二次創作小説(紙ほか)

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Re:Re:ポケットモンスター REALIZE
日時: 2024/03/05 19:54
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: xPOeXMj5)

はじめまして。これまで二次創作板(総合)にて同名の作品を書いておりましたガオケレナです。
この度、より書きやすい場を求めて移設することとなりました。移設作業が終わり次第こちらで続きを書く予定です。宜しくお願いします。

現在のあらすじ
一番の仲間を失った深部ディープ集団サイド最強と言われている青年ジェノサイドであったが、世界を一変しかねない騒動を収めて以降平穏な日々を送っていた。
そんなある時、これまで確認されることの無かった"メガシンカ"が発現したという噂を聞き、調査へと乗り出す。
それと同時に、深部ディープ集団サイドの世界では奇妙な都市伝説が流布していた。結社の人間を名乗る男の手紙を受け取った組織は例外なく消滅してしまうという、悪戯にしては程度の低い噂。
メガシンカを追っていたジェノサイドの元に、正にその手紙"解散令状"を受け取ってしまった組織の人間が現れて……。
結社。それは、深部ディープ集団サイドそのものを含めた裏社会全般を作り上げた、大いなる存在。それが今、ジェノサイドと相見える。

第一部『深部ディープ世界ワールド

第一章『写し鏡争奪篇』
>>1-7

第二章『シン世界篇』
>>8-24
 >>8-10 堕天狗といかずちの包囲網
 >>11-13 包囲網第二幕・妖精の王
 >>14-16 激闘 ライブハウス
 >>17-19 暴かれた真実、膨らむ疑惑
 >>20-24 霊峰の戦い

第三章『深部消滅篇』
>>25-
 >>25-28 メガシンカ発現
 >>29-31 解散令状
 >>32-34 メガシンカの恐怖
 >>35-40 平穏なる港町、横濱よこはま
 >>41-43 夢の国での悲劇
 >>44-47 同士諸君よ、戦いの時だ
 >>48-   叛乱
 >>    後片付け

第四章『世界終末戦争アルマゲドン篇』
 >>    不協和音

第二部『世界プロジェクト真相リアライズ

第一章『真夏の祭典篇』
>>

第二章『真偽ボーダー境界ライン篇』
>>

第三章『偉大グレート旅路ジャーニー篇』
>>

第四章『タイトル未定』
>>

第五章『タイトル未定(最終章)』
>>

〜あらすじ〜

 平成二十二年(二〇一〇年)九月。ポケットモンスターブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiはゲームにおいてもグローバルな交流を果たす便利なツールと化していった。
 時を同じくして、ゲームにしか存在しないはずのポケットモンスター、縮めてポケモンが現世において出現する"実体化"の現象を確認。ヒトは突如としてポケモンという名の得体の知れない生物との共生を強いられることとなる。

 それから四年後の二〇一四年。一人の青年"ジェノサイド"は悲観を募らせていた。

 世界は四年の間に様変わりしてしまった。ポケモンが世界に与えた影響は利便性だけではなく、その力を悪用して犯罪や秩序を乱す者を生み出してしまっていた。
 世はそのような悪なる集団で溢れ、半ば無法な混乱状態が形成される。そんな環境に降り立った一人の戦士は数多の争いと陰謀に巻き込まれ、時には生み出してゆく。

 これは、ポケモンにより翻弄された世界と、平和を望んだ人々により紡がれた一つの物語である。



【追記】

※※感想、コメントはお控えください。どうしてもコメントや意見等が言いたい、という場合は誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にて作成予定の解説・裏設定スレにて御願いいたします。※※

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE ( No.46 )
日時: 2024/02/18 14:45
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: DUUHNB8.)


 八王子はちおうじから南平みなみだいらは電車で移動すると三十分は掛かる。しかし、ジェノサイドたちにはポケモンがいる。速度の制限も障害物という問題が皆無な大空を自由自在に飛び回ることが出来るのだ。
そのお陰でおよそ十五分ほどで目的地に到着した。

 そこは、ジェノサイドの基地と同じような廃棄された工場の跡地だった。
今の基地と違う点は地下に何もない所と、三階建ての建物がポツリと置いてある点、そして敷地内のほぼ全てが何も無い平原であることだった。
その平原の上に、どういう訳か多くの人間が集まっている。

 敷地の裏を回り、裏口から建物に入った三人は三階の窓から外の状況をおそるおそる見つめる。窓のガラスは割れていた。

「り、リーダー……これは一体なんでしょ?」

 ケンゾウが引きつった笑みをジェノサイドに向ける。反してジェノサイドは終始落ち着いていた。

「俺が集めた。この三日間いろんな奴に声を掛けててな。目的はひとつ。五百城いおきの野郎をぶっ殺す。それだけだ」

 ジェノサイドは非常階段の扉を少し開ける。その瞬間に二人に向かって振り向いた。

「いいか、俺が合図するまでそこを動くなよ。別に警戒している訳じゃないが、今集まっているのは俺らと同じ深部ディープ集団サイドの人間だ。念には念を、ってな」

 ハヤテとケンゾウに向かって小さく微笑むとジェノサイドは扉の先の避難通路へと躍り出た。
それを見た、集められた人々が歓声にも似た声を発する。
ジェノサイドは目が悪いほうでは無い。
彼等が建物の真下にいるので三階という高さからでもある程度それぞれの顔は視認出来る。
しかし、そのほとんどが知らない顔だった。恐らく、ここに居る大半の人間は噂か何かを嗅ぎつけてやって来た連中なのだろう。そのようにジェノサイドは適当に推理した。

「よう、おはよう。みんな。まずは一言。来てくれてありがとう」

 ジェノサイドの声は大きい方では無い。多くの人間に対しマイクも無しに自分の声を伝えるのは至難の業だ。
だから、工夫した。ジェノサイドはその頭上に一匹のポケモンを放つ。
とりもどきポケモンのシンボラー。
カラフルな彩りをした、トーテムポールのような原始的な宗教で見られそうな姿をしたポケモンが空を漂う。
そのポケモンの力を使ってジェノサイドの声量を調節する。言わばスピーカーだ。

「信用もクソも無かっただろう。人によっては、突然俺がやって来て怪しい書面置いて来て、しかも内容が"結社の人間を共に殺そう"だからな。それで金を贈るって言われても普通は信じちゃくれないだろう。だが、お前たちは来てくれた。俺はそれに感動している。感謝するよ、みんな。本当にありがとう」

「そんなんはイイからよぉ。これから何をするかとか、いつ金を寄越すとかよぉ。そっちを話せよ。それ以外興味ねぇんだわ」

 突然不満げに叫んだ男が現れる。
ジェノサイドは声のする方を見た。何処かで見たような男だ。恐らく過去に戦った人間だろう。
どこか育ちの悪いアウトローぶった中学生のような声のリズムにジェノサイドは内心不快感を覚えたが顔には出さない。どれだけ"イヤな奴"でも今だけは味方でないといけない。

「それについては今から説明する。上を見てくれ」

 その声の主含め多くの人間が増幅された声を聴いて見上げた。その先にはシンボラーがいる。

「それは俺のポケモンだ。そいつのお陰で俺の声が皆にも届いている。ま、それだけじゃない。今からコイツがお前たち全員を数える。そして今から、視覚含めあらゆる感覚を俺と共有する。シンボラーがお前たち一人ひとりを視認したとき、俺もまたお前たちをカウントしてるって訳だ。それで人数を把握する。把握次第希望者には報酬を渡そう」

 宣言した途端、会場が湧いた。
参加者一人につき三十万円を贈るという大きすぎる魅力が彼等を呼んだのだ。むしろ一番の目的と成っている者もいるに違いなかった。

 シンボラーから情報が送られた。ジェノサイドの目には、その脳内にはシンボラーの見た景色が広がっている。
上空から見た、無数の人間たち。
その一人ひとりがカウントされる毎に自動的にマーキングされてゆく。例えるならサーモグラフィーの映像。それがジェノサイドの目と脳に流れている。
シンボラー自体は空中で何事も無いかのように静止していた。そう見えるだけで、実際にはサイコパワーを周囲に放っている。攻撃性は無いので悪影響は無い。

 映像が送られ、集まった人間を数えながらジェノサイドは今見えている世界が非常にシュールである事に気付いた。
集められた誰もが、律儀に自分の言ったことを守っている。信頼の欠片も無い、人によっては誰よりも憎い仇同然の人間が偉そうにしている場で、である。
ジェノサイドからすると受け入れているように見えて実は半信半疑だ。油断していれば自分がやられるかもしれない。集められた人達を信じきっていない自分がいた。だからこそ、自分の言うことに真面目に従っている彼等が不思議でならないのだ。
まるで、自分以外の別の何かの力が働いているがために利口に"させられている"かのように。

