二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- ヴィンテルドロップ
- 日時: 2012/08/04 20:31
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
さあおいで。
昔話をしてあげる。
だれも知らないお話だよ。
それは冬の終わりのお話だよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お母さんお話して!」
というと、ほとんどの親はこのお話しをする。
ヴィンテル王国の一番有名なお話にして、実話とされている不思議な話。
このヴィンテル王国を建国した女王様のお話である。
『冬の厳しい気候を持つヴィンテル王国。
建国したときからどの季節もふゆでした。
なので、冬と言う名をイリジウム女王はつけました。
そんなある日、イリジウム女王が谷を歩いていると、
真上で太陽と月が喧嘩した。
それまでは月と太陽は一つで、交互に夜と昼とを照らしていました。
けれど、このときからばらばらになりました。
そのとき、しずくが一つイリギウム女王めがけて落ちてきました。
うけとると、それは太陽と月の涙でした。
片面は静かに燃える月の、もう片面は激しく燃える太陽の涙。
女王がそれをなでると、たちまち虹色の宝石となり王国の雪は解けて
冬は消え去りました。
そして3つの季節が出来上がったのです。』
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- Re: ヴィンテルドロップ ( No.30 )
- 日時: 2012/08/22 01:14
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
「そんな辺境の地に、世界中の宝石をあわせた藍屋があると言う話を聞いた。ラピスラズリ、トパーズ、ルビー、サファイア、ぺリドット、アメジスト、ガーネット—」
さすが盗賊、宝石の名はすべて上げつくした。
「黄金よりも価値のある宝石だ」
ごくり、とホール内に生唾を飲む音が響く。
そんなもん、あんのかよ!
「砂漠のロストゾーンの中心にある墓場、オアシスと奴らが呼んでいるところに埋まっていると、聞いたのだ」
ロストゾーンとは景色が幾重にも繰り返され、もう脱出不可能なエリアのことだ。
踏み込めば、もう生きてはでられない。
そんなロストゾーンの中心には命の草原、オアシスがあるのだが、入ったが最後、そこが墓場となる。
水の豊富にある土地だが、食物がない。
水分で生きたとて一ヶ月と持たない。
最後はそこで死に絶えるのだ。
「もともとはそんなダイヤ存在しねえんだ。極西には鉱山が多くてな、沢山のダイヤが取れる。盗難も多くあった」
盗難者は輝くダイヤを手に、砂漠を逃げる。
追っ手に捕まれば、酷な死刑がまっている。
そしてそのほとんどのものが、ロストゾーンへ入り込み、オアシスへとたどりつくのだ。
最初は神々に感謝するだろうが、じきにわかる。
自分は生きてオアシスから出られないと言うことを。
「ロストゾーンの中心、オアシスは調度サンベルト地帯と言う猛烈な暑さと日差しに照らされている。盗難者の運んでいったダイヤだけ、そこに長い年月をかけて集まっていた。そしてあつあつの地面と、高熱によってすべてがとろけたのだ」
数多くの盗難者たちは意図せずに命を削ってオアシスに宝石を届け続けたのだ。
その数と種類は沢山のもので、バイロンの言うとおりそれらは溶け始めた。
すべてが溶け合うと、小さな丸い宝石となった。
「頭がいいのだ、砂漠の民はそれをしってオアシスまでとりに行った。生き方を知っている彼らにとってオアシスへらくだの群れごと行ったんだ。そしてその珍しい宝石を手に入れ続けた。彼らはそれを涙と呼んだ」
しかし、その宝石はやはり小ぶりで豆ほどの大きさで大粒と言われていた。
「だがな、世の中うまく出来ているんだ。砂漠の民ですらたどりつけない毎年広がる流砂の渦の中心に、引き込まれた大量の宝石が溶け出したのだそれは深くてどうしても取れない」
ごくり、とみな喉を鳴らす。
彼らの頭の中には夜にも美しい宝石が浮かんでいるのだろう。
「そしてその大きさは中指ほどになった。第一関節から、第三関節までの大きさだぞ」
8、9センチほどの大きさだ。
