ダーク・ファンタジー小説
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- 【不定期更新……】カラミティ・ハーツ 1 心の魔物
- 日時: 2017/09/17 14:49
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
目次(随時更新)
(章分けをし、一部形式変更)
第一章 始まりの戻し旅 >>0>>3-7
Ep1 心の魔物 >>0
Ep2 大召喚師の遺した少女 >>3
Ep3 天使と悪魔 >>4
Ep4 古城に立つ影 >>5
Ep5 醜いままで、悪魔のままで >>6
Ep6 悔恨の白い羽根 >>7
第二章 訣別の果てに >>8-11>>14
Ep7 ひとりのみちゆき >>8
Ep8 戦いの傷跡 >>9
Ep9 フェロウズ・リリース >>10
Ep10 英雄がいなくても…… >>11
Ep11 取り戻した絆 >>14
第三章 リュクシオン=モンスター >>15-17
Ep12 迫る再会の時 >>15
Ep13 なカナいデほしいから >>16
Ep14 天魔物語 >>17
第四章 王族の使命 >>18-25
Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」>>18
Ep16 亡国の王女 >>19
Ep17 正義は変わる、人それぞれ >>20
Ep18 ひとつの不安 >>21
Ep19 照らせ「満月」皓々と >>22
Ep20 常闇の忌み子 >>23 (※長いです)
Ep21 信仰災厄 >>24
Ep22 明るいお別れ >>25
第五章 花の都 >>26-36
Ep23 際限なき狂気 >>26 (※長いです)
Ep24 赤と青の救い主 >>27
Ep25 極北の天使たち >>28
Ep26 ハーフエンジェル >>29
Ep27 存在しない町 >>30
Ep28 善意と掟と思惑と >>31
Ep29 剣を取るのは守るため >>32 (※長めです)
Ep30 青藍の悪夢 >>33 (※非常に長いし重いです)
Ep31 極北の地に、天使よ眠れ >>34 (※長めで重いです)
Ep32 黄金(きん)の光の空の下 >>35
Ep33 忘れえぬ想い >>36
第六章 動乱のローヴァンディア >>37-49
Ep34 予想外の大捕り物 >>37
Ep35 緋色の逃亡者 >>38
Ep36 帝国の魔の手 >>39
Ep37 絡み合う思惑 >>40
Ep38 再会は暗い家で >>41
Ep39 悪辣な罠に絡む意図 >>42
Ep40 鏡写しの赤と青 >>43
Ep41 進むべき道 >>44
Ep42 想い宿すは純黒の >>45
Ep43 それぞれの戦い >>47
Ep44 魔物使いのゲーム >>48
Ep45 作戦完了 >>49
第七章 心の夜 >>50-55
Ep46 反戦と戦乱 >>50
Ep47 強制徴兵令 >>51
Ep48 二人が抜けても >>52
Ep49 嵐の予感 >>53
Ep50 Calamity Hearts >>54 (※非常に長いし重いです)
Ep51 明けの見えぬ夜 >>55
第八章 時戻しのオ=クロック >>56-
Ep52 巻き戻しの秘儀 >>56
Ep53 好きだから >>57
はじめまして、藍蓮と申します。ファンタジーしか書けない症候群です。よろしくお願いします。
あるゲームのキャラクター紹介から想を得た、設定はそこそこ作ったとある物語の、プロローグを掲載しました。続く予定です。
それではでは。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。
「魔導士部隊、位置に着け!」
高らかに響くラッパの音。リュクシオンは隣を見た。
「ついに来ましたね、この時が」
「ついに来たな、総力戦が」
彼の隣に立っているのは、この国の王。王は難しい顔をして、リュクシオンに言った。
「リューク、いけるな?」
「はい、あと少しで準備ができます。しばしお待ち下さい」
「頼りにしてる」
この国、ウィンチェバル王国は、小さい割には資源が豊富だ。ゆえに、これまで多くの国々から狙われ、侵略されてきた。それをすべて退けられたのは、ひとえにこの国の魔導士部隊のおかげである。
それなりの侵略ならこれまで何度かあったが、今回のは規模が違う。
まだ肌寒い季節だ。リュクシオンはマフラーに顔をうずめながらも、考える。
(よりによって、ローヴァンディア、あの大帝国だと? 桁が違う。だからこそ、僕は……!)
