ダーク・ファンタジー小説

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【本文修正中】SoA 夜明けの演者
日時: 2017/10/22 11:26
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=598.png

※ SoAはStories of Andalsiaの略です。
  長すぎるので略しました。

※ ただいま本文修正中です。変な所が多すぎたので。
  あ、でもたまには番外編も更新しますよ?

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 〈導入部〉


 柔らかな春風が肌を撫でた。
 少女から大人になった彼女はそれに目を開け、草むらに転がらせていた身を起こす。
 身を起こして立ち上がれば。輝かんばかりの金色の髪が風に揺れ、彼女の視界にも入ってきた。

 春。その季節に、彼女は遠い日を思い起こす。

 彼女が「みんな」に出会ったのは秋で、春に「みんな」を失った。
 春は暖かくて幸せな季節だけれど。彼女にとって春とは、切なく痛む悲しみの季節でもある。
 暖かな春空。優しい空気。その中で彼女は一つ、呟いた。

「……わたし、大人になったよ……?」

 大人になる前に死んでしまった仲間を思って、彼女はそっと目を閉じた。
 その紫水晶の瞳から、こらえきれぬ涙が一つ、二つ。零れ落ちていって、乾いた地面を濡らす。
 彼女の名を、フルージアといった。


 ——そう、これは彼女、フルージアの物語。

 
 「演者」と呼ばれる特殊な才を持った少女の、最も鮮やかだったころのものがたり——。


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 Index

 第一部 アスフィラル劇団 >>1-6

 序章 フルージアの初舞台 >>1
 二章 夜明けの演者 >>2-3
 三章 力と未来 >>4-6

 第二部 セラン特殊部隊 >>7-20
 
 一章 新しい仲間たち >>7-8
 二章 初陣は突風とともに >>9
 三章 流転の善悪 >>10-14
 四章 切れない絆 >>15-17
 五章 束の間の夢だけど >>18-20

 第三部 戦乱の彼方に >>21-32

 一章 覚悟を決めろ >>21-22
 二章 命の序列 >>23-26
 三章 天秤に掛けるなら >>27
 四章 燃える生き様 >>28-30
 五章 爆発の太陽(エクスプロード・サン) >>31-32

 エピローグ どんな夜にも…… >>33

 あとがき >>34
 メロディーのないテーマソング >>35
 後日譚 水晶の欠片を透かしてみれば >>36


  ♪


《番外編1 風色の諧謔(かいぎゃく)》


 第一章 始まりのオルヴェイン >>39-44

 1 10の誕生日に >>39
 2 「化け物」と呼ばれた子 >>40
 3 束縛を脱して >>41
 4 二人の絆 >>44


 第二章 師匠とともに >>45-

 1 嵐の瞳 >>45
 2 我らレヴィオンの生徒たち! >>46
 3 青玉の証 >>47


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 どーも、藍蓮です。

 今作は、趣味で書いていた話を文芸部に提出したら、「長すぎる」と言われ、40000字も泣く泣くカットする羽目になった話の完全版です。つまり、完成した原型があります。それをちょっと推敲するだけなので……。まぁ、投稿ペースは速いと思いますよ。

 それではでは。不思議な世界にご案内♪

(地図を添付しました。URL参照)


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 補足 この世界の魔法の仕組み(時々更新?)(すみません、複雑です)

 〜アンダルシア魔道原則〜


1 この世界には魔法素(マナ)と呼ばれる、意思を持たないエネルギー粒子が無数に飛び交っている。それは、ある異種族(イデュールの民)以外の目には見えず、通常は人々に認識されないし、ただそこにあるというだけで、別段、人に害を及ぼすものではない。

2 この世界で言う「魔導士」とは、無数に飛び交う魔法素を才能で特定の形に組み、それを破壊することで、空間をゆがませたりひずみを加えたりして高エネルギー体である魔法素に働きかけ、何らかの事象を引き起こす人々のこと。魔法素を組み、破壊することそのものが「魔法」と呼ばれる。 

3 魔法素には、それぞれ関与できる事象が異なる一団、通称「属性」がある。魔導士は魔法素を組めないと話にならないが、個人の適性によって、どの「属性」の魔法素が組めるかが大きく異なる。
 たとえば「火」の魔導士は「火」の魔法素を組んで火に関する事象を起こせるが、それ以外の魔法素は少ししか扱えない。
 とはいえ魔法素の基本は同じで、「属性」はそれにわずかに付与された「特性」みたいなものだから、「火」の魔導士でも、弱い事象ならば「水」や「風」も操れる。

