子 >>23 (※長いです)
Ep21 信仰災厄 >>24
Ep22 明るいお別れ >>25


第五章 花の都 >>26-36

Ep23 際限なき狂気 >>26 (※長いです)
Ep24 赤と青の救い主 >>27
Ep25 極北の天使たち >>28
Ep26 ハーフエンジェル >>29
Ep27 存在しない町 >>30
Ep28 善意と掟と思惑と >>31
Ep29 剣を取るのは守るため >>32 (※長めです)
Ep30 青藍の悪夢 >>33 (※非常に長いし重いです)
Ep31 極北の地に、天使よ眠れ >>34 (※長めで重いです)
Ep32 黄金(きん)の光の空の下 >>35
Ep33 忘れえぬ想い >>36


第六章 動乱のローヴァンディア >>37-49

Ep34 予想外の大捕り物 >>37
Ep35 緋色の逃亡者 >>38
Ep36 帝国の魔の手 >>39
Ep37 絡み合う思惑 >>40
Ep38 再会は暗い家で >>41
Ep39 悪辣な罠に絡む意図 >>42
Ep40 鏡写しの赤と青 >>43
Ep41 進むべき道 >>44
Ep42 想い宿すは純黒の >>45
Ep43 それぞれの戦い >>47
Ep44 魔物使いのゲーム >>48
Ep45 作戦完了 >>49


第七章 心の夜 >>50-55

Ep46 反戦と戦乱 >>50
Ep47 強制徴兵令 >>51
Ep48 二人が抜けても >>52
Ep49 嵐の予感 >>53
Ep50 Calamity Hearts >>54 (※非常に長いし重いです)
Ep51 明けの見えぬ夜 >>55


第八章 時戻しのオ=クロック >>56-

Ep52 巻き戻しの秘儀 >>56
Ep53 好きだから >>57


 はじめまして、藍蓮と申します。ファンタジーしか書けない症候群です。よろしくお願いします。
 あるゲームのキャラクター紹介から想を得た、設定はそこそこ作ったとある物語の、プロローグを掲載しました。続く予定です。
 それではでは。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。

「魔導士部隊、位置に着け!」
 高らかに響くラッパの音。リュクシオンは隣を見た。
「ついに来ましたね、この時が」
「ついに来たな、総力戦が」
 彼の隣に立っているのは、この国の王。王は難しい顔をして、リュクシオンに言った。
「リューク、いけるな?」
「はい、あと少しで準備ができます。しばしお待ち下さい」
「頼りにしてる」

 この国、ウィンチェバル王国は、小さい割には資源が豊富だ。ゆえに、これまで多くの国々から狙われ、侵略されてきた。それをすべて退けられたのは、ひとえにこの国の魔導士部隊のおかげである。
 それなりの侵略ならこれまで何度かあったが、今回のは規模が違う。
 まだ肌寒い季節だ。リュクシオンはマフラーに顔をうずめながらも、考える。
 (よりによって、ローヴァンディア、あの大帝国だと? 桁が違う。だからこそ、僕は……!)
 願った。「力を」と。状況すべてを打破する力をと。何もできない自分が嫌で。国が侵略されていくのを、見ているだけしかできなくて。その思いは日増しに強くなり、内側から彼を苛み続けた。
 そして、その願いは、叶った。理由はわからない。ただ、ある時から急に、召喚術が使えるようになった。
 リュクシオンは神を信じない。信じても無駄。助けは来ない。そんな世界に生きてきたから。
 しかし、彼に起きた奇跡は。何もできなかった彼が、急に「力」を手に入れた理由は。神の御業というよりほかになかった。

 そして今、彼はここにいる。その力を見初められ、王の側近として、ここにいる。力がなければ、決して昇りえぬ地位に。望んでこそいなかったが、決して悪くは無い地位に。
 ——だから、利用させてもらうよ。
 この状況を打破できる、唯一無二の召喚術。国を守るために過去の文献をあさり、そして見つけた、とある天使の召喚呪文。
 それの発動には、長い長い準備が要った。リュクシオンは寝る間も惜しんで準備し続け、ついに、術の完成が迫る。
 ——国を守りたい。思いはただ、それだけなんだ。
 そして——。
 
 太陽が、月に食われた。

 日食だ。しかも、皆既日食だ。昼の雪原はあっという間に闇に閉ざされ、凍える寒さが人々を打つ。
「——今だ!」
 リュクシオンは声を上げた。突き出した手に、集まる魔力。
 皆の視線が、彼に集中する。
「現れよ——日食の熾天使、ヴヴェルテューレ!」
 神の域にさえ達したとされる究極の天使が今、リュクシオンの「仕掛け」に導かれ、彼の敵を滅ぼすため、外へと飛び出す——!
 が。

 ——崩壊は、一瞬だった。

「あれ……うそだろ……」
 白い、白い光が視界を埋め尽くした。天使はこの世に顕現した。そこまでは構わない。
 だとしても。
 ——この、目の前に広がる無数の死体を。一体どう説明すればいい?
 見知った顔。あれは魔道師のアミーだ。あっちは友人のルーク。
 ——さっきまで隣にいた、リュクシオンの王様。
 みんなみんな、死んでいた。敵味方の区別なく。リュクシオン以外、皆殺しだった。死んだその目には恐怖の色があった。
 ——国が、滅んだ。守ろうと、あれほど力を尽くした国が。リュクシオンの王国が。守りたかった全てが。
 リュクシオンの、積み重ねてきたすべてが。
 存在意義が。
「……あ……嗚呼……ぁぁぁぁ嗚呼ああ嗚呼あ!」
 地にくずおれ、獣のように咆哮する。
 ——天使は、破壊神だった。
 確かに相手も全滅したが、彼が望んだのはこんなことじゃない。こんなことなんかじゃ、ない。
 平和を。愛する国に平和を。そう、心から思っていた。だからこそ、力を望んだ。愛するものを、国を、守る力を。
——コンナコトジャナカッタ。
 絶望に染まる召喚師の頬を、涙が伝った。赤い、紅い、赫い。血の色をした、絶望の涙が。
「ア……アア……ァァァアアアアアアアアアア!」
 壊れた機械のような声とともに、彼の世界は崩壊した。
「ァ……ァぁ……ァぁァぁァぁァぁァぁァ…………」
 その身体が、闇色の光とともに、変化していく。
「ァ……ぁ……」
 背はこぶのように盛り上がり、体中から毛を生やしたそれは。もはや人間ではなかった。
「……ァ……」
 幽鬼のようにのっそりと動き出したそれは、魔物そのものだった。
 その瞳に、意思は無い。理性もない。何もない。
 そのうつろな姿は、大召喚師のなれの果て……。

