二次創作小説(紙ほか)

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はじまりのあの日
日時: 2017/09/24 18:09
名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)

はじめまして


ボーカロイドの二次小説。話しはオリジナルのストーリーです

神威がくぽ×鏡音リン

MEIKO×KAITO

氷山キヨテル×Lily

めぐっぽいど×VY2勇馬

巡音ルカ×鏡音レン×初音ミク

の組み合わせがダメという方は、読まれない方が良いと思います

恋愛小説のつもりですが、そこまで恋愛じみた話しではありません(あくまでつもり)



どうぞ宜しくお願いいたします



登場人物(最終的に登場する人物)


元音メイコ(もとねめいこ)


継音カイト(つぎねかいと)


初音ミク(はつねみく)


鏡音リン(かがみねりん)


鏡音レン(かがみねれん)


巡音ルカ(めぐりねるか)


重音テト(かさねてと)


神威がくぽ(かむいがくぽ)


神威めぐみ


カムイ・リリィ


神威リュウト


カムイ・カル


氷山キヨテル(ひやまきよてる)


可愛ユキ(かあいゆき)


Miki(みき)


猫村いろは(ねこむらいろは)


歌手音ピコ(うたたねぴこ)


オリバー


ビッグ・アル


IA(いあ)


呂呂刃勇馬(ろろわゆうま)


歌い手総勢21名



プロデューサー1

プロデューサー2

プロデューサー3



Re: はじまりのあの日 ( No.34 )
日時: 2017/10/06 17:50
名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)

修学旅行先で『愛』の告白したことがあるか無いか。そんな街頭アンケートを知らせる特集。そんなことを報道して、何になるのか。ああ、でも、だ。わたしと彼『秘密の贈り物』を交わしたことはあったな。告白はしなかったけれど。公演を終えた京の都、修学旅行の聖地で。今も大切に使っている髪飾りがある。彼がくれた髪飾り。彼が贈ってくれたもの、使えるものは殆ど、大切に使っている。サイズが変わって、使えなくなった物も、取ってある。嬉しいのは、彼も大切に使ってくれていること。わたしがあげた贈り物、彼も大事にしてくれる。そっか、あの日初めて贈ったな。少しだけ改まって、ちょっと『高め』の品物を。今日の朝彼は『今日はちょっと特別な日』と結んで行ってくれた。わたしが贈った品物を。記憶の図書館さん。今日はやけに招いてくるね。抵抗なんて致しません。入館させていただきます—

「今日は自由行動だけど、みんな何処に行きたぁ〜い〜」

朝ご飯の後で、めー姉が聞いてくる。二泊三日の京の都滞在。二日目は自由行動。どこに行きたいかはそれぞれ。わたしはどこに行きたいかは思い浮かばなかった

「拙者ハ、寺社仏閣めぐりをキボウするでゴザル。ナカナカ、機会が無い故ゼヒ」
「ワタシは、駅でのお買い物を提案いたしますわ。あの駅も名所の一つですので」
「ウチは甘い物食べにいきたいな〜、本場の和菓子。センセ、行こ〜ぜ」

アル兄、ルカ姉、リリ姉。それぞれの希望を言う。見事にバラバラ。と言って、協調性が無いわけでは断じてない

「ボクはこの辺ぶらついて、宿でゆっくり休みたいぜ。コンビニでお菓子でも買ってよ」
「あ、うちもそうする、重ね〜さん。どっかで、オセロでも買っちゃお、携帯出来るヤツ〜」
「よしよし、なら分かれて行動しようじゃない。夕方には宿で落ち合って、土産物の聖地へ繰り出すってどう」

意見を纏めにかかる彼

「賛成〜がく兄。じゃおれ、駅行ってみた〜い。あの中メチャクチャ店、あるみたいじゃん」
「わたしも、がくさんの意見にのる〜。レンくん。ルカ姉、一緒に行こ〜」

弟、巨大駅の店巡りツアーに参加を申し出る。ミク姉も同行するようだ

「じゃ、オレもミク達と駅行こうかな『ならでは』の食材仕入れたいし。漬け物とか湯葉豆腐なんか。駅ビルの中で揃っちゃいそうだからね。め〜ちゃんはどうする」

手を挙げながらカイ兄、同行を申し出て、めー姉に聞く

「アタシも行くわ、カイト。何だかんだで、一日遊べそうよね〜。都の地酒も買いたいし。他誰かいる〜」
「めいさま、かるも駅に行きたい。階段の上、気になるなる」

『なるなる』の台詞で、首を左右に傾げるカル姉。賑やかにひと塊が決定する

「じゃ、俺は寺社仏閣を案内するかな。アル、行くんだろ。有名な処だけじゃ〜なく巡っちゃおうじゃない」
「カタジケナイ、神威殿」
「わたしも一緒に行く〜がっく〜ん」

いつも通り、彼と一緒が良いわたし。昨日から、ずっとみんなが浴びせてくる。生暖かな視線はちょっと気になった

「お、リン。駅とかの方が良いんじゃない。お寺巡りしてもつまんなくないか」
「か・む・い・君。リンは、貴男と一緒ならいつでも何処でも楽しいのよ〜」
「そ〜。わたし、がっくんと一緒がいいの」

ウインクをしながら、めー姉。紫の彼『いつでも何処でもは言い過ぎじゃない』と複雑そうな顔。あの時は、何も考えず答えるわたし(こども)正直、お寺に、あまり興味は無かった

「なら、ゎたしも〜。神威のに〜さんと行きたいな〜」
「あ、神威さん、私もよろしいですか」

IA姉は、わりと彼、わたしと行動を共にする『波長が合ぅの〜。あと、がくリン萌ぇ〜』が、後に聞いた理由。ただ、リリ姉と、甘い物を食べに行くと思っていたキヨテル先生

「ん、テル、リリに誘われてたじゃない」
「センセ、行こうよ〜ぉ甘い物〜」

以外、という顔をする彼。顔中不満、リリ姉。先生は微笑んで

「ええ、リリィさん、是非。ですがまだ、時間も早いです。お昼までは、神威さん達と行動して、途中で分かれませんか。子供さん達に、神威さんのお話を聞いていただきたくて。古都のお寺や神社。あまり、ない機会ですからね」

先生の提案を聞いたとたん、瞳が輝くリリ姉。天使様も笑顔になる

「そっかぁ。じゃ、みんなでいこ〜ぜ。さすがセンセッ。ナイスアイディア」
「やった〜。みんなでいっしょだね、リュウトくん」
「にいさまのおはなしは、おもしろいです。ゆきちゃん」
「リリちゃんも氷山先生もいっしょ〜。楽しいね、オリバーくん」
「ニホノオテラ、ハジメテデフ。イロハチャン」

手をつなぎ、輪になってはしゃぎ出す天使様

「それ、いい案じゃない。博識のテルがいれば、俺も心強い。他、行くヤツいるか〜」
「わたしは、重音さん、Mikiちゃんとのんびりしてるよ、ぽ兄ちゃ〜ん」

『天使の輪』に頬を緩め紫の彼、他の同行者を確認。めぐ姉、にこやかに申告、手を挙げる

「自分もそれで。カードゲーム持って来たす」
「ぼくもの〜んびりしてますよ、かむさ〜ん」

勇馬兄、ピコ君も。それぞれの行動計画が決定。駅、宿、寺社仏閣。修学旅行よろしく、班分けが済む。わたしの班は、やさしい神威『先生』とキヨテル先生が引率。頼もしいことこの上なかった

「神威君、宿には何時に集合しよっか」
「そうな、四時にしようじゃない」
「早くない、殿。あ、でも今、まだ九時半か」

腕の時計を観る兄。ジャケットを着る彼

「そ、四時集合っつても、多分押すじゃない、時間。早めに設定しといた方が余裕持てるからな。晩ご飯が五時半だろ、食べてから、土産物通りに繰り出そうじゃない」
「私も、神威さんの意見に賛同いたします。帰ってきたら、一応点呼もとりましょう。皆さん、寒くないように、暖かくして下さいね」

大人組の会話は、完全に引率の先生そのもの

「それじゃ〜行くわよ、付いてきなさい」
「タクシー拾おうか、め〜ちゃん。少しでも混乱回避」
「さんせ〜カイ兄。今、そんな感じになっちゃたもんね」

私服、サングラスの女王様達が、賑やかに行く。PROJECTを認めてもらえた証。歌い手と気付いてくださる方が増えた。場合によっては人だかりが出来てしまう。混乱を、回避するため

「では、私達も参りましょうか」
「戸締まり確認したな。鍵は預ければいいじゃない」

わたし達も同様。紫の彼、薄い色合いのサングラス。アル兄は濃い黒、迫力がある。わたしやIA姉はニットキャップにだて眼鏡。以前IA姉と揃えたネコミミ付きのキャップをかぶる。先生は、掛ける眼鏡を変えている。楽しい修学旅行。そんなタイトルがぴったりの展開だが、格好だけはほど遠い

