ダーク・ファンタジー小説
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- 【不定期更新……】カラミティ・ハーツ 1 心の魔物
- 日時: 2017/09/17 14:49
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
目次(随時更新)
(章分けをし、一部形式変更)
第一章 始まりの戻し旅 >>0>>3-7
Ep1 心の魔物 >>0
Ep2 大召喚師の遺した少女 >>3
Ep3 天使と悪魔 >>4
Ep4 古城に立つ影 >>5
Ep5 醜いままで、悪魔のままで >>6
Ep6 悔恨の白い羽根 >>7
第二章 訣別の果てに >>8-11>>14
Ep7 ひとりのみちゆき >>8
Ep8 戦いの傷跡 >>9
Ep9 フェロウズ・リリース >>10
Ep10 英雄がいなくても…… >>11
Ep11 取り戻した絆 >>14
第三章 リュクシオン=モンスター >>15-17
Ep12 迫る再会の時 >>15
Ep13 なカナいデほしいから >>16
Ep14 天魔物語 >>17
第四章 王族の使命 >>18-25
Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」>>18
Ep16 亡国の王女 >>19
Ep17 正義は変わる、人それぞれ >>20
Ep18 ひとつの不安 >>21
Ep19 照らせ「満月」皓々と >>22
Ep20 常闇の忌み子 >>23 (※長いです)
Ep21 信仰災厄 >>24
Ep22 明るいお別れ >>25
第五章 花の都 >>26-36
Ep23 際限なき狂気 >>26 (※長いです)
Ep24 赤と青の救い主 >>27
Ep25 極北の天使たち >>28
Ep26 ハーフエンジェル >>29
Ep27 存在しない町 >>30
Ep28 善意と掟と思惑と >>31
Ep29 剣を取るのは守るため >>32 (※長めです)
Ep30 青藍の悪夢 >>33 (※非常に長いし重いです)
Ep31 極北の地に、天使よ眠れ >>34 (※長めで重いです)
Ep32 黄金(きん)の光の空の下 >>35
Ep33 忘れえぬ想い >>36
第六章 動乱のローヴァンディア >>37-49
Ep34 予想外の大捕り物 >>37
Ep35 緋色の逃亡者 >>38
Ep36 帝国の魔の手 >>39
Ep37 絡み合う思惑 >>40
Ep38 再会は暗い家で >>41
Ep39 悪辣な罠に絡む意図 >>42
Ep40 鏡写しの赤と青 >>43
Ep41 進むべき道 >>44
Ep42 想い宿すは純黒の >>45
Ep43 それぞれの戦い >>47
Ep44 魔物使いのゲーム >>48
Ep45 作戦完了 >>49
第七章 心の夜 >>50-55
Ep46 反戦と戦乱 >>50
Ep47 強制徴兵令 >>51
Ep48 二人が抜けても >>52
Ep49 嵐の予感 >>53
Ep50 Calamity Hearts >>54 (※非常に長いし重いです)
Ep51 明けの見えぬ夜 >>55
第八章 時戻しのオ=クロック >>56-
Ep52 巻き戻しの秘儀 >>56
Ep53 好きだから >>57
はじめまして、藍蓮と申します。ファンタジーしか書けない症候群です。よろしくお願いします。
あるゲームのキャラクター紹介から想を得た、設定はそこそこ作ったとある物語の、プロローグを掲載しました。続く予定です。
それではでは。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。
「魔導士部隊、位置に着け!」
高らかに響くラッパの音。リュクシオンは隣を見た。
「ついに来ましたね、この時が」
「ついに来たな、総力戦が」
彼の隣に立っているのは、この国の王。王は難しい顔をして、リュクシオンに言った。
「リューク、いけるな?」
「はい、あと少しで準備ができます。しばしお待ち下さい」
「頼りにしてる」
この国、ウィンチェバル王国は、小さい割には資源が豊富だ。ゆえに、これまで多くの国々から狙われ、侵略されてきた。それをすべて退けられたのは、ひとえにこの国の魔導士部隊のおかげである。
それなりの侵略ならこれまで何度かあったが、今回のは規模が違う。
まだ肌寒い季節だ。リュクシオンはマフラーに顔をうずめながらも、考える。
(よりによって、ローヴァンディア、あの大帝国だと? 桁が違う。だからこそ、僕は……!)
