ダーク・ファンタジー小説
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- 【不定期更新……】カラミティ・ハーツ 1 心の魔物
- 日時: 2017/09/17 14:49
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
目次(随時更新)
(章分けをし、一部形式変更)
第一章 始まりの戻し旅 >>0>>3-7
Ep1 心の魔物 >>0
Ep2 大召喚師の遺した少女 >>3
Ep3 天使と悪魔 >>4
Ep4 古城に立つ影 >>5
Ep5 醜いままで、悪魔のままで >>6
Ep6 悔恨の白い羽根 >>7
第二章 訣別の果てに >>8-11>>14
Ep7 ひとりのみちゆき >>8
Ep8 戦いの傷跡 >>9
Ep9 フェロウズ・リリース >>10
Ep10 英雄がいなくても…… >>11
Ep11 取り戻した絆 >>14
第三章 リュクシオン=モンスター >>15-17
Ep12 迫る再会の時 >>15
Ep13 なカナいデほしいから >>16
Ep14 天魔物語 >>17
第四章 王族の使命 >>18-25
Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」>>18
Ep16 亡国の王女 >>19
Ep17 正義は変わる、人それぞれ >>20
Ep18 ひとつの不安 >>21
Ep19 照らせ「満月」皓々と >>22
Ep20 常闇の忌み子 >>23 (※長いです)
Ep21 信仰災厄 >>24
Ep22 明るいお別れ >>25
第五章 花の都 >>26-36
Ep23 際限なき狂気 >>26 (※長いです)
Ep24 赤と青の救い主 >>27
Ep25 極北の天使たち >>28
Ep26 ハーフエンジェル >>29
Ep27 存在しない町 >>30
Ep28 善意と掟と思惑と >>31
Ep29 剣を取るのは守るため >>32 (※長めです)
Ep30 青藍の悪夢 >>33 (※非常に長いし重いです)
Ep31 極北の地に、天使よ眠れ >>34 (※長めで重いです)
Ep32 黄金(きん)の光の空の下 >>35
Ep33 忘れえぬ想い >>36
第六章 動乱のローヴァンディア >>37-49
Ep34 予想外の大捕り物 >>37
Ep35 緋色の逃亡者 >>38
Ep36 帝国の魔の手 >>39
Ep37 絡み合う思惑 >>40
Ep38 再会は暗い家で >>41
Ep39 悪辣な罠に絡む意図 >>42
Ep40 鏡写しの赤と青 >>43
Ep41 進むべき道 >>44
Ep42 想い宿すは純黒の >>45
Ep43 それぞれの戦い >>47
Ep44 魔物使いのゲーム >>48
Ep45 作戦完了 >>49
第七章 心の夜 >>50-55
Ep46 反戦と戦乱 >>50
Ep47 強制徴兵令 >>51
Ep48 二人が抜けても >>52
Ep49 嵐の予感 >>53
Ep50 Calamity Hearts >>54 (※非常に長いし重いです)
Ep51 明けの見えぬ夜 >>55
第八章 時戻しのオ=クロック >>56-
Ep52 巻き戻しの秘儀 >>56
Ep53 好きだから >>57
はじめまして、藍蓮と申します。ファンタジーしか書けない症候群です。よろしくお願いします。
あるゲームのキャラクター紹介から想を得た、設定はそこそこ作ったとある物語の、プロローグを掲載しました。続く予定です。
それではでは。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。
「魔導士部隊、位置に着け!」
高らかに響くラッパの音。リュクシオンは隣を見た。
「ついに来ましたね、この時が」
「ついに来たな、総力戦が」
彼の隣に立っているのは、この国の王。王は難しい顔をして、リュクシオンに言った。
「リューク、いけるな?」
「はい、あと少しで準備ができます。しばしお待ち下さい」
「頼りにしてる」
この国、ウィンチェバル王国は、小さい割には資源が豊富だ。ゆえに、これまで多くの国々から狙われ、侵略されてきた。それをすべて退けられたのは、ひとえにこの国の魔導士部隊のおかげである。
それなりの侵略ならこれまで何度かあったが、今回のは規模が違う。
まだ肌寒い季節だ。リュクシオンはマフラーに顔をうずめながらも、考える。
(よりによって、ローヴァンディア、あの大帝国だと? 桁が違う。だからこそ、僕は……!)
