ダーク・ファンタジー小説

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【本文修正中】SoA 夜明けの演者
日時: 2017/10/22 11:26
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=598.png

※ SoAはStories of Andalsiaの略です。
  長すぎるので略しました。

※ ただいま本文修正中です。変な所が多すぎたので。
  あ、でもたまには番外編も更新しますよ?

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 〈導入部〉


 柔らかな春風が肌を撫でた。
 少女から大人になった彼女はそれに目を開け、草むらに転がらせていた身を起こす。
 身を起こして立ち上がれば。輝かんばかりの金色の髪が風に揺れ、彼女の視界にも入ってきた。

 春。その季節に、彼女は遠い日を思い起こす。

 彼女が「みんな」に出会ったのは秋で、春に「みんな」を失った。
 春は暖かくて幸せな季節だけれど。彼女にとって春とは、切なく痛む悲しみの季節でもある。
 暖かな春空。優しい空気。その中で彼女は一つ、呟いた。

「……わたし、大人になったよ……?」

 大人になる前に死んでしまった仲間を思って、彼女はそっと目を閉じた。
 その紫水晶の瞳から、こらえきれぬ涙が一つ、二つ。零れ落ちていって、乾いた地面を濡らす。
 彼女の名を、フルージアといった。


 ——そう、これは彼女、フルージアの物語。

 
 「演者」と呼ばれる特殊な才を持った少女の、最も鮮やかだったころのものがたり——。


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 Index

 第一部 アスフィラル劇団 >>1-6

 序章 フルージアの初舞台 >>1
 二章 夜明けの演者 >>2-3
 三章 力と未来 >>4-6

 第二部 セラン特殊部隊 >>7-20
 
 一章 新しい仲間たち >>7-8
 二章 初陣は突風とともに >>9
 三章 流転の善悪 >>10-14
 四章 切れない絆 >>15-17
 五章 束の間の夢だけど >>18-20

 第三部 戦乱の彼方に >>21-32

 一章 覚悟を決めろ >>21-22
 二章 命の序列 >>23-26
 三章 天秤に掛けるなら >>27
 四章 燃える生き様 >>28-30
 五章 爆発の太陽(エクスプロード・サン) >>31-32

 エピローグ どんな夜にも…… >>33

 あとがき >>34
 メロディーのないテーマソング >>35
 後日譚 水晶の欠片を透かしてみれば >>36


  ♪


《番外編1 風色の諧謔(かいぎゃく)》


 第一章 始まりのオルヴェイン >>39-44

 1 10の誕生日に >>39
 2 「化け物」と呼ばれた子 >>40
 3 束縛を脱して >>41
 4 二人の絆 >>44


 第二章 師匠とともに >>45-

 1 嵐の瞳 >>45
 2 我らレヴィオンの生徒たち! >>46
 3 青玉の証 >>47


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 どーも、藍蓮です。

 今作は、趣味で書いていた話を文芸部に提出したら、「長すぎる」と言われ、40000字も泣く泣くカットする羽目になった話の完全版です。つまり、完成した原型があります。それをちょっと推敲するだけなので……。まぁ、投稿ペースは速いと思いますよ。

 それではでは。不思議な世界にご案内♪

(地図を添付しました。URL参照)


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 補足 この世界の魔法の仕組み(時々更新?)(すみません、複雑です)

 〜アンダルシア魔道原則〜


1 この世界には魔法素(マナ)と呼ばれる、意思を持たないエネルギー粒子が無数に飛び交っている。それは、ある異種族(イデュールの民)以外の目には見えず、通常は人々に認識されないし、ただそこにあるというだけで、別段、人に害を及ぼすものではない。

2 この世界で言う「魔導士」とは、無数に飛び交う魔法素を才能で特定の形に組み、それを破壊することで、空間をゆがませたりひずみを加えたりして高エネルギー体である魔法素に働きかけ、何らかの事象を引き起こす人々のこと。魔法素を組み、破壊することそのものが「魔法」と呼ばれる。 

3 魔法素には、それぞれ関与できる事象が異なる一団、通称「属性」がある。魔導士は魔法素を組めないと話にならないが、個人の適性によって、どの「属性」の魔法素が組めるかが大きく異なる。
 たとえば「火」の魔導士は「火」の魔法素を組んで火に関する事象を起こせるが、それ以外の魔法素は少ししか扱えない。
 とはいえ魔法素の基本は同じで、「属性」はそれにわずかに付与された「特性」みたいなものだから、「火」の魔導士でも、弱い事象ならば「水」や「風」も操れる。