願った。「力を」と。状況すべてを打破する力をと。何もできない自分が嫌で。国が侵略されていくのを、見ているだけしかできなくて。その思いは日増しに強くなり、内側から彼を苛み続けた。
そして、その願いは、叶った。理由はわからない。ただ、ある時から急に、召喚術が使えるようになった。
リュクシオンは神を信じない。信じても無駄。助けは来ない。そんな世界に生きてきたから。
しかし、彼に起きた奇跡は。何もできなかった彼が、急に「力」を手に入れた理由は。神の御業というよりほかになかった。
そして今、彼はここにいる。その力を見初められ、王の側近として、ここにいる。力がなければ、決して昇りえぬ地位に。望んでこそいなかったが、決して悪くは無い地位に。
——だから、利用させてもらうよ。
この状況を打破できる、唯一無二の召喚術。国を守るために過去の文献をあさり、そして見つけた、とある天使の召喚呪文。
それの発動には、長い長い準備が要った。リュクシオンは寝る間も惜しんで準備し続け、ついに、術の完成が迫る。
——国を守りたい。思いはただ、それだけなんだ。
そして——。
太陽が、月に食われた。
日食だ。しかも、皆既日食だ。昼の雪原はあっという間に闇に閉ざされ、凍える寒さが人々を打つ。
「——今だ!」
リュクシオンは声を上げた。突き出した手に、集まる魔力。
皆の視線が、彼に集中する。
「現れよ——日食の熾天使、ヴヴェルテューレ!」
神の域にさえ達したとされる究極の天使が今、リュクシオンの「仕掛け」に導かれ、彼の敵を滅ぼすため、外へと飛び出す——!
が。
——崩壊は、一瞬だった。
「あれ……うそだろ……」
白い、白い光が視界を埋め尽くした。天使はこの世に顕現した。そこまでは構わない。
だとしても。
——この、目の前に広がる無数の死体を。一体どう説明すればいい?
見知った顔。あれは魔道師のアミーだ。あっちは友人のルーク。
——さっきまで隣にいた、リュクシオンの王様。
みんなみんな、死んでいた。敵味方の区別なく。リュクシオン以外、皆殺しだった。死んだその目には恐怖の色があった。
——国が、滅んだ。守ろうと、あれほど力を尽くした国が。リュクシオンの王国が。守りたかった全てが。
リュクシオンの、積み重ねてきたすべてが。
存在意義が。
「……あ……嗚呼……ぁぁぁぁ嗚呼ああ嗚呼あ!」
地にくずおれ、獣のように咆哮する。
——天使は、破壊神だった。
確かに相手も全滅したが、彼が望んだのはこんなことじゃない。こんなことなんかじゃ、ない。
平和を。愛する国に平和を。そう、心から思っていた。だからこそ、力を望んだ。愛するものを、国を、守る力を。
——コンナコトジャナカッタ。
絶望に染まる召喚師の頬を、涙が伝った。赤い、紅い、赫い。血の色をした、絶望の涙が。
「ア……アア……ァァァアアアアアアアアアア!」
壊れた機械のような声とともに、彼の世界は崩壊した。
「ァ……ァぁ……ァぁァぁァぁァぁァぁァ…………」
その身体が、闇色の光とともに、変化していく。
「ァ……ぁ……」
背はこぶのように盛り上がり、体中から毛を生やしたそれは。もはや人間ではなかった。
「……ァ……」
幽鬼のようにのっそりと動き出したそれは、魔物そのものだった。
その瞳に、意思は無い。理性もない。何もない。
そのうつろな姿は、大召喚師のなれの果て……。
——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。
王も貴族も召喚師も。なんびとたりとも例外は無い。
ひとたび心が闇に落ちれば、一瞬にして、魔の手は伸びる。
そして魔物となった者は、己の死以外ではその状態を解除できない。
これまでもあった。そんな悲劇が。魔物となった大切な人を。自ら手に掛ける人たちが。
悲劇でしかない。ただ悲劇でしかない、この世界の絶対法則。
——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
……いきなり大変なことになっていますが、まだ続きます。次の舞台は移って、この国の外になります。魔物となったRも今後、深く関わっていきます。よろしくお願いします! 〈続く〉
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep25 極北の天使たち ( No.28 )
- 日時: 2017/08/14 00:11
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
どーも、藍蓮です。
帰省するので、14日昼〜17日夕まで更新できません。
すみません、よろしくお願いいたします。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「おーい!」
声がした。アルフェリオは声のした方に首を向ける。
「リル。何とかなったのかい?」
赤い天使が、青い天使の前にふわりと着地した。
うん、と彼女は言う。
「でも、なんか、さぁ。なんか、変だったのよねぇ」
「言いよどむなんてリルらしくないね。何かあったのかい?」
「……凄絶な、戦いの痕跡が、あったの」
「……そうかい」
アルフェリオは、少し考え込むような顔をした。
「ねぇ、リル。私をそこに、連れて行ってくれないかい?」
「今はだめ。怪我人の収容が先でしょ。……って、アル、その子の治療は?」
リルフェリアは、眠ったリクシアを指し示した。アルフェリオはうなずいた。
「私がやっておいたよ。で、怪我人の収容? どうだかなぁ。みんな、許してくれるかなぁ」
彼は、知っている。
自分がこれから帰るところが。余所者に厳しいことを。
「というか、そもそも怪我人は何人だい?」
問えば。
「三人よ。でも、そこのお譲ちゃんとあんたを含めれば五人」
「私は怪我人じゃないよ?」