願った。「力を」と。状況すべてを打破する力をと。何もできない自分が嫌で。国が侵略されていくのを、見ているだけしかできなくて。その思いは日増しに強くなり、内側から彼を苛み続けた。
そして、その願いは、叶った。理由はわからない。ただ、ある時から急に、召喚術が使えるようになった。
リュクシオンは神を信じない。信じても無駄。助けは来ない。そんな世界に生きてきたから。
しかし、彼に起きた奇跡は。何もできなかった彼が、急に「力」を手に入れた理由は。神の御業というよりほかになかった。
そして今、彼はここにいる。その力を見初められ、王の側近として、ここにいる。力がなければ、決して昇りえぬ地位に。望んでこそいなかったが、決して悪くは無い地位に。
——だから、利用させてもらうよ。
この状況を打破できる、唯一無二の召喚術。国を守るために過去の文献をあさり、そして見つけた、とある天使の召喚呪文。
それの発動には、長い長い準備が要った。リュクシオンは寝る間も惜しんで準備し続け、ついに、術の完成が迫る。
——国を守りたい。思いはただ、それだけなんだ。
そして——。
太陽が、月に食われた。
日食だ。しかも、皆既日食だ。昼の雪原はあっという間に闇に閉ざされ、凍える寒さが人々を打つ。
「——今だ!」
リュクシオンは声を上げた。突き出した手に、集まる魔力。
皆の視線が、彼に集中する。
「現れよ——日食の熾天使、ヴヴェルテューレ!」
神の域にさえ達したとされる究極の天使が今、リュクシオンの「仕掛け」に導かれ、彼の敵を滅ぼすため、外へと飛び出す——!
が。
——崩壊は、一瞬だった。
「あれ……うそだろ……」
白い、白い光が視界を埋め尽くした。天使はこの世に顕現した。そこまでは構わない。
だとしても。
——この、目の前に広がる無数の死体を。一体どう説明すればいい?
見知った顔。あれは魔道師のアミーだ。あっちは友人のルーク。
——さっきまで隣にいた、リュクシオンの王様。
みんなみんな、死んでいた。敵味方の区別なく。リュクシオン以外、皆殺しだった。死んだその目には恐怖の色があった。
——国が、滅んだ。守ろうと、あれほど力を尽くした国が。リュクシオンの王国が。守りたかった全てが。
リュクシオンの、積み重ねてきたすべてが。
存在意義が。
「……あ……嗚呼……ぁぁぁぁ嗚呼ああ嗚呼あ!」
地にくずおれ、獣のように咆哮する。
——天使は、破壊神だった。
確かに相手も全滅したが、彼が望んだのはこんなことじゃない。こんなことなんかじゃ、ない。
平和を。愛する国に平和を。そう、心から思っていた。だからこそ、力を望んだ。愛するものを、国を、守る力を。
——コンナコトジャナカッタ。
絶望に染まる召喚師の頬を、涙が伝った。赤い、紅い、赫い。血の色をした、絶望の涙が。
「ア……アア……ァァァアアアアアアアアアア!」
壊れた機械のような声とともに、彼の世界は崩壊した。
「ァ……ァぁ……ァぁァぁァぁァぁァぁァ…………」
その身体が、闇色の光とともに、変化していく。
「ァ……ぁ……」
背はこぶのように盛り上がり、体中から毛を生やしたそれは。もはや人間ではなかった。
「……ァ……」
幽鬼のようにのっそりと動き出したそれは、魔物そのものだった。
その瞳に、意思は無い。理性もない。何もない。
そのうつろな姿は、大召喚師のなれの果て……。
——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。
王も貴族も召喚師も。なんびとたりとも例外は無い。
ひとたび心が闇に落ちれば、一瞬にして、魔の手は伸びる。
そして魔物となった者は、己の死以外ではその状態を解除できない。
これまでもあった。そんな悲劇が。魔物となった大切な人を。自ら手に掛ける人たちが。
悲劇でしかない。ただ悲劇でしかない、この世界の絶対法則。
——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
……いきなり大変なことになっていますが、まだ続きます。次の舞台は移って、この国の外になります。魔物となったRも今後、深く関わっていきます。よろしくお願いします! 〈続く〉
- カラミティ・ハーツ心の魔物 Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」 ( No.18 )
- 日時: 2017/08/08 20:00
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「リュクシオン=モンスター……」
