ダーク・ファンタジー小説

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【不定期更新……】カラミティ・ハーツ 1 心の魔物
日時: 2017/09/17 14:49
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 目次(随時更新)
(章分けをし、一部形式変更)

第一章 始まりの戻し旅 >>0>>3-7

Ep1 心の魔物 >>0
Ep2 大召喚師の遺した少女 >>3
Ep3 天使と悪魔 >>4
Ep4 古城に立つ影 >>5
Ep5 醜いままで、悪魔のままで >>6
Ep6 悔恨の白い羽根 >>7


第二章 訣別の果てに >>8-11>>14

Ep7 ひとりのみちゆき >>8
Ep8 戦いの傷跡 >>9
Ep9 フェロウズ・リリース >>10
Ep10 英雄がいなくても…… >>11
Ep11 取り戻した絆 >>14


第三章 リュクシオン=モンスター >>15-17

Ep12 迫る再会の時 >>15
Ep13 なカナいデほしいから >>16
Ep14 天魔物語 >>17


第四章 王族の使命 >>18-25

Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」>>18 
Ep16 亡国の王女 >>19
Ep17 正義は変わる、人それぞれ >>20
Ep18 ひとつの不安 >>21
Ep19 照らせ「満月」皓々と >>22
Ep20 常闇の忌み子 >>23 (※長いです)
Ep21 信仰災厄 >>24
Ep22 明るいお別れ >>25


第五章 花の都 >>26-36

Ep23 際限なき狂気 >>26 (※長いです)
Ep24 赤と青の救い主 >>27
Ep25 極北の天使たち >>28
Ep26 ハーフエンジェル >>29
Ep27 存在しない町 >>30
Ep28 善意と掟と思惑と >>31
Ep29 剣を取るのは守るため >>32 (※長めです)
Ep30 青藍の悪夢 >>33 (※非常に長いし重いです)
Ep31 極北の地に、天使よ眠れ >>34 (※長めで重いです)
Ep32 黄金(きん)の光の空の下 >>35
Ep33 忘れえぬ想い >>36


第六章 動乱のローヴァンディア >>37-49

Ep34 予想外の大捕り物 >>37
Ep35 緋色の逃亡者 >>38
Ep36 帝国の魔の手 >>39
Ep37 絡み合う思惑 >>40
Ep38 再会は暗い家で >>41
Ep39 悪辣な罠に絡む意図 >>42
Ep40 鏡写しの赤と青 >>43
Ep41 進むべき道 >>44
Ep42 想い宿すは純黒の >>45
Ep43 それぞれの戦い >>47
Ep44 魔物使いのゲーム >>48
Ep45 作戦完了 >>49


第七章 心の夜 >>50-55

Ep46 反戦と戦乱 >>50
Ep47 強制徴兵令 >>51
Ep48 二人が抜けても >>52
Ep49 嵐の予感 >>53
Ep50 Calamity Hearts >>54 (※非常に長いし重いです)
Ep51 明けの見えぬ夜 >>55


第八章 時戻しのオ=クロック >>56-

Ep52 巻き戻しの秘儀 >>56
Ep53 好きだから >>57


 はじめまして、藍蓮と申します。ファンタジーしか書けない症候群です。よろしくお願いします。
 あるゲームのキャラクター紹介から想を得た、設定はそこそこ作ったとある物語の、プロローグを掲載しました。続く予定です。
 それではでは。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。

「魔導士部隊、位置に着け!」
 高らかに響くラッパの音。リュクシオンは隣を見た。
「ついに来ましたね、この時が」
「ついに来たな、総力戦が」
 彼の隣に立っているのは、この国の王。王は難しい顔をして、リュクシオンに言った。
「リューク、いけるな?」
「はい、あと少しで準備ができます。しばしお待ち下さい」
「頼りにしてる」

 この国、ウィンチェバル王国は、小さい割には資源が豊富だ。ゆえに、これまで多くの国々から狙われ、侵略されてきた。それをすべて退けられたのは、ひとえにこの国の魔導士部隊のおかげである。
 それなりの侵略ならこれまで何度かあったが、今回のは規模が違う。
 まだ肌寒い季節だ。リュクシオンはマフラーに顔をうずめながらも、考える。
 (よりによって、ローヴァンディア、あの大帝国だと? 桁が違う。だからこそ、僕は……!)
 願った。「力を」と。状況すべてを打破する力をと。何もできない自分が嫌で。国が侵略されていくのを、見ているだけしかできなくて。その思いは日増しに強くなり、内側から彼を苛み続けた。
 そして、その願いは、叶った。理由はわからない。ただ、ある時から急に、召喚術が使えるようになった。
 リュクシオンは神を信じない。信じても無駄。助けは来ない。そんな世界に生きてきたから。
 しかし、彼に起きた奇跡は。何もできなかった彼が、急に「力」を手に入れた理由は。神の御業というよりほかになかった。

 そして今、彼はここにいる。その力を見初められ、王の側近として、ここにいる。力がなければ、決して昇りえぬ地位に。望んでこそいなかったが、決して悪くは無い地位に。
 ——だから、利用させてもらうよ。
 この状況を打破できる、唯一無二の召喚術。国を守るために過去の文献をあさり、そして見つけた、とある天使の召喚呪文。
 それの発動には、長い長い準備が要った。リュクシオンは寝る間も惜しんで準備し続け、ついに、術の完成が迫る。
 ——国を守りたい。思いはただ、それだけなんだ。
 そして——。
 