「まともに歩けない人は怪我人なの。飛ぶことだってできないくせに」
「これは生まれつきなんだからつべこべ言わない。でも、リルだけじゃみんなを運べないね」
どうしよっか、と言いかけたら。
「呼ばれて飛び出てズドドドドーン! 緑の天使をご用命かい?」
「……用があるならそう言え」
「お困りですかー? お助けしますー!」
「……なんでそんなにタイミングよく出てくるの君たち」
双子の天使仲間が。緑のラーヴェル、黒のヴァンツァー、黄のリリエルが、そろって現れた。
◆
で、必然的に。遅いが動けるアルフェリオが、残されることになった。リルフェリアは心配げな顔をしていたが。アルフェリオだって戦える。
動かない足を必死に動かし。「里」の方へと歩いていく。
運ばれてきた「リクシアの仲間」は、どこか、魔物の匂いがした。
(魔物にやられたんだろうねぇ)
それも、かなり強めの奴に。
記憶を呼び起こしながらも。小さな森の中を歩いた。
◆
「状況はよくわからねぇけどさ」
話を聞いて。空を飛びながらも、緑のラーヴェルは首をかしげた。
「ま、とりあえずは。余所者が入れるように取り計らえってことかい?怪我人収容するために」
でしょうねー、とリリエル。
「みんなが目覚めてくれなきゃ、わかるものもわかりませんけどー」
そもそもアルが、リクシアちゃんを助けたのが悪い、とリルフェリアが愚痴をこぼす。
「なんか、大事に巻き込まれたよーな気分なんですけどー」
ヴァンツァーはどう思うわけ? と黒い天使に話題を振ってみると。
「俺は知らん」
あっさりと返された。
リルフェリアは口をとがらせる。
「はいはい別にいーですよーだ。ヴァンに聞いても意味ないし!」
「……それをわかって訊いたのならば、お前は天性の馬鹿だぞ」
「はいはいはい! 聞こえなーい!」
耳をふさごうとするが、リクシアを背負っていたことを思い出してやめる。
やがて見えた、小さな里。極北の地の、小さな里。
「さ、降下準備!」
「わかってるての!」
「行きますよーぅ」
「……落下」
そこへ。ゆっくりと翼をたたみつつ、四人の天使が舞い降りる。
「で、待っているのも癪だから」
リルフェリアはリクシアを下ろすと。
再びその翼を広げた。
「リル? 抜け駆けすんのかこら!」
「しないってば! アルを迎えに行くんだよ!」
ラーヴェルの憤慨した言葉に答えて。
「ってことで、待っててね!」
再び、飛び立った。
◆
アルフェリオは、短剣を構えていた。
「これ以上近づくなら……実力行使もいとわないけど」
そんなことを言っている割には。
つうっと流れおちた汗。
対峙するは、異形の女。異形の足で、身体を支えて。
片手にレイピアを携えて。狂ったように、一歩、また一歩。
(困ったなぁ)
戦いが、起きようとしていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
天使たちの話その2。主人公勢が意識不明なので、メインメンバーはお留守です。赤青天使の旧知らしい、緑、黄、黒の天使まで出てきてにぎやかに。
次こそはみんなを目覚めさせたいです。
帰省のために更新ペースは遅くなりますが、これからもよろしくお願いいたします。
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep26 ハーフエンジェル ( No.29 )
- 日時: 2017/08/17 18:41
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
お久しぶりです藍蓮です。
帰ってきたので再開しまーす!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
狂ったような異形の女。アルフェリオは、彼女の正体を知っていた。
策略にて、人を魔物にする。権謀術数の魔性の女。
「『偽りの女神』が……。落ちぶれたものだよね」
構えた短剣の先は、細かく震えていた。
余裕がないのは確かだけど。戦わなければ死んでしまうから。
「キエエエェェェッ」
飛びかかってきた異形の女を。腕の剣で、なんとかいなす。
「手加減なんて……してくれないよねっ」
呟き、剣に特殊な呪文を乗せて、異形の女に放とうと身構えた。
(これをやったら……正直、身体が保つかどうか。でも、仕方ないよね。戦えない僕にとっては。これしか生き残るすべがない……)
アルフェリオは、ただの天使ではないのだ。
リルフェリアの、双子の兄。水に愛されし青き天使。
それは、表の顔にしかすぎなくて。
その裏には。闇に愛された、暗く黒い悪夢の申し子の姿が、あった。
普段、戦えないのは。闇の力の代償で。
ひとたび本気を出せば、百の軍勢でさえ一人で倒せるほど強いけど。
一度、そうなったら。彼の身体は深い深い闇に侵され。天使でいられなくなる可能性すらあった。
「でも……仕方な……」
「——仕方なくない!」
と。
天から舞い降りた赤い稲妻が。
異形の女を、手にした剣で。
刺し貫いた。
「……リル」
「来て大正解! もう、アルったら! 勝手に死んだりしないでよぅ!」
「……死んじゃあいないけど」
「死にそうだったくせに何言ってんのよアンタは! とりあえず、あたしにつかまって! みんなの待ってるところまで飛ぶわよ!」
叫び。倒した異形の女には見向きもせずに。
リルフェリアは、アルフェリオに背中を差し出した。
「乗って!」
「……いつもごめんねぇ」
「そんなの気にしない! さあ!」
赤い翼が、大きくはばたく。
「みんなが待ってる! いくわよ、さぁ!」
どこまでも前を見据える真っ直ぐな瞳は。
仲間の待つ、村の前を目指した。
◆
「……う……」
フィオルは、明るい光で、目を覚ました。
知らない所だ。あの戦場ではない。リクシアが助けてくれたのだろうか?