去りゆく怪物を、見据える影があった。
「ゼロ」だ。今日はあの女と一緒ではなかった。
だから彼は、本来はここにいないはずだった。
彼女はあえて、彼を連れていかなかった。
その理由は——。
オモイダサセタクナカッタカラ。
「——ッ! 頭が……」
その怪物を見た途端、はじけだそうとする記憶。思い出したいのに、執拗な頭痛がそれをさせない。
「ぐ……ああっ!」
脳裏に走った激痛。焼けつくように、突き刺すように。
「ゼロ」はうめき、大地をのたうち、転げ回った。
それでも——これは。
魔物を。見た瞬間、はじけそうになった記憶は。
大切なものだから。
苦しくても——苦しくても。思い出さなきゃならない、そんな気がした。
(リュクシオン=モンスター)
唯一残った記憶が言うのだ。
(あれは、リュクシオン=モンスターだ)
そして。
「ゼロ」
母さんの声。
違う、あれは、母さんじゃない。
「ゼロ! 何してるの!」
違う。僕の名は「ゼロ」じゃない。
言っていたじゃないか、あの日、戦った一人の少女が。
思い出せ、思い出せ。あの少女の言った言葉を。
頭痛はますますひどくなり、考えるのすら億劫になる。
歯を食いしばり、痛みに耐え。
あの日の記憶を呼び戻す。
「ゼロ!」
「ゼロじゃないッ!」
あの少女の、言葉。
『******・*******! 目を覚ましてッ!』
——思い出した。
頭痛は、消えていた。
「あなたは……母さんじゃ……なかった……」
「何を言っているの? 私はあなたの母さんでしょう」
「違うッ!」
思い出した。思い出せた。あの遠い日の暮らし。父にいじめられ、兄にいじめられ。それでも、どんな時でも。母だけは味方でいてくれた。
「母さんの名はエリクシア! そして、僕の名は——!」
あの子が教えてくれた、僕の本当の名前。
僕は、ある国の王子だった。
唯一生き残った、王族。
ゆえに、名乗ろう。思いを込めて。その名は——
「エルヴァイン・ウィンチェバルッッッ!」
叫び、「母」に剣を向けた。
「……運のない子」
「母」は小さくつぶやいて、自らも剣を抜いた。
「ならば殺して差し上げるわ、私の可愛い『ゼロ』——いいえ、ウィンチェバル王国第三王子ッ! エルヴァイン・ウィンチェバルッ!」
「望むところだ! 人の記憶を勝手に操って……。この屈辱は、今、晴らす!」
二本のつるぎが交わった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
どーも、藍蓮です。
今回は完全にサブストーリーですねー。主人公全く出てないし(笑)
正直、まだこんな序盤で敵役一人消してもいいの〜? なんて思ってますが、前の話でリュクシオン=モンスターを出した以上、こうなることはわかっていました(オイ)。
ついに覚醒(?)した「ゼロ」。謎の女との戦いの行方は?
次回をお待ち下さい!
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep16 亡国の王女 ( No.19 )
- 日時: 2017/08/09 08:07
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
——力量が、違った。
「ぐうッ!」
身体を貫いた剣を。彼は呆然と見ていた。
「運のない子。忘れたままなら、こうはならなかったのに」
剣を引き抜き、露を払い。そのまま歩き去ろうとする背に。
「待……て……!」
かけた声は無視されて。
エルヴァインは、くずおれるようにして膝をつく。
視界がゆがむ。何もかもが真っ赤に染まる。
「こんな……ところで……!」
果たさなければならない使命があった。
謝らなければならない人がいた。
やりたいこと、やるべきこと。まだまだたくさんあったのに。
貫く痛みに意識を失いかけ、なんとか再び覚醒する。
生きたいと、死にたくないと。心が、全身が。魂の叫びをあげていた。
「僕は……まだ……!」
死ぬわけには、行かないのに——。
あの日。あの女に誘惑された。それが崩壊の始まりで。
記憶をなくし、意思もなくし。操り人形のように生きていた。
そして、今。記憶も意思も取り戻した彼は、また何かをなくそうとしている。
——それは、命だ。
「嫌だッ!」
叫んでも。もがいても。必死に足掻いても。
何かが変わることはなかった。何かが起きることもなかった。
当然だ。神様なんて、いないのだから。
奇跡なんかに期待しない。
——でも、生きたい、から。
どうすれば、生きられるのだろう——?