 ——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。

 王も貴族も召喚師も。なんびとたりとも例外は無い。
 ひとたび心が闇に落ちれば、一瞬にして、魔の手は伸びる。
 そして魔物となった者は、己の死以外ではその状態を解除できない。
 これまでもあった。そんな悲劇が。魔物となった大切な人を。自ら手に掛ける人たちが。
 悲劇でしかない。ただ悲劇でしかない、この世界の絶対法則。

 ——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ……いきなり大変なことになっていますが、まだ続きます。次の舞台は移って、この国の外になります。魔物となったRも今後、深く関わっていきます。よろしくお願いします! 〈続く〉

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep30 青藍の悪夢 ( No.33 )
日時: 2017/08/22 00:26
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

※ グロ描写あり。
  長いです。5300文字あります。
  そして非常に重い話です。読むときは覚悟のほどを。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「はあっ、はあっ」
 リクシア達は駆ける。町の中心部に向かって。
 早くフィオルを治さなきゃ。このままだと、フィオルが死んじゃう!
「って、オイ。町の中心部が騒がしくないか?」
「そのようだ。急ぐぞ、リア!」


 ——そして、見た。



「ォォォォォオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!!!!!」



 青い、青い闇を背負った、常闇の天使の姿を。


「何事ッ!」

 駆け寄れば。地に倒れ伏した天使たち。傷ついて、動けない仲間たち。
 でも、それ以前に。
 動けなかった、アルフェリオが。
 飛べない天使の、アルフェリオが。
 その青い翼を広げ、空に浮いていて。

 言うのだ。











               「さ よ う な ら 、み ん な」











 永遠の別れを、告げるかのように。

 悲しそうに、哀しそうに。それでも健気に笑って。

 
「—— やめてぇぇぇぇぇええええええええええええええ————ッッッッッ!!!!!!!!!!!」


 リルフェリアが、絶叫を上げた。

「駄目ッ! 駄目、あんたはッ! あたしが守るんだって、あんたをひどい目に遭わせないようにするからって、あたし、誓ったじゃない! なのにどうしてあんたは……! そう……自分を、捨てようとするのかなぁ!?」
 青い闇は、悲しげに答えた。
「だって、あのままだったらきっと、みんな死んでいたからねぇ……。僕が、出なきゃあ。僕が、出なきゃあ! ……みんな、死んでいたんだ。僕が、出なきゃあ」
 闇に愛されし、暗く黒い、悪夢の申し子。
 青いアルフェリオの、正体。
 優しい天使、だけじゃなくって。
 いつも穏やかに見えた彼には。実は多大な闇が巣食っていた。
 
 と、聞こえたのは。


「アルを討つのよ〜!」


 間延びした声。
 シアラの声により、催眠が解けたかのように動き出す天使たち。
 それぞれの得物を持ち、翼をはばたかせて。
 空に浮かぶ青藍の悪夢に。
 襲いかかった。

「目覚めよ、風よ!」
 とっさにリクシアは魔法で援護するが、気分が悪くなって座り込んだ。
「リア、今はだめだ。魔力が回復して」
「いなくても! 私はこれじゃあ守れない!」
 叫び、気持ちの悪さをこらえて再度、魔法を放とうとしたら。

 
 
 ——無茶しなくて、いいんだよ——



 明るく優しい、青い天使の声が、して。

 ——助けてくれて、ありがとう。守ろうとしてくれて、ありがとう。でも、もういいんだ——。

「もういいって、一体なにッ!」
 悲鳴のような、リルフェリアの言葉。
 それに、微笑んで返して。
 青藍の悪夢は、襲い来る天使たちに向かって。



 ——手を振った。



 ただ、それだけだった。それだけのことに過ぎなかった。

 ——なのに。

「ぐはッ!」
「あああああああッ!」
「ぎゃあッ!」

 悲鳴をあげて。身体中から血を流して。

 ——倒れていく、天使たち。

 彼は何にも触れていなかった。ただ、その手を振っただけだった。
 それだけのことなのに。次々と倒れていく天使たち。

 極北の町は。存在しない町は。


 —— 一瞬で、地獄と化した——。


 そんなことをしたのに彼は。傷一つ受けていない。
 でも、相棒たるリルフェリアは、わかっていた。このままだと、取り返しのつかないことになると。

「やめてッ! もういいでしょ!? いい加減やめてよアルッ!」

 叫んだけれど。悲しげに笑う彼は、そっと首を振った。
「できないんだよ。前に言ったろ? 一度こうなったら、もう二度と元には戻れないって」
「嫌よ、嫌ッ! あたしたち、双子なんだよ!? 二人で一つなんだッ! 一人だったら、何もできな——」「できるさ、リルならば」「——えっ?」

 彼は、優しく微笑んだ。

「リルなら、一人でだって生きられる。だからね——」

 彼はふわりと一度、はばたいた。周囲に風が生まれる。
 その眼が、悪夢のような輝きを宿して。輝いた。










「 邪 魔 し な い で 」










 途端、空から吹き下ろした突風が。
 津波のように。
 倒れたままの天使たちと、立ったままのリクシア達に。

 襲いかかった。

「アル————ッ!?」
 リルフェリアが悲鳴を上げたが。なすすべもなく吹き飛ばされた。



 ——風は、温かかった。



 自分たちを包み込んだ風は、勢いは激しかったものの、温かく、優しかった。その風からは、春の日向の匂いがした。
 疲れや痛みが。とれていくのを肌で感じた。この温かいゆりかごに身を任せ、眠ってしまいたい——。

 そこまで思い至って、リクシアははっとした。
 この風は、アルフェリオの力。
 その力により、みんながいやされた。
 つないだ手。その先で。フェロンが穏やかに寝息を立てている。
 けれど。けれども。一人だけ、いないんだ。
 一人だけ、この風のベールに。包まれていないんだ。



 — — ア ル フ ェ リ オ 。



 リクシアは大きく眼を開けた。
 眠気を意思の力で吹き飛ばし。
 そして、見たのは。











 — — — — 惨 状 、だ っ た 。










 あたりは血にまみれて。

 血が肉が骨が臓物が。

 天使だったモノが、各地に散らばっていた。

 血、肉、骨。

 バラバラになって、散らばって。
 
 吐き気を催すような赤い光景が、広がっていた。
 
 血、肉、骨。血。肉。骨。血肉骨、血肉骨、血肉骨。血肉骨血肉骨血肉骨血肉骨血肉骨! 血血血血血肉肉肉肉肉肉骨骨骨骨骨!!!!!!!