4 この世界で言う「魔力」とは「魔法素を組める力」のこと。これは運動すれば体力が減るのと同じで、魔法を使えば魔力が減る。体力が減れば身体的に疲れるが、魔力が減れば精神的に疲れる。

7 この世界には、「反魔法素(アンチマナ)」と呼ばれる、魔法素よりも大きい、意思を持たないエネルギー粒子がややまばらに飛び交っている。反魔法素には魔法素でつくられた術式そのものを破壊し、ときにはその術者にさえ影響をもたらすことがある。

8 反魔法素は凡人はおろか通常の魔導士でさえ操れないが、操れる者もいるにはいる。彼らは「破術師」と呼ばれ、その存在は非常に貴重である。反魔法素を使えば、呪いの類はもちろん、攻撃魔法や補助・妨害、離脱・移動魔法、発動前の、まだ魔法素を組んだだけで破壊していない魔法すら壊せる。
 しかし「破術師」は破術にのみ特化しており、魔法は一切使えない。

9 この世界には、「原初魔法素(オリジンマナ)」と呼ばれる、魔法素と反魔法素の中間ぐらいの大きさの魔法素が存在する。それは、何の属性にも染まっていない魔法素のことで、「属性による事象(発火、突風、落雷など)」が起こせない代わりに、集まることで力を成す。
 要は、目に見えぬ拳で殴ったり、目に見えぬ壁で攻撃を受け止めたり、などということが可能。ただし、どれも通常の魔法素に比べると威力が劣るが、その術式は決して破術では破壊できない点が特徴。

10 「原初魔法素」使いは「無属性魔導士」と呼ばれる。属性の一切こもっていない「力の球」などで攻撃をされると対処が難しいため、割と応用範囲は広い。「破術師」ほど稀少ではないが、これを使える者は少ない。無属性魔法は破術での打ち消しができないが、消費魔力が多めの上に、属性魔法よりも威力が劣るので何とも言えない。

 結論;三つの魔法素は、どっちもどっちの能力である。

12 特珠職業「魔素使(まそし)」は、魔法素を武器や盾として実体化させて戦うが、それに使われる魔法素は原初魔法素である。要は、無属性魔導士の派生職。魔素使は破術師並みに人数が少ない。
 実体化させた武器や盾は、本人の意思によって、あるいは本人の意識の消滅によって消えてしまう。

13 魔法素を組む方法は個人によって異なるが、「詠唱」として言葉に出して行う者が多い。頭の中の考えがバラバラだとできる式もおかしくなるが、言葉に出すことによって、考えに指向性を持たせて正確な式を作る。 
 詠唱の言葉はその人のアドリブで構わないし、技名をつけるのも勝手なので、特にそのあたりに決まりはない。技や詠唱=人それぞれ、と言ったところか。

19 魔法素は目に見えず、普通は触れられないため、感覚的に組まれる。慣れぬ者は頭の中で式を組んでから術を使うが、慣れた者は頭の中で式を組まなくとも、無意識に術を使える。
 魔導士として大切なのは理論ではなく、才能と勘と経験である。理論だけでは魔導士には決してなれない。

26 神も悪魔も精霊も死者も。一定の条件が整えば、人間と契約し、その力を貸し与えることができる。契約の方法はそれぞれ違い、あらゆる決定権は人間でない側にあることがほとんどである。
 ちなみに。「召喚」と「契約」は似て非なるものである。

32 神や悪魔、精霊は気まぐれに人間と契ることがある。(ときには逆、あるいは相互もある)これを「契約」と呼ぶ。
 「契約」は召喚ほどの強制力はないため、互いに信頼し合っていることが大切である。(人間の上位に当たる存在から契約を迫ってきた場合、信頼がなくとも契約できる)

33 人間の力には「魔力」「体力」「生命力」の三つがある。わかりやすくたとえてみよう。
 ここに一つの器があるとする。その真ん中には仕切りがあり、左右それぞれ別の液体が満たされているとする。このうちの片方が「魔力」、もう片方が「体力」、器そのものが「生命力」である。
 この中で「魔力」が減って(使われて)も、仕切りがあるため「体力」は減らない。その逆もしかり。ただし、人によって「魔力」と「体力」の配分は異なる。つまり、仕切りが偏っていることがある。
 しかし、「生命力」、つまり器そのものが削れたり欠けたりすれば、「魔力」も「体力」も、満たすことのできる絶対量が必然的に減る。いくら「液体」があろうとも、「器」が小さければあふれるばかりで、全てを収めることはできないのだから。
 「生命力」すなわち「生きる力」である。だから、これがなくなれば人は死ぬ。「死」はいわば、「器が砕ける」ことである。


【ごちゃごちゃしてきたし、本編に関係のない原則も出てきたので、いずれ整理します……】

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 速報!

