ダーク・ファンタジー小説
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- 【本文修正中】SoA 夜明けの演者
- 日時: 2017/10/22 11:26
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=598.png
※ SoAはStories of Andalsiaの略です。
長すぎるので略しました。
※ ただいま本文修正中です。変な所が多すぎたので。
あ、でもたまには番外編も更新しますよ?
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〈導入部〉
柔らかな春風が肌を撫でた。
少女から大人になった彼女はそれに目を開け、草むらに転がらせていた身を起こす。
身を起こして立ち上がれば。輝かんばかりの金色の髪が風に揺れ、彼女の視界にも入ってきた。
春。その季節に、彼女は遠い日を思い起こす。
彼女が「みんな」に出会ったのは秋で、春に「みんな」を失った。
春は暖かくて幸せな季節だけれど。彼女にとって春とは、切なく痛む悲しみの季節でもある。
暖かな春空。優しい空気。その中で彼女は一つ、呟いた。
「……わたし、大人になったよ……?」
大人になる前に死んでしまった仲間を思って、彼女はそっと目を閉じた。
その紫水晶の瞳から、こらえきれぬ涙が一つ、二つ。零れ落ちていって、乾いた地面を濡らす。
彼女の名を、フルージアといった。
——そう、これは彼女、フルージアの物語。
「演者」と呼ばれる特殊な才を持った少女の、最も鮮やかだったころのものがたり——。
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Index
第一部 アスフィラル劇団 >>1-6
序章 フルージアの初舞台 >>1
二章 夜明けの演者 >>2-3
三章 力と未来 >>4-6
第二部 セラン特殊部隊 >>7-20
一章 新しい仲間たち >>7-8
二章 初陣は突風とともに >>9
三章 流転の善悪 >>10-14
四章 切れない絆 >>15-17
五章 束の間の夢だけど >>18-20
第三部 戦乱の彼方に >>21-32
一章 覚悟を決めろ >>21-22
二章 命の序列 >>23-26
三章 天秤に掛けるなら >>27
四章 燃える生き様 >>28-30
五章 爆発の太陽(エクスプロード・サン) >>31-32
エピローグ どんな夜にも…… >>33
あとがき >>34
メロディーのないテーマソング >>35
後日譚 水晶の欠片を透かしてみれば >>36
♪
《番外編1 風色の諧謔(かいぎゃく)》
第一章 始まりのオルヴェイン >>39-44
1 10の誕生日に >>39
2 「化け物」と呼ばれた子 >>40
3 束縛を脱して >>41
4 二人の絆 >>44
第二章 師匠とともに >>45-
1 嵐の瞳 >>45
2 我らレヴィオンの生徒たち! >>46
3 青玉の証 >>47
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どーも、藍蓮です。
今作は、趣味で書いていた話を文芸部に提出したら、「長すぎる」と言われ、40000字も泣く泣くカットする羽目になった話の完全版です。つまり、完成した原型があります。それをちょっと推敲するだけなので……。まぁ、投稿ペースは速いと思いますよ。
それではでは。不思議な世界にご案内♪
(地図を添付しました。URL参照)
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補足 この世界の魔法の仕組み(時々更新?)(すみません、複雑です)
〜アンダルシア魔道原則〜
1 この世界には魔法素(マナ)と呼ばれる、意思を持たないエネルギー粒子が無数に飛び交っている。それは、ある異種族(イデュールの民)以外の目には見えず、通常は人々に認識されないし、ただそこにあるというだけで、別段、人に害を及ぼすものではない。
2 この世界で言う「魔導士」とは、無数に飛び交う魔法素を才能で特定の形に組み、それを破壊することで、空間をゆがませたりひずみを加えたりして高エネルギー体である魔法素に働きかけ、何らかの事象を引き起こす人々のこと。魔法素を組み、破壊することそのものが「魔法」と呼ばれる。
3 魔法素には、それぞれ関与できる事象が異なる一団、通称「属性」がある。魔導士は魔法素を組めないと話にならないが、個人の適性によって、どの「属性」の魔法素が組めるかが大きく異なる。
たとえば「火」の魔導士は「火」の魔法素を組んで火に関する事象を起こせるが、それ以外の魔法素は少ししか扱えない。
