ダーク・ファンタジー小説
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- クランボイス
- 日時: 2012/10/09 22:42
- 名前: 多寡 ユウ (ID: mVHy..WT)
二次小説のほうで少しやっていましたが、このようなものを書くのは初めてです。二次小説を書いている人がシリアス書いたらこんなもんか、程度にみていただいて大丈夫ですので、よろしくお願いします。
更新は二次小説の方と連動してやっていくので、多少ではありますが更新の遅れがあります。それでも時間を見つけてコツコツやっていきますので、よろしくお願いします。
人物一覧表
橘 呼堂(たちばな こどう)
私立聖九輪高等学校一年一組。地球外現象研究会部員。6歳より前の記憶を所持していない。一見すると穏やかな性格だが…。
橘 恵美(たちばな めぐみ)
日本科学センター所属研究員。橘 呼堂の義理の母親。通称:メグ
小鳥遊 遥(たかなし はるか)
私立聖九輪高等学校一年一組。地球外現象研究会会計。橘 呼堂に片思い中。
聖九輪 携太(せいくりん けいた)
私立聖九輪高等学校一年一組。聖九輪グループの御曹司であるが、性格はかなりマイルド。地球外現象研究会部長及び創始者。
星九輪 姫子(せいくりん ひめこ)
私立聖九輪高等学校二年一組。
現私立聖九輪高等学校生徒会長。通称:ヒメ、会長。聖九輪 携太の姉。
- Re: クランボイス ( No.31 )
- 日時: 2012/10/30 17:01
- 名前: 多寡 ユウ (ID: rc1iwi.s)
「こ…っ!こど…っ!」
誰かの声が聴こえる。
あの清らかな美しい声色ではなく、日々の日常で当たり前の如く耳にせざる負えない、けれど安らぎを…
「いつまで寝てんのよ!」
与えてはくれなかった。
少女からの目覚ましビンタが呼堂の右頬周辺に炸裂すると、ズカッという轟音が口内と脳内に響き渡り、歯が揺れ、思考が一時的に停止する。
呼堂は少女のフカフカ枕に寝かせていた頭を上に上げることもできずに、身体を小刻みに痙攣させていた。
「お前ぇ…、少しはや
「心配したんだから!!」さ……っ」
呼堂が言い終わるより速く、遥の渾身の叫びは少女の部屋中に浸透していき、その場の雰囲気を一瞬にして、変換される。
「………」
この少女は何を言っているのか、と呟きたくはなる。しかし、俺があの二つの声色を夢の中で感じている間に何かがあったのだろう、という推測はつかなくもない。この少女もそんな理不尽野郎ではないし、第一、この状況下で少女に何か物申せる程の勇気を、俺は持ち合わせてなどいなかった。
「…….……………………たんだよ…」
沈黙の幾秒かが過ぎ去ると、少女が再度口を開く。
「心配、したんだから…。すご
く、すごく…、すごく…、心配、したんだよ…?………呼堂が、このまま、ずっと、ずっと。息しなかったら、どうしよう…、って。死んじゃったら…、私の傍から…、もう、離れちゃったら…、って……、そしてもう…」
幾秒かの沈黙の末に、少女は。
「呼堂に…、何も…、なんにも、伝えられなかったら………って。思ったん、だから………………………バカ…」
少女は、途中で言葉を途切れ途切れにしながらも、呼堂に対して語りかけるように、言う。
嗚咽交じりの遥の声色は、いつもの少女のハキハキとしたテンションMAX状態の声色とは異なる…、
幼馴染としてではなく、歴とした…、一人の、少女の悲痛、だったんだと思う。
俺は。
ハルにしてやれる事もなければ、
励ましてやる言葉さえも見つからなかった。
それに引き換え、ハルは。
俺はギュッと口を紡ぎ、下唇を前歯で強く、強く噛み締めた。
一人の少年と、少女のその間には、何とも筆舌に尽くし難い、想いが込められていた。
- Re: クランボイス ( No.32 )
- 日時: 2012/11/15 17:45
- 名前: 多寡 ユウ (ID: fOW/FHMu)
「何なんだろうな……、女って」
呼堂は遥の家からの帰路の中で、こんなことを他人事のように考えていた。
あの涙の場面は、俺が謝ることによって事なきを得て、遥はその時の事を無かったことにしてくれた。
遥の部屋の中で、俺の呼吸が止まってしまったことも、含めて。全て綺麗サッパリ忘れると、言ってくれたのだ。
その事に関しては、感謝すべきであると呼堂自身も感じる。
しかし、
涙を流しながら、そんな事を言われても、ハイソウデスカ。
とは言い難い性分であるのが、わたくし橘 呼堂、なのである。
- Re: クランボイス ( No.33 )
- 日時: 2012/11/16 22:47
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
橘 呼堂は自室のベッドで文庫本を読んでいた。ベッドは丁度こんな時代になっても紙媒体の書物を読む奴は既に俺の近くにはもう数える程度しかいなくなってしまったが、どうにもこの紙質というか味のある紙として文字を読むと自然と安らぐものである。
タイトルは『ソクラテスの原理』。最初は新書かなにかのつまらない説明文かと思ったが、その予想は全く的を射ていなく、思想家であったソクラテスをリスペクトしている中学二年並びにお決まりの中二病の天才数学オタクが主人公の物語で、これまた悪くない物語で正直驚いた。