 2017/8/31 この作品が、小説大会ダークファンタジー部門で、次点を獲得しました!
 いえ、次点ですけどね。あくまでも次点。
 ですが、本当に、心から嬉しく思ったので!

 皆様、ありがとうございました!(うれし泣き)(号泣)

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 2017/8/17 連載開始
 2017/9/12 本編終了
 2017/9/24 番外編1 風色の諧謔 開始

夜明けの演者 3-4-1 欠け逝く仲間たち ( No.28 )
日時: 2017/10/02 17:24
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 終盤に向かって一気に駆け足。
 次は一体誰が死ぬのか——。

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〈四章 燃える生き様〉


 1 欠け逝く仲間たち

  
  ♪


 ——アルジェンティ王子、討ち死に——。

 そんな報が届いたのは、シフォンが死んで三日後のこと。
 以降、国をめぐる情勢は変わったが、特殊部隊は相変わらず、日蔭者だった。
 どこに行っても、特殊部隊員であることがわかったら白い目で見られたし、ひどい言葉もたくさん言われた。

 ——わたしたちはただ、幸せに暮らしたかっただけなのに、

 どうしてだろう、どうしてこんな。残酷な運命の中に叩き落とされるのか。
 欠けていった仲間たちを、フルージアは想った。


  ♪


 次に死んだのはアイオンだった。まだ幼い女の子。スーヴァルの拾ってきた、小さい死神。
 大きな魔法を放った直後で無防備だったスーヴァル。彼を狙った刃に自らの身を差し出して。

「スーヴァルはアイオンのともしびなの。だから、しんじゃだめなんだよ」

 彼のために犠牲になって、幼い命を炎と散らした。


  ♪


 次に死んだのはソールディン。沢山の敵に囲まれた中を。
 たった一人で飛び出して、自らみんなの囮になって。
 大切な仲間を。大好きな仲間を。守り、逃がしきって、死んだ。

「……駆け続けよ、蒼き狼」

 その死に様を見て。弔うように、クィリがつぶやいた。


  ♪


 その次に死んだのは、時雨。自らの命と引き換えに、一個分隊を壊滅させて死んでいった。以前、彼が言っていた「操速師」の力を応用して。自らの身体を限界まで加速し、生ける弾丸となって敵陣に突っ込み、そこで全魔力を開放して——死んだ。





「一世一代の大舞台だ! 雨の名を持つ僕は今宵、地を潤す雨のひとしずくとなって——

 ——果てるッ!」





 その、あまりにも見事な死に様には。










「——これが、僕の正義だ、フルージアッ!」









 
 涙を流すことすらも、失礼なように思われた。


  ♪


 その次に死んだのは、アミーラ。
 フルージアは、思い出す。

「オレと戦って勝ったら、傭兵団はあんたらを見逃す。負けても見逃してやるが、戦闘を拒否した場合には戦いは避けられない」

 アルドフェックの傭兵団の長、デュアラン・ディクストリが、アミーラにそんな条件を持ちかけてきた。それを聞いて、アミーラは笑った。

「大した戦闘狂なこって。……ま、拒否するわけにはいかないさね。いいさ、受けてやるよ。……真剣勝負で、いいのかい?」
「上からの命令でね。……死ぬまで戦えと」
「了解した」

 言って、アミーラは皆を下がらせた。フルージアは止めた。止めたけれど。

「黙ってな。これは戦士の戦いなのさ。戦士以外が、口を出すものじゃない」

 そして戦士であるクィリもハインリヒも、アミーラを止めなかった。フルージアは己の甘さを再確認した。
 傭兵デュアラン・ディクストリは左目が見えない。そこに大きな傷があるのか、顔の左半分を、常に赤いバンダナで隠していた。それでもその動作に、不自由さは微塵として感じられなかった。
 始まった決闘。その序盤こそアミーラは彼の左側を狙って斬撃を叩き込んでいたが、それが無駄だと知り、そこばかり狙うのは諦めた。
 アミーラは強い。フルージアの知る限り、最強の戦士の一人だと思う。扱っているのは身の丈ほどもある大剣なのに、まるで重さを感じさせないほど軽々と操る。そんなことをするには並外れた力と技量がいる。
 今まではそんな彼女を倒せた者はいなかった。誰もが大剣使いゆえにのろいと侮り、アミーラほどの技量も無いがために次々と倒されていった。
 しかしデュアラン・ディクストリは、これまでの相手とは格が違った。
 その動作はあまりにも俊敏かつ、細い見た目からは想像もつかないような重い斬撃を、彼は次々と放っていった。

 これまでの相手ならアミーラは勝てた。しかし、力も技量も同じ相手なら?