身を起こそうとするが、どうも力が入らない。
ちなみに、今寝ている場所は。どこかの土の上らしい。
どうしようか、と思った。これでは状況がわからない……。
と。
「あら、目覚めましたかー?」
ふわふわとした、声がして。
「おっ? 誰よ誰よ? って、天使さん?」
「……外見で人を判断するな。まだ、天使と決まったわけじゃない」
他の声が、そのあとからやってきた。
フィオルの眼に映るのは。色とりどりの天使たち。
——天使、たち。
出会っては、いけない人たち。
フィオルと、アーヴェイにとっては。
フィオルの生まれにまつわることで。
(まずい……よりによって、天使だって? シア、相手を選んでくれる?)
事情を説明しなかった、こちらも悪いか。
どうしよう。
「あのー。お名前、伺ってもいいですかー? あと、天使みたいな見た目ですけど、あなたは天使なんですかー?」
「知りたい知りたい」
「……俺は知らん」
天使たちが、名前を訊いてくる。僕の名は一部の人の間では有名なんだ。だから偽名を名乗ろう。と、言ったって……
(事情を知らないシア達は、僕のことを本名で呼ぶだろうし)
ならば、真実を明かした方が、下手に疑われないで済むか。
どうせ、今は動けないんだ。もう、どうにでもなれ。
フィオルは軽く身じろぎをした。
すると。
現れる、純白の翼。
天使の血を引く者の証。
「あなたは……」
驚いたような、黄色天使の声に。
「ハーフエンジェルのフィオル。……聞いたことない? 僕の本当の父親……大罪人ウォルクのことを」
書物で知った、自分の生まれ。父親は、天使族の仲間を金で売った、ある大罪人。
「僕はその息子だよ……」
だから、だからこそ。他の天使には会いたくなかった。大罪人の息子だから。ひどい目にあわされると、思いこんでいた。
しかし、現実は違ったのだった。
「あららぁ。そんなことを気にしてらっしゃったのですかー? 他の天使さんたちは違うかもしれませんが、私たちは例外なので! 異常種なのでー」
「自分でそれを言うかリリエル……。ま、おれたちゃ他の天使みたいにお堅くねーもんで。そんなに気張らなくたっていーんだぜ? ちなみにおれの名はラーヴェル。ハーフエンジェルかぁ……。よろしくな!」
「気にしすぎだ。……俺はヴァンツァー。大罪人なんて知ったことか。言い方は悪いが、関係ない俺達には対岸の火事だ」
すべて、フィオルの思い込みだった。
ここの天使たちは、こんなにも親切で。
(あーあ、いつもの警戒心なんていらなかったんだね)
「……ところで、ここって?」
気になることを訊いてみたら。
ヴァンツァーが冷静に返す。
「存在しない町だ」
その次に彼の言った言葉は。フィオルの想像と理解を超えていた。
「花の都フロイライン、と呼ぶ者もいる」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
最近スランプ中の藍蓮です。内容浮かばんわ。
というわけで、前から考えていた急展開をぶち込みました。しっちゃかめっちゃかな駄文ですね今回の話は。
正直、この低クオリティで投稿していいのか不安になりますが、ブランクがあったので一気に投稿。駄作ですみません次はちゃんとやります。
明かされた町の名前。その正体は——
続きます。次こそは主人公を目覚めさせたいです。
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep27 存在しない町 ( No.30 )
- 日時: 2017/08/21 09:33
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「——フロイラインだって!?」
フィオルは思わず叫んでいた。それにヴァンツァーが答えようとする。と。
「みんな……無事……?」
「……生きてたな」
「……リア……は……?」
これまで眠っていた三人が、目を覚ました。
そして。
「ただいまーっ!」
「やぁ、みんな」
赤と青の天使も、戻ってきた。
「……天使? これは、なんだ?」
アーヴェイは、失われた右腕の跡を見ながら疑問を口にした。
ため息をつき、フィオルは。これまであったことを語ったのだった。
◆
「花の都フロイラインが、あの町なの……」
先に広がる町を見て。呆然とした顔で、リクシアが問うた。
「そうさ。あそこが花の都。君たちはそこを目指していたのかい?」
アルフェリオの言葉に。リクシアは力なくうなずいた。
「兄さんが魔物になって。で、それを戻そうとして」
「無理だね」
にべもなく返された、非情な言葉。
「あそこは『存在しない町』なんだから。何の記録も残っていないさ」
「……訊いてもいい?」
フェロンが会話に割り込んできた。
「あなたたちは、あの町を『存在しない町』と呼んでいるけれど。どういう意味?」
「そのままの意味ですよー」
のんきそうに、リリエルが言った。
「あの町は、『存在しない町』なんです。地図にもないし、人目にも触れない。そしてそこに住むのはそもそも、人間じゃない——」
「天使の町なんだぜ? ゆえに、人間にとっちゃあ存在しない町、なんだってワケ」
ならば、とアーヴェイが口を挟んだ。
「あそこが存在しない町だってのはわかったが、ならばどうして。魔物が元に戻らないんだ?」
「簡単だよ」
だって僕らは——と、アルフェリオは皆を見た。
「天使だもの。あの時。魔物になったのは、天使だもの。だから僕らは、天使以外の戻し方なんて、知らないんだよ」
……リクシアは、驚愕した。
人間だけではなく、天使だって。魔物になるということに。
そして。
ずっと追い求めていた花の都は、天使たちの町だったことに。
——これじゃあ。
これじゃあ。
兄さんを戻す方法は、見つからないの……?
