ダーク・ファンタジー小説

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アビスの流れ星【完結】
日時: 2018/03/11 22:01
名前: Viridis ◆vcRbhehpKE (ID: vGcQ1grn)





過去を振り返れば何もなく、現在に累々と折り重なるは屍の山。
それでも未来を見据え、撃鉄に指をかけ、握り締めた刃を振り下ろす。
生きるため生まれて来た若人たちの瞳には、流星のように儚く、そして力強い光が揺れていた。

——これは記憶喪失の少女にまつわる、鮮烈な闘いの記録である。





■登場人物
>>2

□本編 
◇1章「後ろから墓標が追い立てる」>>1 >>3 >>6 >>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>12
◇幕間「フミヤの日記・1」>>13
◇2章「飛体撃ち抜き、額穿つ」>>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>20
◇幕間「フミヤの日記・2」>>19
◇3章「空から影が降りてきた」>>21 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27 >>28 >>29
◇最終章「Shooting star in "Abyss"」 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34 >>35 >>36 >>37 >>38 >>39 >>40
◇Epilogue「誰かが私に『生きろ』と願う」 >>41(2018/3/11 New!!)


■Twitter
◆筆者近況・更新報告など⇒ @viridis_fluvius
◆ハッシュタグ⇒ #アビスの流れ星

お久しぶりです。
以前は「紅蓮の流星」という名前で活動していました。

お陰様で完結まで辿り着きました。万感の思いです。
ひとえに私を支えてくださった諸氏と、ご声援くださった読者の皆様のお陰です。
本当にありがとうございました。

Re: アビスの流れ星 ( No.1 )
日時: 2017/08/28 06:55
名前: Viridis ◆vcRbhehpKE (ID: fuzJqlrW)




 私には記憶がない。
 正確には、ある時を境に、それ以前の記憶が全くないのだ。記憶喪失というやつらしいのだけれど、原因はまだ分かっていない。
 保護された時も目立った外傷はなく、脳の内部にも異常が見当たらなかったのだという。
 そんな私が記憶の海を掘り返していくと、いつも一番最後に辿り着く景色。つまり最初の記憶は——。

 ——辺り一帯を埋め尽くす瓦礫に、累々と折り重なる死体の山、山、山。
 それからミッドナイトブルーの夜に硝子の粉を振り撒いたような夜空。
 そして、そこに真っ黒な穴を穿いたように輝く漆黒の巨星。







 一見、青いバイザーと白銀のヘッドフォンに見えるそれを装着する。
 私は全身に黒地のインナー、その上からヘッドフォンと同じ銀色の、スマートな甲冑を纏っていた。それらは両手足と胸元に装着する程度の、極めて軽度なものである。
 武器もまたシルバーの銃と二本のサーベルだけで、全体的に機動性を重視した作りだ。

「こちらフミヤ。出撃準備整いました」

 インカムに囁く。
 大きなプロペラ音を鳴らして滞空するヘリコプター内には、私の他に四名の仲間が居た。
 仲間たちの視線を交互に見渡す。彼らも私と同じように黒地のインナー、白銀の甲冑、青いバイザーに身を包んで、それぞれの武器を携帯していた。
 彼らと私を含めた5人が『日本支部第一部隊』の隊員である。

「出撃せよ!」

 ヘッドフォンの奥から飛ばされた指令を合図に、私たちは続々とヘリコプターから身を乗り出して、跳ぶ。
 ヘリコプターが留まっていたのは若干傾いた廃ビルの真上であった。もっとも、見渡す限りどれも廃墟か瓦礫かであるのだけれど。
 生身の人間ならば、きっと無様な蛙のようにビルの屋上へ叩き付けられて死んでしまうだろう。しかし私たちは怪我ひとつ負わず次から次へと軽やかに、傾斜したビルの屋上へ降り立つ。
 それから息つく間もなく、散開して駆け出す。
 隊長は私と一緒に正面へ、アルベルトさんは左へ、マツヤマさんとミズハラさんは右へ。
 立ち並ぶ廃墟、駆ける仲間の背、一面の青空、そして蒼穹に浮かぶ真っ黒で大きな星。そろそろこの景色にも慣れてきた。
 視線の先には、灰色と黒に包まれた大きな化け物。

