ダーク・ファンタジー小説
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- パンクな世界のスチームな僕等
- 日時: 2021/06/24 07:30
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
初投稿です。
高校生がスチームパンクっぽい世界で冒険するお話しです。
拙い部分も多くあると思いますがよろしくお願いします。
目次
第1話 >>1-4
第2話 >>5-7
第3話 >>8-16
第4話 >>17-24
第5話 >>25-32
第6話 >>33-39
第7話 >>40
- 第6話 #5 ( No.37 )
- 日時: 2021/05/06 01:13
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
❇︎
町のはずれにある大きな建造物。一見教会にも見えるそこで、約半年に一回、錬金術学会の集会が行われている。
老人がほとんどと言っても過言でない中、1人の少年の姿はひどく目立っていた。
「坊ちゃん、緊張しておりますか?」
「まさか。ボクがそんなヤワに見えるの?ジェームズ」
「いいえ」
リュカの装いは、普段のヒラヒラとした可愛らしいものではなく、きっちりとしたスーツである。髪留めなどの装飾品も外されていて、今の彼を少女と見間違える者はまずいないだろう。
「じゃあ、行こうか」
リュカは、勇気を出して建物に入った。
学会での研究発表は、リュカにとって、とても有意義なものであった。知らない理論、新たな発見。それらをリュカに与えていく。
とうとう全ての発表が終わった時だった。
「今日は、新しく若き研究者が来てくれた。ルーカス、挨拶してもらえるかね?」
学会長の突然のふり。リュカは慌てて、立ち上がった。
「は、はい!ルーカス・ボイドと申します。以外、お見知り置きを」
パチパチと拍手がされる。
「ルーカスは、齢13にして、その才覚をあらわにしている。実に有望な若者じゃ」
リュカは学会長の言葉に、深く礼をした。誰かにこんなに褒めてもらったのは、初めてだ。
「時にルーカスや」
学会長は、目を細めた。
「君が人体の生成に成功したというのは、本当かね?」
- 第6話 #6 ( No.38 )
- 日時: 2021/05/12 10:05
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
人体の生成。それは錬金術では、賢者の石に並ぶ最大目標である。生成方法、材料などは偉大な先人が確立しているが、彼以外の者が成功した例はひとつとしてない。
「恐れながら、学会長殿」
リュカは、凛とした態度を崩さないように口を開いた。その声は僅かに震えている。
「試みたことはございますが、成功したことはありません」
「…そうか。私の勘違いだったようだ」
学会長はため息をつくと、リュカを座らせた。
「ルーカス、あとで私のところへきなさい。それでは、本日はこれで解散とする」
1人、また1人と席を立っていく。
そんな中、リュカは動けずにいた。心なしか顔色も悪い。
「ジェームズ、どこから漏れたと思う?パパも隠蔽していた。なのに、なんで…」
「私には分かりかねます。ただ、坊ちゃんがお呼ばれした理由は、わかりました」
そんなの、リュカもとっくにわかっている。学会はリュカから人体生成の秘技を聞き出すために呼んだのだ。
コツコツと足音が近づいて、リュカは顔を上げた。学会長が立っていた。
「ルーカス、君に私の研究を託したくて呼んだのだよ。まずは私の研究を聞いてくれるかね?」
「は、はい。ボ…私でよければ」
老人は、優しく微笑むとリュカを連れて建物の地下に入った。
薬品、石、鍋、フラスコなど、実験器具が乱雑に置かれている。大きな黒板には、複雑な計算式が書いてあった。
「さて、どこから話そうかね」
学会長はリュカを椅子に座らせる。
「ルーカス、こことはまた別の次元があると言ったら信じるかね?」
「別の次元…ですか?」
「ああ。私は、別の次元につながる歪みのようなものを発見したのだよ。3ヶ月前くらいのことだ。すぐに観測できなくなり、あれから現れたことはないがね」
突拍子のない話してある。全くもって非科学的な話しだ。
「だから考えたのだ、歪みを生成する技術を。だが、私ももう歳だ。病が見つかりもう長くない。そこで若く優秀な君に、引き継いで欲しいのだ。どうかね?」
リュカは、黒板を見る。洗練された図式だ。それとは逆に、器具類は埃をかぶっている。この老人は、倫理だけ組み立てて実験はしていないのだろう。
無から有を生み出すのが錬金術だが、さすがに突拍子もない老人の妄想にしか思えない。
しかし、仮にもこの老人は、錬金術師の中でもトップに君臨する者だ。リュカに断る権利は、ほぼない。実験をしてみて、歪みが計測されなかったら、この研究を降りるという手もある。それでいくしかない。
「わかりました。やらせてください」
爽やかに微笑むリュカの目は、しかし笑っていなかった。
❇︎
- 第6話 #7 ( No.39 )
- 日時: 2021/05/25 20:58
- 名前: 夏菊 (ID: 0O230GMv)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