「うわっ…………ぷ……」
 思わず、その惨状に口を押さえる。

 赤かった、紅かった。あの美しい、天使の町は。
 モノと化した天使たちの何かで。血で肉で骨ではみ出た臓物で。地獄のような惨状を呈していた。そこにあるのはもはやモノでしかなく。この前の姿を知っている者でなければ、ここで赤い惨状をさらしているのが、天使だとはわからなかっただろう。

 その上空にいて、虚ろに笑うのは、アルフェリオ。

 こんな惨状を引き起こした張本人なのに、その身体は、血の一滴にも汚れてはいない。

 彼は、笑っていた。嗤っていた。自分の残した惨状を見て。

 リクシアは背筋が寒くなった。一瞬にして、恐怖を覚えた。



 ——アルフェリオが私たちを眠らせようとしたのは、これを見せないためだったんだ——。



 この、悪夢を。
 赤い、光景を。
 青藍の悪夢を。

 彼の青い瞳がこちらを見た。リクシアは恐怖で身をちぢ込ませた。
 その姿を見、リクシアが何を見たのか知ったアルフェリオは。

 ——見たのかい。

 とただ一言、つぶやいた。

 ——見たんだね、リクシア。僕の、惨状を——。

 リクシアは、動けない。怖かった、ただ怖かった。この青い天使が。この惨状を引き起こした青藍の悪夢が。怖かった、怖かった、怖かった。
 ——これだと、前と同じじゃないの。
 リクシアはぎゅっと唇を噛んだ。
 ——あの日。フィオルとアーヴェイと訣別したあの日。悪魔のアーヴェイを恐れて、何もできなかったあの日と。
 それでも、怖かった。あの日とは、比べ物にならないくらいに。

 ——だって、目の前には。目を覆いたくなるような惨状が、広がっているんだ——。

 怖くないわけがない。










 — — — — も う 、い い よ 。










 唐突に。アルフェリオは羽ばたくのをやめた。
 彼は、言うのだ。

 ——こんなに力を使ったのだし。僕はもう、長くない。だから——もう、いいよ。

 恐れなくても。自分はもう、死ぬのだから。
 その目には、深い悲しみが浮かんでいた。

 大切な人を守りたいから。命使って悪夢になった。
 大切な人を守りたいから。大切な人を守りたいから。ただそれだけを強く思って。
 その結果。かつては仲間と思っていた人に、恐れられても。「化け物」と呼ばれても。
 けして傷つかないと思っていた彼。しかし、現実は違ったんだ。

(逃げないでよ……恐れないでよ……。僕はほら、こんなに頑張ったんだから、さ……)

 落ちながらも、悲しげに笑って伸ばした手。つかまなければ。そう思っても、足がすくんで。

 ——これじゃあ前とおんなじだってば!

 いくら心が叫んでも。固まったように、足が動かなかった。
 落ちゆくアルフェリオ。迫る大地。仲間に見捨てられて彼は死ぬのか。

 その時。










「————アルのッ! 馬鹿ッッッ!」











 ——泣き出しそうな、声がして。
 受け止めようと、駆け出した、





 ——赤い翼。





 すんでのところでアルフェリオを受け止めた彼女は、勢い余って、真紅の地面にすっ転んだ。身体中が、血液もろもろに濡れる。それでも気にせず。強くアルフェリオを抱きしめた。

「行かないって……先に逝かないって……言ったじゃないの……!」

 転げながらも、泣いていた。
 双子の片割れを。青い相棒を。抱きしめながらも、泣いていた。
「嫌だよぉ……。嫌だよぉ……! 行かないで……逝かないで……ッ!!!!!」
 自らが流させた血で、血まみれになったアルフェリオ。
 彼は妹の髪をそっと撫でて、言った。
「これでよかったのさ、リル。これで……」
「良くないよぉ……! 嫌だぁ、嫌だぁ!」
「リル……」
 
 と、彼は大きく血を吐いた。あわてて口元にやった手は。その場に流れたどんな血よりも、赤かった。

 もう、我慢しきれずに。リクシアは走った。彼を抱え起こそうとする。しがみついたリルフェリアのせいで、うまくできない。
 彼は、儚く笑って、もう一度、言った。

「——もう、いいよ」

 どうせもう、長くないしね、とまた笑う。血を吐いた。辺りがさらに赤く染まった。
「助けようとしなくたって——いいよ。僕は——死ぬんだから」
 嫌だぁ、嫌だよぉと、うわごとのようにつぶやくリルフェリアを見て、苦い溜め息をついた。
「気にかかるのはこの子のことだけど——あなたたちなら、なんとかしてやれるよね——?」

 言った、時。

 彼はカッと目を見開いて、叫んだ。







「リクシア! この子を僕から離せッ!」







 その、気魄に。
 最期の、叫びに。
 抗うすべはなくって。

 リクシアはしがみつくリルフェリアの銅をつかみ、一気にアルフェリオから引き剥がした。

「嫌だぁ、嫌ぁ! アルゥ! アルゥ! 行かないで、逝かないでぇッ!」

 叫ぶ彼女の声を裂いて。
 青い青い、済んだ声が。
 青藍の天使の最期の声が。

 耳に、届いた。











              「 さ よ う な ら、大 好 き だ っ た よ 」












「——アルフェリオッッッッッ!!!!!!!!!!」



 ——そして。



 そしてそしてそして。


 アルフェリオは。青藍の天使は。


 突如、地から湧き出した黒い闇に覆われていき、


 諦めたような、悲しげな、笑みを浮かべて。


 何かを求めるかのように、そっと手を伸ばしてから。


 完全に闇に包まれて。





 ——いなくなった。





 いなく、なってしまった。


 彼の、身体ごと。


 彼の生きていた証ごと。


 闇に呑まれて。何一つ残さずに。


 いなく、なって、しまった。


「———— アルゥゥゥゥゥウウウウウウウウウ———ッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」


 のども裂けんとばかりの、悲痛な悲鳴が響き渡る。


 リルフェリアは泣き叫び、愛するものを失った獣のように、咆哮した。


 慰めの言葉なんて、掛けられない。彼女は己の片割れともいえる人を、失った。


 その嘆きは、果てしなく。山よりも高く、海よりも深い。


 その叫びの調子が、少し変わった。


「ウア……ウアア……ウオアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!!!!!」


 叫んだ彼女。その身体が、変貌していく。







 ——異形のそれへと。










 ——リルフェリアが、魔物になる。









「……わかったわ、アルフェリオ」










 つぶやき、リクシアは。魔法の杖を構えた。


「あなたの遺言通り……私が、何とかするから」


 たとえ彼女が魔物になっても。狂って理性を失っても。


 ——私が、なんとか、するから。


 溢れ出した涙を振り払って。リクシアは魔物となった彼女に。大きく叫んだ。





「来なさい、赤の大天使! 私があなたの悪夢を終わらせるッ!」





 悲しくても、つらくても。これが後を託された、私の使命なんだから。


 悪夢みたいなこの輪廻を。私が断ち切って終わらせる。


 リルフェリア=モンスターが。悲しみと絶望に理性を失った魔物が。アルフェリオの遺した悪夢が。真紅の破壊神が。


 咆哮を上げながらも、リクシアに迫った。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 ……どーも、藍蓮です。死ネタすみません。話が一気に重くなりました……。
 こんな悲しい話にするつもりはなかったのです。Aが死ぬのは確定でしたが、Rが魔物になるなんて、当初の予定にはなかったのです。が。
 この世界の仕組みから言って。Aが死んだ時点で、Rが魔物になることは必至でした。だからこんなに暗くなりました……。

