ダーク・ファンタジー小説

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【本文修正中】SoA 夜明けの演者
日時: 2017/10/22 11:26
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=598.png

※ SoAはStories of Andalsiaの略です。
  長すぎるので略しました。

※ ただいま本文修正中です。変な所が多すぎたので。
  あ、でもたまには番外編も更新しますよ?

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 〈導入部〉


 柔らかな春風が肌を撫でた。
 少女から大人になった彼女はそれに目を開け、草むらに転がらせていた身を起こす。
 身を起こして立ち上がれば。輝かんばかりの金色の髪が風に揺れ、彼女の視界にも入ってきた。

 春。その季節に、彼女は遠い日を思い起こす。

 彼女が「みんな」に出会ったのは秋で、春に「みんな」を失った。
 春は暖かくて幸せな季節だけれど。彼女にとって春とは、切なく痛む悲しみの季節でもある。
 暖かな春空。優しい空気。その中で彼女は一つ、呟いた。

「……わたし、大人になったよ……?」

 大人になる前に死んでしまった仲間を思って、彼女はそっと目を閉じた。
 その紫水晶の瞳から、こらえきれぬ涙が一つ、二つ。零れ落ちていって、乾いた地面を濡らす。
 彼女の名を、フルージアといった。


 ——そう、これは彼女、フルージアの物語。

 
 「演者」と呼ばれる特殊な才を持った少女の、最も鮮やかだったころのものがたり——。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 Index

 第一部 アスフィラル劇団 >>1-6

 序章 フルージアの初舞台 >>1
 二章 夜明けの演者 >>2-3
 三章 力と未来 >>4-6

 第二部 セラン特殊部隊 >>7-20
 
 一章 新しい仲間たち >>7-8
 二章 初陣は突風とともに >>9
 三章 流転の善悪 >>10-14
 四章 切れない絆 >>15-17
 五章 束の間の夢だけど >>18-20

 第三部 戦乱の彼方に >>21-32

 一章 覚悟を決めろ >>21-22
 二章 命の序列 >>23-26
 三章 天秤に掛けるなら >>27
 四章 燃える生き様 >>28-30
 五章 爆発の太陽(エクスプロード・サン) >>31-32

 エピローグ どんな夜にも…… >>33

 あとがき >>34
 メロディーのないテーマソング >>35
 後日譚 水晶の欠片を透かしてみれば >>36


  ♪


《番外編1 風色の諧謔(かいぎゃく)》


 第一章 始まりのオルヴェイン >>39-44

 1 10の誕生日に >>39
 2 「化け物」と呼ばれた子 >>40
 3 束縛を脱して >>41
 4 二人の絆 >>44


 第二章 師匠とともに >>45-

 1 嵐の瞳 >>45
 2 我らレヴィオンの生徒たち! >>46
 3 青玉の証 >>47


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 どーも、藍蓮です。

 今作は、趣味で書いていた話を文芸部に提出したら、「長すぎる」と言われ、40000字も泣く泣くカットする羽目になった話の完全版です。つまり、完成した原型があります。それをちょっと推敲するだけなので……。まぁ、投稿ペースは速いと思いますよ。

 それではでは。不思議な世界にご案内♪

(地図を添付しました。URL参照)


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 補足 この世界の魔法の仕組み(時々更新?)(すみません、複雑です)

 〜アンダルシア魔道原則〜


1 この世界には魔法素(マナ)と呼ばれる、意思を持たないエネルギー粒子が無数に飛び交っている。それは、ある異種族(イデュールの民)以外の目には見えず、通常は人々に認識されないし、ただそこにあるというだけで、別段、人に害を及ぼすものではない。

2 この世界で言う「魔導士」とは、無数に飛び交う魔法素を才能で特定の形に組み、それを破壊することで、空間をゆがませたりひずみを加えたりして高エネルギー体である魔法素に働きかけ、何らかの事象を引き起こす人々のこと。魔法素を組み、破壊することそのものが「魔法」と呼ばれる。 

3 魔法素には、それぞれ関与できる事象が異なる一団、通称「属性」がある。魔導士は魔法素を組めないと話にならないが、個人の適性によって、どの「属性」の魔法素が組めるかが大きく異なる。
 たとえば「火」の魔導士は「火」の魔法素を組んで火に関する事象を起こせるが、それ以外の魔法素は少ししか扱えない。
 とはいえ魔法素の基本は同じで、「属性」はそれにわずかに付与された「特性」みたいなものだから、「火」の魔導士でも、弱い事象ならば「水」や「風」も操れる。