また。
振り出しに、
戻るのか。
何もわからなかった、
手探りの暗闇に……。
襲ってきた絶望に、リクシアは両手で顔を覆った。
私たちの長い旅は。無駄だったのだろうか。
私たちの負った傷は、無駄だったのだろうか。
振り出しに戻って。何もわからなくて。
今こうしている間に。グラエキア達に、兄さんが殺されそうになっているのかもしれないのに。
——私は、私たちは。
「……これから、どうすれば、いいの……?」
「良かったら、来てみるかい?」
アルフェリオが、優しく笑いかけた。
「私たちじゃあ君の助けにはならないかもしれないけれどさ。町に来たら、案外、あるかもしれないよ? 魔物を元に戻すためのヒントが」
天使の町。存在しない町。
しかし、魔物が元に戻った話のある、唯一の町。
「……行って、いいの……?」
「もちろんさ」
「待て、アルフ」
ヴァンツァーが、片手で彼を制した。
「あの町は余所者に厳しい。彼女らを収容するのに、言い訳がいるが、考えたのか?」
「ああ、そうだねぇ。ヴァンに投げてもいい?」
「……俺は便利屋じゃないんだぞまったく……。フン。ならば、こんなのでどうだ? 『偽りの女神』ヴィーナが現れたと聞くが、それを利用しよう。彼女にアルフが襲われていたのを偶然、満身創痍のあなたたちが見つけ、アルフを助ける。だから俺たちは、その恩返しとしてあなたたちを助ける……。こんなシナリオなら、あるいは」
「いけるかもねぇ。これからも頼るねぇ」
「……たまには自分で考えろ」
とにかく。話がまとまったようである。
「……じゃあ、行くの?」
目の前の町。存在しない町。花の都フロイラインへ。
期待はすんなよ、とラーヴェルが言った。
「天使ったって、そこまで御大層なものじゃねぇーんだ。生まれが特別ってだけで。実際その中身は、あなたら人間とそう変わらねぇーんだぜ?」
リクシアはうなずいた。
前を見据える。
極北の地。花の都フロイライン。
旅の最終目的地が、存在しない町が。
あらゆるものを拒否するかのように、そびえていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep28 善意と掟と思惑と ( No.31 )
- 日時: 2017/08/20 12:02
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あ〜らら、リルにアル! 今までどこ行っていたの〜?」
町に入るなり、間延びした口調で、ピンクの翼の女性が出迎えた。
しかし、その顔は。リクシア達の姿を見て、固まった。
「……ねぇ? その子たち、人間よね〜? なんで人間がこの町にいるのかしら〜?」
ヴァンツァーが進み出て、先ほど考えていた言い訳を披露する。
女性は首をかしげた。
「なら、アルはこの子たちに助けられたの〜?」
アルフェリオは、苦笑いしながら答えた。
「ハハッ、不覚をとっちゃったんだよ……。私はあまり、動けないからさ」
「でも、余所者を町に入れるのは〜、ねぇ?」
「恩人なんだよ。それに、この町を目指して、ずっと旅していたんだってさ」
女性は、いぶかしげにリクシア達を見た。
リクシアはあわてて進み出る。
「あのっ! リクシア・エルフェゴールといいます! 魔物になった兄さんを元に戻すために、ずっと旅しているんです!」
「魔物……。でも、天使の町は関係ないわよ〜。ここは『存在しない町』ですもの〜」
「聞きました。でも、少しでも手掛かりが見つかればいいなと思って……」
「そうなの〜?」
でも、それは置いといて、と女性は首を振った。
「あなたの言い分はよくわかったわ〜。文献とか、見せてあげるわね〜。助けになれれば嬉しいもの。でもね〜」
柔らかな光を宿した桃色の瞳が。フィオルとアーヴェイを、射抜いた。
二人の身体が、警戒で固まる。
リクシアはまだ何も知らないけれど。フィオルの正体は——。
「大罪人の息子と、醜い悪魔は。お断りなのよ〜」
「————ッ!」
「フィオ!」
その言葉を聞いた瞬間、フィオルは走り出した。治りきらぬ傷の痛みを無視して。ただこの場から逃げようと、一目散に。
そして、後先考えなかった彼の逃げる先は。
「……あらら〜。殺されても文句は言えないわ〜」
——町の、奥だった。
この、余所者を嫌う町の。
フィオルの父を断罪し、処刑した、町の。
「フィオ!」
「フィオル!」
走って追いかけようとしたリクシアとアーヴェイの腕を、ラーヴェルがつかんだ。
「落ちつけよ。ここで変な行動を起こしたら、てめーらも捕まるぜ?」
「でもッ、フィオはッ!」
「悪魔はもっと駄目なの。つーか、その見た目、もう少し何とかならねぇーの? こんなんじゃぁ、この町にゃぁ入れないぜ?」
「……話を整理していい?」
リルフェリアが、顔をしかめてこめかみに手をやりながらも言った。
「まず、フィオルの正体がこんなに早くばれるってことがあたしの誤算。で、アーヴェイの見た目とか正体に気づかなかったのもあたしのせいよね。それで、正体を見破られたフィオルは動転して、町の奥に行っちゃった。……一応、聞くけど。シアラさんは、見逃す気なんてないんでしょ?」
桃色の女性——シアラは、にっこりと、天使の笑みを浮かべた。