「いってらっしゃ〜い、みなさ〜ん」
「気を付けてね〜」
「じゃボクらも計画立てようぜ、ピコたん、Mikiたん」

見送られ、三組分かれる。めー姉達は、地下鉄で駅へ。分散行動なら、少しは混雑も避けられる。私達は、フロントでタクシーを頼む。到着を待つ間、ペットボトルの飲料を買う。ジャンボタクシーを二台、一日貸し切り。わたし、彼、IA姉、アル兄で一台。先生、リリ姉、天使様達で一台

「あまりはしゃいで迷惑かけるなよ〜」
「神威さん、しっかり監督いたしますので」
「騒ぎすぎは、ダメだからな〜」
「「「「は〜い」」」」

乗り込んで、目的地を告げる彼。運転手さんはとても気さくで親切なおじさん。京都の町や、向かうお寺の見所なんかを、簡単に説明してくれる。わたしに、ビスケットを振る舞ってくれる

「午前中に、二箇寺、一社(にかじ、いっしゃ)くらいは参拝しようじゃない」
「ニカジイッシャってな〜にがっくん」
「ああ、お寺や神社の数え方。お寺は『箇寺』神社は『社』ってかぞえるじゃない」

それも彼から教わった新知識だったな

「へぇ、そうだったんだ。わたし『一軒』で良いと思ってた〜」
「ゎたしも〜。そうなんだ〜神威のに〜さん」

ビスケットをつまむわたし、IA姉

「ま、こだわらなくてもいいけどさ。お寺も神社も、観光する場所じゃない。本来は拝みに行く場所だから、礼儀として一応な」
「神仏に『参拝』をするでゴザルな」

午前中、彼の言葉通り、いや、予定より『一社』多く回った。安置されている仏様や、神様の由来を聞くうち

「あ、ならさ〜センセ、縁結びの神社とか寺ってねぇの〜。おにぃ、どっかない〜」

と、リリ姉の希望でくぐる、縁結び神社の鳥居。みたらし団子発祥の場所だという

「境内は良いけどさ、仏様、神様の前では外そうじゃない」
「本来は境内も、ですが、最低限のマナーですからね」

紫様の指示で、参拝するときはサングラスを外す。最初のお寺で言われたこと。キヨテル先生の言う通り、礼儀は大切。礼節をわきまえたわたし達に、神様からのご褒美、おみくじを引いたリリ姉

「『時が来るのを待つべし。成就した想いに合わせれば、必ず成就するなり』お、成就するんだ、ヤリイ〜ぃ」

良い運勢だったのか、大喜びだった。何か『お守り』も買っていたっけ

「リンも引かね、おっみくじ〜」

と聞かれたけれど

「ん、わたしはイイや〜リリ姉。レンアイとか解んない〜」

そう応えると、何故かものすご〜く『渋い顔』をされた。苦いクスリでも飲まされたような。昼食は、運転手さんオススメのお店に連れてきて貰う。ならばと、彼の誘いで、一緒に食べる運転手さん。その運転手さんのお薦めメニュー

「わ〜お魚のってるうどん、初めてだね〜。ユキちゃん」
「ね〜、いろはちゃん。おつゆも、いろがうす〜い」

盛り上がる、いろはちゃん、ユキちゃんの女の子組

「おりばーさん、にいさまと、かいとさんがつくるおそばも」
「Soupノイロガティガヒマフ(スープの色が違います)リュフトクン」
「だよな〜オリバー。ウチもさ、おにぃ、カイトが作るツユの色の違いに、始めビビッタもん」

興味津々、男の子。子供と大人、向かい合わせで座る。わたしも、大人の『つもり』で彼の横

「おつゆは、関西と関東の違いですね。関西では『ダシ』関東は『つゆ』お醤油の色の濃さで変わります。好みの問題になりますが、どちらも美味しいですよ、皆さん」

答えてくれる、博識のキヨテル先生

「そ、俺も蕎麦は関東風のつゆ。うどんは関西風のダシが好みだしな。煮出す素材で味も変わる。麺だって、地方によって違うじゃない。コシがあったり、柔かったり」

店員さんが運んでくれた、湯気立ち上るうどん。魚がのっているうどんを食べるのは、わたしも初めてで

「がっくん、乗ってるこのお魚はなぁに〜」
「ああ、鰊(にしん)鰊の甘露煮をのせてるの。うどんに魚の油と出汁が染み出して旨いじゃない」
「オオ、これは拙者モハジメテデゴザルナ」
「ゎたしもはじめてだ〜。ぅ〜、いいにお〜い」

京名物ニシンうどん。初めて食べたあの日。アル兄は、紫の彼の真似をして唐辛子をかける。最初の一口でむせてしまったのが面白かった。でも、慣れた二口目からは、おいしそうに食べていた。コシのあるうどんにからまる、出汁の利いたおつゆ。ニシンから溢れ出るアブラとの多重奏。甘辛、それ自体おいしい、ニシンの甘露煮。とても美味しかった。何時だったか食べた『立ち食い蕎麦』と大違いの味。ネギが入れ放題のお店。ミク姉だったらネギ山盛りだったろう

「さて、どうするテル。ここで分かれるか」
「いえ、神威さん。もう一、二箇所参拝してからにいたしましょう」
「え〜ウチ正直飽きたな〜寺巡り〜。リュー、ユキも飽きてね〜」

昼食後、つまらなさそうに言うリリ姉。聞かれたリュウト君、ユキちゃん

「ぼくはたのしいです、りりねえさま」
「ゆきも〜。ひやま先生と、ぽ父さんのおはなし、たのしい」
「あたしも〜リリちゃ〜ん」
「オテラ〜、チャンジャ〜(神社)メデュラシ〜デフ〜」

天使様の援護得られず。何も言えないリリ姉

「すみません、リリィさん。私の話が至らないばかりに」
「え、ち、ちげ〜ってセンセ。寺とか神社って、どこ行っても同じっぽいってだけでさっ」

謝る先生に、焦り、手を振って弁解するリリ姉

「センセと一緒だったら、ま〜いっか」
「私と、ですか」

不思議そうな顔の先生。いよいよ押し黙るリリ姉。頬が朱色

「はは、リリ、天使様のがお利口さ〜ん。ま、なら後一箇寺参拝したら、皆で行こうじゃない。甘い物食べに」
「甘い物食べた〜い。やった〜、ありがとがっくん」
「オッしゃ、話せる〜。さっすがおにぃ〜」

わたしは別に、お寺が嫌では無かった。行ってみたら、以外と楽しい。まぁ、彼と先生のお話が面白かった、ということが大きな要因だと思う。けれどやっぱり、甘い物の方が心躍る。リリ姉、紫様に飛びつき、ほっぺちゅ〜。さすがは筋金入りのブラコン。でも何故だか思った『うらやましい』と

「こらコラ、リリ、はしゃぐんじゃない。アルも良いだろ。都の和菓子だって、そうそう機会、ないじゃない。IAもどう、ぶっちゃけ、俺も食べたいし」

そのリリ姉を抱き留め、オデコ合わせ。撫でながら彼。完璧なシスコンブラコン、神威の一家

「拙者は、寺社仏閣も格別でゴザルが。イワレレバ、甘味も気にカカルでゴザル」

楊枝を咥え、頬を緩めるアル兄、顎に手をあてる

「ゎたしも〜。甘い物がた〜べた〜いな〜」

両手を挙げ、破顔するIA姉。今日は袖が余る私服なので、必然、余った袖が揺らぐ。袖パタパタ。甘味処行き、全員異論無し

「店はリリ、目当てがあるんじゃない。その様子じゃ〜」
「もちっ、おにぃ。食べてみて〜のあんだ〜。宿にも、歩いて帰れる距離の店だしさっ」

話しがまとまって、会計を済ませる。タクシーへ戻って、もう一箇寺、お寺へ。大きな山門をくぐり参拝。階段の多さが半端じゃない。多少息が切れてしまう

「おお、コレハ珍妙デゴザルナ」
「おもしろいね〜、リュウトくん」
「にんじゃもあるけませんね、ゆきちゃん」
「このお寺の特徴なんですよ、みなさん」

解説をしてくれる、キヨテル先生、神威先生

「わ〜、歩くと音が出るんだね、がっくん」
「除夜の鐘も、有名じゃない。なんか『技』みたいで。毎年観てるじゃない、TVでさ。イク年、来ちゃう年〜」
「ぁ〜あれ、このお寺なんだね〜に〜さ〜ん」
「ぉあ、そっか、此所その寺なんだぁ、おにぃ」