「ターゲット捕捉! 攻撃を開始します!」

 ——記憶の一切を失い、保護されていた私が聞いた話はこうだ——。

 私は腰に提げた二本のサーベルを抜き、逆手に持つ。
 すぐ前を走る隊長も左手に銃を、右手にサーベルを掴み、他の三人も各々の武器を構え真っすぐに標的へと。
 ビルからビルへと跳んで疾走を続ける。

 ——昼夜を問わず、黒い星が空に浮かぶようになったのは数十年前のこと——。

 毎度のことながら、標的の外見は簡単に表現しにくい。
 今回の標的は、大きな目玉がひとつぎょろりとのぞいたタコをそのまま頭にくっつけた四足歩行の生物のような見た目であった。
 向こうもビルの屋上から屋上へと飛び移っていたのだが、こちらに気付くと、鳴き声と思しき不快な高音を発した。

 ——黒い星、通称『アビス』の出現と共に、世界各地では正体不明の化け物が出没するようになったという——。

 最初に仕掛けたのはアルベルトさんだった。
 彼は急に立ち止まり片膝をついて、持っていた大きな銀色のライフルを構える。
 そしてすぐに、爆音じみた銃声。
 銃声は一度では終わらず二度三度と連続して、化け物……通称『レイダー』に炸裂する。

 ——世界各地に現れた化け物、レイダーは破壊と殺戮を繰り返し、繁栄の絶頂にあった人類の文明を容易くひっくり返した——。

 標的であるレイダーは頭部に爆撃を複数回受け、その巨体をよろめかせる。
 絶好のチャンス。その一瞬を隊長は逃さず、不安定になったレイダーの足元に銃で弾丸を叩き込む。
 右側から回り込んでいたマツヤマさんとミズハラさんの二人が、倒れる寸前の脚にそれぞれサーベルで斬り込む。

 ——生き残った人類は、各地のシェルターに籠って寿命を待つ他ないかと思われた——。

 標的は更なる絶叫を上げる。そして案の定身体のバランスを狂わせ、屋上の端から足を滑らせ落下しようとする。
 それを見て私は、走る速度を更に速める。
 仲間たちを追い抜いて、一直線に標的の元へ飛び込む。

 ——しかしシェルターの外へ出て、奇跡的にも帰還したごく僅かな人間たちは、とある対抗手段を生み出す——。

 標的と共に、ビルとビルの間を落下して行く。
 逆手に持った両手のサーベルを振りかぶり、落ちながらも深く息を吸う。
 狙うは頭部、失敗は許されない。

 ——それはレイダー共の死骸を使い、防具及び武器を精製し、それらを用いて正面から戦うことであった——。

 一瞬小さく息を吐き、両の腕を全力で振り抜く。
 標的の接地と共に繰り出された一閃は、そのタコのような巨大な頭部を目玉ごと豪快に引き裂いた。

 レイダーの耳障りな断末魔は途切れ、それが明確にその化け物の絶命を意味していた。
 巨体が瓦礫に落ちる鈍重な音と雑多なものが崩れ落ちる音。
 私はその巨体の上に、難なく着地した。
 このレイダーが活動を停止したことを確認し、私は空を見上げる。
 流れていくような薄い雲が浮かぶ空の真ん中に、相変わらずアビスは居座っていた。

 ——そして、それらの兵装を用いてレイダーに対抗する軍団。人は彼らを『クラヴィス』と呼ぶ——。


Re: アビスの流れ星 ( No.2 )
日時: 2017/08/28 21:02
名前: Viridis ◆vcRbhehpKE (ID: fuzJqlrW)