「犯罪者の息子ですもの〜。今度こそ、退☆治しなきゃあ、ね☆?」
にっこりと笑いながら、そんなことを言うのだ。
リクシアもアーヴェイも、気が気でなかった。
「で? 他の天使には黙ってくれる」「わけないじゃない〜」「……でしょうね」
リルフェリアはため息をついて、他の天使たちに言った。
「ねぇ、あんたたち!」
赤い瞳が、強い意志を宿して。
炎の如く、光り輝く。
「——掟破りになる気が、ある?」
彼女は無言で語る。この人たちを助けるには、掟破りになるしかないと。掟破りになったら、二度とこの町に戻れなくなる可能性がある。あなたたちはそれでもいいのか、と。
「言っとくけど、あたしは破るから。せっかく助けたんだ、最後まで面倒見なきゃ、後味が悪いったらない。他のみんなが嫌だと言ったって……」
「言うわけねぇーよ」
ラーヴェルが笑った。
「おれだって、このままじゃ後味が悪ぃーよ。破るんなら一緒に破ろうぜぇー!」
私もー、とリリエルが手を挙げる。
「皆さんのこと、好きですし!」
「……物好きな奴らだ」
呟くヴァンツァーも、また、リルフェリアの側に着く。
「私だって破ろうか。第一発見者は私なのだしね」
アルフェリオが、笑って言った。
その様子を見て。不覚にも、リクシアの両目から、涙が溢れてくる。
「おーいおいおい、どうしたのよ?」
「……嬉しいの……」
見ず知らずの私たち。極北の地に、迷い込んだだけの他人。
なのに。掟を破ってまで、助けようとしてくれて。
「ありがとう……!」
「……あなたたちは、本当にいいの?」
フェロンが首をかしげた。
「見ず知らずの他人のために……これまでの生活を棒に振るような真似をして……」
その言葉を聞いて、リルフェリアはにっこりと笑った。
何の悪意も込められていない、純粋な、善意だけの。
天使の笑み。
「だってあたしたちは」
「周りとは違ぇーの」
「誇り高いのさ」
「異常種なんですー」
「物好きの集まりだからな」
それぞれそう、つぶやいて微笑んで。
微笑んだままのシアラに、それぞれの武器を向けた。
「「「「「だから、今、あなたに。宣戦布告する」」」」」
「あらら〜、なら、わたくしも〜。法の名において、あなたたちを断罪するわ〜」
◆
善意と、掟と。
様々な思惑の混じり合った、二つの種族の争いが、
幕を開けた。
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- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep29 剣を取るのは守るため ( No.32 )
- 日時: 2017/08/21 11:22
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
4200文字……。
長めです。読むときは余裕を持ちましょう。
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「「「「「だから、今、あなたに。宣戦布告する」」」」」
向けられたそれぞれの武器。覚悟を決めた、十の瞳。
シアラはゆがんだ笑みを見せて、彼らに細いレイピアを向けた。
「あらら〜、なら、わたくしも〜。法の名において、あなたたちを断罪するわ〜」
でも、その前に、と、彼女は大きく口を開けた。
「みんな! みんな! 侵入者よ〜! 掟破りよ〜! 退治しなくちゃ、ね?」
……増援を、呼んだ。
「私たちも、戦わなくちゃ」
うなずき、呪文の用意をするリクシア。
「行くぞ、悪魔」
「解ってるさ、傷痕」
フェロンはいつもの片手剣を構え、アーヴェイは取り戻した「アバ=ドン」を腕一本で構える。右腕は——あの戦いで、無くなった。
が。偽りの女神にやられた傷が痛むのか、皆、どこかをかばいながらで、本調子とはいえないようだ。
「本当はあんたらにあの天使さんの捜索を頼みてぇところなんだが……。そんな身体で行けんのか? こっちは大丈夫だからさ。こっちの援護よりかぁあの子の捜索を優先させるべきだぜ?」
ラーヴェルが槍を構えながらも、肩越しに言葉を投げかけた。
「大丈夫だ、いける」
アーヴェイが即答した。
「その腕で、大丈夫なんですかー?」
心配そうにリリエルが問えば。
アーヴェイはふっと悲しげな笑みを浮かべ、言った。
「……オレは、悪魔だから」
残った左腕で、右肩に触れた。
すると。
「…………!」
現れる、真紅と漆黒の、異形の右腕。
悪魔の、腕。
「この天使の町ではひどく目立つだろうが……背に腹は代えられない。醜くても、異形でも。オレは、構わないんだ。……大切な人を、守れるのなら」
異形の右手に、「アバ=ドン」を握った。
「アバ=ドン」に潜む破戒的人格が彼に囁きかけるが、それを圧倒的意志力で跳ねのける。
「大丈夫だ、いける」
紅い瞳がリリエルを射抜いた。
その力強さに、彼女はうなずいた。
「な、なら、頼みますよー」
「引き受けた。弟なんだ、当然だろう」
『弟なんだ』と言う言葉に、一瞬彼女は何かを言いかけた。が、首を振って、
「幸運を祈ってます〜」
そう声をかけてから、前を向いて。
自分の得物——戦輪(チャクラム)を構えた。
気づけば増援だらけになっている。急がなければ!