4 この世界で言う「魔力」とは「魔法素を組める力」のこと。これは運動すれば体力が減るのと同じで、魔法を使えば魔力が減る。体力が減れば身体的に疲れるが、魔力が減れば精神的に疲れる。

7 この世界には、「反魔法素(アンチマナ)」と呼ばれる、魔法素よりも大きい、意思を持たないエネルギー粒子がややまばらに飛び交っている。反魔法素には魔法素でつくられた術式そのものを破壊し、ときにはその術者にさえ影響をもたらすことがある。

8 反魔法素は凡人はおろか通常の魔導士でさえ操れないが、操れる者もいるにはいる。彼らは「破術師」と呼ばれ、その存在は非常に貴重である。反魔法素を使えば、呪いの類はもちろん、攻撃魔法や補助・妨害、離脱・移動魔法、発動前の、まだ魔法素を組んだだけで破壊していない魔法すら壊せる。
 しかし「破術師」は破術にのみ特化しており、魔法は一切使えない。

9 この世界には、「原初魔法素(オリジンマナ)」と呼ばれる、魔法素と反魔法素の中間ぐらいの大きさの魔法素が存在する。それは、何の属性にも染まっていない魔法素のことで、「属性による事象(発火、突風、落雷など)」が起こせない代わりに、集まることで力を成す。
 要は、目に見えぬ拳で殴ったり、目に見えぬ壁で攻撃を受け止めたり、などということが可能。ただし、どれも通常の魔法素に比べると威力が劣るが、その術式は決して破術では破壊できない点が特徴。

10 「原初魔法素」使いは「無属性魔導士」と呼ばれる。属性の一切こもっていない「力の球」などで攻撃をされると対処が難しいため、割と応用範囲は広い。「破術師」ほど稀少ではないが、これを使える者は少ない。無属性魔法は破術での打ち消しができないが、消費魔力が多めの上に、属性魔法よりも威力が劣るので何とも言えない。

 結論;三つの魔法素は、どっちもどっちの能力である。

12 特珠職業「魔素使(まそし)」は、魔法素を武器や盾として実体化させて戦うが、それに使われる魔法素は原初魔法素である。要は、無属性魔導士の派生職。魔素使は破術師並みに人数が少ない。
 実体化させた武器や盾は、本人の意思によって、あるいは本人の意識の消滅によって消えてしまう。

13 魔法素を組む方法は個人によって異なるが、「詠唱」として言葉に出して行う者が多い。頭の中の考えがバラバラだとできる式もおかしくなるが、言葉に出すことによって、考えに指向性を持たせて正確な式を作る。 
 詠唱の言葉はその人のアドリブで構わないし、技名をつけるのも勝手なので、特にそのあたりに決まりはない。技や詠唱=人それぞれ、と言ったところか。

19 魔法素は目に見えず、普通は触れられないため、感覚的に組まれる。慣れぬ者は頭の中で式を組んでから術を使うが、慣れた者は頭の中で式を組まなくとも、無意識に術を使える。
 魔導士として大切なのは理論ではなく、才能と勘と経験である。理論だけでは魔導士には決してなれない。

26 神も悪魔も精霊も死者も。一定の条件が整えば、人間と契約し、その力を貸し与えることができる。契約の方法はそれぞれ違い、あらゆる決定権は人間でない側にあることがほとんどである。
 ちなみに。「召喚」と「契約」は似て非なるものである。

32 神や悪魔、精霊は気まぐれに人間と契ることがある。(ときには逆、あるいは相互もある)これを「契約」と呼ぶ。
 「契約」は召喚ほどの強制力はないため、互いに信頼し合っていることが大切である。(人間の上位に当たる存在から契約を迫ってきた場合、信頼がなくとも契約できる)

33 人間の力には「魔力」「体力」「生命力」の三つがある。わかりやすくたとえてみよう。
 ここに一つの器があるとする。その真ん中には仕切りがあり、左右それぞれ別の液体が満たされているとする。このうちの片方が「魔力」、もう片方が「体力」、器そのものが「生命力」である。
 この中で「魔力」が減って(使われて)も、仕切りがあるため「体力」は減らない。その逆もしかり。ただし、人によって「魔力」と「体力」の配分は異なる。つまり、仕切りが偏っていることがある。
 しかし、「生命力」、つまり器そのものが削れたり欠けたりすれば、「魔力」も「体力」も、満たすことのできる絶対量が必然的に減る。いくら「液体」があろうとも、「器」が小さければあふれるばかりで、全てを収めることはできないのだから。
 「生命力」すなわち「生きる力」である。だから、これがなくなれば人は死ぬ。「死」はいわば、「器が砕ける」ことである。


【ごちゃごちゃしてきたし、本編に関係のない原則も出てきたので、いずれ整理します……】

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 速報!