願った。「力を」と。状況すべてを打破する力をと。何もできない自分が嫌で。国が侵略されていくのを、見ているだけしかできなくて。その思いは日増しに強くなり、内側から彼を苛み続けた。
そして、その願いは、叶った。理由はわからない。ただ、ある時から急に、召喚術が使えるようになった。
リュクシオンは神を信じない。信じても無駄。助けは来ない。そんな世界に生きてきたから。
しかし、彼に起きた奇跡は。何もできなかった彼が、急に「力」を手に入れた理由は。神の御業というよりほかになかった。
そして今、彼はここにいる。その力を見初められ、王の側近として、ここにいる。力がなければ、決して昇りえぬ地位に。望んでこそいなかったが、決して悪くは無い地位に。
——だから、利用させてもらうよ。
この状況を打破できる、唯一無二の召喚術。国を守るために過去の文献をあさり、そして見つけた、とある天使の召喚呪文。
それの発動には、長い長い準備が要った。リュクシオンは寝る間も惜しんで準備し続け、ついに、術の完成が迫る。
——国を守りたい。思いはただ、それだけなんだ。
そして——。
太陽が、月に食われた。
日食だ。しかも、皆既日食だ。昼の雪原はあっという間に闇に閉ざされ、凍える寒さが人々を打つ。
「——今だ!」
リュクシオンは声を上げた。突き出した手に、集まる魔力。
皆の視線が、彼に集中する。
「現れよ——日食の熾天使、ヴヴェルテューレ!」
神の域にさえ達したとされる究極の天使が今、リュクシオンの「仕掛け」に導かれ、彼の敵を滅ぼすため、外へと飛び出す——!
が。
——崩壊は、一瞬だった。
「あれ……うそだろ……」
白い、白い光が視界を埋め尽くした。天使はこの世に顕現した。そこまでは構わない。
だとしても。
——この、目の前に広がる無数の死体を。一体どう説明すればいい?
見知った顔。あれは魔道師のアミーだ。あっちは友人のルーク。
——さっきまで隣にいた、リュクシオンの王様。
みんなみんな、死んでいた。敵味方の区別なく。リュクシオン以外、皆殺しだった。死んだその目には恐怖の色があった。
——国が、滅んだ。守ろうと、あれほど力を尽くした国が。リュクシオンの王国が。守りたかった全てが。
リュクシオンの、積み重ねてきたすべてが。
存在意義が。
「……あ……嗚呼……ぁぁぁぁ嗚呼ああ嗚呼あ!」
地にくずおれ、獣のように咆哮する。
——天使は、破壊神だった。
確かに相手も全滅したが、彼が望んだのはこんなことじゃない。こんなことなんかじゃ、ない。
平和を。愛する国に平和を。そう、心から思っていた。だからこそ、力を望んだ。愛するものを、国を、守る力を。
——コンナコトジャナカッタ。
絶望に染まる召喚師の頬を、涙が伝った。赤い、紅い、赫い。血の色をした、絶望の涙が。
「ア……アア……ァァァアアアアアアアアアア!」
壊れた機械のような声とともに、彼の世界は崩壊した。
「ァ……ァぁ……ァぁァぁァぁァぁァぁァ…………」
その身体が、闇色の光とともに、変化していく。
「ァ……ぁ……」
背はこぶのように盛り上がり、体中から毛を生やしたそれは。もはや人間ではなかった。
「……ァ……」
幽鬼のようにのっそりと動き出したそれは、魔物そのものだった。
その瞳に、意思は無い。理性もない。何もない。
そのうつろな姿は、大召喚師のなれの果て……。
——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。
王も貴族も召喚師も。なんびとたりとも例外は無い。
ひとたび心が闇に落ちれば、一瞬にして、魔の手は伸びる。
そして魔物となった者は、己の死以外ではその状態を解除できない。
これまでもあった。そんな悲劇が。魔物となった大切な人を。自ら手に掛ける人たちが。
悲劇でしかない。ただ悲劇でしかない、この世界の絶対法則。
——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
……いきなり大変なことになっていますが、まだ続きます。次の舞台は移って、この国の外になります。魔物となったRも今後、深く関わっていきます。よろしくお願いします! 〈続く〉
- Re: カラミティ・ハーツ 1 心の魔物 ( No.13 )
- 日時: 2017/08/07 08:49
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
再びの感想、ありがとうございます!