◆
丘の上に、銀色の少年が、倒れていた。
腹から血を流し。青ざめた顔で。
でも、かろうじて、生きていた。
「……仕方ない、か」
一人の少女が、その身体を抱きかかえた。
「まったく。こんなところで倒れないでほしいものだわ」
感情のない声は、しかし、どこか心配げだった。
「あんたはいっつも無茶をして……。あの女の正体をわかっていたの? 知らなかったんでしょう。知っていたなら、問答無用で逃げていた」
少女はぶつぶつと呟きながらも、少年をどこかに連れていく。
そっと、口にされた名前は。
「——あの、『偽りの女神』ヴィーナだと、知っていたなら」
◆
「じゃぁ、再び目指そう、花の都、フロイラインを」
フィオルも少し、回復してきた頃。リクシアがそう、提案した。
「でも、今回はフェロンも一緒だもーん。みんなで行こうよ? そこに行って、何かを見つけないと……話は全然進まないもの」
だな、とアーヴェイもうなずいた。
すると。そこへ。
コンコン。ドアのノックされる音。
これまでいろいろなことがあったから、思わず身構えるリクシア。
他のみんなも油断なく武器を構え、誰何した。
「何者っ!」
「グラエキア・ド・アルディヘイム・アリアンロッド。エルヴァイン・ウィンチェバルと深い関わりをもつ者、といったらわかるかしら?」
「……入って」
エルヴァイン・ウィンチェバル。それは、あの「ゼロ」のことだ。
他人ごとではない。
「単刀直入に聞く。リュクシオン=モンスターは、どんな戦い方をしていた?」
「それ以前に、貴様は誰だッ!」
「身分で言うのならば」
感情のない声が、告げる。
「今は亡き、ウィンチェバル王の姪よ」
……新たなる波乱が巻き起ころうとしていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
新キャラ登場でーす。
私は多く、物語を書く際には、設定を「構成ノート」にまとめてから内容を書き始めるのですが、新しい彼女はなんと、「ノート」にも書いていない、ぶっつけ本番のキャラです。というか、「ノート」に書いたキャラはもう尽きたので、これから「新キャラ」がでるときは、みんなぶっつけ本番になります。
明かされた「女」の名前、不意に現れた、謎の少女。「彼ら」が紡ぎだす物語は、次は一体どんな所に向かうのか。
次回をお待ち下さいな。
- カラミティ・ハーツ Ep17 正義は変わる、人それぞれ ( No.20 )
- 日時: 2017/08/09 22:41
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
更新遅れたのは、学校で部活があったから!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
グラエキア・アリアンロッドことグラエキアは、言った。
「エルヴァイン・ウィンチェバルは元に戻ったわ。リュクシオン=モンスターを見て記憶が戻った。でも、今は大怪我をして、動けない。だから私が来たのよ」
彼女は再び訊いた。
「だから、質問なの。リュクシオン=モンスターは、どんな戦い方をしていた?」
「……兄さんに何する気?」
「当たり前じゃない」
人形みたいに淡々とした彼女は、言うのだ。
「殺すのよ」
「……今、なんて?」
「言った。殺すと。あれは災厄。存在してはならぬモノ」
「でも、兄さんなんだよっ!」
その言葉に怒りを示し、リクシアは乱暴に立ち上がった。
「魔物になっても。怪物になっても。あれは……兄さんなの。殺すなんて、そんなっ!」
「生憎と私情を優先している暇はないわ。あなたはアレが、一体どれくらいの人を殺したのかご存じ?」
「し、知らないわよ、そんな……」
「百」
突きつけられるは冷たい現実。
「私の情報網なら、余裕で百は越えるとの数値が出ている。あなたは百というのが、どんなに大きな数字かわかってる? 百人いれば、村ができるわ。小さな町だってできる。あなたの兄さんはね、エルフェゴール」
「どうしてその名を——」
「町を一つ潰したも、同罪よ」
「————ッ!」
百。百人。百の命。重い。すさまじく重い。重すぎる、それ、を。
「奪ったのはあなただ。討伐しようともしないで。叶わぬ夢を、無駄に追い続けた」
「…………やめて」
「だから、私は再び問うわ。あなたは人殺しになるのかと。罪もない女子供を。私情のために犠牲にするのかと。大召喚師の妹が、聞いて呆れる。所詮、あなたの正義はあなたにとっての正義でしかなく、他人を一切省みない」