 2017/8/31 この作品が、小説大会ダークファンタジー部門で、次点を獲得しました!
 いえ、次点ですけどね。あくまでも次点。
 ですが、本当に、心から嬉しく思ったので!

 皆様、ありがとうございました!(うれし泣き)(号泣)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 2017/8/17 連載開始
 2017/9/12 本編終了
 2017/9/24 番外編1 風色の諧謔 開始

Re: 【完結】Stories of Andalsia 夜明けの演者 ( No.38 )
日時: 2017/09/17 17:32
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 >>37
 コメントありがとうございます(^^♪
 感激なのです!

 テーマソング(もどき)は、小説や小説のプロットが完成した時に、時折作ることがあります。
 私は音楽の才に関しては皆無なので、曲をつけるなんて無理な相談ですけれど(笑)
 いつか書きたい戦争(「夜明けの演者」に深い関わりあり)の話にもテーマソングはついていますが。一体いつのことになるやら……。

 これからもちまちま時間見つけて更新しますね♪

風色の諧謔 1-1 10の誕生日に ( No.39 )
日時: 2017/09/24 09:36
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 話がそれなりに浮かんだので、予告していたリクセス編、スタートです。
 タイトル決めるの手間取った……。
 ではでは。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


《風色の諧謔》


 第一章 始まりのオルヴェイン


 1 10の誕生日に


  ◇


 リクセス・オルヴェイン。彼はセラン王国の上流平民の次男。両親と兄のヴィクトールとともに、平凡な日々を過ごしていた。
 幼いころからパズルが大好きだったリクセス。彼は生まれながらに宿る『組師』の力に幼いながらに気づいていたが。聡明だった彼は。自分に「力」があることを、黙して誰にも語らなかった。彼の所属するオルヴェイン家は。魔法をあまり、快く思っていなかったから。

 当時の彼は病弱で。外に出ることすらままならなかった。だからとても退屈していた彼に。
 ある日、彼の祖母がやってきて、彼の10歳の誕生日にあるものをくれたのだ。

「リクセスや。大事におしよ」

 熱で苦しんでいた彼の手に。押しつけられたのは、金色の。

「智恵の輪というんじゃよ。絡み合った輪を一つにするのさぁ。あんたの好きなパズルだよぉ。良かったら、これで遊んでおくれねぇ」

 押しつけられたそれは。純金のような重さはなかった。

「金メッキの智恵の輪さぁ。純金じゃなくっても、まぁいいだろ?」

 リクセスはそれを握りしめた。
 その唇が、言葉を紡ぐ。

「ありが……とう……」
「しゃべるんじゃないよ。しっかりお休みねぇ」

 祖母は優しく微笑んで。部屋から出て行った。
 リクセスはぼんやりと渡された智恵の輪を眺めていたが、やがて。

「こう……かな」

 ものの数秒で、それを完成させてしまった。リクセスの器用さは本物だ。
 いつもの彼ならば。遊び終わったパズルになんて、興味をなくしてしまうのに。
 しかし彼は、その智恵の輪が気に入った。
 祖母から直接もらったものだからだろうか? そうではないものだって、この金の輪にもあるような気がして。
 なくさないように。寝具の袖を軽くほどいて一本の糸を取り出し、それを使って智恵の輪を首にかけた。それはしっくり収まった。
 それを確認し、柔らかく微笑むと。
 重くなる意識に引きずり込まれるように、リクセスは再び眠りに落ちた。

 未来。この智恵の輪が彼のトレードマーク的アイテムになることを、彼は知らない。
 そして。この智恵の輪を託して、自爆して果てることも——。
 何はともあれ。リクセス・オルヴェインは。ここから始まった。