 太陽が、月に食われた。

 日食だ。しかも、皆既日食だ。昼の雪原はあっという間に闇に閉ざされ、凍える寒さが人々を打つ。
「——今だ!」
 リュクシオンは声を上げた。突き出した手に、集まる魔力。
 皆の視線が、彼に集中する。
「現れよ——日食の熾天使、ヴヴェルテューレ!」
 神の域にさえ達したとされる究極の天使が今、リュクシオンの「仕掛け」に導かれ、彼の敵を滅ぼすため、外へと飛び出す——!
 が。

 ——崩壊は、一瞬だった。

「あれ……うそだろ……」
 白い、白い光が視界を埋め尽くした。天使はこの世に顕現した。そこまでは構わない。
 だとしても。
 ——この、目の前に広がる無数の死体を。一体どう説明すればいい?
 見知った顔。あれは魔道師のアミーだ。あっちは友人のルーク。
 ——さっきまで隣にいた、リュクシオンの王様。
 みんなみんな、死んでいた。敵味方の区別なく。リュクシオン以外、皆殺しだった。死んだその目には恐怖の色があった。
 ——国が、滅んだ。守ろうと、あれほど力を尽くした国が。リュクシオンの王国が。守りたかった全てが。
 リュクシオンの、積み重ねてきたすべてが。
 存在意義が。
「……あ……嗚呼……ぁぁぁぁ嗚呼ああ嗚呼あ!」
 地にくずおれ、獣のように咆哮する。
 ——天使は、破壊神だった。
 確かに相手も全滅したが、彼が望んだのはこんなことじゃない。こんなことなんかじゃ、ない。
 平和を。愛する国に平和を。そう、心から思っていた。だからこそ、力を望んだ。愛するものを、国を、守る力を。
——コンナコトジャナカッタ。
 絶望に染まる召喚師の頬を、涙が伝った。赤い、紅い、赫い。血の色をした、絶望の涙が。
「ア……アア……ァァァアアアアアアアアアア!」
 壊れた機械のような声とともに、彼の世界は崩壊した。
「ァ……ァぁ……ァぁァぁァぁァぁァぁァ…………」
 その身体が、闇色の光とともに、変化していく。
「ァ……ぁ……」
 背はこぶのように盛り上がり、体中から毛を生やしたそれは。もはや人間ではなかった。
「……ァ……」
 幽鬼のようにのっそりと動き出したそれは、魔物そのものだった。
 その瞳に、意思は無い。理性もない。何もない。
 そのうつろな姿は、大召喚師のなれの果て……。

 ——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。

 王も貴族も召喚師も。なんびとたりとも例外は無い。
 ひとたび心が闇に落ちれば、一瞬にして、魔の手は伸びる。
 そして魔物となった者は、己の死以外ではその状態を解除できない。
 これまでもあった。そんな悲劇が。魔物となった大切な人を。自ら手に掛ける人たちが。
 悲劇でしかない。ただ悲劇でしかない、この世界の絶対法則。

 ——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ……いきなり大変なことになっていますが、まだ続きます。次の舞台は移って、この国の外になります。魔物となったRも今後、深く関わっていきます。よろしくお願いします! 〈続く〉

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep25 極北の天使たち ( No.28 )
日時: 2017/08/14 00:11
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 どーも、藍蓮です。
 帰省するので、14日昼〜17日夕まで更新できません。
 すみません、よろしくお願いいたします。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「おーい!」
 声がした。アルフェリオは声のした方に首を向ける。
「リル。何とかなったのかい?」
 赤い天使が、青い天使の前にふわりと着地した。
 うん、と彼女は言う。
「でも、なんか、さぁ。なんか、変だったのよねぇ」
「言いよどむなんてリルらしくないね。何かあったのかい?」
「……凄絶な、戦いの痕跡が、あったの」
「……そうかい」
 アルフェリオは、少し考え込むような顔をした。
「ねぇ、リル。私をそこに、連れて行ってくれないかい?」
「今はだめ。怪我人の収容が先でしょ。……って、アル、その子の治療は?」
 リルフェリアは、眠ったリクシアを指し示した。アルフェリオはうなずいた。
「私がやっておいたよ。で、怪我人の収容? どうだかなぁ。みんな、許してくれるかなぁ」
 彼は、知っている。
 自分がこれから帰るところが。余所者に厳しいことを。
「というか、そもそも怪我人は何人だい?」
 問えば。
「三人よ。でも、そこのお譲ちゃんとあんたを含めれば五人」
「私は怪我人じゃないよ?」
「まともに歩けない人は怪我人なの。飛ぶことだってできないくせに」
「これは生まれつきなんだからつべこべ言わない。でも、リルだけじゃみんなを運べないね」
 どうしよっか、と言いかけたら。