「やめてったら——」
「……やめろ、アリアンロッド」
フェロンが静かに割り込んだ。
「ああ、僕らが掲げるのは身勝手な正義さ。だがな、それのどこが悪い。人は皆、聖人君子であるわけじゃない。……身勝手な正義の、何が悪い」
「……あら」
思わぬ反撃に、グラエキアは小さく声をもらした。
「確かに、身勝手な正義だって、悪くはないけれど」
その紫の瞳が、強い笑みを浮かべた。
「私たちは、王族だから」
部屋の扉に、手をかけて。
「そんな私たちの正義は、家臣の失態をすすぐこと」
邪魔したわね、と言って、彼女はいなくなった。
敵なのか、味方なのか。よくわからないけれど。
人には人の正義がある。それが対立することだって、あるのだと。
「……確かに、グラエキアの言葉には一理あるが」
アーヴェイが目を閉じ、つぶやいた。
「だがな、おそらく奴は知らない。身近な者が、魔物になった悲しさを。だから、あんな冷たいこと、言えるんだ」
大切なものが魔物となったとき。それを救いたいと考えるのは、当たり前のこと。
「いそごう、フロイラインへ」
フィオルは言った。
「グラエキアに、リュクシオン=モンスターが、討伐される前に」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
敵か味方か? 新たな登場人物、グラエキア!
はい、藍蓮です。更新します。
人にはそれぞれ正義があって、それが対立するからこそ、戦争は生まれるのだと考えています。今回は、「正義」についての話でした。
グラエキアら王族陣営は、「リュクシオン=モンスターを倒すこと」を正義としています。なぜなら、それは、滅びた祖国の生んだ、害悪だから。王族としての誇りが、身内の恥は身内でそそがんと、そんな行動を取らせるのです。
ご精読、ありがとうございました!
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep18 一つの不安 ( No.21 )
- 日時: 2017/08/10 11:40
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
【誤ってデータ消えたー!
うわああああああああん!】
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「極北の町、フロイラインには。日の沈まぬ夜と日の昇らぬ朝があるらしい」
あの後。急がなければと宿を出た。
そこでアーヴェイがした話。
「え? おかしいよ。日の沈まぬ夜と日の昇らぬ朝? お伽話の類じゃないの」
「それが事実らしいよ。前にリュークが、精霊からそんな話を聞いたって」
フェロンがそれに割り込んだ。
「話によると、フロイラインだけでなく、極北と呼ばれる地域なら、どこにだってあることらしい。天使と悪魔、そうなんだろう?」
「……好きで悪魔に生まれたわけじゃないがな、傷痕。ああ、そう言う話だ。しかし、フロイラインは伝承と伝説の国……。具体的な場所はわからないんだ。だから」
「傷痕呼ばわりはやめてほしいけど。つまり、北を目指してればいいってこと?」
「曖昧で悪かったな?」
「誰もそんなこと言ってないよ」
フェロンは苦笑いを返した。
話を聞いて、リクシアはふーんと思う。
「でも、そこ、実在するの?」
空気が、一瞬、固まった。
フィオルが弱気な声で言う。
「実在するかはわからないんだ。でも……手掛かりは、ここしかないから。ここ以外で、魔物が人間に戻った話は聞かないから」
仕方ないのさ、と呟いた。
「溺れる者はわらをもつかむ。……期待掛けて、すまなかったね」
「いえいえ、そんな」
……実在するかもわからない町、か。
そんなものを目指して旅する。
グラエキアは、もっと確実な目的を、持っているのに。
「不利、よねぇ……」
ため息をついた。
◆
「……まだ、目覚めないのね」
グラエキアは、眠るエルヴァインを見て、小さくつぶやいた。
「生き残ったなら戦いなさい。いつまで眠っている気なの」
剣の貫通した腹の傷は、グラエキアがしっかり手当てした。
眠ったままのその顔は、苦しそうでもあった。
「もっとほかに生き残っていたらよかったけど……無理な話か」
嫌われ者のエルヴァインと、戦争を厭ったグラエキア。
王族ならば本来、戦争の場にいなくてはならないのに。