  ◇


「まだ……病気なのか?」
「そうみたいだねぇ。折角の誕生日なのに……」

 リクセスの部屋の前で。腕を組む青年と、よぼよぼの婆さんが一人。
 オルヴェイン家長男かつリクセスの兄たるヴィクトールと。祖母のユンファであった。
 ヴィクトールは、痛ましげな顔をした。

「……俺が代わってやれればな。くそっ、明日には王都に行かねばならん。リクのことが気がかりでたまらないっていうのに……」

 いらだたしげに拳で軽く壁を殴った彼に。ユンファが諭すように言った。

「あなたはオルヴェイン家の跡取りさぁ。だから王都でしっかり働いてもらわにゃいけんのさぁ」
「わかっているさ……でも」
「優しいのは結構だけれど。それで責任を見失ったら元も子もないさね」

 ユンファの言葉に、正論に。ヴィクトールは悔しげな顔をした。

「……わかったよ、ああ。……じゃ、行ってくる」
「もう行くのかい」
「仕事の途中だったんだが、リクの誕生日だしな、帰ってきた」
「のに、彼は病気でぶっ倒れていたと」
「仕方ないさ、ああ。次会うときは、元気なリクに会いたいな」
「そうだねぇ……。じゃあ、行ってらっしゃい?」
「行ってくる」

 ユンファに軽く手を挙げて。
 セラン騎士団所属、ヴィクトール・オルヴェインは。騎士団の仕事に戻るために、家を発ったのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

風色の諧謔 1-2 「化け物」と呼ばれた子 ( No.40 )
日時: 2017/09/28 20:44
名前: 流沢藍蓮 ◆PjBJDnQsow (ID: GfAStKpr)

 トリップ入れてみましたが本人です。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 2 「化け物」と呼ばれた子


  ◇


 その日は比較的元気だった。だからリクセスは町に出て、町を見物していた。
 体調は良好。熱もないし咳もでない。
 久しぶりの楽しい朝だった。
 彼の兄ヴィクトールは、今は騎士団の仕事で王都に行っていていないらしい。折角体調が良い日だったから一緒に町を歩きたかったなとリクセスは思ったが、兄には兄の仕事がある。諦めるしかないのだろう。
 そんなことを考えながらも。リクセスは町を歩いていた、
 時。

「助けてぇ、助けてぇ!」

 ……どこかで悲鳴が上がったのを彼は聞いた。
 そしてそれは。今の時間は織物工房で仕事をしている母の声だった。
 リクセスはとっさに走り出した。その声のする方へ。いつもなら走るなんてできない身体のはずなのに。母を想い、ひた走った。
 そして、彼は見た。怯える母。泣き叫ぶ他の子供たち。彼女らに襲いかかる、醜い影を。
 この町は治安がいいはずなのに。突如外から襲い来た、異形の怪物たち。

 人はそれを——魔物と呼ぶ。

 考えるより先に身体が動いた。リクセスは祖母からもらった智恵の輪を、首から下げた金メッキの智恵の輪を手に取り、それを超高速で組み合わせる。
 幼いころから持っていた技、組み合わせの秘技、『組師』の力。
 その力を使えばこの状況を何とかできる。そう思って、組む手を速める。
 彼の目には魔法素(マナ)こそ見えなかったが。この智恵の輪を使えば、間接的に自由に操ることができる。
 魔法を嫌うオルヴェイン家。しかし緊急事態だ、そんなこと言ってはいられないから!
 出来上がった式、名もなき式。宿す魔法は風の力!
 リクセスは瞬時に頭の中に浮かんだその名を唱え、式を発動させる——!

「魔物さんたちこっちをご覧! ……一掃の嵐(スウィーピング・ストーム)!」

 胸に提げた金メッキの智恵の輪がきらりと輝いて。
 組みあげた式が発動し、現れるは巨大なる竜巻。

「巻き込んで——吹き飛ばせ!」

 それは的確に魔物だけを選んで内に取り込み、呆然とする人々を残し、一気に空へと駆け上がっていく。
 リクセスはそれを限りなく高く上げた後、竜巻を消して一気にはるか上空から叩き落とした。
 落ちて肉が飛び散る様は流石に見えない距離だったが。魔物は確実に屠(ほふ)れたであろうことを理解する。
 そして。

