ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

【本文修正中】SoA 夜明けの演者
日時: 2017/10/22 11:26
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=598.png

※ SoAはStories of Andalsiaの略です。
  長すぎるので略しました。

※ ただいま本文修正中です。変な所が多すぎたので。
  あ、でもたまには番外編も更新しますよ?

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 〈導入部〉


 柔らかな春風が肌を撫でた。
 少女から大人になった彼女はそれに目を開け、草むらに転がらせていた身を起こす。
 身を起こして立ち上がれば。輝かんばかりの金色の髪が風に揺れ、彼女の視界にも入ってきた。

 春。その季節に、彼女は遠い日を思い起こす。

 彼女が「みんな」に出会ったのは秋で、春に「みんな」を失った。
 春は暖かくて幸せな季節だけれど。彼女にとって春とは、切なく痛む悲しみの季節でもある。
 暖かな春空。優しい空気。その中で彼女は一つ、呟いた。

「……わたし、大人になったよ……?」

 大人になる前に死んでしまった仲間を思って、彼女はそっと目を閉じた。
 その紫水晶の瞳から、こらえきれぬ涙が一つ、二つ。零れ落ちていって、乾いた地面を濡らす。
 彼女の名を、フルージアといった。


 ——そう、これは彼女、フルージアの物語。

 
 「演者」と呼ばれる特殊な才を持った少女の、最も鮮やかだったころのものがたり——。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 Index

 第一部 アスフィラル劇団 >>1-6

 序章 フルージアの初舞台 >>1
 二章 夜明けの演者 >>2-3
 三章 力と未来 >>4-6

 第二部 セラン特殊部隊 >>7-20
 
 一章 新しい仲間たち >>7-8
 二章 初陣は突風とともに >>9
 三章 流転の善悪 >>10-14
 四章 切れない絆 >>15-17
 五章 束の間の夢だけど >>18-20

 第三部 戦乱の彼方に >>21-32

 一章 覚悟を決めろ >>21-22
 二章 命の序列 >>23-26
 三章 天秤に掛けるなら >>27
 四章 燃える生き様 >>28-30
 五章 爆発の太陽(エクスプロード・サン) >>31-32

 エピローグ どんな夜にも…… >>33

 あとがき >>34
 メロディーのないテーマソング >>35
 後日譚 水晶の欠片を透かしてみれば >>36


  ♪


《番外編1 風色の諧謔(かいぎゃく)》


 第一章 始まりのオルヴェイン >>39-44

 1 10の誕生日に >>39
 2 「化け物」と呼ばれた子 >>40
 3 束縛を脱して >>41
 4 二人の絆 >>44


 第二章 師匠とともに >>45-

 1 嵐の瞳 >>45
 2 我らレヴィオンの生徒たち! >>46
 3 青玉の証 >>47


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 どーも、藍蓮です。

 今作は、趣味で書いていた話を文芸部に提出したら、「長すぎる」と言われ、40000字も泣く泣くカットする羽目になった話の完全版です。つまり、完成した原型があります。それをちょっと推敲するだけなので……。まぁ、投稿ペースは速いと思いますよ。

 それではでは。不思議な世界にご案内♪

(地図を添付しました。URL参照)


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 補足 この世界の魔法の仕組み(時々更新?)(すみません、複雑です)

 〜アンダルシア魔道原則〜


1 この世界には魔法素(マナ)と呼ばれる、意思を持たないエネルギー粒子が無数に飛び交っている。それは、ある異種族(イデュールの民)以外の目には見えず、通常は人々に認識されないし、ただそこにあるというだけで、別段、人に害を及ぼすものではない。

2 この世界で言う「魔導士」とは、無数に飛び交う魔法素を才能で特定の形に組み、それを破壊することで、空間をゆがませたりひずみを加えたりして高エネルギー体である魔法素に働きかけ、何らかの事象を引き起こす人々のこと。魔法素を組み、破壊することそのものが「魔法」と呼ばれる。 

3 魔法素には、それぞれ関与できる事象が異なる一団、通称「属性」がある。魔導士は魔法素を組めないと話にならないが、個人の適性によって、どの「属性」の魔法素が組めるかが大きく異なる。
 たとえば「火」の魔導士は「火」の魔法素を組んで火に関する事象を起こせるが、それ以外の魔法素は少ししか扱えない。
 とはいえ魔法素の基本は同じで、「属性」はそれにわずかに付与された「特性」みたいなものだから、「火」の魔導士でも、弱い事象ならば「水」や「風」も操れる。

4 この世界で言う「魔力」とは「魔法素を組める力」のこと。これは運動すれば体力が減るのと同じで、魔法を使えば魔力が減る。体力が減れば身体的に疲れるが、魔力が減れば精神的に疲れる。

7 この世界には、「反魔法素(アンチマナ)」と呼ばれる、魔法素よりも大きい、意思を持たないエネルギー粒子がややまばらに飛び交っている。反魔法素には魔法素でつくられた術式そのものを破壊し、ときにはその術者にさえ影響をもたらすことがある。

8 反魔法素は凡人はおろか通常の魔導士でさえ操れないが、操れる者もいるにはいる。彼らは「破術師」と呼ばれ、その存在は非常に貴重である。反魔法素を使えば、呪いの類はもちろん、攻撃魔法や補助・妨害、離脱・移動魔法、発動前の、まだ魔法素を組んだだけで破壊していない魔法すら壊せる。
 しかし「破術師」は破術にのみ特化しており、魔法は一切使えない。