4 この世界で言う「魔力」とは「魔法素を組める力」のこと。これは運動すれば体力が減るのと同じで、魔法を使えば魔力が減る。体力が減れば身体的に疲れるが、魔力が減れば精神的に疲れる。

7 この世界には、「反魔法素(アンチマナ)」と呼ばれる、魔法素よりも大きい、意思を持たないエネルギー粒子がややまばらに飛び交っている。反魔法素には魔法素でつくられた術式そのものを破壊し、ときにはその術者にさえ影響をもたらすことがある。

8 反魔法素は凡人はおろか通常の魔導士でさえ操れないが、操れる者もいるにはいる。彼らは「破術師」と呼ばれ、その存在は非常に貴重である。反魔法素を使えば、呪いの類はもちろん、攻撃魔法や補助・妨害、離脱・移動魔法、発動前の、まだ魔法素を組んだだけで破壊していない魔法すら壊せる。
 しかし「破術師」は破術にのみ特化しており、魔法は一切使えない。

9 この世界には、「原初魔法素(オリジンマナ)」と呼ばれる、魔法素と反魔法素の中間ぐらいの大きさの魔法素が存在する。それは、何の属性にも染まっていない魔法素のことで、「属性による事象(発火、突風、落雷など)」が起こせない代わりに、集まることで力を成す。
 要は、目に見えぬ拳で殴ったり、目に見えぬ壁で攻撃を受け止めたり、などということが可能。ただし、どれも通常の魔法素に比べると威力が劣るが、その術式は決して破術では破壊できない点が特徴。

10 「原初魔法素」使いは「無属性魔導士」と呼ばれる。属性の一切こもっていない「力の球」などで攻撃をされると対処が難しいため、割と応用範囲は広い。「破術師」ほど稀少ではないが、これを使える者は少ない。無属性魔法は破術での打ち消しができないが、消費魔力が多めの上に、属性魔法よりも威力が劣るので何とも言えない。

 結論;三つの魔法素は、どっちもどっちの能力である。

12 特珠職業「魔素使(まそし)」は、魔法素を武器や盾として実体化させて戦うが、それに使われる魔法素は原初魔法素である。要は、無属性魔導士の派生職。魔素使は破術師並みに人数が少ない。
 実体化させた武器や盾は、本人の意思によって、あるいは本人の意識の消滅によって消えてしまう。

13 魔法素を組む方法は個人によって異なるが、「詠唱」として言葉に出して行う者が多い。頭の中の考えがバラバラだとできる式もおかしくなるが、言葉に出すことによって、考えに指向性を持たせて正確な式を作る。 
 詠唱の言葉はその人のアドリブで構わないし、技名をつけるのも勝手なので、特にそのあたりに決まりはない。技や詠唱=人それぞれ、と言ったところか。

19 魔法素は目に見えず、普通は触れられないため、感覚的に組まれる。慣れぬ者は頭の中で式を組んでから術を使うが、慣れた者は頭の中で式を組まなくとも、無意識に術を使える。
 魔導士として大切なのは理論ではなく、才能と勘と経験である。理論だけでは魔導士には決してなれない。

26 神も悪魔も精霊も死者も。一定の条件が整えば、人間と契約し、その力を貸し与えることができる。契約の方法はそれぞれ違い、あらゆる決定権は人間でない側にあることがほとんどである。
 ちなみに。「召喚」と「契約」は似て非なるものである。

32 神や悪魔、精霊は気まぐれに人間と契ることがある。(ときには逆、あるいは相互もある)これを「契約」と呼ぶ。
 「契約」は召喚ほどの強制力はないため、互いに信頼し合っていることが大切である。(人間の上位に当たる存在から契約を迫ってきた場合、信頼がなくとも契約できる)

33 人間の力には「魔力」「体力」「生命力」の三つがある。わかりやすくたとえてみよう。
 ここに一つの器があるとする。その真ん中には仕切りがあり、左右それぞれ別の液体が満たされているとする。このうちの片方が「魔力」、もう片方が「体力」、器そのものが「生命力」である。
 この中で「魔力」が減って(使われて)も、仕切りがあるため「体力」は減らない。その逆もしかり。ただし、人によって「魔力」と「体力」の配分は異なる。つまり、仕切りが偏っていることがある。
 しかし、「生命力」、つまり器そのものが削れたり欠けたりすれば、「魔力」も「体力」も、満たすことのできる絶対量が必然的に減る。いくら「液体」があろうとも、「器」が小さければあふれるばかりで、全てを収めることはできないのだから。
 「生命力」すなわち「生きる力」である。だから、これがなくなれば人は死ぬ。「死」はいわば、「器が砕ける」ことである。


【ごちゃごちゃしてきたし、本編に関係のない原則も出てきたので、いずれ整理します……】

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 速報!