とはいえ魔法素の基本は同じで、「属性」はそれにわずかに付与された「特性」みたいなものだから、「火」の魔導士でも、弱い事象ならば「水」や「風」も操れる。
4 この世界で言う「魔力」とは「魔法素を組める力」のこと。これは運動すれば体力が減るのと同じで、魔法を使えば魔力が減る。体力が減れば身体的に疲れるが、魔力が減れば精神的に疲れる。
7 この世界には、「反魔法素(アンチマナ)」と呼ばれる、魔法素よりも大きい、意思を持たないエネルギー粒子がややまばらに飛び交っている。反魔法素には魔法素でつくられた術式そのものを破壊し、ときにはその術者にさえ影響をもたらすことがある。
8 反魔法素は凡人はおろか通常の魔導士でさえ操れないが、操れる者もいるにはいる。彼らは「破術師」と呼ばれ、その存在は非常に貴重である。反魔法素を使えば、呪いの類はもちろん、攻撃魔法や補助・妨害、離脱・移動魔法、発動前の、まだ魔法素を組んだだけで破壊していない魔法すら壊せる。
しかし「破術師」は破術にのみ特化しており、魔法は一切使えない。
9 この世界には、「原初魔法素(オリジンマナ)」と呼ばれる、魔法素と反魔法素の中間ぐらいの大きさの魔法素が存在する。それは、何の属性にも染まっていない魔法素のことで、「属性による事象(発火、突風、落雷など)」が起こせない代わりに、集まることで力を成す。
要は、目に見えぬ拳で殴ったり、目に見えぬ壁で攻撃を受け止めたり、などということが可能。ただし、どれも通常の魔法素に比べると威力が劣るが、その術式は決して破術では破壊できない点が特徴。
10 「原初魔法素」使いは「無属性魔導士」と呼ばれる。属性の一切こもっていない「力の球」などで攻撃をされると対処が難しいため、割と応用範囲は広い。「破術師」ほど稀少ではないが、これを使える者は少ない。無属性魔法は破術での打ち消しができないが、消費魔力が多めの上に、属性魔法よりも威力が劣るので何とも言えない。
結論;三つの魔法素は、どっちもどっちの能力である。
12 特珠職業「魔素使(まそし)」は、魔法素を武器や盾として実体化させて戦うが、それに使われる魔法素は原初魔法素である。要は、無属性魔導士の派生職。魔素使は破術師並みに人数が少ない。
実体化させた武器や盾は、本人の意思によって、あるいは本人の意識の消滅によって消えてしまう。
13 魔法素を組む方法は個人によって異なるが、「詠唱」として言葉に出して行う者が多い。頭の中の考えがバラバラだとできる式もおかしくなるが、言葉に出すことによって、考えに指向性を持たせて正確な式を作る。
詠唱の言葉はその人のアドリブで構わないし、技名をつけるのも勝手なので、特にそのあたりに決まりはない。技や詠唱=人それぞれ、と言ったところか。
19 魔法素は目に見えず、普通は触れられないため、感覚的に組まれる。慣れぬ者は頭の中で式を組んでから術を使うが、慣れた者は頭の中で式を組まなくとも、無意識に術を使える。
魔導士として大切なのは理論ではなく、才能と勘と経験である。理論だけでは魔導士には決してなれない。
26 神も悪魔も精霊も死者も。一定の条件が整えば、人間と契約し、その力を貸し与えることができる。契約の方法はそれぞれ違い、あらゆる決定権は人間でない側にあることがほとんどである。
ちなみに。「召喚」と「契約」は似て非なるものである。
32 神や悪魔、精霊は気まぐれに人間と契ることがある。(ときには逆、あるいは相互もある)これを「契約」と呼ぶ。
「契約」は召喚ほどの強制力はないため、互いに信頼し合っていることが大切である。(人間の上位に当たる存在から契約を迫ってきた場合、信頼がなくとも契約できる)
33 人間の力には「魔力」「体力」「生命力」の三つがある。わかりやすくたとえてみよう。
ここに一つの器があるとする。その真ん中には仕切りがあり、左右それぞれ別の液体が満たされているとする。このうちの片方が「魔力」、もう片方が「体力」、器そのものが「生命力」である。
この中で「魔力」が減って(使われて)も、仕切りがあるため「体力」は減らない。その逆もしかり。ただし、人によって「魔力」と「体力」の配分は異なる。つまり、仕切りが偏っていることがある。
しかし、「生命力」、つまり器そのものが削れたり欠けたりすれば、「魔力」も「体力」も、満たすことのできる絶対量が必然的に減る。いくら「液体」があろうとも、「器」が小さければあふれるばかりで、全てを収めることはできないのだから。
「生命力」すなわち「生きる力」である。だから、これがなくなれば人は死ぬ。「死」はいわば、「器が砕ける」ことである。
【ごちゃごちゃしてきたし、本編に関係のない原則も出てきたので、いずれ整理します……】
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速報!