9 この世界には、「原初魔法素(オリジンマナ)」と呼ばれる、魔法素と反魔法素の中間ぐらいの大きさの魔法素が存在する。それは、何の属性にも染まっていない魔法素のことで、「属性による事象(発火、突風、落雷など)」が起こせない代わりに、集まることで力を成す。
 要は、目に見えぬ拳で殴ったり、目に見えぬ壁で攻撃を受け止めたり、などということが可能。ただし、どれも通常の魔法素に比べると威力が劣るが、その術式は決して破術では破壊できない点が特徴。

10 「原初魔法素」使いは「無属性魔導士」と呼ばれる。属性の一切こもっていない「力の球」などで攻撃をされると対処が難しいため、割と応用範囲は広い。「破術師」ほど稀少ではないが、これを使える者は少ない。無属性魔法は破術での打ち消しができないが、消費魔力が多めの上に、属性魔法よりも威力が劣るので何とも言えない。

 結論;三つの魔法素は、どっちもどっちの能力である。

12 特珠職業「魔素使(まそし)」は、魔法素を武器や盾として実体化させて戦うが、それに使われる魔法素は原初魔法素である。要は、無属性魔導士の派生職。魔素使は破術師並みに人数が少ない。
 実体化させた武器や盾は、本人の意思によって、あるいは本人の意識の消滅によって消えてしまう。

13 魔法素を組む方法は個人によって異なるが、「詠唱」として言葉に出して行う者が多い。頭の中の考えがバラバラだとできる式もおかしくなるが、言葉に出すことによって、考えに指向性を持たせて正確な式を作る。 
 詠唱の言葉はその人のアドリブで構わないし、技名をつけるのも勝手なので、特にそのあたりに決まりはない。技や詠唱=人それぞれ、と言ったところか。

19 魔法素は目に見えず、普通は触れられないため、感覚的に組まれる。慣れぬ者は頭の中で式を組んでから術を使うが、慣れた者は頭の中で式を組まなくとも、無意識に術を使える。
 魔導士として大切なのは理論ではなく、才能と勘と経験である。理論だけでは魔導士には決してなれない。

26 神も悪魔も精霊も死者も。一定の条件が整えば、人間と契約し、その力を貸し与えることができる。契約の方法はそれぞれ違い、あらゆる決定権は人間でない側にあることがほとんどである。
 ちなみに。「召喚」と「契約」は似て非なるものである。

32 神や悪魔、精霊は気まぐれに人間と契ることがある。(ときには逆、あるいは相互もある)これを「契約」と呼ぶ。
 「契約」は召喚ほどの強制力はないため、互いに信頼し合っていることが大切である。(人間の上位に当たる存在から契約を迫ってきた場合、信頼がなくとも契約できる)

33 人間の力には「魔力」「体力」「生命力」の三つがある。わかりやすくたとえてみよう。
 ここに一つの器があるとする。その真ん中には仕切りがあり、左右それぞれ別の液体が満たされているとする。このうちの片方が「魔力」、もう片方が「体力」、器そのものが「生命力」である。
 この中で「魔力」が減って(使われて)も、仕切りがあるため「体力」は減らない。その逆もしかり。ただし、人によって「魔力」と「体力」の配分は異なる。つまり、仕切りが偏っていることがある。
 しかし、「生命力」、つまり器そのものが削れたり欠けたりすれば、「魔力」も「体力」も、満たすことのできる絶対量が必然的に減る。いくら「液体」があろうとも、「器」が小さければあふれるばかりで、全てを収めることはできないのだから。
 「生命力」すなわち「生きる力」である。だから、これがなくなれば人は死ぬ。「死」はいわば、「器が砕ける」ことである。


【ごちゃごちゃしてきたし、本編に関係のない原則も出てきたので、いずれ整理します……】

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 速報!

 2017/8/31 この作品が、小説大会ダークファンタジー部門で、次点を獲得しました!
 いえ、次点ですけどね。あくまでも次点。
 ですが、本当に、心から嬉しく思ったので!

 皆様、ありがとうございました!(うれし泣き)(号泣)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 2017/8/17 連載開始
 2017/9/12 本編終了
 2017/9/24 番外編1 風色の諧謔 開始

夜明けの演者 2-1-2 幸せの特殊部隊 ( No.8 )
日時: 2017/10/15 11:17
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 2 幸せの特殊部隊


  ♪


「……って話なの。わかったかしら?」
「ううっ! そんな悲しい話があるなんてぇ! しくしく!」
「とりあえず始めるわよ。正史ではエルステッドしか生き残っていないけれど、劇では生き残るのはフィラ・フィアだから。で、わたしはそのエルステッドになりきってみるわよってわけ」

 泣いているマキナはさておき。フルージアはいつしかのように、心を集中させた。わたしは、否、俺はエルステッドだ!