「呼ばれて飛び出てズドドドドーン! 緑の天使をご用命かい?」
「……用があるならそう言え」
「お困りですかー? お助けしますー!」

「……なんでそんなにタイミングよく出てくるの君たち」
 双子の天使仲間が。緑のラーヴェル、黒のヴァンツァー、黄のリリエルが、そろって現れた。

  ◆

 で、必然的に。遅いが動けるアルフェリオが、残されることになった。リルフェリアは心配げな顔をしていたが。アルフェリオだって戦える。
 動かない足を必死に動かし。「里」の方へと歩いていく。
 運ばれてきた「リクシアの仲間」は、どこか、魔物の匂いがした。
(魔物にやられたんだろうねぇ)
 それも、かなり強めの奴に。
 記憶を呼び起こしながらも。小さな森の中を歩いた。

  ◆

「状況はよくわからねぇけどさ」
 話を聞いて。空を飛びながらも、緑のラーヴェルは首をかしげた。
「ま、とりあえずは。余所者が入れるように取り計らえってことかい?怪我人収容するために」
 でしょうねー、とリリエル。
「みんなが目覚めてくれなきゃ、わかるものもわかりませんけどー」
 そもそもアルが、リクシアちゃんを助けたのが悪い、とリルフェリアが愚痴をこぼす。
「なんか、大事に巻き込まれたよーな気分なんですけどー」
 ヴァンツァーはどう思うわけ? と黒い天使に話題を振ってみると。
「俺は知らん」
 あっさりと返された。
 リルフェリアは口をとがらせる。
「はいはい別にいーですよーだ。ヴァンに聞いても意味ないし!」
「……それをわかって訊いたのならば、お前は天性の馬鹿だぞ」
「はいはいはい! 聞こえなーい!」
 耳をふさごうとするが、リクシアを背負っていたことを思い出してやめる。

 やがて見えた、小さな里。極北の地の、小さな里。
「さ、降下準備!」
「わかってるての!」
「行きますよーぅ」
「……落下」
 そこへ。ゆっくりと翼をたたみつつ、四人の天使が舞い降りる。
「で、待っているのも癪だから」
 リルフェリアはリクシアを下ろすと。
 再びその翼を広げた。
「リル? 抜け駆けすんのかこら!」
「しないってば! アルを迎えに行くんだよ!」
 ラーヴェルの憤慨した言葉に答えて。
「ってことで、待っててね!」
 再び、飛び立った。

  ◆

 アルフェリオは、短剣を構えていた。
「これ以上近づくなら……実力行使もいとわないけど」
 そんなことを言っている割には。
 つうっと流れおちた汗。
 対峙するは、異形の女。異形の足で、身体を支えて。
 片手にレイピアを携えて。狂ったように、一歩、また一歩。
(困ったなぁ)

 戦いが、起きようとしていた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 天使たちの話その2。主人公勢が意識不明なので、メインメンバーはお留守です。赤青天使の旧知らしい、緑、黄、黒の天使まで出てきてにぎやかに。
 次こそはみんなを目覚めさせたいです。
 帰省のために更新ペースは遅くなりますが、これからもよろしくお願いいたします。

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep26 ハーフエンジェル ( No.29 )
日時: 2017/08/17 18:41
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 お久しぶりです藍蓮です。
 帰ってきたので再開しまーす!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 狂ったような異形の女。アルフェリオは、彼女の正体を知っていた。
 策略にて、人を魔物にする。権謀術数の魔性の女。
「『偽りの女神』が……。落ちぶれたものだよね」
 構えた短剣の先は、細かく震えていた。
 余裕がないのは確かだけど。戦わなければ死んでしまうから。
「キエエエェェェッ」
 飛びかかってきた異形の女を。腕の剣で、なんとかいなす。
「手加減なんて……してくれないよねっ」
 呟き、剣に特殊な呪文を乗せて、異形の女に放とうと身構えた。
(これをやったら……正直、身体が保つかどうか。でも、仕方ないよね。戦えない僕にとっては。これしか生き残るすべがない……)
 
 アルフェリオは、ただの天使ではないのだ。

 リルフェリアの、双子の兄。水に愛されし青き天使。
 それは、表の顔にしかすぎなくて。

 その裏には。闇に愛された、暗く黒い悪夢の申し子の姿が、あった。
 普段、戦えないのは。闇の力の代償で。
 ひとたび本気を出せば、百の軍勢でさえ一人で倒せるほど強いけど。
 一度、そうなったら。彼の身体は深い深い闇に侵され。天使でいられなくなる可能性すらあった。
「でも……仕方な……」


「——仕方なくない!」
 

 と。

 天から舞い降りた赤い稲妻が。
 異形の女を、手にした剣で。
 刺し貫いた。

「……リル」
「来て大正解! もう、アルったら! 勝手に死んだりしないでよぅ!」
「……死んじゃあいないけど」
「死にそうだったくせに何言ってんのよアンタは! とりあえず、あたしにつかまって! みんなの待ってるところまで飛ぶわよ!」
 叫び。倒した異形の女には見向きもせずに。
 リルフェリアは、アルフェリオに背中を差し出した。
「乗って!」
「……いつもごめんねぇ」
「そんなの気にしない! さあ!」
 赤い翼が、大きくはばたく。
「みんなが待ってる! いくわよ、さぁ!」
 どこまでも前を見据える真っ直ぐな瞳は。
 仲間の待つ、村の前を目指した。