 2017/8/31 この作品が、小説大会ダークファンタジー部門で、次点を獲得しました!
 いえ、次点ですけどね。あくまでも次点。
 ですが、本当に、心から嬉しく思ったので!

 皆様、ありがとうございました!(うれし泣き)(号泣)

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 2017/8/17 連載開始
 2017/9/12 本編終了
 2017/9/24 番外編1 風色の諧謔 開始

夜明けの演者 1-2-2 目覚めた才能  ( No.3 )
日時: 2017/10/12 00:08
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 
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 2 目覚めた才能


  ♪


 そんなある日、彼女は気づいたのだ。自分の才能に。

 
 その日の夜。彼女は劇場の裏手のねぐらで、役の練習をしていた。

「見えざる剣は闇を断ち、見えざる盾は我らを守る!」

 「封神の七雄」の劇の、「自在の魔神」エルステッドの役である。
 彼は何もないところから剣や盾を即席で生み出す「魔素使」(まそし)の才を持っていた。その才さえあれば剣も盾も不要。必要になったらその手を振って生み出せば、実体があり、本当に人を切れる切れ味鋭き剣と、実際に攻撃から身を守れる盾を、空気中に漂う魔法素マナから作り出すことができるのだから。
 無論、ただの少女たるフルージアに魔素使の才はない。なのに——。

 『エルステッドになったつもり』で両の手を振った。すると。

 彼女の右手には剣が。
 彼女の左手には盾が。
 
 実用に耐えそうな両者が、彼女の動きに合わせて現れたのだった。

「え、ええっ!? な、なに? なによぅ」

 あわてて両の手を振ると、それらは消えた。
 しかし手にはそれらの感触がまだ残っている。すなわち、剣と盾を握っていたという感触が。
 実際の劇では、魔素使の攻撃は幻影の魔導士がそうと見せかけるだけで、ここまでリアルにはっきりとやるには、本物の魔素使でもいないと無理である。ただし、魔素使はとても希少だ。こんなところに現れるとは思えない。
 つまり、フルージアは。
 エルステッドになったつもりになるだけで、実際の魔素使の能力を発現させたのだった。
 フルージアはもう一度手を振ってみるが、今度は何も現れない。
 ならば、と息を吸って、もう一度エルステッドの台詞を叫ぶ。

「見えざる剣は闇を断ち、見えざる盾は我らを守る!」

 すると。

 右手には剣が。
 左手には盾が。

 魔素使の才能なんてないのに、冷たい金属の感触とともに、彼女の両の手に現れた。
 その次の台詞を叫んでみる。

「荒ぶる神よ、我らが『封神の七雄』の裁きを受けよ!」

 一歩踏み出して剣を振った。重い。確かな感触。それは偶然にも、目の前に落ちてきた葉を切った。


 葉 を 切 っ た 。


 これは幻影ではない。偽りではないのだ。

 現れた剣の重さに引き摺られてたたらを踏みながらも、フルージアはいまだ信じられず、他の役をやってみることにした。手を振って剣を消す。それでも、先ほど切った葉は元に戻らない。元に戻らなかった。
 フルージアは息を吸い、次の役を、やる。

「空の支配者に、なるんだ!」

 役をやる瞬間だけ、感覚は氷のように研ぎ澄まされ、それ以外のことは考えられなくなる。「蒼空の覇者」フィレグニオになりきった彼女の背には翼が生え、知らず羽ばたく。

「っと! わ、わっ!」

 我に返った彼女は、翼を制御しきれずに転んだ。
「さ、流石に慣れないなあ……」
 空を飛ぶなんて初めてなのだから、失敗するのは当たり前だ。それでも、やってみればもしかして? もう一度、背に神経を集中させて。持ったこともない翼で、飛んだこともない空を飛ぼうと試みる。

 背の翼が何度も羽ばたき、風を生んだ。そして。

「わ、わあっ!」

 ふわりと体が浮いた。また転ぶ。けれど!

