社会問題小説・評論板
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- 生きる希望を下さい
- 日時: 2016/10/21 12:47
- 名前: 華世 (ID: gIDLNLr/)
私に希望の光は見えるのか————。
■登場人物
*神崎 千聖(Kanzaki Chise)
私立中学受験に失敗して、母親から暴力を受ける。
*森川 紗雪(Morikawa Sayuki)
小学1年生の時に森川家に養女として引き取られた。
*宮坂 由麻(Miyasaka Yuma)
不良のリーダー。千聖を悪の道へと誘う。
*三島 玲(Misima Rei)
クラスの女子学級委員。誰よりもクラスの事を考えている。
*森川 千鶴(Morikawa Chizuru)
紗雪の義母。心配性だが紗雪を大切に思う。
*相澤 誠司(Aizawa Seiji)
紗雪が幼い時からお世話になっている男性医師。様々な知識に富んでいる。
■目次
♯プロローグ…>>1
♯1 操り人形は籠の中…>>7
♯2 鳥になりたい少女…>>14
♯3 生きているという事…>>17
♯4 幸せって何ですか…>>18
♯5 私の大嫌いな言葉…>>19
♯6 操り人形は束縛されて…>>25
♯7 私の心に悲しみを…>>26
♯8 夜に映える白い花…>>28
♯9 終わらない虐待…>>35
♯10 二度目の出会い…>>42
♯11 小さな挑戦、大きな勇気…>>48
♯12 太陽と月の花…>>53
♯13 君とあたし、違う道…>>58
♯14 堕ちていく自分…>>60
♯15 変わりゆく日常…>>65
♯16 善と悪の境界線…>>69
♯17 偽りの存在を捨てて…>>87
♯18 裏切りと別れ…>>92
♯19 心の中の雨…>>95
♯20 言葉の刃…>>100
♯21 蝕まれる身体…>>101
♯22 喪失と崩壊…>>103
♯23 僅かな願い…>>104
♯24 月明かりに照らされて…>>105
♯25 涙の告白…>>107
♯26 偽りの表情で…>>110
♯27 夢と現実…>>111
♯28 昂る鼓動を抑えて…>>113
♯29 最後のお願い…>>116
♯30 迷宮に囚われて…>>117
♯31 薬物依存症の罪…>>118
♯32 伝えたい…>>122
♯33 精一杯の言葉…>>125
♯34 懐かしい微笑…>>128
♯35 自由な鳥のように…>>129
♯36 変わらない教室…>>133
♯37 捕われた絶対女王…>>134
♯38 笑顔は夕日に照らされて…>>135
♯39 生きている証…>>136
♯40 未来へ向かって…>>137
♯41 迫る命のリミット…>>142
♯42 命の儚さ…>>143
♯43 花の如く…>>144
♯44 呟いた言葉…>>147
♯45 大切な日々を…>>159
♯46 満開に咲く頃に…>>160
♯47 世界に一つの…>>162
♯48 近づく別れ…>>170
♯49 彼女の心拍数…>>173
♯50 優しい温もり…>>174
♯エピローグ…>>175
あとがき…>>178
■お知らせ
・2014.1/3 完結しました。
・完結前のコメント返信を諸事情により削除しました。
・小説大会2013夏金賞 挨拶…>>167
・完結記念イラスト…>>181
- Re: 生きる希望を下さい ( No.111 )
- 日時: 2013/04/04 13:11
- 名前: 華世 (ID: gIDLNLr/)
♯27 夢と現実 紗雪視点
『紗雪。高校違うけど、私たちはずっと親友だよ!』
千聖はそう言って、満開の桜の木の下でにっこりと微笑んだ。
その表情は桜にも負けないくらい美しいものだった。
『ねえ、皆で写真撮ろうよ!!』
千聖があたしの手を取って走り出す。ぼんやりと霞んで遠くが見えない。
恐らく、クラスメイト全員が集まっている。
『先生、お願いします』
皆の楽しそうな笑い声が聞こえる。先生も一緒に笑っている。
それは、山びこのようにこだまして儚く消えていった。
カーテンの僅かな隙間から差し込む朝日があたしの顔を照らす。
夢と現実の間を彷徨いながら、ようやく意識を覚醒させた。
「夢か……」
それにしても、幸せそうな夢だったと頬が綻ぶ。