 追記;アルフェリオは、生まれながらに魔性の力を持っていた。その代償として、動く力を失った。しかし、その力は一度開放すると二度と元には戻れない代物で、そうなったら、死ぬしか道は残されていない。


 ……非常に重い話でしたが。
 ご精読、ありがとうございました!
 話は次に続きます……。

カラミティ・ハーツ心の魔物 Ep31 極北の地に、天使よ眠れ ( No.34 )
日時: 2017/08/22 15:54
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=604.png

 長めです。4400文字……。
 しかもまたまた、前回に続いて重いです。
 読むときは余裕を持って読みましょう。
 藍蓮は、どれだけ暗い展開を作ってしまうのだろうか……。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 咆哮を上げながらも迫る、紅蓮の悪夢。
 理性も何もかもを失った、リルフェリアの、成れの果て。
 こうなったら、のんびり魔法で迎え撃つ暇などない。

「来い!」

 棒術の心得は少しならある。杖を棒術の構えにして。
 目に映るものを破壊せんと迫る、真紅の魔物に。
 突撃をひらりとかわし、一撃。
 杖を反転させて、反対の先で二撃。
 相手を突いた反動を利用し、大きく後ろに跳びすさって、再び杖を構える。

「伊達にフェロンと練習したわけじゃ、ないんだからッ!」

 魔法しか使えなかったリクシアに。「君も何か武術を覚えたほうがいい」と、自ら棒術を研究し、わざわざ時間を割いて、教えてくれたフェロン。
 

 その技術が、今こそ生きる。


「グアアアアアアアッッ! グアアアアアオオオオオオォォォォォォッッッ!!!!!!」
 反撃され、怒りに燃えた瞳がリクシアを睨む。
 途端、繰り出された神速の爪。
 リルフェリアの剣が変化した、恐るべき切れ味の爪。
 久しぶりの近接戦闘に、リクシアの頭は冴えわたる。

「読めたッ!」

 杖をトンと地面に付き、その反動で後ろに動き、身体をそらしてかろうじて爪をよける。

 ——冷や汗が、流れた。

 あの一撃。あの、神速の一撃。とんでもない破壊力を秘めた、一撃。


 ——読めなければ、死んでいた!


「ったく、冗談じゃないわよ。私、近接戦闘苦手なのにィィィ——ッッッ!?」
 呟いた途端、反対の爪が来た。
 一瞬、反応が、遅れる。


 ——まずい、死ぬ!


 少しでも軌道をそらそうと、とっさにリクシアは手にした杖を、受けの形に構えた。

 爪は、当たらなかった。が、しかし。




 ——杖が。




 リクシアの、愛用の、杖が。





 魔物の攻撃を受け、真っ二つに折れていた。





「ああっ、もうっ!」

 いらついたようにリクシアは叫んだ。
 両の手には、折れて短くなった杖が、一本ずつ。
「こんなのでどうやって戦えばいいのッ!」
 攻撃回避の手段も、また一つ減った。
 赤い瞳が彼女を見る。狂ったような声が鼓膜に響く。

 リクシアは怒りにまかせて杖を投げ捨て、内からこみあげてきた力に任せて、右手を横に広げた。

 サアアッと、巻き起こる風と光。

 気がつけば、その手には。
 新しい杖が握られていた。

 リクシアは、不敵に微笑んだ。


「大丈夫、戦える」


 今のはきっと私の力。この杖は光と風でできている。
 新しい杖で地面を突いた。トンという音。確かな感触。
 幻ではない、実体のある杖。





「大丈夫よ、戦えるわ!」





 フェロンの口癖を叫び、杖を構えて。
 今度は自分から突っ込んだ。
 魔物はその動きに驚いて、よけようとするが。
 リクシアは、そうはさせなかった。
 手で杖を滑らせて、反対の先で一撃。
 杖を手でくるりと回し、通常の先端で二撃。
 最後にもう一度、手で杖を滑らせて、三撃。
 合計三つの攻撃をして、地を蹴ってまた、跳びすさる。

 ——風が、巻き起こった。

 杖で突いたところから、現れた小さな竜巻が。
 魔物の皮を裂いた。

 ——光が、降り注いだ。

 杖で突いたところから。現れた小さな光球が。
 魔物の皮を焼いた。

「グアウ……グアアアウウウウウウウウウウ!」
 痛みにもがく、赤い魔物。狂った瞳にさらに狂気が宿る。

 リクシアの新しい杖は、光と風でできている。
 魔法を使う暇はなくても。魔法による反撃は、できるんだ。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!」

 理性をなくし、知性をなくし。魔物に成り果てた天使は、わからない。
 なぜ、こうも全身が痛むのか。
 わからないからとりあえず殺る。殺ってしまえば痛みがなくなる。
 本気でそう思っていたから。
 再三再四の愚かな突撃を、繰り返した。

「だから、無駄だって、リルフェリア!」

 ひらりとよけて、また反撃。一撃、二撃、三撃、戻る。
 同じことの繰り返し。だけどそれでもわからない。

 戦況はリクシアに味方しているが、体力のないリクシアが、どれだけ保つことか。

「いい加減に目覚めなさいッ!」

 理性の回復を願って叫ぶが。どうせ無理だと分かっていた。
(私は彼女の一番じゃないから。私じゃ彼女を起こせないんだ)
 彼女の一番は死んでしまったから。その死によって、彼女は魔物になった。

 それでも、呼びかけることは忘れないんだ。
 あの名前を出せば、心を動かしてくれるだろうか——。

 疲労に足がもつれる。地に散らばった臓物に、足が滑る。転ぶ。それを好機と見て、迫りくる紅蓮の悪夢。


 ——死にたくない!