  ◆

「……う……」
 フィオルは、明るい光で、目を覚ました。
 知らない所だ。あの戦場ではない。リクシアが助けてくれたのだろうか?
 身を起こそうとするが、どうも力が入らない。
 ちなみに、今寝ている場所は。どこかの土の上らしい。
 どうしようか、と思った。これでは状況がわからない……。
 と。
「あら、目覚めましたかー?」
 ふわふわとした、声がして。
「おっ? 誰よ誰よ? って、天使さん?」
「……外見で人を判断するな。まだ、天使と決まったわけじゃない」
 他の声が、そのあとからやってきた。
 フィオルの眼に映るのは。色とりどりの天使たち。

 ——天使、たち。

 出会っては、いけない人たち。
 フィオルと、アーヴェイにとっては。
 フィオルの生まれにまつわることで。

(まずい……よりによって、天使だって? シア、相手を選んでくれる?)
 事情を説明しなかった、こちらも悪いか。
 どうしよう。

「あのー。お名前、伺ってもいいですかー? あと、天使みたいな見た目ですけど、あなたは天使なんですかー?」
「知りたい知りたい」
「……俺は知らん」
 天使たちが、名前を訊いてくる。僕の名は一部の人の間では有名なんだ。だから偽名を名乗ろう。と、言ったって……
(事情を知らないシア達は、僕のことを本名で呼ぶだろうし)
 ならば、真実を明かした方が、下手に疑われないで済むか。
 どうせ、今は動けないんだ。もう、どうにでもなれ。

 フィオルは軽く身じろぎをした。
 すると。
 現れる、純白の翼。
 天使の血を引く者の証。

「あなたは……」
 驚いたような、黄色天使の声に。
「ハーフエンジェルのフィオル。……聞いたことない? 僕の本当の父親……大罪人ウォルクのことを」
 書物で知った、自分の生まれ。父親は、天使族の仲間を金で売った、ある大罪人。
「僕はその息子だよ……」
 だから、だからこそ。他の天使には会いたくなかった。大罪人の息子だから。ひどい目にあわされると、思いこんでいた。

 しかし、現実は違ったのだった。

「あららぁ。そんなことを気にしてらっしゃったのですかー? 他の天使さんたちは違うかもしれませんが、私たちは例外なので! 異常種なのでー」
「自分でそれを言うかリリエル……。ま、おれたちゃ他の天使みたいにお堅くねーもんで。そんなに気張らなくたっていーんだぜ? ちなみにおれの名はラーヴェル。ハーフエンジェルかぁ……。よろしくな!」
「気にしすぎだ。……俺はヴァンツァー。大罪人なんて知ったことか。言い方は悪いが、関係ない俺達には対岸の火事だ」

 すべて、フィオルの思い込みだった。
 ここの天使たちは、こんなにも親切で。
(あーあ、いつもの警戒心なんていらなかったんだね)

「……ところで、ここって?」
 気になることを訊いてみたら。
 ヴァンツァーが冷静に返す。
「存在しない町だ」
 その次に彼の言った言葉は。フィオルの想像と理解を超えていた。







「花の都フロイライン、と呼ぶ者もいる」







◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 最近スランプ中の藍蓮です。内容浮かばんわ。
 というわけで、前から考えていた急展開をぶち込みました。しっちゃかめっちゃかな駄文ですね今回の話は。
 正直、この低クオリティで投稿していいのか不安になりますが、ブランクがあったので一気に投稿。駄作ですみません次はちゃんとやります。

 明かされた町の名前。その正体は——
 続きます。次こそは主人公を目覚めさせたいです。

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep27 存在しない町 ( No.30 )
日時: 2017/08/21 09:33
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「——フロイラインだって!?」
 
 フィオルは思わず叫んでいた。それにヴァンツァーが答えようとする。と。
「みんな……無事……?」
「……生きてたな」
「……リア……は……?」
 これまで眠っていた三人が、目を覚ました。
 そして。
「ただいまーっ!」
「やぁ、みんな」
 赤と青の天使も、戻ってきた。
「……天使? これは、なんだ?」
 アーヴェイは、失われた右腕の跡を見ながら疑問を口にした。
 ため息をつき、フィオルは。これまであったことを語ったのだった。

  ◆

「花の都フロイラインが、あの町なの……」
 先に広がる町を見て。呆然とした顔で、リクシアが問うた。
「そうさ。あそこが花の都。君たちはそこを目指していたのかい?」
 アルフェリオの言葉に。リクシアは力なくうなずいた。
「兄さんが魔物になって。で、それを戻そうとして」
「無理だね」
 にべもなく返された、非情な言葉。
「あそこは『存在しない町』なんだから。何の記録も残っていないさ」
「……訊いてもいい?」
 フェロンが会話に割り込んできた。
「あなたたちは、あの町を『存在しない町』と呼んでいるけれど。どういう意味?」
「そのままの意味ですよー」
 のんきそうに、リリエルが言った。
「あの町は、『存在しない町』なんです。地図にもないし、人目にも触れない。そしてそこに住むのはそもそも、人間じゃない——」
「天使の町なんだぜ? ゆえに、人間にとっちゃあ存在しない町、なんだってワケ」
 ならば、とアーヴェイが口を挟んだ。
「あそこが存在しない町だってのはわかったが、ならばどうして。魔物が元に戻らないんだ?」
「簡単だよ」
 だって僕らは——と、アルフェリオは皆を見た。