「計測が……終わった」

 ジェノサイドは目元を指で押さえながら言った。普段とは違う脳の使い方をしたようで若干疲れたようだ。ジェノサイドは真上に漂うシンボラーを見る。シンボラーも彼を見て目が合った。互いを繋げていた"情報"が切れた事を確認すると、シンボラーは悠々と空を舞いはじめた。

「今日此処に集まったのは百五十七人……か。まぁそんなもんかな。希望者には今報酬を払う。ただし」

 再び盛り上がる下の世界。だが、湧く前にジェノサイドは言葉を意図的に詰まらせる。

「これからの任務を全うし、生き残った者には更に三十万渡そう」

 恐らくだが、今この場で金だけ受け取ってトンズラする者もいるだろう。ジェノサイドとしてはそれは予想済みだが、それだと面白くない。はじめの三十万は報酬の全てではなく、"捨てるためのお金"だとすればまだ許せる気がしたのだ。

「今ここでお金だけ受け取って戦いに参加しなかったとしても、それでいい。逆に、今三十万受け取ってこの後の戦いにさほど参加せずとも戦地に居るだけみたいな、あまり活躍が無かったとしても、それでも構わない。そういう時でも追加の報酬は払う」

 周囲は再びザワついた。
現時点で、ジェノサイドが彼等に払う報酬の総額は四千万を超える。仮に全員がこの後の戦いに向かうとするならば倍の額となる。

「テメェに払えんのかよ、それだけの金」

 聞き馴染みのある声がした。その声の主を確認してジェノサイドは一瞬だけ薄く笑うと自信をもって返事した。

「当たり前だろ。俺を誰だと思ってる? 自分の組織に……どれだけの金を蓄えていると思っている? これまでどれだけ無数の戦いを繰り広げたと思っている。嘗めるな。そして心配するな。実を言うと既に報酬は支払い済みだ。確認出来る人間は口座を見てみると良い」

 どれほどのお金を持つジェノサイドでも、今この場で全員に配っていたらそれだけで日が暮れてしまう。ジェノサイドはあえて参加者たちに選択させるように考えさせ、しかし実際には手配を済ます。心理を突いた彼なりの作戦だった。
ちなみに支払いに関しては神々廻ししばの協力を仰いでいる。結社の人間ならば深部ディープ集団サイドのそういう情報など知り得ているに決まっている。

「さて、そういう訳だから次に、五百城討伐に向けた作戦を発表する。……と言っても、お前たちの好きなように動いてくれ。指定の場所さえ守っていれば基本自由行動とする。指定の場所は三つ。八王子、立川たちかわ、そして多摩たまの三箇所。それぞれの街に、結社の人間が集う議会場がある。そこを攻撃しろ。その何処かに、五百城は居る。居なくとも彼に関する情報は得られるはずだ」



 徐々に人の数が減ってゆく。誰もが悩んでいるようだった。
スマホの銀行のアプリで確認出来た人間なら良いとして、それが出来ない人間からすると本当に報酬が振り込まれたのか分からずにいる。
そんな中これから生きるか死ぬかの戦いを迫られると非常に悩ましいものがあるようだった。

元Aランク組織『フェアリーテイル』のリーダー、ルークはそんな者たちを軽蔑するかのような目で眺めてはジェノサイドが立っていた建物へとゆっくりとした足取りで近付く。
そこへ、聞き慣れた車の排気音が鳴り響く。

雨宮あめみやか……」

「お前も来たのか、って顔してんな。奴は言った。組織ひとつではなく、人一人に金払うってな。わざわざ俺らの寄場に来てまでな。だったらやるしかねぇだろ」

 ジェノサイドがルークに会いに公会堂に赴いた際、その場にいた一人。つまり、ルークの仲間である雨宮が自身の車を操りながらやって来た。

「いいのか? お気に入りなんだろ、その車」

「無理はしねぇよ。命の次に……いや、命よりも大事なこの車だ。せいぜい指定場所へ先回りして連絡するとか、お前のような誰かを乗せるとか、それだけの事しかしないと決めてる。俺は直接戦わねぇ」

「お前らしいな」

 ルークはニヤリと笑ってその車を眺める。
深い青色のスポーツカー。彼は車についてよく分からないので"スポーツカー"とよく一括りにするが、その度に雨宮が「FDだ。せめでRX-7と呼べ」といつも訂正を求めてくる。どうやらそういう車種のようだ。

「ジェノサイドの野郎はどこかな。少し奴に用がある」

「今この場で殺して何千万か盗るってか?」

「ちげぇよ。アイツはこの後どうするのか聞きたいだけだ」

「……乗れよ。あの建物まで行きたいんだろ」

 雨宮は助手席を指した。ルークは無言で頷いてそれに乗る。
青色のスポーツカーが建物の入口近くに着いた頃と同じタイミングでジェノサイドは仲間を二人連れて外へ出た。

「待てジェノサイド。お前何処へ行くつもりだ」

「ルーク、やっぱりお前は来てくれたんだな。……それから、彼も」

 ジェノサイドは喜びを顔に表しつつルークと雨宮を指した。指された二人は馴れ合う気がないので嫌そうにする。

「いいから答えろ。テメェは何処へ行く気だ」

「まずは基地へ戻る。そこで人員を整理して……俺は立川の議会場に行くつもりだ」

「基地だと? じゃあ此処は何なんだ。慣れた風に見えるから此処がお前の基地だと思ったんだが」

「此処は"元"基地だ。色々あって三年前に棄てた」

「八王子と立川と多摩とか言ったな? 場所さえ決めていればあとは自由って……お前本気で言ってんのか? いいのか? そこまで自由にやらせてよ」

「あぁ。構わない。これまで五百城が好き勝手やってきた報いだ。それを結社の連中に知らしめる」

「金については……」

「何度言わせる気だ。既に振り込んだって言ったろ。協力的な結社の人間に助けてもらった。その為振り込まれた相手の名前が俺じゃなくなってるかもしれんがな」

「嘘じゃねぇよな」

 ルークの目が鋭くなる。嘘だったら承知しない。今この場で殺してやる、とでも言っているかのようだった。

「嘘だと思うならこの場で確認してくれ。出来なかったらコンビニなりにでも言って口座見てこいよ」

 大金を失ったはずのジェノサイドであるのに、どこか余裕を含んでいそうなその言動にルークはイラついた。その証拠として舌打ちだけして雨宮の車に乗り込む。
二人を乗せた青のスポーツカーが走り去るのを見届けると、ジェノサイドは後ろに控えているハヤテとケンゾウを見てはにかんだ。

「よし、俺達も動くぞ。動ける奴とそうでない奴とで分けないとな。前の戦いを参考にすると百人から二百人は動かせるんじゃねぇかな?」

「そ、それは構わないのですがリーダー……。本当に大丈夫でしょうか? 彼等に全て任せてしまって……。全員が全員ではありませんが、敵として戦った者も居るのでしょう?」

「正直俺もそこについては少し不安だが、奴らの動きを見る限り俺以外の力が働いているのは明らかだろうな。多分神々廻あたりからも声が掛かってんだろ。そうだとしたら裏切りやバックレが思ったよりも少ないかもしれないしな」

 ジェノサイドのいい加減早く行くぞ、という声に二人は従う。
行きと同じく空を飛ぶポケモンに乗って三人はひとまず自分らの基地へと戻った。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE ( No.47 )
日時: 2024/03/05 19:45
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: xPOeXMj5)


 来た時と同様、真っ直ぐ基地へと戻ったジェノサイドはまず集められるだけの構成員を広間に集めると、深部ディープ集団サイドの世界で今起きている話を始めた。
その主な内容は、南平みなみだいらにある元基地で起きた事と、この数日間自分が何をしてきたかについて、だ。

「突然のことで戸惑っているかもしれない。だが、現に多くの深部ディープ集団サイドの人間が動いている。理由はそれぞれだが、一応のところは五百城いおき排除というひとつの目的のためにな。言い出しっぺもとい神々廻ししばからの依頼の実行人として俺らも動かなければならない。……という事で今すぐ動け。戦闘員と非戦闘員の二つにまず別れろ。非戦闘員は此処で待機、戦闘員は各々準備が出来次第外に出ろ。以上!」

 ジェノサイドは聴いている者全員にその声が届くよう語尾を強め、叫ぶ。それに反して広間は静まり返っている。
二十人から三十人は集まっているにも関わらず、皆が口をつぐんでいる。誰一人として動こうともしなかった。