どんなに静かに歩いても、キュッキュと音が出る床が面白かった。大きなお寺を、じっくりと観覧させていただく。隅々まで観ると、時間は二時半を回る。参拝を済ませ、タクシーへ戻る

Re: はじまりのあの日 ( No.35 )
日時: 2017/10/06 17:53
名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)

タクシーに乗って移動し、お菓子屋さんの前で降ろしてくれる。一日、私達に付き合ってくれた運転手さん。仕事とは言え、本当にありがとうございます。お礼をいう。すると運転手さん、怖ず怖ずと色紙を差し出してくる。娘さん、奥さんがわたし達のファンと打ち明ける、わたし達号車の運転手さん。子供さんがPROJECT『中毒』という天使カーの運転手さん。みんなでサイン色紙をプレゼント。記念写真にも収まり、固く、握手を交わす。車の料金は、大人達が事前に支払ってくれていた

「ここココ。センセ、ウチ気になってたんだ〜。この店、ぜんざいがうっまそ〜なんだ。モチも豆もでっかくてさ」
「それは、本当に美味しそうですね。リリィさんのお眼鏡にかなうお店です。間違いないでしょう」

趣のある店内、テーブル三つに分かれて座る。注文を取りに来てくれた店員さん。わたし達が歌い手だと気付いてくれる。店の店員さん、お客さん。それぞれ集合で写真に収まる。即席サイン会にも笑顔で応じる。本当にありがたい。お店への、連名サインを書き終えて、注文を受け付けてくれる。運ばれてくる和菓子。湯気を発てる、温かなぜんざい。大きなお豆にたっぷりあんこ、大きいお餅にかけられている

「ぅわ〜、お〜いしそぅ〜」
「すっご〜い、いいにお〜い」

大喜びのIA姉。いろはちゃんも大興奮。アル兄や先生も頬が緩む

「あの、この栗羊羹は—」

頼んでいない生菓子を認める彼。その質問に『お店からです』と。なんと、羊羹を一つずつ、心配りで付けてくれる『ありがとうございます、恐縮です』と返す彼。まずは、ぜんざいを味わう。温かな品物、熱々のうちに楽しまなくては、作った職人様に失礼だ

「んま〜ぃ。もちもちぉ餅〜。さすがリリィちゃんが、選んだぉ店〜」
「素晴らしいお仕事ですね、小豆の舌触りも堪りません」
「っだろ〜っ。とか言って、ウチも初なんだけどさっ、超ウマ〜」

甘い物大好き、IA姉、先生ご満悦。リリ姉も堪能する

「ちょ〜おいしいぃ〜。よかったね、オリバー君、リリちゃん達といっしょで〜」
「ゼンザヒ、ハジメテデフ〜。オイヒイ〜」

いろはちゃん、口の周りを汚す。オリバー君、伸びるお餅に舌鼓、笑顔が『完璧天使』の天使様。メンバー一同、お菓子に大満足。羊羹の栗もポクポク。皿まで食べる勢いで完食した後

「はい『ボカロ』大集合」

PROJECTの略称で、一つのテーブルに集結を促す紫様。VOCALOID PROJECTの略称が、聞き手の皆様から『授け』られるほどに、染み渡った。このお店での出来事だってその証に他ならない

「この真心お菓子のお礼としてさ。大人組とティーンで、あの歌、アカペラ即興で歌おうじゃない。子供達、好きに踊ってほしい」

紫の彼、お店の心遣い、お客さんの眼差しに答えようと提案

「良いですね、あの曲なら、そう長くもなりませんから」
「デハ、拙者、バスメロディーを担当イタス」

みんな、顔を近づけ、ナイショの会話

「ゎたしと先生さんでソプラノを、ハモはもするから、リリちゃんがティナーパートね〜」
「おにぃ、リン。メイン歌ってくれよ〜」

リリ姉の手が、わたしの首に回る。片手で撫でてくれる

「やった〜。がっくん、よろしくね〜」
「歌っちゃおうじゃない、リン。よっしゃ、みんな〜ごっめんよ〜」

店のみんなに呼びかける彼。歓喜の歓声。少し、テーブルが下げられ、始まる即興の歌会。楽器が無くたって、この声がわたし達の商売道具。披露させていただきます。歌う大人組、踊る天使組。気ままな野良猫と、飼い猫『恋』の歌。レンとめぐ姉の持ち歌。思えば、わたしと彼に歌わせてくれたのは、IA姉、リリ姉の『応援』だったのかもしれない。お店の中でも、大歓声を頂いて。美味しい和菓子まで頂いて。大満足で後にする

「おみせでおどると、おもわなかったです。ひやま先生」
「私もですよ、ユキさん。浸透したんですねプロジェクト。光栄な事ですね」
「超たのしかった〜。ぜんざいもメッチャ旨かったし、言うことな〜し」

ユキちゃん、先生、リリ姉と手を繋ぐ。旅館は、もう近くなので歩いて向かう

「さいんをかいたのは、きょうがはじめてです。あるのだんなさま」
「良い経験ガ出来たでゴザルナ殿下。きっとコレカラ機会が増えるでゴザルヨ」

リュウト君を肩車するアル兄

「オリバーくんは、どうだった」
「オテラ、オチャヤサン。タノシカタデフ」
「渋いじゃない、オリバー。見所あるぞ〜」

わたしと彼、キヨテル先生達と、同じように手を繋ぐ

「あたしも〜。初めてばっかりで楽しかった、IAちゃ〜ん」
「良い一日だったよね〜いろはちゃ〜ん」

古都、京の都。そう言われるが街の中は、現代の大都会に他ならない。一大観光地でもあるこの街は、人の密度も高かった。手を繋ぎあったのは、子供達とはぐれないようにという大人達の配慮。その中に、わたしも含まれていたことは、あの日は考えもしない。午後四時過ぎ、ホテルに入る。フロントで鍵を受け取る。それぞれの部屋で、荷物を置く。天使様は、少しお疲れなので、部屋で休憩。わたし達は、居残りメンバーが集まっている部屋へ向かう

「あ、おかえりなさ〜い」
「っす、ど〜たったすか」
「と〜っても楽しかったよ〜、っゎゎ〜」
「こっちも派手にやってたようじゃない」

めぐ姉、勇馬兄の声が部屋の中から。先頭で入ったIA姉、たまげた声。紫の彼からあがる、ややあきれが混じった声。わたしも、彼の脇からのぞき込む。と、ころがる、ペットボトル、スナック菓子の空き袋。昼食にしたと思わしき、ピザの空き箱。チョコレート菓子の食べ残しや、ビスケットの余り。そして

「そちらのコインは」

怪訝な顔で聞くキヨテル先生

「にゃはっ。皆でゲーセンによってさ。お菓子のクレーンゲームやったら、たまたま一発でくす玉が割れてよう」

愉快げに説明を始めるテト姉

「悪ノリして、もっかいやったんです。そしたら、また、くす玉割っちゃってっ。二度あることは、なんてコトワザがあるから、試してみようってしちゃったんです〜」

ピコ君、公演後で、本当に悪ノリしちゃったんだろうな。悪ふざけモードって、滅多にない。と、思ったら

「うちが思いついちゃってねっ。そしたら、ホントに割れちゃって、くす玉。これ全部コインチョコなの〜。すごいっしょ。これでも減ったんだよ〜」

小箱一杯のコインチョコを示すピコ君、Mikiちゃん。Mikiちゃんの悪ノリだったのだ。百枚以上はあるだろう、コインチョコ

「ヘッタとは、いかなる由縁で、でゴザルカ、Miki殿」
「あ、重ね〜さん提案のゲームでね〜。まず『何枚』って宣言するの」

顔が引きつっている、アル兄

「1〜10枚の間でっす。んで、その時一番多い数を採用っす。カードゲームをやって」

楽しげに説明を引き継ぐ、勇馬兄

「最下位の人が、そのチョコ枚数を一気食いです。オモシロイでしょ〜」

笑顔のピコ君。何をしているのだろう。でも、この勝負の仕方。どこかで聞いた気もする

「太っちゃうし、からだに悪いよ〜ぅ」
「はなぢ出そ、アタマの血管切れじゃね〜の〜」

IA姉のあきれ顔は珍しい。リリ姉、目に蔑みの色。テト姉は楽しそうに

「にゃはは〜。激辛とか、アルコール系よりいいじゃん。それに、未成年組も参加できるしなっ」
「また、帰ったら沢山運動しないとね、重音さん」
「めぐ、ったく。重音、お前等、阿呆だろう。ん、テル、おい」

あきれ果てる、紫の彼。その横を、無言で通り過ぎるキヨテル先生。眼鏡を、頭に上げる。有無を言わせず、テト姉に近づく。と、右手で頭をワシヅカミにする。意外な行動に、全員固まる