「もう大丈……」

 振り返ったら。
 別にリクセスは感謝の言葉がほしかったわけではない。皆の安心した顔が見られれば、それで良かった。皆の無事を確認できれば、それで良かった、
 のに。
 振り返った皆の顔は、恐怖に染まっていて。
 母すらも、恐れた顔でこちらを見ていて。
 最初に誰かが言ったんだ。





「ば、化け物ッ!」





 最初の一人がそう言ったら、他のみんなも口々に叫んだ。

「化け物だ! あれは化け物だ!」
「まだ子供だぞ! どこの家の子だ!」
「殺せ殺せ、化け物は殺せ!」

 ……みんなを助けたのは、リクセスなのに。
 弱い身体をおして走ったのは、リクセスなのに。
 皆が彼を見る目には、感謝も安堵も浮かんではいなかった。
 まるで化け物を見るような、恐怖と軽蔑に溢れた目線が。幼い彼を突き刺した。

「げふっ」

 無茶をした分が後からやってきて、リクセスは軽く咳こんだ。
 とっさに口に押し当てた手に、付着した微量の血。
 胸が苦しい。呼吸が途切れ途切れになる。
 眩暈がする。世界が回って見える。
 リクセスは突如襲ってきた体調不良に、そのまま地面に倒れ込んだ。
 魔法を使うのは体力とは別の部分だったが、そもそも体力が限界だった。
 苦しみにリクセスは手を伸ばす。

「助けて……」

 しかし。彼に手を差し伸べる者はいなかった。
 冷たい無表情で、苦しむリクセスを眺めるだけで。

「助……け……」
「化け物なんて、死んでいればいい」

 冷たい言葉を放ったのは。
 彼が守ろうとした、母親だった——。
 その声を聞き、絶望に付き落とされて。
 リクセスの意識は闇に包まれた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

風色の諧謔 1-3 束縛を脱して ( No.41 )
日時: 2017/10/01 15:00
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: GfAStKpr)

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 3 束縛を脱して


  ◇


 目覚めたのは、いつもの部屋。リクセスの部屋、変わらぬ部屋。
 胸が苦しい。頭痛がひどい。
 何となく胸元に手をやって、金メッキの智恵の輪に触れたとき。リクセスは思い出した。

「ああ……化け物、だっけ」

 実の母に言われた言葉が。冷たい刃となってリクセスの心を切り裂いた。
 ただ、守りたかっただけなのに、どうして。
 無情な現実。リクセスは押し寄せてきた苦しみに、また弱々しく咳をした。

 時。

「リクセス」

 誰かが部屋の扉を開いて入ってきた。リクセスは起き上がろうとしたが、力が入らない。
 しかし声で、わかる。枕元に近づいてきたその姿で、わかる。

「父さん……」
「魔法を、使ったのか」

 問答無用の口調で、リクセスの父ブライツは詰問した。
 やはり、魔法を快くは思っていないらしい。
 リクセスは、そうさとうなずいた。

「でも、そうでもしなきゃ母さんは、生きていなか——」
「——この馬鹿息子がッ!」

 言いきれず。リクセスは父の平手に吹っ飛ばされた。
 リクセスの華奢な身体はベッドから落ち、リクセスは盛大に咳こんだ。

「父さ……ん……?」
「化け物めが」

 リクセスを睨むその瞳は、息子を見る父親のものではない。
 そもそも武を重んじるこの家で。リクセスみたいにひ弱な子供が生まれたこと自体、この父親にとっては不愉快であった。
 そのリクセスが。この家で禁忌とされる魔法を使い、「化け物」呼ばわりされた。
 それは。オルヴェイン家を貶(おとし)める行為に外ならない。
 ブライツはリクセスの腕を強引にひっつかんで立たせた。

「外へ出ろ! 俺がお前の身体の中から、魔法を叩きだしてやる!」

 リクセスの体調不良なんてお構いなしに。
 ほとんど引き摺られるようにしながらも、リクセスは外へ出た。


 外で、ブライツはリクセスに言った。

「魔法を捨てろ」
「無理……だね……」

 父の言葉に。にべもなく彼は返す。

「魔法はそもそも生まれつきだし……。僕には、魔法以外で身を立てられないから」

 その言葉に、ブライツは目を吊り上げた。

「父の言葉に逆らうか」
「子供は親の道具じゃない」
「……貴様ァッ!」

 あくまでも冷静に返したリクセスに、再び平手が飛んだ。
 吹っ飛ばされて、吐血する。しかしそれでもリクセスは言い募った。
 口に跳ねた血を手の甲で拭って、緑の瞳で父を睨む。