 だから、賭けた。ある名前に。

 彼女の一番の相棒の名前に。















「リルフェリアッッッ! あなたがそんなになって、アルフェリオが喜ぶと思うのッッッ!!!!!」















 アルフェリオ。彼女の相棒。双子の兄。彼女の片割れ。


 その言葉を聞き、一瞬だけ固まった、リルフェリア=モンスター。









 ——それで、充分だった。









「はぁぁぁぁぁああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!!!!」





 リクシアは、迷わなかった。





 己の思いを。抱いた感情を。すべて乗せて。





 勢いよく立ちあがり、その杖の先を。リルフェリア=モンスターに。













 ——突き刺した。













「グアアアアアアウウウウウウウアアアァァァァァアァァアアッッッッッッ!!!!!」

 悲鳴のような咆哮を上げて。

 
 くずおれるように倒れ伏す、紅蓮の悪夢。

 
 その身体が、異形の身体が。変わっていく。






 ——美しい、赤い天使の姿に。






「リルフェリアッッッ!」


 叫び駆け寄り抱き起こす。


 その身体は、血に染まっていた。





 ——知っているんだ、知っているんだよ、魔物を元に戻す方法を。





 でも、現在知られているその唯一の方法は、あまりにも悲しくて。
 相手の死でしか。相手が致命傷を負うことでしか。魔物は元には戻らないなんて。
 なんて嫌な世界なんだろう。世界なんて、消えてしまえ。


「リ……クシ……ア……」


 口元から血を流し。紅蓮の悪夢、否、赤い天使は、すまなそうな顔をした。


「ごめん……あた……し……」


 謝ろうとした彼女を、ぎゅうっと抱きしめて。ううんとリクシアは首を振った。


「謝らなくていいわッ! あなたは……あなたは、よくやったもの……!」


 たとえ、惨めな結末でも。あなたは私を助けてくれた。


 善意だけで。純粋な善意だけで、助けてくれた……!


 それだけで、いい。それ以上は、望まないから。



 言わせて、欲しいんだ。



「ありがとう、リルフェリア。ありがとう、赤い天使。私はあなたに出会えて、とってもとっても、幸せだった……!」



 だから、もう。謝らなくて、いいんだよ、リル。


 彼女の血まみれの身体を抱きしめて、死の国へと送る言葉を、言う。










「 — — — — 安 心 し て 、 眠 っ て ね — — — — ! ! ! ! ! ! 」










 その言葉を聞いて、彼女は満面の笑みを浮かべた。


「わかっ……た……。これで……あた……しは……ま……た……会え……る……?」


 大好きな、双子の片割れに。
 先に逝ってしまった、青藍の天使に。




「アル…………」




 小さく、夢見るようにつぶやいて。


 こうして、彼女の命の灯は消えた。


 大切な存在を失って。絶望から魔物になって、殺されて。


 リクシア達を助けなければ、こうも悲劇的な結末には、ならなったのに。


 リクシアは、天を仰いで、つぶやいた。


「……リルフェリア」


 今はもう亡き、命の恩人を、想って。













「私は……あなたの悪夢を……終わらせることができたかしら————?」













 リクシアの両の瞳から、熱いものが流れだした。


 止まらない、止まらない、止まらない。いくら目をしばたたいても。いくら手で拭おうとも。終わらない、終わらない、終わらない、この悪夢が。悪夢から成る悲しみの輪廻が。それがもたらす身近な悲劇が。


 彼女を泣かせた。これでもかとばかりに、涙を流させた。


「こんな……こんな、こんな、こんな、結末ッッッ!」


 一体誰が望んだだろうか。一体誰が願っただろうか。


 物言わぬ骸(むくろ)を強く抱いて。リクシアは幸せを願った。


 もう、二度とこんな悲劇が起こらないように。魔物になる人がいなくなるように——。


 パリーン。


 澄んだ音を立てて、リクシアの新しい杖が割れた。それを見て、苦く笑った。


「そっかぁ……そもそもが、魔法の産物だもんね」


 新しい杖を調達しなきゃぁ。悲しみに凪いだ心で、そう思った。


「じゃあ、みんなを起こそっか」


 虚ろな声で、そう言って。


 立ち上がろうと、したけれど。


 戦いに疲弊した足は、今や身体を支えることはできなかった。


 リルフェリアの骸の上に、重なるようにして倒れ込んだ。


「……リクシア、休んでいーい……?」

 
 疲れたように笑って、目を閉じようとした。


 矢先。





「——なんだ、これは!?」





 目覚めた誰かの、呆然とした声。



「…………面倒くさいなぁ、もう」


 リクシアはつぶやいて、気だるげに、上に向かってその手を振った。


 現れたのは、光の球だ。


「伝えて……全部」


 願うように口にして。


 リクシアは。小さな英雄は。


 眠りに落ちた——。


  ◆


「——なんだ、これは?」


 目覚めたフェロンは、握っていたはずのリクシアの手がないことに驚き、次いで、町の惨状に目を丸くした。
「これは一体どういうことだ! リア? リア! どこにいる!」
 不思議と傷は癒えていて、なぜか身体が軽かった。

 その先で、見た。




 ——折り重なるように倒れている、リクシアとリルフェリアの姿を——。




「リアッ!」

 あわてて駆け出そうとした鼻先に、何かが触れる。


 ——光の球。


 一目でリクシアが生み出したとわかるそれは、誘うように揺れていた。
「……触れろということか——?」
 いぶかしげに首を傾げて。恐る恐る球に触れた。


 そして、彼は見た。


 彼は、知った。









 ————リクシアの見聞きした、あの悪夢の全貌を。








 アルフェリオの死から始まる、悲しみの物語を。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 ……どーも、藍蓮です。こっちではハッピーエンド案もあったのですが、展開を見て没にしました。ハッピーエンドにしちゃうと、物語が一気に終盤に突入しそうな感じだったので、この物語をまだ続けるためにも、キャラクター達には申し訳ないですが、またまたバッドエンドになりました。
 (自分で書いといて言うのもなんだが)バッドエンド続くと、気が重くなりますねぇ。次こそは少しはマシな展開にしたいものですハイ。

 破壊された町、失われた命。この事件は一体、どのような結末を迎えるのか——。
 次の話をお待ち下さい……。

※ 下手くそながら、リクシアの絵を描いてみました。URLから飛べます。良かったらご覧ください。

カラミティ・ハーツ心の魔物Ep32 黄金(きん)の光の空の下 ( No.35 )
日時: 2017/08/23 18:32
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 流石に今回は短いです。
 ちょっとした隙間時間にでもどうぞ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「……といった事情があったらしい」
 フェロンは、後から目覚めたほかの仲間たちに、自分がリクシアの光の球で見たことの全てを、淡々と伝えた。
「信じられない……。僕たちが眠っている間に、こんなことがあったなんて……」

 アルフェリオの死。リルフェリアの魔物化。リクシアの死闘。

 言葉を連ねるだけなら簡単だけれど。現実は、こんなにも重い。
 フェロンは、眠り続けるリクシアの頭を、優しく撫でた。
「つらかっただろうな……」
 その手に、固く握り込まれているものがある。



 ——青い羽根。



 アルフェリオの、青い、羽根。
 

 何一つ残さないで消えた彼の、唯一の遺品。

 
 リクシアは彼に駆け寄った時。知らず、その羽根を握りしめていたのだ。




「……お前の、生きた証だ、アル」




 ヴァンツァーが小さく呟いて、死を悼むような仕草をした。


 空気が悲しみに包まれる。
 

 その様を見て、うなだれる影が一つ。
 アルフェリオの癒しの風によって生命の危機を脱した、フィオルだった。
「……ッ、ごめん。僕の、せいで……」
 彼こそがすべての元凶。彼が勝手に走りだしたりしなければ。こんな悲劇は。こんな痛みは。そもそも存在しなかったのに——。
 透明な青い瞳から、涙があふれる。
 友達になれると思っていた。自分を恐れず。自分を嫌わず。
 無邪気に接してくれた仲間たち。
 それをとても幸せと思い、心が穏やかになったあの日。
 友達になれると思っていた。友達になれると思っていたんだ。あの人たちとなら、友達に。