「重音さん。そのゲームは、二度としてはいけませんよ〜。特に、天使様の前ではぜ〜ったいに、ですよ。お利口の重音さんなら、聞き分けていただけますよね〜」
「ん、どした、先生たん。て、痛、イタタタタ、せせせ、先生」
「二度としませんよね〜」

もがくテト姉。テト姉の戦闘力は、最強足る紫の彼に次ぐはずなのに。先生はこの時その上をいっていた。言語道断オーラも、めー姉の上を行く。万力で、クルミを潰すような音が聞こえた、気までした

「賭け事や、変なゲームはいけませんよ〜。特に『未成年』の皆さんに影響するようなものは〜」
「わわわ、わかった。わかりました〜先生もうしません〜。ぐにゃあああ、てんて〜ごめんにゃさいいい」

頭から手を放すキヨテル先生。テト姉が崩れ落ちる。先生、わたし達に向き直り

「ね、皆さん」

細目のまま笑顔。というか、目は笑ってない。めー姉が、和を乱すワガママを許さないように。紫の彼、わたしとレンに過保護なように。先生は、天使様達へ。悪影響をもたらすものを許さない。沸騰点があることを知る

「こ、こええ」
「わわ、わかりました〜」
「し、しないです〜。二度と〜」

勇馬兄がポツリと。めぐ姉、ピコ君は怯えながら

「センセ、マジカッケエ」

乙女モードに入るリリ姉

「か、重ね〜さ〜ん、生きてる〜」

倒れ込むテト姉の心拍を確認するMikiちゃん

「ま、概ね、テルの意見に賛同〜。心配すんなMiki、その程度でクタバル奴じゃない。さぁて、駅組が戻ってくるまでに、お片付けしようじゃない」

まだ帰還していない駅組が来る前に、片付けを促す紫の彼。食べ残しのお菓子はまとめておく。ゴミは袋へ。その最中に、駅組が帰ってくる

「色々見てきたわ〜。共用のアクセサリーなんかも買っておいたっ。二次会用のお酒や飲み物も、買ってきたわよ〜」
「装飾品、食材やお土産なんかは、宅急便で送ったよ、殿。曜日指定、や〜、楽しかったぁ」

お土産を配送すれば、荷物が減る。それでも、来るときよりは増えるのだけど。ありがたいお話、大満足笑顔の姉と兄

「帰りの電車とか、二次会とかで食べようってさ〜」
「美味しそうなお菓子も買いましたわ」
「簡単なおつまみと、プラコップも〜」

ルカ姉、ミク姉に挟まれてやってくるレン。こちらも『いい顔』三人銘々袋を下げて

「おかえり、そっちも楽しかったみたいじゃない」
「みなさん、おかえりなさい。では、天使様もお呼びして、点呼をとりますか」
「センセ、ウチ呼んでくる」

リリ姉が、子供達を呼びに行く。と、燃え尽きているテト姉を発見する駅組

「ん、アネキ、ゆっくりしてたんじゃないの。なんで燃え尽きてるの、神威君」
「教育的指導があったじゃな〜い」
「しど〜って何があったの、あにさま」

畳に突っ伏しているテト姉。さっきの顛末を知らない駅組。キヨテル先生に目配せする彼。話しても良いかという視線。苦笑いの先生。語ってもいいですよ、という顔だ。教育的指導の内容を語る彼。爆笑する駅メンバー

「うっわ〜、先生もつええ。かっこいい〜」
「いえいえレンさん、お恥ずかしい」
「そりゃ〜、アネキが悪いわ」

見直したようにレン。恐縮する先生。ひたすら可笑しそうにめー姉

「ちょっと可哀想だけどね。でもまぁ、悪ノリしすぎかな。そのゲームは推奨できないな〜」

控えめにカイ兄、注意を促す

「あ、でもこのチョコおいしいよ、レンくん。ルカ姉も〜」
「けれど、食べ過ぎはいけませんわ」
「ふきでものが出そうなげ〜む、めっ」

可笑しそうなミク姉、チョコを勧(すす)める。額に手をあて、嘆息するルカ姉。カル姉もあきれる。まあ、あのゲームをするのは、良くはないよね。天使様が合流して、キヨテル先生が点呼を取る。メンバー全員、大きな声で返事、手を上げる。完全に修学旅行状態なのが楽しかった。食事までの間、一部屋に集まってくつろぐ

Re: はじまりのあの日 ( No.36 )
日時: 2017/10/06 17:57
名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)

歓談するメンバーの中、わたしは、あぐらをかく、彼の膝の上

「しっかしさ〜。ほんっとリンの指定席だよな。おにぃの膝〜。そ〜いや、それ聞くの忘れてたぜ〜」
「ん、どしたのリリ姉」

キヨテル先生の隣、ひっついて座るリリ姉がつぶやく。キヨテル先生の膝の上には、ユキちゃんが座っている

「いや、なんでそんなにオキニなのかなって。おにぃの膝」
「そ〜いえばそうね。神威君が来た日から観てた。アタシ達もあまりに自然すぎて〜」
「そんな風に考えなかったね、め〜ちゃん」
「あの日、気がついたら乗ってたもんね〜リンちゃん。レン君も乗ってたけど」

リリ姉の言葉に、姉と兄。ミク姉も参加してくる

「かるも気になる。りんりん、なんで」
「そっか〜、昨日聞いちゃえば良かったね」

カル姉、めぐ姉も、興味深げに

「ん、昨日ってなに〜。何かあったの」
「お前ら、リンに変なこと聞いたんじゃないだろうな〜」

別の興味を示すカイ兄。可笑しげな声の彼。わたし、神威の姉達と、顔を見合わせ

「「あはっ」」
「へっへ〜」
「うっふ〜」

めぐ姉と声が重なる。それぞれ吹き出す、リリ姉、カル姉

「え、な、なに、なに。その反応。お兄ちゃん、気になっちゃうな〜リン」

実際『何か』気になったのだろう。やや慌てた顔で、カイ兄が前のめる、も

「あっははいつまでも『お兄ちゃん』とか言ってんなよカイト。ヒクんだけど〜」
「え〜」

リリ姉に切り払われて、落ち込むカイ兄。こうべを垂れる

「女子トークだから秘密〜。ぽ兄ちゃんにも〜」
「りんりんとカル達だけのおはなし。みんなはめっ」

秘密の会話を、肯定してくれるめぐ姉。カル姉、人差し指で×を示す

「ぅんぅん。女子トークは秘密〜。ぉとこの子は聞いちゃダぁメ〜。でも、ゎたしも気になる〜。リンちゃん、神威のに〜さんのぉ膝って、どんな心地なの〜」

IA姉、会話の内容には触れず、座り心地を訪ねてくる

「ネタにされ損じゃない、俺。ま、女子トークの内容は秘密だ基本。カイト、マナー違反じゃない、聞くのって。聞かない方がいい話しもあったりするじゃな〜い。で、リン、どんな心地なのかな、俺の膝」

言われ、さらに落ち込むカイ兄。めー姉が慰める。紫様自身、気になったのか、聞いてくる

「んとね、がっくんの膝。乗るとね、悲しいときでも、ヤな事あったときでも。落ち着くの、とっても。安心する。護ってくれてる〜、って気分になるんだ〜」

背もたれよろしく、彼の胸に寄りかかる

「そうなのか。考えてみたら、聞くの、俺も初めてだったじゃない、リン。なんで乗ったか、聞いたことはあったけどさ」
「そ〜だよ、がっくん。がっくんの膝、わたし、すっごく落ち着く」

彼を見上げる、優しく微笑み返してくれる

「そっか〜、落ち着くのねぇ、お・ひ・ざ。うふふっ、落ち着きすぎたのね。神威君の膝の上で、眠っちゃったこともあったわね。小一時間動けなかったわぁ、神威君」

可笑しそうにめー姉。幼い日の失敗談、しっかり覚えられていた

「むぅ、それは言わないでよ〜、めー姉。がっくんも一緒に寝てたって言ってるし〜」
「ゎ〜、ゎたし観たかったな〜。ミクちゃん、写真撮ってないの〜」
「うん、ごめんねIAさん。まだ、写真に目覚めて無くて〜。あ〜今思いだしたら、もったいない〜」

写真に目覚めるというより、何か別のものに目覚めた気がするミク姉。IA姉とは『別の意味』で相当残念そうだった

「そ、問題ないじゃない。俺まで眠ってたんだから」
「はは、殿、もう時効だと思うから言っちゃう。リン、あの日ね、殿は眠ってなかった」
「えっ」

精神的に回復してきたカイ兄によって。あの日、告げられた真実。幼かったあの日の事実。彼は眠っていなかった。私が起きないよう、静かに読書を続けていたのだと。周りの家族にも、静かにするよう、促していたことを