 あとは武器がものを言う。
 アミーラの武器は大剣。威力を重視した大振りの武器。
 対するデュアランの武器は片手剣。素早さを重視した、小回りの利く武器。
 同じ力と、同じ技量と。そんなものを持つ者同士がそういった武器で戦った場合、軍配が上がるのは普通、





 ——片手剣の、方だ。




「——アミーラぁぁぁぁあああああ————ッッッ!」


 ドシャリ。地に倒れ伏したのは、アミーラ。
 素早さに欠ける彼女は、いくら頑張ったって、素早さ重視のデュアランには勝てない。武器が違う。
 対するデュアランだって、無傷というわけではなかったけれど。


「……見事だった」


 荒い息をつきながらも、剣を払って鞘におさめた。

「約束は……守る。アミーラ・シーレ……。覚えておくぜ」

 言って、立ち去ろうとする背中を。


「————デュアラン・ディクストリッ!」


 もう、動けないはずなのに。
 地から半ば起き上がり、アミーラは渾身の叫びをその背中に放った。


「覚えて——覚えて……おきなッ!」


 血を吐くような、魂の叫びを。










「——これがあたしの生き様だッッッ!」










 フルージアは、忘れない。隊長として皆を守り、精一杯生きて散った、あの大きな赤い背中を。その生のすべてのこめられた、あの魂の叫びを。
 こうしてまた、一人が欠けて。

 残るはたったの七人となった。


  ♪


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

夜明けの演者 3-4-2 彼岸を見た瞳 ( No.29 )
日時: 2017/09/10 18:10
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

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 2 彼岸を見た瞳


  ♪


 どんなに仲が良くたって、いつかは、死ぬんだ、ね。
 アミーラを失ったばっかりなのに。こんなこと、耐えられない。
 フルージアは涙を流した。


 ——ねぇ、お願い。戻ってきてよ——。


  ♪


「——っ!」
「マキナ!」

 アミーラが死んだ、あと。マキナがぴょんととび跳ねた。

「痛ったぁい……。やだこれ、矢?」

 その肩には、一本の矢が。今や治療担当のシフォンはいない。代わりに、医学の心得があるらしいリクセスと、スーヴァルが傷を看た。
 矢は肩の肉に深々と食い込んでいて、肉を裂かなければ取り出せない。

「痛いよぉ、痛いよぉ……。……あたい、もしかして死ぬの? 嫌だ嫌だ嫌だ!」

 経験したことのない激痛が、彼女に恐怖を呼び起こさせた。
 リクセスは、大丈夫さ、と笑う。

「矢が刺さっただけさ。痛いのは承知だけど、抜けば何とか……な…… ——……」

 その笑顔が、凍りつく。フルージアは嫌な予感がした。

「どうしたの、リクセスっ!」
「……無理だ」

 その顔には、絶望。

「スーヴァル、見てみて。君ならわかるだろう? ……これは、ただの矢じゃないんだ」

 その傷を覗き込んだスーヴァルも、絶句した。
 そして、フルージアは見た。


 赤黒く変色し、ものすごい勢いで腐りつつある傷口を——。


「……安楽死させるしかない」

 唇を噛んで。リクセスが絞り出すように言った。

「このままじゃ、苦しいだけだ。……言いたいことは、わかるな?」

 フルージアは、頷いた。泣きながら、頷いた。
 リクセスは全てを諦めたような顔で、静かに首を振った。

「君は見ない方がいい。……苦しむのは、僕だけで。十分なんだから」
「リクセス……」
「僕の近くには寄らないでね。そうしたら、君は一生後悔することになる」


  ♪


 その日、マキナも死んだ。流れ矢に当たって、その毒にやられて。


 ——リクセスが、安楽死させた。


 大切な友達だった。一番の親友だった。——なのに。

「——どうして……どうしてみんな、消えちゃうの……?」

 今や、あの子はもういない。無邪気で明るくて騒がしい、千里眼だけが取り柄のあの子は。楽しいムードメーカーは。
 失うたびに傷付いた心。滂沱と溢れた熱い涙。

 失うたびに、彼女は思う。


 ——どうして、消えていっちゃうの?