「子供は親の道具じゃないんだ……。親の敷いた道を命令どおりに歩く木偶人形のように……なりたくはないね。……僕は騎士にはなれない、から……魔導士になるんだ」
「子供の分際で何を言うかッ!」

 吹っ飛ばされた息子に駆け寄り、その胸ぐらをつかみあげてブライツは殴る。殴打、殴打、殴打。繰り返される暴力の嵐。気の遠くなるような激痛の数々。リクセスは激痛にうめき苦しみに悶えたが、怒れるブライツは止まらない。

「子供のくせして親に逆らうかッ!」

 仮にも武門の家である。その一撃一撃は重い。
 リクセスは己の死を感じた。無様な死に様だと、遠のく意識の中で思った。
 王都に言った兄を想い、優しかった祖母を想う。たった10年の短い生が、走馬灯のように頭を流れる。

 死ぬんだ、ね。僕は、死ぬんだ——。

 そう、思っていたのに。










「父上にとって、子供は道具かッ!!」










 突如、殴打が止まる。リクセスは咳こみながらも顔を上げた。
 そこにいたのは——。

「……兄さ……ん……!?」

 兄のヴィクトールだった。
 おかしい。王都で騎士をやっていたのではなかったか。
 彼はリクセスを背後に庇いながらも、ブライツを睨みつけた。
 倒れたリクセスの位置からは兄の目は見えない、が。
 兄は今、かつてないほどの怒りに燃え、父を睨んでいるのだとわかった。
 その身から放たれる裂帛(れっぱく)の怒気に、思わずリクセスは震えた。
 するとそれを見て、ヴィクトールは彼に優しく笑った。

「大丈夫、お前に怒っているわけじゃないからな」

 血塗れの彼の髪を優しく撫でてから、ヴィクトールは父親に向き直る。
 放たれた言葉は、絶対零度の響きを宿していた。

「信っじられない。これが親の、子に対する仕打ちか? しつけるにしてもやりすぎだ。このままじゃリクは死んじまうぜ。……何だ? 俺の麗しき父上はいつも、リクに対してこんなひどいことをなさっていたのですかな? ——人間じゃない」

 その言葉に。その宿した絶対零度に、ブライツは気づかない。
 彼は変わらぬ口調で怒鳴った。

「こいつは魔法を使ったんだ! 挙句の果てには魔導士になるとほざきやがったんだ! ここは武門の名家だぞ? 身体が弱かったのはまだ我慢できるが、魔導士だと! 言語道断だろうがッ! 我が家の面汚しだッ!」
「それがどうした? やりたいようにやらせればいいじゃないか。リクは魔導士になりたいと言った! ならば魔導士にしてやって、それの何所が悪い! ……子供だからといって、リクが親に拘束されるいわれはないと思うのだがな?」
「お前も俺の子供のくせに、俺に逆らうのかッ!」
「そうだ」

 いきり立って拳を固めたブライツに、ヴィクトールは冷たく言った。

「忠告。俺を殴るのはやめた方がいいと思うぜ? あんたは無手で、俺の腰には剣がある。あんたが剣を取りに戻ったって、どうせ俺には勝てないさ」
「何だとッ!」
「俺は知っているんだよ、オルヴェイン家の面汚しさん」

 ヴィクトールは、憐れみをその目に浮かべた。
 指を折りながらも数えていく。

「一つ。あんたは騎士の家に生まれたにもかかわらず、剣より拳で殴り合うことが好きで得意だった。二つ、あんたは剣の才能がないから騎士学校を途中で追い出された。三つ、あんたは何かあったら仲間を見捨ててすぐに逃げるそうじゃないか。それの何処が騎士道だ? オルヴェインが聞いて呆れる」