「どうした? お前ら。組織のリーダーとしての命令だぞ」

 自分の命令に従おうとしない光景。
これを見てジェノサイドは若干不安になった。彼はこの景色を過去に見ているからだ。
それだけではない。仮に組織ジェノサイドの構成員百人ほどの人員が揃わないとなった場合、全体の戦力が大幅に落ちる。呼応して集まった深部ディープ集団サイドの人間百五十七人だけでは明らかに戦力が不足する。
仲間の裏切りも怖いが、それ以上に作戦の失敗が恐ろしかった。

「ひとつ……よろしいですか」

 人混みの中から自信の無さそうな気弱な声が響く。
構成員の一人リョウだった。地味ながらも洒落込んでいる構成員の多い組織の中でスポーツ刈りにした頭をした彼は特徴的だった。

「まず初めになんすけど……俺は何も知らされていなかったっす」

「悪ぃ。一連の流れについては誰にも話していなかった。昨日までやってた勧誘も、俺が一人で決めて俺が一人で行動してた」

「そういう大事なことは俺たちに言わなきゃ困ります」

「……すまねぇ」

 ジェノサイドの悪い癖であった。これと決めた事は極力一人で達成しようとする。その方が確実であるためだ。どこかでダメだと判断して初めて仲間に頼る。仲間にあまり迷惑を掛けたくないという優しさと、仲間が加わることで不安定化してしまう懸念、つまり仲間に対する小さな小さな不信感のようなものが心の奥底にて蠢いていた。
それは、四年もの年月を経て醸成された危機回避の能力でもあった。特定の誰かが悪いという訳ではない。
ジェノサイドはそれをある程度自覚しつつ謝ったのだ。

「あとで訳は話す。だが今はいつまでもこうしてのんびりしているわけにはいかないんだ。だから頼む。無茶かもしれないが……戦ってくれ。共に」

 ジェノサイドが話すと周囲が静まる。この空気が彼は苦手だった。自分以外の誰かが話す時は幾分か賑やかであるからだ。

「分かりました。……ひとつ確認いいですか?」

 リョウが了承を求めてきたのでジェノサイドは無言で頷く。

「今度の相手は誰ですか? 五百城と言うことは……敵は結社ですか?」

 返答に困る質問だった。少なくとも間違ってはいない。もしもジェノサイドが悲劇を迎えること無くこの場面に立ったとしたらきっと明言は避けただろう。
だが、今は違う。

「そうだ。敵は五百城いおきわたる。ソイツを抱えた結社そのもの。お前ら分かってんだろうな。これからの戦いは……今までのものとは一味もふた味も違う。ただの組織間抗争とは全く違うものになる。これまでの戦いであれば、しくじれば逃げてオッケーだった。だが、今回はそうもいかない。しくじったら、死ぬまで続くと思え。生半可な気持ちでは戦いに臨むことすら叶わない。だからこその命令だ。戦える奴は戦闘員として立て。戦えない奴は非戦闘員として残れ。戦えないからと言って咎めるつもりは無い。戦いたい奴だけついてこい」

 顔には出さないがジェノサイドの緊張はピークを迎える。これで全員が離れたらその時点で作戦は失敗だ。だが、今のジェノサイドではこのように言うことしか出来ない。

「相手は結社……。それってつまり……」

 後ろから小さな声が聴こえた。一般の構成員であれば誰のものか分からなかっただろう。だが、彼なら分かる。長い間共に戦った戦友にして親友。大柄な身体から連想されるイメージとは裏腹に、隙を見せてしまえばすぐにひっついてこようとしたり、何かと頼ってくるどこか可愛らしさも持つまるで弟のような存在。ケンゾウ。ジェノサイドはその発言に同調し、反射的に「反逆だ」と言いそうになった。
しかし。

「これまで搾取して来た……結社の"支配からの脱却"ってヤツだよなぁ!!」

 ケンゾウはそれを許さない。彼は突如叫んだ。
彼は続けざまにこう言う。

「自由のための戦いってヤツだよなぁ!?」

 まず、ケンゾウが叫ぶこと自体珍しい光景だった。構成員の仲にはひどく恐ろしく感じた者も居たかもしれない。
だが、ジェノサイドという組織はそんな軟弱な人間だけが集められたものではない。
それに呼応し、ジェノサイド以外の全ての人間が理解を示した。この瞬間、組織ジェノサイドの面々の想いはひとつとなったのだ。

 次にジェノサイドは食堂へと寄った。
広間の次に人が集まりやすい場所でもあるためだ。
時間の都合もあってか普段ジェノサイドが利用している時と比較すると人は集まっている。
そこでジェノサイドについて来ていたハヤテとケンゾウが現況の説明を始め、そこに居る者たちに行動を促した。
その話を聞いて普段通り食堂で仕事をしていた秋原あきはら友梨奈ゆりなが飛んでくる。

「レン君……戦うの……?」

「悪いな、秋原。今日まで隠してた。だけど決まった事だ。少し出掛けてくる」

「ね、ねぇ! 大丈夫なの……? 今日は少し様子が違う気がする。本当に……本当に大丈夫だよね?」

 高校の時から一緒だった彼女はジェノサイドに対し特別な想いを抱いているようで、その表情からは恐怖が滲み出ていた。目もうっすらと潤んでいる。

「大丈夫だ。……いや、本当は少しマズいかもしれない。だけど今度ばかりは戦わないとダメだ。仲間だって死んでいるし、それに……」

 意図的に目を逸らし続けていたジェノサイドは秋原の顔をチラッと見た。今会話をしている相手が本当に彼女なのか、その確認がしたかった。

「お前が過去に巻き込まれたアレ。あれが少なくとも関わっている。それを終わらせてくる。長く続いた血の因縁を……ここで断つ。そのための戦いだ」

 食堂にはミナミも居た。偶然だったかもしれないが、ジェノサイドにとっては絶好のタイミングに思えた。ジェノサイドはほとんど食が進んでいないミナミを呼ぶ。

「頼みがある。お前は今回はここで残れ。色々と思うものがあるかもしれないが、お前だからこそコイツのような非戦闘員を守ってやってほしい。頼んだぞ」

 ジェノサイドは小さく笑いながら今にも泣きそうな秋原を指した。一方的な命令だったのでミナミとしても思うところはあったようだが、今彼女の気持ちは沈んでいる。一つひとつの感情の発現が遅い。ジェノサイドは彼女からの反応が来る前にその場を去った。

 地上に出ると既に準備を終えた構成員たちで溢れていた。
移動できるポケモンを配置し、今にも指令を待つ者が居れば、車庫から車やバイク、果ては自転車を持ってきて待機している者も居る。
そう言えば、とジェノサイドは自分が戦いの概要を説明しただけで目標地点が何処かまでを言っていなかった事を思い出した。

「みんな、準備はいいか。今俺らが集めた深部ディープ集団サイドの連中は三つの拠点に絞って行動している。八王子、多摩、立川の三つの街だ。それらに、結社に所属している議員たちが集まり、普段仕事をしている議会場がある。俺らはこれから立川の議会場に向かう。いいか、立川だ。場所がよく分からないって奴はひとまず立川駅を目指せ。以上だ。行動、開始!」

 ジェノサイドの合図と共に仲間たちが一斉に動き始めた。空を飛ぶポケモンの羽ばたく音でその場が埋め尽くされる。意識せずとも彼らの動きが一致する。その正確さはまるで軍隊のようでもあった。
先に移動した仲間たちを見送ったジェノサイドは気を取り直しては振り向く。そこにはハヤテとケンゾウが居る。

「さてと。俺たちも動くぞ。今回は自然を装う。俺たちで今から車庫に停めてある車に乗るぞ。運転は俺がする」

 ハヤテとケンゾウは互いに顔を見合わせた。これまでにジェノサイドが運転していたところなど見たことが無かったため違和感が強いのだ。
車庫には共用の自動車が何台か停められているが、今はかなり空いていた。端に置かれていた軽自動車にジェノサイドは目をつける。