「私……飛べた?」

 そのことに呆然としていたら、翼は消えた。
 最早疑いようがない。どう言えばいいのか分からないけれど、自分には「才能」があるのだ。『役になりきればその役に応じた能力が得られる』といった才能が。エルステッドの役をやれば魔素使になり、フィレグニオの役をやれば空さえ飛べる。その才能は恐るべきものだった。

「演じれば、何にだってなれる……」

 後日、彼女はその才能を「演者」と便宜上呼ぶことになる。

 「夜明けの演者」が今ここに、誕生した。

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夜明けの演者 1-3-1 栄光の花形 ( No.4 )
日時: 2017/10/12 00:19
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

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 三章 力と未来


 1 栄光の花形


  ♪

 
 本当にその役が今この場に存在するかのような劇をするので、フルージアはアスフィラル劇団の花形スターとなった。その役のハマりっぷりは実に見事なもので、なんと、セランの王族すらもお忍びで見に来たほどらしい。
 フルージアが来る前はルーシュが花形だったが、今やルーシュなど見向きもされず、フルージアの人気だけがうなぎ上りに上がっていく。
 それに対してルーシュは、

「まだあなたに負けたってわけじゃないからね! あたしの方が古顔、あなたなんてすぐに抜かしてやるんだから! ヒロインも花形もあたしのものよ!」

 などと対抗心を燃やしてはいたが、普段からそこまで仲が悪いというわけでもないので、純粋なライバルとして見ているだけだろう。きっと悪意はない。
 またウォルシュは、

「君のおかげで大助かりだよ。本当にいい役者さんだなぁ!」

 なんて、なんのてらいもなく、フルージアをひたすらに褒めていた。
 ちなみに「才能」のことはまだ皆に明かしてはいない。余計なことは言わない方がいいのだ。この「才能」については、劇場の裏手で夜な夜な練習して磨きをかけてはいるが、声だけ聞くと「熱心な役者さんだなあ」くらいにしか思われないので好都合である。最近の悩みごとは、劇をやっている最中に、望みもしないのに勝手に「才能」が発現してしまうことだが、今のところはひどいアクシデントは起こっていない。何とかごまかせる範囲内で起こっているので、まあ、大丈夫だろう。
 今日だって。

「空の支配者に、なるんだ!」

 一歩踏み出したその背に幻影の翼を生やし、フルージア=フィレグニオは宙返りする。軽業は得意だ。観客席から歓声が上がる。
 するとそれに応えて、ヴァイルハイネン=ジェルダが姿を現す。

「貴公の望み、他の者共とは違うようだな。其は何ゆえ空を望むか」
「空は美しいからだ! この戦乱の世にあってさえ! それを問う君は誰だ!」

 対する彼は、カラスの翼のごとき衣装を翻して、朗々と名乗る。

「我が名は闇神ヴァイルハイネン! 闇神ゼクシオールの弟神。極夜司る闇夜のカラス、風の体現者、異界の渡し守なり! 今宵は興味の赴くまま地上にやってきたまでだ。人間よ、我に会いしことを幸運と思え!」

 それにフィレグニオは疑念を示す。

「神様だからといって偉いわけではないさ! ならば願いを叶えてくれるか?」
「空を支配するだと? 戯言を! 空には空の神がいる! 人間如きが空の支配者になれるなどと、思い上がるのはやめることだな」

 するとフィレグニオは歌い出すのだ。自分の空への強き思いを。
 役は男だけれど、綺麗なソプラノの声が流れだす。


   ああ、空よ! あなたはいつも美しく! けがれなく!
   その目の下に戦はあれど、あなたはいつも、変わりなく!
   広き空、青き空、時に曇れど醜くはならず!
   あなたのもとを自由に舞いたい! あらゆるくびきから解き放たれて!
   ああ、空よ! 美しき空よ!
   あなたのもとに、永遠(とわ)の平穏あれ


 そして劇はまだまだ続き、やがてヴァイルハイネンは、フィレグニオについて行くことになる。彼が真に空の支配者たるか、その資質を見極めるために。そんな旅は七年も続き、七年後、ヴァイルハイネンはフィレグニオに、不老不死とずっと疲れない翼を与え、喜びの歌を歌いながらもフィレグニオは退場、劇は終わる。この物語に悲しみの要素はない。
 