 ——なのに。

 自分ですべてを壊した。自分ですべてを台無しにした。
 彼の小さなわがままが。すべてを崩壊に導いた——。
「ごめん、みんな。本当に、ごめん。僕が、いたから。僕が、あんなことしたから——」「甘えるなッ!」


「————ッ、兄さ……ん!」


 憤怒の形相をしたアーヴェイが。









 ——その頬を、思い切り、はたいていた。










 その衝撃に、吹っ飛ばされたフィオル。
 誰もが呆然として、その様を見ていた。

 彼は、言う。


「甘えるんじゃない——何もかもが自分のせいだと言って、それで逃げたつもりになるんじゃない! そんなことは誰でもわかっている! オレが聞きたいのはそんなことじゃない!」


 叫び、一歩、吹っ飛ばされたフィオルに近づいた。
 フィオルはその身体を、思わず縮こまらせた。

 しかし、彼は。もうフィオルを殴らなかった。
 代わりに。



「——兄さ……ん……?」








「……生きてて、良かった……!」








 その身体を、強く抱きしめた。


 彼は、泣いていた。その赤い瞳から、滂沱と涙を流していた。





「————生きてて、良かった…………!」





 人前では、決して涙を見せなかった彼が。
 今、喜びと安堵にうち震え、泣いている。


「恥ずかしいでしょ」


 はにかむように笑いながら、そっとフィオルはアーヴェイを押し返した。
「大丈夫、死なないから。翼を失ったって、僕は僕なんだから」
 治りきらぬ傷の痛みに顔をしかめつつも。彼は穏やかに笑っていた。
「まあ、何はともかく」
 彼は、深く頭を下げた。



「ごめんなさい」



「気にしてねーよ」
 ラーヴェルが、疲れたように笑った。
「あんただけのせいじゃあないさ。この町の天使たちにだって責任はある。……どうせ……十年後も、二十年後も、なんて。夢物語だったんだな……」
 つと、よぎった悲しみは。しかしすぐに消えて笑顔になる。
「でもな、おれたち」
 壊れそうな笑顔で、言うのだ。









「あんたたちに出会えたってだけで……幸せだぜ?」









 この広い世界の中で。わずかな確率を拾って繰り広げられる出会いの連鎖。
 その中で、巡り合えたことが。幸せだと彼は言うのだ。


「俺からも一言失礼する」


 ヴァンツァーが、口を挟んだ。


「俺たちは、知らなかったんだ。外に、違った世界があると。何もsらず、ただ箱庭のようなこの町しか、知らずに育ってきた。……あんたたちが、新しい風を呼んでくれたんだ。……感謝する」


「ヴァンさん、珍しく素直ですー」


 泣き笑いしながらも、リリエルは言った。


「私だって、素晴らしい出会いをありがとうですよー。確かにリルもアルも死んじゃいましたけどー。でもですねー、あの二人は。どうせいつかは死んでたんです。あなたばっかりが謝ることじゃないんですよー」


 悲しみを、越えて。痛みを、苦しみを、嘆きを、越えて。
 強くなった六つの瞳が、穏やかにフィオルを見た。
 フィオルはそれを見て、柔らかく笑うのだった。




「ありがとう、みんな」





 リクシアはまだ目覚めないけれど。
 確実に、皆、前へと進んでいて。
 
 悲しみの中に強さが宿る。
 悲しみを超えて強くなる。

 血まみれの大地を照らした光は。穏やかな黄金(きん)に染まっていた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 どーも、藍蓮です。
 後日譚っぽくなりました。久々に穏やかな展開が来ましたねー。
 書いていて、一段落ついたような、ホッとした気持ちを味わいました。
 今回は2100文字と短い(最近は2000字で短い謎の現象(笑))ですが、さすがにあの三連続みたいな長編ばっかりは書けませんしねー。
 
 悲しみを超え、少しずつ日常を取り戻しつつある一行。
 リクシアの目覚める日も、近そうです。

カラミティ・ハーツ 1 心の魔物 Ep33 忘れえぬ想い ( No.36 )
日時: 2017/08/24 10:24
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=606.png

 五章終了です。
 リュクシオンの絵を描きましたので、URL貼っておきますねー。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 ——悪夢を、見た。

 目覚めれば、どこにも誰もいなくて。
「兄さん……フェロン?」
 不安になって、歩きまわったら。
 見つけたのは、フェロンの遺体。
 それを見て、魔物になっていく兄さん。
「……兄さん」
 覚悟を決めて、杖を構えた。悲しみは彼方に追いやった。
「来い……」
 構えた杖に、思いを宿して。
 今まさに、戦いが始まりそうになった時。

「……リア?」

 ——本物のフェロンの声が、私を現実に引き戻した。

  ◆

 しぱしぱと瞬きをして、リクシアは目覚めた。
 そこには、フェロンの顔があった。
「目覚めたんだな、良かった」
 彼は穏やかに微笑んだ。
「今、リリエルがご飯作ってる。だから、まだ寝てていんだぞ」
 悲しみを湛えた笑みを見せながらも、彼は言うのだ。

「お前は、よくやったよ」

 心底からの、称賛の声に。リクシアはふわりとほほ笑んだ。
「リクシア……頑張った」
 呟いて、再び瞼を閉じる。
 フェロンがその手を握ってくれた。
「ご飯ができるまでの間だが、休むと良い」
 何となくその手を見てみたら、そこには青い羽根が握られていた。

 ——アルフェリオの、唯一の遺品。

 リクシアはそれを、強く強く、握りしめた。

 ——アルフェリオ。





 みんなみんな、平和になったんだよ————?