「ま、待ってくださいリーダー! 本当にリーダーが運転されるのですか?」

「なんだ、ハヤテ。俺のウデが信用ならねぇってか?」

 ジェノサイドはうすら笑いを浮かべつつ車の鍵を差し込んでエンジンをかけた。スマートキーでないところを見ると少し古い型の車のようだ。

「い、いえ! そうではなくて! ただ……リーダーが運転されているところを見た事が無かったので……。あの、免許などはお持ちでしょうか……?」

 そうは言いつつもハヤテも車の助手席に座る。後ろの広いスペースはケンゾウが独占した。車自体街でよく見かける軽のワゴンだ。

「それなら安心しろ。俺はこう見えて講義の合間や、サークルの無い日の放課後なんかの時間を使って教習所に通っている」

「それなら安心……ん? 通って"いる"……?」

「そろそろ期限迎えそうでヤバいからまた行かなきゃなんだよなー。あ、でも仮免許までは取ったから安心してくれ」

「か、仮免って……それ無免許運転じゃないですかー!」

 車から降りようかと付けたばかりのシートベルトを外そうかと悩みあたふたしだしたハヤテだったが、それとは無関係にアクセルを思い切り踏むジェノサイド。

 彼の世の中に対する反逆が今、始まった。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE ( No.48 )
日時: 2024/03/29 09:55
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: ylDPAVSi)


 八王子から立川の移動はそこまで時間を費やすものでは無い。
正午を過ぎた頃なので道路は混んではいるものの、一時間もあれば到着は可能だ。

 一方、ジェノサイドらは二時間掛けて無事立川にある議会場へと辿り着くことが出来た。

「さ、さーってと……。着いたぞーお前ら」

 ジェノサイドはハザードを点滅させて車を車道の左端に寄せて停める。
議会場の敷地の傍にまでやって来た。乗り込む前の確認と作戦会議だ。

「二人とも見えるか? あの白い建物が結社の連中の集まる議会場だ」

 ジェノサイドはそう言いながら助手席の窓越しに建物を指した。
その先には白く塗られた現代的な建物がある。
無駄を一切排除した、質素な建造物だった。有り余る財を抱えた集団の建物とは思えないほどだ。まるで、省けるものは全て省いて出来るだけ安く造りましたとでも言いたげな建物だ。

「これから俺たちは、この車で敷地に入る。もう既に中では他の仲間たちも乗り込んで戦い始めている頃だろう。出遅れた形となったが、立場上何もしないわけにもいかねぇし決めるところは決めるぞ。何か連絡事項はあるか?」

 言いたい事を一気に早口で済ませたジェノサイドは助手席に座ったハヤテと、後部座席にゆったりと座っているケンゾウの顔を交互に見た。

「と、とりあえずは……」

 ハヤテが小さい声で呟く。

「とりあえずは、もう……私はリーダーの運転する車には乗りたくないですね……」

「……」

 ジェノサイドは黙りつつも苦笑いを浮かべる。

「出遅れた、と仰いましたがそれが何故か……リーダー、お分かりですよね?」

「そ、それはあれだ……道路が混んでたから……」

「運転がヘタクソすぎるからですっ!!」

 珍しくハヤテは叫んだ。ここまでの心の叫びを聞いたのも久々である。

「なんなんですか!? 速度は常に三十キロですし、出して四十。しかも何度も右左折でつっかえますしお陰で寄り道回り道ばかりの全くスムーズでない移動でしたよ!」

「そ、それは悪かったけどさぁ……この辺の街走りにくいんだよ……。二車線が暫く続くと思ったら突然左折専用レーン現れるしさぁ。普通直進と一緒にするだろ?」

「街のせいにしないでくださいっ!」

 救いを求めてジェノサイドはチラリとケンゾウの顔を伺うも、彼は彼で無言で俯いた。口には出さないが概ねハヤテと同じ気持ちなのだろう。

「本当にリーダーはこれまでの幸運に感謝してくださいね、これで警察に止められていたら詰んでたんですから! 怪しまれなかっただけでも運が良いんですからねっ!」

「どんだけ俺の運転貶したいんだよお前……」

 話すべきことは終えたので移動を再開した。ハザードを消し、再び車を移動させては議会場の駐車場へと侵入する。
だが、律儀に此処に停めるつもりはジェノサイドには無かった。
彼はそのまま駐車場に停められている車たちをスルーすると、建物へと通じる歩行者専用の歩道を、つまりは車が通ることを想定していない狭い道へと乗り上げるように走らせた。

「り、リーダー……? 何をなさるおつもりで……?」

 ジェノサイドは今後の詳しい動きについては一切教えていない。不規則に揺れる車の中で無駄に長く感じる時間を過ごしたその果てに、遂に標的が見えてきた。

 それは、広い通りだった。
この敷地内に恐らく正門とでも呼ぶような本来の入口があるのだろう、そこから建物入口へと続く一直線に伸びた通りが現れた。
車は向きを変え、建物を前方に見据えて睨む。

「お前ら、最後に確認だ。このまま行っていいよな?」

「それはそのままリーダーにお尋ねします。いいのですね?」

 ジェノサイドは気持ちを落ち着けるためなのか、車のギアをニュートラルに変え、サイドブレーキを引いた。時折アクセルを踏み、空ぶかしをする。辺りに誰も居ない広い空間に、ひたすら軽自動車特有の浅い排気音が響く。

「……何故俺に聞く?」

 ジェノサイドはハヤテに対し疑問に疑問をぶつけた。

「リーダーは……。これまで一貫した戦いを続けられていました。それは、"誰も殺さない"という戦いです。そして、それは今回もなさるおつもりでしょう。……それは可能ですか?」

 ジェノサイドはハヤテの言いたい事が分かったようだった。いたずらにアクセルを踏む足を止め、車の天井を見つめるように顔を上げ、しばし考える素振りを見せた。

 ジェノサイドはこれまで、どれほどの悪人に対しても決して"命を奪わない"戦いを臨んできた。そして、それは今後も変わらないだろう。
だが、今回となればそれは途端に難易度が跳ね上がる。今回共に戦う人間は、外部から連れてきた者も含まれる。これまでのように、ジェノサイドが束ねる仲間たちだけでの戦いではない。
それはつまり、統制が効かない事をも意味していた。
ジェノサイド自身それを見越して、場所さえ守れば自由に動いて良いとほんの数時間前に宣言している。
この戦いにおいては、ジェノサイド以上に結社に恨みや怒りを抱いている者も居ることだろう、そんな人間に「結社を叩く」と言えばタガが外れることなど容易に想像出来る。

 それはつまり、ジェノサイドの目の前で凄惨な光景が展開される、という事だ。

「別に構わんさ。流石の俺も、部外者に命令出来る力は無い。きっと今も、そしてこれからも……結社に所属しているからという理由だけで理不尽に死ぬ人間も出てくるだろう」

 だが、と言ってジェノサイドは呼吸を置いた。

「俺はそういう奴らを止めない。五百城いおきが現れなかったら起きなかった悲劇だ。それを結社に知らしめる。俺も今回部外者たちを集めた長として、そこんところのケジメは付けなきゃならねぇ。だから俺は止めないし否定もしない。肯定もしないがな」

 ジェノサイドは再びアクセルを踏み始めた。轟く排気音は、まるでジェノサイドの決意の表れであるかのようだった。

「だから俺も今回は普段とは少し違うやり方でいく。いいか、お前ら。タイミングを見計らってこの車から脱出しろよ。今の内にドアのロック解除しとけ」

「……は?」

 一瞬何を言っているのか理解出来なかったハヤテであったが、ジェノサイドが今正にギアを操作しようとする手を見て全てを理解した。

「リーダー……まさか、この車ごと建物に突っ込むつもりで……?」

「いいか、抜けるのはケンゾウが先な。お前は身体がデカいしそれでトチったらアウトだからな、余裕を見て車から抜けろよ。何なら今降りてもいい」

「は、はぁ!? リーダー、流石にそれは無茶ッスよ……」

 ケンゾウが言いかけたところでジェノサイドはギアを変え、更にサイドブレーキを解除しアクセルを思い切り踏んだ。
あまりにも強く踏みすぎたせいでタイヤが軽くホイルスピンしつつ、そこまで瞬間的に速度が出るものなのかと錯覚する程のスピードで駆け出す。
目の前のガラス張りの壁が迫る。
ジェノサイドがケンゾウに対し早く出るよう急かすと、何かを叫びつつ後方の巨体は転がるようにして地上へと出ていった。当然後部座席の左ドアは開きっぱなしだ。

「次はお前だ、ハヤテ」

「そもそもこんな事する必要ないでしょーがあぁぁぁーー!」

 ハヤテも同様に叫びながら外へと飛び出した。あまりにも車がスピードを出しているせいか、街中で見掛ける救急車の如くドップラー効果を起こしてフェードアウトするかのような彼の声だった。
二人が出て行ったのを確認したジェノサイドは、車が壁と衝突するその瞬間、インパクトが起きるギリギリ手前でドアを思い切り開け、飛び出した。