 しかし、フルージアは知らなかった。今回のこの劇に。

 

 ——彼女の未来に大きく関わる人物が来ていた、なんてね。
 


 かくも運命は不思議なものであり、また、偶然的なものなのだ。

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夜明けの演者 1-3-2 没落の始まり ( No.5 )
日時: 2017/10/12 00:24
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

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 2 没落の始まり


  ♪

 
 「蒼穹と太陽」を演じる途中、フルージアは一回だけかなりまずいミスをした。
 否、それは致命的なミスだった。そのミスのせいで、何もが壊れることになろうとは。

 主人公のフィレグニオは当時、嵐と風の魔導士だった。彼は嵐を起こす力を持っていた。
 その劇に、こんな場面があるのだ。
 それは、フィレグニオとヴァイルハイネンが歌に詠唱を乗せて、大いなる風を巻き起こす場面。その風によって淀んだ空気が吹き払われ、一瞬、人々は争いを忘れる場面。

 フルージア=フィレグニオとジェルダ=ヴァイルハイネンの二重唱が始まる。


   風よ嵐よ、吹き払え!
   戦場(いくさば)の雲、血の混じる風!
   我は空と嵐の申し子! 蒼空の覇者、フィレグニオ!

   淀みを闇を、吹き払え!
   飛び交う悲鳴と断末魔!
   我は闇と嵐の申し子! 極夜の鴉、ヴァイルハイネン!


 その言葉に誘われるようにして風が吹き、淀んだ空気を押し流すストーリーなのだが、吹いてきた風は強すぎた。さまざまな効果を担当する役の魔導士でも、そんな勢いの風は呼んでいなかった。
 フルージア=フィレグニオがその詠唱を終えた途端、雷鳴がとどろいて風が吹き荒れたのだ。
 それを起こしたのはフルージア。役に没頭するあまり、知らず「演者」の力を出してしまった。気づいた時には混乱が起こりはじめ、フルージアはあわてて力を消したが。困った事態になったのは確かである。

 その後、その「事件」は乱気流のせいとか言うことになったが、フルージアは自分の力を恐れはじめた。劇のクオリティを上げるには本気で役に没頭しなければならないが、そのたびに「力」が暴発し、いつか誰かを傷つけてしまったら。そのときはどうなるんだ? 誰もフルージアの「力」なんて知らない。罪悪感と恐怖を抱えたまま、ずっと生きていくことになるのか?

 輝かしい日々は砂でできた塔の如く。消えていく幻影ヴィジョンが目に映る。

 劇団のみんなを傷つけてしまうのは嫌だけど、こんな変な力を持っていると知られて、ひどい目に会うのもまた嫌だ。だからと言って劇団を抜けても、その先に未来はない。劇団にいても、未来はない?
 フルージアの悩みは深く、いつの間にか、かつてのように役に没頭することはできなくなっていた。しないのではない、できないのだ。誰かを傷つけることへの恐怖から、できなくなってしまったのだ。
 そして観客は役にうるさい。フルージアが役に集中できなくなったと見るや、手のひらを返したように心を離していった。「蒼穹と太陽」の劇の本番以来、フルージアの没落は始まった。


  ♪


 そんな彼女に気づいたのか、ある日、ウォルシュが心配そうに尋ねてきた。

「最近元気がないね。どうしたんだい?」

 悩みに押しつぶされていくフルージアは、あまり喋らなくなった。

「悩み事があるならいつでも話していいんだよ。僕程度にカウンセリングができるかどうかは分からないけどさ。話したらきっと楽になるよ。来たばっかりの頃の輝きはどうしたんだい、小さなフィラ・フィアさん?」

 その言葉はとても嬉しかったけれど、力のことを明かしたらもう、劇団にいられなくなるような気がして、嫌だった。だから、憮然としたまま答えた。胸には罪悪感という痛みを抱えて。

「……なんでもありません」

 だって、他にどう答えればいいとでも? ウォルシュは大好きなひと。彼女の恩師。なにも目的もなく生きてきた自分に、生きる道をくれた人! ゆえに傷つけたくないのだ。失望させたくないのだ。
 その態度がかえって彼を傷つけているのだと、心の底では知っていても。直せない。治せない。一度張った意地はその心に深く根ざし、今更引っこ抜けやしない。