2017/8/31 この作品が、小説大会ダークファンタジー部門で、次点を獲得しました!
いえ、次点ですけどね。あくまでも次点。
ですが、本当に、心から嬉しく思ったので!
皆様、ありがとうございました!(うれし泣き)(号泣)
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2017/8/17 連載開始
2017/9/12 本編終了
2017/9/24 番外編1 風色の諧謔 開始
- 夜明けの演者 1‐1 ( No.1 )
- 日時: 2017/10/11 23:55
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=599.png
4300文字……。
長いです。
読むときは余裕を持ちましょう。
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第一部 アスフィラル劇団
序章 フルージアの初舞台
♪
生まれた時から一人だった。傍には誰もいなかった。覚えているのは名前だけ。フルージアという名前だけ。ずっと一人で生きてきた彼女は昔から、「演じる」ことだけは得意だった。
そんなある日、セラン王国のカウィダという町に足を踏み入れた彼女は、運命に出会った。
「皆様、皆様! まもなくアスフィラル劇団の公演が始まります! 演目は『封神の七雄』! フィラ・フィアと荒ぶる神々の物語! 飛び入りでも構いません、皆様どうぞご覧下さーい!」
前々から劇が大好きだったフルージア。劇はそこの劇場でやっているらしい。フルージアは迷わず場内に入ると、居並ぶ人々を押しのけて最前列に陣取った。
やがて劇は始まる。
演目は「封神の七雄」。遥か昔、「荒ぶる神々」が地上の人間たちをしいたげていたころ。「舞師」フィラ・フィアをはじめとする七人が、彼らを封じんがために立ち上がった物語。正史ではフィラ・フィアは戦神ゼウデラだけは封じられなかったというが、劇ではすべて封じられたことになっている。正史はあまりにも報われない物語なので、劇のためにシナリオが手直しされたのだ。
「崇高たる舞神」フィラ・フィア、「自在の魔神」エルステッド、「白蝶の死神」シルーク、「陽光の破神」ユーリオ&「清水の封神」ユレイオの双子、「天駆ける剣神」ヴィンセント、「奔放なる嵐神(らんしん)」レ・ラウィ。彼らを合わせて「封神の七雄」という。
それはとても有名な劇だから、フルージアは何回も観たことがある。それでも飽きないのは、それが正史に基づいた、めくるめく人間ドラマだからだ。
フルージアはわくわくしながらも、劇に見入り続けた。
♪
がたん、と音がした。
フルージアははっとなる。
見ると、フィラ・フィア役の役者が青い顔をしてうずくまっていた。突然のことに辺りは騒然となる。
「皆様落ち着いて下さい! 休み時間をとります! 次は第八幕『戦神の宴』からです!」
エルステッド役の人が叫び、あわてて幕が閉じられる。こういうことは時々ある。早く再開しないと不満がたまってしまうのだが。
しかし主役が途中で倒れて、何とかなるものだろうか?