「天使だもの。あの時。魔物になったのは、天使だもの。だから僕らは、天使以外の戻し方なんて、知らないんだよ」

 ……リクシアは、驚愕した。
 人間だけではなく、天使だって。魔物になるということに。
 そして。
 ずっと追い求めていた花の都は、天使たちの町だったことに。
 ——これじゃあ。
 これじゃあ。
 兄さんを戻す方法は、見つからないの……?
 また。
 振り出しに、
 戻るのか。
 何もわからなかった、
 手探りの暗闇に……。

 襲ってきた絶望に、リクシアは両手で顔を覆った。
 私たちの長い旅は。無駄だったのだろうか。
 私たちの負った傷は、無駄だったのだろうか。
 振り出しに戻って。何もわからなくて。
 今こうしている間に。グラエキア達に、兄さんが殺されそうになっているのかもしれないのに。
 ——私は、私たちは。
「……これから、どうすれば、いいの……?」
「良かったら、来てみるかい?」
 アルフェリオが、優しく笑いかけた。
「私たちじゃあ君の助けにはならないかもしれないけれどさ。町に来たら、案外、あるかもしれないよ? 魔物を元に戻すためのヒントが」
 天使の町。存在しない町。
 しかし、魔物が元に戻った話のある、唯一の町。
「……行って、いいの……?」
「もちろんさ」
「待て、アルフ」
 ヴァンツァーが、片手で彼を制した。
「あの町は余所者に厳しい。彼女らを収容するのに、言い訳がいるが、考えたのか?」
「ああ、そうだねぇ。ヴァンに投げてもいい?」
「……俺は便利屋じゃないんだぞまったく……。フン。ならば、こんなのでどうだ? 『偽りの女神』ヴィーナが現れたと聞くが、それを利用しよう。彼女にアルフが襲われていたのを偶然、満身創痍のあなたたちが見つけ、アルフを助ける。だから俺たちは、その恩返しとしてあなたたちを助ける……。こんなシナリオなら、あるいは」
「いけるかもねぇ。これからも頼るねぇ」
「……たまには自分で考えろ」
 とにかく。話がまとまったようである。
「……じゃあ、行くの?」
 目の前の町。存在しない町。花の都フロイラインへ。
 期待はすんなよ、とラーヴェルが言った。
「天使ったって、そこまで御大層なものじゃねぇーんだ。生まれが特別ってだけで。実際その中身は、あなたら人間とそう変わらねぇーんだぜ?」
 リクシアはうなずいた。
 前を見据える。
 極北の地。花の都フロイライン。
 旅の最終目的地が、存在しない町が。
 あらゆるものを拒否するかのように、そびえていた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
 

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep28 善意と掟と思惑と  ( No.31 )
日時: 2017/08/20 12:02
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「あ〜らら、リルにアル! 今までどこ行っていたの〜?」

 町に入るなり、間延びした口調で、ピンクの翼の女性が出迎えた。
 しかし、その顔は。リクシア達の姿を見て、固まった。
「……ねぇ? その子たち、人間よね〜? なんで人間がこの町にいるのかしら〜?」
 ヴァンツァーが進み出て、先ほど考えていた言い訳を披露する。
 女性は首をかしげた。
「なら、アルはこの子たちに助けられたの〜?」
 アルフェリオは、苦笑いしながら答えた。
「ハハッ、不覚をとっちゃったんだよ……。私はあまり、動けないからさ」
「でも、余所者を町に入れるのは〜、ねぇ?」
「恩人なんだよ。それに、この町を目指して、ずっと旅していたんだってさ」
 女性は、いぶかしげにリクシア達を見た。
 リクシアはあわてて進み出る。
「あのっ! リクシア・エルフェゴールといいます! 魔物になった兄さんを元に戻すために、ずっと旅しているんです!」
「魔物……。でも、天使の町は関係ないわよ〜。ここは『存在しない町』ですもの〜」
「聞きました。でも、少しでも手掛かりが見つかればいいなと思って……」
「そうなの〜?」
 でも、それは置いといて、と女性は首を振った。
「あなたの言い分はよくわかったわ〜。文献とか、見せてあげるわね〜。助けになれれば嬉しいもの。でもね〜」
 柔らかな光を宿した桃色の瞳が。フィオルとアーヴェイを、射抜いた。

 二人の身体が、警戒で固まる。
 リクシアはまだ何も知らないけれど。フィオルの正体は——。




「大罪人の息子と、醜い悪魔は。お断りなのよ〜」




「————ッ!」

「フィオ!」
 その言葉を聞いた瞬間、フィオルは走り出した。治りきらぬ傷の痛みを無視して。ただこの場から逃げようと、一目散に。
 そして、後先考えなかった彼の逃げる先は。