  ◆
  
 ご飯を食べながらも、集まってきた仲間たちとともに、今後の身の振り方を考えることにした。
「で、結局」
 アーヴェイがそう、切り出した。
「花の都では、手掛かりはゼロか?」
 存在しない町は本当に、存在しなくなってしまった。
 アルフェリオによって破壊された町。生きている住民も天使も、どうやらここにいる人達しかいないらしいし。
 その過程で、建物だって壊れたことだし。
「……わざわざ極北の地まで来たのに、済まないな」
 ヴァンツァーが謝罪の意を示すと、アーヴェイは首を振った。
「そもそも天使限定ってわかった時点で、人間に使えるかは謎だったしな」
 『文献を見せてあげる』と笑ったシアラも、今はもういない。
「じゃあ、帰りましょうよ、南へ。エルヴァインとかグラエキアとか、懐かしい人々に会いたいわ」
 リクシアはそう、提案した。
 エルヴァイン、グラエキア。懐かしい響きだ。
 前に別れてからもう、三月も経つ。
「帰りましょう、南へ。私はもう……疲れたわ」
 悲しげに微笑んだ。
 しかし。


「ごめん、僕は、いけないんだ」


 済まなさそうにフィオルが言った。
「前に負った怪我がひどくて……当分、旅ができそうにないんだ」
 襲い来た斧の天使。奪われた左の翼。
 そっか……。身体の一部を、失ったものね。
 アーヴェイだって、今や右腕は悪魔の異形だけれど。
 で、フィオルが行かないとなると……

「悪いがオレも、今回はついて行ってやれん」

 とまぁ、フィオルの義兄たるアーヴェイも、行かなくなるわけで。
 リクシアは、首をかしげて極北の天使たちを見た。
 あなたたちはどうするのか、と。無言で問いかける。
 リリエルは首を振った。

「私は行きませんよー」

 あ、ども誤解しないで下さいね、とあわてたように付け加えた。
「別にあなたたちが嫌いだからって、そんな理由じゃないんですー。でもですねぇ、私」
 回復魔法が得意なんですーと、笑った。
「ですから私は、フィオルさんがそれなりに回復するまで、面倒を見るのですー。あと、ついでに町だって復興しちゃいます。いえ……もう、町を構成する人はいませんけどね。最低限、血は何とかしなくちゃ衛生的によくないですー」
 とのことだった。
 ラーヴェルは。

「悪り、おれもいけねぇーし」

 申し訳なさそうに頭を掻いた。
「リリエル一人じゃかわいそうだし、心配じゃん? だから、おれはここに残ることにする」
「ラヴェルさん優しいですー。私、感動しましたよー?」
「そんなんだから心配なの。……っつーことで、な? おれは一緒に行けないわけよ」
 ヴァンツァーは。

「やるべきことが残っている」

 極北の空を仰ぎながらも、そんなことを言った。
「……個人的なことではあるがな……。それに、リリエル、ラーヴェルと来て、俺だけが抜け駆けするわけにもいかんだろう」
 といった事情があるらしい。


 結論。



「僕はもちろん、ついていくけど?」



 フェロンだけが、残った。
 二人だけの、旅路となった。

「治ったら、追いかける、から」
 フィオルが言った。
「これを、受け取って」
 背から翼を生やし、白い羽根を一本抜き取る。
 それは、いつしかの「悔恨の白い羽根」よりは、少しばかり優しい色をしていた。
「何かあったら、空に放ってほしい。そこのは天使の力が宿っている。どんなに遠くにいても、すぐに駆けつけるから」
 一回使ったら消えちゃうから、ご利用は計画的にとほほ笑んだ。
「僕ができる支援はこれくらいしかないけど……」
「いいえ。ありがとう、フィオル!」
 リクシアは、花が開くように笑った。
「まあ、そんなわけだから」
 フェロンが場を取り仕切る。
「今まで世話になったよ。ありがとう」
 最後に小さく付け加えて。


「出会えてよかった」


  ◆

 かくして、再び旅が始まった。行きより人数は二人減って。でも、だれよりもリクシアと仲の良かったフェロンが、すぐ隣にいて。
 それはとても心地良くて、大きな安心感があった。
 小さい頃のように手をつなごうとすると、「子供だなぁ」と苦笑しながらも、しっかりと握り返してくれる、温かい手。

 歩き、歩き、歩き。やがて、後ろを振り返った。

 悲しげにたたずむは、存在しなくなった町。喜びも、悲しみも。束の間の間、新しい仲間たちとともに共有した町。
 悲しみも、多いけれど。振り返れば、懐かしさすら感じられて。
「また、行こうね」
 誰にともなくつぶやいた。
「次行くときは、どのように変わっているのかな」
 まだ見ぬ未来を想像した。

「じゃ、行こか」

 しばらくじっとたたずんだ後。彼女はそう、相方に声をかけた。


 ——目指すは、南。


 すべての物語が始まった地へ。始まりの町、アロームへ、帰ろう。

 はじめてアルフェリオに出会った森を、歩きながらも。小さく決意を固めた。











 この町で見たことあったこと、感じたこと。
 たくさんの、出会いと別れ。

 ——胸に秘めて、忘れないから。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 どーも、藍蓮です。
 穏やかモードは継続中です。
 文字数は2800です。

 この話を終えて、第五章は終幕となります。
 様々な思いや悲しみを抱え。またゼロから始まる戻し旅。
 久しぶりに帰る南の地。懐かしい人々は、元気なのでしょうか。

 五章は終盤が激しかった分、穏やかに終わることができました。
 次の章も、頑張りますので。
 ひとまずここで、一区切り、と。
 長かった……! 長かったですねぇ。この章は長すぎるんですよ!

 まぁ、そんなところで。

 次の話に、請うご期待♪

カラミティ・ハーツ 1 心の魔物 Ep34 予想外の大捕り物 ( No.37 )
日時: 2017/08/24 22:17
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=610.png

 新章突入です!
 そうそう。五章終了を記念して極北の天使たちの絵を描きましたので、よかったらURLから飛んでみて下さいな〜。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ぐるぐるぐるっと。はい、おしまい」
「そんな簡単に済むんだ……」
 最初からこうしとけばよかったわ、とグラエキアが苦笑いした。
 エルヴァインは、首をかしげて彼女を見た。
「……殺さないのか?」
「いいえ?」
 グラエキアは、どこか悟ったような眼をした。
「人は心を食われたら魔物になる。そうなった人間を殺すのが私たちの使命。でもね——」
 その瞳が見る方向は、はるか北。
「あの人たちが、教えてくれたのよ」
 花の都、フロイラインを目指すあの人たちが。
 正義感ばっかり強いリクシア率いる、あの人たちが。
「殺すだけじゃないって。殺すばかりじゃいけないって」
 だから今、こうして。
「帰ってきたら、きっと驚くわよ?」
 グラエキアが、己の漆黒の鎖で捕えた「それ」に、目を向けた。
 エルヴァインは、呆れたように溜め息をついた。
「……君も、とんだ大捕り物をやるよね」
 鎖につながれたそれは——

  ◆

 ——帰りは、簡単だった。

 行きみたいに、手探りの道じゃない。それでも二月はかかった。
 春に始まった旅。しかしいつの間にか、もう9月だ。秋に入った。

「もう秋なのね。早いね」
 思わずつぶやいたら。
「そしてもうすぐ冬だ。リュークが帰省して大騒ぎしたのは、去年のことだったか」
 フェロンは遠い日を見る目になった。
 秋だ、もう秋だ。季節は春から夏を経て秋へ。少しずつ移ろっていった。
「もうすぐ、着くわね」
 見慣れた道を見て、リクシアは微笑んだ。
 エルヴァインやグラエキアは。一体何をしているかしら。