「見えざる剣は闇を断ち、見えざる盾は我らを守る! 自在の魔神、エルステッド見参!」

 あの日のように、叫んで手を振れば。
 現れる、演者の証。
 
 右手には剣が。
 左手には盾が。
 何もないところから突如、出現する。

「すごいすごーいっ!」

 マキナが目をまん丸にしていた。

「確認するけど、フルージアちゃんは魔素使じゃないよね? ウチには魔素使が一人いるけど、魔素使って超希少種じゃん。二人も三人もいるワケなしっ!」
「もちろんよ! 嘘をつく必要なんてないじゃない?」
「ってことは、フルージアちゃんは何にでもなれるんだあ……?」
「ま、そういうことかもね」

 手を振って剣と盾を消しながら、フルージアは微笑んだ。
 嬉しかった。力を存分に振るえること。自分に怯えずに生きられること。力を使って恐れられるのではなく、力を使ってほめられること。喜ばれること。
 ここに至ってようやく、自分の居場所ができたのだと、実感して。

「わっ! フルージアちゃん、どうしたのっ!」
「嬉しい……」

 思わず、涙をこぼしていた。胸に温かいものがこみあげる。

「わたし、さ。今まで、この力をずっと恐れてたの。この力で誰かを傷つけてしまわないかって、ずっと。だから、こうして力を現して、それですごいって言ってもらえて、とても、嬉しかったの」
「え? あたいは特に何もしてないよっ? 素直な気持ちを言っただけっ!」

 マキナは気づかない。その、素直にすごいと言ってくれることこそが、フルージアの喜びとなったことを。

「わたし……劇団に入ってた。でね、ある日、その力をあらわしてから……本気で役にのめり込むことができなくなった。わたし、花形スターだったんだよ? でも、『演者』の力で誰かを傷つけるのを恐れて、わたしは没落していったの」

 落ち着ける居場所は一転して、地獄と化した。そこから救ってくれたのはクィリだ。あの、仮面をかぶった堅物さん。口下手な生真面目さん。

「わたし、ここに入って良かったって思ってる。ここでなら、力を存分に使ったって、誰も文句を言わないもの。マキナ、あなたが気付かせてくれたんだよ。感謝しても足りないわ」

 そう言ってにっこり笑ったら。マキナは照れくさそうに頭を掻いた。

「そんなことないってばあ。ま、元気になったならいいや。そろそろ広場に集まらないと。ご飯の支度をしなきゃいけないの」
「え? でも、わたし、何をすればいいのかよくわからない……」
「あたいが教えたげますって! 気にせずゴーゴーゴーッ!」

 走り出すマキナを慌てて追いかけながらも、フルージアは新しく始まる日々に思いを馳せた。


  ♪


「はあい、みんなぁ! クィリが連れてきた新入り、フルージアちゃんだよっ! よろしくねっ!」

 野営地につくと、マキナが集まってきた皆に大声でフルージアを紹介した。

「よ、よろしく……」

 マキナのテンションにはついていけない。少々気後れしながらも、フルージアは挨拶した。

「この子はまだ野営の方法とか知らないから、紹介ついでにレクチャーしてあげてねっ! あたいも色々手伝うけどさっ!」

 マキナが言うと、早速一人の少年が近付いてきた。生真面目な顔をしている。

「クィリから聞いた。僕の名はヴィラヌス。魔素使だ。よろしく頼む」

 フルージアは頷いた。この人が、マキナの言っていた魔素使か。

「よろしくお願いしますっ!」


 彼は野営での火のおこし方や食べ物の見つけ方、毒の野草やキノコなどについて、懇切丁寧に教えてくれた。それ以外の人も何度か話しかけてくれたので、フルージアはメンバーを覚えた。今更だが、一人ぼっちだったフルージアにとって野営は当たり前だったことをあとから思いだした。本当は説明なんてなくても大丈夫だったけれど、色々話せたし、結果オーライか。
 マキナ、スーヴァル、ヴィラヌスはもう知り合いになったので省いて。


 金メッキの知恵の輪をいじっている、緑の髪の、人を食ったような態度の少年がリクセス。
 白いロングヘアーに緑の瞳を持つ、内気な少女がシフォン。
 黒髪黒眼の異国風の服を身に纏った、警戒心の強い少年はシグレ(時雨と書くらしいが、異国の字なので読めない)。
 蒼い髪と灰色の瞳の、ヴィラヌスと気が合うらしい、思慮深い少年はソールディン。
 

 この他にあと四人いるらしいが、そのうち二人は『任務』のため出張中だと皆は言った。
 もう二人は、事情あって、長期にわたっていないそうだ。
 また、死や事情によって、欠けたメンバーがいる、とも。

「これが、これから貴公と日々を共にする仲間だ。よく覚えておくと良い」

 そう、クィリは言っていた。


 その日。慣れた固い土の上ではなく、森のふかふかした落ち葉の上で。実用重視のマントにくるまりながらもフルージアは寝た。一人でいるのとは違う環境。誰かがいる、側にいる。
 それがとても安心できて。幸せの中、彼女は眠りに落ちた。
 クィリだけは最後まで眠らず、木々の隙間から星々を眺めていた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

夜明けの演者 2-2-1 ( No.9 )
日時: 2017/10/15 11:22
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


〈二章 初陣は突風とともに〉


  ♪


「王国から伝書鳩で依頼が来た。内容は無断侵入したアルドフェック帝国民の一掃。規模は小さいが、直ちに対応せよとのことだ」
 
 それから数日後。クィリがそんな依頼を持ってきた。

「ええ〜、またぁ? めんどくさいな〜」

 マキナはぶつぶつと文句を言った。無言で頷くスーヴァルは対照的である。

「だそうだが、フルージア、初任務だな」

 ヴィラヌスが彼女の肩をぽんと叩いた。

「セラン特殊部隊の仕事については聞いたか?」

 クィリに初めて出会った日に聞いた気がする。

「確か、王族貴族の問題事や侵略に、ゲリラ的に対応する部隊、だっけ?」
「その認識で合っている。ところで君の『演者』は戦うこともできるかな?」
「実戦は初めてだけど……たぶん。とりあえず援護でいい?」