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夜明けの演者 3-4-3 壊れた仮面 ( No.30 )
日時: 2017/09/11 13:48
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

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 3 壊れた仮面


  ♪

 
 
 失うのが怖くて、死ぬのが怖くて、ずっとずっと泣いていた。
 でも、そのたびに、仮面のクィリが慰めてくれた。
 無口で不愛想で不器用で。でも、とっても優しくって。

 心から笑うことがなかった彼が、初めて心から笑った日。
 死神の手が、彼に伸びた。


  ♪


 ヴィラヌスもシフォンもアイオンも時雨も死に、アミーラもマキナも死んで、残るメンバーはフルージア、スーヴァル、クィリ、ハインリヒ、リクセスの五人だけ。十一人いたメンバーは今や、半分もいない。

 その日、クィリは言ったんだ。

「全て終わったら、部隊を解散しようと思う」

 隊長亡き今、副隊長から隊長に昇格したクィリ。解散権限も彼にある。

「……我々は、失いすぎたのだ。ここしか帰る場所がないという者もいようが、たった五人では『部隊』にならん。だから……戦いが終わったら、特殊部隊は、不可視の軍団、インヴィシブル・アーミーは——この世からなくなる」

 その言葉は悲しかった。フルージアが今までここで積み重ねてきたすべてが、一瞬で崩壊するような気がした。おかしいんだ、こんなことになるなんて。わたしは居場所を探していただけなのに……その居場所も、たった半年でなくなるのか。「解散」という言葉が、重く響いた。
 それを見て、誤解だ、とクィリは首を振る。

「なにも解散したからって、二度と会えなくなるわけでもなかろう? 新しい場所で新しい日々を築き、生活が安定したら、また旧友と再会すればいいのだ。しかし、そのためには……アミーラも言ったことだが、まず、生き延びろ」

「また……会える」

 部隊が解散したら劇団に戻ろう。大丈夫、今なら力を完全に制御できるから。
 と、そこまで思って、フルージアははっとした。


 ——居場所が、ある。


 あのときはここしかなかった。でも、今なら。
 フルージアは、にっこりと笑った。

「いいわ、クィリ。また会いましょう。その時はわたし、劇団の花形スターになってやるんだから! 絶対に見に来てねっ!」

 と、悪戯っぽい声が割り込んだ。

「なら、僕もそこに入ってみようかなァ?」
「リクセス? だーめ! リクセスには帰る場所があるんでしょ。そう言ってたじゃない。リクセスはいい俳優になるかもだけど、まずは帰ってからだよっ!」
「冗談、じょーだん」
「もうっ!」

 束の間、流れる穏やかな時間。もう、ムードメーカーのマキナはいないけど、代わりにわたしが空気を明るくするんだ。明るい方が、いいじゃない?

 すると。


「アハ、アハハハハハッ!」


 場違いな、笑い声が、した。


「——クィリ……?」


 見ると、仮面を外して。あまり笑わなかった彼が、大笑いしているのだった。

「だ、大丈夫? 何か悪いものでも食べた?」
「そうじゃない」

 仮面を外した彼の声は、驚くほど透き通っていた。

「いや、嬉しくて、楽しくてね。この戦乱の世にあっても、こうやって未来を語り合えることが。……解散しても、明るい未来があるって素敵だろう? 生きてるって、幸せだよね」

 心なしか、口調まで変わっている。

「あ、あの……?」
「だから、もう一度、言うよ」

 いつしか見た、クィリの素顔。金髪青眼の、驚くほどの美青年。
 生きていることの喜びと輝きを、精一杯瞳に宿して。
 人形のように整った唇が、鈴が鳴るように綺麗な音を紡ぐ。





「その未来をつかむため、生き延びるんだ」





「——はいっ!」

 私たちを守るため、散っていった仲間たち。その死を決して、無駄にしないためにも。受け継いだ命を、守り抜いて——!
「……生き延びるから」

 その紫水晶アメシストの瞳は、まだ見ぬ夜明けを見ていた。


  ♪


 失い、喪い、うしない続けて。逃げていった旅の果て。
 夜明けを信じたクィリも死んだ。あんなに「生きろ」と言っていたのに。
 生きる喜びを、感じたんじゃなかったの? そんな所で死んでいいの?
 現れた残党狩り。すべて倒して彼は倒れた。
 トレードマークだった仮面は、斬撃を受け、真っ二つになっていた。

「生きろ……我が仲間たちよ」

 致命傷を受けながらも全員を守り切り、まだ喋ろうとしたクィリ。

「全員で夜明けを見られるなんて、端から信じてはいない……。我は満足だぞ、フルージア、スーヴァル、ハインリヒ、リクセス。もう、そなたらならば、我がいなくともやっていけるだろう……?」