「あったとしてもあなたには関係ないじゃないですか。ほっといて下さい。これでいいんです」

 そう言い放った時の恩師の傷付いた顔を、フルージアは忘れることはないだろう。自分の下らない意地が、大切な人を傷つけたこと。その結果生まれた、愚かな過ちを。
 フルージアは孤立を深めていくことになる。
 その心の底にあった思いは、「大切な人を傷つけたくない」ただそれだけだったのに。いったい何が狂って、こういった悲しい結果になったのか。
 わかるわけがない。

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夜明けの演者 1-3-3 新しい世界へ ( No.6 )
日時: 2017/10/12 00:31
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

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 3 新しい世界へ


  ♪


「う、ううっ!」

 フルージアは、泣いていた。
 いつの頃からか、皆、彼女に冷淡になった。そしてそのうち彼女は主役を任されることがなくなり、脇役からも除外され、なんということもない端役にまで降格されてしまった。役者人生もおしまいだ。

「こんな……こんな、力ッ!」

 呪うは運命、己が力。かつて「すごい!」とか喜んでいた自分が馬鹿に思えてくる。確かに「演じる」だけで演じた相手の力が手に入るなんて素晴らしいことだが、その力は役者には不要だ。いっそ害悪にしかならない。
 たとえば自分が魔素使エルステッドに「なりきった」として、その魔法素マナの剣を振るったら。一緒に演じている敵役の相手はそんなこと思ってもいないから、その剣に斬られる。最悪死ぬ。そんなことは許されないのに。ただ「本気で演じた」だけで誰かを傷つける、あるいは殺す。
 なんという邪魔な力だろう。消えてしまえ。
 そんな力を持って役者となっている自分は。もはや「本気で演じる」ことのできない大根役者となってしまった。
 泣くしかない。嘆くしかない。
 こんな自分に、未来なんてない。

 
 と、思っていたのに。





「——貴公がフルージア嬢か?」





 誰も知らない、見つけられるわけもない彼女のねぐらに。訪れる足音があった。フルージアははっとして涙にぬれた顔をあげる。

「降格の話を聞いた。痛み入る」
「だっ、誰よ!?」

 月も見えぬ夜闇の中。浮かびあがったのは細い男のシルエット。
 彼の持つ松明に照らされたその顔は、仮面に覆われていた。

「何者ッ!」

 叫んで思わず距離をとる。視界の邪魔なので慌てて涙を拭いた。
 謎の男は静かに名乗る。仮面から、美しい金髪がこぼれた。

「我が名はクィリ・ロウ。セラン特殊部隊の副隊長。貴公の『蒼穹と太陽』、見せてもらった」
「王国のお役人さんがわたしに何の用ッ! それに、『蒼穹と太陽』ですって? あ、あれ、あなた、見たの?」

 蒼穹と太陽。思い出したくもない劇の名前。初めて力を暴発させた。自分の没落の引き金となった劇。
 彼女の動揺を知ってか知らずか、クィリ・ロウと名乗った男は悠然と続ける。

「あの劇を気まぐれに見た際に貴公の『力』を見た。あの場に嵐の魔導士はいなかった。事故が起こった際に一番呆然としていたのは貴公だった。その顔はまるで、自分で引き起こした事態に頭がついていっていないように見えた。ゆえに嵐使いは貴公だと判断したが……違うか?」

 その声はまるで水面(みなも)のように穏やかで。それでありながら、どこか詰問するような鋭さを宿していた。
 フルージアは震えた。

「わ、わたし、は」
「そしてその後、貴公は真面目に劇を演じなくなったとも聞いている。それは力が暴発するのを恐れてのことか? そもそも貴公の力とは何なのだ? 我に教えてもらいたい」

 力。自分のトラウマ。「演者」の力。
 誰にも明かしたことはなかった。明かしてはいけなかった。なのに。
 目の前の男はそれを明かせという。それにどうやら、男の目的「力」にあるらしい。「力」があるからと言って彼女を差別したりはしないことがなんとなくわかる。
 何をするにせよ、今のままの自分には未来がない。ならば、秘めた力の一つや二つ、明かしたって支障はないだろう?
 フルージアは固く目を閉じて、明かす。
 誰にも言えなかった秘密を。