この二人は、国外にいたために、「大災厄」を免れた。
(まぁ、これで生き残ってたって、それはつまり、臆病者ってことよね。そんな仲間は、いらないわ、ね)
彼女は天を、振り仰いだ。
「……今、こうしている間にも。あの魔物は、きっと人を殺している……」
それを正すのが、私たちの正義だ。
「夢は見ない。見るのはただ、現実だけよ」
あの少女と私たち。どっちが早いかしら。
「どっちにしろ、道はわかれた」
呟いて、エルヴァインの顔を見た。
「……いい加減、目覚めてくれるかな……?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
うわあああああん! 1000文字以上書いたデータが消えたー! バックアップも取ってなーい!
泣きそうな気分の藍蓮です。うわああああん! 折角、グラエキアの場面とか書いたのに! 一気にパアになって、しばらくは立ち直れませぬ。
……次回作にご期待下さい。
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep19 照らせ「満月」皓々と ( No.22 )
- 日時: 2017/08/10 16:56
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
とりあえず北へ、北へ。一路進んだ。極北の地へ、花の都へ。
次に訪れたのはヴィーカという町。最初の町、アロームからはそれなりに離れている。
しかし、町には人気がない。すれ違う人っ子一人いない。
「ねぇ、どう思う?」
不安になって、仲間たちに聞いてみた。異常だな、とアーヴェイが即答する。
「ここはそこそこ大きな規模の町……。人は皆臆病なのかもしれないが、こうも人がいないのは……異常だ、な」
「家の中に人の気配はするのに……。みんな気配をひそめてる。おかしいよこの町!」
フィオルが不安げに、アーヴェイの服の端にしがみついた。顔を厳しくしたアーヴェイが、フィオルを守るようにして歩く。
「ここに長くいるのはよくない」
フェロンがそっとつぶやいた、時。
「——危ないッ!」
「——へ?」
普通に歩いていたら、突き飛ばされた脊中。
先ほどまで彼女の頭があったところを、魔物の腕が通り過ぎる。
「ぐうッ——!」
「グラエキア!?」
代わりに吹っ飛ばされたのは、漆黒の美少女。
彼女は素早く立ち上がると、言った。
「逃げなさい。ここの住民は皆魔物化した! 詳しいことを話している暇はないから!」
「待って! 何で私を助けてくれたの! ……敵じゃ、ないの?」
「私が敵だといつ言った! 悪いかしら? ただの気まぐれよ。ここで死なれても、後味が悪いッ!」
「死……ぬ……?」
驚いて訊き返すと、見えなかったの? と彼女は呆れた。
「今の一撃。頭を狙ってた。私が入らなかったらどうなっていたことか! って!」
彼女は盛大に、舌打ちする。
いつの間にか、囲まれていた。
襲い来る魔物の集団に。
今まで出会ったこともないほどの、とても大規模な、集団に。
「話していたら、来たみたいね! 仕方ない、戦闘用意!」
グラエキアは、両手で魔術の印を組んだ。
知らず、戦慄した。
怖い。
はじめて身近に感じた「死」。
震えが止まらなくなった彼女を、守るようにグラエキアが立つ。
「グラエキア……?」
「町がこうなったのは私の責任。私があの女を止められなかったから」
迫りくる魔物を前にしても。揺らぐことなき漆黒の瞳。
「エルヴァインが操られたのも私の責任! 私が彼を、見つけられなかったから!」
魔物に殴られた傷を押さえ、それでも前を向いて叫ぶ。
「すべてが私の責任ならば! それらすべてを今、返すッ!」
「加勢するぞッ!」
「覚悟は決めたッ!」
横合いから、己の身体を悪魔と変えたアーヴェイと、聖槍「シャングリ=ラ」を構えたフィオルが走り出す。
「ボーっとするな、戦え、リクシア!」
片手剣を抜いたフェロンが行き過ぎる。
そうよ、そうだよね。おびえていたら。大好きな人たちが傷ついちゃうから。
「私だって、戦えるもん!」
その手を掲げ、魔法を呼んだ。
光と風よ、われとともに。
◆
「う……あ……」
身体中に苦痛を感じながらも、エルヴァイン・ウィンチェバルは目を覚ました。
「グラエキ……ア……?」
彼女がさっきまでいた気がする。
錯綜する記憶。
(あの女と戦っていて……。負けて、それで……?)