ちなみにこのお話、「人は、心を闇に食われたら、魔物になる」という一行が、とあるゲームのキャラクター紹介から浮かびまして。そこから話をどんどん発展させていったら、いつの間にかこうなっていました。
要は、この話は「一行から始まった」といっても過言ではないのです。
そうそう。あのー、よろしければ、感想は雑談板のほうでお願いします。「よかったらトークでも」というスレを最近立てましたので。
こっちは本編だけにしたいですねー。
Ep8まで読み終わったら、閲覧数50記念で番外編を掲載しているので、よろしかったらそちらでも。そちらは感想オーケーです。ただし、Ep8まで読まないと、わからないキャラがいます。そこのところよろしくお願いします。
感想、どうもありがとうございました!
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep11 取り戻した絆 ( No.14 )
- 日時: 2017/08/07 18:40
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
追記 リクシアの容姿を書いていなかったので、ここに髪の色と眼の色だけ載せます。
リクシア・エルフェゴール
髪の色 白
眼の色 赤
あとはご想像にお任せします。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
リクシアは、夢を見ていた。
「お兄ちゃん♪」
遠い昔。兄が魔物になる前の日々を。
「お兄ちゃん、あそぼ」
幼いころの思い出を。
今はない、今はあり得ない。心のどこかで解っているけど。
「お兄ちゃん、だぁいすき」
認めたくない、そういった思いが。彼女を夢へと縛り付けた。
◆
「兄さん、何でまた……」
「仕方ないだろう。落盤事故だ。遠回りせざるを得ない」
「じゃぁ、何でこの町を通るのさ」
「ルードさんとは懇意だからな」
「懇意の店主ならほかにもいるでしょ?」
「ここが一番近いんだ」
「あんなにひどいことされて、兄さんはお人よしだねぇ」
「もう過ぎたことだろう」
「……心配とか、言わないんだね?」
「オレは素直じゃないからな」
「自分で言う!?」
天使と、悪魔。真逆の見た目に見える一対が、再びこの町を訪れていた。
◆
リクシアは、目覚めない。
「……疲労はとうに、回復してるはずなんだけどなぁ……」
夢を見ているようだった。その顔は穏やかで、幸せそうだった。
「——起きてって、言ってんの」
軽く小突いてみても何も反応がない。
フェロンはため息をついた。
「外部からだれか来ないかなぁ……」
◆
「らっしゃーせー……って、フィオルさんにアーヴィーさん!? どうしたんすか!」
「やぁ、どうも。落盤事故で遠回りだよ」
「だからアーヴィーじゃないって言っているだろう……」
例の宿にて。天使と悪魔——フィオルとアーヴェイは、ルードに再会していた。
しかし、ルードはどこか、ソワソワしていて、落ち着きがなかった。
「……ルード。何かあったな?」
胸の奥に感じる胸騒ぎ。何か、あった。
ルードはうなずき、いきなり土下座した。
「フィオルさんッ! アーヴェイさんッ! どうか、どうか客の眠り姫を、起こして下さぃぃぃぃいいいいいッ!」
「……ちょっと待て。今、こいつ『アーヴェイ』って言ったな? しっかり発音したな?」
「兄さん、突っ込みどころ違う……」
突っ込んでくれたフィオルは無視し。
「具体的に説明してくれ。だれが眠り姫だって?」
「だから、あなたたちが連れてきた——」
リクシアさんですよ」
◆
ルードの案内でフェロンに会った。彼は状況をしっかり説明してくれた。
「……要は、何かの夢にとらわれて、自ら目覚めないと?」
「おそらく……。そういった認識で合っている」
「でも、オレたちで目覚めさせられるかだな……」
「誰でもいい。リアにかかわった人なら」
「……理解した。まぁ、やってみるか」
フェロンの案内でベッドに近づく。そこに、やせ細った少女の姿があった。当然だ。一週間も眠っていれば。
その頬を、アーヴェイは思い切り張った。
「兄さ……っ!」
「おい!?」