 ヴィラヌスは頷いて、皆に行った。

「今日は久々の戦闘の日だ! 皆、気を引き締めてかかれ! 彼女、フルージアは援護につく! 援護部隊は彼女が何か質問をしたら答えるように!」

 指示が早いし的確だ。彼は軍をまとめるのに向いているのかもしれない。クィリの出番は無きに等しい。
 そんなこんなであわただしい朝が始まり、一行は戦場へ向かうこととなった。


  ♪


 マキナの「千里眼」によると、問題の場所は近いらしい。

「あ、ほら、見えたよって!」

 彼女が示した方を見れば。確かに確認できる、小規模の集団。セランの警備兵らしき人々と交戦中だ。ここは割と国境から遠いのに。

「……戦闘、用意」

 クィリが低くつぶやいた。そういえば、彼はどのようにして戦うのだろう?
 その答えはすぐにわかった。彼は、いつも腰に提げているポーチから、鈍色(にびいろ)に輝く鉄爪クローを取り出したのだ。剣や短剣のたぐいだと思っていたのに。やけに近接戦闘に向いた装備である。
 クィリは鉄爪をつけた手を振り上げた。戦闘開始の合図である。フルージア達はヴィラヌスの指示通りの位置につく。ちなみに無断侵入したアルドフェック帝国民は殺してもいいそうだ。つまりフルージアは今日、初めて人を殺すことになるのかもしれない。それが怖かった。

「だいじょーぶだよ、フルージアちゃん。どーせ援護でしょ? 怖がんなくてもいいって」

 マキナがそっと励ましてくれて、フルージアは嬉しくなった。

「かかれッ!」

 突如上がった、ときの声。魔素使ヴィラヌスが先行し、帝国民に斬りかかる。

「我が国土に無断侵入した奴らは、生かしてはならないというお達しだ!」

 血が飛んだ。あわてる帝国民たち。彼らと交戦していた警備隊はほっとした表情を浮かべ、訊ねた。

「あ、あなたたちは?」

 それに答えるはクィリ・ロウ!


「人よ聞け! 我らはセラン特殊部隊、別名『不可視の軍団インヴィシブル・アーミー』ぞ! 伝書鳩による知らせを受け、鎮圧のために参ったまで! 敵も味方も、我らが名を刻みつけよ!」


 襲いかかる鉄爪は凶悪に輝く。負けじと相手も応戦した。
 ——カキーン!
 金属のぶつかり合う音が鋭く響き、さっと両者は距離をとる。
 それを合図として、観念した帝国民が、一気に襲いかかってきた。

「わっ! マキナ、援護するっていったって、わたし、どうすればいいの……?」

 森の陰から見守るフルージアは混乱してマキナに問うた。マキナは首をかしげて答える。

「あたいはどんな『役』があるのか知らないよ? あたいよりスーヴァルの方が詳しい。そこにいるから聞いてみたら?」

 マキナの指した方を見たら、静かに両の手を構えるスーヴァルの姿が見えた。その瞳は鋭く、気軽に話しかけるのがためらわれる。
 だけど、言ってられないじゃない! 誰かが一生懸命戦っているっていうのに、自分だけ何もしないのは嫌だ。フルージアは彼にそっと声をかけた。

「あ、あのー」
「何」

 相変わらず素っ気ない。彼は戦場を睨むようにしていた。

「援護するって、何をしたらいいの……?」
「あなたの『役』のことか」

 さすがスーヴァル。頭の回転が速い。

「そのことなんだけど、初めての戦闘だからわたし、混乱しちゃって。いいアイデアがあったら教えてくれない?」
「援護には三種類ある。ひとつ、攻撃魔法などで相手を攻撃すること。ひとつ、補助魔法などで味方をサポートすること。ひとつ、妨害魔法などで敵を邪魔すること」

 フルージアは尋ねる。

「で? わたしはどうすればいいの?」
「人形使が今回は最適。もの(人形)がないなら植物がいい。相手の足を蔦で縛って動きを封じれば捕虜にしやすい。……教えるのは今回だけだ。次からは無いと思って。ここは戦場、自分の頭で、その状況で何が最適かを、その場で判断しなければならないから」
「……なるほど」

 その言葉、しかと胸に留めておこう。フルージアはスーヴァルに礼を言った。

「どうもありがとう」
「別に。感謝される覚えは無い。あとは実戦での経験次第だ。今回の敵は割と雑魚にあたると思う。初陣がこれでよかったね」

 その言葉からは、経験に裏打ちされた自信が感じられた。スーヴァルは何年この特殊部隊に入っているのだろう?

「こっちはこっちの援護があるから。用が済んだらこれで」
「あ、うん! じゃあね!」
「…………」

 スーヴァルは答えずに再び戦場を睨む。相変わらずの態度である。
 とにもかくにも。彼のおかげで指針の決まったフルージアは、マキナのいるところに戻り、役を思い出す作業に入る。マキナがぴょこんとやってきて、声をかけた。

「どうだったっ?」
「色々と話してくれたわ。素っ気ない割には雄弁だった。わたし、植物の魔導士のリルフィになることにしたわ。彼がすすめてくれたの。その劇についてはまたいずれね」

 マキナはうんと頷いた。ここは戦場。のんびりお喋りはできないのだから。
 植物魔導士リルフィの台詞を小さくつぶやく。

「愛のあふれる世界よ来い! 植物たちの、息吹によって!」

 心優しい彼女の役をやったのは、いつのことだろう。それでもフルージアは、役になれた。
 特殊部隊の前衛はクィリとヴィラヌスの二人しかいない。そこをさっきまで帝国民たちと戦っていた警備隊たちがフォローしているんだ。