「……あらら〜。殺されても文句は言えないわ〜」

 ——町の、奥だった。

 この、余所者を嫌う町の。
 フィオルの父を断罪し、処刑した、町の。

「フィオ!」
「フィオル!」
 走って追いかけようとしたリクシアとアーヴェイの腕を、ラーヴェルがつかんだ。
「落ちつけよ。ここで変な行動を起こしたら、てめーらも捕まるぜ?」
「でもッ、フィオはッ!」
「悪魔はもっと駄目なの。つーか、その見た目、もう少し何とかならねぇーの? こんなんじゃぁ、この町にゃぁ入れないぜ?」
「……話を整理していい?」
 リルフェリアが、顔をしかめてこめかみに手をやりながらも言った。
「まず、フィオルの正体がこんなに早くばれるってことがあたしの誤算。で、アーヴェイの見た目とか正体に気づかなかったのもあたしのせいよね。それで、正体を見破られたフィオルは動転して、町の奥に行っちゃった。……一応、聞くけど。シアラさんは、見逃す気なんてないんでしょ?」
 桃色の女性——シアラは、にっこりと、天使の笑みを浮かべた。
「犯罪者の息子ですもの〜。今度こそ、退☆治しなきゃあ、ね☆?」
 にっこりと笑いながら、そんなことを言うのだ。
 リクシアもアーヴェイも、気が気でなかった。
「で? 他の天使には黙ってくれる」「わけないじゃない〜」「……でしょうね」
 リルフェリアはため息をついて、他の天使たちに言った。
「ねぇ、あんたたち!」
 赤い瞳が、強い意志を宿して。
 炎の如く、光り輝く。


「——掟破りになる気が、ある?」


 彼女は無言で語る。この人たちを助けるには、掟破りになるしかないと。掟破りになったら、二度とこの町に戻れなくなる可能性がある。あなたたちはそれでもいいのか、と。

「言っとくけど、あたしは破るから。せっかく助けたんだ、最後まで面倒見なきゃ、後味が悪いったらない。他のみんなが嫌だと言ったって……」
「言うわけねぇーよ」
 ラーヴェルが笑った。
「おれだって、このままじゃ後味が悪ぃーよ。破るんなら一緒に破ろうぜぇー!」
 私もー、とリリエルが手を挙げる。
「皆さんのこと、好きですし!」
「……物好きな奴らだ」
 呟くヴァンツァーも、また、リルフェリアの側に着く。
「私だって破ろうか。第一発見者は私なのだしね」
 アルフェリオが、笑って言った。
 その様子を見て。不覚にも、リクシアの両目から、涙が溢れてくる。
「おーいおいおい、どうしたのよ?」
「……嬉しいの……」
 見ず知らずの私たち。極北の地に、迷い込んだだけの他人。
 なのに。掟を破ってまで、助けようとしてくれて。
「ありがとう……!」
「……あなたたちは、本当にいいの?」
 フェロンが首をかしげた。
「見ず知らずの他人のために……これまでの生活を棒に振るような真似をして……」
 その言葉を聞いて、リルフェリアはにっこりと笑った。
 何の悪意も込められていない、純粋な、善意だけの。
 
 天使の笑み。

「だってあたしたちは」
「周りとは違ぇーの」
「誇り高いのさ」
「異常種なんですー」
「物好きの集まりだからな」

 それぞれそう、つぶやいて微笑んで。
 微笑んだままのシアラに、それぞれの武器を向けた。





「「「「「だから、今、あなたに。宣戦布告する」」」」」





「あらら〜、なら、わたくしも〜。法の名において、あなたたちを断罪するわ〜」

  ◆

 善意と、掟と。
 様々な思惑の混じり合った、二つの種族の争いが、
 幕を開けた。

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カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep29 剣を取るのは守るため ( No.32 )
日時: 2017/08/21 11:22
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 4200文字……。
 長めです。読むときは余裕を持ちましょう。

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「「「「「だから、今、あなたに。宣戦布告する」」」」」

 向けられたそれぞれの武器。覚悟を決めた、十の瞳。
 シアラはゆがんだ笑みを見せて、彼らに細いレイピアを向けた。
「あらら〜、なら、わたくしも〜。法の名において、あなたたちを断罪するわ〜」
 でも、その前に、と、彼女は大きく口を開けた。
「みんな! みんな! 侵入者よ〜! 掟破りよ〜! 退治しなくちゃ、ね?」
 ……増援を、呼んだ。
「私たちも、戦わなくちゃ」
 うなずき、呪文の用意をするリクシア。
「行くぞ、悪魔」
「解ってるさ、傷痕」
 フェロンはいつもの片手剣を構え、アーヴェイは取り戻した「アバ=ドン」を腕一本で構える。右腕は——あの戦いで、無くなった。
 が。偽りの女神にやられた傷が痛むのか、皆、どこかをかばいながらで、本調子とはいえないようだ。
「本当はあんたらにあの天使さんの捜索を頼みてぇところなんだが……。そんな身体で行けんのか? こっちは大丈夫だからさ。こっちの援護よりかぁあの子の捜索を優先させるべきだぜ?」
 ラーヴェルが槍を構えながらも、肩越しに言葉を投げかけた。
「大丈夫だ、いける」
 アーヴェイが即答した。
「その腕で、大丈夫なんですかー?」
 心配そうにリリエルが問えば。
 アーヴェイはふっと悲しげな笑みを浮かべ、言った。
「……オレは、悪魔だから」
 残った左腕で、右肩に触れた。
 すると。
「…………!」