 暴露された黒歴史の数々を聞き、ブライツは顔を青くする。

「ヴィクトール……それを、どこで」
「簡単だ。王都の騎士の仲間たちからだ。お前は父親に似なくて優秀だねぇと言われて育ったよ」

 だから、と彼はその目に地獄を宿す。

「誰がオルヴェインの面汚しだッ! リクセスはあんたみたいに堕落しきっていないしあんたみたいに人でなしでもないッ!」

 宿った地獄は、今度こそ完全にブライツを射抜いた。





「——本当に面汚しなのは、あんたの方だ」





 そう言い放って。
 ヴィクトールは血まみれの弟をそっと抱きあげ、その軽さに目を丸くしつつもその場から去ろうと動き出す。
 ブライツの声が追った。

「どこへ行く!?」
「騎士の寄宿舎が近くにあるんだ。……あとな、親父。子供は親の付属物じゃない。だから何処へ行こうと勝手だぜ?」

 言って、彼はいなくなった。


  。○


 騎士の寄宿舎で、リクセスは傷の手当てを受けた。しかし殴打による傷は切り傷と違い、明確な手当てがしづらいのが難点である。血の滲んだところには包帯を巻き、折れたところは固定して。あとはその場にいた騎士仲間に薬草を取ってくるように頼みこんで、それで作った軟膏を痣に塗るだけ。リクセスの病が悪化したって治せない。所詮、応急処置でしかない。
 眠りこんだリクセスの顔は、ひどくやつれていた。
 ヴィクトールはそれを見て、溜め息をついた。
 そこへ。

「あ、ヴィクトールじゃん。あれれ? 王都にいなかったっけ」
「虫の予感がしてとんぼ返りした。そういうヴァランは何でこんな寄宿舎に?」
「うん? 下らない用事でさぁ」

 王都でのヴィクトールの顔馴染みが、話しかけてきた。
 ヴァランとヴィクトールが呼んだ彼は、ふと横たわったリクセスを見て目を瞠る。

「って、この子が前にヴィクが言っていた弟? 何でこんな大怪我してんの」
「父親からの虐待だ。この子は魔導士になりたいと言ったが、武門の家だからという理由で許せなかったんだってな。……子供は親の付属物じゃないんだ」
「……そっちも色々あるわけね」
「ああそうだ」

 魔導士かぁと、ヴァランは首をかしげる。

「そう言や、おれ魔導士知ってるぜ? 王都で弟子とってんの。めっちゃ高名な魔導士。良かったら今後のその子のために、おれが口添えしてやってもいいけどよ? どうするね?」

 その言葉に、ヴィクトールは目を見開く。

「本当か!? ああ、リクセスの今後について悩んでいたところなんだが……。魔導士の弟子になれるなら、そんなにいいことはないだろう。是非、紹介してくれないか」
「おっけー。じゃ、その子が回復したら、みんなで王都に行こうぜぇ」
「それはわかったが……。ヴァラン、あんたの用事はいいのか?」
「実は単なるサボりだったり。おもしろそうだし一緒に行くよ」
「……いずれ退学になっても知らんぞ」

 呆れたように、ヴィクトールは彼を見た。

 何はともあれ、道は定まった。
 ヴィクトールは、苦しそうに息をしながら眠る弟を見る。
 そして、小さく誓った。
 

 ——絶対に、救いだす。


 お前を、この地獄から。
 お前には幸せでいてほしいんだ——。

 剣は、誰かを守るために。
 傷つけるためじゃない、守るために振るわれるんだ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

Re: 【番外編始動】SoA 夜明けの演者 ( No.42 )
日時: 2017/10/02 16:37
名前: 上瀬冬菜 ◆P8WiDJ.XsE (ID: 3rAN7p/m)

 こんにちは、初めまして。
 いつぞやは拙作にコメントしてくださりありがとうございます。

 こちらの小説をエピローグまで読ませていただきました。
 まず思ったことが、心情描写がすごくいいなぁということ。あと、伏線回収……と言うべきなのかな、フルージアさんのあるセリフが違う場面で二回使われていた、もしくは似たようなセリフを言っていたのに涙ぐみました。
 部隊のメンバーのセリフや過去も身に染みるものだったのですが、主人公はさすがと言うべきか、フルージアさんのセリフの一つ一つが、こう、いいなあと。気持ちが溢れ出ているなぁと思いました。

 リクセスくんの口調と性格が好きです。あとアイオンちゃんの口調も可愛くて好きです!
 どのメンバーにも個性があり、能力にも個性があって面白いなと。
 そのメンバーたちの生き様、その命の散りようが、なんと言いますか美しいと思いました。既に本編は完結しているらしいですが、ネタバレなので……ネタバレごめんなさいっ。

 リクセスくんの過去編も密かに読ませてもらってます。
 ファンタジーは大好物なので、それがなくとも読んでいてとても楽しいです!
 乱文失礼しました!


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