驚くフィオルとフェロンは無視して。
「——貴様、いつまで眠っているッ!」
悪魔の瞳が、カッと見開かれていた。
彼は、叫んだ。
「かつて貴様は、オレを仲間だと言ったな? だがな、それは違う! 貴様はオレたちを裏切った! だから、オレは貴様にもう一度言おう!」
その一言を言われ、傷ついたリクシアは。
危うく魔物になりかけた。
その言葉が、再び。彼の口から発せられる。
「——お前なんて、最初から、仲間じゃなかった」
「違う!」
リクシアは跳ね起きて、叫んでいた。
「あなたは仲間だった! 私が最初に出会ったあの時から! 別れた日は、混乱していただけで!
最初から——仲間だったんだッ!」
「……起きたじゃないか」
アーヴェイが、にやりと笑った。
「アーヴェイ、すごい……」
「見直した」
フィオルとフェロンが、呆然とした顔でつぶやいた。
リクシアは、はっとなる。
「わ……わた……わた……し……」
叶わぬ夢にとらわれて。現実を見ようとしなかった。
力は回復したのに。待ってくれる人がいるのに。
夢に、おぼれて。悲しみに、おぼれて。
現実を、見ようともしなかった。
「ごめん……ごめんな……さい……!」
なんて愚かだったのだろう。また、フィオルとアーヴェイに笑われる。
——フィオルと、アーヴェイ……?
リクシアは何度も瞬きした。あれれ? おかしい。フィオルとアーヴェイとは、決別したはずだ。なのになぜ、ここにいるの?
「……目、おかしくなっちゃったのかな……」
「おかしくはないぜ」
言葉を声が否定した。
「アー……ヴェイ……」
「落盤事故があって道が通れなくてな。引き返すついでにここに寄った」
「兄さん素直じゃない……」
「素直だが?」
「今度は否定するわけね……」
そのやり取りを、微笑んで聞きながら。
「戻って……くれたんだ……」
「ああ。フェロンから話は聞いた。少しは成長したと思ったが、その様子じゃまだまだだな」
「……わかってるもん」
フィオルに会い、アーヴェイに会い。フェロンと再開し、「ゼロ」と戦って。
そのたびに、己の甘さを突き付けられて。
「……わかってる……わかってる……けど……」
今なら受け入れてくれる。そんな甘い考えは捨てたけど。
私はこの人たちが好きだから。
仲間として。友人として。好き、だから。
お願い。
「……私と……また、仲間になって……!」
「前置きせずにそう言え」
アーヴェイが、微笑んでいた。
「いいだろう。武器を奪われて、戦力が不足していたところなんだ。お前を仲間として、受け入れる」
「僕も忘れないでね」
「了解だ、フェロン」
ただし、と彼は、いたずらっぽく笑った。
「足手まといにだけは、なるなよ」
「————はいっ!」
リクシアは、強くうなずいた。
嬉しかった、心から。
また、彼らと一緒に旅ができることが。
わだかまりもなく、話せることが。
あの日。あの、別れの日以来。心にくすぶっていた黒い後悔。
それが今、溶けだして。春の清流となって心を下っていく。
——よかった。
ほっとして、微笑めば。落ちてきた瞼。
「リア!?」
驚いたようなフェロンの声。今度はそれに、しっかりと返す。
「疲れたの。今度はちゃんと、起きるから、さ……。あとでご飯、持ってきて?」
今はちょっと眠たいだけ。大丈夫、すぐに起きるから。
「……つくづく、兄さんもお人よしだよねぇ」
「困っている人をほっとけないだけだ」
「それをお人よしというんだよ!?」
コントみたいな掛け合いを聞きながらも、リクシアは微笑みながら眠りに落ちた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
副題は「リクシア、目覚める!?」です。久々に天使と悪魔を登場させたら、この人たちの掛け合いがなんと、コントなんですわ。書いてて笑いました。どうしてこうなった。
えー、ようやく目覚め、コント兄弟とも再会した眠り姫。次の展開はどうなるんでしょう。お楽しみに。
※ホントはアーヴェイ、お人よしでもボケキャラでもなく、もっと格好いいキャラだったはずなんですが……。(Ep2〜6参照)書いていたら、自然とこうなりました。繰り返し言う。どうしてこうなった!