不安を感じた時だった。一つの手が、手招きしているのをフルージアは見た。
その手は小さくささやいた。
「きみ、ちょっとそこのきみだよ! いきなりだけど、劇を演じてみたいとは思わないかい?」
「……へ?」
声は小さかったが、とても慌てているような感じがした。
「いいからさ、倒れてしまったフィラ・フィアの代わりに、君がフィラ・フィアになってくれると大助かりなんだけど! 君は見込みがある! 即席でも何とかなるさ! 後生だから!」
声に悲壮感が混じる。しかし、何でいきなりわたしに? 確かに最前列の端にはいたけれど……。訳がわからなかった。
「え? でも……」
「お願いだから!」
声は拝むような調子になる。役が倒れたら確かに誰かが代わらなければならないわけだが、初心者のフルージアでもできるのだろうか? しかも主役だし。
「劇を最後まで終わらせよう! 君ならできる! さあ!」
そこまで言われては行くしかあるまい。フルージアは招く手に向かって、一歩を踏み出した。
それが未来への一歩だとは、知らずに。
♪
「すまないね、急なことになって。でも僕の目に狂いはないと思うよ。残るはたった二幕だけ。即席でも何とかなるだろうさ」
フルージアを誘った人物の名はウォルシュ・アスフィラル。なんと、アスフィラル劇団の団長だった。
「これから役をしっかり教えるから。九十分くらいで覚えてくれると助かるんだが……。まあ、初心者に無理は言わないさ」
ちなみに倒れた人はエルナというらしい。
「彼女は最近病気がちでね……。代わる人を探しているんだが、いまだ見つからず、さ。地道に頑張るしかないかな」
じゃ、と彼は言った。
「台本を渡すからしっかり覚えてね。僕の目に狂いはない! 期待しているよ」
かくして、練習が始まった。
♪
「戦神ゼウデラ! もう、あなたの好きな様にはさせないわ! あなたはわたしたち『封神の七雄』が滅ぼすのよ!」
「おおっ! あの娘、見込みがあるじゃないですか! たった九十分のレッスンで、あそこまでうまく演じられるとは! やはり団長の目に狂いはなかった!」
「いや〜、傑物を引き抜いたもんだ。あの子を我が団に正式に勧誘できればいいんだけどねぇ」
それから約一時間半後。急なレッスンを終えたフルージアは、晴れて生まれて初めての舞台に立っていた。
「返してよ! 返しなさいよゼウデラッ! あなたの奪った数多の命を! あなたの歪めた運命を! できないのならば今ここで! おとなしく封じられなさいッ!」
フィラ・フィア役(フルージア)が叫ぶと、ゼウデラ役がそれに応える。
「だが断る! 貴様如きが知るまいよ? 戦を呼ぶ! 戦を呼ぶことの楽しさを! 喜びを! 足掻く人間どもを見ることの、なんという至福か! そもそも貴様如きがこの強大なる我を封じられるものか!」
それに反論するはエルステッド=ウォルシュ。
「あなたは知らない! 我らが『封神の七雄』の強さを! 強さとはただ力があるというだけではない! だから見せてやる! 本当の強さという奴を!」
「独りでずっと戦ってきたあなたは知らないはずだ。僕も彼女らに会うまではそうだった。その力とは——」
「——絆だ。それを知れゼウデラッ!」
シルーク役の言葉をヴィンセント役が引き継ぎ、戦いが始まる。
どの人も皆、それぞれの役に深くのめり込んでいた。
♪
「ま さ か…… この 我 が …… 人間 如 き に 負け る と は ……ッ!」
やがて闘いの決着はつき、ゼウデラ役は倒れたきり、ぴくりとも動かなくなる。しかしフィラ・フィア側も、残っているのはフィラ・フィアただ一人のみ。他は皆、ゼウデラにやられてしまったのだ。
そこまでかの神は強く、決して犠牲なしでは倒せない。
ゆえに封じる必要があったが、その結果がこれだ。
フルージア=フィラ・フィアは、涙を流しながらつぶやいた。
「封じられた……わたし、封じられたよ?」
動かぬゼウデラ役の身体には、次々と光の帯が巻きついて行く。無論、すべて、魔導士の作りだした幻影だ。
フルージア=フィラ・フィアはうずくまり、自らの体を抱いた。
「でも私、勝ったのに……勝ったのに、こんなに悲しいのは何故……? エルステッド、シルーク、ヴィンセント……。みんな、みんな、死んじゃった! わたしだけ残ってもさあ、意味ないじゃないの!」
この場面は、独白だ。生き残った者のモノローグだ。
「悲しいよ。帰ってきてよ、ねえ……。返してよ」
そうして照明が落とされて、場面は次へと移行する。
フルージアの演技は真に迫っていて、誰もが思わず涙をこぼした。
そして——
♪