あたしには叶わない夢だけど。
そんなのも束の間、あたしは千聖の事が心配になった。
まともな会話を交わしてはいないものの、考えてしまうのだ。
由麻に何もされてない事を祈るしかない。
「紗雪、入るわよー」
幼い頃のあたしを、施設で引き取ってくれた義母の声。
はい、と返事をすると義母は朝食を運んできた。
朝食と言っても、梅干が入っただけの質素なお粥だった。
いつもと同じ食事だが、食べられるだけ有難い。
「ありがとう」
あたしはそう言ってお盆に置かれた皿を受け取る。
「体調はどうかしら。苦しい?」
心配性な義母はあたしの顔を覗き込む。
「大丈夫よ、本当に心配性なんだからー」
そう言って、笑って見せた。すると義母は安心したように微笑んで部屋を出て行った。
いつの間にか、あたしは昨日の出来事を思い返していた。
あの言葉を聞いて、千聖はどう思ったのだろう。
お粥をゆっくりと口に運びながら考えた。
「怒っちゃったかな……」
口の中に広がる梅干の味は、いつもより酸っぱく感じた。
- Re: 生きる希望を下さい 【参照1000突破記念に…】 ( No.113 )
- 日時: 2013/04/05 10:22
- 名前: 華世 (ID: gIDLNLr/)
♯28 昂る鼓動を抑えて
「ねえ千聖、今からゲーセン寄って行かない?」
放課後の夕日が差し込む教室で、口元に弧を浮かべ由麻が言う。
真っ赤な夕日が由麻の顔を照らし、より一層不気味さが増した。
「今日用事が入っているの。ごめんなさい……」
母に怒られる事が怖かったので、私は恐る恐る断った。
すると、由麻はあっさりと分かった、と答えて取り巻きたちを連れて教室を出て行った。
誰もいなくなった教室の中で、私は安堵の表情を浮かべた。
それにしても、由麻があっさり了解した事が怪しかった。
いつもならもっと、しつこく誘ってくるはずなのに。
私は不安と恐怖に駆られながら教室を後にした。
それにしても紗雪はどうしたのだろう。
出席確認の時、担任はただ休みとしか伝えなかった。
あの時逃げてしまったが、許してくれるだろうか。
私は心配になり、紗雪の家に向かうことにした。
学校から7分程歩いたところに紗雪の家が建っている。
白と茶色の煉瓦で造られた外壁は、どこか西洋を感じさせられる。
私は黒のアンティーク調の門を開き、インターホンを押した。
しばらくして玄関から出てきたのは、紗雪の義母と思われる女性だった。
「あら、こんにちは。どうぞ上がって」
女性はたおやかに微笑んで、私を招き入れた。
「こんにちは。お邪魔します」
家の中も西洋風な造りになっていて、玄関の上は吹き抜けになっている。
私は昂る鼓動を抑えながら、女性の後をついて行った。
「紗雪、お友達が来てるわよー」
上品な口調で紗雪を呼ぶ。すると、中から控えめにどうぞ、と声がした。
女性は無言で頷き、私を中に入れた。
「千聖……!」
紗雪は私の顔を見ると、驚きと喜びが混ざったような表情で両手を挙げた。
私も両手を挙げながら紗雪の元へ駆け寄った。
- Re: 生きる希望を下さい 【29話 久々に更新】 ( No.116 )
- 日時: 2013/04/14 16:44
- 名前: 華世 (ID: 5SQt.OF5)
♯29 最後のお願い
私は紗雪に駆け寄り、そっと抱いた。ほのかに洗剤の良い香りがする。
「昨日はごめんね。急に逃げちゃって……」
紗雪の胸に顔を埋めたまま、私は謝った。
今思い返すと、謝っても謝りきれないくらいに申し訳ない事をしてきた。
紗雪は無言で私の背に手を回し、優しく包み込んだ。
優しさと温かさに安心して、感情が込み上げてくる。
私は嗚咽を堪えながら泣いた。
「いいの、気にしないで。あんな事言われて驚かない人なんていないでしょう?」
紗雪はいつだって冷静だった。
余命宣告をされた時はきっと一番悲しかっただろうし、辛かっただろう。
しかし今では、その事をしっかりと受け止めて毎日を過ごしている。
私にはとてもじゃないけどできない。
「ねえ千聖。あたしの最後のお願い聞いてくれるかな……?」
私を離して紗雪は静かに言った。囁くような静謐な声で。
真っ直ぐに見た紗雪の目は、自らの死を悟っているようにも感じた。
「うん、何でも聞くよ」
私のこの言葉に悲しげに微笑み、紗雪は何かが入っている袋を取り出す。