「だがな、日に焼かれすぎた。色はくすみ、表面は泡だって宝石の輝きはなくなった」
あぁ、もったいないなぁ、と言う声が、と言うよりため息が響く。
オレだったら取りに行っていた、と誰かがつぶやく。
「安心しろ、そこでわれらが赤の盗賊団の登場だ。それを盗みあげると、表面を切って加工しようとしたんだ。そうすれば中身は生きている、と考えたのだ」
そして後は報告書の通り、冬と言う名の怪盗に盗まれてしまった。
「ふゆ?変な名前だぜ!」
「それで、その宝石はどうなったんだ?」
最後の声に、誰もが顔を見合わせる。
「行方知らずだ」
バイロンがいうと、怒号が上がった。
教会の、長テーブルにのぼり、こぶしをつきだす。
「そのふゆっていうやつは?!」
「残念ながら捕らえてない。そいつのおかげで暗殺団ができたと言われてる」
暗殺団は赤の盗賊団と対になる部隊で、服の色は雪国では真紅。
仕事時は紫がかった黒だ。
人は紫に対する色彩感がとぼしいため、闇の中見つけることが出来ない。
「けど—俺は…惑星の涙と、この宝石が同じだと思うんだ」
レビンがそうつぶやくと、怒号の嵐だった礼拝堂は静寂に包まれた。
蜀台が倒れるのを最後に、みなぴたりと身動きを止めた。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.31 )
- 日時: 2012/08/22 01:30
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
[6]
「返事は、やっぱりないね」
二通目の手紙を出してから一週間がたった。
一通目の返事もないまま、時が流れてゆく。
お城の窓辺に頬杖付いていたルクリスは、兄を振り返った。
怒りに燃えるかと思っていたが、違った。
作業机にすわりこみ、もう一通めの手紙を書いている。
どうやら、返事が来るまで投函しつづけるらしい。
めずらしくアメリアはいない。
不安を隠すために、フェンシングでもしてるのだろう。
「あの宝石がなきゃあ、アメリアが戴冠式で困るだろう。700年続くわが国のしきたりだもの」
珍しいな、とルクリスは方眉を上げた。
「惑星の涙は、アメリアが戴冠式につけるのだ。なくては困る」
ルクリスは何も言わずに窓辺へ向き直った。
「惑星の涙って、呼んでるわけ?」
「太陽と月の涙では長いだろ。惑星の涙のほうが呼びやすい」
がりがりペンを走らせて、書き綴るジャックル。
その面持ちは必死だ。
野獣のように引きつった顔はおそろしい。
「そう。それで、まだぶじなんだよね?」
もちろん、涙のことだ。
「…みて触れられるものは限られている」
クローロスが知ってるんだろ、とは死んでも言わないらしい。
妹の名を呼ぶのも嫌がっている。
「騒がないと言うことは、まだ無事か」
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.32 )
- 日時: 2012/08/22 01:41
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
ルクリスの読みどおり、宝石は無事だった。
今日もクローロスが面会に行っていた。
きらめく涙の宝石は、悲しげに光っていた。
きっとそれは気のせいだ。
いつもの黒いワイシャツ姿の彼女、黒お手袋をしている。
手の甲には金の輪が描かれており、おしゃれだった。
その手でふれると、ぺリドットが吹き出る。
エメラルドよりも薄く、ヒスイよりもっと美しい色。
踊りだす炎は黄緑。
(こうして触れて喜ぶのはおまえだけよ)
こころのなかで語りかけた。
生きているようなこの宝石はもちろん答えない。
仕方のないことだ。
口がないという以前に、生きていないのだから。
その指を離すと、惜しげに火がゆれる。
7、8センチの宝石の内部で、炎の勢いが衰えていく。
と、とつぜん悲鳴が上がった。
悲鳴は神殿のほうから聞こえる。
出口にいる兵達も、武器をそれぞれ構えなおした。
「クローロス様!危険ゆえ、どうかその場で!」
分厚い扉が閉められて、ロックがかかる。
部屋は途端に暗くなった。
「いったい、なにがあったの?」
クローロスは明かりを求め、宝石をなでた。
火が息を吹き返すように緑の光が踊りだす。
涙を中心に輪が産まれ、かのオーロラのように参禅と輝く。
幾分が落ち着いてきたが、外は今、いったい何が起きているんだ?