 綺麗に均されたアスファルトの上で何度も身体を回転させられ、やっとこさ起きたところで見たものは、軽い地響きでも起きたかのような轟音を轟かせて激突した自動車の姿だった。
間髪を容れずにジェノサイドはすぐに次の行動へと移る。右手で強くボールを握りつつ、施設に向け全速力で走った。

「五百城……姿を、見せろぉ!」

 突然制御を失った車が突っ込んで来たと思ったら、今度は一人の男がモンスターボールを投げつつ叫ぶ。

 そこは、異様な景色だった。

 既に場所を特定し、乗り込んだ連中が施設内に居た人間に対し無差別に攻撃を仕掛けている。
当然結社の連中は五百城いおきわたるなどのような例外を除くと、その道に通じてはいない。ポケモンを使えない人間が多いのだ。
そのような人間は兵器と化したポケモンに対し為す術がない。一方的に蹂躙されていた。

 戦闘が行われているロビーをジェノサイドは周囲を警戒しつつゆっくり歩く。
今この場に五百城というメインターゲットがいてもおかしくはない。

「五百城はどこだ!」

 ジェノサイドは再び叫ぶ。しかし、それに通じる答えが返ってこない。
ジェノサイドは近くで転がっているスーツ姿の中年男性を見掛け、その肩に手を乗せる。
その男は全身を震わせ、身体を起こされた反動で目を合わされた。ひどく怯えており、一瞬だけ合った目はそれ以降逸らされ、焦点が合わなくなる。

「おいお前、答えろ。五百城渡はどこだ」

 ジェノサイドの問いに、その男は答えない。よく見ると唇を小刻みに震わせている。

「聞こえなかったか? お前……」

 言いかけたところでジェノサイドはその男がもう片方の肩を怪我している事に気が付いた。怪我自体は大したことは無い。恐らく鋭い爪を持ったポケモンに軽く引っ掻かれたのだろう。スーツの生地が裂かれ、わずかに血が滲んでいる。

「なんでこんな事になってしまったか、ってか?」

 ジェノサイドは作り笑いを浮かべる。

「お前は何も関係無いさ。こんな目に遭うのも、そういう怪我をするのも理不尽以外の何物でもない。お前は運だけが悪かった。今日この日までに結社に所属しており、今日この場に居てしまった。それだけさ」

「あ、か……金……」

「金? 金ならいらねぇよ。お前の生命もいらねぇ。俺は他の連中と違って優しいからよ、俺だけはお前を助けてやるよ。その為に答えてもらおうか、五百城は何処だ」

 男は震えつつ首を何度も横に振った。死を覚悟しているかのような必死なまでの目を見る限り嘘はついていないようにも見える。
そもそも、この男は何者なのだろうとこの時ジェノサイドは思った。結社に所属する議員かもしれないし、そうでなくただこの議会場で働く雑務担当の人間なのかもしれない。
それらも含めてまずは対話すべきだったかと若干後悔したジェノサイドはその反応を見て小さく唸る。

「そういう反応は求めてねぇんだわ。せめてさぁ……お前も何か喋れよ。じゃねぇとこのまま捨ておくぞ。ほら、見ろ。あそこでポケモン使って暴れてる奴居るだろ」

 ジェノサイドは周囲を見回した末に、クリムガンを使ってひたすらに物を破壊して回っている男を見つけ、指した。

「あいつにお前を差し出したらどうなるだろうな、まぁ死ぬだろ。あいつの結社への恨みは相当だからな……」

 その男自体はジェノサイドも知っている人物だったが、彼がどう思っているかまでは知らない。それらしい嘘を平然とついてみせる。
ちなみにその男とは、以前大学の構内で戦いを繰り広げたハバリと名乗った男だった。あの時はダーテングを使ってはいたが、今はどうやらそのポケモンは控えているようだ。

「し、知らない……」

 男は振り絞るようにしてか細い声を出した。

「知らない……私は……い、五百城さんが何処で何をしているかは……」

「じゃあ此処には?」

 男は再び首を横に振った。
此処にはいない。そう言っているようだ。

「あっそ」

 そう言うとジェノサイドはそれまで掴んでいた肩を突き飛ばすように放しては男を放置し、その場を去った。
その対応について、何やら喚いているようだが周囲の破壊音に紛れてなんと言っているのかよく聞こえない。
今度はジェノサイドは適当に暴れているだけの背の低い男を捕まえる。
ポケモンを使役しているところを見るに、"こちら側"の人間のようだ。

「おい、お前。今どんな状況だ」

「あァ? テメェ邪魔すんじゃ……。あっ、お前、ジェノサイド……か?」

 こちらに振り向くなり態度が急変した。
ジェノサイドはその男を知らなくとも、向こうは自分を知っているようだった。

「悪いな。遅れた。だからイマイチ状況が分からねぇ。今どうなってる?」

「い、今は、さぁ……。目当ての人間も居ないらしくて、とりあえず……暴れてる感じ……かな」

 深部ディープ集団サイド最強とも評される人物を前にして、その男は緊張しているようだった。声がたどたどしい。
ジェノサイドは先程転がした、スーツ姿の中年男性のいる方向とを交互に見てはため息を吐いた。

「やはり、此処には五百城は居ねぇみたいだな」

「へ? へぇ……そ、そうか……」

 ジェノサイドは悩んだ。此処に五百城が居ないとなるとこの場に留まる意味が無い。無駄に破壊行動を繰り返すなど、それまで自分たちが始末してきた暗部ダークサイドの連中と何ら変わりは無い。今すぐに不必要な行動を止めさせ、次の行動に移るべきである。

「よし、一旦退却だ。外に出ろ。これを此処にいる仲間たちに知らせるんだ。いいか、これはジェノサイドの命令だぞ」

「う、うっす」

 背の低い男は走り始めると、近くに居る深部ディープ集団サイドの人間たちに声をかけては回り始めた。声を掛けられた人間は少し離れた所に佇んでいるジェノサイドを見ては攻撃を止め、外へと抜けてゆく。

 念の為ジェノサイドは他の部屋を見て回ることにした。
他の階に登ると、伝令が伝わっていなかったからか小競り合いをしている連中を何度か見かけた。その度にジェノサイドは声をかけ、戦いをやめさせる。一人では限界があるのでそこはハヤテとケンゾウに任せる。
二人は先程の雑な対応についてブツブツと文句を言っていたが、新たな命令を下すと愚痴は消え、その命令を忠実にこなす。
その途中、資料室とある部屋にも足を向けてみたが、元々こちらで働いているであろう女性が身体を丸くして震えながら隠れている以外に特に目につくものは無かった。綺麗に並べられているファイルを幾つか手に取ってみたが、五百城に関する情報も皆無である。

「やはり……五百城に関わるものは何も無い……な」

 ジェノサイドがそう結論づけた頃になると戦いの音は止み、静かになっていた。
資料室を出て、廊下の割れた窓越しに外を見てみると、この戦いに参加しているであろう多くの深部ディープ集団サイドの人間が集結している。物音もしないあたりあれで全員のようだった。

「よう、お前ら。ご苦労だった」

 ジェノサイドは外に出ては彼らに労いの言葉をかける。真昼の陽射しは眩しいが暖かい。

「だが、残念な事に五百城は見つからなかったし、それに類する資料も無かった。俺たちは全く関係ない施設を襲ってしまったわけだな。……まぁいい」

 ジェノサイドは悩んだ末にスマホを取り出した。
ある人物へ連絡をしようと指を動かしたまさにその時、敷地内へ青いスポーツカーが侵入してはこちらに向かってくるのが見えた。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE ( No.49 )
日時: 2024/04/17 10:10
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: G.M/JC7u)


 ジェノサイドは迫り来るその青いスポーツカーに乗っている人間が誰なのかを知っている。かつて神東じんとう大学内で戦い、しかし今となってはジェノサイド自ら仲間に引き入れんとわざわざ会いにも行った、深部ディープ集団サイドの一人、ルークと仲間の一人の雨宮だ。
車の持ち主はルークではなくもう片方のものらしい。
二人が今こちらにやって来たという事は、元々別の議会場に居た可能性が高い。
ジェノサイドは怪訝の表情を浮かべながらスマホの電話帳を開いた。

「おいおい……なんだぁ? この列は。こんなに綺麗に並んじゃってまぁ、流石クソ真面目なジェノサイド様の指揮下だこと」

 ルークはジェノサイドの前に整列させられた面々を眺めては半分わざとらしく言ってみせた。

「ルークか、何の用だ。と言うよりお前何処に居たんだ?」

「テメーが最初に八王子と多摩と立川の三箇所に行けって言ったんだろーが。一番近かった八王子に行ってたが何か? 五百城いおきの野郎に関して何も情報が無かったもんでな、そう言えばとオマエが自分で立川行くって言ってたのを思い出してこうして様子を見に来たまでだ。こっちも大人しいな? どうした? もう終わった後か? だったら八王子むこうと一緒だな。多分向こうの連中全員くたばってんじゃねーの。全滅だな。その中に五百城が居なかったのが残念だが」