「わたくしフィラ・フィアは、只今すべての任務を果たしましたことをここに報告いたします」
古王国カルジアの王宮で。そう報告したフルージア=フィラ・フィアは、王のもとを去る。
目指すは丘。死ぬ前の「七雄」たちとともに、わずかな時を過ごし、友誼を結んだ思い出の丘。何よりも輝かしい記憶の眠る、約束の地。
そこには墓がある。散っていった「七雄」たちの墓が。
それらの墓は円を描くように並んでいて、その中心には大樹の苗木があった。
その苗木の傍らに立ち、彼女は祈るような仕草をする。
「エルステッド、シルーク、ヴィンセント、ユーリオ、ユレイオ、レ・ラウィ! わたし、果たせたよ? みんなみんな死んじゃったけど! あなたたちの願った世界が、ようやくこれから訪れるのだわ! 死んじゃっても、その願いはわたしが引き継いだからさ!」
その顔は、涙に濡れていた。
「——安心して、眠ってね……!」
その場面を最後に、幕が閉じられていく。ナレーションが聞こえた。
「かくして荒ぶる神々は封じられ、以降、我らの生活に神が干渉してくることはなくなりました。フィラ・フィアは多くのものを失いましたが、その犠牲があったからこそ、今の私たちがあるのです。『封神の七雄』たちの犠牲は決して無駄ではありませんでした……! これにて劇、『封神の七雄』を終わりにいたします。皆様、ご観劇ありがとうございました!」
幕が再び開けられ、小道具も何もなくなった舞台で、役者紹介が行われ——。
「最後に! 我らがゲスト、フルージア嬢! 盛大な拍手をお願いします!」
とても大きな拍手に見送られながらも、フルージアは退場する。
こうして、彼女の初舞台は終わったのだった。
♪
「いやー、すごかったよ! きみ、劇で役を演じるのは初めてなんだろ? なのにあれほどの出来とはねえ。驚いたよ」
すべて終わり客が帰った後の舞台裏で。フルージアは皆に褒めちぎられた。ちなみに今、フルージアはフィラ・フィアの衣装を脱ぎ、薄汚れた普段着に戻っている。
「わたしだってあそこまで出来るとは思ってませんでした。周りの雰囲気でいつの間にか、フィラ・フィアになったような気がしただけですよ。『あれほどの出来』なんて過ぎた言葉です」
そう答えると、団長ウォルシュはううんと首を振った。
「初めてで役にあれほどのめりこめる人はそうそういないんだよ。君は素晴らしい才能だ! よかったら我が団に、是非来てくれないかい?」
友好的に差し出された手を見て、フルージアははっとなる。
フルージアには身寄りがない。住むところがない。お金を稼ぐ手段がない。そんな事情を向こうは無論知らないだろうけれど、劇団に入れば最低限、お金の問題は解決される。
それにフルージアは、短い初舞台で強く思ったのだ。自分は劇が好きだと。好きなことが仕事になれば、どんなにうれしいだろう?
フルージアは決めた。
「お誘いをくださるのでしたら……。あなたたちの劇団に入りたいと思います。わたし、演じるのが好きなんだって、今回の舞台でしっかりとわかりました! 入れてください!」
フルージアが差し出された手を握ると、劇団の皆が湧いた。
「やったあ! 未来の新星獲得だぜ!」
「これからよろしくねっ、フルージアちゃん!」
「さすが団長! やりましたねえ!」
みんながみんな、彼女を歓迎していた。これまでずっと一人で生きてきた彼女には馴染みのない感覚で、少しむずがゆかった。
「よろしくお願いしますっ!」
運命が回り始める。
♪
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- 夜明けの演者 1-2-1 劇団の毎日 ( No.2 )
- 日時: 2017/10/12 00:01
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
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二章 夜明けの演者
1 劇団の毎日
♪
「神よ聞け! 我が名はフィラ・フィア、封神の七雄なり!」
「ちょっとストップ! フルージア、手をさ、もっと勢いよく振るんだ。キレがない」
「了解しました! っと、あの時はアドリブだったけど……。案外難しいのね、演じるのって」
それから数日。フルージアは劇団のみんなから、劇の手ほどきを受けていた。
「じゃ、もう一回やるわね。——神よ聞け! 我が名はフィラ・フィア、封神の七雄なり! ……これでどうかしら?」
「オーケーオーケー! やっぱり君は筋がいいね! 教えるのが楽しいよ!」