「わたし……本気で役を『演じ』れば、その役になりきることができるの」
「ほう?」
「たとえばわたしが『封神の七雄』の魔素使エルステッドの役を本気で演じたとする。そして両の手を振れば、ね。
 右手には剣が。
 左手には盾が。
 本物の魔法素マナで作られた、実用に耐える代物が現れるのよ。その剣で人を斬れば殺せる。その盾を使えば剣から身を守れる。わたしの力はそういうもの。『演じ』さえすれば、何にだってなれるの」

 目を閉じているのは辛い記憶を追い出すため。必要なことだけ言っていればいい。感情は彼方に押しやればいい。
 クィリが驚くような気配があった。ややあって、彼は確かめるように言った。

「貴公が『蒼穹と太陽』で起こした事件は、当時は風と嵐の魔導士であったフィレグニオに、なりきってのことだったのか」

 ゆえに物が飛び、雷鳴が響いた。フィレグニオの力を放てば、それなんてとても軽い方だ。

「貴公に頼みと説明がある」
「今度は何よ? 一体何なのよね?」

 警戒心をあらわにするフルージアには構わず、クィリは続ける。

「セラン特殊部隊というものが何なのか知っているか」
「聞いたことあるわ。確か『不可視の軍団インヴィシブル・アーミー』だっけ? それがどうかしたの?」

 話し方がつっけんどんになる。もう知らないったら!

「我々セラン特殊部隊は、『力』ある少年少女がメインで構成された、一種のゲリラ部隊だ。アルドフェックの侵攻から国を守ったり、紛争をやめさせたりするのが主な仕事だが、貴族王族の個人的あるいは組織的な依頼も受け付ける」
「それが何か? わたしに何の関係があるわけ?」

 睨みつけるように男を見つめていたら。不意に手が差し出された。

「我々は『力』ある者を探していた。貴公には特殊部隊に入ってほしいのだ」

 だから聞いた。「力」について。それがなければそもそも部隊に入れないから。

「今の貴公はそのまま劇団にいるつもりがあるのか? 強制はしない。それが我々のポリシーだ。しかし」

 次に発せられた言葉は、フルージアの心を深くえぐった。



「——そのまま貴公が劇団に残っても、その力で誰かを傷つけるだけではないのか?」



「————ッ!」

 思わず喘いだ。それがまさに、彼女の悩みそのままであったがゆえに。
 だから来い、と彼は言う。

「我ら特殊部隊は貴公を歓迎する。我らの間ではわざわざ力を隠す必要もない。いっそ派手に現してしまえ。我らが特殊部隊は土台、『力』がなければ入ることができぬ。貴公の不思議な力は、我らの間でこそ生きるのだ。貴公がその力を生かすのだ! 貴公が特殊部隊に入れば、貴公には輝かしい未来が待っていると約束しよう。……いかがする?」

「……ッ!」

 信じていた。思っていた。この「力」がある限り。自分には決して輝かしい未来なんて来る訳がないと。幸せになんてなれる訳がないと。それなのに。

「決めるがいい、花形役者フルージア。己が力に怯えながらも、劇団の中で惨めに生きるか。その力を生かして特殊部隊で活躍するか! 考えればわかるはずだ! どちらを選べば幸せになれるか!」
「幸せに、なる……」

 フルージアは一歩、クィリ・ロウに近づいた。仮面の中に隠された表情は、何を考えているのか分からないけれど。その言葉は心に届いた。……心に、響いた。

「わたし、わた……わたしッ!」

 力に怯えて戸惑って、いつしか歩みを止めていた足。しかし今、彼女の時が、再び動き出す。

「幸せになるから……なりたいからッ!」

 傷つかぬように心を固くよろっていた殻を。今こそ内から破るとき。
 フルージアは手を伸ばした。
 差し出されていたクィリの手に、その手を重ねる。

「わたし、フルージアはッ! セラン特殊部隊に、入団するわッ!」

 その言葉を告げた時、知らず感情がこみあげてきて、涙が流れた。
 幸せだった劇団生活。その終わりと断絶を、強く感じた。
 新しい生活に、喜びはあるのだろうか? 自分は幸せになれるのだろうか?
 握ったクィリの手は温かい。その温かさが、勇気をくれた。