 涙は、流れなかった。凍りついた心に、さらに霜が降りただけ。

「わたしじゃ……わたしの力じゃ……誰も、守れない……?」

 力を使うには時間が要って。しかし戦場には、そんな時間すらなくて。何もできずに噛みしめた無力感と絶望。死に逝く仲間を守れなかった。
 今回だって、自分が力を使えばクィリは死ななかったかもしれないのに——。





「……泣いてもいいが……絶望はするなよ」





 その言葉に、顔を上げる。瀕死のクィリが、強い瞳で彼女を見ていた。

「守れてないなんて……それはない。そなたは守れているさ……誰かを……我々の知らない所でも、な……。そんなことで……くよくよするな」
「…………クィリ」

 その息が、荒くか細くなっていく。命の灯が——消えていく。





「死んじゃだめえぇッ!」
「——甘えるなッ!」





 青い瞳に炎が宿る。

「我は死ぬ! 死ぬんだ! この運命は変えられぬ! いい加減受け入れろ、フルージアッ!」

 もう呼吸すらあやふやなのに、一体どこに、そんな息が残っていたのだろう。
 燃える青い魂が、渾身の叫びを放った。

「我は幸せだった! 特殊部隊の副隊長として過ごし、そなたらに出会えて! それで十分だ! ここで燃え尽きても、我の人生に一片の悔いなし! この出会いに感謝している! だから、今、最後に、言うぞ——ッ!」

 散り際の一言に、己の生の全てを乗せて!










「生き延びろ! 生き延びて——その目で夜明けを見届けろっ!」










 ——そして。


 そして、彼は。


 クィリ・ロウは。


 絶息した。息絶えた。


 カランと音を立てて仮面が転がる。


 それが、彼の生き様だった。



〈三章 了〉

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夜明けの演者 3-5-1 信頼と約束 ( No.31 )
日時: 2017/09/11 21:31
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)


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〈三章 爆発の太陽エクスプロード・サン


 1 信頼と約束


  ♪


 クィリという司令塔を失ってから三日。
 今度は誰も死んでいないが、一人が行動不能となった。
 最強の空間使いハインリヒ。誰かを守れば弱くなるハイン。
 己の魔法を根本から破壊され、体を紅蓮の炎に焼かれ。
 救いだしたはいいものの、彼は昏睡したまま目を覚まさない——。


「信頼できる人に託すしかない。動けない人がここにいても……。自分の身を守るのが精いっぱいな僕らは、彼まで守れる余裕はないよ」

 すべて諦めた顔で、スーヴァルが言った。でも、こんなところに、信頼できる人なんて——?




 いるわけがない、と、思っていたのに——。




「! 嘘……嘘、だよね……? こんな所に、何でフルージアがいるのよ……」


 劇団時代、何回も聞いた声。負けないからねと強気に言った、ウォルシュの娘。フルージアのライバル。

「ルー! 何であなたが……!」
「……フルージア! ってことは、これ、あたしの見た幻じゃないの? ホントにホントにフルージアなのっ? 捜してたの! 心配したんだからぁ!」
「……ルーシュ」

 話したいことはたくさんある。けれど、今は時間がない。
 フルージアは、部隊の仲間を見た。

「……信頼できる人、見つけたわ」

 彼女なら。アスフィラル劇団なら! 眠り続ける大切な仲間を託せる。そう、確信した。

「彼女はルーシュ・アスフィラル。劇団時代の大親友で、彼女の父は劇団長。ルーはともかく、父のウォルシュはとても信頼できる人だから……大丈夫よ」
「……信じていいの?」