「お褒めにあずかり光栄ですわ。っと、もうこんな時間。休憩にしません?」
フルージアが提案すると、皆嬉しそうに頷いた。
劇団に入ってまだ日は浅いが、ある程度のメンバーの名は覚えた。
奥で忙しそうにしているのが団長のウォルシュ。その隣で作業を手伝っている、気の強そうな少女がその娘のルーシュ。いそいそとお盆に乗ったおやつを運んできたのがルルカ。
どこにも居場所のなかったフルージア。でも、今は居場所があるから。とても幸せで満ち足りていた。
「焼き菓子を作ってみましたよー。冷めないうちに召し上がれ」
ルルカの言葉にみな我も我もとお菓子を取り合う。
穏やかな光景だった。
「はい」
小皿に乗ったクッキーが差し出された。フルージアは礼を言って受け取る。
「群がっている人たちはほっときますね〜。わたしが直接配るのは、そうしない人だけ」
いたずらっぽく微笑む彼女は料理が得意。劇場には料理をつくる設備なんてないのだが、彼女の家は劇場から近く、時々こっそり抜け出してはこういったものを作ってくれる。
彼女はフルージアにお菓子を配り終わると、お菓子の皿を持って、ウォルシュとルーシュの方に向かっていった。
♪
その後。ささやかなおやつタイムが終わると、また劇の練習が始まる。ちなみに先ほどの「封神の七雄」の練習は実はダミーで、本当の練習は「蒼穹と太陽」だったりする。この物語は今から二万年前という設定で、闇の神から「空」をもらったとされる伝説のある、とある人物の劇である。「封神の七雄」の練習は、動きの練習のためにやったにすぎない。
ちなみにこの劇の主人公はフィレグニオという少年なのだが、「性別が違っても問題ないさ!」ということで、女の子であるフルージアがその役に抜擢されている。彼は闇神ヴァイルハイネンに不老不死をもらい、実質上の空の支配者となったという話だが、真偽のほどは確かでない。そもそも今生きているとしたって、空の果てなんて確かめようがないのだから仕方がない。
さてさて練習が始まる。
「昔々、フィレグニオという少年がいました。彼は空にひどく憧れていました」
ナレーターが喋り、次はフルージアの番である。台本はまだ全部覚えきれてはいないが、最初のところは大丈夫だ。
「僕はこの空を自由に飛びたい! たとえ戦乱の中でだって、空だけは綺麗なままだから!」
その背には翼(無論作りものだが)が生えている。フィレグニオは突然変異で生まれた子で、なぜかその背には生まれつき翼があったという。彼がのちの翼持つ民「アシェラルの民」の祖先となる。
喋ったあとは舞台から去り、代わりにヴァイルハイネン役のジェルダが現れる。彼の衣装は特別製だ。鴉の姿を好むとされる闇神に合わせて、衣装も鴉を模したものになっているのだ。
彼は、独白する。
「この世界に生まれ落ちて幾千年。地上界というところに来たが、なんだ、この荒廃は? 人間なる種族はなんと醜いのだ! こんなものをわざわざ生み出すとは!」
その言葉の次は再びナレーション。
「その時代は、戦乱の絶えることのない時代でした。国境線は毎日というもの書きかわり、地図なんて何の役にも立たない時代でした。闇神が呆れるのも当然です。人間の、なんて醜かったことか! 我々は……えーと、次の言葉はなんでしたっけ?」
「……覚えてないのかい」
呆れたようにウォルシュが苦笑した。ナレーター役のテッドはううんと首を振った。
「一瞬飛んでました! 今思い出しました。我々は戦う以外のことを知らなかったのです!」
「練習だからまだいいけどね。本番は気をつけてね」
「はいっ! じゃ、次は脇役さんたち、お願いします!」
「反省の言葉はないのかい……」
そんなふうにして日々は過ぎた。
ウォルシュが演目を決めて台本を書き、小道具大道具が背景やこまごましたものを作り(定番の劇に使うものは、以前に使ったものの修理だけで良い)、照明や音響役の魔導士たちが場面に合う光や音を試行錯誤し、その中で役者が演じる。演劇は役者だけで成り立つものではないのだとフルージアは理解し、そして劇を演じながらも、これが自分の天職だと強く感じるようになった。
劇団の皆はフルージアにとても優しかった。この劇団こそがフルージアの帰る場所だった。
しかしフルージアは、自分が家なしだとは言いだせなかった。みんなを心配させたくなかったのだ。彼女のねぐらは劇団に出会ってからは劇場の裏手になったが、それを知る者は彼女以外にいなかった。
そんなある日、彼女は気づいたのだ。
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