学会から帰ってきたリュカは、どこか不機嫌な感じだった。
「ジェームズさん、何かあったんですか?」
六花が同伴していたジェームズに尋ねるが、彼は首を振るだけである。
「私からは話せません」
ただそう言うだけである。
リュカの好物、ビーフシチューを彼の前におく。リュカの顔があからさまに嬉しそうに緩んだ。
「何かあったの?俺でよければ、聞くよ?」
リュカは、少し迷ってから口を開いた。
「学会長の研究の後任になった」
「すごいじゃん」
「ぜんっぜん!」
リュカは、ぷんぷんと頬を膨らませる。
「あの爺さん、理論を組み立てただけで、実証はボクに丸投げ!!しかも、別の次元とか、きっとボケてー」
リュカの言葉は最後まで紡がれなかった。六花が、身を乗り出して声を荒げたからだ。
「別の次元!?ほんとにその偉い人がそう言ったの!?」
「伊藤さん?どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ、新くん!これがほんとなら、私たち帰れるんだよ!?」
六花のあまりの剣幕に僕は唖然となった。いや、リュカは僕以上に混乱していた。
「帰れる?何?何の話し?」
「リュカ、その…」
なんて言おう。リュカには、どうせ信じてもらえないと思って黙っていたのだ。今更なんて説明すれば…。
「リュカちゃん、私たち異世界から飛ばされてここに来たの。ずっと帰る方法を教えて探してた」
僕が迷っている間に、六花はあっさりとリュカに告げた。その目は、嫌に輝いている。
「これでやっと帰れるんだ…」
僕もリュカも、何も言えないまま六花を見つめることしか出来なかった。
- 第7話 #1 ( No.40 )
- 日時: 2021/06/24 07:27
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
「散らかってるけど、ゆっくりしていけよ」
ヴィルは、気前良くそういうと僕を家にあげた。
ヴィルが暮らしているのは、小さなアパートメントの一室だった。そこそこ散らかった部屋は、いかにも男一人暮らしといった感じで、所々にある設計図やら工具が、とても彼らしい。
「アポなしで来るなよな。なんも用意してねぇよ」
「…ごめん」
「真に受けるなって!頼ってもらえて嬉しいんだぜ?」
ヴィルは、コーヒーを淹れながら言った。
相変わらず、僕は彼にとってはかわいい弟分らしい。
「で?何があったんだよ」
「…なんでわかったの?」
僕は驚いてヴィルを見た。彼は別にどうとでもないという風にコーヒーを僕の前におく。
「おまえはすぐ顔に出るんだよ。見ればわかる。で?どうしたんだよ」
僕は口籠もってしまった。
なんて説明すれば良いんだろうか。どこから説明すれば良いんだろうか。そもそも信じてもらえるのだろうか。
「……伊藤さんの様子が変なんだ」
結局、僕はヴィルに何もかも話すことができなかった。
ヴィルは驚いた顔で僕を見て、それから静かにコーヒーを啜った。
「ロッカの様子が変ってどんなふうに?」
「なんていうか、目がギラギラしてるっていうか…」
ヴィルはコーヒーの入っていたカップをクルクルと回す。
「俺なんかよりも、アラタの方がわかるんじゃねぇの?おまえが1番付き合い長いだろ?」
「ううん。俺もみんなとそう変わらないんだ」
僕と六花は、同じクラスだったけれど、ここに来るまであまり話したことがなかった。僕も六花のことをあまり知らない。
「ま、困ってる時はお互い様だな。仲直りできるように協力してやるよ」
「別に喧嘩は、してないよ」
「よし!任せとけよ!」
ヴィルは豪快に笑いながら、僕の背中をバンバンと叩く。この様子だと、僕の話は聞いていなそうだ。
僕は小さなため息を吐いた。
- 第7話 #2 ( No.41 )
- 日時: 2021/06/29 20:36
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
「ただいま」
ヴィルを連れたまま、ゆっくりと玄関のドアを開ける。待ってましたとばかりに、六花が駆け寄ってきた。
「おかえり、新くん。ヴィルヘルムさんも、いらっしゃい」
六花の様子を見て、ヴィルは目をパチクリとさせた。そしてそっと僕に耳打ちした。
「…仲良いじゃん」
「だから、喧嘩はしてないんだって」
「俺から見たら、超普通なんだけど」
こそこそと話している僕等を、六花は不思議そうに見ていた。
「2人ともどうかしたの?」
「べ、別になんでもないよ。ね?」
「ああ。それより、リュカはいねぇのか?見当たんねぇけど」
ヴィルに言われて気付いた。たしかにリュカの姿が見当たらない。
「リュカちゃんなら、なんか買いに行ったよ」
「リュカ1人で?」
いつもならリュカは、六花と一緒に買い物に行く。それなのに、今日は1人で行かせたというのか。
「アラタ、前言撤回。おかしいぜ、これ」
こそこそと再び、ヴィルは僕の耳元で囁いた。さすがのヴィルも、僕と同じ違和感を感じたようだ。
僕はヴィルを、チラリと見る。僕の視線に気付いたヴィルも、小さく頷いた。
「伊藤さん、俺たちリュカの様子を見てくるよ」
「……」
六花の表情がどこか固くなる。僕を見る目がどこか不満気だ。まるで裏切られたみたいなー。
「アラタ、行くぞ」
僕は後ろ髪を引かれながら、ヴィルと共に店を出た。