「起こさなかったノハ、神威殿のオモイヤリでゴザルナ」
「ぅゎ〜あ、お話し聞いただけで萌え萌え〜。小っちゃいリンちゃん、ぉ膝の上でぉねむでしょ。神威のに〜さんがそれ護ってるの〜」
「わかる〜IAね〜さ〜ん、うちも萌えちゃうっ。起こすなって、ホントに『護って』あげてる〜ぅ」

腕組み、微笑みながら頷くアル兄。IA姉、Mikiちゃんは萌え上がる

「うぁ〜、知らなかったぁ。ホントにごめんね、がっくん」
「気にしなくて良いじゃない、リン。あんな気持ちよさそうに寝てたら、起こすこと出来ない」

撫でてくれる、やさしい彼

「でも、なんだかわかる、リンちゃん。ゆきもおちつくの、ひやま先生のおひざのうえ」
「ほんと、ユキちゃん。わ、うれし〜な。わたしと同じだね〜」

天使様の理解を得られる。大変に光栄だ

「おうち(シェアハウス)にいるときね、おねがいして、のせてもらうんだ〜」

そして、わたしと彼の同様の事をしているのも、なんだか嬉しい

「へえ〜、テルさんもユキちゃん、乗せてるんだ」

ダメージは残っているが、興味が湧いたらしい、カイ兄

「ええ、せがまれまして。以前観た、神威さん、リンさんの光景に触発されたようです。まだ、こちらに入らして日も浅いですからね。心細さもあったのでしょう。そう考えたら『家長』としては断れません」

やや、恥ずかしそうな先生。でも、その想いを聞くと、心が温まる。ここで、テト姉が軽口を叩かなかったのは珍しい。きっと、さっき先生が放った必殺技が効いていたからだろう

「マジか、ユキ〜。羨まし〜。ちょい変わってくんね〜」
「いいよ〜リリちゃ〜ん」

言って、軽やかに。キヨテル先生の膝を降りるユキちゃん

「え、リリィさ—」

カンバツ入れず、有無をも言わせずに。先生の膝の上に収まるリリ姉

「お〜マジだ。ヤッベ、これ癖になりそ〜。ウチもこのまま寝てい〜い、セ・ン・セ」

キヨテル先生を見上げ、小悪魔スマイル。顔を近づける。すると、先生が眼鏡を外す。目が真剣に

「いけませんよ、リリィさん。無闇にこんなことを—」
「はいはい、メンサイ(ごめんなさい)でも、ウチがんなことするの、センセだけなんだから〜」

膝からどきつつ、つまらなさそうにリリ姉。眼鏡をかけ直すキヨテル先生は頭の上に疑問符がふわふわ。でも、先生、越後では、リリ姉を膝枕してたよね。さっき同様、隣にひっつくリリ姉。どうやら先生なりの基準があるようだ

「あらあら、テル先生もスミにおけないわね〜。カイト、あたしも良いかしら〜」
「ど〜ぞ、め〜ちゃん」

カイ兄の、足の間に収まる姉。逆に、カイ兄の心を癒すことも考えての行為のよう。ユキちゃん、ふたたび、キヨテル先生の膝の上へ

「ピコく〜ん。うちの膝に乗ってみな〜い」
「わ〜い、乗りま〜す」

Mikiちゃんの膝の上。積極的に乗りにいくピコ君

「アルさん。あたしたちも〜」
「オヒザ、ノッテミタイデフ」
「何のソレシキ。遠慮されるコトハ、ないでゴザル」

大きなアルさんの膝に乗る、いろはちゃんとオリバーくん。気に入ったらしく、大はしゃぎ。孫を見るかのような顔のアル兄

「ゎたしも乗せてみたかったんだ〜。おいで〜リュ〜トく〜ん」
「は〜い」

寄って行ったリュウトくんを、膝に抱き上げるIA姉。笑顔で撫でてあげる

「レンくんも乗りませんか」
「あ、ずる〜いルカ姉。レンくん、わたしも乗らない」
「どっ、どっちも乗らないしっ」

ルカミク、二人の姉に言われ、慌てて照れる片割れ

「ふっはは。なんだかミョ〜な流れになったじゃない」
「お膝だっこ大会。みんなかあいい」

吹き出す彼と、和むカル姉。何か複雑そうな勇馬兄

「うん、グミ姉、ナイスアシスト。グミ姉の一言で、素晴らしい画がたくさん撮れた」
「「「「「「「「「「ミク、ま〜たお前か」」」」」」」」」」

サムズアップ、ウィンクしながらミク姉。あきれる面々。膝だっこ大会をしていると、あっという間にご飯の時間。その日の晩ご飯は、天麩羅の盛り合わせ。半熟玉子の天麩羅や、珍しい、つくねの天麩羅も付いてったっけ。主菜は、のどぐろの煮付け。ゴマ豆腐や茶碗蒸し、お吸い物からなる御前。子供達には配慮して別メニュー。大きなハンバーグがメインディッシュ。昼間、飲み食いしていただろう居残り組も含め、全員完食

Re: はじまりのあの日 ( No.37 )
日時: 2017/10/20 17:39
名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)

お風呂の前に、土産物通りに移動。夜七時、昼間さながらの活気

「へ〜これって堅いヤツがあんだね、カイトアニさん」
「そだよ、Mikiちゃん。生菓子の『生』タイプ。焼き菓子のタイプ」

駅では買わなかったという、都の名物。心なしか、アホ毛クエスチョンマークのMikiちゃん。カイ兄の提案で。まずは、京の都と聞いて、思い出さない人はいないのでは、というレベルの『名物』を買い込む

「他にも、餡が入ってないのとかね〜。薄いお餅版の」
「めいぶつも、おくがふかいですね」

めー姉の言葉に、リュウトくん腕組み、うなずきながら

「わ〜、リュウトくん、おとなみた〜い。ユキもはじめてしった〜」
「拙者モ初めて知ったでゴザルよ姫」
「変わり種も増えましたよね〜」

感心する、ユキちゃん。アル兄とピコ君も、物珍しそうに。ピコ君、アホ毛が♪っぽい形に

「お、センセ、チョコなんてのもあるじゃん。買ってこ〜ぜ」
「へぇ、チョコレートですか、リリィさん。興味深いですが、合うんでしょうか」
「へ〜。そんなにあるなら、バナナとかないのかなぁ」

ご機嫌のキヨリリ、先生とおねぇ。チョコの物を手にするリリ姉。キヨテル先生に見せながら。その後ろ、頭の後ろで、手を組む片割れが
言う
「あるじゃない、レン。チョコバナナの生」
「って、あるの、がく兄」

レンにバナナ生を見せる彼。箱ではなく、袋詰め、小分けにされているタイプのもの

「みかんもあるけど、買う、リン。果物の中で、一番好きだったじゃない」

私の好物を覚えてくれた、優しい彼

「わ〜、みかん好き〜。じゃ、一つだけお小遣いで買っちゃ—」
「あ、すみません。このチョコバナナと、みかん。一つずつ」

片割れの物も含め、即座に買ってくれる

「え、良かったのにがっくん。お小遣い持ってきたから」
「わっ、マジ、がくにい。ぅあ〜なんかごめんね」
「あらあら。二人ともお礼言わなきゃだめよ。全く神威君、甘々なんだから〜ぁ」

すぐ近くで見ていためー姉。そういうめー姉も、天使様達のリクエスト名物を買ってあげていた

「人の事は言えなくな〜いメイコ、ありがとな。リュウト、ちゃ〜んと『ありがとう』言ったかな」

しゃがみ込み、リュウト君を撫で回しながら、聞く紫様

「はい、にいさま」
「大丈夫よ神威君。みんなお利口さんなんだから」

買って貰った、名物生菓子をリュックサックにしまうリュウト君。実の弟と、彼の微笑ましいやりとり。よく見ると、リュウト君、リュックの中には、複数の小分け名物が入っている。天使組の生菓子を、背負ってあげるお利口さん

「わ〜ほんとにありがとね、がっくん」
「ありがと、がくにい。チョコバナナ大好き」
「こんな事くらい、子供は大人に甘えていいんじゃな〜い」

微笑みながら、手渡してくれる彼。わたしとレンの頭を撫でる。彼の言葉で初めて思う『子供のままではイケナイ』と。そうだ、昼間だって、タクシー、昼食、和菓子屋さん。お代はすべて、大人組が払っていた。甘える子供のままではダメだ。何故か思う。ただしその思いは、結局『子供』の範疇を出ない考えだったけれど。箱で買った生菓子は、此所でも指定日配送。結局大人組が支払いをする。お店を出て、お土産通りを進む。色々なものが目に入る