……お粗末さまでした。
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep12 迫る再会の時 ( No.15 )
- 日時: 2017/08/08 08:30
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「じゃ、また、フロイラインに行くの?」
目覚めてから一週間。ようやく身体の機能を取り戻したリクシアは、戻ってくれた仲間たちに、そう訊いた。今回はフェロンもいる。
その問いに、フィオルがうなずいた。
「うん。落盤事故があったから遠回りして目指すんだけど、その前に」
アーヴェイが言葉を引き継ぐ。
「——リュクシオン=モンスターが、出たぞ」
「——えぇっ!?」
「————!」
隣では、フェロンもまた、盛大に驚いていた。
己の犯した過ちにより、魔物と化した、リクシアの兄。
取り戻そうとして、その方法を、探していた。
「ど、どこにっ!」
「この近辺らしいよ。ウィンチェバルの王宮魔道師の徽章をつけてたって。狂ったようにローヴァンディアを攻めていたのに、不意に戻ってきたらしい」
ローヴァンディア。それは、あの戦いの日。ウィンチェバルに攻め入っていた国の名前。
かつては兄はそこにいた。そこを狂ったように攻めていた。わずかに残った残留思念が、「ローヴァンディアは敵」と思い込ませ、そんな行動をとらせる。
——なのに。
「……その兄さんが、この近辺に現れた!? 回復そこそこに何なのよもう!」
ただでさえ、「ゼロ」との問題があることだし。頭が痛くなってきた。
「兄さんには会いたいけど……まだ、何の準備も整ってないよ!」
魔物を元に戻す手掛かりすらないのに。こんな状況で再会したって、何ができる——!
「殺しちゃいけないんだよね?」
「おい、フィオル、それは当然だろ——」
「いいから。……殺しちゃいけないんだよね?」
アーヴェイの言葉をさえぎって。天使の瞳がリクシアを射抜く。
リクシアはその視線をしかと受け止めて、うなずいた。
「殺さないで。兄さんなの」
「わかった」
フィオルは首肯する。
「じゃ、今回は兄さんは下がってて」
「……フィオ?」
「兄さんばっかりが傷つく必要なんてないんだ。僕だって戦える。それに——」
現実を、突き付けた。
「『アバ=ドン』のないままで戦うなら、兄さんは悪魔になるしかない。でも、悪魔になったとして。相手を殺さずに戦えるかな?」
「……そういうことか。承知した」
あと、フェロンさんも、駄目だから、と彼は言う。
「……なんで僕まで」
「あなたは剣士だ。剣士は完調でないときに、強敵と戦うべきではないよ。それじゃあ命取りだって、解ってる?」
「じゃあそっちはどうなのさ」
「僕? 僕は完調だよ。それに僕だって、近接武器は扱えるさ。遠方攻撃はシア、近場は僕。リュクシオン=モンスターがこの町を襲わないようにかつ殺さないように、ギリギリで撃退する」
言って彼は、どこからか、三つ又の銀色の槍を取り出した。
「これが僕の武器。聖槍『シャングリ=ラ』だよ」
楽園を意味する名をもつそれは、確かに天使によく似合っていた。
ということは。
リクシアははっとなる。
「……兄さんと戦うの、私とフィオルしか、いないの——?」
「不満?」
「いえ、そうじゃなくって……」
災厄と化した兄さんに。たった二人で挑むのか。
「不安なの?」
フィオルの言葉に、うなずいた。
そんなこと、と彼は苦笑いして、優しく言った。
「自分を信じれば、済む話じゃないか」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
……ハイ、藍蓮です。どうしてこう、急展開になるんだろう……。