■登場人物



【フミヤ】推定14〜15歳・性別♀
階級:曹長
レイダーによって襲撃された地区で、クラヴィスのメンバーによって保護される。
文谷(ふみや)地区で保護されたためフミヤ。
記憶喪失であり、ある時期より前の記憶が一切無い。
戦闘ではサーベルを逆手に構え、生まれ持ったものであるのか、異常なまでに高い機動力を生かして戦う。
国籍不明。灰色の髪をツインテールにしており、瞳の色は水色という容貌。

【アイカワ】23歳・性別♂
階級:大尉
フミヤが所属する『クラヴィス日本支部第一部隊』の隊長を務める。
取り分け判断力に長けており、本人の運動能力も総じて高い水準でまとまっている。
レイダーとの戦闘時以外は、責任感が強く快活で朗らかな性格。
実力、精神的な面共に日本支部の主柱である。
武器は拳銃とサーベルを局面によって使い分ける。
国籍は日本。黒い長めの髪を後ろで一つに束ねているという髪型。

【アルベルト】26歳・性別♂
階級:少尉
第一部隊では唯一の外国人国籍を持つ。アメリカ本部より派遣されてきた。
運動能力は他の隊員と比べても並であるのだが、ずば抜けた視力と射撃の腕前を持つ。
外見は悪くないものの、重度のオタクである。
今は亡き聖地『アキバ』と所謂二次元の美少女という奴をこよなく愛し、彼の給料の殆どは専らそれらに消えるとの噂。
むしろそれらが目当てで自らアメリカ本部よりの派遣を希望したとか、なんとか。
武器は彼に合わせた長大なライフル。
国籍はアメリカ合衆国。髪型は、金髪を切り揃えたマッシュルームカット。

【マツヤマ】22歳・性別♀
階級:中尉
かれこれ数年に渡ってアイカワを補佐し続けてきた、事実上の日本支部のナンバー2。
アイカワと同様運動能力は全般に渡って長け、特に近接戦闘の腕前は彼女のほうが上手。
感情を表に出すことが少なく、周囲には冷たい性格であるとの印象を与える。その所為で、彼女には特殊な嗜好のファンも多数いるらしい。
武器や戦法は、アイカワとほぼ同一。
国籍は日本。長い茶髪をそのまま下ろし、青いフレームの眼鏡を着用している。

【ミズハラ】18歳・性別♂
階級:少尉
最年少で尉官に就任した秀才。
現時点で既に高い近接戦闘力を持っており、伸びしろが期待されるホープ。
だが非常に内気な性格であり、人見知り。そのせいか先輩たちには妙に可愛がられる。
音楽鑑賞を趣味としており、それが理由なのかアルベルトとはよく話が合うようだ。
武器はサーベルをメインとして扱い、サポート程度に拳銃も扱う。
国籍は日本。黒く長い前髪をヘアピンで留めている。

Re: アビスの流れ星 ( No.3 )
日時: 2017/08/29 13:33
名前: Viridis ◆vcRbhehpKE (ID: fuzJqlrW)








「フミヤ」

 私の名を呼ぶ声が聞こえる。まるで男の子みたいな私の名前を。
 この私の名前は、私が『文谷(ふみや)』という地区で保護されたから、そう付けられたらしい。語感が柔らかいので、女の子らしくない点を除けば、私はこの名前をそれなりに気に入っている。
 そう。そういえば、私が保護された……私の記憶の一番最初にあるあの日も、あの黒い星はこうして空に浮かんで——。

「フミヤ!」
「ふぁいっ!?」

 思わず、意味のない奇声をあげる。

「ふぁい!?じゃなくて! 倒したのか?」
「え……あ」

 我に返って、周りを見渡す。私は両手にサーベルを掴んで、今しがた倒したレイダーの上に立っていた。
 私の悪い癖だ。時折ぼうっとして、周りの声が聞こえなくなり、ぼんやり空を見上げていることがあるのだ。戦闘中にそうなった事はさすがにないが、もしそうなったら困るので改善しようとはしている。けれど一向に治る兆候はない。