「その足を止めよ!」

 フルージアが叫べば。突如地面から生えてきた蔦が、帝国民の足に絡みつく。

「わっ、なんだこれは!」

 動きの止まったそこを、

「行くぞッ!」

 ヴィラヌスが剣の鞘で殴って気絶させた。随分簡単だ。
 とはいえ蔦を避けた者もいる。自意識過剰な帝国民、といって舐めてはならないようである。

「逆探知! そこだ!」

 奥の方から声がした。帝国民にも魔導士がいたらしい。飛んできた炎の球。完全に場所がばれている。

「援護は危険じゃないって言ったじゃない!」

 しかし、炎が迫るは身を潜めていた森。木々が焼けてしまったらまずいことになる! と。








「……伏兵がいるってことくらい、考慮しとくべきなんじゃないの? っと、溢れ乱れよ、



 叛逆の渦流ディソベイ・ストリーム!」








 絶体絶命の危機かと思いきや、そんな声がして。どこからか一勢に水が放出された。それは炎の球を掻き消した。特殊部隊の誰かだろう。とにかく助かった!



「お土産あげるよ!」



 先ほどと同じ、人を食ったような声……リクセスだ! が、また聞こえて、森の奥で何かがキランと光った。あれは、知恵の輪?
 その声に応じて森がざわめく。何か大きな魔法が起こる予感?

「味方は下がりな! さあ、見せてあげようか! 我らが不可視の軍団インヴィシブル・アーミー所属、『組師』リクセス様の実力をね! 見られないなら焼き付けろッ!」

 フルージアは確かに見た。これまでリクセスがいじっていた知恵の輪が、この瞬間、しっかりと完成されていたのを。完全なる円を描いていたのを。彼の力は知恵の輪を使うことによって発動されるらしい。一種の触媒だろうか。











「——名付けて、一掃のスウィーピング・ストーム!」











 言葉が終わった途端、彼の知恵の輪から突風が噴き出した。それは迅速に戦線離脱したクィリ達を巻き込むことはなく、帝国民だけを巻き込んで、竜巻となって空高くに昇っていく。ものすごいスピードで動く竜巻は間もなく地上を離れ、空の彼方へ消えていった。
 フルージアはすっかり呆けてしまった。

「あ、あれ、あれって……」

 信じられない。あんな魔法があるなんて。一掃のスウィーピング・ストーム? 単なる風魔法ではないはずだ。
あんなのが使えるくらいなら前衛なんていなくたって……いや、だめか。きっとあれをやるには時間がかかるのだ。前衛は時間稼ぎのために動いていたのか?
 まあ、いいか。何はともあれ、勝利は確定した。


  ♪


「とりあえず、戦勝おめでとう」
 
 戦いが終わり、ヴィラヌスが疲れたような顔をして戻ってきた。

「おおい、みんな! 隠れ場所から出て来てもいいぞ! 終わったのはご覧の通りだが?」

 彼の声につられてみんな出てきた。さっきまで共闘していた警備兵らは、まだ呆然としている。そりゃそうだろう。あんな魔法を見せられたら、誰だって驚きのあまり、開いた口がふさがらない。魔法大国であるアンディルーヴの魔導士だって、きっと腰を抜かすだろう。リクセス……とんだ自信家な人間だったが、あんな力を持っていれば、自信家になるのも仕方のないような気がする。
 みんなが戻ってきた。彼らは口々にリクセスをほめたたえ、陰の功労者であるフルージアにも、「初めてなのに頑張ったね」と口々に励ましてくれた。あまり活躍できてはいなかったけれど……嬉しかった。

「案外早く片付いた。これで討伐作戦を終わりにするが、リクセス、あの竜巻は、どうなった?」
「アルドフェック本土に帰しました。おそらくもう二度と悪さはできないんじゃないですかね」
「それはよかった」

 とにもかくにも。大勝利にてフルージアの初陣は終わる。

(次はもっと活躍できたらいいなあ、なんてね)

 何とも言えない幸せを噛みしめながらも、フルージアは眠りに落ちた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

夜明けの演者 2-3-1 新しい任務 ( No.10 )
日時: 2017/10/15 15:01
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


〈三章 流転の善悪〉


 1 新しい任務


  ♪


 とある穏やかな日のことであった。


「ただいまー……って、見慣れない子がいるねェ。あんた、新入りかい?」
「とりあえず、任務の終了を報告しておく」

 その日、今まで「任務」に行っていたメンバー二人が帰ってきた。

「何、クィリ、また拾ったのかい? 飽きないねェ、ったく」

 帰ってきたうちの一人の名はアミーラ・シーレ、とクィリが紹介した。このセラン特殊部隊の隊長だという。その背には身の丈ほどもある大剣。あんなのを使うんだ? 人は見かけによらずである。
 彼女は朗らかに笑って言った。

「ちなみにクィリは副官ね。あいつが言ったと思うけどサ」
「よ、よろしくお願いします」

 ちなみにもう一人の名はハインリヒ。貴族然とした名前を通称としているが、彼の本名は謎である。

「扱える力は空間操作だ。これからよろしくな、新入りさん」

 不敵にも見える笑みを浮かべて、ハインリヒは右手を差し出した。
 これからはもっと愉快になりそうだ。


  ♪


「反逆者の討伐!?」

 アミーラは依頼を持ってきた。それはそこそこ規模の大きなものだった。

「セランはいい国サ。だけどねェ。いい治世のときに限って必ず、反逆者なんてものが現れるのサ。今はアルドフェックの侵略によって不安が高まってるしサ、国を乗っ取るのにはいい機会だ、なんて思ったんじゃないのかィ?」