「わたし、入るからッ!」

 もう迷いはなかった。何もかもが吹っ切れた。
 クィリは深くうなずいて、言った。


「ようこそ、セラン特殊部隊へ。貴公を歓迎する」


 その日、フルージアの役者生活は終わりを告げて。
 部隊生活という新たな日々が、幕を開けた。

 彼女の長い人生における、最も鮮やかで輝かしい、かけがえのない日々が——。

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夜明けの演者 2-1-1 騒がしい千里眼 ( No.7 )
日時: 2017/10/15 11:13
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

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 第二部 セラン特殊部隊
 


 一章 新しい仲間たち



 1 騒がしい千里眼


  ♪

 
「クィリ・ロウ、ただいま帰還した」
「帰るの遅かったじゃん! 何かあったのっ?」
「色々、な」

 それから数時間。罪悪感を胸に抱えながらも劇団を発ったフルージアは。特殊部隊の野営している森へとたどり着いた。劇団には置き手紙を残している。フルージアは本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。特にウォルシュに対しては頭が上がらない。これも運命だと割り切るしかないのだろうか。

「ところでマキナ、新入りだ。名をフルージアという。ほら、あいさつしろ」
「よ、よろしくお願いします」 

 クィリに促されてあわてて頭を下げる。マキナと呼ばれた少女は、なるほどとうなずいた。

「クィリが遅れてたのは新メンバーのスカウトのためだったんだねっ! 成程納得大満足! って?」

 朗らかに微笑んだ彼女は、フルージアに手を差し出した。

「あたいはマキナだよっ! 能力は『千里眼』! 距離制限はあるけれど、隠されたものだって見ることができるんだっ! よろしく、フルージアちゃんっ!」
「よろしくお願いします、マキナさん」

 慣れない環境にびくついていると、マキナがその肩をばんと叩いた。

「マキナでいーよ。ほら、しっかりしなさいなっ! あたいたちはなぁんにも怖くなんかないからさぁ! ね、クィリ、彼女さあ、他のみんなに紹介してもいい? いいよねっ! じゃ、行ってきまあっす」
「わっ! と、とっ?」
「悪いとは言っていないが、せめて相手の返事を待つぐらいのことはしないのか……」

 クィリの呆れたような声を背中に受けながらも、マキナはフルージアを引きずっていった。


  ♪


「あっ、スーヴァル見っけ!」

 野営している森の中。木にもたれて本を読んでいる少年に、マキナは声をかけた。その少年は雪のように白い髪と、空のように碧い瞳をしていた。スーヴァルと呼ばれた少年は、つと本から顔を上げて、感情のない声で問うた。

「……何か用?」

 そのつれない態度にマキナは口を尖らせる。

「もうっ! スーヴァルは静かすぎるようっ! もっとさ、こう、あたいみたいに騒がしく……」
「無理だね」
「早っ! おおう、わずか〇・三秒で切り捨てられるとはっ! あたい、もしかして嫌われてるっ?」
「用は何。そこにいるの新入り?」
「無視されたっ! これもまた反応が早いっ! ねえ、今のひどくない? ねえったらぁっ!」
「まあまあ」

 なんとなく取り成す役に回ってしまった感がある。それでも、ここは案外楽しそうである。
いささか元気を取り戻したフルージアは、腰を折って自分から名乗った。

「初めまして! 今日からセラン特殊部隊に入ることになった、フルージアです。能力は……なんて言ったらいいのかな? とにかく、自分が何かの役を演じたら、それになりきることのできる能力です。わたしはそれを『演者』と呼んでいます。よろしくお願いしますッ!」
「無属性魔導士スーヴァル。以降、よろしく」

 彼は相変わらず素っ気ない。
 マキナがキランと目を輝かせた。いちいち反応が面白い。話していて楽しい。

「なりきるのっ!? どーやってっ!?」

 確かにこの能力は珍しい。どころか唯一無二のものなのかもしれない。マキナが驚くのも当たり前か。
 フルージアは、デモンストレーションとして見せてあげることにした。選んだ役は「封神の七雄」のエルステッド。彼の魔素使ならば目で見てわかるし、効果範囲が小さいので、周りの迷惑になることもない。

「じゃあ、デモンストレーションとして『封神の七雄』のエルステッドになったつもりで行くわよ? あ、エルステッドって、わかるかな?」

 スーヴァルは無言でうなずいたが、マキナは首を振った。

「誰それ? あたい、そこの辺りは無知だもん。教えて!」
「知らないの? まあ、育った環境にもよるかもね。いいわ、教えるね!」

 かくしてフルージアは、マキナに歴史の講義をすることになった。

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