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.33 )
- 日時: 2012/08/24 01:37
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
派手な怒号を上げながら進入してきたのは赤い衣を身にまとう連中。
もちろん、赤の盗賊団だ。
彼らと共にヴィンテル王国の王都を荒らすのは戦闘要員のオオカミたち。
戦闘要員といっても、人々を脅し、蹴散らすための役割だけだ。
その要員は全部で6頭。
郵便係1と2を入れて全部で8頭のオオカミがかわれているのだ。
もちろんここには郵便配達のオオカミはきていない。
暗殺部隊と残りの盗賊団とともにお留守番中だ。
「オオカミとけちらせ!」
リーダーのバイロンが手下に命令する。
手下達は赤いぬので顔を隠しているが、目だけは出ている。
「了解」
返事を言うと、6頭の黒いオオカミの群れと共に神殿付近の人を蹴散らす。
人がいないほうが、逃げるのに楽なのだ。
あとはやってくる兵士どもの足止め。
オオカミと手下の背後で、仲間が走っていく。
バイロンと、レビン、レビンより年上の何人かだ。
かれらは爆弾をなげて騎士や強固な守りの兵士たちをなぎ払っていく。
迷わず宝石の保管している王城中心部へ足を向けられたのは、ここヴィンテルに住む依頼人のおかげだろう。
二通目の手紙に宝石のありか、セキュリティ、それまでの道筋などが細かく掲示されていたのだ。
もちろん、『宝石は依頼料に入っていない。回収した後—』と書かれていたが無視だ。
こんなビッグチャンス、逃せるわけない。
しかも王城に攻撃を仕掛けてその大切な宝石を盗むという危険な仕事なのに、依頼料があれっぽっちじゃ話にならないし、割に合わない。
レビンの話による、昔盗賊団から盗まれた涙の宝石と同じというわけもあって、ますます依頼者に渡すことが出来なくなっていた。
「いいか、レビン」
走りながら、かつ爆弾を投げながらバイロンが言った。
脇をかけているレビンは表情を引き締めた。
20そこそこのこの青年は、なかなかつかえる盗賊だ。
「俺がありったけの、このニトロ入りのTNTダイナマイトで金庫を爆破する。おまえは兵士の攻撃を避けながら宝石を掻っ攫え!」
シンプルな説明にレビンは引きつった笑みを浮かべていた。
「簡単に言いますね…」
「なに?聞こえなかったが?!」
爆弾を投げながらバイロンはとぼける。
若くて身軽なレビンなら、たやすいはずだ。
- Re: ヴィンテルドロップ ( No.34 )
- 日時: 2012/08/24 01:52
- 名前: めた (ID: UcmONG3e)
「兄さん!」
異変に気づいたルクリスは振り返ってジャックルに叫んだ。
ジャックルは驚いたように振り替える。
弟の叫び声など、めったに聞かない。
「どうした」
窓の外を指差して、30ちょっとの弟が子供のように叫ぶ。
「大変だ!盗みにきた!」
主語なしでわかった。
わずか1秒で窓辺に飛びついたジャックルは、赤い衣の集団とオオカミが王城の中に進入したのを見た。
窓ガラスに顔を押し付けながら見つめていたジャックルは、うろたえる弟を突き飛ばし、部屋の棚へ突進した。
「兄さん!」
どうするんだよ、とルクリスがわめく。
が、ジャックルは棚を勢いよくあけて剣を取り出す。
フェンシング用の、うつくしいレイピアだ。
レイピアというのは、細長いはりのような剣を相手に突き刺して戦う剣のことで、柄は丸く反り返る保護鉄が付いている。
それを手にする兄に、ルクリスは一歩下がった。
おまえのせいだ、といわれて殺されるのだとおもったのだろう。
しかしジャックルはルクリスになど目を向けないで出口に走る。
その背に弟の叫びがかかる。
「どこいくんだよぉ!」
しかし答えなかった。
行く先はすぐわかるだろう。
王城中心の金庫。
これに便乗して宝石を盗むまでよ!
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