 それに対して冷静に問うはスーヴァル。

「反逆者の名前と、罪状は?」

 その問いにはハインリヒが答えた。

「名前はエルシェヴェイツ。移民上がりの下級貴族。罪状はセランの王子アルフォンソに危害を加えた事。国内視察のために各地を訪れている彼が一人になった隙に、剣を抜いて襲いかかった。怪我を負わせることには成功したようだが、そのすぐ後に、彼の、自称護衛官たるカルロス王子が駆けつけて事なきを得た、と。幸いアルフォンソ王子の命に別状はなかったが、お陰で視察は取りやめ、奴は必然的に反逆者として追われるようになったが未だ捕まらず、王家はこうして我らに依頼をした、というわけだ。合ってるよな、隊長殿?」

 答えは立て板に水の如く。どうやらハインリヒは説明に慣れているらしい。
 アミーラはうなずいて彼の肩を叩いた。

「さすがハイン! やっぱあんたは説明うまいねェ。あたしがやったら一時間はかかるかもねェ……って冗談サ、冗談。……ってことで、依頼終わりたてで悪いけれどサ、なかなか大きな依頼が来たヨ。フルージアちゃんはまだ後ろの方で見ていていいケド、今回は全員出動だからネ? 期間指定はなしだけど早めの方がいいってサ。詳しいことはこの手紙に。なんと、アルフォンソ王子直々のお達し!」

 それじゃ、とりあえず解散! とアミーラが言うと、ヴィラヌスやシフォンなど、真面目な何人かは、その手紙を見にアミーラの方へ集まっていった。
 なにはともあれ、特殊部隊ではそうそう休めるものでもないらしい。
 ところで何度かアルフォンソ王子の名が出てきたけれど。噂では彼はまだ十四歳だという。フルージアはおかしいと首を振った。まさかね、まさか。あの頭脳明晰を謳われる王子がそんなに幼いわけないよね。
 フルージアはちらりとみんなが集まる広場を見た。そこには仲間がいる。友人がいる。居場所がある!
 依頼の果てに何があろうと、そのすべてがある限り、きっと乗り越えていけるだろう。依頼の旅に出る日に備えて人形使の人形を作りながらも。そんなことを想うフルージアであった。


  ♪


 エルシェヴェイツは下級貴族だ。彼は、今の王制に不満を持っていた。

(大体、セランに数多くあるギルドのうち、そのギルドマスターは皆セラン王族。それでよく独裁が起こらなかったものだな全く……)

 セランには「ギルド」と呼ばれる制度がある。魔導士、暗殺者、傭兵、商人、運送業者、職人などなど。彼らは皆、国の中では大きな存在だ。ゆえに、彼らは一部を除き、国が管理するために「ギルド」への加入が推奨される。
 ギルドへ入ったら管理されるだけでなく、ギルド内のネットワークを使ったり、ギルドという組織に守られたりするなど、特典もある。加入を拒否することもできなくはないが、そうすると、自由と引き換えに、そういった恩恵は一切得られなくなる。
 そして、そういった様々なギルドには、各ギルドを束ねる「マスター」がいる。彼らは自分のギルドに対して、大きな権力をもっていた。
 
 エルシェヴェイツは、そんなに大きな権力を持つギルドマスター全員が、すべてセラン王国から選出されているということが気に入らない。特に、商業ギルドのマスターはまだ、十四歳にしかなっていないという。セランは彼、アルフォンソ王子を傀儡にして、商業ギルド、つまり財力の世界を、大義のもと、国の支配下に置くのではないか。そう考えていた。
 そもそもエルシェヴェイツは、最初からセラン王国の民ではなかった。彼がかつていたのは砂漠の帝国ダルジア、独裁政治のまかり通る、南大陸一の大国だった。
 独裁を避け、父とともにセランに渡ったのは十年以上前。そこでこの国の良さに触れ、国のために役に立ちたいと思い、国のために尽くしてとうとう、移民から貴族にまで成り上がった。それが彼、エルシェヴェイツの半生だ。
 しかし、今、このセラン王国に。祖国で嫌というほど経験した独裁が、起こりはじめようとしている。

 嫌だ、せっかく得た幸せな生活を。独裁政治なんかに奪われてたまるか!

 だから彼は消そうとした。傀儡のアルフォンソ王子を。



 しかし、彼は知らなかった。

 いくら幼くとも、アルフォンソ王子はしっかりとした意志を持ち、傀儡になんてなりようが無かったことを。財力の世界は複雑だ。だからこそ王は、アルフォンソに——幼き神童に、その世界の権利を渡したのだと。
 そもそも、ギルドマスターがすべて王族になったのは、決して意図的ではなく、単なる偶然の産物に過ぎない。王が有能な者を探していたら、それがなんと、全員王族だったというだけである。決して身びいきではない。
 よって、エルシェヴェイツの反乱には、意味がない。
 たったひとつの事実を知っているかいないかで、彼の運命は分かたれた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

夜明けの演者 2-3-2 事件の裏側 ( No.11 )
日時: 2017/10/15 15:03
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 今回は裏方さんの話なので、主要メンバーは誰も出てきません。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 2 事件の裏側