 現れる、真紅と漆黒の、異形の右腕。

 悪魔の、腕。

「この天使の町ではひどく目立つだろうが……背に腹は代えられない。醜くても、異形でも。オレは、構わないんだ。……大切な人を、守れるのなら」
 異形の右手に、「アバ=ドン」を握った。
 「アバ=ドン」に潜む破戒的人格が彼に囁きかけるが、それを圧倒的意志力で跳ねのける。
「大丈夫だ、いける」
 紅い瞳がリリエルを射抜いた。
 その力強さに、彼女はうなずいた。
「な、なら、頼みますよー」
「引き受けた。弟なんだ、当然だろう」
 『弟なんだ』と言う言葉に、一瞬彼女は何かを言いかけた。が、首を振って、
「幸運を祈ってます〜」
 そう声をかけてから、前を向いて。
 自分の得物——戦輪(チャクラム)を構えた。
 気づけば増援だらけになっている。急がなければ!
「お前ら、いけるな?」
 アーヴェイが、リクシア達を振り向いて言った。
「当然よ!」
「愚問だな」
 リクシアとフェロンがそれぞれ返す。
「ならば、行こう。町の奥へ!」
 大切な仲間を救うため。大好きな天使を救うため。
「死ぬんじゃないぞ!」
 三人は、三本の稲妻となって駆け出した。


  ◆


「ハアッ、ハアッ、ハアッ」
 走り続け、耐えられなくなって。フィオルはその場に倒れ込んだ。
 息がつらい。頭ががんがんする。
 こびりついて離れない言葉。

『大罪人の息子と、醜い悪魔は。お断りなのよ〜』

 バラされたくないことを、バラされた。
 だから、逃げたんだ。あの場所から。一刻も早く、そう思って。
「うう……ッ……く」
 今さらだが、激痛を伴って痛みはじめた傷。アーヴェイとやり合って
——アーヴェイに斬られた、深い、傷。
 天使たちは、応急措置は施したという。
 だが、あくまでも『応急』だ。完全に治っているわけではない。
 呼吸が荒くなる。額に脂汗が浮かんだ。
 逃げだした自分が、馬鹿に思えてきた。
 そこへ。

「——大罪人の息子が、のこのこ帰ってくんじゃねぇよッッッ!!!!!」

 大振りの斧を持った天使が、襲いかかってきた。
「…………ッ!」
 とっさに「シャングリ=ラ」を呼び出して、なんとかいなす。
 が、重い。その一撃が。
 なんとかいなしたつもりなのに、腕にビリビリと残った衝撃。
 その衝撃が、傷に響く。
「く…………」
 こめかみから、つうっと流れおちた汗。身体が——きつい。
「もう一撃だコラァ!」
 重い一撃を、背の翼で宙に飛び上がることで、かろうじてかわす。鼻先を破壊力の塊が通り過ぎた。今度は冷や汗が流れた。
 そこへ。

「てめぇが飛ぶんなら——こっちも飛ぶが、文句はねぇよなッ!」

 斧の天使が、追いすがる。
 さらに一撃。かわしきれない。「シャングリ=ラ」で迎え撃つ。
「くあッ!」
 漏れた悲鳴。その両手から、「シャングリ=ラ」が叩き落とされる。
「もうおしまいかぁ? 弱ぇえもんだなぁ」
「負けて……たまるか」
 自業自得で陥った結果。こんなところで。こんなところで。
 
 ——死んで、たまるか。
 
 が、戦闘に疲弊し、力を失った翼は。いつしか羽ばたくことをやめていた。
 落ちていく身体。
 目をぎらつかせて追いすがる天使。
「死ねぇッ!」
 斧の一撃。宙で身をひねり、かろうじてかわす、が。
「————ぐあッ!」
 その一撃は。
 彼の翼を。
 その、左の、翼を。


 ——叩き斬っていた。


 激痛にうめき、墜落するように墜ちていくフィオル。
 もう、身を守るすべも何もない。
 傷口から真紅の血を流し、墜ちていくだけ。
 それを狙う、斧使い。


 ——今度こそ、死ぬ。


 そんな予感が、彼の全身を震わせた。
「ごめん……ね……兄さん……シア……フェロ……ン……」
 涙が、流れた。
 自業自得で、死ぬなんて。馬鹿みたいだよ、ね。
「ごめん……」







「——謝るなッッッ!!!!!」






「…………!」
 墜ちていく、彼の身体を。
 翼を奪われた、天使の、身体を。
 下でそっと、受け止める影があった。


「生きているなら——謝るなッ!」


 赤と黒の異形の腕。
 ああ、兄さんだ。再生させたんだ。
 ガイーン! 鈍く響く音。斧の一撃を、フェロンが防いだ。
「お前は寝てろ。弁解なら後で聞く。今はこの敵を倒すのが先決だ。……シア、頼むぞ」
「了解よ!」
 リクシアが、フェロンを受け取って地面に寝かせた。
 それを見届けて。異形となったアーヴェイが、炎のような瞳で「アバ=ドン」を構えた。
「弟を傷つけた代価、しっかり払ってもらおうか!」
 それを見ながらも、リクシアは口の中で唱えていた。
 フェロウズ・リリース? いや、違う。あんな優しい魔法じゃない。
 リクシアは、怒っていた。大切な仲間が、こんなに傷つけられたことに。
 それが、その仲間の自業自得だったとしても。
 カキーン! グアーン! 飛び交う剣戟。二方向からの神速の攻めに、斧使いは苦戦しているようだ。