いえ、普通に書こうとしたんですよ? でも、私はファンタジー世界でも、日常が苦手のようです。平穏終わるの早っ! もっと休めよみんな! ……急展開ですみません。
このままだと、一体何話で終わってしまうのだろうか、とか思いながら書いてます。続編案すでにあるし。
まぁ、こんな藍蓮ですが。
次回作に、ご期待下さい。
ただいま決戦前夜! 再会の行方は——?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
追記 閲覧数がもうすぐ100になるということなので、記念としてまた、単発短編書きます。リク依頼・相談掲示板の方に「閲覧数100間近! 「カラミティ・ハーツ」エピソード受付中!」というスレを立てましたので、書いてほしい話などあったらそちらにお願いします。
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep13 なカナいデほしいから ( No.16 )
- 日時: 2017/08/08 14:17
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
みなさん、ありがとうございますッ!
「カラミティ・ハーツ」もついに、閲覧数100…………!
藍蓮、とても感激しています!
本当は閲覧数100記念でまた短編を作りたかったところですが、リクエストが今のところないので本編を進めます。
ホントに、どうもありがとうございました!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
この町を北に少し行ったところに、小さな丘がある。
そこに、「それ」がいた。
リュクシオン=モンスター。大召喚師のなれの果て。
胸元にあるボロボロの徽章は。確かに彼のものだった。
「……お兄ちゃん……」
呟いてみても、何も言わない。怪物はただ、その場にたたずんでいるだけだった。
「追い払う。でもね、シア」
フィオルが真剣なまなざしで彼女を見た。
「追い払う、のはいいけど……。元は兄さんだったとしても、こいつは怪物なんだ。そのままにしたらまた誰かが死に、怪物がどんどん増えて行くんだよ」
君は一人だけのために、多くの命を犠牲にしてる、と、彼は現実を突き付ける。
「まぁ、僕らだって人のことは言えないんだけど、さ……。殺さず生かすということは、他の誰かを殺すこと。僕らは変わり果てたあの人を撃退するたびに、そのことを胸に刻んでる。それに……彼は魔物だから。君じゃない他の人に倒される可能性だって、あるんだ」
魔物になったら、元に戻せないのが当たり前。それをゆがめようとしている私たちは。他の人の思いを踏みつけにしてまで自分の思いに忠実な、私たちは。
「知ってる……。咎人、なんだ」
それを意識し、前を見据えた。
変わり果てた兄は、悲しげに突っ立っていた。
と。
突然、リュクシオン=モンスターは咆哮を上げた。狂ったように、こっちに向かってくる。
「来る!」
「わかってる!」
リクシアは呪文を早口に唱える。フィオルが「シャングリ=ラ」を取り出し、リクシアを守るように前に立つ。
「出てって、お兄ちゃん! ここは私の居場所なの! 壊そうとしないで!」
風が、辺りに巻き起こる。リクシアの白い髪がざわざわと揺れた。
「彼方吹きゆく空の風! 今舞い降りよ。彼の烈風!」
——傷つけ、たくはなかったのに。
「仇なすものを斬り断ちて、めぐりめぐれよ、渦を巻け!」
グァァァアアアアアアア! すさまじい勢いで振りかぶられた爪を。
「くうッ……!」
フィオルの細い身体が受け止める。
途端、巻きあがった烈風は。
「ティアー・ウィンド!」
Grrrrrrrrr!