「っす、がくサン、ちょっと寄んないすかこの店。模造刀も、結構置いてあっす」

ある店の前、通り過ぎようとしたとき、勇馬兄が目を輝かせた

「おいおい、お前は居合い刀、持ってるじゃない。しっかもアレ結構な名刀」

勇馬兄の刀は、紫様も認める代物らしい。けれども

「でも、やっぱ刀はテンション上がるっす」
「おお、拙者も一振り、欲しいものでゴザルナ」

人の欲求にキリは無し、勇馬兄、子供のようにはしゃぐ。アル兄も入店希望。刀好き二人、完全にテンション沸騰。これは当然の流れだった、が

「がくにい、おれも入ってみたい」

怖ず怖ずと申し出た片割れ。意外な申し出、こちらは全員驚く

「お、以外じゃない、レン。刀に興味あったっけ」
「い、いや、刀ってゆ〜かさ。がく兄も勇馬兄も、鍛えてるじゃん。テト姉だって。さっきの先生も強かったし。おれ、学校とかで、部活もやってないから。お、おれもさ、体鍛えたくて。鍛えて、いつか護れるように成りたい」

メンバーの視線が、レンに集中する。確かに、スポーツ競技はやっていないわたし達。ただし、歌って踊るには体力が要る。重量級の衣装を着て、歌劇を演じる必要だってある。歌い手として、普段から、そういう意味では、かなり鍛えていた。軽い走り込みやストレッチ。軽度の筋肉トレーニング、ダンスの確認なんかは毎日だ。大人組は、仕事の合間に、プロスポーツ選手並のトレーニング。その甲斐あってか、学校の体育テストなどでは、いつも五指の内に入ってた。でも、片割れがあの日言ったのは、それとはちがう意味の『鍛錬』

「がく兄が言うみたいに。護りたいじゃん、大切な人。そんな、危ない目に遭うこと無いけどさ。みんなとか、大切なひ—、あ、い、今の無し。わ〜わ〜」

独白をしていたと気がつくレン。真っ赤になって話しを打ち切る。もう遅い

「何言ってんの、レン。見上げた心がけじゃない。鍛えて護るってその心音。さすが、尊敬する双子様。俺、自慢の弟『筆頭』惚れる男気じゃな〜い」
「まぁ、将来、レンくんに護っていただく可能性がある。なんだかワタシ、幸せですわ〜」
「ね〜ルカ姉。わ〜レンくん、何かかっこいいよ〜」

うわべのお世辞ではない。心からの賛辞を贈る彼。レンの頭を撫で回す。何故だか、幸福感に浸る、ルカ姉、ミク姉

「デハ、勇馬殿同様。レン殿も、神威殿に弟子入りされると良いでゴザル」
「あ、う、うん。がく兄、弟子にして。一緒に鍛えてよ」
「わ、神威道場の開幕ですね〜、かむさんっ」
「殿が師匠の、一流派ができたね〜」

片割れの真摯な願い。ピコ君と兄の言葉に、頬が緩む彼

「弟子って程のもんじゃない。俺は師範でも無いわけだから」
「かむぅい、お前師範代の位(くらい)持ってたじゃね〜か、居合い。武道も併せて何十段だったかにゃ〜、元格闘家様よ」
「うっす、レンがおれの弟弟子(おとうとでし)っすね」

可笑しそうにテト姉が突っ込む。勇馬兄は、子分が出来たかのような物言い。笑みを、獰猛なものに変える、紫様

「重音、イヤミで言ってんのか。お前も似たようなもんじゃな〜い。勇馬、歌い手としては、レンのが先輩だから、な」

彼とにらみ合うテト姉。でも、二人とも楽しそう。ビビっているのは勇馬兄。御師様には太刀打ちできない

「はは、そんなに段位持ってるんだ。殿ほんとにハイスペックだね」

カイ兄、カナワナイという顔。紫の彼、今度は微笑んで

「何言ってんのカイト。お前のが高性能の超アニキじゃない。俺らは、武術馬鹿ってだけ。まぁ、レンも見たいなら仕方がないな、入ろうか。でも、別の店行きたいんじゃない、オンナノコは特に」

と、女性筆頭、めー姉に向かって片目を瞑る

「そうね〜、アタシは別の店が良いわ。気遣いありがと神威君」
「私もです、神威さん。子供達と他を。模造刀とはいえ、刀はちょっと物騒ですので」

彼の心遣いに、上がる声。別行動を申し出る、めー姉、先生

「なら、ウチもセンセと別の店〜」
「ごめん、殿、オレも別の店行くよ」
「がっくん、わたしも別のお店行きた〜い」

メンバー全員、またも驚きの表情が浮かぶ。そうだろう、あれだけ彼にくっついていたわたし。別行動を申し出たからだ

「あら、珍しい。いいの、リン、神威君と一緒じゃなくて」
「うん。別のお店が良い」
「メイコ、刀なんか興味なくて当たり前じゃない」

ただ、ひっつかれていた彼だけは、納得の顔をする。実は、別行動をしたかったわけではない。模造刀とはいえ、刀を構える彼。想像しただけでかっこいい。片割れの意外な姿も見てみたかった。でも、わたしの意思は、もう一つの目的に動かされる。さっきから考え、思いついた。彼に、何かお返しを贈りたい。さっきもお土産を買ってくれた彼に。もう、すぐそこの誕生日。きっと誕生日プレゼントをくれる彼に。このお土産の聖地で『お返しの品』を選ぼうと

「そういう事じゃないんだけどな〜、神威君。まあ、分かれてお店みましょ。アタシはバッグとか小物を見に行くわ。プロさん達から、軍資金渡されてるの。カイト〜付いてきて、男物は任せるわ。ルカ、一緒に選んでよ」

複雑そうな苦笑い、めー姉、カイ兄に従者を命ずる

「喜んで同行しますわ、メイコ姉様」
「うちも〜メイコアネさん」
「ははは。オレは完全に従者だね。おおせのままに、お嬢様方」

腰を折り頭を下げて、カイ兄、めー姉の一歩後ろに続く

「かるも、めいさまにつづきます」
「あ、カイトさん。ぼくも、従者に加わりま〜す」

その後ろ、ルカ姉、カル姉、Mikiちゃんが続く。ピコ君も、従者というよりお嬢様。わたしは、状況を見ていた。どの集団に付いていけば、目的のものに出会えるだろう、と。ただ、何を贈るか、それは思いついていなかった。めー姉が行く装飾品のお店ということは、ここ一番の時身につける一張羅。プロデューサー、直々の調達命令なら尚更。きっと高い店、わたしには手が出せない品ばかりだろう。この一団に付いていくのはムリだ

「すみません、私はホテルに戻らせていただきます。みなさん、そろそろお疲れのようですから」
「なら、ウチも戻ろっかな。センセ、一人じゃ大変じゃん。戻ったら、二次会の追加とか買っとこ〜ぜ、センセっ」
「すみません、リリィさん。では、タクシーを拾いますか」

ユキちゃん、リュウト君と手を繋ぐ、キヨテル先生の心遣い。さすがに少しお疲れの天使様。大人達の議論の間に、眠くなったのだろう。目をこすり始めている、オリバー君、いろはちゃん。手を繋ぐリリ姉。通りの出口へ向かう。ホテルに戻るという選択肢は、さすがにない

「わったし、このお店入ってみよ〜。なんか面白そ〜」
「ボクもここ入るぜ。お、ヌンチャク発見」

興味が湧いたらしい。彼らと残る選択をする、ミク姉。初めから、入る気満々の顔だったテト姉も続く『付き合って』入った風情、彼の顔。この店にも目的のものは無い。それにわたし、刀や武器の知識は皆無『架空』の武器なら多少はあるけれど。ビームの刀とか、勇者の剣とか

「ゎたしは、すこしだけぶらついて、気に行ったお店に入ってみるよ〜ぅ」
「IAちゃん、わたしも一緒にいく〜。良いところで帰ろ〜ね」
「あ、めぐ姉、わたしも一緒に行く〜」

IA姉の申し出に賛同する。この二人に付いていくのがいいと判断。おみやげ通りのぶらり旅を希望

「じゃ、みんな、ホテルで落ち合おうじゃない」
「また後でね〜がっくん」

別れ、歩き出す。あ、ほんの一瞬のお別れなのに、なに、この寂しさ。あの日思った。紛らわすため、めぐ姉と手を繋ぐ。誤解の無いよう申し上げたいが、めぐ姉と手を繋ぐのだって、大変に心地イイ。紫様の手繋ぎが『唯一無二の至高』というだけで。わたしが勝手にしている思い出訪問で、一体誰に言い訳しているのだろう。すると、思い出のめぐ姉が質問してくる。あの日へ戻るわたし