 よく喋る男だ、とジェノサイドは思った。しかし、その内容に反してジェノサイドの意識はそちらには向かない。
中々出なかった電話の相手が数コールして出てくれたからだ。

「もしもし、神々廻ししばか? 今話せるか?」

 その相手とは神々廻ししばまこと。五百城と同じく結社の人間だ。
ジェノサイドが彼から"依頼を受けて"五百城討伐に参加したという経緯があるため、連絡先は初めて会った時にお互い交換している。
電話の先で神々廻は小さく唸ったようだった。まるで、呼び捨てはやめてせめて先生と呼べと言いたげに。

『もしもし、ジェノサイド君だね? 私は無事だよ。ところで今不可解な情報が入ってね……。君たち、議会場に乱入して暴れているのかな?』

「なんだよ、分かってんじゃねーか」

『あまり暴れられるのもどうかと思うが……』

「訳ならあとで話す。それよりも教えて欲しい事がある。五百城の居場所だ」

 ジェノサイドは言いながら綺麗に整列している仲間たちと、ルークとを交互に見た。待たされているせいでイライラしているらしい人をチラホラと確認した。
電話の先の神々廻は暫く考える。

『……と、言うことは君たちが攻撃した三箇所の議会場からは何も得られるものが無かった、という事かな?』

「まぁ、そうなるが……でも待ってくれよ。今の俺たちは急いでるんだ。あまり時間が……」

『いや、いいんだ。私からしてもある意味好都合……かな? ともかく、五百城先生の居場所だね。大丈夫、彼なら逃げはしないさ。何故なら……』

 露骨に話を引っ張りつつ、神々廻は風を浴びながらゆっくりと振り返る。その先には立派な建物があった。

『五百城先生は明日に控えたイベントの為に武道館に居るからね』

「なにっ、武道館? 武道館だと!? 武道館ってあの"武道館"だよな?」

 ジェノサイドはあえて周りに聴こえるように大声で叫ぶ。出撃を今か今かと待ち構えている仲間たちに知らせるためだ。それと同時にジェノサイドは指でジェスチャーした。行け、と。
それを見た仲間たちは各々の方法で移動を始め、綺麗に並べられていた列は歪な形となる。ほとんどの人間がポケモンを使って空を飛んだ。

 ジェノサイドはそれを確認すると途中で止まっていた通話に戻る。

「なんでそんな所に……」

『実はね、五百城先生の中央議会上院議員の内定式典を武道館で開催することになっていてね、それを明日行うんだ。その準備とリハーサル、そして様子を見るために先生は来ているよ。当然私も今そこに居る』

「なんだよそれ……深部ディープ集団サイドってのは表に出ちゃマズイ組織のはずなのにそんな事していていいのかよ……表向きにはどうなってんだ」

『表向きには私たちの所属する独立行政法人の多大なる活動を表彰するための式典……になっているね。君たち深部ディープ集団サイドも、私たち中央議会も、表向きには独立行政法人という事になっているからね』

 吐き気がした。何が表彰式だ。いたずらに部下である自分たちを好き勝手に処分しておきながら何を表彰すると言うのだろうか。ジェノサイドはレイジを殺された恨みと怒りとが込み上がってくるのを感じた。

「じゃあ……アンタがそこに居るという事は……」

『そういう事さ。見届けさせてもらうよ』

 その言葉を最後に通話は途切れた。

 ジェノサイドはしばし俯きながら、長い溜息を吐く。
それを見ていたハヤテとケンゾウ、そしてルークが近寄って来た。

「リーダー……どうかされましたか? 大丈夫ですか?」

「リーダー、何か言われたッスか?」

 ハヤテとケンゾウ、二人に声を掛けられてジェノサイドは徐々に意識から離れかけていた"自己"というものを取り戻す。あのままだと恐らく修羅の化身となっていただろう。それだけに二人の存在は温かく、そして愛しいものであった。ジェノサイドは二人に対し微笑む。

「大丈夫だ、変な事は特に言われてねぇ。それよりも俺達も行動を改めるぞ。次の行先は日本武道館だ」

「武道館だァ? バカかテメェは。本気で言ってんのか。何でそんな所に五百城がいんだよ、ライブでもやるってか?」

 ルークが悪態をつく。当然ながらその理由は電話越しでのやり取りだったために現段階ではジェノサイドしか知らない。

「神々廻がそう言ってたんだ。間違いは無いだろう……多分。本人もそっちに居るみたいだし、とりあえず行ってみるしかねぇだろ。なんでも、明日五百城はそこで表彰されるらしい。その確認のためなんだとさ」

「意味わかんねー」

 そう言いつつルークは青いスポーツカーが停められている方向に向けて手招きをした。すぐにその車はやって来る。

「待て、ルーク。車で行く気か?」

「それ以外に何があんだよ。コイツの運転は一流だ、嘗めんじゃねぇ」

「そうじゃない。武道館だぞ? 千代田区の九段下くだんしただ。いくら運転が上手くても道路が混んでたらかえって遅くなるだろ……」

「そん時ゃそん時だ」

 そう言い放つとルークは車の助手席に乗り込むとうるさい排気音を響かせて去って行った。空を飛ぶポケモンほどではないにせよ、その動きも一瞬だった。

「俺達も行こう」

 気が付けば周囲に残った人間のほとんどが消えていた。それぞれ行動を始めたことで人が少なくなっている。未だに残っているのは戦意を喪失して呆然と突っ立っている者か、仲間に連絡しているかのどちらかであった。後者はまだいいが前者はどうしようもない。ジェノサイドは彼等を無視する。

「電車で行くと何かと面倒だ。かと言って車はもう使えない。あまりオススメはしたくないがここはポケモンで移動しよう」

「私もリーダーの運転する車には乗りたくないですからね。それが妥当です」

 ハヤテがまたもナチュラルにジェノサイドの心を抉る。ジェノサイドは傷付く以前に未だに根に持っているのかと思うと少しだけ吹き出してしまった。

「当たり前です! 来るまでに何度ヒヤヒヤしたことか……その果てがあのオチだといくら私でも我慢出来ませんよ」

 ジェノサイドはそんなハヤテに対し軽く謝ってはボールからオンバーンを繰り出す。ハヤテも同様にひこうタイプのポケモンを繰り出すも、ケンゾウだけは中々ポケモンを使おうとしない。

「おい、ケンゾウお前どうした。早く行くぞ」

「い、行きたいのは山々なんすけど……俺、空飛べるポケモン持ってなくて……」

「あっ、通りでお前この前の大山おおやまでの戦いの時全く参加してなかったワケだ! あの時ドタキャンしたのかと思ったくらいだぞー。忘れてねぇからな俺は」

 と言ってジェノサイドはケンゾウを軽く睨みながらもリザードンの入ったボールを放り投げると、中から出てきたポケモンの背に乗るよう命令する。

「すいません、リーダーの相棒の一匹なのに……」

「別にいいよ、お前だしな。だがこれを機にお前もひこうタイプのポケモンちゃんと育てておけな」

「はいッス!」

「よし、行くぞ」

 リーダーのその言葉を合図にジェノサイドは翔ぶ。二人の盟友はジェノサイドの一歩遅れたタイミングで、無尽蔵に広がる空へと羽ばたいた。



 日本武道館。
東京都千代田区に建てられた、その厳かな建物には見るものを圧倒させる魅力があった。
クリーニングから出たばかりのような、綺麗なスーツを着用したその男も"それ"の虜になった一人だ。

 神々廻実。
深部ディープ集団サイドを掌握し、運営活動を行っている"結社"こと中央議会。その下院に所属している一人のこの議員は、複数の意味を含めた微笑をたたえながら風を浴びつつ景色を眺めていた。

「明日は五百城先生の式典が催されると言うのに……皮肉なものだね。これもまた、運命と呼ばれるものなのかな」

 議会の一員でありながら、また別の議員を排除せんとジェノサイドらを煽った張本人は一人呟く。何物にも染まらない、綺麗な空に突如として浮かび上がった、誰も知らない流星を見つけ、しかしその正体に気付いた事で彼等に向けて言っているようだった。
その流星はゆっくりと敷地内である北の丸公園へと落下する。