時間をたっぷりかけて300ページ程枚数をめくると、主人公が国際数学オリンピックに出場したいと、彼の尊敬する女子先輩である上門 怜に宣言する場面となった。
『僕は……、開催地、香港に行きます!!……ぜっ、絶対に!必ず金メダルとってきますからっ….…、だからその時は。僕は、あなたとおんなじステージに立てる、これは凄いことなんだと、僕は思います。
だから、然るべき時になったら、僕は、上門さん!!…あなたを!!』
あなたを……何なんだ。
『あなたを!』
だから、何なんだ。
『次巻に続く。』
「なっ、!?、なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ〜〜〜!!!!!?アリかっ!?アリなんですかねこれっ!!?もっとやれよぉ!?てか、この作者の後書き20ページも書いてるし!?何やっとんじゃボケぇい!!?……電話もんだな。角○文庫に……」
一度落ち着こう。俺はそう思い、ベッドに寝かせていた体を起こし、文庫本を閉じその辺の床に投げ、冷蔵庫の前に向かった。
- Re: クランボイス ( No.34 )
- 日時: 2012/12/18 07:58
- 名前: 多寡ユウ (ID: At5GTol/)
文庫本を投げた同時刻。
あるオフィスビルの会議室に
て。
二人の男が広々としたスペースの中に、現代風の台座にタイヤがついている動く椅子にちょこんと座っていた。
一人の「巨人」といっても粗相ないXXL以上のサイズのスーツを着たモヒカン黒髪男が、いかにもムスッとした表情で、頬の片方を小刻みに痙攣させていた。
「辞めとけ、顔面神経痛になるぞ」
対して、隣のいかにも普通のサラリーマンですという風な服装をしている金髪オールバック碧眼が冷静に言う。
「いや、無理だ。いつまで待たせるつもりなんだ、あの人は。女性だから10分までは許せるが、1時間というのは許せない。許容範囲外、だ」
「んなカンタンに頼めば来るって奴じゃぁねえだろうが。俺たちは気長に待つ、それだけしか出来ねぇよ。だいたい、適合性がある人間がこんなにもいないとは……。バパッと見つかるもんだと思ってたんだけどな」
身を翻し、今度は大柄の巨漢が対する。
「それこそ簡単ではない。『カードリッジ』は誰にでもあるが、『本体』としての力を持つ適合性がある人間など、そうそういない。
だからこんなにも躍起になって、やっと手掛かりを見つけたんだ。それなのに……」
大柄の巨漢は半ば意気消沈した
様子で言った。
「何故、その『手掛かり』は、……彼女はまだ、来ないのだ……」
- Re: クランボイス ( No.35 )
- 日時: 2012/12/19 00:11
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
そんな愚痴ばかり永遠と唱えていると、突如として会議室のドアが二回コンコンと鳴り響き、静寂の時が終わる。
二人は同時に顔を上げ、ドアを目でしっかりと視認する。
その女性はドアを静かに閉めると、無言で男二人の向かい側の席にゆっくりと座り、手元に持っていた書類を自分の真っ正面の机の上に置いて、言う。
「申し訳ありません、別の会議が長引いてしまって。お待たせいたしました。それで、ご用件、というのは?
……私も、お話しできるのは10分程度ですが……」
長い茶色の髪に所々でカールさせている若そうな鮮やかな白肌の女性は、腕にある今時アナログな腕時計をチラっと見ながら、作り笑顔で話した。
モヒカン黒髪のデブマッチョは頬をわかるかわからないかぐらいに赤く染め、戦闘不能状態に陥っているのに対し、金髪碧眼オールバックは華麗な不敵笑いをし不快感を示した後、茶髪の女性に向かって言った。
「それだけあれば充分です。今日は仕事中に、わざわざお越し頂きありがとうございます。……橘 恵美さん。今は日本科学センター副主任、ですか。
今回は、息子さんの、橘 呼堂君のことについて、です」
金髪オールバック碧眼がそう言うと。女性は目を見開き、いかにもな冷や汗を掻いた。
しかし、それも刹那で今度は瞬時に女性が疑うような目線で男二人を睨む。
「……何故、呼堂を知っているの。私の個人情報は、全てココの強力なアンチウイルスバスターサーバーに守られているの。だから、安易に、そういうような情報が迂闊に漏れるようなことは決してないわ。いくら超の付く天才ハッカーでもね。だとしたら、貴方達は一体何なの?身分証明書をカウンターに見せればココまでなら通してくれるわ。でも、その代わりに、応接室周辺には至る所に監視カメラが張り巡らされているのよ。……見た感じ警察とか学校の先生には見えないし。……そんな人達に、呼堂のことを話すつもりはないわ。……私のこともね……。……わかったら速く……」
恵美が言い終わる前に、先程まで顔をほんのり赤らめていた大柄なデブマッチョこと黒髪モヒカンが、顔をキリッとした表情に切り替え、発言する。
「貴女の息子、橘 呼堂が『本体』の可能性がある。と、言ってもですか」
一瞬にして、その言葉により、三人の間に、
沈黙の時が流れた。