 ルーシュを値踏みするように、スーヴァルは睨んでいる。

「ハインは大切な仲間だ。その人、絶対に信頼できるんだね? でなきゃ、僕は、任せない」

 失うことへの恐怖から、慎重にならざるを得ないスーヴァル。失うことを誰よりも恐れた彼はしかし、多くのものを失った。怯えて当然だ。でもね——。

「大丈夫、彼女達なら絶対に! ハインを守ってくれるわ。……信じてくれる?」
「君がそう言うのなら」
「横に同じだね」

 スーヴァルもリクセスも、頷いた。
 そして、フルージアは前を見る。まだ混乱している様子の、ルーシュの方を。

「フルージア! あたしを置き去りにして話さないでよ! その人たちは誰?」

 彼女の瞳はどこまでも無垢で、美しかった。戦場を知らない目。
 フルージアはそれを懐かしく思いつつ、口を開く。

「時間がないの。戦乱が終わったら全て話すから。お願いがあるの」
「折角会えたのに、すぐ行っちゃうわけ? それはないよね、フルージア!」
「話を聞いて」
「!」

 いつもと違う真剣な口調。ルーシュは言葉を呑み込んだ。

「今、私たちの仲間が大怪我をして、昏睡してるの。でもね、私たちには彼を連れていくことができない。生きていくだけで精一杯で、大切な人を守れるほどの余裕はないの」

 だからお願い、と真摯な口調で訴えかける。

「彼を、目が覚めるまで劇団に置いてやって。大切な仲間だから、あなたたちしか頼れないの。戦乱が終息したら迎えに行くから。……ルー、一言言っておくけど……。わたしはもう、前のわたしじゃないから」

 言って、リクセスの方を見た。彼は、背負った仲間の身体を揺らして見せた。華奢なリクセスに人を背負わせるなんて普通はしないけど、武闘派の人はみんな死んだ。スーヴァルやフルージアよりはまだリクセスの体力は上なので、彼に背負わせてはいるが……。その顔には、疲れがにじんでいた。

「フルージアの旧友さん、僕は彼女の仲間のリクセス。背負っているのが問題のハインリヒさ。フルージアも言ったけど、僕らには時間も余裕も無いんだ。引き受けてくれないと困るのさ」

 スーヴァルも、友のために進み出る。

「同じく。無属性魔導士のスーヴァル。僕からも、お願いしたい」

 見知らぬ人たち。信用できるの? と青い瞳が問いかけた。フルージアは大きくうなずいた。
 仕方ないわね、とルーシュは溜め息をついた。

「いいわ、あたしが引き受ける。でも、戦乱が終わる前にこの人が目覚めて、あなたたちと合流したいって言ったって、あたしは知らないからね。あと——」


 青い瞳に、真摯な願いが宿る。


「約束してよね、生きて帰ると。あたしは知らない。あなたたちがどういう状況にあるのか、なぜ逃げなければならないのか。でも、あたしはあなたが好きなんだ。好きな人には死んでほしくない。だから、約束。必ず生きて帰ってね」
「ルー……」
「その人、ここに置いといて。あたしが事情を説明して、劇団の皆に託すから。……言っとくけど、変わったのはあなただけじゃない。あたしも変わったわ、フルージア」

 フルージアは、言葉が返せなかった。

「じゃあね、フリンジ。急いでるんでしょ、行かないの」
「ルー……」
「いくら敵が増えたって、あたしはあなたの味方だから」

 言って、彼女は背を向けた。劇団の皆を呼びに行こうと、動き出す。

「待って!」

 凛とした、つよい瞳が振り返る。

「……ありがとう、ルー」
「……当然じゃない」

 今度は、振り返らなかった。ルーシュはいなくなった。

「……いい仲間をもっているんだね?」

 リクセスが、微笑んだ。

「なら、彼女を大切にするんだよ。僕には……歓迎してくれる人はいるけど、帰る場所はないから、ね……」

 一瞬、悲しげにゆれた瞳は、しかしすぐに元に戻る。

「じゃあ、行こうか」

 次なる戦場へ。生き残るための闘争へ。
 戦いに生きた彼らには、そうするしかなかったから。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 藍蓮です。
 う〜ん。本当はハインリヒの場面をもっと書きたかったのですが。
 内容が浮かばなかったのでこうなりました。
 いずれ短編集を作りますので、キャラの知られざる過去などはそちらにて書きます。

 次の話に、請うご期待!

夜明けの演者 3-5-2 英雄は死んだ ( No.32 )
日時: 2017/09/12 09:46
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 あとはエピローグを残すのみ!
 約一か月の連載でしたが、長かった……!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 2 英雄は死んだ


  ♪


 囲まれていた。またも、またしても。

 知らぬ間に。気づかぬうちに。疲労でかすむ視界の端、見えた剣の反射光。
 ヴィラヌスが死んだ日のことが脳裏に蘇る。
 あの日、彼は皆の犠牲になって、死んだ。
 そして、感じた既視感は、現実となった。