そしてそれを私の前に出し、口を開いた。
「この中の花の苗を一緒に植えて欲しいの」
その願いに私はもちろん、いいよ、と答えた。
綺麗に整備されている庭に出た私たちは、花の苗を持って日当たりの良い場所に移動した。
「これ、何の花なの?」
私は先ほどから疑問に思っていた事を口にした。
「咲いてからのお楽しみよ!」
それが返ってきた答えだった。
お楽しみ……それもいいだろう、と私は苦笑する。
紗雪は小ぶりの白いプランターに一つの苗を埋めた。
「もう一つの苗は千聖が埋めて」
苗を渡された私はプランターにそれを埋め、土を被せる。
「お願いを聞いてくれてありがとう。綺麗に咲くといいね」
紗雪は屈託のない笑顔で笑って見せた。
あと数えるくらいしかこの笑顔を見られないと思うと悲しかった。
- Re: 生きる希望を下さい 【29話 久々に更新】 ( No.117 )
- 日時: 2013/04/14 17:41
- 名前: 華世 (ID: 5SQt.OF5)
♯30 迷宮に囚われて
今日も教室に紗雪の姿はなかった。また体調が悪化したのだろうか。
昨日紗雪を訪ねた時は大丈夫そうに見えた。きっと、私に心配されたくなかったのだろう。
そんな時、聞き覚えのある声が耳に入った。
「でねー、そうそう、そうなのー! あははは!!」
このこえを聞いた教室にいる皆は、次々と扉の前に立つ。私も急いで皆の後ろに並んだ。
そして、その声の主が教室に入ってきた。
「「「おはようございます、宮坂さん!」」」
皆の声が重なった。それは、完璧にプログラムされたロボットを連想させるほど。
引き攣った偽りの笑みも見事に揃っていた。
「ん……? ああ、おはよー」
返ってきた由麻の声を聞いた私は、妙な違和感を感じた。
普段は皆を見下すように強気な声だが、今日はいつもの強さがまるで感じられない。
私は由麻の元へ行き、恐る恐る挨拶をした。
「お、おはよう……」
この声に気付いた由麻は私の顔をじっと眺めた。
そして、衝撃的な事を口にした。
「……ええと、誰?」
刹那、教室の皆の引き攣った偽りの笑みが一瞬にして消えた。
教室中の視線が私と由麻に突き刺さる。
由麻を見る限り、とても冗談には見えなかった。
後ろにいる二人の取り巻きたちも呆然としている。
「由麻、本気で言っているの?」
私の問いに由麻は答える様子がない。それどころか、目があちこちに泳いでいた。
それを見て、私は悟った。
彼女は完全に“麻薬の迷宮”に囚われてしまったのだ、と。
- Re: 生きる希望を下さい 【30話 更新】 ( No.118 )
- 日時: 2013/04/14 21:00
- 名前: 華世 (ID: 5SQt.OF5)
♯31 薬物依存症の罪
薬物は記憶障害を引き起こす事がある。
それは医者の娘として、常識範囲内であった。
私はかろうじて止める事ができたが、由麻は完全に薬物依存症に陥ってしまったらしい。
由麻たちは1時間目が終わると同時に、教室を出て行った。
何故なのかは知る由もないが、私はそれを聞いて安心した。
昼休みになった今でも、今朝あった事を女子たちが噂していた。
「ねえ、今朝の宮坂さんさぁ、何かおかしくなかった?」
「だよねー。うちも変だと思ったー!」
そんなやり取りを私は本を読みながら聞いていた。
噂話が行き交う中で、本の内容は全く頭に入らない。
「あたしさぁー、見ちゃったんだよねぇー」
「何々ー? 教えてよー」
女子たちの会話は次々と進んでいく。まるで止まる事を知らない。
私は本を読むのを止め、彼女たちの会話を聞く事にした。
「実はね、昨日塾の帰りにね……」
話を切り出した女子は顔を顰め、他の二人を近くに集めた。
二人も興味津々の表情で彼女が口を開くのを待っている。
盗み聞きは少し気が引けたが、私もこっそり耳を傾けた。
そして彼女が口を開いた。
「宮坂さんたちが、ほかの学校の中学生にに暴力を振るってお金を盗んでいったの!」
薬物で気が狂っていたのは分かっていたが、ここまでするとは思わなかった。
これを繰り返していたとしたら、後に捕まるに違いない。
半分は助けたかったという気持ちだが、もう半分は捕まってしまえばいい。
そんな事を私は本を読むふりをして考えていた。
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