 流星の正体はレックウザに変身したメタモンだった。それに乗っていた二人の人間が地上に降り立つ。

「もう来たのか、早いねえ」

 神々廻が彼等に向け微笑む。その間に更に二人、三人と次々に降りる人影があった。
五百城を討つために立ち上がった深部ディープ集団サイドの中の、組織の枠を越えた集団。その先行部隊のようだ。
神々廻は彼らを眺めながら、彼等に名前を付けるならば"深部連合"だな、などと考える。
メタモンを連れた一人の男がこちらにやって来た。

「よぉ、誰かと思ったら」

「君は……確か私がスカウトした……」

 神々廻が自ら声をかけたのはジェノサイドだけではない。彼も彼で何人かの深部ディープ集団サイドの人間に対し声掛けをしていたのだ。

「ジェノサイドから連絡があってな、五百城が此処に居ると聞いて」

「うむ、その通りだよ。五百城先生ならあちらの建物の中だ。それにしても……レックウザに"へんしん"とは考えたね。でも、大空を飛ぶと身体に負担が掛からないかい?」

「その為に隣にランクルスを配置したのさ。エスパータイプのポケモンで身体にかかるエネルギーを変換したんだ」

「……考えたねぇ」

 神々廻は低く笑った。これまで知らなかっただけで、現場担当となる深部ディープ集団サイドの中には冴えている者がいる。そんな彼等を重宝しない訳にはいかない。

「考えたのはそっちもだろ」

 前髪で目元を隠している、メタモンのトレーナーが神々廻を指す。

「ソッチが俺らに報酬を提示してくれた。そしたら今度はジェノサイドの野郎も同様に金をチラつかせて誘って来やがった。二人から金貰えるんだ。参加しない方がおかしいだろ」

「それもそうだね」

 神々廻は失礼にも格下の人間に指を差されたにも関わらず全く気にしない素振りをしつつ辺りを見回した。

「ジェノサイド君はまだのようだね」

「これからじゃね?」

 メタモンのトレーナーは自分が引き連れた仲間の顔を見る。レックウザに乗ったのは自分も含めて二人だけだが、彼について来た連中は全員で十五人ほどだ。今はその全員が到着している。その中にジェノサイドは居ない。

「車で来んじゃねぇの」

「それかポケモンだろ」

「どうする? ジェノサイド来るまで待つか? それとも先に殺っちゃう?」

 ひとまず目的地に着いた事でリラックスした仲間たちはそのように雑談を始めている。
戦いと言うよりまるでピクニックのようだった。
晴れの陽気も相まって誰もが気を抜いていたのだろう。彼方の殺気に気が付く事は出来なかった。

 突如として遠くから光弾が放たれ、近くで着弾、爆発する。

 メタモンの男は見捨てるように神々廻から離れる。彼からすると神々廻は"金をくれるだけの存在"である。別の見方をすれば五百城の仲間でもある。約束さえ果たしてくれれば尊重する程の価値でもない人間だ。
だが、同時にその光弾は神々廻を狙ったものではない事も知る事が出来た。神々廻ではなく、自分が連れた仲間に撃たれたものであったからだ。

「おい、大丈夫か!」

「誰だよ畜生……」

「よく見ろ、これは"はどうだん"だ。誰がやったかなんて分かるだろ!」

 土煙の中で仲間たちの怒号が響く。

 メタモンのトレーナーは誰よりも先に動いた。建物の入口付近に"それ"は居る。

「来やがったな五百城ィ! テメェは俺が殺す!」

 叫びつつメタモンを放つ男。そのポケモンは一切のタイムラグ無しにルカリオへと変身した。

「へぇ……」

「俺のメタモンの特性は"かわりもの"だ! わざわざ"へんしん"の技スペースなんざいらねぇんだよぉ!」

五百城のルカリオに変身したメタモンは腕を構える。"はどうだん"を撃つポーズだ。
更に見てみると、彼に倣って各々ポケモンを繰り出す深部ディープ集団サイドの面々の姿があった。メタグロスやハッサムなど、様々なポケモンが一堂に会する。

「面白いねぇ。きっと皆僕を狙ってやって来た連中なのだろうね」

 五百城は静かに腕を上げる。その腕には摩訶不思議なリングが巻かれている。

 深部ディープ集団サイドの戦いにルールは無い。ひとつのターゲットに多勢でかかるというのもよくある話だ。
だが、五百城は表情ひとつ崩さない。

「だからこそ、壊すのが惜しいねぇ!」

 掲げられた腕から、そのリングから虹が輝く。
そこから先の状況は、説明が無くとも分かりきっていた。影がひとつ、またひとつと消えてゆく。
一方的な蹂躙と、圧倒的な暴力によりたちまちのうちに支配されてゆく景色。
全ての影が倒れ、消えてから五百城は呟いた。

「怪我は無いかね神々廻センセ。先程おかしな情報が入ったよ。東京西部にある僕達の"拠点"が突如襲撃を受けて壊滅状態、とね。やはり彼らは頭のおかしい狂った連中だよ。そんで、僕が此処に居るという情報を何処からか掴んだんだろうねぇ……。もう一度訊く。怪我は無いかい、神々廻センセ」

 多量の砂塵を背に、五百城は勝ち誇った笑みを浮かべつつ強調するかのように二度同じ事を尋ねる。
神々廻はひたすら感情を殺し、頷くしかなかった。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE ( No.50 )
日時: 2024/05/13 19:54
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: joMfcOas)


 情報が途絶えた。
一足先に日本武道館へと到着したルークと雨宮は直感的に悟る。今敷地に入るのは危険だと。

「何がどうなった……?」

「俺たちよりも先に武道館入りした連中が居たのは確かだ。ほら、居ただろ? メタモンをレックウザに変身させてたヤツ。あいつが仲間を何人か連れて行ったらしいが……。全滅かなぁこの感じだと。近辺からは爆発音がしたっつー報告もある。とりあえず今わかってるのは、俺ら二人だけで武道館に行くのはダメって事だ」

 重要な内容の割には雨宮はどこか他人事だった。まるで、自分の仕事はもう終わったと言いたげである。実際二人は雨宮の操るスポーツカーで首都高速道路を走り抜けてはここまでやって来たのである。雨宮本人にとっても、自慢の車を速く走らせたいというのは今回の目的のひとつであった。もしかしたら、五百城いおき討伐よりも優先度が高かったかもしれない。
そんな二人は今、武道館からの最寄り駅である地下鉄の駅、九段下くだんした駅にて待機している。

「ふざけんなよザコ共の癖に……。バラバラの状態で勝手に動くからこうなるんだよ……もっと纏まって行動してりゃこうはならなかったはずだ」

「ごもっとも。そしてそれについてはきちんと纏まりを入れないジェノサイドと、そもそもの騒乱の元凶である五百城の二人に文句言っとこーぜ。それかいっその事バックレでもするか?」

「クソッ!」

 雨宮とルークとでは意識の違い、その差が大きい。
既に目的を果たした気になっている雨宮と、五百城の抹殺が主目的のルーク。仲間の仇が眼前に在るという事実があるだけに駅で足止めされている現状に腹が立って仕方が無かった。どれだけ待ってもジェノサイドはおろか他の仲間もやって来ない。ピークに達したルークは拳で壁を殴った。
その隣では壁に背中を預けつつしゃがみながら3DSを開いては何ともない表情でオメガルビーをプレイし始めた雨宮がいる。

「気持ちは分かるけどよぉ。もう少し待とうぜ。俺らが来るのが早すぎたんだよ。自慢のFDだしな」

「だとしても、遅過ぎだ」

「大丈夫だって。敵は逃げたりはしねぇよ」

 ぶつけようのない感情を抱えたまま時間にしておよそ十五分が経った。
深部ディープ集団サイドとは関係の無い無数の一般の利用客たちが行き交っているのを飽きるほど眺めていた時。

「あっ。えっ、と……ルーク……さん?」

 名前を呼ばれた気がしたルークはそちらを見た。

「モルト? てめぇ……モルトか!? ふっざけんなよてめぇ来るのが遅過ぎなんだよ」

 それはルークの顔見知りだった。
Bランク組織『爆走組』を率いる深部ディープ集団サイドの人間にしてルークの後輩でもあるモルトだった。成長期という大事な時期にて夜遊びに耽けていたせいかその背は小さい。

「いやぁすみませんッス。情報が途絶えちゃって何処に向かえばいいのか分からなくて……」

「まぁいい。仲間はどの位連れて来た?」

「四人ッスね」

「それだけか……そんなもんだよなぁ」

 ルークはため息を吐きつつも、大して強くもない組織の限界というものを知っているが故にそれ以上は追及せず納得した。彼の組織の人間が極端に少ない訳では無い。ここに来るまでの間に情報の伝達が上手くいかず散り散りになってしまったのだ。