  ♪


 ——時は少しさかのぼる。

「あにうえ、あにうえ〜!」
「……五月蝿うるさい。命に別状はないと言った。だからそんなに近づいてこなくて良い。鬱陶しい」

 カルロの手を鬱陶しそうに払いながらも、アルフォンソ・セラリスティアは身を起こす。

「あにうえ、冷たいって! おれがあにうえ助けたんだぞっ!」
「お子様は黙ってろ」

「どっちがお子様だって?」

「! 兄上……!」

 不意に扉が開いて、淡いブロンドの髪に悪戯っぽい青い瞳、銀縁眼鏡に白衣の人物が現れた。人ぞ知るセラン王国第三王子、ファブリツィオ・セラリスティアだ。自称「発明家」で、職人ギルドのマスターでもある。

「ひどい目にあったねえ、アルフ」
「ご無沙汰している。兄上はどうしてここに?」
「手紙を預かってねぇ。いくら忙しいからって兄さんにそんな雑用を頼むとは、まったく、人使いの荒い妹だよねぇ。確かに僕は暇だけどさ」
「……ファルフ姉上からか。内容は」
「はい、これね」

 ファブリツィオは、二枚の手紙を差し出した。そこには、セラン王国第一王女、ファルフォンヌ・セラリスティアの流麗な文字が、流れるように美しく書かれていた。


 †親愛なる我が弟へ†

 ごきげんよう。事件については聞き及びまして、まったく痛ましい限りですわ。あんな輩はすぐに討伐して差し上げたいところですが、生憎とアルドフェックの件がありまして、そっちの方に回す手がありませんのよ。ただし、身元はつかめましたわ。賊の詳しい経歴については二枚目をご参照あそばせ。わたくしの諜報能力を舐めていただいては困りますの。どうぞよしなに。

 さてさて、賊について調べられたはいいものの、こちらはひどい人手不足。賊の討伐に回す手が足りませんの。

 そこでわたくしから提案いたしますわ。あなた、わたくしの事務仕事を手伝ってくださりません? そうしたらわたくしは「駒」を動かせますの。あなた、セラン特殊部隊をご存知? わたくし、そこの隊長である、アミーラ・シーレとつながりがありまして。「部隊」は政治なんかとは直接的な関係はございませんので、この件で自由に動かせる、唯一の駒ですわ。しかし、それを動かそうにも忙しすぎましてね……。困っていますの。

 そこで取引をいたしましょうか。あなたがわたくしの事務仕事を手伝って下されば、この件はすぐにでも解決いたしますわ。この件はあなたに深くかかわること。あなたほど賢くあれば、どうするのが一番いいかなんて、すぐにわかりますでしょう?
 ああ、兄上が偶然通りかかって良かったですわ! おかげで手紙を託せましたもの。
 返事はあなたが直接来ることを返事といたしますわ。命に別状はないというのなら、来られないことはないでしょうから。
 よい返事をお待ちしておりますわね。

 †愛をこめて†  ファルフォンヌ★



「……自分の用ばっかり書いてあって、全然愛のこもっていないお手紙をありがとう」

 読み終わり、アルフォンソは溜め息をついた。

「で、アルフはどうするんだい」
「行くしかないだろう」

 憮然とした顔でつぶやき、ベッドから立ち上がる。が、その途端、体が大きくよろけた。

「……ッ!」
「大丈夫かい」

 その身体を、ファブリツィオが支える。その青い瞳が心配を帯びた。

「つい最近も、君は怪我したばっかりだし、やめた方がいいんじゃないかい?」
「断る。自分のことはどうだって良い。あくまでも役目を果たすまでだ」
「なら、止めないよ」

 ファブリツィオは穏やかに微笑み、さっきから居場所がなさそうに縮こまっていた、カルロの方を見た。

「カルロ。アルフォンソは帰ることになったから。君も一緒に帰るだろう?」
「もちろん! あにうえはおれが守るんだからね!」
「頼もしい弟だねぇ」

 ファブリツィオはクスクスと笑った。

「じゃあそういうことで、まだ朝だから早速発つけど、アルフ、歩けるかい?」
「無論だ」

 言ってはみるけれど、傷が痛み、体に力が入らない。命に別状はないけれど、決して軽傷というわけでもない。
 そんな彼を見て、溜息を一つ。

「意地を張るのは良くないよ?」

 言って、有無を言わさず弟を背負いあげる。

「……っ! 兄上! 僕はまだ……」
「君はませてはいるけれど、まだ子供なんだからおとなしく背負われていなさい」
「すまない」
「兄さんとして当然のことさ」

 その日、セラン特殊部隊に、一つの指令が下された。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

【2017/8/25 文字化け修正しました。
 ハートは使えないのか……。】

夜明けの演者 2-3-3 叛逆の徒を討て ( No.12 )
日時: 2017/10/22 11:21
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


  3 叛逆の徒を討て


  ♪


 反逆者エルシェヴェイツ。彼は十数人の仲間とともに、オスキア大森林に潜んでいるらしい。


「王族からの情報が入ったヨ。奴らの居場所が変わらないうちに、早いうちに決行しようねェ」

 その日、アミーラはみんなを集めて、そんなことを言った。

「相手の戦力はわかんないんだよねェ。だからあたしたちは、二人から四人で班を作り、班ごとに散らばって行動することにしようかねェ? どっかの班が先制攻撃、で、自分たちに注意を引きつけて、他の班がその隙に、各々の魔法やら術式やらを組み立てる。その次は、用意ができたところから攻撃。様々な方向から叩いた方がいいんじゃないかィ? で、相手の殲滅で任務達成ね。ま、こんなトコかしらねェ」