それで、グラエキアに。助けられたのだろうか。
「まさか……な。こんなところに、いるわけ……が……」
そう、思っていたら。その手に何かが触れた。
それは、手紙だった。
【エルヴァインへ
いつになったら起きるのかしら。いい加減怒るわよ。
とりあえず。私はグラエキアだから。死んだと思っているかもしれないから、ここに書いておくわね。私は今、生きていると。
私は醜い争いが嫌いでね。あの日は偶然国外にいたってわけ。
あら、信用ならない? なら、私とあなたしか知らないことを。
エルヴァイン。あなたの名前の由来について。父様が私に言っていたわ。
月には神様が二人いるって、あなたなら知っているでしょう。
新月の神、ルヴァインに、満月の神、シャライン。あなたの名は新月から来た。すべて失っても、再び満ちることができるように、と。
今、生きている王族は。きっと私とあなたしかいない。これでも私が信じられないなら、人生やり直してきなさい。
今、私は訳あって、ヴィーカまで行ってる。
でも、目覚めたばかりでいきなり、追ってこないほうがいいから。自分の体調わかってるわよね? ぶっ倒れられても困るから。無理はしないこと。いい?
まぁ、そんなわけでね。ちょっと、出かけてくるから。
お腹すいたら適当に食べてて。昼までには戻るわ。
ということで、じゃあね
追伸 あなたを操っていたのは、『偽りの女神』ヴィーナだから。戦う相手を間違えたんじゃなくて?
グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・シャライン・アリアンロッド
(私の名前、フルネームで言える人、どれくらいいるのかしら)】
読み終わってから、エルヴァインは苦笑した。
確かにグラエキアだ。名前のエピソードよりも、これでもかとばかりに書かれた長い本名が、彼女が彼女であることを証明していた。
(シャライン)
長ったらしい名前に一言だけ隠された、満月の女神の名前。
滅多に名乗らない第二の名前は。とあるメッセージを隠していた。
「人使いが……荒いな……」
エルヴァインはそのメッセージを読み取り、衰弱した身体をおして、恐る恐る立ち上がる。
「……くぁッ!」
めまいがして、倒れ込んだ。それでも。
壁に立てかけてあった剣を握り、脇腹の傷を押えながらも。
立ち上がる。
「無理するなは……僕の、台詞だ……」
滅多に名乗らない「シャライン」に隠された意味。
それは。
「助けてほしいなら……素直にそう言え……!」
言葉に隠されたSOSを。見破れないほど短い付き合いじゃないから。
倒れそうになりながらも、彼は進んだ。
かつて王国一といわれた剣の腕を持つ、白銀の王子は。
傷を負いながらも。痛みに苦しみながらも。
大切なもののために、その剣を振ることを。
決意して、今再び。
歩きだす。
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ええ、長く書いたんです。前回、とんだ駄作を投稿してしまったお詫びに。今度はWordにバックアップ取りながら書きましたので、データ消滅対策は万全です。
いや〜、なんか書いてて楽しくなってきました! 臨時で入れたグラエキアが、思った以上に活躍してくれますし!
この場面はここでは終わりません。次回につながるように書いてます!
久々にまともに書けたかも? 次回の話に、請うご期待!
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