「でもリンちゃん、本当に珍しいね、ぽ兄ちゃんと別れて行動」

そんなにわたし、彼にくっついていただろうか、などと思った。が、どう考えたって確実に、引っ付いている時間が多かった。今にして思う

「う〜ん、そんなにわたし、がっくんと居るかなぁ。がっくん、もしかして迷惑かな、めぐ姉」
「わわ、大丈夫だよ、リンちゃん。ぽ兄ちゃん、いつもリンちゃん可愛がってるものっ」

わたしの反応に慌てるめぐ姉。もの凄く必死の弁解

「えとえとね、突然お別れ行動だったから、どうしたのかな〜って」
「ゎ〜たしもちょっと気になるな〜。ど〜して〜、リンちゃん」

今だ慌てている、めぐ姉。IA姉、興味深げにのぞき込んでくる

「ん、あのね、ん〜、みんなにナイショ、して貰って良い」

何となく気恥ずかしい、ちょっと照れる。いつも図々しく甘えるから、そのお返しを贈りたい。そんなことを口にするのが。みんなに知られるのが。と言って、今行動する姉二人、秘密にするのは難しい。ならいっそ、味方にした方が上手くいく。浅知恵ながら、よく瞬時に頭が回ったものだ

「がっくんに贈り物、したくって」

めぐ姉、IA姉、束の間顔を見合わせた後

「ど、ど〜してかな、リンちゃん。ど〜いう贈り物かなっ」
「そ〜れは、どういうことを伝えたいの〜リンちゃ〜ん」

目を燦々輝かせて聞いてくる。めぐ姉の手に力がこもる

「えっ、あ、う、うん。あのね、いつも優しくしてくれるでしょ、がっくん。さっきもお菓子買ってくれたし、プレゼントだってくれると思う。帰ったら誕生日来るから」

背の高いめぐ姉に、上からのぞき込まれ、低いIA姉には、やや下からのぞき込まれる

「わたし、去年までがっくんの誕生日に、きちんとした贈り物もしなかった。でも、がっくん、わたしの誕生日には絶対、プレゼントくれてさ。さっきお菓子買って貰った時、思っちゃった『このままじゃダメだ〜』って」

お土産通りの一角、黄色いの一人が、二人の美少女に囲まれる。なかなかに無い構図だったであろう

「何時までも子供じゃないんだからって。ちゃんと言わなきゃ」

その台詞を言った瞬間、めぐ姉、IA姉、瞳の星。少女漫画の十倍は輝いた

「きちんとお礼したいの。がっくんにお礼のプレゼント、選びたくって」

何故だか歓喜しながら二人の姉は

「ん〜リンちゃん、わかった、応援するよ〜」
「ょ〜うやく進展するかな〜ぐみちゃ〜ん」

わたしを抱きしめてくれた。ただ、この時は『勘違い』に終わったんだけどね、二人の。わたし自身の『勘違い』も含まれる『このままじゃダメだ、子供じゃない』思ったくせに気付かない。もう、この時には抱いていただろう自分の『想い』

「何を贈るの〜リンちゃん」
「ん〜、何にしよっかな、決めてないんだ〜」
「でゎ〜、イ〜ロイロめ〜ぐり〜ましょ〜」

目が輝いたままの二人に連れられ、店巡り。雑貨、衣類など、多種多様お店旅。巡り巡ってあるお店に入ったときのこと。わたしが目にしたのは、一本のループタイ。銀色の刀の鍔がデザインされた、彼に似合うであろう品。二人の姉から離れ、手に取る。彼がこのタイを絞めた姿、想像する。うん、完璧。購入を決意する。値段は、あの時持って行ったお小遣いぎりぎりだった。この後、買い物は出来なくなる。それでも構わなかった

「リンちゃん、それ買うの」
「カッコイイデザインだね」

いつの間にか近くに居ためぐ姉、IA姉

「あ、う、うん、めぐ姉。みんなにはナイショ、IA姉」
「ふふっ、わかったよ、リンちゃん」
「ぅふふ〜、頑張ってね〜リンちゃん」

そう言って、励まされる。確かに、少し緊張する、内密に渡せるか。頑張らねばと、あの日は勘違いした。レジで会計。少し良い紙で包装をして貰う

「リンちゃ〜ん、ホテルに戻るよ〜」
「戻ろ〜リンちゃん」

IA姉、めぐ姉の声

「あ、わかった〜待ってぇ〜」

店を後にする。タクシーのなか、わたしは考えていた。どう渡すか、いつ渡すかを。彼は、喜んでくれるか、を。結構、心拍が上がったっけ。玄関の呼び鈴が鳴る音で、意識が記憶図書館から強制退館。モニターに映る荷物屋さん。受け取るため、料理の火を止めて。急ぎ足で向かう—

Re: はじまりのあの日 ( No.38 )
日時: 2017/10/20 17:45
名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)

届けられた、箱二つ。一つは箱一杯のじゃがいも。もう一箱は、修道院のバターとクッキー。わたしの『生まれの実家』からの心遣い。同封の手紙、いつも観ているとのこと。帰省する機会もめっきり減った。それでも、思いやってくれるのはありがたい。そうだ、これでじゃがバターでも作ろうか。台所へともどってくる。家族のために料理を再開。他の家へもお裾分けをしよう。家族も好きなんだよね、このクッキー。あ、今自然に思ったな『家族』って。両親には、際限なく感謝をしている。ただ、申し訳ないけれど。わたしも、みんなも、もう同じ『メンバーが家族』『今、住んでいる家が実家』何時か、誰かが言った。じゃがいもの皮を剥きながら、はて、さっきまで何を想っていただろう。届け物の中『密封』の文字が目に入る。ああ『密』の字で思い出した。結構大切な思い出だ。京の都で贈り物を交わしたあの夜。記憶の図書館さん。今度は、わたしの方から入館、希望いたします—

「ただいま、お待たせじゃな〜い」
「っす〜、良いモンが買えたっす〜」
「楽しかったぜ〜」

最後に帰ってきたのは、紫様の一団。と言っても、わたしたちがホテルに入った時間と、そこまでの差は無い。発声は彼、ホクホクの勇馬兄。ヌンチャクを振り回し、ポーズを決めるテト姉

「あらあら、皆すっかり刀剣男子ね〜」
「帰るまで、箱から出してはいけませんよ」

めー姉が笑う。彼とレン以外、男性陣の手には長い箱。おそらく、模造刀が入っていると思われる。すでに浴衣のキヨテル先生苦笑い。眼鏡を外した先生は、少し目が細められる。視力が悪いので、とのこと。一足先に戻った、先生、リリ姉、天使様。男の子を先生、女の子をリリ姉が引率して、入浴を済ませたとのこと。すでに、お部屋で夢の中

「お、レンまで買ったの、模造刀。でも、箱に入ってないね」
「違うんだ、カイ兄。これ、竹刀。がく兄が買ってくれてさ。剣道着は、帰ったらって」
「わたしも、何か楽しくなって買っちゃった〜」

嬉しそうな弟。笑顔、声も弾んでいる。ミク姉、十手を見せてくれる。何に使うのだろう

「レンにさ、まずは剣道教えようって。一式揃えてあげようじゃな〜い」
「ありがと〜、がく兄」

図々しく思った。買って貰った、そして剣道談義で盛り上がって、頭を撫でられている片割れが。羨ましいと

「さ〜、それじゃお風呂入って。二次会始めるわよ〜」
「でも寒い中を歩いたからね。ゆっくり入ってこようよ」
「しっかり暖まって来て下さい」
「その間に、会場作っちゃお〜ぜセンセ」

めー姉、カイ兄。促されて、浴場へ。二次会の準備は、リリ姉とキヨテル先生がしてくれる

「あら〜、お風呂も良いわね〜。身に余る贅沢だわ〜」
「やっぱ日本人は温泉だよね〜、メイコのアネさ〜ん」

めー姉の言うとおり、広々、高い天井。暖色の照明と湯気が仄かに立ち上る浴場

「広々〜、あ、かけ湯してあげる〜リンちゃん」
「ありがと〜めぐ姉〜」

言ってくれる、めぐ姉を観る。この頃から気になり始める、特に、めぐ姉、ルカ姉との差。めー姉も含め、大いに恵まれた人達と、自分の体つきの差。くらべて何故か、すごく悲しくなった。残念ながら、今でもカナワナイ。何でかは、あの日は考えつかなかったけど。そのめぐ姉に、背中を流して貰う、洗いっこする。頭も洗って貰って、湯船につかったとき