叫ぶ魔物に襲いかかり、皮膚を幾重にも切り裂いた。
魔物の目が、リクシアをとらえる。怒っている。自分を傷つけた相手に対して。
意思もない、理性もない、何もない。暗くよどんだ青の瞳が、怒りを宿してリクシアを見る。
「出て行って! 出て行きなさい、お兄ちゃん! 出て——」
「シア、危ない!」
「グァァアァルルルルル!」
「——えっ?」
リクシアは、包まれていた。温かく、がさがさした、腕に。
——魔物の、腕に。
「うぐぅッ!」
フィオルの苦しそうな声。何があったかはわからない。
声が、した。
「あらいやだ。魔物のくせして。他の誰かを守るなんて、ねぇ」
それは、「ゼロ」を飼っていた、妖艶な女の声。
「出して!」
叫べば。腕はあっさりとリクシアを開放していた。
そして見たのは。
脇腹から血を流し、うずくまるフィオルと。
二本の剣を、リュクシオン=モンスターとフィオル。両方に向けていた、女の姿だった。
「フィオル!」
叫んで近寄ろうとするが、リュクシオン=モンスターが引き戻す。
「放して、放してえっ! お兄ちゃん、フィオルが死んじゃう! 放してようっ!」
魔物となり果てた兄は女を睨み、暴れる妹を抱いたまま、動かない。
女を警戒しているようだ。
それを見、女はつぶやいた。
「両方とも、ひと思いに殺してやろうと思ったのに。天使は反応素早すぎるし、魔道師ちゃんは魔物が守るし……。魔物には、意思なんてないって思っていたのに……。見当違いかしら、ねぇ」
薄く笑って。
「じゃぁ天使ちゃん。これ、貰って行くわねぇ」
投げ出された「シャングリ=ラ」を拾おうと手を伸ばした。
「やめ……ろ……!」
フィオルの苦しそうな声。
「やめてぇぇっ!」
リクシアの叫び。
すると。
「ガァァァアアアアアッッッ!」
リクシアを放り出した怪物の腕が、女を一直線に薙いだ。
「お兄……ちゃん……?」
意思も、理性も、何もかも。無くなったはずなのに。
壊れたような、声が言うのだ。
「いモウとの……タいセツなモの……キずツケさセなイ……!」
「お兄ちゃん!」
「ダかラ……なカナいデ……おクレよ……!」
召喚、された。もう大召喚師ではなくなった兄から。
天使が、精霊が。たくさんの妖精たちが。
どうして? 魔物になり果てて。意思も想いも、なくしたはずなのに。
わずかに残された残留思念が、奇跡を起こした。
「魔物の……くせにッ!」
叫ぶ女。人外に追われ、あわてて逃げだす。
リクシアはそのさまを、呆然と見ていた。
「お兄……ちゃん」
リュクシオン=モンスターは、首をかしげて妹を見て。
「サヨうナら」
それだけ言い残し、女を追って、歩き出した。
腕。あのとき、守ってくれた、腕。
リュクシオン=モンスターは、怪我をしていた。その大きな腕に。
リクシアを、守ったから。守って代わりに、怪我をした。
(どうして……?)
もしも兄さんに、意思が残されているのなら。
純粋な敵として、戦えないじゃないか。
守ってくれた、腕。
魔物になっても。
兄さんは兄さんだったのだと、知って。
(私は……どう、すれば……?)