 アミーラは前に、「あたしは説明が下手だから」とか言っていたが、それはふざけただけらしい。見事な説明である。

「ちなみにこの作戦はあたしの案サ。普段はふざけてるように見えるかもしんないけど、隊長を舐めんじゃないさね。ってことで、班を作ってみ。前衛のみの班が最低でも一つは欲しいからそこのところよろしく」

 アミーラが指示すると、皆、慣れた様子でサッと分かれた。
 皆にはそれぞれ様々な「能力」がある。しかし、部隊に来て日の浅いフルージアには、誰がどんな能力を持っているのかよく分からない。(マキナが千里眼でヴィラヌスが魔素使で、スーヴァルが無属性魔法でリクセスが組師で……あとは誰が何だか)だから、どの班に入ればいいのか分からない。

 すると。


「僕の所においでよ。ぜひとも歓迎するよ」


 声をかける者があった。青い髪と灰色の瞳。ソールディンだ。
 見ると、そこにはすでに、ソールディンを除き、時雨とシフォンがいた。

 フルージアは、誘いに花が咲いたような笑顔を返した。

「誘ってくれてうれしいわ、ソールディン。わたし、まだ全然慣れていないけど、頑張るからね!」
「よろしくね、フルージア」

 進む先は、定まった。


  ♪


 オスキア大森林に入り、班ごとに散開する。フルージアは、自分含めて四人きりになった。
 話によると、 話によると、ソールディンは前衛、時雨はどちらも可能、ということらしい。

「僕は変身士だ。プルリタニア、という国を知ってるかい? 最果ての島国なんだけど、僕の祖先はそこから来た。そこには〈蒼き狼〉という伝説があって、僕はその狼の末裔なんだって。だから僕の変身形態は——狼さ」

 とソールディンは話してくれた。それは、フルージアのよく知る物語だった。

「あ、それ、青き狼、知ってるよ。わたし、演じたことあるもん。蒼き狼ウェロンと、人間の娘リリアの恋物語ね。その末裔なんだ、すごーい! で、プルリタニアかぁ。あの国はいいよね。面白い物語がたくさんあるもの!」
「フルージアが言っているのは『蒼狼の太陽』だね。よくご存知で」
「伊達に劇演じてたわけじゃないから。わたし、花形スターだったんだよ?」
「劇っていいよね」 

 そうやって二人で会話していると。
 シフォンが困ったようにこちらを見た。

「あの〜、割り込むようで悪いですが、敵に存在をけどられたらどうするんですか? 話をしたいなら、任務の後にしてくれると……」
「ばれてないよ、大丈夫さ。……狼の勘があるからね。まあ、シフォンの言うことももっともだ。自粛しよう」

 その答えを聞き、シフォンは生真面目に頷いた。
 ところで、フルージアはまだ知らないのだが。

「シフォンは、どんな力を持っているの?」
「わたしですか? わたしは命の魔導士です。生命力を操る力を持っています。今回は、怪我の治療など皆様の後方支援を担当します。といったって、わたしは戦闘向きではないので、今回に限らずいつも後方支援ですがー」

 苦笑いしつつも答えてくれた。なるほど、命の魔導士か。その力を使えば、致命傷すらいやせるという。
 ちなみに時雨は「カタナ」と呼ばれる剣を使う剣士らしい。
 さて。


「……反逆者たちらしき影を発見。止まって」


 森をそこそこ進むと、不意にソールディンが足を止め、小さくささやいた。

「アミーラとクィリの班が先制攻撃を仕掛ける。その次は僕らでかきまわす。戦闘準備、しておいたほうがいい。参考までに聞いておくけど、フルージアは何になるんだ?」

 ソールディンは前衛、時雨も前衛。で、シフォンが後衛で補助ならば。
 やるべき役は、前衛の攻撃か後衛の魔法攻撃、あるいは妨害。
 フルージアの頭の中に、たくさんの役が浮かんでは消える。
 地形は森、よって火は危険! 風は扱いづらく、戦いに慣れていないフルージアが前衛に行ったって、足手まといになるだけ!
 様々な情報を総合し、フルージアは、この場に一番合う役を選び取る。

「決めたよ。わたしがなるのは——」


  ♪


 エルシェヴェイツは、覚悟を決めた。

「間違った政治を正せはしなかったが……。大事なのは、立ち上がったことだ。王子を傷つけたことで国家の反逆者となった我らには、もう、まともに生きる道はない。どうせ始末番が来るだろう。——だが、しかし!」

 彼は最後まで彼につき従ってくれた十数人の同志に対し、心のたけを叫んだ。

「我らが死んでも! 我らの業を見て、きっと跡を継いでくれる者が現れるだろう! 我らは王制の前に倒れたが、その死は決して無駄にはならない! 自分の信念のために死ねるのならば本望だ!」

 天高く拳を突き上げた彼に、同意の声が上がる。
 エルシェヴェイツの燃える瞳には、彼の正義があった。

「最後の戦いが始まる。皆、死兵となって、死ぬまで戦い続けろッ!」

 叫び、彼がさらに皆を鼓舞しようとしたとき。










「——ならば死んでくれないかねェ?」











 アミーラの大剣が、一直線に彼の喉元を狙った。






 戦いが、始まる。
 方や、無知ゆえに反乱を起こした反逆者。
 方や、「不可視の軍団インヴィシブル・アーミー」の異名を持つ部隊。


 しかし、この戦いはあまりにも一方的で。シフォンが誰かを治療するまでもなかった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。