「お前ら、いけるな?」
アーヴェイが、リクシア達を振り向いて言った。
「当然よ!」
「愚問だな」
リクシアとフェロンがそれぞれ返す。
「ならば、行こう。町の奥へ!」
大切な仲間を救うため。大好きな天使を救うため。
「死ぬんじゃないぞ!」
三人は、三本の稲妻となって駆け出した。
◆
「ハアッ、ハアッ、ハアッ」
走り続け、耐えられなくなって。フィオルはその場に倒れ込んだ。
息がつらい。頭ががんがんする。
こびりついて離れない言葉。
『大罪人の息子と、醜い悪魔は。お断りなのよ〜』
バラされたくないことを、バラされた。
だから、逃げたんだ。あの場所から。一刻も早く、そう思って。
「うう……ッ……く」
今さらだが、激痛を伴って痛みはじめた傷。アーヴェイとやり合って
——アーヴェイに斬られた、深い、傷。
天使たちは、応急措置は施したという。
だが、あくまでも『応急』だ。完全に治っているわけではない。
呼吸が荒くなる。額に脂汗が浮かんだ。
逃げだした自分が、馬鹿に思えてきた。
そこへ。
「——大罪人の息子が、のこのこ帰ってくんじゃねぇよッッッ!!!!!」
大振りの斧を持った天使が、襲いかかってきた。
「…………ッ!」
とっさに「シャングリ=ラ」を呼び出して、なんとかいなす。
が、重い。その一撃が。
なんとかいなしたつもりなのに、腕にビリビリと残った衝撃。
その衝撃が、傷に響く。
「く…………」
こめかみから、つうっと流れおちた汗。身体が——きつい。
「もう一撃だコラァ!」
重い一撃を、背の翼で宙に飛び上がることで、かろうじてかわす。鼻先を破壊力の塊が通り過ぎた。今度は冷や汗が流れた。
そこへ。
「てめぇが飛ぶんなら——こっちも飛ぶが、文句はねぇよなッ!」
斧の天使が、追いすがる。
さらに一撃。かわしきれない。「シャングリ=ラ」で迎え撃つ。
「くあッ!」
漏れた悲鳴。その両手から、「シャングリ=ラ」が叩き落とされる。
「もうおしまいかぁ? 弱ぇえもんだなぁ」
「負けて……たまるか」
自業自得で陥った結果。こんなところで。こんなところで。
——死んで、たまるか。
が、戦闘に疲弊し、力を失った翼は。いつしか羽ばたくことをやめていた。
落ちていく身体。
目をぎらつかせて追いすがる天使。
「死ねぇッ!」
斧の一撃。宙で身をひねり、かろうじてかわす、が。
「————ぐあッ!」
その一撃は。
彼の翼を。
その、左の、翼を。
——叩き斬っていた。
激痛にうめき、墜落するように墜ちていくフィオル。
もう、身を守るすべも何もない。
傷口から真紅の血を流し、墜ちていくだけ。
それを狙う、斧使い。
——今度こそ、死ぬ。
そんな予感が、彼の全身を震わせた。
「ごめん……ね……兄さん……シア……フェロ……ン……」
涙が、流れた。
自業自得で、死ぬなんて。馬鹿みたいだよ、ね。
「ごめん……」
「——謝るなッッッ!!!!!」
「…………!」
墜ちていく、彼の身体を。
翼を奪われた、天使の、身体を。
下でそっと、受け止める影があった。
「生きているなら——謝るなッ!」
赤と黒の異形の腕。
ああ、兄さんだ。再生させたんだ。
ガイーン! 鈍く響く音。斧の一撃を、フェロンが防いだ。
「お前は寝てろ。弁解なら後で聞く。今はこの敵を倒すのが先決だ。……シア、頼むぞ」
「了解よ!」
リクシアが、フェロンを受け取って地面に寝かせた。
それを見届けて。異形となったアーヴェイが、炎のような瞳で「アバ=ドン」を構えた。
「弟を傷つけた代価、しっかり払ってもらおうか!」
それを見ながらも、リクシアは口の中で唱えていた。
フェロウズ・リリース? いや、違う。あんな優しい魔法じゃない。
リクシアは、怒っていた。大切な仲間が、こんなに傷つけられたことに。
それが、その仲間の自業自得だったとしても。
カキーン! グアーン! 飛び交う剣戟。二方向からの神速の攻めに、斧使いは苦戦しているようだ。
——今が、好機。
リクシアは、唱える。この状況を打破するために必要な、新たな「必殺技」を。
「天空の彼方、神々の御座(みまし)! 星々の光拾い集め、極光の空に投げ入れよ!」
幼いころに聞いた神話を。