  ♪


「……仕方ないね」

 じゃらんじゃらん。金メッキの知恵の輪を弄びながらも、リクセスは言った。

「あのさ、王都に、ヴィクトールって人がいるんだ。僕の兄さんで、騎士団長やってる。その人に、伝えてくれないかな」

 その瞳は、シェルフの、シェルマの瞳だった。ヴィラヌスの瞳だった。シフォンの瞳だった。時雨の、アイオンの瞳だった。アミーラの瞳だった。


 ——死の覚悟を決めた、決意の瞳だった。


「リク……セス……?」


「——リクセス・オルヴェインは、友のためにその命を燃やし尽くした、とね」


「————!」
「……なぜ、あんたが」

 スーヴァルの冷静な問いに、彼は朗らかに答えた。

「フルージアはまず、駄目。劇の役程度で何とかなるような数じゃない。スーヴァルも駄目。無属性魔法なんて役に立たない。なら、僕は? 僕ならこの状況をなんとかできる? そう、できるのさ。臨機応変、千変万化、魔法素(マナ)を自由自在に組める、『組師』の僕ならね!」

 言って、彼は首から、トレードマークの知恵の輪を外した。
 使い古されたそれは、ところどころメッキがはがれ、黒ずんできていた。

「でもね、本番にこれは要らないんだ。……受け取って、フルージア」
「リクセス……」
「説得しようったって無駄だから。僕しかこの状況を打破できる人がいないなら、僕がやるしかないんだ。……その身を自爆させたって、ね」


「! じば……く……?」


 代わりに彼が取りだしたのは、カラフルな立方体。

「これはルービックキューブという、パズルの一種さ。これを使う。こっちの方が、大掛かりな魔法に向いているんでね。かさばって邪魔っちゃ邪魔だけど」

 リクセスは、ぽつりとつぶやいた。

「本当はこの魔法、自爆用じゃないんだけどね……。でも、式をちょこっといじくれば、そうなれる。……死にたく、なかったよ。でも、仕方がないじゃないか! このままじゃ僕ら全滅だ。誰かが……死ななきゃ……!」

 いつも飄々としていた彼は、怯えていた。死ぬことに。死への恐怖に。


 ——どうしてもそれを選択しなければならないという、運命の非情さに。


 しかし、どんなに怖くても、立たなければならない時がある。戦わなければならない時があるから。——それが、自分であるというだけで。

「……未来を、託すよ。フルージア、スーヴァル」

 リクセスはやがて、覚悟を決めたように、顔を上げて、前を見据えた。アルドフェックの残党達が、こちらを睨んでいた。
 カシャカシャカシャカシャン! 高速で組み合わされるルービックキューブ。

「リクセス——!」





「天空のヘヴンズ・ウィングッッッ!!」





 その瞬間、リクセスの背から翼が生えた。輝ける純白の、あまりにも美しい。
 かつて、その魔法は補助魔法にすぎなかったけれど、今は、違う。

 リクセスは最高の笑顔を見せ、その翼で、敵陣の真上まで飛んでいった。

 誰もが、神と見まごうばかりのその姿を、放心して見ていた。
 しかし、彼は神でもなければ、天使でもなかった。強いて言うなら——悪魔。
 カシャカシャカシャカシャン! 上空で再び組み合わされた立方体。





「大好きだったよ、フルージア、スーヴァル。……さよならだ。夜明けの果てで、また会おう。僕は——幸せだったよ! だからっ!」





 彼の周囲に、素人でも分かるくらいの莫大な魔法素の流れが生まれる。
 炎の赤に、命の緑。リクセス一世一代の、命を代償にした魔法が放たれる——!















「——爆発の太陽エクスプロード・サンッッッッッ!!!」















 爆発。限界まで集められた魔法素が、彼の全ての魔力とともに解き放たれる。
 爆ぜる。人智を超えたエネルギーが、酸素という酸素に引火して惨劇を生む。
 燃え盛る。さながら地獄の炎のように。彼の人生が燃えている。
 燃え尽きず。立ち上った火柱は、どこまでも赤い色をしていた。
 燃やし尽くし。その命を、あまりにも鮮やかに燃やし尽くし、彼は逝った。

「……リクセ……ス……」

 彼らを追っていた敵は、全滅していた。
 炎の中に、翼の天使の姿は、ない。
 自爆、と彼は言っていた。ならばおそらく、もう彼はいない。
 自分の命と引き換えに、守り切った仲間たち。

「見事すぎるわ……見事すぎる……よ……」

 幻想的にさえ見える炎は、彼の命の色だった。

「だから……失いたく、なかったのに……」

 渡された知恵の輪を、握りしめた。





 英雄は、死んだ。





〈五章 了〉


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 ……はい、藍蓮です。

 「夜明けの演者」も、あとはエピローグを残すのみとなりました。
 出会い、別れ。悲しみを乗り越えながらも。成長していった少女の記録。
 あとはラストスパートです。彼女の物語は、一体どのような結末を迎えるのか——。
 その目で、お確かめ下さい。

 ……次の話に、請うご期待!


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