「は、はいっ! もうばっちぐーです、かましてやりましたよ。がっつり」
「まあ、それは見てわかるけどさ。またいつもの癖か?」

 私の名を呼んでいたのは隊長だった。隊長の後から、同じ隊員である三人がついてくる。
 隊長はアイカワという名前だ。かつて私を保護した人は、隊長の友人でもあるらしい。

「もしかしてもうボケ始まってんじゃないの?」
「失礼なっ」

 アイカワさんは意地悪に笑いながら失礼極まりないことを言う。確かに私の灰色の髪は、どこかおばあちゃんみたいだと思ったことはあるけど。
 けれどアイカワさんは、すぐに「冗談だよ」といって白い歯を見せて笑う。

「一先ず今回の目的は達成したようですね、隊長」

 後から来たマツヤマさんが、長い髪を揺らし隊長に言った。相変わらずの無表情だった。
 彼女は表情を変えることが滅多にない。だから冷たい人だと思われがちだけど、実際はそうじゃないことを私は知っている。
 なぜなら彼女は時折、熱がこもった瞳で、隊長の横顔をじっと見つめているからだ。
 ごく最近に聞いた話だけれど、アイカワさんの補佐も彼女が自ら強く志願したらしい。だというのに、ぜんぜん気づかないアイカワさんの鈍感さときたら。

「ん、そうだな。ここまでの経路の安全は確保してあるし、回収班呼んで待機しておくべ」

 マツヤマさんの視線に気づかずに、隊長は簡単な指示を下す。
 マツヤマさんが支部と連絡をとっている横で、アルベルトさんとミズハラさんが、私の足元のレイダーの死骸を観察していた。

「……コイツに限った話じゃないけど、やっぱりレイダーって気持ち悪い……」

 ミズハラさんが言う。レイダーは気持ち悪い、大きく首を縦に振って同意する。あまり下手にかわいくっても、殺すときに躊躇いが生まれてしまうから困るけれど。
 ただ、基本的に内気である彼の口からそういった言葉が出るのが珍しいと思った。……何か、レイダーにまつわる嫌な過去でもあるのだろうか。

「汚いなさすがレイダーきたない」

 アルベルトさんがサーベルでレイダーの死骸を突っつきながらつぶやく。
 「せっかくの素材が傷むからやめれ」と隊長に注意を受けて、彼は「フヒヒ、サーセン」と言いながらサーベルを引っ込める。
 私も一応、レイダーの死骸から降りておいた。
 アルベルトさんは日本語が下手というわけではないのだけれど、時々不思議な話し方をする。やっぱり外国人だからだろうか。
 外国人といえば、私もそれなりに日本人らしくない目の色と髪の色をしている。……私も日本人ではないのだろうか?
 自分に問いかけても、自身の出生に関するような記憶は一切ない。
 目下、私の目標は記憶を取り戻すことである。

「まあ一仕事終えた訳だし、一服どうだい」
「隊長、任務は帰るまでが任務です」
「マツヤマっつぁんよ、お前は俺のおっ母さんか何かかい……」

 隊長がポケットから取り出したタバコを、マツヤマさんが取り上げる。今でこそ高価でクラヴィスの隊員でもなければ支給されないようなタバコだが、昔……レイダーが現れるより以前は、誰でも気軽に買えるものだったらしい。
 きっとそれは、タバコに限らないのだろうけど。

「ミズハラ、お前吸ってみるかい?」
「隊長、僕はまだ18ですよ……」
「冗談だよ」

 それは隊長の口癖である。
 軽口を叩いて、冗談、と言って、周りは呆れたように笑う。それが私の隊の日常である。

 ——今日までの。

 隊長がミズハラさんの方を見たまま、目を見開いた。
 ミズハラさんは珍しくきょとんとした表情をしていたが、隊長が凍りついた理由がすぐに私にもわかった。

「ミズハラ、後ろッ!!」

 え、と小さく短い声。
 ミズハラさんが振り返ったときにはもう遅かった。
 巨大なタコのような頭部を持ったレイダーは音もなく立ち上がり。
 前足を大きく振り上げて。
 そのまま振りぬいて、ミズハラさんの首から上を吹っ飛ばした。



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