 ——今が、好機。

 リクシアは、唱える。この状況を打破するために必要な、新たな「必殺技」を。

「天空の彼方、神々の御座(みまし)! 星々の光拾い集め、極光の空に投げ入れよ!」
 
 幼いころに聞いた神話を。

「大地の彼方、悪霊の御座(みまし)! 人々の心拾い集め、極夜の空に投げ入れよ!」

 つなぎ、合わせて。

「光と心、渦巻け、空に! 千々の流星、降り注げ!」

 忘れえぬ、遠い日の空を。鮮やかに思い浮かべて。

「夢見よ、正義! 夢果つ邪悪! 断罪の光よ、今ここに——!」

 守り、たいから。





「エンシェンテッド・アウローラ!」





 願い、唱えた。
 それは、純粋な、光の魔法。
 天から流星が降り注ぐ。それは、想いのこもった光。

「誰も——死なせやしないんだからッ!」

 そのためには、人殺しだって、厭わない。
 それが、「守る」ということだから。

 斧の天使は流星に貫かれ。もう、息をしていなかった。

 そして。

「リア!?」
 フェロンの声。リクシアの身体が大きくよろめいた。
 が、今回はしっかりと踏みとどまった。大丈夫、そう簡単に眠ったりはしないから。
 アーヴェイが、呆れた顔でこちらを見ていた。
「……なんだか、見せ場だけ取られたような気分だ」
 リクシアは苦笑を返した。
「仕方ないじゃない。でも、フィオルは助かったし——」
「そうだ、フィオルッ!」
 そのことに思い至って。アーヴェイは寝かせてあるフィオルに駆け寄った。
「フィオル、フィオル!」
 真っ白な天使は、その目を閉じていた。
 死んではいない、が、命が危うい状況なのは一目でわかる。
 これまで。彼の命の危機に際して、彼に驚異的な回復力を与えていた翼は。

 ——片方が、失われてしまったから。

 失われた翼の傷口から、際限なく溢れ出る血。止血をしようと試みても。一向に血は止まらない。

「……他の天使なら何とかなるかも。急いで戻りましょう!」
「…………ああ」
 アーヴェイは重たい顔でうなずいて、弟を背負うと駆け出した。
「リア、つかまれ」
 フェロンが手を差し出した。
「そんな身体じゃ追いつけない。絶対に手を離すなよ」
 差し出された手。しっかりと握る。握ったそこから穏やかに伝わる、温かさ。
 大丈夫、戦える。
 側に大切な人がいる限り。この温かさがある限り。
「行こうよ、フェロン!」
 走り出す。時々もつれそうになる足を、つないだ手がしっかりと導いた。
 大丈夫、まだ走れる。
 先に希望がある限り。導く手が、ある限り。


  ◆

「負けを認めるのよ〜」

 リルフェリアの喉元に、レイピアがつきだされた。
 やってきた天使の増援。大人の剣技を見せつけられて。なすすべもなく、やられていった。
 ヴァンツァーもラーヴェルもリリエルも。皆、地に倒れ伏していた。
「まだ……!」
 倒れたヴァンツァーが、渾身の力で、倒れたままで剣を薙ぐ。
「甘いのよ〜」
 それをひらりと避けたシアラは。靴で彼の頭を踏みつけた。
「ぐッ……」
「無駄な抵抗はおよしなさいな〜。大丈夫、死ぬ時は一瞬だから〜」
 笑って、レイピアの矛先をヴァンツァーに変えた。
「やめて!」
「くそっ……ヴァッツ!」
 リルフェリアとラーヴェルが悲鳴を上げる。
 でもねぇ、とシアラは笑った。
「どうせあなたたち、処刑されるのよ〜? なら、ここで殺したって、何も変わらないわよ、ねぇ?」
 笑いながら、彼女は他の天使を見るのだった。
 他の天使たちは、無言でうなずいた。
 それを見て、シアラは。ヴァンツァーの首の皮を薄く切った。
 それでももがこうとする彼を見て、彼女はさらに笑う。
「滑稽よ。あなたたちなんて、生きてる価値ないの〜」
 だから、お遊びももうおしまい。
 言って、レイピアを大きく後ろに引いた。
「ヴァン!」
「ヴァッツ!」
「ヴァンツァーさぁん!」
 仲間たちの悲鳴。

 が、その剣が。彼を貫くことは、なかった。

 誰もが、忘れていた。







「ォォォォォオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!!!!!」







 青い、青い、天使のことを。


 



 暗く、黒い。悪夢の申し子を。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 本格的な戦いが始まりました。みんなはお互いを守るために必死です。
 最後に出てきた「青い天使」って……。
 次の話をお待ち下さい。


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