  ◆

「たっだいまー!」
 始まりの町、アロームに着いて。リクシアは懐かしい空気を胸一杯に吸い込んだ。
 極北の澄み渡った空気も好きだけれど。やっぱりこの町が一番だ。
 もっとも、彼女の故郷と言える町は、リュクシオン=モンスターに滅ぼされてしまったけれど。だから今は、この町が故郷だ。
「再会したとき……僕はボロボロだった。覚えているか?」
 フェロンが問えば。リクシアはうんとうなずいた。
「私、すっごく心配して、薬を買いに走ったのよね」
 
  ◆

 話しながらも宿に着く。
 ルードさんの経営する、「歌うウグイス亭」だ。
 ドアを開けたら、変わらない店主が。
「らっしゃーせー。……って、ぇ、リクシュアさんにフェローンさん!」
「リクシュアじゃないから。何その泡だってそうな名前」
「……そんな雑魚っぽい名前になった覚えはないんだけど」
 苦笑いしながらも店へと入る。どうやらこの店主は、人の名前をわざと間違えて呼ぶことがあるらしい。
「そうですそうですお客さん!」
 ルードは相変わらず騒がしい。
「聞きましたか? 聞いてないっすよね?」
「だから、なぁに?」
 彼は、目をまん丸にして、叫ぶように言ったのだ。










「あの『非業の魔物』、リュクシオン=モンスターが、捕まったんすよ!」










  ◆


 彼の案内に従って、ある家に行く。
 そこは石造りで、そこそこ居心地がよさそうだった。
 そこにいたのは。
「遅かったわね」
 相変わらずのグラエキアと。
「二人足りないな」
 いつもの調子を取り戻した、エルヴァインと。

 そして。










 ——漆黒の鎖の檻に囚われた、リュクシオン=モンスターが、いた。










「え、えぇぇぇぇぇえええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!?」

 思わず悲鳴をあげてしまったのも、仕方のないことだろう。

「ちょ、ちょっとちょっとちょっと待ってお兄ちゃん!?」
「リア、落ち着け」
「いやいやいや、こんな状況で落ち着いているフェロンの方がおかしいよ!?」
「さーわーぐーな」
「そんなの無理でしょ! ちょちょちょちょ、グラエキアエルヴァイン! い、いいいいいいい一体、一体何をぅ!?」
「落ち着かなきゃ話せないでしょーが」
「いやややいやいやその前に説明を!」
 グラエキアは溜め息をついた。

「あなたたちみたいに、なろうとしただけよ」

 鎖の檻に囚われた、魔物をじっと見つめる。
「あなたたちは甘い。甘いのよ。吐き気がするくらいに激甘だわ」
 その言葉にショックを受けたリクシアは置いておいて。
「でもね、うらやましかったのよ。なんのてらいもなく、夢物語を語れるあなたたちが。どこまでも未来を信じられる、曇りなき瞳が。だから」
 偽善者を気取ってみたのよ、と自嘲するように笑った。
「私たちはリュクシオン=モンスターにその日、遭遇した。でもね、エルヴァインが急に言ったのよ」

 ——殺すことではなく、捕らえることはできるか、と——。

「……僕は「ゼロ」だった時、あなたに殺されなかったから、今ここにいるんだ」
 エルヴァインが、静かに割り込んだ。
 それにうなずきながらも、グラエキアは続ける。
「そして気づいたの。もう一つの可能性にね。だからやってみたわ。私の漆黒の鎖を伸ばして。彼を捕えようと試みた。始めは弾かれたけど、何回かやるうちにコツがつかめた。その結果、」
 こうなった、と、檻の中のリュクシオン=モンスターを指差した。

 ……成程、納得した。

 正直、ここを離れていた時期が長いので、とっくにリュクシオン=モンスターは討伐されているだろうと、想ってさえいた。そして時々落ち込む彼女を、いつもフェロンが励ましてくれた。

 そして今、知った事実。





 ——生きていた。




 兄は、殺されずに、生きていた!

 そのことをグラエキアらに感謝しつつも。
 気になって、尋ねてみる。
「ね、近寄ってもいい?」
「ほどほどにね。具体的には、その机よりも前に行くと危険よ」
 グラエキアは、手で、自分たちとリュクシオン=モンスターの間にある机を、指し示した。
 よく見ると、その手には。細い小さな漆黒の鎖が、幾重にも巻きついているのが見えた。
 その視線に気づいて、グラエキアは手を軽く持ち上げる。
「ああ、これ? 制御用。念のためですけどね。だから私は、あまり遠くまで行けないの」
 魔物を殺さぬ代償に。彼女は好きに歩く自由を失った。
 その手の鎖と、檻の中の魔物。それはしっかりとつながっているから。
「……グラエキア」
「謝る必要なんてないわ。私はそもそも外出が嫌い。必要な物は、エルに買ってもらっていますもの。ちっとも不自由じゃなくってよ」
 それより、あなた、と彼女はリクシアを睨んだ。
「あんなに長く留守にしていたんだ。情報の一つや二つ、つかめたでしょう? 『花の都』に行ったのならば」
 その言葉に、リクシアは一瞬、声を詰まらせた。
 その様を見て。
「……何か、あったのね?」
 グラエキアが、慎重に訊いた。
 話して御覧なさい、と彼女は言う。
「言えば楽になることだってある。それに私だって知りたいのよ、あなたたちの旅の記録を。大丈夫よ、時間はたっぷりありますわ」
 
 リクシアはうなずいた。
 胸元に提げた、血に汚れた青い羽根を。ギュッと握りしめる。



 ——アルフェリオの、唯一の遺品を。


 リクシアは、大きく息を吸った。





「旅の途中、『偽りの女神』ヴィーナに出会ったの。それでね——」





 『偽りの女神』ヴィーナ。
 すべては、彼女の襲撃を受けたところから始まった——。


「長い、長い物語よ。しっかり聞いてね」


 語られたのは、極北の地の物語。



 ——赤の天使と、青の天使の。強い絆から生まれた悲劇の物語——。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 どーも、藍蓮です。
 
 新章開始しました。今回は、ちょっとドタバタな楽しい雰囲気からお送りします。
 章のタイトルも内容も決めていますが、今のところは動乱の「ど」の字もありませんねー。まぁ、今回は再会編ですし。次回もどうなるかはわかりませんが。

 グラエキアとエルヴァインを同時に出すと、口数の多いグラエキアばっかりが目立ってしまいます。申し訳程度にエルヴァインの台詞も入れてはいますが。頑張れエルヴァイン、君も主役だ(笑)

 こんな穏やか展開なので、次回予告はあえて避けますが。
 これからもよろしくお願いいたします。


※ 文字数は3300文字ですよう。
  最近記録したくなりましたー。


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