 移動が完了する丁度いい時間に達したためか、モルトが到着したのを皮切りに続々と"それらしい"人間が集まってくる。
九段下という駅は都心を象徴する駅のひとつでもある。利用者がとにかく多い。あまり一箇所に集まり過ぎると一般の利用者の妨げにもなり、他にも都合が悪くなりそうなのでルークは彼らに命令した。

「ジェノサイドのクソ野郎がまだ来ねぇ。だが奴がココに来るのは確実だ。だから特別な号令が下りるまで武道館には行くな。その代わり駅周辺に限り外に出てもいい。とにかくココで面倒事を起こすな。いいな」

 ルークはAランクの組織の人間であった。
この中では彼と同等の高ランクを有する人間は珍しい部類に入る。さらに、ジェノサイドとも顔馴染みともなればその場しのぎの代理になるには十分だった。不満のひとつも漏れずに集まった連中は自由に動く。

 それから十五分後。

改札の向こうからやけに騒がしい足音が響くのをルークは聞き逃さなかった。
一人の男が焦ったような顔をしてはこちらへと向かってくる。

「てめっ……遅せぇんだよジェノサイドォ!」

「悪い、少し手間取った」

「"手間取った"で済む問題じゃねぇんだよクソ野郎が」

「悪かったって……」

 燃えたぎるような怒りを表しているルークに対してはジェノサイドはそのようにしか言えない。ジェノサイドという男はこういう時遅れがちなのだ。

「何処で何をしていた」

「移動していた……。途中ひっきりなしに連絡が来るもんだからそれで遅れて……」

「テメェがしっかりしとけやボケが」

 駅に着いてすぐジェノサイドは迷う素振りも見せずに地上へと出ようとしたのでルークは慌てて彼を止める。

「おい待て、今現地がどうなってんのか分かってんのか!?」

「ある程度はな。此処に来るまでの間に状況の把握は済ましておいたからな……。とりあえず外に出よう。仲間たちにもそう伝えてくれ」

 ジェノサイドのその報告に訝しみつつもルークは駅構内に居る深部ディープ集団サイドの面々に対し怒鳴っては移るように促した。

「話は聞いている。先に突入した奴らは皆やられたようだな」

「やはりな……」

 ジェノサイドはルークの隣を歩きながら話す。その前後には今回集めた連中が道を塞ぐように歩いている。行先は当然武道館だ。

「だが全員が文字通り全滅した訳じゃない。無事な奴や戦闘を眺めていた人もいる。その中に俺の仲間も居たもんでな」

「武道館の敷地内にお前の仲間が……?」

「敷地内は五百城とその配下の人間たちによって掌握されたと言っても良い。周辺を見張るようにポケモンも配置しているらしく、監視は万全だと」

「おいおい、それじゃあ地上からの突入なんて不可能じゃねえか」

「いや、それが別ルートの情報からすると北の丸公園の北側、田安門たやすもん方面は警備が手薄らしい。恐らくだが五百城の身辺の守りを強くしているようだ」

「田安門だぁ? こっから一番近い入口じゃねーか。そこを厚く守らないとか馬鹿なんじゃねーの?」

 ルークは"別ルート"という言葉を当たり前のようにスルーした。ジェノサイドはあえて濁したが、ここで言う別ルートとは"神々廻ししば発の情報源"である。あまり隠す必要は無いが、ジェノサイドはまだ自分が神々廻と繋がっている事を隠している。

「とにかくだ」

 ジェノサイドは突然駆け出しては集団の先頭に辿り着いては二、三歩先を歩き、その場で立ち止まった。自然連れられた面々もつられて足を止める。

「まずは今居る連中だけで武道館を攻める。それに呼応して追う奴も出てくるだろうし、今現在判断を見極めようとして周辺で動きを止めている奴も動かす。俺たちが第二の突撃部隊としてこれから進むぞ」

「おい、ちょっと待て」

 列を掻き分けてルークがジェノサイドに迫る。その表情には不安と怒りが入り交じっていた。

「そんな希望的観測で事を進められちゃ困る。俺たちはテメェの持ち駒でも捨て駒でもねぇんだよ。人数が集まるまで動くな。これはテメェに対する俺からの命令だ」

「いや、希望的観測じゃない」

 風を浴びてジェノサイドは空を見上げた。
たったそれだけの動作が合図になったからなのか、どこからともなく現れた彼のゾロアークがその見上げた先を飛んでいたゴルバットに技を打ち当てて落とした。

「既に俺の組織の人間を近くに配置している。情報の混乱で戦闘員全員を集める事は出来なかったが……百人ってとこかな。そいつらをこの公園近くや周辺のビルなど……とにかく建物の中なんかに置いている。俺の合図ひとつでいつでも動ける連中だ」

「お前……そこまで考えて……」

「これで俺がただ遅れただけじゃないってことが分かっただろ?」

 ジェノサイドはかつて敵であったはずの人間に、友人に対して見せるような"してやった"と言いたげな笑顔を見せる。
一匹のゴルバットが撃ち落とされたせいか、異変を察知した同様のポケモンが数匹、数十匹と数を増やして迫って来た。

「来たぞ、まずはひとつめの仕事」

 ジェノサイドのゾロアークは"トレーナーからの命令"というタイムラグを起こすことなく"ナイトバースト"を放っては一度に数匹のゴルバットを落とす。

「コイツらを倒せ!」

 その言葉を合図に、組織という垣根を越えた深部ディープ集団サイドの面々はそれぞれのポケモンを出しては応戦し始めた。



「静かになったな」

 日本武道館。その建物を眺めていた五百城いおきわたるはその一歩後ろに下がっている神々廻ししばまことに対して礼儀を知らない口振りで突然声をかけた。
神々廻と五百城とでは年齢が大きく離れている。当然神々廻の方が歳は上だが、議会における地位が高い五百城としては彼を先生呼びはするものの、常に見下していた。

「躊躇もせず議会場を襲って破壊の限りを尽くす野蛮人共だ。本気で僕を狙うつもりなら、これで終わるはずが無いんだけどなぁ」

「恐らくですが……ひとつの大きな纏まりを鎮圧してしまったのでしょう」

「まぁ、そうだろう」

 小さく笑った五百城は気持ちが落ち着いてきたのか、胸ポケットから煙草を取り出した。
高価そうなオイルライターから蓋を開ける際に生じる派手な金属音を響かせて火を灯し、煙草を燃やすと吸い始める。

「神々廻先生に尋ねるまでもないが……この騒乱の首謀者は誰だろうね?」

「それは……間違いなくジェノサイドかと思われますが」

 神々廻は躊躇うことなく答えた。

「やはりな。奴は来るかな、此処に」

「来られないでしょう。彼はこういう時安全圏から外の様子を聞く立場の人間です」

「つくづく……対処に困るウザったい糞餓鬼だ」

「五百城先生。この"戦い"を終えられたら……ジェノサイドは如何様に対応されますかな?」

「そうだな、これまでに何度か戦っても思った事だが……殺すしかないかな。少し惜しい気もするが」

 落ち着いたペースで煙を吐く五百城。あまりにも落ち着きすぎて無防備にも見えた。恐らく彼は今外で起きている状況がどんなものか全く知らないでいるのだろう。神々廻はそう感じた。

「だが、神々廻センセ。今の発言は見過ごせないな、訂正を求めるよ。こんなのは"戦い"なんかじゃない。ただの烏合の衆が集まって騒いでいるだけの"反乱"以下のものさ」

 そして、その言葉を聞いて神々廻はもう一つ感じた。
自らとの意識の違いを。

 この戦いは単なる反乱などではない。文字通り今後の深部ディープ集団サイドの将来を左右する大きな戦いであった。
争いの主な原因にしてその本質は"対五百城"のものではあるものの、神々廻にとってはもう一つの意義を見出していた。
ジェノサイドという存在を巡る、議員同士の戦い、内紛と。

 つまり、この戦いは政治的な思惑も含まれたひとつの戦いにして、各々の地位をも飛び越えるひとつの"叛乱はんらん"でもあるのだった。

「失礼いたしました」

 神々廻は決してそれを口にしない。適当に軽く謝り、表向きは彼に追随するに留める。

 当然このような性質がある事と、自分という存在そのものを政治の駆け引きに利用されているなどということをジェノサイド本人は知る由もない。
この戦いは、陰の戦争でもあった。


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