「大地の彼方、悪霊の御座(みまし)! 人々の心拾い集め、極夜の空に投げ入れよ!」
つなぎ、合わせて。
「光と心、渦巻け、空に! 千々の流星、降り注げ!」
忘れえぬ、遠い日の空を。鮮やかに思い浮かべて。
「夢見よ、正義! 夢果つ邪悪! 断罪の光よ、今ここに——!」
守り、たいから。
「エンシェンテッド・アウローラ!」
願い、唱えた。
それは、純粋な、光の魔法。
天から流星が降り注ぐ。それは、想いのこもった光。
「誰も——死なせやしないんだからッ!」
そのためには、人殺しだって、厭わない。
それが、「守る」ということだから。
斧の天使は流星に貫かれ。もう、息をしていなかった。
そして。
「リア!?」
フェロンの声。リクシアの身体が大きくよろめいた。
が、今回はしっかりと踏みとどまった。大丈夫、そう簡単に眠ったりはしないから。
アーヴェイが、呆れた顔でこちらを見ていた。
「……なんだか、見せ場だけ取られたような気分だ」
リクシアは苦笑を返した。
「仕方ないじゃない。でも、フィオルは助かったし——」
「そうだ、フィオルッ!」
そのことに思い至って。アーヴェイは寝かせてあるフィオルに駆け寄った。
「フィオル、フィオル!」
真っ白な天使は、その目を閉じていた。
死んではいない、が、命が危うい状況なのは一目でわかる。
これまで。彼の命の危機に際して、彼に驚異的な回復力を与えていた翼は。
——片方が、失われてしまったから。
失われた翼の傷口から、際限なく溢れ出る血。止血をしようと試みても。一向に血は止まらない。
「……他の天使なら何とかなるかも。急いで戻りましょう!」
「…………ああ」
アーヴェイは重たい顔でうなずいて、弟を背負うと駆け出した。
「リア、つかまれ」
フェロンが手を差し出した。
「そんな身体じゃ追いつけない。絶対に手を離すなよ」
差し出された手。しっかりと握る。握ったそこから穏やかに伝わる、温かさ。
大丈夫、戦える。
側に大切な人がいる限り。この温かさがある限り。
「行こうよ、フェロン!」
走り出す。時々もつれそうになる足を、つないだ手がしっかりと導いた。
大丈夫、まだ走れる。
先に希望がある限り。導く手が、ある限り。
◆
「負けを認めるのよ〜」
リルフェリアの喉元に、レイピアがつきだされた。
やってきた天使の増援。大人の剣技を見せつけられて。なすすべもなく、やられていった。
ヴァンツァーもラーヴェルもリリエルも。皆、地に倒れ伏していた。
「まだ……!」
倒れたヴァンツァーが、渾身の力で、倒れたままで剣を薙ぐ。
「甘いのよ〜」
それをひらりと避けたシアラは。靴で彼の頭を踏みつけた。
「ぐッ……」
「無駄な抵抗はおよしなさいな〜。大丈夫、死ぬ時は一瞬だから〜」
笑って、レイピアの矛先をヴァンツァーに変えた。
「やめて!」
「くそっ……ヴァッツ!」
リルフェリアとラーヴェルが悲鳴を上げる。
でもねぇ、とシアラは笑った。
「どうせあなたたち、処刑されるのよ〜? なら、ここで殺したって、何も変わらないわよ、ねぇ?」
笑いながら、彼女は他の天使を見るのだった。
他の天使たちは、無言でうなずいた。
それを見て、シアラは。ヴァンツァーの首の皮を薄く切った。
それでももがこうとする彼を見て、彼女はさらに笑う。
「滑稽よ。あなたたちなんて、生きてる価値ないの〜」
だから、お遊びももうおしまい。
言って、レイピアを大きく後ろに引いた。
「ヴァン!」
「ヴァッツ!」
「ヴァンツァーさぁん!」
仲間たちの悲鳴。
が、その剣が。彼を貫くことは、なかった。
誰もが、忘れていた。
「ォォォォォオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!!!!!」
青い、青い、天使のことを。
暗く、黒い。悪夢の申し子を。
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本格的な戦いが始まりました。みんなはお互いを守るために必死です。
最後に出てきた「青い天使」って……。
次の話をお待ち下さい。
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