「リンちゃん。さっきのループタイ。帰ってから渡す、今日渡す」

声を潜めて聞かれる

「今日渡したいなぁ」

その問いに出した答え。さっきのレンの楽しげな、嬉しそうな顔が浮かぶ。それに嫉妬しただろう、あの日のわたし

「なになに〜、作戦会議〜」

IA姉、声を潜めてやってくる

「うん、IAちゃん。じゃあさ、二次会出るよねリンちゃん」
「でる〜、めぐ姉」
「その途中にね、抜け出すのがいいと思うよ。でね、二人っきりで渡すの、ぽ兄ちゃんに」
「誰か気付いたら、ゎたし達が誤魔化しておくよ〜」

提案してくれためぐ姉。考えてみれば、あの頃から、わたし達を応援してくれていた、神威の姉。IA姉の気遣いも嬉しかった

「ありがとめぐ姉。そうする、IA姉」
「頑張ってね、リンちゃん」

めぐ姉、言って抱きしめてくれる。何となく、至福の感触だった。そういえば、だ。神威の一族は呼ぶ。姉のことを『めぐ』と。そこに、姉がつくかつかないかだけが違う。でも、他の人は違う。なぜか『グミ』と呼ぶ。わたしは、彼が呼んでいたから、自然とそうなった『めぐ姉』という呼称。姉の名は『めぐみ』だ。わざわざ、なぜ下の二文字を取るのか、今でも分からない

「まあまあ、リンちゃん。本当に、神威さんのお姉様が、実のお姉様のようですわね」
「うん、ごめんねルカちゃん。わたし、リンちゃんをホントの妹って思ってるんだ〜」

微笑みながら、ルカ姉が言う。めぐ姉は、ますますわたしを抱きしめる。その言葉に、うれしさが倍増する

「ふふふ。りんりんは妹。かる達の妹」

わたし抱っこに加勢してくる、カル姉

「ゎ〜リンちゃんが可愛がられてる〜。ゎたしもリンちゃんかわいがろ〜ぅ」
「あ〜、この光景、ゼヒ撮影したかった〜」
「ミク。本当にやったら、お姉ちゃん、オ・コ・ル・ワ・ヨ」

めー姉に、笑顔で睨み付けられ、縮み上がるミク姉。当然だろう。それをやったら、イタズラでは済まない。わたしは、IA姉にも抱きつかれる。完全に体が温まる。というか、ややノボセタくらいの状態で、浴場を後にする。脱衣所で、髪を乾かす

「ルカたん。手伝ってやるぜ」
「すみません、テト姉様」
「ミクちゃ〜ん、手伝ってあげる〜」
「わたしも〜ミク姉〜」
「グミ姉、リンちゃん、ありがと〜」

髪の毛の量が多い面々が多い女性陣。必然的に、時間がかかる

「いあさま、かるが手伝う〜」
「ごめんね〜カルちゃん」

比較的短い側のみんな。乾かし終わった者から手伝って乾かす

「わたしはMiki〜」
「ありがと〜メイコアネさん」

楽しいお手伝い。はしゃぎながら、髪型セット。舞台に上がるわけでないので、簡素に。テト姉も、本来のサラサラヘア。ドリルツインテールなんて言われるけど。いつも、あの髪型を作るのに、三十分近くかかる

「男の子、待たせてるかな〜」
「しょ〜がないよIAね〜さん。男の子の方が簡単で済むから」
「確かに。女性の方が身支度に、時間がかかりますわ」

心配そうなIA姉。朗らかにMikiちゃん。クールにルカ姉。髪を乾かし終えて、着替えを済ます。脱衣所から出て、部屋へ向かおう、と

「お、タイミング同じじゃない。やっぱ俺らも、ゆっくりしすぎ〜」

男湯から出てきた、彼らと鉢合わせる

「はは、普通、女の子のが、時間かかるはずだけどね。アルがサウナで、腹筋始めちゃったりしたのもあるけどさ」
「髪おろしたがく兄とピコが、入ったとたん『女〜』なんて言われてさ。湯船でも広がるし。がく兄の髪、なかなか乾かなくてさ〜」

事情説明、さっきから楽しげな弟。むむむ

「自分やアルサンは、そこまで時間、掛かんないんで。がくサンに加勢して。最後は、全員でドライヤー大会っす」

浴場の前、浴衣姿。髪をおろした彼と片割れ。ただ、綺麗なストレートの彼と違い、レンは癖が強い髪。それは、わたしにも言えるのだけど。彼の頭の上、しっかりアホ毛。カイ兄だけがいつもと変わらない髪型

「失礼ツカマツッタ。拙者、ガタイの良さも売りユエ」
「あはは、ダメよアル。体にも悪いから。ま〜たしかに神威君『美人』って言葉が似合うものねぇ、嫉妬しちゃう程。ピコ君も『美少女』じみてるし。ってか、うっと〜しくないの神威君。この髪〜」

艶やか、紫様の髪に指を絡めるめー姉『あら、ホントにさらさら』と声を上げる

「ぶっちゃけ、うっと〜しい。何でここまで伸ばしたか。けどもう、変えられないじゃない。この髪型。俺イコール、サムライポニーになっちゃった」
「でも、かむさんの髪。サラサラで憧れます。乾かしてて楽しかった〜。良い香りがします〜」

苦笑いの、めー姉、紫の彼。乙女顔のピコ君は、花飾りのヘアピンで前髪を留めている。アホ毛は元気。勇馬兄は、カチューシャで髪を上げ、アル兄は髪がねている。整髪剤を付けていないため

「わ〜、何か新鮮だね〜。違う髪型大会だ」

IA姉はストレート。ただ『犬耳ヘアー』と世間様に言われる、わんちゃんの耳のような癖毛はそのまま。完全なストレートヘア、ミク姉はポニーテール

「毛髪の量なら、ワタシもミクさんも同じようなモノですわ。神威さん。心中お察しします。ワタシも手伝っていただきましたもの」
「うちもだよ、ルカね〜さん。何気に、ロンゲ率高いよね〜、このメンバー。でもホント。意識するとし〜んせ〜ん。あ、神威のアニキも治んないんだね、アホ毛〜」

Mikiちゃん、彼のアホ毛を再確認

「Mikiピコと同じじゃな〜い」
「あ、ほんと〜ですね。ぼく、Mikiちゃん、かむさん。わ〜い、アホ毛同盟だ〜」

ルカ姉、カチューシャでおでこを出す。Mikiちゃん、低い位置でのツーテール。アホ毛は健在。なんだか二人とも、幼く見える。言われてみると、確かに新鮮。なんだか、色々な髪型に出来るのが羨ましくなる。アホ毛同盟のように、アホ毛もないし

「いいなぁ。わたしなんて、後ろハネのクセっ毛。ショートだし、髪型、自由にできるの羨まし〜」
「あ、わかるよ〜リンちゃん。わたしも同じ〜。いっつも同じ髪型だもんね〜」
「ほんと、めぐ姉。良かった〜わかってくれる人がいて」

悩みの種なのに、めぐ姉と同じが嬉しくて。変に気分が良くなる

「アタシは、リンもレンの癖毛も好きだけどね〜」
「自分も、グミサンの髪、い、良いと思うす」
「ありがとうね。あはっ、勇馬君のカチューシャかわいいね〜」

部屋へ向かいながらの会話。めー姉の褒め言葉とは、何となく違うトーンの勇馬兄。めぐ姉からのカワイイの言葉。風呂上がりの赤さとは違う赤さが、頬に浮かぶ

「でも、やっぱりいいな〜。ルカ姉とか、がっくんみたいなサラサラの髪〜。ミク姉もクセないし〜」
「結構、お手入れ大変なんだよ〜リンちゃん」
「本当ですわ。枝毛に気をつけて、トリートメントは欠かせません」

ミク姉、ルカ姉の言葉。それでも、自分にないものは欲しくなる。羨ましく思えるものは。トリートメント、お手入れ、大人の単語に聞こえてしまう『大人』に憧れ始めたあの頃。その『理由』には気付かずに

「大人っぽいサラサラのロングヘアー。憧れるな〜」

頬を膨らませて、下を向いた覚えがある。何故か、気落ちして

「これはこれで、苦労するじゃない、リン。ルカが言うようにな。シャンプー代もバカにならないし。よし、メイコ。これから二次会するじゃない」
「当然、神威君。アタシの部屋集合ね〜」

紫様の肩を叩くめー姉

「なら、その時だ。お前達、今みたいに色んな髪型で集合しようじゃな〜い。テルとリリも巻き込んで」
「さんせ〜い、神威のアニキ〜」
「もう、その流れですよね。Mikiちゃん。ぼくも賛成しま〜す、かむさんっ」

楽しい彼の提案に、アホ毛が跳ねる、ピコ君、Mikiちゃん。メンバーも活気づく

「オレはできる髪型、少ないけどね。でもノッタ〜」
「拙者モ同様でゴザル。が、参加させてイタダク」

カイ兄、アル兄、確かにあまり変化は出来ない。が、浮き浮きと参戦希望。そうして、それぞれの部屋に入って数分


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