その時、フィオルの姿が目に入った。
「フィオル!」
あわてて駆け寄ると、少年は苦い笑みを見せた。
「油断した……」
「そんなのどうでもいいから! 傷は!? 大丈夫? 歩ける!?」
白い天使は、脇腹を押えながらも、片手だけで「シャングリ=ラ」をつかみ、それを支えに立ち上がる。
リクシアは衣を引き裂いて、即席の包帯にして、そっと傷に巻きつけた。
「私じゃこれくらいしか……」
「……構わない。ありがとう。……肩、貸してくれる?」
「ええ、もちろん」
言ってリクシアは、フィオルの怪我をしてない側の肩を支えた。フィオルが手をさっと振ると、「シャングリ=ラ」は、一枚の白い羽根となって、その手に収まった。
「……便利」
思わずつぶやくと。少年は、優しくほほ笑んだのだった。
さあ、帰ろう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
またまた急展開……って、もうこれは定番ですから、ほっといて下さいな。
リュクシオン=モンスターと再開したリクシア。そこで驚くべき行動をとった兄。
果たして「魔物」とは一体何なのか? そして、執拗にリクシアたちを狙う謎の「女」の正体とは?
謎の増えてきた「カラミティ・ハーツ」。話はまだまだ続きます。
次回をご期待下さい。
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep14 天魔物語 ( No.17 )
- 日時: 2017/08/08 17:16
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「フィオル!? 無事かッ!」
「兄さんも過保護だねぇ……」
帰ってきたら、開口一番。アーヴェイの声が飛んできた。
◆
「……というわけなの」
とリクシアは締めくくった。
フィオルの応急手当も終わり、今、皆は宿のある部屋に集まっている。
「参考までに聞きたいのだけれど。フィオル、アーヴェイ。あなたたちの大切な人は、兄さんみたいになったことある?」
アーヴェイは首を振る。
「ハーティはそうはなら……いや、こっちの話だ」
「ハーティ? その人が、あなたたちの……」
「義理の母なんだ」
少し昔の話をしようか、と彼は言った。
◆
ずっと昔。二人は捨て子だったらしい。初めにフィオル、次にアーヴェイ。その順に、とある女性に見つかった。
女性の名はハーティ。茶髪に明るいオレンジの眼の、心やさしい女性だった。
彼女は捨てられた二人を良く育て、具合が悪くなったら医者に見せ、欲しいものがあったなら、よく吟味して買ってやった。教育にも熱心で、家事も非常にうまかった。
彼女のもとで、フィオルもアーヴェイも。まるで兄弟のようにして育ち、「当たり前」を謳歌した。
しかし、平穏は長く続かない。それは、ある日のことだった。
「……嘘……」
ある手紙を読んで、彼女はくずおれるようにして泣き伏した。
「義母さん!?」
ハーティには、遠く離れた恋人がいた。その人は彼女の幼馴染で、フィオルもアーヴェイも、一度はその人に会ったことがあった。
その日、届いたのは。その手紙は。
——その人の訃報。
ハーティは獣のような声をあげて、咆哮した。それは、魔物になる予兆。
「ハーティッ!」
あの日、あの時。悪魔の力を解放すれば、止められたかもしれないのに。
駆け寄ったフィオルとアーヴェイは、振り上げた手に殴り飛ばされた。
「義母さんッ!」
魔物になっていく、育ての親。止めたいのに、止められなくて。
「ウォォォォオオオオオオオオオオ!」
狼のように遠吠えを一つ。
そしてハーティはいなくなった。
◆
「……簡単にまとめれば、こうなる」
アーヴェイがそう締めくくった。
「あれから何回か、ハーティ=モンスターに会った。一回はフィオルが死にそうになったことさえある。でも、彼女はリュクシオン=モンスターみたいにはならなかった。思うに……」
「リアはリュクシオンにとっての一番だったが、あんたたちはハーティにとっての一番じゃなかった。ハーティにとっての一番は、その恋人だったから……ということだろう。あんたたちにとって、ハーティが一番ではないように。あんたたちにとっての一番は……互いの存在だろうから」
割り込むようにし、フェロンが言葉を引き継いだ。
つまりは。
「魔物になった人があんな行動をとるのは、対象がその人の一番だったって場合だけ……?」
「そうみたいだな。よって僕の場合、リュークに会って生き残れるかはわからない」
「そうなんだ……」
語られたのは、一つの物語。
天使と悪魔が、花の都を目指した理由。
「……魔物、か」
呟いて、リクシアは、今はいない兄に思いを馳せるのだった。
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